Japan Marketing Journal
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Marketing Case
A Mobile Crowdsourcing Platform:
Development of 100-Yen Products by “Min 100”
Shoo OkadaHidehiko Nishikawa
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2022 Volume 41 Issue 3 Pages 85-94

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Abstract

近年,クラウドソーシングを新製品開発に活用する企業は増えているが,十分な数のアイデアが集まらないなどの要因で,失敗に終わることも多い。こうした中,知名度がないにも関わらず,アイデア投稿数を継続的に増加させ,商品化を実現しているのが,百円均一商品に特化したモバイル向けのクラウドソーシング・プラットフォームの「みん100」である。本稿では,みん100の仕組みの変遷や,開発プロセス,ヒット商品の事例を確認しつつ,顧客志向をもとに仕組みを進化させてきたことを理解する。その上で,みん100の実現した,モバイル・クラウドシーシング・プラットフォームが持つ,3つの優れた点,すなわち,(1)モバイルファースト,(2)共通認識,(3)プロセスマネジメントについて述べる。

Translated Abstract

In recent years, more companies are using crowdsourcing for development of new products, but they often fail due to reasons such as an insufficient number of ideas. Under these circumstances, “Min100,” a crowdsourcing platform for mobiles specializing in hundred-yen uniform products has had a continuous increase in the number of idea submissions, despite a lack of awareness of the platform. In this paper, we review the evolution of the system, development process, and examples of hit products of “Min100” to understand how the platform has evolved based on customer orientation. Then, we discuss three outstanding points of the “Min100” mobile crowdsourcing platform: (1) mobile first, (2) common understanding, and (3) process management.

「みん100」のサイト画面

出典:iStock.com/Prostock-Studioおよび著者撮影・加工

I. はじめに

オンラインでの消費者参加型新製品開発である,いわゆるクラウドソーシングを活用して,レゴ,良品計画,スターバックスなど多くの企業が市場成果をあげている(Nishikawa, 2020)。クラウドソーシングとは,「群衆の知恵」(Surowiecki, 2004)にもとづく「群衆(Crowd)」の概念と,外部に委託する「アウトソーシング(Outsourcing)」という言葉を組み合わせた造語であり(Howe, 2006),新製品開発のためのアイデア投稿や選択,あるいはマイクロタスク(データ入力・収集など)などを,オンラインにより不特定の個人に依頼することを指す(Boudreau & Lakhani, 2013)。こうしたクラウドソーシングにより新製品開発を行う企業は増加しているが,多くの組織が失敗をしている(Dahlander & Piezunka, 2020)。いくつか理由はあるが,根本的な理由は,そもそも多くの企業が,消費者からアイデアを収集することができず,始めることすらできずにいるのである。年間300件(1日あたり1件弱)を超えるアイデアを収集できている企業は,市場のわずか1%にしか満たないのだ(Dahlander & Piezunka, 2014)。とりわけ,知名度のない企業が収集するのは,より困難であろう。

こうした中,知名度がないにも関わらず,アイデアの投稿数やユーザー登録者数が継続的に増加を続けているクラウドソーシングがある。それが,百円均一商品の開発に特化した,モバイル向けクラウドソーシング・プラットフォームの「みん100」である。同社は2014年の設立以来,45個ものアイデアを商品化し,それらの累計出荷個数は900万個を超える。本稿では,継続的なアイデア収集と商品化を実現している,みん100の優れた仕組みを明らかにする1)

II. みん100について

1. 100円ショップ市場の概況

100円ショップ業界は,コロナ禍での巣篭もり消費や節約志向などを背景に,大きな伸びを見せている。2020年度の100円ショップ業界の売上高は11年連続で増加する見通しである(Teikoku Data Bank, 2021)。店舗あたりの商品数は多く,その入れ替わりも激しい。たとえば,セリアでは,文房具や日用品からキャンプ用品までの2万2,000点の商品を扱い,年間8,000点以上を入れ替える(Nikkei, 2021)。新商品が生まれるスピードも早いが,終売になるスピードも早い。そのような業界だからこそ,100円ショップのメーカー各社にとって,魅力的な新商品を継続的に開発し続けることは重要である。そのアイデア情報源の一つが,本稿で紹介する,みん100である。

2. みん100とは

みん100とは,100円ショップで販売して欲しい商品のアイデアを収集するモバイル・クラウドソーシング・プラットフォームである。投稿されたアイデアは,他のユーザーから40件の「ほしい」を得ることで,提携する13社のメーカーによって商品化が検討される。商品化された商品は,メーカーの営業活動により,ダイソー,セリア,キャンドゥ,ワッツといった大手100円ショップの店頭に並ぶことになる。

サイトはスマートフォンに最適化されており,ユーザーは会員登録した上で,投稿したいカテゴリーを選び,アイデアのタイトル,内容,画像を付けて投稿することができる。2021年5月末の時点で,会員数は12,450人,月間の投稿アイデア数は386件(1日あたり約12件)である。サイト訪問者の年齢構成比率は25歳~34歳が約30%と最も高く,次に35歳~44歳が約28%,18歳~34歳が約20%となっている。男女比率は,女性が約75%と,男性に比べて約3倍多い。

3. みん100の変遷

みん100設立の発端は2013年に遡る。百円均一商品を製造するメーカーから,ウェブのシステムエンジニアであった池田大介氏が相談をうけた。そのメーカーでは,商品ライフサイクルが早くなり,新商品のアイデアが多く求められるにも関わらず,アイデアが枯渇気味であり,ヒット率も下がっていた。メーカーは,消費者の声を商品開発に反映させることの重要性には気づき,ブログやSNSによる市場調査や消費者との直接的なコミュニケーションを実施していたものの,作業が煩雑でコストがかかる上に,ニーズを理解することが難しいという課題を持っていた。こうした相談をうける中で,消費者から意見を収集するサイトというアイデアが生まれた。

図1

みん100 Ver. 1.0のサイト

出典:みん100より画像提供

そこで,2014年2月にリリースしたのが,Ver. 1.0となるサイト「みんなの100円ショップ村」だった。メーカーが「掲示板」というコーナーに,社内で検討中の商品テーマを掲示して,それに対してユーザーがアイデアを書き込む形式であった。投稿したアイデアに,他のユーザーからの「ほしい!」あるいは「ステキ!」が投票されるたびにポイントがたまり,溜まったポイントは,みん100のオリジナルグッズと交換できた。メディアに取り上げられたこともあり,2ヶ月で約1,000人のユーザーが集まったものの,「掲示板」の投稿数は思ったように伸びなかった。一方で,思いがけないヒントが見つかった。それは,サブコンテンツである「目安箱」という,自由に意見が書き込めるコーナーへの投稿数の多さであった。目安箱は商品化の対象ではなかったにも関わらず,掲示板を上回る投稿数の伸びを示していた。こうした経験から,ユーザーは,メーカーの商品アイデアに対して意見が言いたいのではなく,自分たちのアイデアをメーカーに聞いて欲しいということに,運営チームは気づいた。さらに,ユーザーにアンケートをとると,ユーザーはポイントの取得よりも自分のアイデアが商品化されること自体に喜びを感じていることもわかった。

こうした気づきを踏まえ,2015年8月に,Ver. 1.5として,Ver. 1.0をベースにしつつ,ユーザーが自由に投稿できるサイトへとリニューアルを行なった。同時に,ポイント制も廃止し,「みん100」というシンプルな名称に変更した。さらに,投稿フォームに,「キッチン用品」や「インテリア」などのカテゴリーを設けた。これらの結果,ユーザー数やアイデア投稿数は徐々に上昇した。しかし,新たな課題が見えてきた。それは,アイデア投稿から商品化までの期間の長さである。百円均一商品とはいえ,商品の発売までには早くても3~6ヶ月,長いと1年程度の期間がかかる。アイデアが採用されたとしても,商品が店頭に並ぶまでの期間を繋ぎ止めるものが,仕組みには欠けていて,ユーザーの離脱が課題であった。

図2

みん100の変遷と登録者数・アイデア投稿数の推移

出典:みん100からのデータをもとに著者作成

そこで,2018年2月には,Ver. 2.0として,現在の形であるモバイル・クラウドソーシングに大きくリニューアルした。Ver. 1.5のサイトへのアクセスの9割がスマートフォンであることから,その利用を前提にした設計に変更した上で,商品発売までの期間を埋めるサービスの提供を開始した。具体的には,「みん100よみもの」という商品化の進捗情報を掲載する機能を追加した。その結果,サイト訪問者数が約3倍に増加し,ユーザー登録者数やアイデアの閲覧数も増加した。

会員向けのメールや,TwitterやInstagramなどのSNSを用いて,開発中の商品に関するアンケートを行い,メーカーにフィードバックする調査サービスも追加した。タティングシャトルなどのヒット商品の開発において,アンケートによるユーザーのニーズを正確に把握することが重要であったことや,以前,アンケートを行わず,メーカーの担当者だけで,発案者のアイデアを解釈して,色や形などの仕様を決定した結果,ユーザーのニーズと異なる商品を開発し,売上が低迷するという苦い経験があったためである。一方,アンケートは,金銭的インセンティブがないにも関わらず,高い回答率を示し,運営チームを驚かせた。この調査サービスは,後にヒット商品を育てる重要なサービスへと成長する。

この時期から,アイデアを提供するメーカーを,1社から複数社へと拡大していく方針に変更した。アイデア数の増加により1社だけで商品化することに限界がでてきたからである。メーカーにより製造できるカテゴリーや素材の得意不得意があり,アイデアは良いのにカテゴリーや素材のミスマッチが原因で,商品化を断念せざるを得ないケースが増えてきた。当然,商品化が少ないことはユーザーの不満にもつながっていく。そこで,提携メーカーを増やすために,100円ショップの店頭で,みん100と相性の良さそうな商品を見つけては,そのメーカーに電話で直接交渉し,13社にまで広げた。こうして,多数のユーザーと複数のメーカーをマッチングさせるプラットフォーム型のクラウドソーシングに生まれ変わったのである。

4. 新商品開発プロセス

みん100の新商品開発プロセスは,四段階に分類される。第一段階は,アイデア構築である。まず,ユーザーが「みん100」サイトを訪問し,会員登録(無料)をした上で,アイデアを投稿する(図3左)。そのアイデアに対して,他のユーザーが「ほしい」ボタンを押して,評価を行う。「ほしい」が40件集まったアイデアは,高評価アイデアと判断され,みん100からメーカーに提案されるリストに掲載される。アイデアの発案者やサイト上には,提案中であることが告知される。なお,40件集まらなかったアイデアでも,獲得スピードが顕著に高い場合など,運営チームの判断で,提案されるものもある。逆に,40件を超えたアイデアであっても,100円ショップでは商品化が難しいと判断された場合は提案されない。こうして作成された提案リストは2週間~1ヶ月に1度程度,みん100からメーカー各社へと送付され,各メーカーによって,採用が検討される。メーカーは,アイデアや実現可能性の評価だけでなく,市場での類似品がないか,特許の問題がないか,などを検討した上で,採用を決める。検討の結果,提案リストのうち10%弱程度のアイデアが採用される。採用されると,ユーザーには,着手済みになったことが,告知される(図3中央)。各アイデアには,進行状況バーとして,完成を100%とした商品開発の段階が表示される。

図3

アイデア投稿・検討中・発売告知画面

出典:著者撮影・加工

第二段階は,商品企画である。この段階は基本的にメーカー主導で進み,機能やデザインなどが決まっていく。機能やデザインなどについて,InstagramやTwitterなどのSNSを通して,適時アンケートを実施し,そのデータをメーカーにフィードバックし,商品化を目指す。データは,メーカーの100円ショップへの営業活動においても利用される。

第三段階は,製造である。この段階も,基本的にはメーカー主導で進み,試作品などが作られ,商品化が目指される。完成までの期間を埋めるために,商品化の進捗状況は進行状況バーで表示されるだけでなく,「みん100よみもの」として記事化され,ユーザーに届けられる。並行して,メーカーは100円ショップへの営業活動を行う。なお,商品パッケージの裏面には,発案者であるユーザーのニックネームや,みん100上の当該アイデアのページにリンクされるQRコードが表示される。

図4

みん100の新商品開発プロセス

注:【 】は,みん100のサイトやSNS。

出典:みん100の資料をもとに筆者作成

第四段階は,販売である。100円ショップでの発売が決定すると,サイトで発売されることが告知される。発案者には,発売前に,みん100を通じて商品サンプル複数個と,「私のアイデアで商品化されました」と記載されたカードが同枚数届けられる。こうしたサンプル提供や商品パッケージ裏面での表示は,金銭的報酬のない発案者への感謝のしるしであり,発案者が自らのブログやSNSなどを通じて,自身の貢献を発信しやすくするための工夫でもある。なお,販売の段階にまで至るのは,採用アイデアの60~70%程度(投稿アイデアの0.3%程度)となる。

発売後も,みん100は,SNSを通して,ユーザーにアンケートを行い,商品の改良を支援する。このように,みん100は,ユーザーのアイデアを実現するために,アイデア構築から販売までを継続的に支援する。こうした支援の対価として,販売個数にもとづき,メーカーからみん100にロイヤルティが支払われる。

III. ヒット商品の事例

1. タティングシャトル

みん100から生まれた,三つのヒット商品の事例を確認する。一点目は,タティングシャトル(図5左)である。これは,「手軽に始められるタティングシャトルが欲しい」という2016年4月のアイデア投稿から始まった。タティングシャトルはレース編みの道具として,専門店で価格が高めで販売されていたが,100円ショップでは取り扱っていなかった。そのため,みん100の運営チームも,メーカーや流通のバイヤーも,タティングシャトルに関する知識はほぼ無かった。つまり,ユーザーからのアイデア投稿がなければ思いつかなかったアイデアだといえる。その市場性は判断できない状態であったが,ユーザーからの「ほしい」が集まるスピードが速く,また熱心なメッセージが多く寄せられたため,アイデアの採用が決まった。

図5

タティングシャトル,パスワード管理帳,マウスパッドショートカットキー

出典:みん100より提供

しかし,メーカーの担当者はタティングシャトルについて十分な知識を持っていなかったため,みん100のユーザーに対してアンケートを繰り返し行い,企画を進めていった。まず,商品の色を,ユーザーの声をもとに透明な三色セットにした。その理由のひとつめは,中の糸が見えるためである。既存のタティングシャトルは,専門品で価格も高く複数購入できないため,糸の色を変えるたびに,糸を巻き直す必要があった。しかし,タティングシャトルが100円で入手できるのであれば複数購入して,糸を巻いたままでの保存が可能になる。そのため,中の糸が見える透明を推す声が多かった。

もうひとつの理由は,透明色が日本では未発売の色だったからである。タティングシャトルは単なる編み物の道具ではなく,それ自体を集めるユーザーが多く存在する,コレクション性の高い道具だということが,アンケートを通じて分かった。このように,100円ショップのファンであると同時に,タティングシャトルのファンでもあるユーザーだからこそ把握できるニーズを,みん100を通じてメーカーの企画者は手に入れることができた。

パッケージに掲載する作品例も,ユーザーが参加した。ユーザーによって,初心者でも作れる難易度で,見た目にも華やかな作品が作成された。さらに,タティングシャトルの試作品をユーザーに使用してもらい,フィードバックを踏まえて改善する使用テストも実施した。

2017年11月の発売後わずか1週間で,4ヶ月分の在庫が完売した。その後2年間で10万個の販売数を達成した。販売を後押ししたのが,ユーザーの口コミだった。アンケートを繰り返す中で,ユーザーの間で「みん100がタティングシャトルを作るらしい」という口コミが拡散し,発売前から注目を集めるようになった。さらに,購入したユーザーが,使用シーンを動画で紹介する「使ってみた動画」や,タティングシャトル自体のデコレーションを楽しむ投稿など,ユーザーによるコンテンツが自然発生的に拡散された。

2. パスワード管理帳

二点目は,パスワード管理帳である(図5中央)。これは,「パスワードを記録するメモ帳が欲しい」という2018年2月のアイデア投稿から始まった。みん100の運営メンバーは,そのような無用心な商品がなぜ求められているのか,そのニーズが十分に理解できなかった。しかし,こちらもユーザーによる評価が高かったため,商品化が進められた。

この商品開発においても,アンケートを通じてユーザーニーズの深堀が行われた。ユーザーの意見から,近年のセキュリティ強化で,パスワードの変更機会が増えており,管理の煩雑さを感じていることがわかった。加えて,自分自身で使いたいというニーズだけでなく,高齢の両親のために使いたい,自分に何かがあった時の場合に残された家族のために使いたいなど,自分以外の人のために使いたいというニーズの存在が明らかになった。

2018年11月に発売され,2年間で40万個を超えるヒット商品となった。その要因としてSNSでの口コミと店頭のPOPがあげられる。SNSでは,「パスワードを紙に書く」という発想の新奇性が話題となり口コミが拡散された。さらに,最初に発売したキャンドゥでは,店頭POPにより「お客様の声から生まれた商品」であることが掲示された。こうしたユーザーが発案者という情報の掲示は,売上を向上させる(Nishikawa, Schreier, Fuchs, & Ogawa, 2017; Okada, 2019)。

3. マウスパッドショートカットキー

三点目は,マウスパッドショートカットキーだ。これは,「パソコンのショートカットキーが描かれた,おしゃれなマウスパッドが欲しい」という2018年6月のアイデア投稿から始まった。当初,メーカーの担当者は,仕事で使うマウスパッドになぜ「おしゃれさ」が必要なのか,理解できなかった。しかし,このアイデアもユーザーによる評価が高かったため,商品化に向けて作業が進められた。

まず,おしゃれの具体的な方向性を検討するために,ビジネス風,カフェメニュー風,ゲーム風など複数のデザイン案を作成し,みん100のユーザーにアンケート調査を実施した。その結果,最終的に選ばれたデザインは,色や情報量を極限まで削減したものであった。アンケートから発見したユーザーのニーズは,「パッと見てショートカットキーが書いてあると分からないデザインが良い」というものであった。既存の類似品は,補足説明や複数の色を用いて,一目でショートカットキーであることが分かりやすいデザインのものが多かった。しかし,ユーザーは,ショートカットキーが記載されているマウスパッドを使っていること自体を隠したいという思いが強かった。この結果,一目ではわからない,おしゃれなデザインのマウスパットが完成した。

2019年12月に発売されると,1年間で20万個を販売した。当初は業界4位のチェーン店のみでの取り扱いだったが,売上が好調のため,業界最大手のダイソーにも納入が決定した。

IV. おわりに

最後に,みん100の優れた仕組みを整理する。みん100の試行錯誤の変遷や,ヒット商品の事例を通してわかるように,顧客志向にもとづく仕組みの進化が,みん100を成長させている。その結果生まれたのが,「モバイル・クラウドソーシング・プラットフォーム」であるといえる。同社における,その仕組みは,三つの点が優れているといえる。

第一に,モバイルファーストなクラウドソーシングであること。その優れている理由として,二つあげる。ひとつには,思いついた時にすぐに投稿できるという気軽さである。モバイルを前提にしたサイトでは,パソコンを前提としたサイトに比べ,買い物中や移動中に思いついたアイデアを投稿しやすい。もうひとつは,写真や手書きのイラストなどの画像を,スマートフォンで撮影して,そのまま簡単に投稿できるという画像との親和性である。同社によれば,文字だけの投稿よりも,画像が添えられた投稿の方が「ほしい」が集まりやすいという。写真やイラストによる視覚情報が,アイデアの理解を促進していると考えられる。こうしたモバイルファーストによる気軽さや写真の活用によって,利用者を大きく増加させた先行事例としては,フリマアプリの「メルカリ」があげられる(Yamamoto, 2019)。

さらに,新製品開発のために,パソコン利用を前提としたクラウドソーシングは多いが,モバイルファーストのクラウドソーシングは,世界でも例をみない。今後,スマートフォンの利用率が高まることを考えると,主流はモバイル・クラウドソーシングとなる可能性もありえる。あるいは,複雑な解決策を求める場合はパソコンを利用した投稿で,簡易なアイデアを求める場合はスマートフォンを利用した投稿というように,棲み分けの可能性もある。

第二に,ユーザーとの共通認識に応えたプラットフォームであること。共通認識とは,どのようなブランドで,どのようなアイデアが求められているのかという認識が,企業とユーザーとで共有できていることを意味する。たとえば,多くのヒット商品を生みだしている無印良品のクラウドソーシングでは,ユーザーのアイデア投稿に,「無印良品らしい」というブランド理解を表現する言葉が多くみられる(Nishikawa & Honjo, 2011)。100円ショップは,複数のチェーンストアがあり,1つのブランドではないが,100円で販売できる製品に限定されるため,「百円均一商品らしさ」という共通認識が形成されやすい。そのため,みん100自体に知名度はなくても,多くのユーザーは,どのようなアイデアが必要とされ,実現可能であるかをよく把握しているため,アイデアを投稿したり,評価したりすることができる。一方,こうした「百円均一商品らしさ」という共通認識は,運営側の企業にも変化をもたらす。みん100は,メーカー1社向けのクラウドソーシングから,100円ショップにある幅広いカテゴリーや素材の商品を開発できるようにするために,提携メーカーを増やし,プラットフォームとなったのである。

さらに,「みん100よみもの」が共通認識の形成を促進する。記事では,商品化の進捗だけでなく,商品化プロセスにおける難しさを伝える。たとえば,色やデザインの少しの加工がコストに反映されることなどが,記事の中でも強調されている。このような知識をユーザーと共通することで,より実現可能性の高いアイデア投稿が生まれる可能性が高い。しかし,強い共通認識は,自由な発想を奪い,新奇性を下げる要因となるリスクもあるが,次でみるように同社はこれも上手く回避している。

第三に,新商品開発プロセス全体をマネジメントするクラウドソーシングであること。具体的には,とりわけ二つの仕組みが優れている。ひとつは,ユーザーからの多種多様なアイデアを収集できる仕組みである。クラウドソーシングの成功の鍵は,いままでの常識からみると考えられない,多種多様なアイデアを集めることである(Page, 2007)。みん100では,わずか40の「ほしい」で商品化が検討されるため,いままでにない自由で,突拍子もないアイデアが気軽に投稿されやすい。ハードルの低さが,ユーザーに商品化への期待感をもたせ,ユーザーの投稿動機を高める。そのため,実際に発売に至る商品は多くならないという課題が生じるが,ユーザーにとってはメーカーに商品化が検討されることも重要で,投稿動機を高める要因となる。クラウドソーシングに参加するユーザーの主要な動機が,企業に認められたいという欲求であり,自分のアイデアの商品化が検討されることは,企業から評価されたと知覚するからである(Füller, 2010)。

もうひとつは,アイデアの多種多様性を確保しつつ,商品化の実現性を高める仕組みである。クラウドソーシングのプロセスは,相互依存関係にあり,全体のマネジメントが不可欠である(Dahlander & Piezunka, 2020)。商品化検討のハードルを低くして,多種多様なアイデアを候補にすることは,新奇性を確保するが,実現可能性を低下させる。同社は,二つの方法で解決している。一点目は,低いハードルで選出された提案リストを,カテゴリーや扱う素材が異なる多様なメーカーが検討することで,アイデア採用の確率をあげ,実現可能性を高めていることである。まさに,同社がプラットフォーム化した意義である。二点目は,最初に投稿されたアイデアだけでは把握しにくいニーズや仕様を,継続的なアンケートにより理解し,商品化の実現可能性を高めつつ,ヒット商品につなげていることである。アンケートを,SNSにより迅速かつ低コストで対応している点も評価できる。SNSでのアンケートは,参加ユーザーだけでなく,閲覧だけのユーザーとの継続的なコミュニケーションにもなり,ユーザーが商品に対して愛着を持つことにつながる。さらに,開発ストーリーとして,「みん100よみもの」のコンテンツにもなり,他のユーザーとも広く共有される。こうしたSNSを主体にしたマネジメントは,モバイルファーストな設計との親和性が高い。

このようにモバイル・クラウドソーシング・プラットフォームを先駆的に実践し,試行錯誤しつつも成長を遂げる,みん100から,多くの研究者や実務家が学ぶべき点が多い。

謝辞

本ケースの作成にあたって,みん100株式会社の代表取締役の池田大介氏をはじめ,取締役の吉見友絵氏,松野尾絢三氏,大野芽衣氏から多大なご協力を頂いた。さらに,本研究は,JSPS科研費JP20K01972の助成,およびUser Innovation Lab.の支援を受けたものである。ここに記して感謝を申し上げる。

1)  本ケースは,謝辞に記載した,みん100株式会社の取締役4名に対して,2020年12月14日,2021年3月29日,9月13日にインタビュー,および同4名による2021年4月15日の講演をもとに記述した。

岡田 庄生(おかだ しょうお)

法政大学大学院 経営学研究科 博士後期課程。修士(経営学)。株式会社博報堂(本務),法政大学(非常勤講師)。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所 客員研究員。専門は,ユーザー・イノベーション,マーケティング・コミュニケーション。

西川 英彦(にしかわ ひでひこ)

2004年神戸大学大学院経営学研究科修了,博士(商学)

現在,法政大学 経営学部 教授。専門は,ユーザー・イノベーション,デジタル・マーケティング。

References
 
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