2021 Volume 40 Issue 3 Pages 19-30
ふるさと納税は,問題点を抱えているものの,着実にその規模が拡大している。一方で,ふるさと納税に関する研究は,その実態把握研究が大半であり,特に利用者研究は限定的な理解に留まっている。本稿では,まずふるさと納税を寄付型および報奨型クラウドファンディングとして理解し,利用者がふるさと納税を行う要因を検討する。次に寄付者が寄付を行う要因を検討する。さらにふるさと納税の返礼品を寄付つき商品と理解することでコーズ・リレーテッド・マーケティング研究を通じ,消費者が寄付つき商品を購入する要因を検討する。最後にふるさと納税の利用者を理解する枠組みを提示し,地方自治体のマーケティングへの示唆を述べる。
The hometown tax is a new tax payment scheme introduced in Japan in 2008 that aims to redistribute taxes that have tended to concentrate in urban centers such as Tokyo. This scheme has seen very rapid growth since 2015 when documents to be submitted for tax returns were made simpler. Previous studies of hometown tax have focused on case analyses, and there is a lack of development of analytical frameworks and insights into its users. Hence, this study aims to increase understanding of this scheme as donation-based and reward-based crowdfunding with users acting as donors and consumers, along with their motivations to participate. First, this research considers the motivations of donors and consumers by reviewing prior research on charitable giving and cause-related marketing. Second, a conceptual framework for understanding donors and consumers who utilize hometown tax is developed. Finally, this study indicates practical marketing implications for local governments.
本稿の目的は,クラウドファンディングとしてふるさと納税の利用者を寄付者と消費者の視点から理解することにある。具体的には,クラウドファンディングと寄付,コーズ・リレーテッド・マーケティングの先行研究を通じて,寄付者と消費者がふるさと納税を行う要因を検討し,それらを理解する枠組みを提示する。
ふるさと納税は,納税者が自分の意思で納税分の一部の納税先を選択できる制度である。ふるさと納税制度は,2007年5月,「今は都会に住んでいても,自分を育んでくれた「ふるさと」に,自分の意思で,いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」(Furusato nozei kenkyukai, 2007)という菅総務大臣の発言に端を発し,2008年に地方税法に「寄附金税額控除」が組み込まれることで制度化された。その後,2015年には「ワンストップ特例制度」が始まり,多くの給与所得者が確定申告をしなくても寄附金控除を受けられるようになった。これらを一つの契機としながら地方自治体のふるさと納税受入額は増加し,2018年は5,127.1億円に達している(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2019)。
ふるさと納税は,それゆえまずもって税金の納税先を選ぶ行為であるが,一方で,国民の「ふるさと」という都道府県および市町村への「寄付」であるともされる(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2015)。ふるさと納税は,寄付と返礼品という特徴から,利用者に2つの側面をもたらす。第一にふるさと納税の基本理念の応援したい地域の力になれるという利用者の利他的側面である。東日本大震災が発生した2011年には,被災地の岩手県釜石市がふるさと納税受入額20.6億円で全国1位となり,次いで福島県相馬市が2位となった(Frusato nozei guide)。第二にふるさと納税をすると返礼品をもらえるという利用者の利己的側面である。この点は一般的な寄付が返礼を伴わないことと異なる。大阪府泉佐野市は豪華な返礼品で一躍注目され,2018年に受入額487億円で全国1位となった。この事例は利用者が消費者として行動していることを示しており,返礼品は寄付つき商品として理解できる。
ふるさと納税の拡大は,法制度の充実のみならず,半ば意図せざるして始まった後者の返礼品の存在が良くも悪くも大きな役割を果たした(Hidaka & Mizukoshi, 2018)。2012年に「ふるさとチョイス」,2014年に「ふるなび」と「さとふる」といった返礼品を容易に検索し,寄付先を選ぶことができるウェブサービスが始まったことで,いよいよふるさと納税は急成長を遂げた(Hoda, 2014)。ふるさとチョイスでは,「ガバメントクラウドファンディング」の名称でふるさと納税を集める活動も行なわれ,READYFORでも同様の試みが進められるなど,クラウドファンディングの性格を強めている。
ではふるさと納税を利用する消費者は,それをどのような理由で行うのであろうか。本稿では,まずふるさと納税をクラウドファンディングの枠組みで捉え直す。次にふるさと納税の利用者を純粋に地方の応援という寄付を目的とした寄付者と返礼品という寄付つき商品を目的とした消費者に細分し,ふるさと納税を行う要因を検討する。最後にクラウドファンディングとしてのふるさと納税の利用者を包括的に理解する枠組みを提示する。
ふるさと納税に関する研究は,まだ始まったばかりであり,実態を調査・把握するための研究が多い。それらは返礼品の事業者(Hoda & Kubo, 2019),自治体の取り組み(Hashimoto & Suzuki, 2018),税制と寄付(Shimada, 2019),地域活性化(Shigefuji, Oda, Moriyama, Fujiyama, & Aoki, 2020),利用者(Hoda, 2016; Iwanaga, 2020; Takahashi, Yodo, & Kojima, 2018)に関する研究に大別することができる。この中で本稿に関連するのが,利用者に関する研究である。
Hoda(2016)は,ふるさと納税のきっかけと動機を考察し,北海道上士幌町と東川町のデータをもとに,町との結びつきが納税額に影響することを示している。Takahashi, Yodo, and Kojima(2018)は,ソーシャル・キャピタルに着目し,慈善団体へ寄付した人とふるさと納税を行った人を比較している。具体的には,ふるさと納税の実践要因として世帯年収や一部の就労形態などの経済的要因とともに,互酬性の意識もその要因となっており,世帯年収や世帯金融資産,就業形態といった要因の影響が寄付とふるさと納税では異なると指摘している。Iwanaga(2020)は,地域活性マーケティングの枠組みでふるさと納税の利用者にアンケート調査を実施している。その結果,第一に利用動機にはふるさと支援と倫理志向,利得がある。第二に利用者の評価には,対応使途評価と利得効果評価がある。第三に倫理志向は対応使途評価と利得効果評価,ふるさと意識喚起に影響し,利得は対応使途評価と利得効果評価に影響するとしている。
2. クラウドファンディングとしてのふるさと納税クラウドファンディングは,オンラインの資金調達プラットホームによって多くの小さな寄付を集める方法である。Hossain and Oparaocha(2017)は多くの定義を検討し,クラウドファンディングを限られた時間内に多くの人たちによって少額保証の形式でのミクロなスポンサーシップとオンラインで分配された寄付を通じてのイニシアティブ実現のためのインターネットによる資金調達の方法と定義している。またクラウドファンディングには3つの主要なアクターが存在することで,その仕組みが成立している(Tomczak & Brem, 2013)。それは仲介業者(intermediaries/online platforms),資金調達者(fundraisers/founders)と投資家(investors/backers)であり,仲介業者が資金調達者と投資家を結ぶ重要な役割を担うことで,クラウドファンディングが成立している。
クラウドファンディングには,4つの類型がある(Griffin, 2013)。寄付型(donation based)は,投資家への返礼がないのが特徴である。報奨(先行購買)型(reward (pre-purchase) based)では,投資家が投資の見返りに報奨を受け取る。融資型(lending based)は,peer-to-peer lendingやsocial lendingとも呼ばれ,事業者が投資家から小口資金を集め,そのまとまった投資を資金調達者に融資し,投資家は見返りとして金銭的リターンを得る。投資型(equity based)は,投資家が特定事業者に投資し,それに対する分配金を受け取る。Hossain and Oparaocha(2017)は,投資家の動機・貢献の類型・投資家の期待されたリターン・主要な焦点・プロセスの複雑性・主要な便益者の例・契約の類型から,それらの特徴を整理している(表1)。
クラウドファンディングの類型と特徴
出典:Hossain and Oparaocha (2017) Table 3: A proposed typology for crowdfundingより。
これらを踏まえると,ふるさと納税は,クラウドファンディングの一類型であり,報奨型と寄付型クラウドファンディングから構成されていると理解することができる。すでにHoda(2014)においても,ふるさと納税が同様にクラウドファンディングとして捉えられている。投資家はふるさと納税の利用者であり,仲介業者がふるさと納税サイト運営事業者であり,資金調達者が地方自治体である。しかし,ふるさと納税は一般的なクラウドファンディングと異なる点もある。第一にふるさと納税では利用者の寄付の対価としての返礼品があり,それを提供している返礼品事業者は,従来のクラウドファンディングには見受けられない。つまり,ふるさと納税には,第4のアクターとしての返礼品事業者が存在している。第二として,多くのクラウドファンディングでは,資金調達者の規模が小さく,個人の場合もあり,オフラインはもとより,オンライン上の社会的関係や友情が重要になる(Hossain & Oparaocha, 2017)。また,仲介者の役割も大きい。これに対して,ふるさと納税の資金調達者は地方自治体であり,比較的属性がはっきりしており,寄付の用途もわかりやすい。
3. クラウドファンディングを行う理由人が投資や寄付,購買する際には,一般的に何かしら動機づけられている。「動機づけられる」とは,「何かするように促される」ことを意味する(Ryan & Deci, 2017)。自己決定理論では,2つの動機が示されている。一つは内発的動機(intrinsic motivation)であり,明確な報酬がないにもかかわらず存在し,本質的な満足のための活動をする動機である。もう一つは外発的動機(extrinsic motivation)であり,報酬やプレッシャーによって生じる動機である。Hoegen, Steininger, and Veit(2018)は投資家が全てのタイプのクラウドファンディングに投資する要因に関する先行研究を検討し,便益とキャンペーンの質・財務的リスクとキャンペーンが提示したデータ・資金調達者の認知と属性・社会と関係性と承認・文脈・投資家の特徴といった要因が共通すると指摘している。
(1) 寄付型クラウドファンディングを行う要因寄付型クラウドファンディングに投資する要因に関する研究の蓄積はそれほど進んでないが,いくつかの研究でその要因が検討されている。その要因として,ウェブサイトの質・創設者の評判・プロジェクトの人気・コンテンツの質に共感・信頼性(Liu, Suh, & Wagner, 2018),社会的存在感・信頼・個人的規範・態度・主観的規範・行動統制(Chen, Dai, Yao, & Li, 2019)がある。
Choy and Schlagwein(2016)は,慈善寄付型クラウドファンディングでのITによる意味ある情報と寄付の動機との関係を検討している。具体的に寄付者の動機には,個人の内発的(キャンペーン支援の自己・個人的満足)と社会の内発的(オンラインでのキャンペーン支援の自己・個人的満足)動機,個人の外発的(キャンペーン支援の結果としての特定の成果実現欲望)と社会の外発的(オンラインでのキャンペーン支援の結果としての特定の成果実現欲望)動機を示している。
(2) 報奨型クラウドファンディングを行う要因報奨型クラウドファンディングを行う要因の研究は,他と比較して,その蓄積が進んでいる。報奨型クラウドファンディングのような相互の贈与では利他主義と利己主義との衝突が生じ,ミドル・オプション・バイアス(人間が何かを選択する際に,その選択集合の中間にある安全なものを選択する傾向)が生じるという(Simons, Weinmann, Tietz, & vom Brocke, 2017)。報奨型を行う投資家は,向社会的(prosocial)動機より,利己的動機がその要因となると指摘されている(Gerber & Hui, 2013)。それ以外には,購買動機・利他的動機・関与動機(Steigenberger, 2017),自己起因動機・他者起因動機(Zhang & Chen, 2019)などが挙げられている。さらには報奨獲得・他者支援・コミュニティの一部であること・社会的課題支援(Gerber, Hui, & Kou, 2012),地域的利他主義・地域化された関係資本(Giudici, Guerini, & Rossi-Lamastra, 2018)などが指摘されている。
Bretchneider and Leimeister(2017)は,利己的動機だけでなく,向社会的動機も投資へ影響を与えると指摘している。具体的には,投資家の認知的・イメージ・陳情的・嗜好・報奨による動機が投資の意思決定に影響を与えると指摘している。ここで嗜好動機は人や物事を好む感情であり,投資家が投資先企業やプロジェクトなどを好む感情として向社会的動機を理解している。
寄付(donation)には様々な概念がある。最も広い概念が「援助行動(helping behavior)」である。援助行動とは通常は見返りに見合う報酬がほとんどまたはまったくない,援助または利益を提供することで,貧しい人々の福祉を向上させる行動である(Bendapudi, Singh, & Bendapudi, 1996)。先のクラウドファンディングでもみられた向社会的行動や慈善行動(charitable behavior)も,同様の概念と考えられている。
援助行動には,金銭と時間,モノによる援助行動がある(Reed, Aquino, & Levy, 2007)。金銭による援助行動は金銭寄付,時間はボランティア,モノは物品寄付を意味している(Winterich, Mittal, & Aquino, 2013)。ふるさと納税は,援助行動の中の金銭寄付に該当することになるだろう。寄付は単にお金を渡すことであり,それをより限定したのが慈善寄付(charitable giving)である。慈善寄付は,親族以外の人たちに便益をもたらす組織への金銭寄付を意味している(Bekkers & Wiepking, 2011a)。
2. 寄付に影響を与える要因Sargeant(1999)は,内発的と外発的要因に分けて寄付を行う要因を提示している。内発的要因は自己承認欲求と罪悪感,社会的正義,共感,恐怖感,同情である。外発的要因として,年齢と性別,社会階層,収入,ジオデモグラフィクスを挙げている。またBekkers and Wiepking(2011a)は,慈善寄付の8要因(必要の意識・勧誘・費用と便益・利他主義・評判・心理的便益・価値・有効性)を挙げている。寄付の要因では多くの実証研究が行われ,様々な要因が示されている。
(1) デモグラフィクスBekkers and Wiepking(2011b, 2012)は,先行研究を通じて,デモグラフィクスからの慈善寄付を行う要因を検討し,宗教と教育,年齢,性別と家族構成,収入が影響を与えると指摘している。先行研究では,寄付者は比較的年齢が高く,世帯収入が高い男性の既婚者で,高学歴な人ほど,寄付を行う割合が高い傾向があると指摘されている(Brooks, 2007)。
(2) 利他主義利他主義(altruism)は,援助行動の中で最も重要な要因である(Gay & Patton, 1988)。利他主義とは他者の状況を改善したいという態度や動機,援助行動,願望と定義できる(Ranganathan & Henley, 2008)。援助行動を行う動機には,利己的(egoistic)と利他的(altruistic)動機がある(Bendapudi et al., 1996)。利己的動機は人間固有の幸福を増進する究極の目標に関する動機である一方,利他的動機は貧困の人の福祉を向上させる究極の目標に関する動機である。
利他主義は,寄付実践の直接的動機となるだけではなく,個人の感情にも影響を与えている。それは例えば貧困にある人に対する他者への共感であったり(Fisher, Vandenbosch, & Anita, 2008),そういった人を支援しなければならないという社会的規範が機能し,人に罪悪感や不安感,責任感が生じることで,寄付を行うのである(Basil, Ridgway, & Basil, 2006)。
(3) 経験過去の寄付経験も寄付の実践を促す要因となる。過去の行動は習慣を強化する指針となり,習慣という意味では繰り返しの行動としても理解できる。Van der Linden(2011)は計画的行動理論を拡張したモデルを用いて,寄付意図への影響要因を検討している。具体的には,寄付意図に行動統制と態度,道徳的規範と過去の行動としての寄付の習慣が影響すると指摘している。
(4) 道徳道徳的アイデンティティとは,消費者の特性(親切や正直で愛情がある)と感情(他者への関心や共感を示す),行動(見知らぬ人を助け,慈善行動に従事する)の観点から,自分自身の道徳的特徴について抱くであろう心的表象を意味している(Reed et al., 2007)。道徳的アイデンティティは,他者のニーズに対する社会的反応性を示す選択と行動の追求を動機づける要因となる。
Winterich et al.(2013)は,消費者の再認(ピンクリボンの提供やオンライン上での名前の掲載などの謝意の公表によって,寄付者が他者から寄付行為に対して注目を受けること)が道徳的アイデンティティを介して慈善行動を助長すると仮定し,道徳的アイデンティティを内面化と象徴化の次元から捉えている。内面化とは道徳的特性が自己の中心にある程度であり,象徴化とは道徳的特性が世の中での反応者の行動に反映される程度である。具体的には,慈善行動の再認は象徴化の程度が高く,内面化の程度が低い状況で消費者の慈善行動を助長すると指摘している。
(5) ブランドイメージ寄付者は,寄付先の組織のブランドイメージの影響を受ける。先行研究では,慈善寄付のブランドパーソナリティとブランド典型性(brand typically)がその要因となると指摘されている。Venable, Rose, Bush, and Gilbert(2005)はステークホルダーが抽象的なレベルでどのようにNPOのブランドパーソナリティを捉えているのかを検討している。具体的には,寄付者は誠実さと耐久性,洗練さ,擁護性としてブランドパーソナリティを捉えていると指摘している。
Michaelidou, Micevski, and Sigmagka(2015)は2つの子どもの慈善ブランドを比較し,消費者が非営利ブランドイメージとブランド典型性,過去の寄付の寄付意図への影響を検討している。ブランド典型性とは,ある製品カテゴリーの中で,あるブランドがどれだけ代表的かを示す概念である。具体的には,ブランド典型性と効率性,影響は寄付意図に正の影響を与える一方,力強さと過去の寄付は負の影響を与えるとしている。
(6) 社会との関係ソーシャル・キャピタルとは,人々の協調行動を活発にすることで社会の効率性を高める信頼や規範,ネットワークなどの社会組織の特徴を意味する。コミュニティへ参加し,社会への関心が高い人の方が慈善寄付をする傾向があり,ソーシャル・キャピタルがコミュニティに醸成されていると寄付する傾向が高まる(Hsu, Liang, & Tian, 2005)。Wang and Graddy(2008)は,ソーシャル・キャピタルとボランティア,慈善寄付の関係を検討し,社会的信頼とネットワークの架け橋,市民のエンゲージメントといったソーシャル・キャピタルが慈善寄付に影響を与えるとしている。
ソーシャル・キャピタルが醸成しているコミュニティや組織には,寄付者がそれらを信頼しコミットメントしていると考えられる。Sargeant and Lee(2004)は,NPOに対する寄付者の信頼と関係性コミットメントが寄付行動へ影響を与えると指摘している。関係性コミットメントとは,大切な関係性を維持したいという永続的願望を意味している。
3. コーズ・リレーテッド・マーケティングによる寄付つき商品の理解 (1) コーズ・リレーテッド・マーケティングの理解寄付つき商品や応援消費は,コーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM: Cause-Related Marketing)研究から理解できる(Stanislawski, Ohira, & Sonobe, 2015)。CRMとは,顧客が組織や個人の目的を充足させるべく,特定の社会的課題(cause)に対して目標額の達成を目指し,企業がマーケティングを定式化し,実行するプロセスである(Varadarajan & Menon, 1988)。つまり,CRMとは,企業がマーケティングの手法を用いて社会的課題を解決することを意味する。
Andreasen(1996)はCRMを3類型化している。第一に取引型プロモーションであり,企業は販売の対価として,社会的課題の解決をしているNPOに現金や物品などを寄付するものである。第二に共同問題プロモーションであり,企業がNPOなどと,製品・プロモーション資料の流通や広告などを通じて,社会的課題解決への取組みに同意することである。第三にライセシングであり,企業にNPOのロゴなどの使用を許可する代わりに,NPOに売上の一部を支払うものである。
Lafferty, Lueth, and McCafferty(2016)は,CRMの経験的研究を整理し,それらを企業と社会的課題・CRM戦略と実行・消費者・財務的成果・社会的成果に細分している。中でも消費者に関する研究を,さらに関与と経験・事前態度・デモグラフィクス・適合(一致)・精通性・主観的と社会的規範・文化・動機に細分している。デモグラフィクスについて,Ohira(2019)は,日本には寄付つき商品を購入する消費者はおよそ2割存在し,年齢がやや高い女性の既婚者で子どもがおり,高卒以上の学歴という傾向があるとし,日本で寄付つき商品など普及させる方法を検討している。
(2) 適合Pracejus, Olson, and Brown(2003)は,消費者が関心のある社会的課題とブランドとの適合とその影響を検討している。具体的には,解決している社会的課題の適合度が高いNPOへの寄付は低いものと比べて,5~10倍の価値があると指摘している。
Gupta and Pirsch(2006)は,CRMにおける,消費者-企業-社会的課題間の影響を検討し,企業と社会的課題との適合は企業と協働しているNPOに対する態度を改善し,購買意図を高めると指摘している。また,この影響は顧客と企業,顧客と社会的課題が一致する状況下とスポンサー企業に対する消費者の全体的な態度により高められることも指摘されている。
Bigné-Alcañiz, Currás-Pérez, and Sánchez-García(2009)は,CRMのブランド信頼性の推進要因(社会的課題とブランドの適合・利他的ブランド動機についての消費者の認識)による利他的価値の効果を検討し,利他的消費者はCRMメッセージにおけるブランド信頼性の判断形成のために利他的属性を使うとしている。CRMのブランド信頼性は,ブランドが誠実さと善意を表現し,特定の社会的課題に関連させるスキルと経験があるのかを認識する程度である。
(3) 動機Guerreiro and Rita(2015)は,消費者が快楽的(hedonic)と功利的(utilitarian)動機による寄付つき商品への感情喚起と喜び,注意との関係を検討している。具体的には,消費者の寄付つき商品への感情と注意は,快楽的選択における利他的行動と関係している一方,功利的選択の際に消費者はブランドのロゴと寄付金額に注目すると指摘している。
Koschate-Fischer, Stefan, and Hoyer(2012)は,寄付に関連した消費者傾向と社会的課題に関連した消費者傾向による寄付金額に対する支払意欲への影響を検討している。具体的には,他者支援への態度と温情的動機が高いとき,寄付金額と支払意欲が高まるとしている。寄付に関連した消費者傾向は,他者支援への態度と温情的(warm glow)動機である。温情的動機は,他者への寄付から生じる温情を感じたいという欲望である。社会的課題に関連した消費者傾向は,社会的課題への関与と,社会的課題と組織への親しみ,企業と社会的課題の一致を意味する。
(4) 関与Grau and Folse(2007)は,ある社会的課題の関与が低い消費者をCRMへ関わらせる方法を検討している。具体的には,関与と寄付が近接する際に,社会的課題への関与が高い消費者は課題支援の参加により高い関心を持ち,全国的な寄付により好ましい態度を示すと指摘している。
Arnold, Landry, and Wood(2010)は,CRMを経験した後に若者(10代前半から20代前半)の社会的責任に関する認識の順応性を検討している。具体的には,あるNPOが主催した社会的課題解決のイベントに参加した若者は,自尊心と社会的課題への関心が高まったことが示されている。また同様の他のイベントに参加した若者も社会的課題への意識が高まり,物質主義への態度が減少することで,自身の生活の満足を向上させると指摘している。
本稿では,ふるさと納税を寄付型・報奨型クラウドファンディングとして捉え,その利用者には利他的動機に基づいて社会的な還元を重視する寄付者と,利己的動機に基づいて自分自身への還元を重視する消費者が含まれていることを踏まえながら,ふるさと納税を行う要因を検討してきた。ここでは,クラウドファンディングとしてのふるさと納税を寄付者と消費者の視点から検討し直し,ふるさと納税の利用者を理解する枠組みを提示する。本稿では,利用者の内発的動機に注目してきたが,同時にふるさと納税利用を促すのは地方自治体(返礼品事業者)と仲介業者であり,そういった主体によるマーケティング活動によって,潜在的利用者の外発的動機が刺激される。最後に本稿のインプリケーションとして,地方自治体のマーケティングへ示唆を考える。
1. ふるさと納税制度の柔軟性がもたらす利用者の選択の多様性利他主義は寄付を行う最も大きな要因である。一方で,利己主義とは他人のことは考えず,自分の利益のみを考えることを意味している。通常の購買行動はこちらにより近い。クラウドファンディングの場合,寄付型クラウドファンディングでは,人々は寄付者として利他的動機に基づいて寄付していると考えられるのに対し,報奨型クラウドファンディングでは,人々は消費者として利己的動機に基づく行動をとっているように捉えられる。ふるさと納税の場合も,利己主義に基づく人々は,地方自治体の応援とは関係なく,返礼品の魅力に惹かれて,もしくは納税者は節税のために納税の還元率を目的として利用する。ほとんど消費者である。逆に,利他主義の人々は,返礼品とは関係なく,地方自治体の応援目的にふるさと納税を利用している。寄付の側面が強くなる。
しかし,こうした二分法では一般的な寄付と消費の説明だけになり,クラウドファンディングやふるさと納税の全体像を理解することはできない。実際には,寄付と消費,寄付者と消費者の中間層が重要であるように思われる。中間層の人たちは,倫理的消費者(ethical consumer)と位置づけることができる(図1)。利他的・利己的動機に基づいてふるさと納税を利用する倫理的消費者は,返礼品の魅力と地域や社会的課題の特性を考慮してふるさと納税を利用することで,いわば消費を通じて社会的課題を解決しているのである(Ohira, 2019)。
ふるさと納税の利用者の理解
倫理的消費者は,災害のあった地域の応援とその地域の特産品といった返礼品の両方をふるさと納税を行う目的とする。返礼品費用以外の部分を社会的課題の解決に活用してもらうことを企図した寄付に加え,返礼品の選択自体が社会的課題の解決に資すると捉える寄付も生じる。例えば「応援消費」という言葉にみるように,返礼品の選択は,利己主義的な「返礼品の消費」と同時に利他主義的な「伝統的地場産業の支援」という二重の意味を帯びる。逆に言えば,しばしば批判されてきたふるさと納税は,寄付と消費の両方を同時に行うことができるという制度の特性により,倫理的消費者の存在を浮き彫りにしているのである。
2. 地方自治体のマーケティングふるさと納税を実施している主体は,地方自治体であり,その意味ではマーケティングに馴染みがない組織である(Mizukoshi & Fujita, 2013)。そのため,マーケティングや消費者行動の知見はまだまだ納税者の獲得活動に取り込まれていないことも多い。もちろん,返礼品の充実や活動の告知,さらには,継続的な関係性の構築などさまざまな試みはみられるが,以下では改めてふるさと納税を戦略的に機能させる方法を考えていきたい。
(1) 社会的課題への関心と適合寄付者と倫理的消費者には,地域の社会的課題に関心を持たせる必要がある。寄付に関する研究では,利他主義や道徳が寄付を行う要因となっていた。ふるさと納税は,納税を通じて解決される社会的課題が曖昧なケースが多く,納税先の地方自治体が抱えている社会的課題は一つとは限らない。CRM研究では,企業が支援する社会的課題の内容が消費者の寄付つき商品の意思決定に影響するとされていた。CRMでは支援する社会的課題の内容が事業や製品・ブランド,消費者間で適合しているときに消費者の意思決定に影響する。例えば,チョコレート製造企業がその原料であるカカオを生産している国の児童労働問題解決の寄付つき商品を販売し,その課題解決に関心のある消費者が積極的にその寄付つき商品を購入することである。
このようなCRMの適合に関する研究は,ふるさと納税のマーケティングについての示唆を与える。第一に利他的動機に基づく寄付者と倫理的消費者には,ふるさと納税を通じて解決される社会的課題の内容と成果を示す必要がある。第二に地域の社会的課題とそれに適合した地元の返礼品を提示した方が倫理的消費者の実施可能性を高めるのである。
(2) 快楽的製品としての返礼品と返礼品を通じた社会的課題の解決消費者と倫理的消費者には,どういった返礼品を提示するのかが鍵となる。返礼品ランキングを見ると,どのサイトでも「ちょっと」豪華な食料品が上位を占めている。この点は,快楽的動機が消費者の意思決定に影響する点と一致している。快楽的製品とは,喜びなど感情を生む製品(スイーツなど)である。快楽的製品の方が消費者の利他的行動を導きやすく,実用的(practical)製品よりも快楽的製品をプロモーションする方が寄付への誘引が高まる(Strahilevitz & Myers, 1998)。消費者と倫理的消費者には,既に実践されているように,快楽的製品のアピールが有効である。
しかし,倫理的消費者は,応援と返礼品の両方に関心があるため,上述した方法だけではふるさと納税を行うに至らない。ふるさと納税のサイトを見ると,地方自治体の中には,地元との結びつきがわかりにくい返礼品が提示されていることもある。上述したように,倫理的消費者は社会的課題と返礼品が適合したときに納税を行うと考えられる。実際,返礼品には地元の特産品を提示するのが多く見受けられるが,それが社会的課題の解決につながることを示しているものはあまり多くない。つまり,倫理的消費者には,返礼品の消費を通じて,どういった社会的課題が解決されるのかを明示する必要がある。その一つの方法として,すでに民間で行われている取り組みであるが,販売に困っている生産物や市場に出回らない珍しい野菜などを探し出し,それをふるさと納税の返礼品とすると,地域の社会的課題との解決と地域活性化を達成できる。さらには,すでにその取り組みを行なっている食べチョクなどと協働するのも,ふるさと納税の返礼品の品揃えに新たな可能性をもたらすと考えられる。
(3) 関係性のマネジメントと懐疑主義の回避では一度ふるさと納税を実施した利用者を継続的にふるさと納税を行わせるためにどうしたら良いのか。寄付研究に従うと,地域としてのブランドを構築することで地域へのコミットメントがなされ,信頼を得られる。CRM研究に従うと,ふるさと納税を実施している地方自治体への関与度を高めることが考えられる。そのためには,公共組織においても,顧客との関係性のマネジメントが重要になる(Mizukoshi & Fujita, 2013)。
しかし,いくら良い関係性を構築できる可能性があるとしても,ふるさと納税のマーケティングでは,ふるさと納税を行う利用者に負に影響する要因も考慮する必要がある。CRM研究では,消費者の懐疑的思考(skepticism)が意思決定に負に影響するとしている(Web & Mohr, 1998)。寄付者には,自分の寄付がどういった社会的課題の解決に使われているのかを懐疑的に捉える場合があると理解しなくてはならない。例えば,いくつかの自治体で箱物施設の建設に際し,寄付者の名前を壁面などに記載する取り組みが行われている。このような取り組みは,寄付者の温情的動機にも働きかけることができる。さらに納税者の中には,自分で納税先を選択したい主体的納税者も少なからず存在する。その人たちには,温情的動機を刺激するマーケティングを展開することが有効であると推測できる。一方,消費者には,返礼品をしっかりと届けるのはもとより,サイトに掲載されている情報が足りないなどで期待外れの返礼品を送ってしまうと,消費者の懐疑的思考に影響を与え,一過性の納税になってしまう危険性がある。
(4) クラウドファンディングとしてのふるさと納税本稿では,ふるさと納税をクラウドファンディングとして捉えてきた。今日,さまざまなクラウドファンディングが注目され,また資金を集めていることを鑑みるに,ふるさと納税をよりクラウドファンディング化することで,その効果を高めることができる可能性もある。例えば,Hossain and Oparaocha(2017)では,クラウドファンディングに参加する人々にはフリーライダーが存在し,他者の寄付や投資行動を見てそれを真似するため,総体として金額が大きくなる傾向があるとする。このことは,例えば倫理的消費者の行動を可視化することができれば,倫理的消費者以外の人々からも,さらなる投資や寄付が生じる可能性を示唆している。いずれにせよ,このように地方自治体がクラウドファンディングや寄付,さらには寄付つき商品に関する知見をもとに,ふるさと納税を促すマーケティングを戦略的に行うことで,ふるさと納税の制度がより多くの人にとって価値をもたらすであろう。
本稿の掲載に際し,レビュワーから建設的な指摘をいただいた。ここに記して,感謝申し上げる。
大平 修司(おおひら しゅうじ)
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程終了,博士(商学)。諏訪東京理科大学を経て現職。専門はソーシャル・マーケティング・エシカル消費。
スタニスロスキー スミレ(すたにすろすきー すみれ)
早稲田大学大学院 商学研究科 博士課程満期退学(商学)。専門はエシカル消費。
日高 優一郎(ひだか ゆういちろう)
神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了,博士(商学)。山梨学院大学を経て現職。専門は消費者行動論・ソーシャル・マーケティングなど。
水越 康介(みずこし こうすけ)
神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了,博士(商学)。専門はデジタル・マーケティングなど。