Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Characteristics of Customer Satisfaction and Subscription Service Usage
Ushio Dazai
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2022 Volume 41 Issue 3 Pages 18-29

Details
Abstract

本論は近年影響力を増している,サブスクリプション・サービスにおける顧客満足の特性を知ることを目的とし,オリコン社の顧客満足度調査から利用の程度と満足度の関係を探索的に調査した研究である。利用が少ないにもかかわらず契約を続けてしまう現象などを踏まえて,利用の程度と満足との関係が線形であるか,満足度が大きく減る,もしくは増える閾値と思われる点などを調査した。その結果,日次・週次といった習慣的な利用に満足度が動く閾値があること,週1回といったラインを下回ると満足度に与える影響が大きいことなどが判明した。その他にもサービスタイプによって理想の利用にも閾値があること,長期的継続は満足に強く影響していないこと,単価と満足度が関係しないことを示し,日次・週次の習慣的利用の重要性や閾値の存在という利用の特性を明らかにした。

Translated Abstract

This paper is an exploratory study of the characteristics of customer satisfaction with subscription services. In the subscription market, there is a phenomenon where people continue to sign up for subscriptions despite low usage. In this paper, the author explored the relationship between service usage and customer satisfaction based on the data from Oricon’s customer satisfaction survey. The findings showed that there are thresholds at which satisfaction fluctuates with habitual use, i.e., daily and weekly, and that satisfaction is greatly affected when it falls below a specific line, e.g. once a week. The findings also showed that there is a threshold for ideal service usage depending on the service type, that long-term continuity does not strongly affect satisfaction, and that unit price is not related to satisfaction.

I. はじめに

近年,動画や音楽配信などのデジタル財を中心にサブスクリプション・サービス(以下サブスクリプション)が急拡大している。Netflixは2020年8月末時点で国内有料会員数が500万世帯を超え(Nikkei, 2020),ICT総研による「2020年 定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査」(ICT Research & Consulting Inc., 2020)の予測では定額音楽配信市場のうち有料サービスの利用者は1,140万人と推計されており,コロナ禍の巣ごもり消費の影響もあり,消費行動や市場動向に大きな影響を与える存在となっている。その範囲はデジタル財だけでなく物理的な商品にも拡大し,自動車,アパレル,食品など様々な分野に拡大している。

一方でこのような現状に対し,サブスクリプションの学術的理解が少なくとも我が国のマーケティング研究において大きく遅れていることが,学術における重要な問題として指摘できる。海外メジャージャーナルには論文が本論執筆の数年前の段階で立て続けに掲載(McCarthy, Fader, & Hardie, 2017; Kanuri & Andrews, 2019等)されているが,海外でもこの分野の研究不足を指摘するものはまだ多い(例えばSavary & Dhar, 2020)。しかし国内においてはさらに研究例は少なく,2020年時点の科研費研究では会計面に関する研究成果がわずかにみられる程度である。マンガやアニメ,ゲームといったデジタルでも楽しめるサブカルチャーに世界的な強みを持ち,デジタル化やデジタル・トランスフォーメーション(DX)を大きく進めようとする我が国においても,学術的理解や研究成果の蓄積が喫緊の課題と言える。

従来マーケティング研究においては「4P」に代表されるように商品や価格に重きを置き,貨幣もしくは貨幣価値との交換に注目し,交換した商品やサービスを消費することで生まれる価値,顧客満足(以下CS)や効用などを議論してきた。しかし特にデジタル財におけるサブスクリプションにおいては,近年その多くが(無制限に,もしくは上限や条件の中で)「利用し放題」といった形を含んでおり,どれだけ利用・消費するかは顧客が決められることが多い。単純に考えれば顧客は満足できるほどサブスクリプションを利用するはずであるが,ではその満足する利用の程度はどの程度か,どれくらい利用しなかったら不満になるのか,もしくは満足しなくても使い続けることがあるのか,といった顧客の行動に理解が進んでいないことが大きな課題と言える。

また,サブスクリプションはクレジットカードによる比較的少額の月次決済が多いことから,決済や支払いの痛みを意識しにくく,さらに決済と商品・サービスの消費や顧客価値が生まれてCSを感じるタイミングが時間的に大きく異なることから,従来のサービスにおける交換や消費の文脈の意味合いが異なってくると考えられる。

以上の問題意識より本論では,主にデジタル財を想定したサブスクリプションにおけるCSの特性を,利用の程度を中心としつつ,サービスタイプや決済などの点を踏まえて探索的に調べることを研究目的として議論を進める。次章以降では身近なケースを踏まえてサブスクリプションの利用の程度とCSの関係について,サービスタイプなどのCSに影響し得る要因や価格についての議論を含めて文献レビューを行い,続いてオリコン社の顧客満足度調査の分析結果から,その特性についての基本理解を進め,特性をまとめると共に今後の研究余地を議論する。

II. 文献レビュー

1. サービス利用の程度と顧客満足の関係について

現在利用者を伸ばしている定額でのデジタルコンテンツ配信サービスにおいては,しばしば「利用していないがお金を払っている」という意見が聞かれる。2020年にはNetflixが一定期間サービスを利用していない会員に対して,通知に反応がなければ自動解約とする仕組みを導入した(Nikkei MJ, 2020)ことは,この現象が無視できない範囲であることの証と言えるだろう。

利用しないサービスに対してお金を払うことは,消費者にとって完全に不要な支出となるため,その行動をとることは基本的には考えられない。既存理論のうち,多くの実績を重ねている日本版顧客満足度指数(JCSI)モデルでは,購買選択で得られた交換価値が選択満足として考えられており(Ono, 2010b),また契約型のサービスでは契約更新時にCSの重みが増すことが指摘されており(Ono, 2010a),貨幣価値の交換や契約時もしくは契約更新時に支払いの考慮や価値判断がなされるため,消費者は無駄なことはしないものと考えられる。

しかし現実では既述の通り,利用しない・利用が多くないのにお金を払う・契約を続けている,という行動が起こっており,「利用が少なくても大きな不満ではない」といった状況が考えられる。これはサービス利用と満足,もしくは支払い意識と満足ということ自体がサブスクリプションにおいては従来理論と大きく変わり得ることを示している。

一方,従来の商品やサービスは,基本的には「利用すればするほど満足」といったように,利用の程度とCSが相関すると考えられてきた。では,「利用し放題」といったサブスクリプションにおいては,CSはどこまでも向上するものなのだろうか。また,顧客が利用の程度を顧客自ら決定することができる中で,利用の程度とCSの感じ方はいかような関係になるのだろうか。

サブスクリプションにおける顧客や消費者に関する研究例としては,売上や顧客生涯価値(LTV)に関するもの(McCarthy et al., 2017等)や,サービスの継続や解約防止(リテンション)についてのもの(Ascarza et al., 2018等),契約からの離反防止や休眠顧客の再契約(Kanuri & Andrews, 2019等)など,経済的・金銭的価値や契約自体に焦点が当たったものが最も多く蓄積されている。しかしサブスクリプションにおけるCSの特徴を目的に議論した例はほとんど見られず,既存理論の拡張や特性の整理は重要な研究課題と言える。サブスクリプションによって提供される継続的なデジタル財消費におけるCSの研究不足は,Micken, Roberts, and Oliver(2020)でもFuture Researchの1番目に指摘されており,世界的にも認識されている研究課題であることがわかる。

サブスクリプションが隆盛となる以前のCSとサービスの利用程度については,引用されることの多いBolton and Lemon(1999)が,より満足している顧客はより利用の程度が高いと述べている。彼女らが参照しているDanaher and Rust(1996)でも,サービス品質の向上が利用率増加と,ポジティブなクチコミ,利益増につながることに言及している。Ram and Jung(1991)でも,頻度などを含む利用の程度はCSに影響すると述べられている。

これらの研究からは,サービス利用の程度とCSは基本的にサービス利用が先にあり,その後にその価値から満足が感じられることと,利用の程度とCSは少なくとも相関することがわかる。基本的に因果関係は原因が時系列として先に来ることが求められるため,本論でも「利用→満足」という因果を想定して議論を進めるが,サブスクリプションになった場合にその「利用→満足」という関係がどう変わるのかについては研究が進んでいない。利用とCSに総じて正の相関がみられるとしても,その関係は線形なのか非線形なのか,非線形であるならどのような形となるのか,利用の程度に順応水準や閾値はあるのか,といった点など,議論の余地が多くある。

なお,メディアに関連する研究には「利用と満足(Uses and Gratification)」(Katz, Blumler, & Gurevitch, 1974など)という,メディアの情報の受け手がどのような効用を得るかを議論する研究が蓄積されている。Kotera(2012)はKatzらの文献も参照しながら,Youtubeにおける利用と満足を探索し,効用感や利用コンテンツなど利用の中で果たしている役割を定量的に探索している。定額制の動画や音楽の配信サービスはメディアともいえるため,これらの研究を踏まえて行うことが望ましいとも考えられるが,まずサブスクリプションはメディアの視聴に限るものではないこと,本論では広く利用の程度にフォーカスするのみでその詳細には踏み込まないこと,本論ではメディア視聴とは考えにくい「オンライン英会話」も考慮をすることから,この考え方とは一線を画して議論を行う。

2. サービスタイプによる違いと価格との関連性

利用の程度だけでなく,サブスクリプションを考えた場合には,様々な要因がCSに影響することが考えられる。例えば,サービスのタイプによって継続状況が異なることが近年の研究で明らかになっている。Savary and Dhar(2020)は,サブスクリプションを顧客自身のアイデンティティに関連する(identity-relevant)サービスであるか否かに二分して継続に関する研究を行っており,そのサービスに該当するものとして言語学習やフィットネスジムのサービスを,該当しないものとしてショッピングクラブや雑誌閲読などを取り上げている。そして顧客自身のアイデンティティに関連するサービスの継続においては,Self-Concept Clarity(SCC;自己概念明確性,Campbell, 1990)が影響することを実証している。

彼女らの研究はサブスクリプションの継続にSCCという概念を用いたことが貢献のひとつであるが,継続をすることは満足の現れのひとつだとすると,サブスクリプションにおけるCSを考える際も,そのサービスタイプを考慮すべきである。例えばアイデンティティに関連するサービスは使えば使うほどCSを上げていく可能性が高い(例:受講無制限の英会話サービスは受ければ受けるほど満足する)が,そうでないサービスにおいては,利用の程度によってCSが上がりにくい,もしくはむしろ逆にCSを下げ得る(例:動画配信を「見過ぎて寝不足などの悪影響が出た」「ダラダラとみてしまった」等)ことも考えられる。

また,既存文献で議論されているCSの構造をとっても,サブスクリプションではその構造が異なることが考えられる。我が国のCS研究で頻繁に参照されるShimaguchi(1994)は,サービスにおけるCSの構造として「顧客満足のピラミッド」を提示しており,ピラミッドの基盤である本質機能(例:銀行の安全性)は,それが損なわれると不満を引き起こすが,本質機能を強化してもCSは高まらないことや,本質機能が満たされた前提で立脚する表層機能(例:銀行の窓口対応)は,強化すると満足度が高まることを説明している。

しかし動画や音楽配信,英語学習など近年のサブスクリプションは,デジタル化されたコンテンツという本質機能の利用において規模の経済を獲りに行くといった,表層機能がそもそもないかあまり考慮されないケースが多く,コンテンツそのものの追加や更新という本質機能によって競争が行われている。また,先の英会話などのアイデンティティ関連のサービスを考えれば,英会話学習という本質機能を「強化してもCSが高まらない」とは考えにくく,サブスクリプションの分野においてはこの構造自体が適さず,本質機能に関わる利用とCSを議論すべきことがわかる。

さらに,序論から言及している価格とCSとの関連も注目すべきである。Minami(2012)はサービスにおける価値や満足には,得られる便益と顧客の支払いが考慮されることを述べているが,支払いが熟慮されるのであれば前述した「使わないのにお金を払う」といった現象は起きにくい。Ohmae(2019)はサブスクリプションの価格は千円を切ることが重要で,支払っていることに気が付かないと述べているが,支払金額がひと月に支払う額として相対的に小さく見えること,さらにそれがサービス利用時とは別のクレジットカードなどの月次決済になっていることが,価格とCSの関係を弱めている可能性が高い。しかし,このサブスクリプションの支払いと満足については既存研究はほとんどなされていない。企業としては収入獲得の最重要ポイントと言える支払い面は,その知見を蓄積していくことが急務であろう。

以上の議論から,次章以降を次のように展開する。サブスクリプションにおけるCSの特性を探索するという目的に対し,オリコン社の顧客満足度調査の結果を示しながら,まずサブスクリプションの利用の程度と満足の関係を探索し,特に利用の程度と満足は線形の関係にあるのか,利用が少ない状態でも満足をするのか,利用をすればするほど満足するのか,という点をIII章2節で確認する。続く3節ではサービスタイプによって満足の特性が異なるのか,支払い金額と満足の関係はどのようになっているのか,についてのデータを示し,IV章においてその特性のまとめと,論の発展と限界を提示する。

III. 顧客満足度調査の分析

1. データ

本論では,経営科学系研究部会連合協議会主催,令和2年度データ解析コンペティションで提供されたオリコン顧客満足度調査データを利用した。当調査は顧客満足度調査ブランドの中では,2位に2倍以上の大差をつけて認知率が1位となっている,我が国の顧客満足度調査の代表と言えるものである。2016年から2020年にかけて行われた多様なジャンルの調査結果があるが,今回はサブスクリプションとみなせる「定額動画配信」と「オンライン英会話」を主に対象とするが,「マンガアプリ」の結果も補足として提示する。

まず先に定額動画配信の満足度調査について探索を行う。この調査は2017年時点と2018年時点の調査結果が存在したが,よりサービスが普及したほうが望ましいことから,2018年11月に行われた結果を用いた。対象はNetflixやHuluなどを含む20サービスであり,最も良く利用しているサービスに対して,満足度や良く見ているコンテンツなどの詳細を答える形となっている。最も利用者が多いサービスはAmazon Prime Videoであるが,Primeメンバーには送料無料や会員セール,音楽配信や電子書籍を限定的に利用できるといった多様なサービスがある。そのため利用の程度とCSの比較が難しいと考え,当該サービスの選択者を除外し,残った人数(n=2,134)を分析対象とした。

満足度は現在最もよく利用しているサービスに対して「総合的に判断してどの程度満足していますか」という項目が10段階(非常に不満=1点~非常に満足=10点)で取得されており,この項目を総合満足度と呼び,以降ではこの項目に対して利用の程度などとの関連を確認していく。総合満足度の平均は7.59,標準偏差は1.47であった。

本論における目的は広くサブスクリプションとCSの関係をみることにあるため,個別のサービスの違い,満足内容の詳細や各サービスで視聴可能なコンテンツなどの詳細については,データは存在するが,詳しく踏み込まないものとする。

概要だけを示しておくと,サービスごとの平均差は利用率上位5位の中で最も総合満足度が高いサービスと,5位の間では0.6ほどの違いが見られ,この差は統計的にも有意となっている。満足度は「解約手続きのわかりやすさ」,「特集コンテンツ」,「作品の更新頻度」など,18もの詳細項目が設けられており,既述したメディア研究における「利用と満足」はまさこうした満足する詳細に踏み込む研究であると考えられるが,本論では上記の理由から,満足の詳細分析は対象外とする。ただし,18項目をクラスター分析(K-means法)で5群に分けたところでは,単純に全項目の満足の程度のみでクラスターが分かれ,特定の項目に満足をしている群は切れなかったことは付記しておく。個別コンテンツも,サービスごとに数十~多くて百以上のコンテンツの視聴が取得されているが,満足度が高い/低いに対して例えば決定木分析を行うと,TVドラマなどの特定の個別コンテンツ視聴者の満足度が高い結果は得られる。

定額動画配信以外に満足度を議論するオンライン英会話においても,81ものサービス,「予約のしやすさ(WEBの使いやすさ,操作性)」,「レッスン費用に対する効果の実感のバランス」,「レッスン以外でのサポート体制」など28の詳細の満足度,入会時の英語のレベルなどの詳しいデータが取得されている。それらの詳細を分析する方が望ましいと思われるが,本論では概要把握を優先する。

2. 利用の程度と満足の関係・利用するほど満足は高まるか

本節では,本論のメインテーマである利用の程度と満足度の関係を見てゆくが,「利用しなくても継続する」という現象を鑑み,利用が少ない状況における満足を踏まえて探索する。定額動画配信における利用の程度は,視聴日数と1回当たりの平均視聴時間の双方で取得がなされているため,この2つの質問を利用の程度と捉え,CSとの関係を議論してゆく。

日数は「ほぼ毎日」,「週3–4日」,「週1–2日」,「2週間に1日程度」,「1か月に1日程度」,「それ以下」の6区分となっており,人数比は「ほぼ毎日」が24.5%,「週3~4日」が28.9%,「週1~2日」が31.3%と,週1日以上で約85%を占めている。利用日数ごとの平均満足度は「ほぼ毎日」から順に8.03,7.76,7.40,6.99,6.79,5.74となっており,「2週間に1日程度」で,全体平均を大きく下回っている。そもそも利用のないサービスに満足度が計測されることは無いため,頻度の少ない「2週間に1日」以下の利用頻度では利用しなくなっているとすれば,それを下回ると満足が下がると推察される。

1回当たりの平均視聴時間は,「30分未満」,「30分~1時間未満」,あとは1時間刻みで6時間までがあり,その上は6~8時間,8~10時間,それ以上,の10区分となっている。頻度としては30分~1時間(18.5%),1~2時間(40.9%),2~3時間(24.8%)の3水準で85%近くを占めている。

それでは,利用の程度と満足度との関係を確認してゆく。図1が利用日数と視聴時間ごとによる平均総合満足度の棒グラフである(満足度は4以上で表示)。利用日数が「それ(1ヶ月に1日)以下」,視聴時間が「4~5時間」以上は人数が非常に少なくなるため図の表示から除いてある。

図1

定額動画配信の利用日数と1回当たりの平均視聴時間による満足度

仮に利用の程度と満足度にきれいな正の相関がみられるとしたら,「2週間に1日程度」の箇所のように階段状になるべきであろう。しかし,それより左側の「週1~2日」より多い頻度の3つの利用日数においては,30分未満で満足度は落ちる傾向にあるものの,1回当たりの視聴時間と満足度に関連が見られない。実際に「ほぼ毎日」における視聴時間ごとの満足度のF検定は非有意(F(9, 512)=1.230, p=0.274)となり,30分未満を除くとさらにp値はあがり,非有意の度合いが強まる。「週3~4日」でも視聴時間による満足差はみられず(F(7, 608)=1.498, p=0.165;8時間以上の被験者無し),同様に30分未満を除くとよりF検定の非有意の度合いが強まる。「週1~2日」は見た目にも視聴時間の差が無いことがわかるが,F検定は当然非有意である(F(9, 659)=1.098, p=0.362)。

この結果からは,「週1日以上みていれば,1回の視聴時間が長くても満足度はあまり上がらない」という結論となる。一方,「ほぼ毎日」,「週3~4」,「週1~2」の3群ともに平均満足度は7を超えているが,3群間での満足度の差は有意(F(2, 1,804)=31.316, p<0.001)であり,より利用日数が多いほど満足度は高まっている。

満足度の平均が7.59であることや「2週間に1日」以下のそもそも回答者人数が少ないことも踏まえて結果を簡潔に述べると「視聴日数は多いほど満足度は高まるが,週1回以上,1回の平均視聴時間は30分以上みていれば,強い不満にはならない」と言える。マネジリアルな知見としては,1回の視聴時間を長くするよりも,週次での視聴習慣をさせることが重要であり,その視聴時間は30分ほどあればよい(逆に,それを下回らないようにさせたい),ということが言える。なおそもそもの人数が少ないが,1回の視聴時間が30分未満の満足度は図1からもわかるように他の水準に比べて低いことからも,「週1回未満&30分未満」に満足が大きく動く閾値(不満に変わる順応水準の下限側の閾値)があること,利用の程度と満足が線形でないことが窺える。

週1回・30分の視聴というと,毎週放送されるお気に入りのアニメなどを見ることなどが思い浮かぶが,これまでの消費者の動画コンテンツの視聴習慣・行動の程度が影響し,それに従って閾値が形成されている可能性もあるだろう。

次に,利用の程度が増えるとどこまで満足を高めるのか,という問いについて探索をする。同じく定額動画配信のデータを用いるが,ここではまず利用日数と視聴時間の違いを無くすため,「月次視聴分数」を作成した。やや恣意的だが「30分未満=5分」,「30分~1時間=30分」,「1~2時間=60分」,「10時間以上=600分」という形で,各視聴時間区分において「その分数は確実に視聴した」と考えられる下限側の分数を設定した。その上で,利用頻度が「ほぼ毎日」であれば月に毎日として30を掛け,「週3–4日」であれば週3日が4週と考えて12を掛け,「週1–2日」であれば週1日が4週と考えて4を掛け,「2週間に1日程度」であれば2を掛け,仮の月次視聴分数とした。その視聴分数はmean=約1,191分,SD=約1,827分,max=18,000分,mode=240分,median=720分,skewness=4.23という右裾の長い分布となった。

目視で切りが良いと思われた五百,一千,三千,五千(ここだけ便宜的に漢数字を用いる)でサンプルを分け,5つの月次視聴時間区分を作成して満足度の平均を算出したものが図2(左軸が棒グラフの満足度,右軸は折れ線グラフの人数)である。

図2

定額動画配信の利用日数と1回当たりの平均視聴時間による満足度

月次の分数に直すと,一千分を超えた区分から満足度はあがらなくなっており,一千分より大きい3群における満足度の差は非有意(F(2, 647)=0.67, p=0.512)であった。五千分以上みている群は逆にわずかだが満足度が減っている。この結果からは,定額動画配信においては「使えば使うほど満足があがる“わけではない”」ことが窺える。

月に一千分というと,毎日30分ちょっとのコンテンツを欠かさず見ているか,2時間の映画であれば8~9本(週2本以上ほど)のペースで見ている計算になるが,それ以上の利用の程度が高まっても満足度は高まらないこととなる。

ただし,この結果は図2の人数比からもわかるように稀有なほどサービスを使うヘビーユーザーにおける話であることに注意されたい。一千分以下の箇所でみられるように,総じては「利用の程度は高いほど満足度は高くなる」傾向にある。定額動画配信以外でも,他サービスのうち例えばマンガアプリ(2020年)においては,課金をしているサービスにおける利用頻度毎の満足度(定額動画配信と同様に10点満点の総合満足度)の平均は,「ほぼ毎日」=8.1,「週に4~6日」=7.8,「週に2~3日」=7.7,「週に1日」=7.4となっており,きれいに線形の形となっている。元データに取得はないが,もしここに1回当たりの利用時間があり,利用時間が非常に多いヘビーユーザーやエクストリーマーが区別できれば,マンガアプリにおいても同様に一定時間より長く利用しても満足が上がらない,という現象が起こる可能性があるだろう。

3. サービスタイプによる満足の特性・価格と満足の関係

次に,既存文献で指摘したサービスタイプの違いを検討する。

満足度調査には2017年時点の「オンライン英会話」(n=1,127)があり,サブスクリプションと同様に,有料で受講しているか,もしくは受講していた(複数ある場合は直近の)オンライン英会話の総合満足度が10点満点で取得されている(mean=7.31, SD=1.529)。オンライン英会話の満足度調査には受講時の利用頻度が週や月に何回という形で取得されており,またそれとは別にサービスの継続年数が取得されている。

週や月の利用頻度とそれ毎の満足度については,「週5回以上」(人数比18.7%)で平均総合満足度は7.69,「週3~4回程度」(同18.9%)で同7.39,「週2回程度」(30.1%)で7.41,「週1回程度」(23.1%)で7.19,「月に2~3回程度」(5.9%)で6.52,「月に1回程度」(1.7%)で6.63,「それ以下」(1.7%)で5.53となっている。人数比は週5回から週1回程度で90.8%の構成比となっており,「月2~3回」以下の群は満足度が低くそもそもの回答人数が多くないこと,そもそも現在受講中のサービスに回答する人が多いことを考えると,週1回を切るところに閾値があることが窺える。

継続年数は月単位が1か月未満(0%)からはじまり,1~2か月未満(8.3%),2~3ヶ月(13.0%),3~6か月(21.3%),6か月~1年(23.2%),1~2年(17.9%),2~3年(9.2%),3~5年(4.7%),5~8年(1.1%),8年以上(1.3%),となっている。カッコ内%は人数比である。利用頻度と継続期間ごとの総合満足度平均を示したものが図3になる。図3は利用頻度は月に2~3回程度,継続年数は2~3年までの表示としている。

図3

オンライン英会話における利用頻度と継続期間ごとの満足度

3からは,まず月・年単位の継続期間と満足度が線形の関係になっていないことがわかる。仮に継続期間を利用の程度と考えるのであれば,定額動画配信で見た図1の「2週間に1日程度」のようにきれいな階段状となっているはずであるが,そうはなっていない。オンライン英会話においては数か月の継続期間の違いは大きく満足度に影響をせず,継続期間が1年未満の4群間では,満足度の有意差も5%水準では確認されなかった(F(3, 737)=2.32, p=0.074)。

他に着目すべきは,「週5回以上」においてはどの継続期間でも満足していること,「週3~4」,「週2回」,「週1回」の3群間では満足度に有意差はないこと(F(2, 809)=1.874, p=0.154),「月2~3回」以下となると満足度が大きく下がる(この群を含めたF検定は有意になる:F(3, 874)=7.223, p<0.01)ことである。

総じて,英会話というアイデンティティに関連するサービスでは,何か月や数年といった比較的長期の継続期間の長さにはあまり満足度には関係がなく,週5日・ほぼ毎日という「日次の習慣」が満足を高めるひとつの閾値であり,逆に「週次の習慣」も保てずに週1回を下回って月に数回程度となると大きく満足度を下げる,と解釈できる。これはそのままマネジリアル・インプリケーションにもなるだろう。サービスタイプにも利用の程度に順応水準があり,英会話のような学習というサービスタイプにおいては頻度が多い「望ましい」側の利用の閾値を考えることが重要であることが窺える。

実証の最後に支払価格と満足度の関連を議論したい。オンライン英会話の調査では「1回当たりの受講単価」(具体的な質問項目:「オンライン英会話で受講するときの,1回当たりの受講単価はいくらですか。月額の場合は回数で割り戻し,お答えください。(回答は半角数字で入力)」)が取得されている。この変数はmean=約1,829(円),SD=約1,943,mode=500,median=1,000,skewness=1.357となっており,右裾の長い分布になっている。単価が高いものは,既存の対面方式での英会話スクールがオンラインで提供するタイプのものが多く,単価が低いものは,フィリピンなど国際的な労働単価の安さを元にしたサービスが多い。

この変数をやや恣意的であるが,直観的にわかりやすい金額の範囲を設けて300円未満,300–500円未満,500–1,000円未満,1,000–1,500円未満,1,500–2,000円未満,2,000–3,000円未満,3,000–4,000円未満,4,000–5,000未満,5,000円以上の9区分に分け,各群の平均総合満足度を計算した。その結果は上の区分順に7.364,7.194,7.448,7.296,7.14,7.247,7.1,7.378,7.377となっており,金額による違いが全く見られず,統計的な差も確認できなかった(F(8, 1,118)=0.692, p=0.699)。安いからお得,というわけでも,金額が高いことに不満,というわけでも,金額が高いサービスに強く満足している,というわけでもない。既存文献では貨幣価値との交換や契約が重要であるとされているが,オンライン英会話というサービスにおいて,CSと支払額は少なくとも数字上の関係がない。

数百円の範囲の中で満足度の差が見られないことなどは考えられるが,ここまで金額差がある1回当たりの受講単価でも満足度に差がないのは,やはりサブスクリプションにおいては,クレジットカードの月次引き落としなどから,支払い方法や支出の痛みについての意識が弱いことが原因なのではないだろうか。

なお,価格については先の定額動画配信やマンガアプリには取得されていない。取得されている具体的なサービスから標準的な価格をつけることも不可能ではないが,個別のサービスで多様に変わる支払プランなどを網羅することは現実的ではないため,本論ではこのオンライン英会話のみにおける提示とするが,この点については研究の発展で後述する。

IV. まとめと発展・課題

1. まとめと議論

本論では,影響力を増し続けるサブスクリプションにおけるCSの特性を探索することを研究目的とし,サービス利用の決定権が顧客に委ねられているにもかかわらず,「使っていないのに契約を続ける」といった現象があることを示し,使っていないのに満足なのか,使えば使うほど満足は増していくのか,といった利用の程度と満足にまず論点を見出した。さらに既存文献からサービスのタイプや支払額とサブスクリプションの満足の関係にも議論の余地を指摘し,オリコン社の顧客満足度調査からその特性を探索した。

定額動画配信の利用の程度と満足度からは,視聴日数が多いと満足度は高まっていくが,週1回以上,1回の平均視聴時間は30分以上みていれば,強い不満にはならないこと,1回の平均視聴時間は長くなっても満足度に強い影響はないこと,そして総視聴分数が一千分など非常に長い時間より多くなっても満足度は上がらないことなどを示した。

続いてオンライン英会話の調査から,継続期間は満足度に関係が無いこと,週5回以上など(ほぼ)毎日の習慣化ができている群の満足度が高いこと,週1~3回程度の回数の違いでは満足度に差が出ないこと,週1回という習慣が形成できずに月2~3回程度となると不満となること,1回当たりの受講単価と満足度に関連がないことを示してきた。

研究目的である利用の程度とCSの関係については,日次・週次といった習慣形成によって満足が大きく動いたり,そもそも回答者数が少なくなって不満とみなせることから,閾値とみられる箇所が見つかった。対価が発生するサービスである以上,利用の程度に下側の閾値は存在し,それを下回ると不満になって退会や停止をしてしまうことは自然な考えであるが,定額動画配信においては「週1回30分」という,視聴の程度としては決して高くないところに閾値があることが,あまり視聴しなくても退会しない,といった行動の原因のひとつになっているのではないだろうか。

また今回,サービスタイプの違いとしてSavary and Dhar(2020)を参照にアイデンティティ関連タイプとしてオンライン英会話の満足度を取り上げたが,オンライン英会話は学習サービスであり,毎日のように学習ができているという「望ましい」とされる領域が存在する。逆に,定額動画配信においては「非常にたくさん視聴したらより望ましい状態になる」という領域はあまり考えにくく,一千分で満足は頭打ちになっていた。オンライン英会話においては日次の習慣が出来ていることで満足が大きく高まったことが確認されたが,「望ましい」と考えられるほどの,利用の程度の“上側”に閾値があり,それを達成している状態が満足度向上に強く影響している。

以上の,日次や週次の習慣的行動に閾値があることを表現すると図4のようになる。オンライン英会話も定額動画配信も「これ以上利用が減ったら満足が下がる」という点が,週1回の利用を下回る,という同様の点にあること,オンライン英会話には「利用の程度が多い側」にも満足が高まる閾値があることを表現した。

図4

サブスクリプション利用における閾値

また図4の閾値が週次・日次というラインになっている点も重要である。オンライン英会話は契約期間の長さは満足度には線形の影響はもたらしていなかったことは,数か月単位,年単位といった長期的なサービスが提供されるサブスクリプションにおいて,長期的継続は満足を感じる際に考慮されにくい,ということである。直観的には継続するほど満足が高まるはずだと思われるところだが,満足を考える場合はより短期的な判断が下される傾向にあること,数か月単位の継続よりは日次・週次の習慣的行動が満足に影響していることは,サービス開始時から習慣的行動を促すといった実務への示唆にも繋がるだろう。

以上の,閾値の存在やサービスタイプによる閾値の存在の違いといったCSの特性が,本論における結論となる。

2. 限界と発展

先に研究の限界である。既述した満足の詳細や個別視聴コンテンツなどの議論ができていないこともあるが,他にも本論の限界は多い。

まずは,本論ではあくまで総合満足度をシンプルに見ただけであり,経済的指標が考慮されていない点である。英会話において長期的利用は満足との関連が薄いことを述べたが,あくまで本論で議論しているのはCSであり,経済的な収益で考えれば当然長期契約を続ける顧客は重要である。サブスクリプションにおいてリテンションやLTVは利益をもたらす上での最重要課題,KGI(Key Goal Indicator)の代表格であり,それは今後も,またサービスタイプが異なっても変わらないだろう。

またオンライン英会話ではレッスン単価と満足度が全く関係ないことを示したが,経済的側面で言えば,支払者が違うことも考慮ができていない。定額動画配信では,「一つの契約で数アカウントまで視聴可能」というサービス提供が行われており,Netflixを家族・親族や場合によっては親しい友人でシェアすることは良く行われている。支払い者が変われば当然満足の感じ方も変わってくると思われるが,今回はその詳細は議論できていない。

続いて研究の発展を議論する。

まずは閾値確認の方法である。本論では単純な満足度の集計状況から議論を行ったが,閾値に関する既存研究で行われている様々な方法を用い,影響する要因も列挙した上で詳しい分析を行うべきである。閾値については,今回は日次・週次といったラインに閾値があることが導かれたが,当然ながらサービスタイプによって利用の頻度や間隔は異なってくる。高価格帯のバッグや洋服などをレンタルするといったサブスクリプションであれば,当然日次・週次ではなく,月次・四半期といったスパンが基準になると考えられる。サービス利用の頻度や間隔による閾値の議論が必要である。

利用の程度と満足については,本論では「利用→満足」という因果関係を想定しているが,そこにも研究余地がある。デジタル財のサブスクリプションにおいては「お試し期間1か月無料」といった形で初回決済以前にサービスが利用可能なケースが多いことや,日次や週次などの習慣的且つ数か月といった長期的・継続的な利用を考えると,特定のペースや利用の程度である程度満足しているから継続利用をしている,という真逆の因果も場合によっては考えられるだろう。

その他に,複合的なサービスにおけるサブスクリプションに対するCSも重要なテーマである。サブスクリプションは現在では本論で述べた通り,動画視聴などの本質機能のみで競争が行われている傾向にあるが,Amazon Primeなどのサービス複合タイプのサブスクリプションも広く消費者に普及している。サブスクリプションは元々サービスの複合に対して課金しやすいこともあるため,複合サービスのサブスクリプションを取り上げること,例えば多属性態度モデルのようにその満足の源泉や重視点を調べることも,今後の課題である。

最後に,そもそもの消費者の支払い意識についてである。今回オンライン英会話の受講単価と満足度には関連が無かったが,先のOhmae(2019)が指摘するような,月次に支払う金額ではいくらくらいまでは意識をしにくいのか,といった点を,順応水準理論や同化対比理論などを用いて詳しく調査すべきである。「ランチ1回分」のように支払金額を捉えている可能性もあるし,月額・年額といった提示方法の違いによって支払い感覚が変わることも課題である。

冒頭で述べた通り,サブスクリプションについては研究が非常に少ないが,こうした発展研究や,アンケートではない実際の利用データを分析した例なども,今後数多く蓄積されていくことが求められる。

謝辞

本論では経営科学系研究部会連合協議会が主催する「令和2年度データ解析コンペティション」で提供されたオリコン顧客満足度調査データを利用しました。ここに記して,コンペティション主催者や関係者の方々に御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

太宰 潮(だざい うしお)

2001年学習院大学経済学部卒業後,(株)富士総合研究所を経て,2005年学習院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。

2008年,同博士後期課程単位取得退学後,現大学・学部講師を経て現職。

References
 
© 2022 The Author(s).
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