Quarterly Journal of Marketing
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Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Current Status and Future Issues in Research on the Vividness Effect in Communication
Tingting Zhang
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2021 Volume 41 Issue 1 Pages 90-97

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Abstract

企業は消費者にメッセージを発信するとき,消費者の注意を引き付け,さらにメッセージを精緻に処理してもらうために,多彩な言葉,ビデオ,アニメーション,3Dなどの手段を利用している。これらのビビッド手段の利用によって,消費者行動にポジティブな影響を及ぼすと信じられている。しかし,ビビッドメッセージは常に消費者行動にポジティブな影響を及ぼすわけではない。そこで,本稿では,ビビッドネス効果(vividness effect)に関する既存研究を,(1)ビビッドネス効果の定義と分類,(2)ビビッドネス効果の有効性に関する研究,(3)ビビッドネス効果を有効とする媒介変数,(4)ビビッドネス効果の有効性を調整する要因という4つに分けて,レビューを実施する。また,ビビッドネス効果研究の発展のため,今後の研究課題として,(1)多感覚マーケティングにおけるビビッドネス効果に関する研究課題,(2)複数のビビッド要素の組み合わせによるビビッドネス効果に関する研究課題を提示す。

Translated Abstract

When sending messages to consumers, companies prefer to use colorful words, videos, animations, 3D and other means to attract attention, and consumers will further elaborate on the message. It is believed that use of these vivid approaches has a positive impact on consumer behavior, but vivid messages do not always have this intended impact. This paper describes prior studies of the vividness effect from four perspectives: (1) definition and classification of the vividness effect, (2) the effectiveness of vividness, (3) factors that mediate the vividness effect, and (4) factors that diminish the vividness effect. In addition, we propose two future research areas on the vividness effect (1) in multisensory marketing and (2) using two combined vivid elements.

I. はじめに

マーケターは広告などのメッセージを作成するとき,様々な方法を利用して,消費者の注意を引き付けようとする。例えば,製品の詳細な情報を提供し(Zhao, Dahl, & Hoeffler, 2014),多彩な言葉で製品の特性について説明し(Frey & Eagly, 1993),ビデオとアニメーションを利用すること(Roggeveen, Grewal, & Townsend, 2015)などが挙げられる。これらのビビッド情報は消費者に情報の内容をしっかり覚えさせて,消費者の製品に関する情報の精緻化した処理を喚起する(Nisbett & Ross, 1980)。さらにそれらの製品に対してポジティブな態度を形成すると信じられている(Mathews, 1994)。ビビッド情報はオフライン・マーケティングだけでなく,IT技術の発展でオンライン・マーケティングにも広く使われている。

しかし,マーケターは常に彼らが欲しいものを得るわけではない。これまでの研究において必ずしもビビッドメッセージの有効性を支持する十分な証拠は得られていない。いくつかの研究者は,ノービビッドメッセージと比較して,ビビッドメッセージの影響はノービビッドのものと違いがない(Frey & Eagly, 1993; Taylor & Thompson, 1982),あるいはビビッドメッセージが逆にその説得力を損なうことを示している(Smith & Shaffer, 2000)。

近年のビビッドネス効果における対立点もある実証結果を,体系的に検討しようとするレビュー論文は存在しない。そのため,本稿は,マーケティング・コミュニケーションにおけるビビッドメッセージの効果に注目し,(1)ビビッドネス効果の定義と分類,(2)ビビッドネス効果の有効性に関する研究,(3)ビビッドネス効果を有効とする媒介変数,(4)ビビッドネスの有効性を調整する要因を整理し,検討したうえで,今後の研究課題を提示する。

II. ビビッドネス効果の概要

ビビッドネス効果は社会的判断で使う利用可能性ヒューリスティックスを偏らせる要因として,提起された。Nisbett and Ross(1980)はビビッドネスを,情報に注意を引き付けてイメージに訴える特性として捉えている。ビビッド情報は,情報に対する感情的に関心を引き,具体的かつイメージを喚起し,感覚的・時間的・空間的に近接している(Nisbett & Ross, 1980, p. 45)。近年,ビビッドネス効果は心理学,教育,コミュニケーション,消費者行動分野で広く研究されている(Collins, Taylor, & Wood, 1988)。

ビビッドネスの効果が生まれる要因としては以下の4つが指摘されてきた。まず第1に,ビビッド情報は,ノービビッド情報より多くコード化することができる(Nisbett & Ross, 1980)。したがって,消費者が社会的判断を行うとき,記憶されて,利用できるビビッド情報のボリュームは大きい。第2に,ノービビッドメッセージよりもビビッドなものを思い出す方が簡単であるため,消費者判断はその影響を受ける(Trendel, Mazodier, & Vohs, 2018)。第3に,消費者はエンコードされたビビッド情報によって,イメージを形成することができる。第4に,ビビッド情報は,より感情的な関与を誘発し,興味深い判断に影響を与える。感情に刺激的な情報は,ある程度人々が情報から形成したイメージに影響を及ぼす(Alter & Balcetis, 2011)。

ビビッドメッセージが消費者の判断に影響を与える方法について,Taylor and Thompson(1982)のレビュー論文では,具体的な言語の使用,画像化,ビデオテープ化された情報,個人に関連する直接的な経験などが挙げられた。しかし,彼らの論文では,ビビッド情報の効果を検証したとき,写真やビデオという2つのビビッド手段に関する研究しかレビューの対象となっていない。本稿は他のビビッド手段を含めるメッセージに関する既存研究を整理し,ビビッドメッセージを2つに分類する(表1)。

表1

ビビッドメッセージの分類1)

出典:筆者作成

1つ目はメッセージのコンテンツによって,ビビッドネス効果を生み出すメッセージである。例えば,具体的な言語,刺激物に関する詳細な記述などを通じて,消費者行動に影響を与えることが挙げられる。2つ目はビビッド要素を用いる提示フォーマットによって,ビビッドネス効果を生み出すメッセージである。例えば,画像,ビデオ,アニメーション,カラフルな絵などのような視覚知覚で注意を引き付けるものである。

III. ビビッドネス効果の有効性

マーケターが無条件にビビッドネス効果を信じるかどうかにかかわらず,学術研究におけるビビッドネス効果の理論と実証の両面からの検討の結果は複雑である。ビビッドメッセージは消費者行動にポジティブに影響することを検証した研究もあれば,効果がない,あるいはネガティブに影響することを検証した研究もある。本章では,前章で述べたビビッドメッセージの2つの類型に分けて,既存研究を整理していく(表2)。

表2

本章でレビューした論文のまとめ

出典:筆者作成

1. コンテンツによる消費者行動に及ぼす影響

まず,既存研究では,コンテンツ自体における言葉や画像の具体性の操作によって,ビビッドメッセージの効果が検証された。

Burns et al.(1993)は自動車の広告における言葉の具体性を操作して,実験を行なった。例えば,具体的コンテンツでは,「…エンジンを点火するだけである。128馬力のエンジンが震えている。」と表現した。それに対して,抽象的コンテンツでは,「…エンジンをかけるだけである。128馬力のエンジンが反応する。」と表現した。分析の結果,具体的コンテンツは実験参加者の広告に対する態度,自動車ブランドに対する態度,自動車の購買意向を高めることを実証した。

Babin and Burns(1997)はさらに架空のブランド自動車の画像広告を用いて,画像の具体性によるビビッドネス効果を検証した。この研究では,「自動車だと認識できる自動車全体を表す写真」と「認識できないダッシュボードの一部を表す写真」を用いることで,ビビッド条件を操作した。分析の結果,具体的な写真コンテンツ,つまり前者が広告に対する態度,自動車ブランドに対する態度を高めることを実証した。

しかし,ビビッドコンテンツが消費者判断に対する説得を損なう効果も指摘されてきた。Taylor and Thompson(1982)のレビュー研究では,ビビッドネス効果が個人の判断にポジティブな影響を与える実証研究がある一方で,ビビッドネスは消費者行動に影響を与えない結果やネガティブに影響する結果もあることが指摘されている。

例えば,Frey and Eagly(1993)では,具体的な言葉は抽象的な言葉に比べて,説得力が高くないことを提示された。具体的には,注意を低いレベルで制約するとき,抽象的な言葉は具体的な言葉に比較して,説得力が高い。それに対して,実験参加者にメッセージに注意を払うように指示するとき,具体的な言葉は個人の判断に対して,より説得性がない。

2. ビビッドフォーマットによる消費者行動に及ぼす影響

メッセージコンテンツに関する既存研究に比べて,現在の研究者の多くはメッセージフォーマットのビビッドネス効果に関する研究に注力している。特に,テクノロジー環境において,オーディオ,ビデオ,アニメーションなどの様々なマルチメディア技術は,感覚的に豊かな媒体環境を作り出す能力がある(Hong, Thong, & Tam, 2004; Steuer, 1992)。そのため,これらの手段を利用した場合の効果について,オンラインとオフラインにおけるコミュニケーションの両方で議論がなされている。

過去の研究では,広告の動的な提示形式は,静的なものよりビビッドであるとわかっている(Steuer, 1992)。Roggeveen et al.(2015)は,動的(具体的には,ビデオとスライド)提示形式と静的(具体的には,静止写真)提示形式の商品情報を比較して,動的提示形式の情報が消費者の嗜好により大きく影響することを実証した。この研究では,動的な視覚形式を使用した製品やサービスの提示が,消費者の快楽的選択に対する選好とそれらの選択に対する支払い意向をそれぞれ高めることを示した。同研究は,動的な提示形式が,経験財と探索財が単独の場合と組み合わせる場合の両方において有効になることを実証し,さらに継続した選択にも影響することを実証した。

しかし,Hong et al.(2004)は,動的広告が消費者行動に影響しないことを指摘した。この研究は,オンラインショップにおいて,フラッシュ・アニメーションの消費者の情報知覚と消費者行動に対する影響を検討した。その結果,フラッシュ・アニメーションは消費者の注意を引き付けるが,彼らの探していない非ターゲット商品はフラッシュで表すと,消費者のそのオンラインショップへの利用意向は低くなることを示した。

Toet et al.(2019)は,食品を対象として,「動的デジタルフォトフレーム」と「静的画像」が消費者の食欲,食品に対する感情におけるビビッドネス効果を実証した。その結果,静的画像と比べて,前者は消費者の食欲に及ぼす影響が小さく,消費者の食品に対する「好き」という感情に影響を与えないことを示した。

Choi and Taylor(2014)はオンラインショップにおける製品の展示形式の効果を検討した。同研究では,3D仮想広告をビビッドフォーマットとして,2D写真をノービビッドフォーマットとして捉えた。研究結果として,3D広告の有効性は2D写真広告に比べて高いことを提示した。具体的には,ジオメトリック商品(外観を見るだけで,商品の形,大きさなどを判断できる商品のことであり,例えば,本,腕時計など)において,3D広告の有効性は2D写真広告より説得力が高い。さらに,3D広告の有効性は心的イメージを媒介して,消費者のオンラインショップに対する態度,商品ブランドに対する態度,購買意向,及びオンラインショップへの再訪問意向に影響する。

このChoi and Taylor(2014)では情報型広告(informational advertising),つまり,消費者に有益な情報を提供する広告における3D広告のビビッドネス効果しか検証しなかった。そこで,Van Kerrebroeck et al.(2017)はビビッド性と存在感に対して,より高い認識を生成する変換型広告(transformational advertising)におけるビビッドネス効果を検証している。つまり商品を使用した際の経験やイメージを伝える広告の文脈における仮想現実(VR),3D形式が消費者行動にどのような影響を与えるのかの検証である。研究の結果,仮想現実(VR),3D形式は2Dビデオよりビビッドネスだと認識され,消費者の広告に対する態度,製品ブランドに対する態度及び消費者の購買意向にポジティブに影響することが実証された。

IV. ビビッドネス効果が消費者行動に影響する媒介変数:心的イメージ(mental imagery)

ビビッドネス効果のメカニズムを検証する既存研究では,主に心的イメージ(mental imagery)を媒介変数として捉えて,その役割が検証されてきた。心的イメージとは,感覚や知覚の経験が,思考,感情,記憶の観点から,ワーキングメモリで表現される過程を反映するものである(MacInnis & Price, 1987)。

Trendel et al.(2018)では2),食洗機の誇大広告への批判記事を素材に,テキスト(ノービビッド情報),写真(ビビッド情報),イメージを喚起するテキスト(ビビッド情報)が消費者の潜在的な態度に及ぼす影響が検証された。この研究で,まず実験参加者は消費者評議会が食洗機の誇大広告を批判する記事を読み,その食洗機に対する潜在的態度を形成した。そして,心的イメージの感情価(valence)を報告した。研究の結果,テキストは,写真とイメージを喚起するテキストよりも,記事によって形成される潜在的な態度に弱く影響することが実証された。さらに,この影響は,心的イメージの感情価に媒介された。

さらに,Flavián et al.(2017)はオンラインにおける商品のプロモーションにおいて,ビデオの有無が消費者の態度に影響することを検証した。この研究の中で,消費者は,商品展示にプロモーションビデオ及びデモビデオを利用する条件において,商品に対するイメージが喚起されやすいことや,その喚起しやすさが消費者の商品に対する好意的な態度,購買意向を高めている事が確認された。

V. ビビッドネス効果の有効性を調整する要因

既存研究では,消費者に対してビビッドネス効果がポジティブあるいはネガティブどちらに影響するかが常に一致してなかったため,研究者たちはその決定要因を探っている。

ビビッドネス効果については,消費者が判断を行うとき,ビビッド要素が覚えやすく,常にカラフルかつ生き生きと知覚され,より説得力が増やすいためだと考えられてきた(Taylor & Wood, 1983)。しかし,いわゆるビビッドネス効果が単なる錯覚である可能性の指摘もある(Collins et al., 1988)。Taylor and Thompson(1982)のレビューは,多数の既存研究がビビッドネス効果を自明の前提としているが,他の効果が紛れ込んでいる可能性があることを指摘している。

さらに研究者たちは,ビビッドメッセージが消費者判断に対する説得を損なう可能性を説明するための理論的な検討にも取り組んでいる。以下では,ビビッドネス効果に影響する要因である(1)ビビッド要素とメッセージコンテンツの一致,(2)注意資源にわけて,これらの研究を紹介していく。

1. 一致性要因(Congruency)

まず,情報処理におけるイメージの妥当性はビビッドメッセージの効果に影響する可能性がある。ビビッド要素がメッセージの主張から外れる,あるいは無関係な精緻化イメージを引き出す可能性もある。そのような無関係なイメージの処理は,メッセージ自体を精緻に処理することを妨害して,メッセージの説得力を弱める。(Frey & Eagly, 1993)。

Smith and Shaffer(2000)は,ビビッド要素とメッセージ主張との一致性の観点から,ビビッドネスであることが情報の説得力を高めたり,弱めたりする可能性があることを提示した。同研究は,情報のビビッド提示形式がノービビッドのものよりも注目されることで,消費者がそのような情報を処理するためにより高く動機付けられることを示した。ビビッド要素から形成した高度に一致したイメージは関連情報の処理を最優先事項として認識させるため,メッセージ処理の促進につながり,消費者はメッセージの内容をより精緻に処理しようとする。したがって,ビビッドメッセージの説得力が高まる。これに対して,ビビッド要素とメッセージのテーマが一致していない場合は,ビビッドネス効果が損なわれる。

2. 注意資源(Attentional Resource)の役割

ビビッドネスのネガティブな影響についてはさらに,メッセージのビビッドフォーマットは消費者のワーキングメモリーと注意資源の容量(capacity)を占めるため,さらにメッセージの主張の処理を妨げる可能性があることが指摘されている(Frey & Eagly, 1993)。

注意資源には2つの特性がある。まず,人間の注意資源の容量には限界がある(Moray, 1967)。また,注意資源は分割的であり,複数の対象に分割して処理している(Kahneman, 1973)。つまり,限られた注意資源を用いて多任務を処理するとき,一つの任務に配分する注意が多ければ,ほかの任務に配分できる量が少なくなる。

消費者は注意資源を用いて,刺激物の知覚,エンコード,理解,及び記憶活動を行う(Lang, 2006)。注意資源の容量は制限されているが,消費者は無意識的に刺激物を知覚する活動を実施する(Lavie & Tsal, 1994)。この視点によれば,ビビッドフォーマットがいくつかのポイントから,メッセージの説得力に影響することが考えられる。

まず,ビビッドフォーマットの知覚活動は他の活動の実施に必要な注意資源を奪い,消費者のメッセージを完全に受信したりエンコードしたりすることを妨害する可能性がある。(Frey & Eagly, 1993)。また,消費者が受け取ったメッセージの量は少なくなり,メッセージ内容を理解したり,記憶したりするために必要な受信量が不足するため,ビビッドメッセージの説得力が小さくなる可能性がある(Frey & Eagly, 1993)。

メッセージの知覚活動と内容の理解活動は異なる心理的プロセス(psychological process)でありながら,共通の注意資源を使用して実施される(Lavie & Tsal, 1994)。消費者は,判断におけるメッセージの内容を理解するとき,ビビッドフォーマットを知覚することの妨害を抑制するために限られた注意資源を使用しなければならない。そのため,消費者が受け取ったメッセージ内容を精緻に処理するための注意資源は少なくなると考えられる(Hong et al., 2004)。ビビッドフォーマットは,消費者の認知的な精緻化とメッセージの主張に対する評価を妨げ(Frey & Eagly, 1993),メッセージの説得力は低くなる可能性がある。

VI. おわりに

これまでに,ビビッドネスが消費者行動に与える影響について,様々な既存研究を整理した。さらに,ビビッドネス効果を促進するメカニズムである「心的イメージ」とその効果を妨害する要因の「一致性」と「注意資源」についても検討した。以上の検討を踏まえた上で,ビビッドネス効果に関する今後の課題を提示する。

1. 多感覚マーケティングにおけるビビッドネス効果に関する研究課題

企業は主に視覚的情報を発信している。さらに,ビビッドネスは視覚的イメージに関連する支配的要因だと考えられている(Burns et al., 1993; Ellen & Bone, 1991)。そのため,広告研究や消費者行動研究の分野において,ビビッドネス効果を検討するときは,視覚情報が消費者行動に与える影響が議論されることが多い。

しかし,心的イメージを喚起できるのは視覚に限らない。Andrade, May, Deeprose, Baugh, and Ganis(2014)は視覚的イメージが最も研究されているが,心的イメージは他の感覚モダリティからも喚起されることを主張した。心的イメージ処理は,嗅覚,味覚,視覚,触覚,聴覚を通じて,形成したアイデアや感情,さらに記憶の具体的な表現に関連する(MacInnis & Price, 1987)。

近年では,多感覚マーケティングが実務上と学術研究の双方で盛んになっている。実店舗において,五感から豊富なイメージを形成させる環境を作成することはもちろん,技術を利用することで,ウェブ環境で五感に多様な刺激を与えることもできる(Petit, Velasco, & Spence, 2019)。例えば,3D,VR技術で視覚に(Choi & Taylor, 2014; van Kerrebroeck et al., 2017),スマホ,タブレットの振動接触で触覚に(Wang, Keh, Zhao, & Ai, 2020),イヤフォン,ヘッドフォンで聴覚に,多感覚設備の匂いインプットで嗅覚に(Petit et al., 2019)刺激することができる。

したがって今後の研究においては,オフラインとオンライン・マーケティングにおける多感覚モダリティの利用によるビビッドネス効果が消費者行動に与える影響,さらに,その基礎となる複合的な認知プロセスに関する検討が必要となると考えられる。

2. 複数のビビッド要素の組み合わせによるビビッドネス効果に関する研究課題

既存研究では,様々なビビッド要素の操作によって,その消費者行動に与えるポジティブな影響とネガティブな影響のどちらかを示していた。多くの研究者は,視覚イメージに限っても複数あるビビッド要素の複合効果を考慮するというよりも,主に単一のビビッド要素の効果を示しているにすぎない。しかし実務上は,複数のビビッド要素を組み合わせる場合が多い。例えば,オンラインショップでの商品の視覚展示などには,ビデオ,画像,多彩な言葉,及び距離の遠近などの複数のビビッド要素があるが,それらの組み合わせの効果の解明は進んでいない(Yao & Shao, 2019)。

V-2「注意資源の役割」の箇所で述べたように,注意資源は制限されており,分割的に使用される(Kahneman, 1973; Moray, 1967)。2つ以上のビビッド要素を組み合わせる展示によって,消費者はメッセージを知覚する上で,限られた注意資源を使用する必要がある。一方,認知処理の一部として,情報に対するイメージは他の知覚タスクと同じ資源を消耗する。知覚とイメージタスクの資源競合は,メッセージの精緻な処理を損ない(Unnava, Agarwal, & Haugtvedt, 1996)さらに,メッセージの説得力にも影響する可能性があると考えられる。

したがって今後の研究においては,2つ以上のビビッド要素を同時に利用する際のメッセージの説得力,さらに,注意資源の調整効果について検討する必要があると考えられる。

1)  実験におけるビビッドネスを操作する手段は多くあるため,レビューした論文で明確にビビッドネス効果に関する研究を言及されなかったとしても,Nisbett and Ross(1980)の定義に従って,ビビッドネスの操作を含む研究をレビューしたことがある。

2)  この研究では明確に写真やイメージを喚起するテキストをビビッドメッセージ,テキストをノービビッドメッセージとして定義した。しかし,同研究で,写真やイメージを喚起するテキストがテキストよりも,イメージを喚起しやすいことを論述したため,Nisbett and Ross(1980)の定義に従って,本稿は写真やイメージを喚起するテキストをビビッドメッセージ,テキストをノービビッドメッセージとして捉える。

張 婷婷(ちょう ていてい)

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程に在学中。修士(商学)。専攻はマーケティング論,消費者行動論。

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