Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Enthusiastic Fandom:
Analyzing Tweets of Professional Baseball Fans
Makoto MizunoYukie SanoKazutoshi Sasahara
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2021 Volume 40 Issue 4 Pages 6-18

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Abstract

パワーブランドのロイヤル顧客には,しばしば熱狂的なファンが含まれる。彼らがなぜ熱狂するのか,しかもなぜ熱狂が持続するのかを理解するため,われわれはファンの熱狂が典型的に現われるプロ野球に注目する。その際,集合行動としての熱狂に働く社会的相互作用について把握するには,ソーシャルメディアでのファンのコミュニケーションを分析するのが1つの有効な方法である。そこでわれわれはTwitterから2018年の日本のプロ野球に関するツイートを収集し,ファンの投稿頻度のみならずポジティブ/ネガティブな感情を測定し,試合の勝敗や優勝争いの展開でそれらがどのような影響を受けるかを分析する。また試合中にファンのツイートとリツイートが瞬間的に同期する現象をバーストとして分析を行う。これらの分析から,長期と短期の異なるタイムスケールで熱狂が変化している様子を把握し,ファンダムを形成し維持するための示唆を得る。

Translated Abstract

Loyal customers of power brands often involve “enthusiastic” or “fanatic” fans. To explore the reasons why such behaviors are sustained, we focused on professional baseball since it is a typical area where enthusiastic fans appear. An effective way to grasp social interactions affecting enthusiasm as a collective behavior is to analyze fans’ communication in social media. Accordingly, we collected tweets on each team in Nippon Professional Baseball in 2018 from Twitter and measured the frequency of posting and the level of positive and negative emotions. We examined how these factors are influenced by the performance in each game and the likelihood of success in the season. We also analyzed instantaneous synchronization of tweets and retweets by fans during a game as a burst phenomenon. These analyses allowed an understanding of how fans’ enthusiasm changes on two time scales, short-term and long-term, and offer some suggestions for building and retaining fandom.

I. はじめに

スポーツや芸能の世界に限らず「熱狂的なファン」は様々な製品/サービス,またそこでのブランドの周囲で見出すことができる。たとえばMercedesやBMW,SONYやAppleといったパワーブランドのロイヤル顧客には,しばしば「ファン」と呼ばれる人々が含まれる。しかも彼らの相当数は,スポーツや芸能のファンに負けないぐらい熱狂的である。こうした現象に関連する概念として,消費者行動研究ではproduct enthusiasm(Bloch, 1986; Bloch & Richins, 1983),consumer fanaticism(Chung, Farrelly, Beverland, & Karpen, 2018; Fuschillo, 2018),超高関与型消費者(Hotta, 2015; Wada, 2015)などが提案されてきた。

ここ数年,マーケティングの実務家の間にファンやその熱狂という視点を強調する動きが見られる(Fraade-Blanar & Glazer, 2017; Sato, 2018)。ただし,マーケティングや消費者行動の有名な教科書(たとえばKotler & Keller, 2016; Solomon, 2013/2015など)を開くと,そうした語は日常的な用語としては登場するものの,学術的な用語としては登場しないことがわかる。ファンやその熱狂について,学術的な研究に一定の進捗があり,実務家の間で関心が高まっているとはいっても,マーケティングに関する知識の体系のなかで一定の地位を得るまでには至っていないのである。

ファンの行動,あるいはその熱狂については,スポーツや芸能に関する研究にすでに多くの蓄積があることはいうまでもない(Earnheart, Haridakis, & Hugenberg, 2011; Kelly, 2004)。消費を含む広範な社会行動におけるファンの熱狂に最終的な関心があるとしても,スポーツや芸能におけるファンの熱狂に関する研究から得られる洞察は大きいはずである。そこでわれわれは,日本において最も成功しているスポーツビジネスであるプロ野球を対象とし,そこでのファンの熱狂について分析する。そのため,球団に関するソーシャルメディア上の投稿を大規模に収集し,ファンダム(ファン集団)の熱狂メカニズムを探求する。

ファンの熱狂を測定するためにソーシャルメディア上でのファンの活動を観測するのは,そこがまさに熱狂の孵化器であり増幅器であるからである。Yamamoto and Katahira(2008)は現代の消費者行動を理解する上で「熱中,心酔」(enthusiasm)の役割が重要であると指摘し,それがソーシャルメディアによって加速されることを示唆している。個々の消費者において起きた熱狂の種は,ソーシャルメディアを通じて拡散し,大きな動きを作り出す可能性がある。そこでわれわれは,Twitter上でプロ野球の各球団について言及するツイート(つぶやき)を収集し,そこからファンの熱狂を測定し,それに関わる要因を分析的に明らかにする。

次の節では,熱狂とは何であり,どのように測定することができるか,そのためにTwitterのデータがいかに有用かを議論する。3節では,われわれがどのようにデータを収集し,ファンの感情を測るかについて述べる。4節では,ツイートの頻度やそこに現れた感情がシーズンを通した球団のパフォーマンス(勝敗や貯金)にどのような影響されるかを示す。5節では,1つの試合中に起きるバースト現象に注目し,熱狂の別の側面に触れる。最終節ではこれらの知見を踏まえ,現時点での結論と含意,今後の課題について述べる。

II. 熱狂をいかに測定するか

APA心理学辞典では,熱狂(enthusiasm)とは「ある活動,大義や目標に向けての興奮や情熱の感覚」(VandenBos, 2007/2013, p. 692)と定義されている。興奮や情熱が向けられる対象があることが重要で,スポーツであれば具体的なチームや選手,政治であれば具体的な政治運動,組織,リーダー,主義主張などがそうした対象になる。他方で,熱狂をfanaticismの訳語に当てる場合もある(Wada, 2015)。上述の辞典はfanaticismを「狂信」と訳し「過度の,しばしば理性的でない夢中になっている状態,または,宗教的情熱」と定義している。後者は前者が先鋭化し,より強い情動に支配されているケースと考えられるが,いずれもわれわれが扱う「熱狂」の範疇に含まれると考える。

社会学においては,熱狂は社会的な集合行動(collective behavior)として捉えられている(Nakai, 2009)。すなわち,特定個人が何かに興奮したり情熱を傾けたりするだけではなく,集団や群衆が同時に興奮し情熱を共有していることが,社会現象としての熱狂である。そのような熱狂が発生すれば社会の一定範囲に波及するので,その規模がある水準に達していることが熱狂を測定する上での最低条件になる。しかし,そうした波及が偶然の産物である可能性もある。熱狂が社会的相互作用によって引き起こされたことの確認が,熱狂を測定する上での必要条件になる。

個人的な熱狂の水準は何らかの心理尺度で測定できる。対象がブランドであれば,ブランドへの愛着や愛の尺度が提案されてきたし(Batra, Ahuvia, & Bagozzi, 2012; Park, MacInnis, Priester, Eisingerich, & Iacobucci, 2010),政党や政治家であれば感情温度という100点尺度で測ることもできる(Mizuno, Miura, and Inamizu(2016)には,そうした尺度を用いた質問紙調査をプロ野球球団・選手に適用した研究が収められている)。そうして測られた熱狂が社会に一定規模で存在すれば,熱狂に関する最低限の条件が満たされるだろう。さらに社会的相互作用が熱狂を引き起こしていることを確認したいが,それを従来の質問紙調査で調べることには限界がある。

そこでわれわれは,ソーシャルメディア上のデータから熱狂を測定する方法を採る。それによって,調査票というフィルターを通さないでファンの肉声を直接データとして入手できる点が第1のメリットである。また,前節で述べたように,ソーシャルメディアが熱狂を拡散させる中心的な装置になっているので,まさにその場で熱狂を測定することが第2のメリットとなる(Szell, Grauwin, & Ratti, 2014)。実際,ソーシャルメディアでの投稿や閲覧は何らかの「活動,大義や目標」で共通する人々の間でコミュニティを生み出すとともに,コミュニティ間の対立を煽り,偽情報を流布させることさえある(Sasahara et al., 2020)。投稿という行為自体がファンの熱狂を反映しているが,さらに投稿されたテキストから当人の感情を推定できることもメリットである。

ソーシャルメディアのなかでもTwitterはAPIを用いて外部の研究者がツイートデータを収集できるので,社会で何が話題になり,どのような感情が広がっているかを測定するのに広範に使われてきた(Dodds, Harris, Kloumann, Bliss, & Danforth, 2011; Mejova, Weber, & Macy, 2015; Miller, 2011; Sano, Takayasu, Havlin, & Takayasu, 2019)。Twitterの特徴として,リツイートによって各ユーザを中心としたネットワークを通じた情報伝播が生じることが挙げられる。しかもTwitterのネットワークは双方向(応報的)でなく,リアルな人間関係を超えて広がっているので,大規模な拡散につながる可能性を秘めている。集合行動としての熱狂を測る上で,Twitterデータは様々な望ましい性質を備えているといえよう。

われわれの研究においても日本プロ野球(NPB)ファンのツイートを用いて熱狂現象を分析する。どの球団のファンによるツイートかを識別した上で,ツイートやリツイートの頻度やそこで推定される感情表現の増減から,応援する球団に対するファンの熱狂を測定する。もちろん,ファンのすべてのツイートが熱狂と関連しているわけではないが,球団に関するツイートやリツイート,そして感情表現が系統的な変動の範囲を超えて変化した場合,そこにファンの熱狂度合いの変化が反映されている蓋然性は高いと考える。

われわれは熱狂について,複数のタイムスケールで捉えることにする。1つはシーズンあるいはペナントレースと呼ばれる半年に及ぶプロセスで,各球団は毎シーズン,優勝を目指してゼロベースで競争し,ファンもまたその間,優勝を願って応援し続ける。こうした目標の共有が,ファンダムに属し続けることの1つの動機になっていると思われる。他方で,優勝の可能性がなくなっても贔屓球団を応援し続けるファンは少なくない。日々の試合での勝ち負けは,優勝争いという文脈に関係なくファンを一喜一憂させる。さらには,試合中の1つひとつのプレイも瞬間的な熱狂を生み出す。すなわち,熱狂が生じるタイムスケールは様々で,それらが同時に進行して複合的な現象を生み出していると考えるべきである。本稿でも,それらの異なるタイムスケールごとの分析結果を報告する。

III. データの収集と感情の測定

1. ツイートの収集

NPB各球団に対するファンのソーシャルメディアでの発言は,TwitterからStandard search APIを用いて2018年3月29日から11月4日の約7ヶ月間にわたって収集された。これはNPBのシーズン開幕前日から日本シリーズの終了日の翌日までに対応する。NPBの各球団に言及したツイートを識別するため,各球団に対応する複数のハッシュタグを用いた。ハッシュタグのリストを作成するにあたって,まず各球団の代表的なハッシュタグを選び,次いでTwitter上でそれらと頻繁に共起するハッシュタグを探し,リストに加えていった。ただし,プロ野球以外の事象について言及していることが多いハッシュタグはリストから除外した。

ハッシュタグを用いたのは,ツイートに含まれた球団名で識別すると,球団の略称が企業名や地名でも使われていることが多いため,当該球団と関係しないツイートを大量収集することになりかねないからである。他方,ハッシュタグをつけないで各球団に言及しているツイートを取り逃すことになる。しかし,ハッシュタグの有無の比率が球団内で系統的に変動するのでないなら,得られたデータから各球団のツイートの時間的変化を推測しても問題はないはずである。同じ理由で,ツイートの数を球団間で比較することには慎重でなくてはならない。

なお,ツイートは日本語を用いたものに限定した。読売ジャイアンツに対応するハッシュタグ#giantsは米国のメジャーリーグ球団サンフランシスコ・ジャイアンツに使われるし,千葉マリーンズの#marinesはアメリカ海兵隊に関連するツイートでも使われる。また,複数の球団のハッシュタグを含むツイートも除外している。ツイートには,投稿者自身が書いたオーガニック・ツイートと,他者が書いたツイートをフォロワーに転送するリツイートが存在する。今回収集されたツイートのうち前者は約415万件あり,リツイートを含めると1,240万件になる。すなわち,リツイートがオーガニック・ツイートの2倍ほど存在する(唯一の例外が広島東洋カープで,リツイートの件数はオーガニック・ツイートの半数以下であった)。

2. ツイートの感情推定

ツイートに現れたプロ野球ファンの感情を推測するため,ここではツイートを単語に分解し,感情語辞書を用いて感情を数値化する。感情語辞書には様々なものがあるが,今回は日本語評価極性辞書を用いることにした(Higashiyama, Inui, & Matsumoto, 2008)。その理由は一般に公開されていること,1万件近い日本語表現が収録されており,日本語の感情語辞書として最も包括的なものと考えられるからである。なお,その単語だけでは意味を持たない,機能語と呼ばれる助詞や助動詞は対象から除いている。

日本語評価極性辞書では,ポジティブな感情に紐づく表現が約4,300,ネガティブな感情に紐づく表現が約6,400であり,ネガティブな表現が多い。今回分析対象とした各球団に関するツイートでは,ポジティブな表現のほうが多かった。すなわち,ポジティブな表現は1ツイートあたり平均0.77回出現するのに対し,ネガティブな表現は0.27回だけである(オーガニックツイートに限定するとそれぞれ0.60回,0.30回)。ポジティブな表現として最も多いのは「勝つ」「勝利」,ネガティブでは「負ける」「連敗」である。

応援球団別の特徴を見るために各単語にTF-IDF(Term Frequency Inverse Document Frequency)法による重みを加えてワードクラウドを描いたのが図1である(紙幅の制約で2018年に各リーグで1・2位になった球団の結果のみを掲載した)。これらから,勝敗に関わる共通の単語以外に,各球団の独自性を反映した表現もあることがわかる。広島カープに関するネガティブなツイートに特徴的な語に「災害」があるのは,2018年7月に広島地方を襲った豪雨による災害が,球団へのツイートでも言及されたからである。西武ライオンズのポジティブなツイートで「本塁打」が目立つのは,当時のこの球団の勝ち方を反映したものと考えられる。

図1

各リーグ上位2球団に対するツイートのポジティブ/ネガティブ表現

IV. ツイート行動の要因分析

1. 球団パフォーマンスとツイートの回帰分析

プロ野球ファンのツイートの多寡,そして感情表現に反映されるファンの熱狂が球団のパフォーマンスに影響されることは容易に想像がつく。球団のパフォーマンスの根底にあるのは個々の試合における勝敗だが,ペナントレースということばに象徴されるように,各試合は優勝に向けたプロセスの1ステップでしかない。多くのファンは応援球団の優勝を願っているので,日々の試合における勝ち負けに加え,勝ち数が累積された「貯金」もまた球団パフォーマンスの重要な指標になる。

球団パフォーマンスがツイートに与える分析のため,収集された球団別のツイートデータから,シーズン開幕の前日に当たる2018年3月29日午後9時から,全球団でリーグ戦が終了した10月18日24時までのデータを抜き出した。クライマックス・シリーズや日本シリーズが行われている期間を除いたのは,球団ごとの観測数を均一にするためである。ここでの分析期間を1時間単位で区分すると,球団ごとの観測数は4,728になる。

ツイートデータは時間ごとに以下のように集計する:

1)ツイート数

2)1ツイートあたりの単語数

3)1ツイートあたりのポジティブ表現数

4)1ツイートあたりのネガティブ表現数

なお,ツイートはオーガニック・ツイートに限る場合とリツイートを含める場合の2通りで数量化される。

他方,各球団のパフォーマンスとして以下の変数を用意する:

5)その日の貯金(それまでの勝ち試合数−負け試合数)

6)直近の試合での得点差(応援球団の得点−相手球団の得点)

7)直近の試合での貯金差(応援球団の貯金−相手球団の貯金)

8)直近の試合での相手球団

変数1~4のそれぞれを基準変数とし(いずれも右に裾が長い分布をしているので1を加えた値を対数変換する),5~6を説明変数とした回帰分析(OLS)を球団ごとに行った。ただし,基準変数は1時間単位であるのに,説明変数は必ずしもそうではない点に注意が必要である。「直近の試合」とはツイート時点と同時刻かそれ以前に行われていた試合,その日に試合がなければ前日の試合であり,その結果の数値を当てる(該当する試合がない場合は値を0とおく)。相手球団は同一リーグ球団に対応するダミー変数で表される。したがって直近の試合がない場合,それがセ・パ交流戦やオールスターである場合,すべてのダミー変数はゼロになる。それ以外にコントロール変数として以下に対応するダミー変数を加えている:

9)ツイートがあった日は平日か曜日・休日か

10)ツイートがあったのは何時か(試合がない日)

11)ツイートがあったのは何時か(ナイターの日)

12)ツイートがあったのは何時か(デーゲームの日)

13)その日の試合は交流戦・オールスターか,それ以外か

14)その日の試合は主催試合か,それ以外か

これら以外にも,月次,試合時間,観客動員数,地方球場での試合か,といった変数が候補に上がったが,多重共線性の可能性が確認されたため除外された。また,いずれの変数も球団ごとに中心化されている。

なお,ファンの熱狂がパフォーマンスに与える効果はここでは無視している。熱心に球団を応援するファンはそれを信じたいし,熱狂的な応援が期待される地元での試合が有利になる可能性(home advantage)を調べた研究は以前からある(Schwartz & Barsky, 1977)。しかし,プロ野球ファンの多くが経験しているように,応援の甲斐なく敗北することはよくあることで,熱狂からパフォーマンスへの効果はあるとしても限定的だと考えられる。

2. シーズンを通した貯金による効果

各球団の「貯金」のツイートに対する効果を見る前に,この年,NPBの各球団の貯金がどのように推移したかを確認しておこう。図2のように,この年セ・リーグは広島東洋カープだけが貯金を蓄積し続け,9月近くになってヤクルトスワローズが貯金を増やし始めたが,優勝した広島には追いつかなかった。パ・リーグでも埼玉西武ライオンズが独走し,リーグ優勝を果たした。前半戦では北海道日本ハムファイターズが追走し,後半戦では福岡ソフトバンクホークスが追い上げてセ・リーグよりは見せ場があったかもしれない(なおパ・リーグから日本シリーズに進出したのはソフトバンクであった)。なお,各球団の最終順位は表1に記されている。

図2

2018年NPB各球団の貯金の推移

表1

球団パフォーマンスのツイートへの効果:回帰分析の結果

どのモデルもN=4,728,球団や時間の固定効果が考慮されている。

a:1%有意;b:5%有意;c:10%有意

1には回帰分析の結果が示されている。掲げられているのは標準回帰係数なので,球団間・変数間での比較が可能である。ここでは紙幅の都合でツイートにリツイートを含む場合の分析結果を報告し,また1ツイートあたりの単語数に関する効果については報告を省略する。

全体の傾向として,貯金のツイート数に対する効果はその年のセ・リーグ上位球団とパ・リーグの多くの球団で有意にプラスになり,それ以外球団ではマイナスになっている。貯金のポジティブな感情表現への効果は全般にプラスである。ネガティブな感情表現への効果はセ・リーグではほとんどの球団でマイナスだが,パ・リーグではむしろプラスのケースが多い。そこに球団による違いがあると考え,以下のように分類してみた:

1)貯金が増えるとポジティブな表現が増え,ネガティブな表現は減るか変わらない…広島,巨人,横浜,中日,西武

2)貯金が増えるとポジティブな表現とネガティブな表現がともに増える…ヤクルト,ロッテ,楽天

3)貯金が増えるとポジティブな表現は変わらないが,ネガティブな表現が増える…ソフトバンク,オリックス

4)貯金が増えるとポジティブな表現は減り,ネガティブな表現は変わらない…日本ハム

ふつうに考えると,応援球団の貯金が増えることはファンにとって好ましいことなので,ポジティブなツイートが増え,ネガティブなツイートが減ると予想される。そうしたある意味で単純な反応はセ・リーグのファンに多く,パ・リーグのファンはもっと多様なパタンを示す。貯金が増加し優勝へ少しでも近づくことが,むしろ感情をネガティブな方向へ変えることがある。

3. 直近の試合がもたらす効果

貯金どころか借金が増えて優勝の可能性が厳しくなった状況でも,ファンは直近の試合での勝ち負けに一喜一憂する。勝敗は対戦相手との得点差で測り,単なる勝ち負けでなく,勝った程度を表す連続量で表すことにする。表1に示された結果からわかるように,どの球団においても,得点差はツイート数とポジティブな感情表現に対して有意でプラスの効果を持ち,ネガティブな感情表現に対しては有意でマイナスの効果を持つ。しかも,その程度(標準化回帰係数の大きさ)は他のパフォーマンス指標の場合より大きい。

応援する球団が直近の試合で勝ち,またそのときの点差が大きいほどファンのツイートは増え,ポジティブな表現が増える(ここでは詳細は省くが,それは主にリツイートを通して起きる)。またそれ以上の大きさでネガティブな表現が減少する(それもまたリツイートによるものである)。逆にいえば,試合に大差で負けると,ネガティブなリツイートが激増することになる。

直近の試合の結果の効果には球団による差が少なく,それらの効果の大きさが貯金の効果を上回ることは,プロ野球が優勝可能性に関係なくファンを熱狂させるコンテンツであることを意味している。2018年であれば年間143の試合を通して,最も弱い球団でも4割前後は勝つのだから,ファンはそれなりに勝利を喜び,熱狂し続けることができる。このような日々の喜びが土台にあった上で,優勝争いから生じる喜びがいくつかの球団のファンに対して付加される,と考えるべきだろう。

ファンの熱狂に影響し得る直近の試合の変数として,対戦相手の球団が何であるかを考えることができる。自分の貯金から相手の貯金を引いた「貯金差」(これを2で割ったものが「ゲーム差」である)は,相手との立場の差を表す。優勝のためには,相手がどこであれ試合に勝って貯金を増やせばよい。ただし,勝ちやすさを考えるなら,自分より下位と対戦するとき,つまり相手との貯金差がプラスのときに熱狂するかもしれない。一方,自分よりはるかに強い相手を倒す,いわゆるジャイアント・キリング欲求がある場合,自分より上位にいる相手,つまり貯金差が小さい(マイナスで絶対値が大きい)相手と戦うときほど熱狂するはずである。

1に示された貯金差に関する分析結果を見ると,目立つのは半数近い球団でネガティブな感情に対して有意でマイナスの効果が見られることである。貯金差が小さい(つまり自分より上位にいる)相手と対戦するとき,勝敗による効果を割り引いてもネガティブな感情が喚起されるわけで,特にその年2位で終わったヤクルトとソフトバンクでその程度が大きい。このときツイート数こそ増えていないものの,ジャイアント・キリング的な感情が高まっていたことは確かなようである。他方,巨人やロッテのファンのように,相手との貯金差が大きい(自分が上位にいる)ときほどネガティブな感情が高まるパタンもある。

V. バーストとしての熱狂

ファンの熱狂は半年近いペナントレースを通じて変化するだけでなく,個々の試合の結果にもよっても揺れ動く。さらにミクロレベルでは,1つの試合の中での展開によって激しく変動する。試合が行われているとき,ファンは球場で観戦するだけでなく,テレビやインターネットの中継(最近ではTwitterでの観客による「中継」も含む)によって同時進行的に試合展開に接し,ファンの間で興奮や感情が同期する。ファンを歓喜させたり落胆させたりする展開が起きれば瞬間的にツイートが激増し,それがわずかな遅れでリツイートされる。そこで生じるバースト(burst)現象は,すでにプロ野球観戦中のファンのツイートにおいて発見されている(Takeichi, Sasahara, Suzuki, & Arita, 2015)。

3は,2018年の日本シリーズ第5戦におけるファンのツイートとリツイートの頻度を10秒ごとに集計した時系列を示したものである。この年の日本シリーズで対戦したのは広島とソフトバンクで,第5戦はソフトバンクの2勝1敗1分けで迎えている。ソフトバンクが勝てば王手をかけることになる重要な試合で,試合は逆転に次ぐ逆転という緊迫した展開になった(最終的に5対4でソフトバンクが逆転サヨナラ勝ちを収める)。試合の経過とともに両球団のファンのツイート・リツイートのバーストが異なる場面で起きていることがわかる(なお,試合中の投稿についてはリツイートよりツイートの絶対数が多く,それ以外の時間にはリツイートの数がツイートを上回る)。

図3

2018年日本シリーズ第5戦におけるツイート数

ツイートとリツイートのバーストの共起度合は,ファン集団が全体としてどの程度同期して行動しているかと関連するため,試合中の集合的な熱狂を測定するに適している。そこでまずツイートとリツイートの頻度時系列に対して,以下の式で定義される相互相関関数(cross-correlation coefficient)を求める:

  

rxy(τ)=1N-τi=1N-τxi-x-σxyi+τ-y-σy

ここで,xiyiはそれぞれ,時刻iにおけるツイートとリツイートの頻度を表し,x-y-はそれぞれの平均値,σxσyは標準偏差を表す。ツイートとリツイートの頻度は,試合中に発生したツイートのデータから10秒ごとに集計した値を用いる。Nは頻度時系列の長さ,τは時間遅れを表す(0秒から300秒)。このように計算される相互相関関数の最大値Rmaxを「共起的バーストネス」(concurrent burst)と呼び,集団の情動的共感や一体感に関する熱狂の指標として用いる。共起的バーストネスは,ツイートとリツイートのバーストの時系列パターンに相関があるときに最大で1,逆相関がある時に最小で−1,無相関の場合は0になる。

2018年のNPBの全試合について上で定義した共起的バーストネスを計算し,応援球団が試合に勝ったかどうか,1点差以下であったかどうかで比較した。図4から試合に勝った場合,共起的バーストネスが全体として高くなることがわかる(Mann-WhitneyのU検定,P<0.01)。また1点差以下の試合の方が,共起的バーストネスが高くなる傾向がある(Mann-WhitneyのU検定,P<0.05)。すなわち僅差の試合で勝つことによって,共起的バーストネスで測られるファンの熱狂が高まることになる(詳細についてはSugimori, Mizuno, & Sasahara, 2019)。

図4

2018年NPB全試合を通じた共起的バーストネス

VI. おわりに

われわれは2018年のNPB各球団のファンのツイートを分析することで,どのような状況でファンの熱狂が起きるかを探求した。そこで得られた知見のうち最も単純なことは,ファンは応援球団が勝つとツイートやリツイートを増加させ,またそこでのポジティブな表現を増やし,ネガティブな表現を減らすということである。このような結果は,プロ野球ファンのツイートに頻出するポジティブな語は勝利に関するものが多く,ネガティブな語は敗北に関するものが多いことから当然ともいえる。このような熱狂の基本形ともいえる反応に,ごく一部を除いて応援球団による差は見られない。

よりミクロのレベルでは,試合中にツイートとリツイートがわずかなラグで共起して生じるバースト現象が,応援球団に有利な試合展開が起きた瞬間に発生する。これは球場内かメディアを通じて観戦するとき,同時性・一体性の感覚を持つがゆえの現象で,集合行動としての熱狂の原初的形態と見ることができる。なぜかといえば,こうしたバーストの体験が積み重なり,ファンとして熱狂を持続させるようになると想像できるからである。バーストの規模は試合に勝利したときのほうが全体として大きくなる。

NPBがビジネスとして成り立つためには,こうした熱狂を一時的なものに終わらせず,ファンダムのなかで持続させることが重要である。熱狂の本質の1つである「大義や目標」の共有は,ファンダムにとって優勝を目指して一丸となることである。優勝にいかに近づいたかは,勝ち数から負け数を引いた「貯金」で数値化される。貯金がツイートの頻度や感情に与える効果は,個々の試合の勝敗が与える効果ほど単純でなく,球団間での差が大きい。1ついえそうなことは,上位球団のファンは貯金が増えるほどツイートするということだが,ではそのとき表現がよりポジティブになるかというと,球団によって様々である。

それ以外にも興味深いのが,セ・リーグの非上位球団のファンは貯金が減るほどネガティブなツイートを増やすが,パ・リーグの非上位球団のファンは貯金が増えるほどネガティブなツイートを増やすことである。したがって,優勝に至るプロセスで生じる熱狂は単に貯金の関数でなく,球団ごとの様々な要因に左右されると考えられる。それはリーグや球団の気質の違いかもしれないし,その年のペナントレースの「流れ」の違いかもしれない。こうした疑問に答えるには,今後さらにデータを蓄積するとともに,より精緻な分析が求められる。

では,このような分析から,プロ野球あるいはスポーツビジネスという枠を超えてファンの熱狂を生み出すための,一般的な教訓が何か得られるだろうか。プロ野球ファンの熱狂については,異なるタイムスケールのいずれにおいても勝敗や競争の要素があり,したがって戦う相手としての敵が存在した。プロ野球ファンは自分が属するファンダムには友好的だが,別のファンダムには敵対的になる。それが熱狂を引き起こす原動力になっているといってよい。プロスポーツと同じくファンの熱狂が観察される音楽や演劇でも,プロスポーツの場合と同様,応援する対象の周囲で友と敵に分断される傾向がないとはいえない。ただし,その程度はプロスポーツに比べ軽微と思われる。

消費財の世界ではどうか。たとえば,熱狂的といえば誰もが思い浮かべるAppleあるいはMac OSのファンは,少なくとも一時期はMicrosoft Windowsに敵対心を隠さなかったし,Apple自体も比較広告でWindows PCをクールでないものと揶揄していた。同じく熱狂的なファンを持つBMWにしても,Mercedesを伝統的な富裕層の高級車と位置づけ,自らを若くて革新的な富裕層の高級車だと差別化することでBMWファンの気持ちに応えていたと思われる。あくまで仮説でしかないが,熱狂的なファンを持つブランドは仮想敵を持ち,それによってファンダムを維持していると考えられる。もちろんプロスポーツとの違いは明確で,スポーツでは敵との対戦が定期的・高頻度に用意され,ある程度は戦力の均衡が図られ,毎年貯金がリセットされることで,ファンの熱狂を長期にわたって維持する仕組みができている。

このようにプロ野球ファンのなかで見いだされた熱狂のメカニズムを他の領域にそのまま拡張することには無理があり,その溝を埋める研究が今後さらに必要である。対象をプロ野球ファンに限ったとしても,まだ十分に分析されていない側面がいくつも残っている。たとえば,ここではファンのツイート行動を集計的に扱っているが,実際には個々のファンの間に異質性があるはずである。すなわち,ファンダムの熱狂に個人差があり,なかには途中で離脱するもいれば,新たに加わるものもいる。特に数年のスパンで見ると,ファンダムの構成はダイナミックに変化している可能性がある。なお,本稿で報告した内容は,われわれが行っているプロ野球ファンの熱狂現象に関する研究プロジェクトの一部の成果でしかない。その他の結果については,いずれ機会を改めて報告したい。

謝辞

本研究のデータ収集や基礎的な分析に関しては,当時,名古屋大学大学情報学研究科修士課程に在学中であった杉森真樹氏(現在KDDI)の多大なる尽力を得た。また,計算社会科学研究会,人工知能学会,日本マーケティング・サイエンス学会マーケティングの計算社会科学部会,進化経済学会での発表で多くの貴重なコメントを得た。いずれも記して感謝したい。

水野 誠(みずの まこと)

明治大学 商学部 教授

1980年,筑波大学 社会学類 卒業後,(株)博報堂勤務を経て

2000年,東京大学大学院 経済学研究科博士課程 単位取得退学

博士(経済学)

専門:マーケティング・サイエンス

佐野 幸恵(さの ゆきえ)

筑波大学 システム情報系 社会工学域 助教

2003年,奈良女子大学大学院 人間文化研究科修了後,

(株)富士通ゼネラル勤務を経て,東京工業大学大学院へ進学

博士(理学)

専門:社会経済物理,ネットワーク科学

笹原 和俊(ささはら かずとし)

東京工業大学環境・社会理工学院 准教授

2005,年東京大学大学院総合文化研究科修了

博士(学術)

名古屋大学大学院情報学研究科講師等を経て現職

専門:計算社会科学

References
 
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