Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Marketing Case
The Changing Process of Brand Images and Management:
A Case Study of the UNIQLO Brand Creating a New “Clothing” Market
Kayoko Honjo
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2020 Volume 40 Issue 2 Pages 94-103

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Abstract

本稿はユニクロのブランド・イメージとそのブランドマネジメントのプロセスを辿る事例研究である。同社は,創業当初からグローバル化を強く意識し,創業30周年目には,確たるグローバルブランドへと成長した。そして今衣服の概念を超え,LifeWearという新しい「服」市場をも創造しつづける。本事例は同ブランドの15年間の事業活動とCIやBIを軸とした情報発信,その結果がどのようにブランド・イメージを形成したのかを追跡し,ブランド価値を発展させるための要諦の導出を試みる。

Translated Abstract

This article is a case study that examines the UNIQLO brand and seeks to clarify the process of creation of the brand image and the brand management. The company has run a business while being acutely conscious of globalization, based on its own principle and brand concept since its foundation. As a result, UNIQLO has become an established global brand as of the 30th anniversary of the company’s foundation. The company has created a new “clothing” market called LifeWear. This case studies the innovative business activities and their marketing communication over 15 years and derives the essentials of brand management.

ユニクロの大型店(北京三里屯店)

出典:Pixabay

I. はじめに―ファストファッションがもたらす意味

日本の被服に対する支出は下落している。2000年を基準に各家庭の支出額の経年推移を追ったところ,実収入が微減の中,最も支出額が膨らんだ保険医療である一方で,実収入よりも下降する項目が被服及び履物である(図1)。

図1

被服費の減少の推移

出典:次のデータより著者加工,分析

Somusho Tokeikyoku(2000–2015)

※2000年を100%として,その経年推移をグラフ化。なお1995年~1999年のデータは算出基準が異なるため,本データでは扱わない。また1990年から1994年のデータは確認できない。

被服に対する支出額が減少した背景には,衣服への意識の変化があると考えられる。経済的要因もあるが,2000年はITバブルの時期であり,その後2008年のリーマンショック後の経済の回復基調においても,被服費の支出割合は下がる一方である。下落の背景にはファストファッション市場の台頭があり,低迷するDCブランドを後目に,1998年のZARAの国内出店や1999年のユニクロのフリースブーム,2008年のH&Mの国内出店によりファストファッション市場は勃興していく1)

ファストファッションは,我々の衣服への意識を変えていく。服飾文化研究では,衣服は人を規定し,社会階層や人の気質までも象徴する前提にたち,個人の社会的アイデンティティ形成と不可分な関係にある(Scott & Ellis, 2000)。ユニクロのコミュニケーションは,“DCブランドに着られる時代から,衣服を着こなす時代”であることを暗に訴求し,自律的な個人としての新しい価値観の啓蒙である可能性が高い(Honjo, 2017)。このことから,ユニクロを初めとするファストファッションは人が衣服を規定する,あるいは,やや事々しく表現すれば,衣服に帯びる社会的文脈から人が解放される,という新しい衣服のパラダイムを形成している可能性がある。ユニクロは,LifeWearという哲学的コンセプトを掲げ,「洋服」や「衣類」ではない新しい「服」の概念を変え,誰でも着られる究極の日常着を提案し,ファストファッションそのものの持つ意味をも創造しようという意思が見える。昨今,「ユニクロでいい」から,「ユニクロがいい」というブランドを強く支持する声がきかれる。ユニクロは,我々の服への意識を変えていく。

II. 研究にあたって

ここで取り上げるユニクロは,短期間でブランド・イメージとその意味が明らかに変化した代表事例であり,そのプロセスを経年で明らかにすることは,ブランド・マネジメントの輪郭を捉えるという意味で役に立つ。

既存研究において,ブランドを強化する方略として効果が実証されているのは,広告と販売促進(Jedidi, Mela, & Gupta, 1999)とイノベーションの影響力(Sriram, Balachander, & Kalwani, 2007)で明らかとなっているが,本事例を紐解くにあたって,経営のイノベーションの成果を情報発信(マーケティング・コミュニケーション)することによって,ブランド・イメージが変化するというこという観点からブランド・マネジメントを検討する。なおデータは公開されている日経企業イメージ調査を利用し,取り組み状況は,アニュアルレポートおよび創業者の著作の二次データを扱う。本ケースでの情報源は2000年度から2014年度のアニュアルレポートに基づいており巻末にまとめて記載する2)。その他の引用文献の場合においてのみ文中に記載する。対象期間として2000年度からの創業30年にあたる2014年までの15年間としている。

ユニクロとは,(株)ファーストリテイリングの小売流通ブランドである。1991年に「ユニクロ」の経営主体は,「小郡商事」から「(株)ファーストリテイリング」へ商号変更,更に2006年度には持株会社体制に移行し,グループの傘下に事業会社としての「(株)ユニクロ」が誕生している。ただし2000年から発行されているアニュアルレポートにおいても,正式社名の代替としてユニクロと表記されている場合もあることから,本研究の範囲は,事業,製品,企業を横断的に跨ぐシンボルとしてのブランド名称の総称としてユニクロと呼ぶこととする。そして厳密に事業活動を表す場合はユニクロ事業,あるいはファーストリテイリング/FRとし,その区別をすることとする。

III. 事業概要

1. 沿革と業績

ユニクロ事業は,1949年に山口県宇部市で柳井等氏による「メンズショップ小郡商事」に始まり,1972年柳井正氏が入社し,1984年広島市にユニクロ第一号店を創業した。1991年には,商号が小郡商事(株)から(株)ファーストリテイリング(以降FR)に変更され,1998年に都心型店舗出店,2001年には海外進出,2004年からは超大型店化への取り組み強化と変革を続け今日に至る。

創業30周年の2014年度においてグループ全体の売上高は1兆3,890億円に上り,国内ユニクロ事業においては約7,000億円,海外ユニクロ事業は,4,100憶円となった。ユニクロは,1998年のフリースキャンペーンを発端に,日本中にユニクロブームが起こり,一気に全国認知が高まる。2014年の国内におけるマーケットシェアは,6.5%である。

その後2001年の英国進出の不振やフリースの過剰在庫が業績を圧迫していたが,2003年秋冬の戦略・カシミアによるヒット,ヒートテックのヒットもあり,2004年には持ち直している。出店に比例して右肩上がりに売上がのび,国内では郊外型店舗やビルテナントとしての出店の他,1,000坪クラスの超大型店舗やユニクロを核としたSCなどを展開している。シェアが低い市部では,売り場面積約3,300 m2級の「超大型店」を開業した。2012年には,異業種コラボとしてビックカメラと一緒にビックロ新宿店を出店している。国外では2001年のロンドン初出店を皮切りに,アジアを中心に展開。2014年には海外ユニクロ事業売上高比率が29.9%まで伸長している。

2. ビジネスモデル

ユニクロの当初のビジネスモデルは,メーカーの完成品の洋服を低価格で販売し,インポート衣類を目玉にした小売業であった。また他の小売の「委託販売」とは異なり,卸から100%買取りの形で低価格を強みとしていた。

ユニクロ事業が国内アパレルNo. 1の地位を確立した要因は,1997年から始められたSPA(アパレル製造小売業)によるものである。市場のトレンドを弾力的に取り込みながら,生産性を最大化させ機会損失を抑制するSPAにより,同社は,高品質なカジュアルウェアを手頃な価格で提供している。低価格で高品質の商品を本気でつくろうという同社の考えは,従来の多品種小ロット生産で季節変動の高い衣料品流通の常識とはかけ離れたものであった。またその強みは,東レ(株)との戦略連携によりヒートテック,ウルトラライトダウンなどの新素材を使った革新的な独自商品の開発による。それまでフリースは1万円以上する高価なスポーツウェアであり,品質は従来以上に維持しながら,外部連携とSPAによって手頃な価格で提供することに成功したプロダクトイノベーションである。その後続く,低価格のカシミアも同様に,バイイングパワーを武器に世界最高水準の素材を手に入れながら安価で供給することが可能なユニクロが求める「良い服」をつくることが可能となっている。このようにユニクロ事業は,アパレル市場の常識を覆す,プロセスとプロダクトイノベーションの両輪で固有の強みを確立していく。

FRは,早い段階からテレビCFを活用するなど,情報発信に積極的な企業である。FRの広告宣伝比率は,2013年度決算発表資料によると,ファッションアパレルをリードしてきたワールドの0.7%に対して4.6%を投資している。アパレル業界は通常テレビ媒体を使った広告宣伝は少額であるが,この売上高広告宣伝比率の水準は,同年,広告宣伝費が国内で最も高いといわれるトヨタ自動車の1.72%,第二位にソニーが4.83%の水準3)からもわかるように高い水準にある。

同社のCFの打ち出し方は,フリースなどのフラッグシップ商品に絞りこみ,その世界観の醸成のために集中的に投下する。価格や機能に関する訴求は,新聞や番組タイアップ広告やイベント,店舗施策で展開している。当初から新聞折込みチラシを積極的に活用し,値ごろ感を訴求。定期的なセールで顧客の来店頻度を上げる工夫をしている。またインターネット草創期の1999年から積極的な活用意欲を表明し,早くから広告宣伝をブランド育成のためのマーケティング施策として位置づけている。また経営トップが自身の著書を出版するなど,リーダーが自身の想いを直接市場に届けていることも特徴的である。

3. 顧客への傾聴

柳井氏のユニクロ事業のオリジンは米の大学生協にある。DCブランドに手を出せない10代の若者にたちに低価格のカジュアルウェアをセルフサービスで提供してきた。同時にユニクロを,米のリミテッドやギャップ,イギリスのネクストなどに比肩できる国を代表するようなSPAにしたいと願っていた。(Yanai, 2003)。

ブランドは顧客との約束とも言われるが,商売を原点とする同社の特徴は,徹底した顧客志向にも現れている。ブランドは顧客との約束と評されるが,同社は競合には真似できないサービスを行ってきた。同社が提唱する顧客との約束は,(1)快適な買い物のための清潔な店内(2)広告の品については十分な在庫を確保すること(3)商品は三か月以内に返品できることである。これらの約束は広島証券取引所上場以降取り決めたものであり,現在でも変わってはいない。

また,常に顧客への傾聴をしており,1995年に実施された「ユニクロに文句をいって100万円」といった広告にまで展開されている。現在はカスタマーセンター,年間7万件の問い合わせ,要望を受け経営の改善に反映している。

IV. ブランド管理

1. ネーミング

ブランド・エクイティを構築するには,顧客のブランド認知,好ましい固有性の高いブランド連想の広がりを形成することが必要である。ここには,ブランド要素を選択し,戦略的に管理することが重要となる。ブランド要素は,ネームやロゴやスローガン,その展開デザインとして,店舗や商品への統一的なデザインである。これらの要素を管理することは,顧客の記憶を定着させ,そこに意味を与え,競合と区別する役割をもつ。

ファーストリテイリングは,同社が目指すビジネスを表している。早い=ファースト(FAST)と小売り=リテイリング(RETAILING)を組み合わせて柳井氏が名付けた背景には,社内外に意味を発信する意図があった。(Yanai, 2003)。そして名が体に表すように,ユニクロのネーミングは,店名を「いつでも服を選べる巨大な倉庫」という意味するUNIQUE CLOTHING WEARHOUSEとした(Yanai, 2003)。1984年第一号店を出店後,柳井氏はネーミングの長さが顧客に浸透しないことを懸念し,ユニクロとネームの省略を行った。更に表記においては,1988年に香港で合弁会社を設立した際の間違ったアルファベットでUNIQLOとつづられたことをきっかけとなった。間違えられたスペルは,むしろ柳井は歓迎し,「CとつづるよりQの方が固有性もあり,かっこいい」という判断により,日本の店名も全てユニクロに変えられている(Yanai, 2003)。このような偶発的な出来事に対しても戦略として取り組んでいった。

2. VI管理

ブランドのシンボルはVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)と呼ばれ,事業活動の成果や背後にある想いを象徴的に表現することで,ブランドの再生と再認を容易にする。VIは,ロゴやシンボルから,その展開システムとして,色のトーンアンドマナー,看板や音声,香り,店内ディスプレイなどを通じて,ブランドから広がる世界観をわかりやすく人々に訴求する。ブランド連想が多義的でロゴやシンボルがメタファーを伴った便益を表す場合にはより重要となる。

ユニクロのシンボルマークは四段階で変化を遂げている。創業初期デザインは,黒と白をベースカラーに,三角形にUNIQUE CLOTHING WEARHOUSEと刻まれ,男女が手をつなぎ両手を上げているものである。老若男女全体というターゲットを象徴した記号となっている。その後,カラーは赤の背景にかわり,四角のモチーフへと変わった。次に,正式名称は略称となり赤の背景にUNIQLOと白抜きで表現する。しかし年が経つにつれ,いつの間にか赤の背景が,エンジになり曖昧になっていた(Yanai, 2009b)。

2006年のニューヨークのソーホーへ大型店出店のタイミングを機に,VIをCIとBIともに大きく変更していく。刷新のその背景には世界的競合や模倣に埋もれブレないロゴマークや書体を開発する必要があったという。アート・ディレクターの佐藤可士和氏は,「ベンチャースピリット」と「国旗」の意味を込め,これまで使われていたエンジを赤にもどした(Yanai, 2009a)。このように曖昧だったVIシステムデザインを規定した。

新たに定められたCIは,赤色の三角旗は右高成長を意味し,会社としての「尖り」を示した。デザインは,既存の枠組みを超えた「革新と挑戦」をけん引する「旗」をシンボルとした。旗を構成する3つのラインは「服を変え,常識を変え,世界を変えていく」というコーポレートスローガン(企業理念)を表している。日本発であること,そしてその美意識を色濃く打ち出し,新しい服の提案を示した。

またBIも刷新した。日本文化を本格的に海外に打ち出す口火を切る役割であったニューヨーク・ソーホー店は,その日本の「美意識ある超合理性」というコンセプトを体現するべく国内に導入される新しいロゴマークが配された。それはエンジを赤に戻し,あえて,「ユニクロ」とカタカナ表記と「UNIQLO」と英表記を併記するものであった海外の人が読めない日本語で表現すること自体が日本発であることを強く示したものであった(Yanai, 2009b)。

V. ブランド・イメージの変化

しかしユニクロは,常に好ましいブランド・イメージをもちながら市場や顧客に受け入れられてきたわけではない。

衣類は服飾心理学によると自分自身の自己関与と重ね合わせ,自己のアイデンティティを象徴する役割にあるというが,かつてのユニクロは,地方のロードサイド店のイメージが付帯し「安かろう,わるかろう」とのイメージや,顧客がユニクロを着ていることを隠す「ユニ隠し」4)という社会現象が起きていた。しかしその状況は転じて,今や世の中の評価としては,ユニクロは国民服として称される5)ほどに市場に浸透している。2013年にはブランドジャパン調査においてGoogleを制して1位に選ばれている6)

具体的な変化について,「日経企業イメージ」の公開データを用いて,15年間のブランド・イメージの推移を追った(図2)。企業イメージを狙った取り組みは,自社のブランド連想を把握することであり,日経企業イメージ調査は,その連想項目を21項目に渡り,30年以上実施してきた蓄積がある。サンプル規模は,毎年約500社以上を対象に一般個人,ビジネスパーソン別に大規模調査である7)。ユニクロは2000年度に調査対象としてノミネートされ,調査におけるユニクロの名称は,「ファーストリテイリング(ユニクロ)」として実査されている。

図2

ブランド・イメージの推移(主要21項目平均スコアとランキング)

出典:Nikkei Koukoku Kenkyusho(2000–2014)より作成。(年は実査年)

このデータを用いるFR(ユニクロ)は次のような推移をたどる。縦軸に日経企業イメージの平均スコア,横軸に年を配している。中心に位置する四角の折れ線(■)は,日経企業イメージ調査の調査項目で経年継続して取られておりランキング化されている上位100社の平均スコアを表示した。

丸(〇)が示すのは,ユニクロのスコアである。上位にランキングされた100社の平均よりも上回る。1999年に調査対象として初めてランクインし,フリースブームにのって全国的に認知度が大きくなった。2000年発表時は,上位ランキングの100社中,46位につけている。翌年には12位となった。しかしそれ以降2005年,2006年を底に落ち込み,2006年にはランク外へと落ちている。そして2007年からは上昇に転じ2009年には4位,2011年から2013年には2位と安定している。

ランクインした100社の中で長期的なスコアの推移を得られる類似業種競合企業として無印良品(2007年から表示される□)をとりあげ,ユニクロの推移と重ねた。無印良品は,2007年93位から44位につけており,安定的であるものの,ユニクロと比較すると大きく差を広げられている。以上のように,上位100社とのスコアの比較,競合との比較において,2000年から2014年の15年間の間にイメージは大きく発展したといえる。しかしこのブランド・イメージは,1998年以降順調に右肩上がりに変化をしたのではなく,2006年に落ち込みを見せる。

では,ユニクロはこの15年間でどのようなメッセージを市場に出していたのであろうか。そこで2000年度~2014年度のアニュアルレポートで,経年での事業活動とそのメッセージについて大きな流れを追っていく。

VI. フェーズ毎の事業活動とその情報発信

アニュアルレポートは,経営者の考え方や企業のヴィジョン,社風などの「数字では見えない資産」を把握することができる。また,一年間の活動の集大成であり,その中でトップの紙面に踊る画像やメインコピー,トップメッセージは,各年において最も企業が市場に訴求したいメッセージを表していることが多い。同社初発刊の2000年度(1999年9月~2000年8月)のアニュアルレポートには,「ブランドは企業全体に影響する重要な要素であるとされ,一貫したアイデンティティを顧客に伝達していくこと」が記されており,当初からブランド構築への意識が高いことがうかがえる。

一般的に,体系だったブランド戦略・管理の起点は,CI(コーポレート・アイデンティティ)やBI(ブランド・アイデンティティ)の規定及びそのスローガンの開発にあることが多い。通常CIやBIの規定は,何がしかの大規模な事業投資や転換,周年を機に策定されるものであり,業績の良し悪しとともに,市場へのメッセージが通常よりも強く市場へ打ち出されるタイミングとなるからである。同社は2006年から2009年,また2010年–2013年の間にブランド・イメージが上昇する。その頃,同社は,2005年の持ち株会社化によるグループ事業の強化と,2006年グローバル化を機に策定されたFRのCI策定が一つ境となっている。もう一つの境は,2010年からアニュアルレポートで使用されるBI(ブランド・アイデンティティ)MADE FOR ALLというスローガンである。これを起点にユニクロのブランド・アイデンティティが強化される。そこでここでは,CIが策定される以前,CIが策定された2006年,BIが強化された2010年以降に三段階に切り分け,同社の情報発信のコアとなる各年のアニュアルレポートのメインヴィジュアル(画)とコピーとトップメッセージを切り出しその傾向を分析した(図3)。

図3

各年のアニュアルレポートの表現,メインヴィジュアルとトップメッセージ

出典:FAST RETAILING CO., LTD(2000–2014)より加工・作成

第一段階:余白が表す事業の可能性

第一段階のメインヴィジュアルは,白ベースにキーエレメント(フリース,ロゴマーク,倉庫,カシミア)が配置されている。その時のメインコピーは「ユニクロはカジュアル衣料をけん引する日本の新しい企業です。」そして,自社の独自性を「ユニクロはディスカウンターでも専門店でもなく,職人でもない。ユニクロビジネス自体がユニークなのである」と表現している。この段階では,余白を活用したシンプルなヴィジュアル訴求が中心であり,自社の可能性と固有の価値観を創造しようとしている試行が感じられる。

さらに2004年には「everybody, everywhere, everyday」として,あらゆる人がよいカジュアルを着られるようにする新しい日本のブランドであることを非常にシンプルに伝えている。

その後,1998年のフリースブームから一転し,過剰在庫を一要因として業績の落ち込みを経験しロンドン店の撤退など事業の再整理が行われる。そのための構造改革が2005年から推進された。

第二段階:CIの明確化とFRグループとしての強化

その事業改革の中でその第二段階においてはCIが策定された。FRのCIが全面に出され,新しい三角形のロゴマークのもと,「服を変え,常識を変え,世界を変えていく」という力強い企業理念(Our Mission)を掲げた(Yanai, 2009a)。この第二段階のヴィジュアルは,第一段階のキーエレメントではなく人物モデルによって表現されており,2009年には外国人モデルがトップを飾り,グローバル化への本格的な展開を予期させるものとなっている。この2006年から2009年の間,ちょうど日経企業イメージは上昇していくタイミングにあるが,その上昇を押し上げた項目が「国際性」であった。

2006年には初めてCSR報告書が刊行され,アニュアルレポートコンテスト「ARCアワード」にて3年連続でゴールド賞を受賞,障害者雇用に積極的でもある同社は2005年雇用率日本一に輝く。また「スペシャルオリンピックス日本」とも協働している。また,2006年から「ユニクロの全商品リサイクル活動」がスタートし国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とグローバルパートナーシップの締結している。

そして2010年度には,ユニクロのBI(ブランド・アイデンティティ)が国内で本格導入,ブランドコンセプトの“MADE FOR ALL”も規定され,FRが掲げる企業理念と明確に区分されていく。メインヴィジュアルでは,FRのCIがエンドースとして配置されつつ,ユニクロと大きく掲げられた海外フラッグシップ店の写真が同じ誌面で掲載されているパターンである。FRとユニクロの結びつきを強化したトップページとなっている。そこに込められた“MADE FOR ALL”とは,ユニクロのつくりたい服を現した言葉で「国籍。職業。性別。人を区別するあらゆるものを超えた,あらゆる人々のための服。世界中の人々が,それぞれのスタイルで自由に組み合わせ,毎日気持ちよく着ることができる服。シンプルで必要不可欠でありながら,ライフスタイルをも変えていく革新的な服。」と表現される。このメッセージにも“真の”グローバル化を目指すこと,多様性を意識したメッセージが込められている。そのため2010年からグラミン銀行と合弁会社をつくりBOPに乗り出し世界に対しても積極的な社会支援体制を構築,事業活動に付随する広告以外での情報発信を強化している。更に2013年にはブランドコンセプトMADE FOR ALLを洗練させLifeWearとした。LifeWearとはユニクロだからこそつくれる新しい服のカテゴリーを表している。それは高品質でファッション性があり,着心地が良く,誰もが手に届く価格の日常着を意味する。ユニクロはこのLifeWearのコンセプトを体現し世界中で愛されるブランドへの育成をめざしていることがわかる。

これらのアニュアルレポートでの表現の変化に注目すると,2000年の初刊行以降,これまでの創業時の想い,自社の存在価値,ヴィジョンに通底する市場に訴求したい意味・世界観を,事業や企業のアイデンティティの段階的な規定を経ることで,洗練された言葉とヴィジュアルで表現し,その核となる価値の訴求が強化されていった。

それを日経企業イメージ調査の結果と重ねると,そのイメージはアニュアルレポートの発信内容と呼応する。第一段階においては,一定のブランド評価を獲得しつつも,積極的なブランド管理がなされてはいなかったからか,ブランド・イメージが上下する。第二段階においては,ブランド・イメージが上昇するタイミングにあり,ちょうど2006年のCI規定の効果がみられる。また,第三段階においては,ブランド・イメージは安定し,特に国際性・好感度で首位となり,ランキングにおいても100社のうち2位~7位と高位安定した調査結果となっている。

VII. 考察

本事例の分析から,はっきり見えたことは,CIやBI規定といったアイデンティティを管理するブランド構築の手法が,ブランド・イメージに貢献していることである。これは,従来の研究では前提となっていた部分であり,現場でもCIブームといった一過的な盛り上がりの経験則から,その効果の検証が曖昧になっていた部分である。しかしそのマネジメントプロセスは,順当な取組みではなかった。コンセプト自体の表現は時として様々であり,ヴィジュアルやコピーやVI管理も体系だったものが導入されたのは,2006年の創業20年以降であった。それまでは厳密にブランド管理がなされていたわけではなく,たまたま誤植が企業名になったり,コーポレートカラーが赤からエンジに変わったりするなど,名称やロゴマークといった重要なVI要素においても偶発的な側面もあり,それらがブランド・イメージに影響を与えていると考えられる。このことは,有効な戦略としてブランド構築を考える際には偶有性を取り込む必要性を示唆しているととらえられる。

また短期間でユニクロのブランド・イメージが上昇したのは,単に,自社の強みや精神や創業理念をブランドコンセプトとして言語化したのではなく,自社のアイデンティティを,時代時代の最適な表現に調整しながら提案し実現し続けたことにあると思われる。それは,徹底したSPAや外部アライアンスによって実現するイノベーションといった事業活動としての付加価値それそのものの訴求に留まらず,新しい「服」の哲学をものせて,社会に啓蒙しているということである。このことから,ブランド・アインティティのマネジメントにおいては,当該企業の理念やブランド価値に込められた想いだけでは十分ではなく,社会的大儀や社会的文脈が重要であることを示唆している。

最後に,本稿では,ユニクロのブランド・イメージの質的変容について十分に検討できていない。この点は今後の課題としたい。

1)  ファストファッションについては多くの報道が為された。例えば,Nikkei(2009)

3)  数字は2015年度。出典はNikkeikoukokukenkyusyo (ed.).(2016)

5)  「国民服と呼ばれるユニクロ」でGoogle検索をかけると,12,000件以上のヒットがあり,ブログやまとめサイトでの,ユニクロの枕言葉になっている(2016年1月3日確認)。

6)  その他の調査では,例えば,KANTER JAPAN (eds.).(May 23, 2014)

7)  本稿では,公開されている「日経企業イメージ調査について」よりデータを収集した。

調査概要〈一般個人調査〉

調査地域:首都圏 40 km圏内

抽出方法:エリアサンプリング性年代別割り当て法

サンプル:9207ss(2000年)~3671ss(2014年)*各年事に異なる

調査期間:2000年~2014年

調査法:質問紙留め置き法

調査実施:日経リサーチ

主要6項目(順序尺度):広告接触度/企業認知度/一流評価/好感度/株購入意向/就職意向

ブランド連想に関する21項目(二値※ただし当てはまるものに〇をする形式)

信頼性がある/伝統がある/安定性がある/財務内容が優れている/経営者が優れている/優秀な人材が多い/国際化が進んでいる/社会の変化に対応できる/新分野進出に熱心である/成長力がある/活気がある/扱っている製品・サービスの質がよい/技術力がある/研究開発力・。商品開発力が旺盛である/文化・スポーツイベント活動に熱心である/個性がある/センスがよい/営業・販売力が強い/親しみやすい/よい広告活動をしている/顧客ニーズへの対応に熱心である

本庄 加代子(ほんじょう かよこ)

東洋学園大学 准教授/神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程

References
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