Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Preface
Social Media and Marketing
Hikaru Yamamoto
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2021 Volume 40 Issue 4 Pages 3-5

Details
Translated Abstract

More than a decade has passed since the emergence of major social media services such as Twitter and Facebook, and these services have attracted considerable attention from both practitioners and academics. The aim of this special issue is to re-examine the impact of social media in marketing. Consumer engagement behavior on social media was expected to enhance the marketing activities of firms in various areas, including advertising, customer support, and new product development. Along with these high expectations, the negative impacts of social media, such as backlashes against certain people or brands, spread of fake news and fake reviews have also affected firms and consumers. In this special issue, we shed light on various aspects of social media, including consumer enthusiasm and collective behavior, the resulting positive and negative bursts in social media, product reviews and their helpfulness, and usage patterns of social media by user segment.

ソーシャルメディアには様々な形態があり,ブログ,掲示板,レビューサイトからFacebookに代表されるSNS(Social Networking Service),ミニブログともいわれるTwitter,InstagramやYouTubeのような動画・画像共有サービスなどが含まれる(Mizuno, Onishi, Shibuya, & Yamamoto, 2019)。

我が国におけるソーシャルサービスの歴史を振り返ると,ミクシィとグリーが開設したのが2004年,ツイッターが登場したのが2006年,フェイスブックが登場したのは2008年(米国では2004年)である。つまり,主要なソーシャルメディアが登場してから十年以上が経過した。ユーザーの増加とともにソーシャルメディアの社会における重要性が増大し,ソーシャルメディアへの関心は学会と実務の両方で高まっていった。

Lamberton and Stephen(2016)はデジタル,ソーシャルメディア,モバイル領域におけるマーケティング論文の2011年以降の主要トピックはソーシャルメディアであると指摘している。本論文ではJournal of Marketing, Journal of Marketing Research, Journal of Consumer Research, Marketing Science, Management Scienceに2000年から2015年までに掲載された上記テーマに関する論文を抽出し,キーワードと引用情報から研究トピックの変遷を追跡している。Lambertonらは,トピックの変遷からこの15年間は3つの時代区分に分かれるという。第一の時代は2000年~2004年であり,この時代の主要な関心はデジタルメディアがどのように購買行動を形作り,購買を支援することができるか,であったと指摘している。第二の時代は2005年~2010年であり,消費者間のクチコミとソーシャルネットワークが研究の主要トピックであった。そして,2011年以降の主要トピックは本特集号のテーマのソーシャルメディアである。

ソーシャルメディア上では消費者が能動的にコンテンツを生成していく。消費者は自らの消費経験を発信することによって,不特定多数の他者の消費行動に影響を及ぼすことが可能である。ソーシャルメディアとそこに集積される消費者の声を活用することができれば,広告,マーケティングリサーチ,カスタマーサポートなど企業のマーケティング活動の諸側面を補完できる可能性がある。しかし,ソーシャルメディアの黎明期に期待されたこうした正の影響だけでなく,炎上,フェイクニュース,やらせ,といった負の現象が起きていることもまた事実である。本号の特集テーマに「ソーシャルメディア」を設定したのは,主要なソーシャルメディアが登場してから十年以上が経過したこのタイミングでソーシャルメディアが企業や社会にもたらすネガティブ,ポジティブな影響の両側面に目を向け,実務,学術の両方でソーシャルメディアとどのように向き合えばよいかを今一度考えたかったためである。

本号の特集テーマ「ソーシャルメディア」の招待査読論文の執筆者たちは,マーケティングおよび計算社会科学の気鋭の研究者たちである。以下に本特集号の論文の概略を紹介する。

第一論文は水野誠氏・佐野幸恵氏・笹原和俊氏による「熱狂するファンダム―プロ野球ファンのツイートを分析する―」である。ツイッター上のツイートの爆発的な激増やそれに伴うリツイートの増加はバーストと呼ばれ,その背後には消費者の熱狂の存在が考えられる。本論文は日本のプロ野球に関するツイートを収集・分析し,試合の勝敗や優勝争いがどのようにツイッターの投稿に影響を及ぼすかを検討している。また,ソーシャルメディア上の熱狂の変化を長期・短期的の異なる時間軸で検証していることも大きな貢献と言える。また,プロ野球を対象とした本研究はスポーツマーケティングという観点からも第一級の研究論文である。観客に支えられているスポーツには,ファンの熱狂の存在が欠かせない。ファンの熱狂が可視化されるソーシャルメディアは,スポーツマーケティングの領域に新たな研究機会を提供していると言える。

第二論文は鳥海不二夫氏による「バースト現象における拡散の定量分析―ツイッターデモはどう広がったか―」である。ソーシャルメディア上のバーストや炎上は学実両方の世界において非常に関心の高いテーマであり,今回の特集号で是非光を当てたかったトピックである。本論文では法改正案を巡るツイッターデモを対象としてバースト現象の詳細分析を行っている。2%のアカウントによって50%のツイートが拡散されていたという分析結果は興味深い発見事項である。著者は計算社会科学の研究者であり,本論文の参考文献には人工知能の文献が並ぶ。ソーシャルメディアはマーケティングのみならず人工知能の領域でも活発に研究されているトピックであり,この領域で一般的に使用される拡散の偏りの推定および評価やコミュニティの抽出方法は,マーケティング研究においても有益である。

第一論文,第二論文の研究テーマであるツイッター上の情報伝播はソーシャルメディアの主要な研究領域であるが,製品評価情報もまた多くの研究者の関心を集める重要なテーマである。第三論文の斉藤嘉一氏による「レビュー有用性の影響要因―質的・量的レビュー―」は,この重要なテーマを扱っている。本論文のタイトルには二回レビューという語が登場するが,一つ目の「レビュー」とは,製品評価情報を指す。たとえばAmazonで「カスタマーレビュー」として製品評価情報があり,個々のレビューには「役に立った」ボタンが配置されている。ではそのようなレビューが「役に立った」と評価されるのであろうか。本研究はこの問題を,量的・質的レビューによって明らかにしている。なお,論文タイトルにあるふたつめの「レビュー」とは,製品評価情報ではなく先行研究レビューを指す。レビュー有用性に関する質的・量的レビューは本ジャーナルの読者にとって非常に貴重な知見をもたらしている。また,マーケティングの領域でメタ分析の手法を学ぶことができる貴重な論文でもある。

第四論文は,西本章宏氏・勝又壮太郎氏・本橋永至氏による「急激な環境変化に対するイノベーションの源泉としての創発的消費者―COVID-19のアウトブレイクにおけるソーシャルメディアの利用動向分析―」である。本論文は新型コロナ禍の消費者の行動に着目した非常にタイムリーな研究であるのと同時に,ENC(emergent-nature consumers)とLU(lead user)の相違点を分析しているため,先進的な消費者に関する研究として理論的にも大きな貢献がある。ソーシャルメディアは誰でも無料で利用できるが,その利活用の在り方は消費者セグメントによって異なる。本研究ではENCセグメントに着目し,質問調査票とアプリ起動ログの二つの側面からソーシャルメディアの利用動向を分析している。本研究の分析結果は,ENCsは同じ先端層であるLUsよりも環境変化に対して頑健であり,新しい生活様式に適応した消費者であることを示している。

以上紹介してきたとおり,本特集は4つの優れた研究論文によって構成されている。本特集号が読者の知的好奇心を大いに刺激し,ソーシャルメディアの関連領域で新しい研究が生まれることを願っている。

また,本号は,特集論文以外にも,レビュー論文3本,マーケティングケース2本,書評1本を掲載している。いずれも優れた論文,ケース,書評である。特集論文と共にぜひお目通し頂ければ幸いである。

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