Japan Marketing Journal
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Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Motivations for User Participation in Co-Creation Communities Involving Companies
Shoko Tanaka
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2021 Volume 40 Issue 4 Pages 58-65

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Abstract

企業の新製品開発において,ユーザー(消費者)のアイデアを反映したり,その意見を基に製品改良をしたりする「共創」の重要性が増している。ユーザーの意見を反映することは,市場のニーズに的確に応えられ,市場での優位性を得られるためだ。その共創で成果を出すには,ユーザーの参加や貢献の獲得が必須となる。本稿では,企業が関わる共創コミュニティへのユーザー参加動機について,既存研究を自己決定理論に基づき分類する。レビューの結果,既存研究を時間概念なし,初期参加動機,継続参加動機の3つに整理した上で,ユーザーの参加段階を考慮した動機は未探索の部分が多い点を指摘する。時間概念を含んだ動機を明らかにすることはユーザーの参加を促す施策立案のヒントととなり,共創を計画する企業や団体への貢献となるだろう。

Translated Abstract

Co-creation is becoming more and more important in development of new products by companies, by reflecting the ideas of users (consumers) and improving products based on their opinions. Reflecting the views of users can accurately meet the needs of the market and give a company an edge in the market. The challenge for companies to achieve results in co-creation is to get users to participate and contribute. This paper categorizes existing research on the motivations for user participation in co-creation communities in which companies are involved, based on self-determination theory. As a result of a review, the research is organized into three categories: no time concept, initial participation motives, and continuous participation motives. It is pointed out that motives that take into account the duration of users’ participation are largely unexplored. Identifying motivations that include a time concept will provide hints for planning measures to encourage user participation and will contribute to planning of co-creation by companies and organizations.

I. はじめに

近年,企業とユーザー(消費者)の共創は,新製品開発分野において益々重要度を増している(Greer & Lei, 2012; Hoyer, Chandy, Dorotic, Krafft, & Singh, 2010)。ユーザーは新たな視点や知識を企業にもたらすため,アイデアの生成,その改良に有効と認められてきた(Poetz & Schreier, 2012; Prahalad & Ramaswamy, 2004)。ユーザーの意見を反映することは,消費者のニーズに的確に応えられることとなり,市場での優位性につながる(Jeppesen & Frederiksen, 2006)。実際,米国Threadless,無印良品では,販売実績などで成果が確認されている(Nishikawa, Schreier, & Ogawa, 2013; Ogawa & Piller, 2006)。しかし,企業が製品開発工程をオープンにして,共創に努めたとしても,参加するユーザーは少なく,参加したユーザーの継続も限られると気がつく(Seidel & Langner, 2015)。共創はユーザーの参加意欲に依存しており,その貢献がなければ機能しない(Boons, Stam, & Barkema, 2015)。ユーザーが共創に参加する動機づけ(以下,動機)を理解することは,共創を計画する企業にとって必須課題といえよう(Ghezzi, Gabelloni, Martini, & Natalicchio, 2018)。

共創による新製品開発にて企業が期待するユーザーの役割は3つの段階がある(Nambisan, 2002)。1つ目は,ユーザーの知識が企業にとって資源であり,ユーザーからのアイデア創出を期待する段階,2つ目はユーザーが具体的な共同開発者となり試作を作る段階,3つ目はユーザーが一般消費者目線で製品をテストする段階である。これらの段階を実現するため,企業はユーザーのみで運営される社外のコミュニティを活用したり(Füller, Bartl, Ernst, & Mühlbacher, 2006),自らコミュニティを主催したり(Jeppesen & Frederiksen, 2006),プラットフォームを提供する外部団体(仲介業者)に委託したりする(Muhdi & Boutellier, 2011)。コミュニティとは,一般的に共通の関心を持つユーザーの集合体を指すが,特定の製品の共創を目的とするものもある(West & Lakhani, 2008)。参加者の相互作用,情報交換,議論を生み,協力を促し,共創の進展効果が期待できるため,コミュニティは先の3段階すべてで活用されてきた(Bullinger, Neyer, Rass, & Moeslein, 2010)。なお,コミュニティには参加ユーザーが競い合わずにアイデアを出し合うタイプと,参加ユーザーが賞金や表彰の獲得を目的に競い合いアイデアを出すコンテスト形式がある(Bullinger et al., 2010)。本稿では,企業がこれらコミュニティを活用し,ユーザーと新製品開発を行う共創(以下,共創コミュニティ)を研究対象とする。

共創コミュニティの参加動機に関するレビューは,クラウドソーシング(Ghezzi et al., 2018),オープンイノベーション(Bogers et al., 2017),ユーザー中心イノベーション(Gamble, Brennan, & McAdam, 2016),イノベーションコンテスト(Adamczyk, Bullinger, & Möslein, 2012)のレビューで触れた記述もあるが,一部の説明に限られる。ユーザーが運営するオープンソース・ソフト開発コミュニティに限定したレビューだけは存在する(von Krogh, Haefliger, Spaeth, & Wallin, 2012)。つまり,共創コミュニティのユーザー参加動機のレビューは存在しない。よって,この分野の既存研究を整理した上で,今後の研究課題を示すことは学術的に意味を持つと考える。本稿は,続く第2章で動機分類のフレームワークを説明し,第3章ではこのフレームワークに沿って既存研究を分類する。第4章で今後の研究課題を説明し,最終章のおわりにで本稿の貢献を述べる。

II. レビューのフレームワーク

ユーザーの動機分類としては,Deci and Ryan(1985)が提唱した自己決定理論が頻繁に利用されてきた(von Krogh et al., 2012)。自己決定理論は,学校教育における生徒の動機分析や,従業員の動機理解の枠組みとして進展したもので,動機を自律的動機と,統制された動機に区別する。自律的動機は内発的動機と呼ばれ,個人がその活動を面白いと思い自発的に行う動機を指す(例:私は楽しいから仕事をする)。統制された動機とは外発的動機とされ,外部からの報酬と罰則によって駆動される動機を指す(例:給料のために仕事をする。上司が見ているときに仕事をする)(Gagné & Deci, 2005)。

内発的動機を持つ個人は,目的のためならば金銭的な報酬がなくても喜んで行動し,達成度も高い。反対に,外因的な報酬,罰則,および評価によって統制しようとする試みは,一般的に裏目に出て,質の低い動機と成果を導く。そのため内発的動機が,動機の中でも特に重要とされてきた。

一方でRyan and Deci(2000)は,個人活動のほとんどが,厳密には内発的動機に駆動されていないとする。例えば教育現場において,教員が生徒にして欲しいことの多くは,本質的に面白くないため,生徒は外発的動機により行動する。そこで,生徒の自律性を支援すれば外発的動機は内発的動機に近づくという。自律性が高まれば,個人がその活動の重要性を認識し,自分自身のものとして受け入れる状態になるからである(例:書く仕事に就くことが将来の目標と認識する個人は,スペリングの暗記に意味を感じ,自発的に行うようになる)。

本稿では,自律性の高い外発的動機を,内在型外発的動機と呼ぶ(Füller, 2010; von Krogh et al., 2012)。内在型外発的動機を強化する要因は,他者からの承認,自我,活動に対する価値,自ら決めた目標などがある。これらが,個人の利益や,個人の価値に一致すればするほど,努力することが楽しくなり,やっていることに満足し,目標を達成しやすくなるとされる。また,内在型外発的動機だけでなく内発的動機も,個人の自律性を支援することで強化できる(Ryan & Deci, 2020)。

共創コミュニティに関する既存研究は,上で示したフレームワーク(内発的動機,外発的動機,内在型外発的動機)をベースにユーザー動機の整理が行われた(Füller, 2010)。本稿でもこの分類に沿い既存研究を概観する。なお,先行研究では調査対象のユーザーをひとくくりにして分析したものが多いが,近年は,ユーザーを参加段階で分類する研究が出てきている。よって本稿では,ユーザーの参加動機の時間的変化という視点で,既存研究を3つに整理する。第1は,参加段階を考慮しないで動機を分析した論文を「時間概念なし参加動機」とし,第2は共創に参加したばかりの新参ユーザーの動機に関する論文を「初期参加動機」,第3は継続的に参加するユーザー動機を探索した論文を「継続参加動機」とする。

III. 時間概念なし参加動機

この章では,ユーザーの共創コミュニティ参加段階を考慮しないで動機を探索した論文を,内発的動機,外発的動機,内在型外発的動機に分けてレビューする。

1. 内発的動機

内発的動機として,楽しい,好奇心などが確認されている(Antikainen, Mäkipäa, & Ahonen, 2010; Füller, 2010; Roberts, Hughes, & Kerbo, 2014)。ユーザーが共創に参加する最も強い動機は,内発的動機であるとも示された(Fernandes & Remelhe, 2016)。Füller(2010)は,ユーザーを内発的興味型・好奇心駆動型・報酬志向型・ニーズ駆動型の4タイプに分類した上で,動機を探った。内発的動機を持つと言えるのは前者2タイプで,内発的興味型はイノベーション活動に関連するすべてに意欲を示し,好奇心駆動型は共創活動に時間を使うことを厭わない傾向が見られた。自己決定理論において,内発的動機を持つユーザーは外的な報酬がなくとも意欲的に活動するとされたが(Ryan & Deci, 2020),共創参加ユーザーも同様の傾向が見られたと言える。

2. 外発的動機

外発的動機は,金銭的報酬,表彰,仕事の獲得,既存製品の不満解消目的で生じるとされる(Antikainen et al., 2010; Brabham, 2010; Fernandes & Remelhe, 2016; Füller, 2010; Muhdi & Boutellier, 2011)。中でも,金銭的報酬は強い参加動機となる(Brabham, 2010; Füller, 2010; Muhdi & Boutellier, 2011)。Threadlessにおいて,ユーザーは投稿したTシャツのデザインが採用されると,現金2,000ドルとThreadlessのギフト券500ドルを受け取れるため,金銭的報酬は主要な参加動機と見出された(Brabham, 2010)。ただし,金銭的報酬の他に,内在型外発的動機であるスキルアップ,仕事を得る機会,コミュニティへの愛,コミュニティへの熱中も動機として存在し,ユーザーはこれら複数を検討して参加を決めていた。

参加者が異なる共創コミュニティにおいても,金銭的報酬の影響が確認されている(Muhdi & Boutellier, 2011)。企業内の共創コミュニティと,仲介業者の共創コミュニティに参加するユーザーでは,前者は学習動機が強く,後者は楽しみと同時に,金銭的報酬も動機を強化していた。仲介業者の共創コミュニティは,通常,共創に関心のある人なら誰でも利用できるが,企業内の共創コミュニティは,会社が主催者となり,従業員が貢献者となる。この前提条件が,参加者の動機に影響を与えていると述べられた。

既存製品への不満解消も外発的動機になる(Füller, 2010)。ただし,製品の問題解決を望むユーザー(ニーズ駆動型)は,特定の製品カテゴリーに関心があり,興味の対象だけに貢献する傾向があると示唆された。

3. 内在型外発的動機

内在型外発的動機としては,特に,企業からの認知や,企業に影響を与えられることがユーザーの強い参加動機になると知られている(Jeppesen & Frederiksen, 2006; Muhdi & Boutellier, 2011; Roberts et al., 2014)。ユーザーにとって企業との共創は,自分のアイデアを企業の開発者,従業員に気づいてもらえる機会となる。開発者や従業員と直接やり取りすることも期待でき,これに魅力を感じて参加を決めるという。アイデアが採用されれば,それは企業から承認されたと受け止められ,同時にユーザーの能力を共創コミュニティ内に示すことにもなる(Jeppesen & Frederiksen, 2006)。企業からの認知が参加を後押しする現象は,ユーザーのみで構成されるコミュニティにはない,企業が関わる共創コミュニティの特徴と言えるだろう(Roberts et al., 2014)。

IV. 初期参加動機

時間概念なし参加動機の研究に対して,近年,ユーザーの参加段階の動機に焦点をあてた研究が登場してきた。まず,本章では,共創コミュニティに未参加のユーザーが,新たに共創に参加する初期参加動機を探索した論文を概観する。

1. 内発的動機

初期参加動機においても,時間概念なし参加動機研究と同様に,楽しいという内発的動機が確認されている(Mandolfo, Chen, & Noci, 2020; Zare, Bettiga, & Lamberti, 2019; Zheng, Li, & Hou, 2011)。製品カテゴリーによって動機は異なるのか調べた研究では,ハイテク製品(モバイルアプリ),ハイタッチ製品(Tシャツ)共に内発的動機が示されている(Mandolfo et al., 2020)。アイデアコンテストの参加動機も,内発的動機が強く影響していた(Zheng et al., 2011)。なお,Zheng et al.(2011)は,コンテスト参加者の内発的動機を強化する要素として,コンテストの自律性と多様性を指摘する。自律性とは,コンテストの参加ユーザーに投稿アイデアの検証やとりまとめの過程で,自由な采配をどの程度与えるかを指す。自律性が高ければ,ユーザーにとってはより意味のあるタスクとなり,責任感を誘発すると考えられている。多様性とは,多くの異なる作業や手順が含まれているタスクであり,多様であればあるほど,ユーザーにとってより楽しく,興味深いものになる可能性が高い。コンテストでも,ユーザーの裁量が大きく,多様なものであるほど,内発的動機を強くし参加を後押しすると示唆された。

Mandolfo et al.(2020)は,参加意欲を抑制する抑制要因を,経済的障害(時間,学習努力),非経済的障害(失敗リスク,適応努力など)の2つに設定し,参加意欲への影響も調査している。製品カテゴリーでは,ハイテク製品の共創参加で2つの抑制要因が有意となった。一方,ハイタッチ製品では,抑制要因は有意でなかった。ハイテク製品で抑制要因が示されたのは,共創に参加した場合,学習努力が求められるためであり,ハイタッチ製品はハイテク製品より求められる学習努力が少ないため抑制要因の影響が見られなかったと推測されている。

2. 外発的動機

初期参加動機においても,金銭的報酬の有用性が指摘されている(Mandolfo et al., 2020; Zare et al., 2019)。ユーザーを,品質重視,買い物好き,商品情報に精通するマーケットメイブンに分類した調査にて,マーケットメイブンは他のユーザーに比べて金銭的報酬動機が有意に高い結果になったと示されている(Mandolfo et al., 2020)。ユーザーをイノベーター,マーケットメイブン,創発的特性を持つユーザー,テクノロジー愛好家の4タイプに分類した調査では,イノベーター以外は,総じて金銭的報酬が参加動機であったとされる(Zare et al., 2019)。しかし,Zheng et al.(2011)は,コンテストの参加ユーザー調査で外発的動機(金銭的報酬)が参加意欲に関連していなかったとした。

3. 内在型外発的動機

時間概念なしでも確認された社会的評判,学び,社交に加えて,初期参加動機においては利他主義,評判などが内在型外発的動機として示されている(Bettiga, Lamberti, & Noci, 2018; Zare et al., 2019; Zheng et al., 2011)。社会的評判と,利他主義では,利他主義の方が動機を強化してた(Bettiga et al., 2018)。Zheng et al.(2011)は,コンテストにおいて,参加者からの認知が参加意欲につながっているとした。しかし,内在型外発的動機より内発的動機の方がより参加意欲を強化していた。

V. 継続参加動機

本章では,共創コミュニティに継続参加する動機を調査対象とした論文をレビューする。

1. 内発的動機

時間概念なし,初期参加でも確認された楽しいの他に,継続参加動機では信条,親近感などが内発的動機であると示唆された(Paulini, Maher, & Murty, 2014; Seidel & Langner, 2015)。

2. 外発的動機

継続参加動機における外発的動機は,金銭的報酬,仕事の獲得が動機であり,これは時間概念なし,初期参加動機と大きくは変わらない(Hofstetter, Zhang, & Herrmann, 2018; Paulini et al., 2014; Seidel & Langner, 2015)。ただし,継続参加動機に関する既存研究では,金銭的報酬を出すタイミングについて議論されている。例えばコンテストにおいては,最初に参加したコンテストで金銭的報酬を受け取ると,内発的動機まで刺激され,その後のコンテストにも継続参加する可能性が高くなるだけでなく,クリエイティブな努力も増加することが示唆されている(Hofstetter et al., 2018)。よって,一人の優勝者だけに賞金を用意するのではなく,複数のユーザーが賞金を受け取れるような設計が望ましいと提案する。継続して参加するユーザーは,その時々の状況で動機を再設定するため,主催者はユーザーに対し予期せぬ報酬を出すことで,継続参加動機を促進する可能性があることも示唆されている(Paulini et al., 2014)。

3. 内在型外発的動機

時間概念なし動機,初期参加動機と同じく学習,社交,認知が,継続参加動機のみで互恵,個人使用目的,挑戦が動機として確認されている(Paulini et al., 2014; Seidel & Langner, 2015)。共創コミュニティに継続参加するユーザーの動機は,初期参加から変化すると示唆された(Paulini et al., 2014; Seidel & Langner, 2015)。米国Local Motorsが主催した共創コミュニティでは,3年間参加する古参メンバーが,初期参加の動機は金銭的報酬であったこと(3年間で約1万5,000ドルを獲得),しかし継続して参加する理由は学習動機であると述べた(Seidel & Langner, 2015)。共創による開発対象の複雑性が高いプロジェクト(例:特定のスキルが求められる3Dデザイン)は,参加者の学習意欲を強化していたため,複雑性の高低が異なる多様なプロジェクトを用意することが,ユーザーの継続参加につながると推測した。

ユーザーからのアイデアを商品化していたメーカーQuirkyの調査では,参加から1ヶ月未満の新規会員と6ヶ月以上の古参会員が,1週間あたりのサイト利用時間が長く,活動に熱心であった(Paulini et al., 2014)。また,古参会員は挑戦と認知が参加動機であった。参加から1~6ヶ月の間に熱意が低下するユーザーがいたため,継続参加には,チャレンジ性のあるプロジェクトや認知につながる交流の機会を用意するなど,複数の仕組みづくりが重要と示した。

VI. 研究課題

本章では,共創コミュニティへのユーザー参加動機のレビューを通して明らかとなった将来の研究課題を説明する。

第1に,金銭的報酬の効果に相違が存在する。参加者の多くは金銭的報酬ではなく内発的動機により行動していたという指摘がある一方で,時間概念なしで調べた研究で,仲介業者主催の共創では,金銭的報酬が有効と示唆されている(Muhdi & Boutellier, 2011)。初期参加動機において,特定のユーザーは金銭的報酬に動機づけられていた(Mandolfo et al., 2020; Zare et al., 2019)。一方でコンテストでは金銭的報酬は強い参加動機ではなかった(Zheng et al., 2011)。継続参加動機では,金銭的報酬の数や,獲得タイミングが考察されていた。金銭的報酬の影響について理解を一層深めることは,実務にとっても有益であり,さらなる分析が求められる。

第2に,継続参加動機においては,未探索の部分が多い(von Krogh et al., 2012; Wu & Gong, 2020)。時間概念なし,初期参加動機の研究では,個人特性の影響(Füller, 2010; Mandolfo et al., 2020; Zare et al., 2019),コミュニティタイプによる違い(Muhdi & Boutellier, 2011),製品カテゴリーの影響(Mandolfo et al., 2020)など検証されてきたが,継続参加動機では残された課題となっている。Paulini et al.(2014)は,ユーザーの参加時期の長短で動機が異なるかを比較しているが,サンプル数が少なく統計的に検証されておらず,今後の研究が必要とされる。なお関連領域では,Wu and Gong(2020)がマイクロタスクに関するクラウドソーシング・コミュニティの継続参加動機を探索しており,個人は,快楽的・幸福(eudemonic)体験と,認知・評判・フィードバックなどを得て継続参加していたが,金銭的報酬の影響は見られなかったと示唆している。これら既存研究を踏まえ,共創コミュニティにて,ユーザーの継続参加動機のさらなる探究と理解が望まれる。

最後に,参加意欲を抑制する,抑制要因の研究は限られている(Mandolfo et al., 2020; Zare et al., 2019)。Mandolfo et al.(2020)は,経済的障害,非経済的障害の2つ抑制要因は,ハイテク製品の共創において影響が見られたとする。Zare et al.(2019)は,時間的コストと,信頼を失いかねないリスクの2つの抑制要因を調査し,一部のユーザー(創発性タイプ)のみ時間的コストが参加意欲を抑制すると示した。この2つの研究は,継続参加は考慮していない。共創参加は,ユーザーがメリットとコストを考慮し意識的に選択するため,何が参加の主要な推進要因であり,何が最大の抑制要因かを特定する調査が必要とされる(Hoyer et al., 2010)。抑制要因を知ることは,継続参加せずに離脱するユーザーの引き留め策にもつながるだろう。

VII. おわりに

本稿は,共創コミュニティのユーザー参加動機に関する既存研究を,ユーザーの参加段階に応じて時間概念なし,初期参加動機,継続参加動機の3つに分類し,自己決定理論に沿って整理した(表1)。レビューの結果,参加段階に応じてユーザーの参加動機が異なることを説明した。その上で,将来の研究課題として継続参加動機のさらなる理解が必要だと指摘した。

表1

ユーザーが企業との共創に参加する動機についての主な既存研究

本稿の理論的貢献としては,第1に,学生や従業員の動機に関する基礎理論である自己決定理論のフレームワーク(Deci & Ryan, 2002)を基に,Füller(2010)が示した動機の分類,すなわち内発的動機,外発的動機,内在型外発的動機に従って,既存研究における共創コミュニティへのユーザー参加動機を整理できることを提示した点である。こうした発見は,共創コミュニティへのユーザー参加動機に関する研究の基盤となり,今後の研究の発展に貢献する。

第2に,既存研究を時間概念なし,初期参加動機,継続参加動機の3つの参加段階に分けて分類した点である。これにより,参加段階で異なる動機があることを確認できた。内発的動機の楽しいや,外発的動機の金銭的報酬はどの段階でも認められたが,継続参加動機では内発的動機に信条や信念の存在が指摘されている。内在型外発的動機でも,継続参加では互恵や個人使用目的が動機として認められていた。こうした個人の動機を参加段階で分けて理解することは,自己決定理論に対しても貢献があるだろう。参加段階ごとに学生や従業員の動機を整理することは,学習や仕事の意欲強化だけでなく,意欲の維持継続にむけた動機醸成の理解につながるからである。

本稿の実践的貢献としては,共創コミュニティの参加ユーザー獲得への示唆となる点である。ユーザーはアイデア創出の源であり,共創の成功は市場での優位性につながると確認されているため,今後も共創コミュニティを新製品開発に取り入れる企業は増えると予想される。初期参加,継続参加と,参加段階を考慮してユーザーの動機を理解することは,企業が共創コミュニティ参加ユーザーを確保し,共創成果を確実にするために必要と考えられ,益々の進展が望まれる。本稿は,共創コミュニティを実践する企業に対して大きな貢献となるであろう。

謝辞

執筆にあたり,法政大学・西川英彦先生より,懇切丁寧なご指導を頂きました。心より感謝申し上げます。

田中 祥子(たなか しょうこ)

法政大学大学院 経営学研究科 博士後期課程。修士(経営学)。

2020年1月まで日経BP社にて雑誌『日経WOMAN』編集委員などを担当。

References
 
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