Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Effects of Customer Reviews on Product Sales of Strong Brands:
A Qualitative Comparative Analysis
Hiroyuki Kondo
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J-STAGE Data

2022 Volume 42 Issue 1 Pages 6-16

Details
Abstract

消費者は購買意思決定に先立ってオンラインカスタマーレビューを製品の品質の手掛かり情報として利用するが,ブランド力が高い製品の場合にはブランドも製品の品質の有力な手掛かりとなる。このため,そうした製品についてのカスタマーレビューの影響力はブランド力が低い製品の場合と比べて弱いとされている。しかしながら,先行研究ではカスタマーレビューがブランド力の高い製品の売上成果にいかなる役割を果たすのかについて十分に考察されてきたとは言い難い。そこで本研究では我が国のヘッドセットデータにファジィ集合QCA(fsQCA)を適用し,この問題について考察した。その結果,ブランド力が高い製品は新製品期にはカスタマーレビューの評価にかかわらず売れ筋製品となり得るものの,新製品期間を超えてなお売れ筋であり続ける上で,カスタマーレビューにおける高い評価は,INUS条件として,大きな役割を果たしていることを確認した。このことは,ブランド力が高いメーカーの場合でも,高いカスタマーレビュー評価を得られるような優れた製品の開発がやはり重要であることを示すものである。

Translated Abstract

Consumers use online customer reviews as an indicator of product quality before making their purchase decisions. The brand is also a powerful cue of product quality for individual products from strong brands, and the impact of customer reviews for these products may be relatively low compared to that for products from weaker brands. However, in the existing literature, the role of customer reviews on the sales performance of products from strong brands has not been examined thoroughly. To address this problem, the present study examines sales of headset data in Japan using a fuzzy-set qualitative comparative analysis (fsQCA). The results show that products from strong brands can achieve high sales regardless of customer review ratings during the new product period. However, high customer review ratings play an important role, as an INUS condition, for these brands to be successful in terms of sales beyond the new product phase. This implies that even if a brand is strong, it is still important to develop superior products that result in high customer review ratings.

I. 問題意識と研究目的

カスタマーレビューが消費者の銘柄選択行動や当該銘柄の売上に及ぼす影響については研究が蓄積されているが,多くの研究において示されてきたのは,カスタマーレビューはブランド力が劣る製品に対してより大きな影響力をもつという点である。カスタマーレビューは消費者が製品の品質を判断する際の重要な手掛かりとなるが,ブランド力が高い製品の場合にはブランドが品質の有力な手掛かりとなるためにカスタマーレビューの役割は低下するというのがその説明であり,多くの実証研究においてもそうした考え方に基づく仮説が支持されている。しかしながら,デジタルカメラに関して売れ筋製品の必要条件と十分条件を明らかにすべくQCAを適用したKondo(2018)においては,ブランドの影響力の大きさが確認された一方で,売れ筋製品の十分条件を構成する要素としてカスタマーレビューも重要な役割を果たしていることが示された。但し,同論文における使用データには課題も残されていた。そこで本稿では使用データについて見直しを行い,ブランド力が高い製品が売れ筋製品になるか否かに関し,カスタマーレビューがいかなる役割を果たしているのかについて,QCAを用いて必要条件・十分条件という観点から改めて考察する。

II. 先行研究のレビュー

今日ではカスタマーレビューはオンラインで提供され閲覧されることが主流であるため,本稿ではオンラインカスタマーレビューの影響について考察するが,消費者レビュー,製品レビュー,オンラインレビュー,eWOMなど,同一とはいえないものの,内容的に重なりの多い概念を取り上げた先行研究は多い。製品レビューには専門家によるものなども含まれ得るが,先行研究において主に対象となっているのは,既に当該製品を購入し,使用体験もある顧客による,いわゆるオンラインカスタマーレビューであることが多い。そこで以下においてはこうしたオンラインカスタマーレビューについて単にカスタマーレビューと表記し,関連する先行研究において明らかにされてきたことを確認する。

マーケティング分野においてカスタマーレビューが注目されてきたのは,購入前の消費者の購買意思決定に影響を及ぼすことが多いためである。商品購入やサービス利用の際にオンライン口コミを視認している全国の18歳から69歳までの2,000人を対象としたCross Marketing(2018)の調査によると,「あなたが何か商品が欲しい・買いたい,サービスを利用したいと思った際に,オンラインの口コミ情報は最終的に購入に影響を与えますか」という単一回答の質問に対する回答の比率で,「いつも参考にしており,口コミを見て買うかどうか決める」は全体の24.1%であるが,「口コミは参考にするが,最終的に自分で店頭に行ってから,もしくは購入ページを確認して決める」が73.1%もあり,「口コミを見ても参考にしておらず,購入/サービス利用を決めることに影響はない」は2.8%に過ぎない。以上はオンライン口コミを視認している人に限った比率であるが,Floyd, Freling, Alhoqail, Cho, and Freling(2014)の調査によると,最もよく参照する情報源上位3つについての質問において,52%の回答者が小売業者のウェブサイト上の評価やレビューを挙げている。この調査は日本で実施されたものではないが,日本においても同様に影響は広範な消費者に及んでいると考えられる。

カスタマーレビューが購入前の消費者の購買意思決定に影響を及ぼすのにはいくつかの理由がある。1つは購買意思決定に際して消費者は情報の不足という問題に直面しているという点である。これに対して,レビュアーは当該製品の購買・使用を通じて,製品の品質,価値,潜在的な課題などについて,未購入者が求めている貴重な情報をもっていることが多い(Li, Wu, & Mai, 2019)。2つ目はカスタマーレビューに対する信頼度の高さである。カスタマーレビューはそこに含まれている情報が企業発のものではないことから,一般に信頼性が高く影響力も大きいとみなされている(Bickart & Schindler, 2001)。但し,その信頼の程度は評価者数や評価のばらつきなどにも依存する。高いレビュー評価が一貫して観察される場合,それは社会的に集計された規範的な手掛かりとみなされることになり,消費者は意思決定に際してそうした情報を積極的に採用するよう動機付けられることになる(Wang, Kim, & Kim, 2021)。3つ目が利用のし易さである。カスタマーレビューのフォーマットが確立したことにより,個人がもっている製品に関する情報を他者に提供することが容易となり,また潜在的な新規顧客もそうした情報にアクセスすることが容易となった(Dellarocas, 2003)。しかも,カスタマーレビューのフォーマットにおいては製品に対する評価が集計された形式で表示されることが多いため,利用者は異なったレビュアーからの評価を簡単に並べ替えたりすることが可能で,当該製品についての要約された一般的な意見を確認することができる(Filieri, 2015)。

以上のような理由により,カスタマーレビューは特に製品の品質に関する手掛かりとして未購入の消費者に利用されるが,その結果として彼らの購買意図にも影響を及ぼし(Huang, Cai, Tsang, & Zhou, 2011),レビュー評価の平均点が高い程,当該製品の選択確率は高くなる(Kostyra, Reiner, Natter, & Klapper, 2016)。そして,そうした消費者行動への影響に対応するように,カスタマーレビューは,書籍(Chevalier & Mayzlin, 2006; Jabr & Zheng, 2014),デジタルカメラ/ビデオカメラ(Archak, Ghose, & Ipeirotis, 2011),ビール(Clemons, Gao, & Hitt, 2008),ビデオゲーム(Zhu & Zhang, 2010),映画(Basuroy, Chatterjee, & Ravid, 2003; Duan, Gu, & Whinston, 2008),ホテル(Ye, Law, & Gu, 2009)など,様々なカテゴリーの製品・サービスの売上にも影響があることが示されてきた。

そして影響の大きさに関わる要因として挙げられているのが対象となる財の性質である。一般にカスタマーレビューは購入前の消費者によって「探索される」ものである(Marchand, Hennig-Thurau, & Wiertz, 2017)。このため,消費者のコミットメントの強さという観点から,高関与製品の方が低関与製品よりも,また耐久財の方が非耐久財よりも,製品レビューの売上に対する効果は大きい(Floyd et al., 2014)。そして,使用前に品質を判断することが難しいような財の場合にはカスタマーレビューは情報源として重視される(Li & Hitt, 2008)。特にハイテク製品の場合,消費者は製品属性上の特徴から得られる便益についての理解が難しくなりがちであるため,売手側が提供するスペック情報などよりも,既に購入した顧客が製品の使い勝手や信頼性などについてどのように感じたのかといったユーザー志向の情報を伝えてくれるカスタマーレビューの方が,未購入の消費者に対する影響は大きい(Chen & Xie, 2008)。Zhang, Ma, and Cartwright(2013)はそうした品目の例となるデジタルカメラについて分析を行い,カスタマーレビューの平均点やレビュー数が売上に影響を及ぼしていることを確認している。

以上のように,カスタマーレビューは製品の品質などについての情報を未購入の消費者に伝えることを通じて当該製品の売上に影響を及ぼしているとみなされているが,企業側のマーケティング戦略要素である広告や価格など,製品の品質に関する手掛かりはそれ以外にもあり得る。中でも特に強力な手掛かりになるとみなされているのがブランドである(Erdem & Swait, 1998)。そのため,消費者は製品の品質を判断するにあたって,カスタマーレビューを参照する場合でも,カスタマーレビューとブランドを品質の手掛かりとしてしばしば同時に使用する。しかもそうした場合,長年にわたって築き上げられ簡単には変わりにくいブランドのような手掛かりの方が重視され易い(Purohit & Srivastava, 2001)。一方,カスタマーレビューはブランド力を欠く製品の購買において,製品品質についての有力な手掛かりとして機能し,それによって購買にあたっての不確実性を小さくしてくれる。すなわち,ブランド力が乏しい場合には,品質の手掛かりとしてのブランドの効果は限られており,カスタマーレビューがそれを補完する(Kostyra et al., 2016)。Wang et al.(2021)はレストランについての調査・分析を通じて,ブランドエクイティはカスタマーレビューと企業成果の関係に負の調整効果を発揮していることを確認した。すなわち,強いブランドは製品の品質に関する信頼できる手掛かりとなるため,カスタマーレビューに対するニーズは低下する。同様に,Zhu and Zhang(2010)はゲームを対象とした調査・分析を行い,カスタマーレビューが売上に及ぼす影響は他の手掛かりが少ない人気の乏しいゲームの方が大きいとしている。Ho-Dac, Carson, and Moore(2013)は,カスタマーレビューは強いブランドの売上に影響を及ぼしていない一方,強いブランドは強いブランドであること自体によって売上が伸びているとし,カスタマーレビューが普及した今日においてもブランドの役割は依然として大きいとしている。Chen(2001)はカスタマーレビューが利用可能であるとブランドの役割は小さくなると想定していたが,分析結果からはむしろブランドの役割が大きい場合にはカスタマーレビューの役割が小さくなるとみなした方が良いとしている。以上のように,先行研究においては総じてブランド力が高い場合にはカスタマーレビューの役割は低下することが指摘されてきた。

III. 研究課題

カスタマーレビューは企業が直接コントロールできるものではないが,それが製品の特徴を反映したものであることを考えれば,マーケティング・ミックスの諸要素,中でもProductとの関係は極めて密接であるといえる。ブランド力が高い企業は,ブランドに裏付けられた消費者からの信用を守り,そしてそれをさらに強化していくために,消費者に支持される製品を開発していこうとしていると考えられる。しかし,先行研究においてはブランド力が高い製品の場合にはカスタマーレビューよりもブランド力の影響の方が大きいとの言及が多く,製品が消費者にどれだけ支持されているのかを反映したカスタマーレビューがそうした場合にどのような役割を担うのかについては必ずしも明示的ではない。Ho-Dac et al.(2013)が述べているように,確かに強いブランドは強いブランドであること自体によって売上が伸びているようにも思われる。しかし,実際にはそうしたメーカーの製品であっても販売量が少ないものも多い。この点に関してKondo(2018)では我が国のデジタルカメラを対象に,ブランド力,カスタマーレビューにおける評価の平均点,発売後日数の3種類のデータに基づいて設定した原因条件と,売れ筋順位データに基づいて設定した結果との関係について,QCAを用いて分析し考察した。その結果,「高ブランド力製品」または「新製品」であることが「売れ筋製品」であるための必要条件ということになり,「高満足度製品」という原因条件は登場しなかった。但し,「売れ筋製品」であるための十分条件に関しては,「高ブランド力製品」「高満足度製品」「新製品」の3つの原因条件が全て揃っている必要があるということが示された。すなわち,ブランド力が高い企業が高いレビュー評価を得られるような製品を販売した場合,当該製品は新製品期間には売れ筋製品になるということになる。この結果は,先行研究において示されてきたブランド力の役割の大きさを改めて確認するものともいえるが,その一方で,先行研究においては明示的ではなかった,ブランド力が高い場合でもカスタマーレビューが重要な役割を担っているということを示唆するものでもある。

但し,当該研究にはデータ面の課題が2つあった。1つは結果に関わる元データとして,個別製品の売上そのものではなく,価格.comの売れ筋ランキングデータを用いたという点である。もう1つは原因条件の1つに関わるブランド力の元データについて,市場シェアなど企業側のデータしか用いることができなかった点である。そこで今回の研究では,「売れ筋製品」の必要条件と十分条件を「高ブランド力製品」「高満足度製品」「新製品」という3つの原因条件の観点から考察するという基本的な考え方は変えないものの,以上2種のデータ上の問題に対処した上で,ブランド力が高い場合のカスタマーレビューの役割についてQCAを用いて改めて分析し考察する。

IV. 使用データ

Kondo(2018)ではデジタルカメラについてのデータを用いたが,今回の研究ではワイヤレスイヤフォンを中心としたヘッドセットを対象品目として選んだ。カタログにスペック情報が並ぶタイプの耐久財にしたのは,先行研究において論じられているように,財の性質上,カスタマーレビューの影響を想定し易いためである。品目をデジタルカメラからヘッドセットに変更したのは,市場が縮小しているが故に新製品数やレビュー評価数が少なくなってきているデジタルカメラに対して,Macromill(2019)に示されているように,ヘッドセットは最近購入した経験をもつ消費者の比率が高く,多くの新製品が市場に導入されており,一定数以上のレビュー評価を確認できる製品の数も比較的多いことによる。また,耐久財の場合,品目によっては購買意思決定者と使用者が一致しない場合もあるが,特定の個人のみによって使用されることが多い品目であるヘッドセットについてはそうしたことが比較的少ないと考えられる。すなわち,自分で購入し使用したいと考えている消費者が,購入後の自分の使用状況を想定しつつカスタマーレビューを参照し,それを踏まえて購買意思決定を行っていることが多いと想定され,製品が売れ筋となる条件を探るという観点からカスタマーレビューの役割を考察するには適した品目であると判断した。

先ず原因条件の元データについてである。原因条件の元データとなる個別製品に関するレビュー評価平均点と登録日については,Kondo(2018)同様,価格.comにおいて公開されているデータを使用した。レビュー評価平均点は2021年2月7日時点のものである。その時点において439製品が掲載されていたが,評価が一定程度安定しているとみなし得る評価数10以上の62製品のみを分析の対象とすることにした。レビュー評価平均点は各レビュアーが付与する1つ星から5つ星までの評価点の平均値である。カスタマーレビューといった場合,文章として表現された定性的な情報も重要であるが,評価点はカスタマーレビューならではの特徴であるとみなされており(Yin, Mitra, & Zhang, 2016),今回の研究では評価点のみを問題にしている。さらに,評価点についてもその分布は問わずに平均値に着目した。こうした簡略化による情報の喪失には留意すべきであるが,先行研究においても評価点平均値の役割の重要性が確認されていることから(Chevalier & Mayzlin, 2006; Kostyra et al., 2016; Li et al., 2019),標本数が限られる今回の研究ではレビュー評価平均点に絞ることにした。また,Kondo(2018)で確認した通り,登録されてから日が浅い製品,すなわち新製品であるか否かは当該製品の売上に大きな影響があるため,登録日から2021年2月7日までの日数を原因条件の1つの元データとして使用した。

前節で触れたように,原因条件の元データのうち,ブランド力に関わるデータについては見直しが必要であった。Kondo(2018)ではブランド力について,市場シェア,分析対象製品数,分析対象製品の最安値の3要素に基づいて判断した。市場シェアを参照したのは,市場シェアが高い程,製品の知覚品質が高いことに示されているように(Hellofs & Jacobson, 1999),市場シェアはブランド力を把握する上で重要な情報であることによる。しかしその一方で,結果の元データである個別製品の売上がメーカーの市場シェアにも反映されることから,特定の個別製品が当該メーカーのヘッドセット売上の多くを占めるような場合には特に問題となる。また,カスタマーレビューが未購入の消費者の購買意思決定に影響を及ぼすことを想定している点を踏まえると,ブランド力についても消費者側のデータを利用することが望ましいと考えられる。そこで,今回の研究では筆者が実施したワイヤレスイヤフォン/ワイヤレスヘッドフォンに関する消費者調査の結果を用いることにした1)。同調査は筆者が質問票を作成し,株式会社マクロミルに委託し,同社のインターネットモニターを用いたインターネットリサーチにより実施したものである。調査対象者は全国の20歳以上の男女で,性・年代別にサンプルを均等割付回収した。20~29歳,30~39歳,40~49歳,50~59歳,60歳以上の5つの年齢区分それぞれについて,男女各42名で,合計420名から有効回答を得ている。調査期間は2019年3月1日より同4日までである。ブランド力には本来多様な側面があるが,標本数が限られている今回のQCAを用いた研究では,当該消費者調査における「ワイヤレスイヤフォン/ワイヤレスヘッドフォンについて代表的な企業といえばどの企業を思い浮かべますか。当てはまるものを全てお選びください。」という質問に対する回答をブランド力の元データとして利用することにした。価格.comにおける掲載状況などから18メーカーを選択肢として表示する助成想起型の設問で,それ以外のメーカーについてはその他欄に記入してもらい,当該メーカーについての回答者数をブランド力の指標とみなした。

次に結果の元データに関してである。Kondo(2018)では結果の元データとして価格.comの売れ筋ランキング欄に掲載されている個別製品の順位を使用した。原因条件に関する元データであるレビュー評価平均点と出所が同じであるという利点があったが,この指標は価格.comにより算出されたものであり,その内容を正確に把握することができないという問題があった。また,ランキング指標を用いることそのものにも課題がある。実際の売上データを収集するのが困難であることから,多くの先行研究では売上ランキングを実際の売上の代理変数として用いている。これは売上ランキングが実際の売上と対数線形関係にあるとみなしたものであるが(Chevalier & Mayzlin, 2006; Ho-Dac et al., 2013),こうした単純化は誤った結論を導くことがあることも指摘されている(Li et al., 2019)。この点についてはQCAの場合には影響は比較的小さいことも考えられるが,今回は以上のような課題を念頭に置き,小売店における販売実績に基づくデータを使用することにした。使用したのは株式会社BCNが全国24社の家電量販店やAmazonなどのECサイトから収集したPOSデータに基づく個別製品の販売量データである2)。このデータは日次で集計されているものであるが,今回の研究は短期的なプロモーションの効果の確認を意図したものではなく,カスタマーレビューと売上の間のある程度安定した関係を明らかにすることを主たる目的としたものであったことから,原因条件の元データであるレビュー評価平均点との時期的な対応も念頭に置き,2021年2月1日から同28日までの1ヶ月間の集計データを使用した。

V. QCA適用に向けての準備

本稿において用いる元データはいずれも量的変数であることから,部分的な成員資格も許容するファジィ集合を想定し,fsQCAを適用することにした。そしてfsQCAに対応するQCAソフトウェアとしてfs/QCAを用いた。結果となる「売れ筋製品」の元データとしては月間販売量,3つの原因条件である「高ブランド力製品」「高満足度製品」「新製品」の元データとしては,ブランド力,レビュー評価平均点,登録後日数をそれぞれ使用した。各製品に関する元データの値はfs/QCAのcalibrate関数を用いたキャリブレーション(較正)によりメンバーシップ値に変換した。

1にそれぞれの元データに関する基本統計量をまとめたが,歪度の絶対値に示されているように,各データの分布は歪んでいるため,データの分布をよく観察し,また,特定の値がもつ意味を考慮することにより,表2のように,完全所属閾値,境界点値,完全非所属閾値を設定した。以下に,QCAにおいて特に重要な意味をもつ境界点値について,その設定理由を記す。

表1

元データの基本統計量

表2

キャリブレーションに際しての閾値・境界点値

結果の元データである月間販売量については,歪度が正の大きな値となっている。これは多くの製品が販売されているが,その中で販売量が多いものは限られており,そうした一部の製品の販売量が非常に大きいことによる。このため,製品が売れ筋とみなせるか否かの目安となる水準を元データの平均値近傍に置いた場合,販売量の面で一定の成果を上げたとみなせる製品は極端に少なくなってしまう。また,その場合,分析も困難となる。そこで今回は中央値に近い200を境界点値とすることにした。

続いて原因条件の元データについてである。ブランド力については,平均値である37.8が有効回答420の1割にも満たない回答率に相当する水準であることを踏まえると,平均値を目安にして境界点値を設定するのは適切ではないと思われた。ある程度広範な消費者にブランド力が認知されているとみなし得るか否かが重要であるとの認識の下,最大値が有効回答の約52%と半数を上回る218であることも踏まえ,境界点値は有効回答の2割に当たる84に設定した。レビュー評価平均点については歪度が負となっているが,これは一部の値が非常に低い製品が平均値を引き下げていることによる。そこで平均値よりも中央値を念頭に置いた上で,満足度が「高い」という方向性を明確にすべく,中央値を僅かにでも上回る4.3を境界点値として設定した。登録後日数については平均値や中央値よりも登録後1年といった消費者にとっての意味の分かり易さを基準にして境界点値を設定した。

なお,結果と各原因条件についての完全所属閾値や完全非所属閾値についてはそれぞれの元データの最大値・最小値なども参考にして設定した。もちろん,境界点値,完全所属閾値,完全非所属閾値の設定に関してはこれが唯一の正解であるというような根拠を求めることは困難である。実際には値を調整して分析結果を確認しつつ妥当と思われる水準を確認していったが,それらの値を想定し得る範囲で動かすことによって,整合度や被覆度に違いは出るものの,分析結果の骨格が変わるようなことはなかった。

VI. 分析結果

売れ筋製品の必要条件に関して行った分析の結果をまとめたものが表3である。素条件あるいはその組み合わせを必要条件として採択する際の整合度の水準に関しては,多くの先行研究において採用されている0.9という値を目安にした。「高ブランド力製品」「高満足度製品」「新製品」のいずれの原因条件も単独では目安となる整合度の値に達していない。2条件の組み合わせの中では「高ブランド力製品または高満足度製品」の整合度が最も高いが,目安となる水準との間には差がある。目安となる整合度にほぼ到達しているとみなせるのが,「高ブランド力製品,高満足度製品,新製品のいずれか」の場合である。その場合,被覆度もKondo(2017)において先行研究に基づいて目安として設定した0.5を上回っていることから,このパターンを必要条件として採択した。すなわち,ブランド力が高いメーカーの製品,満足度の高い製品,新製品のいずれかであることが売れ筋製品であるための必要条件ということになる。

表3

売れ筋製品の必要条件

次に,本題であるブランド力が高い場合のカスタマーレビューの役割を明らかにするために,売れ筋製品の十分条件について確認する。表4は完備真理表である。論理残余は生じていない。Pappas and Woodside(2021)は総事例数150未満の場合の頻度閾値として2を提示しているが,全ての行の事例数がそれ以上となっている。ファジィ集合であるためPRI整合度に注目し,その値が大きい順に原因条件の組み合わせを並べてある。Mattke, Maier, Reis, and Weitzel(2020)に準じて,素条件あるいはその組み合わせを採択する際のPRI整合度は0.75以上,粗整合度は0.85以上を目安とした。上3行の条件組み合わせのPRI整合度および粗整合度の値は目安を大きく上回っており,しかも下5行の値との間には大きな差がある。こうしたことから,結果欄には上3行の条件組み合わせに1を入れ,その他については0を入れるのが適切であると判断した。表5は売れ筋製品の十分条件に関する分析結果である。解は「複雑解=中間解=節約解」であった。解被覆度は0.5をやや下回っているが,QCAにおいて特に重視される解整合度は0.9を超えている。したがって,解に示されているように,「高ブランド力製品かつ高満足度製品」もしくは「高ブランド力製品かつ新製品」であることが,売れ筋製品であるための十分条件とみなし得る。「高ブランド力製品かつ高満足度製品」は売れ筋製品の「不必要だが十分な条件」であり,さらに,本研究で焦点を当てている高満足度製品という原因条件は,その中の「不十分だが必要な部分」であることから,高満足度製品は売れ筋製品のINUS(Insufficient but Necessary part of an Unnecessary but Sufficient)条件ということになる。

表4

売れ筋製品についての完備真理表

表5

売れ筋製品の十分条件

VII. まとめと今後の研究課題

売れ筋製品の十分条件は「高ブランド力製品かつ高満足度製品」もしくは「高ブランド力製品かつ新製品」の2つのパターンより構成されているが,いずれのパターンにおいても高ブランド力製品という原因条件が含まれており,この原因条件の役割の大きさが示されている。その一方で,高ブランド力製品というだけでは売れ筋製品の十分条件とはならないという点もまた重要である。

先行研究ではブランド力が高い製品におけるカスタマーレビューの役割についてはどちらかというと控えめに捉えられていたが,今回の研究において高満足度製品が売れ筋製品のINUS条件となっていることが示された点を踏まえると,その役割は実は重要であるということになる。特に注目すべきは先行研究において注意が払われてこなかった時間的な要素との関係である。高ブランド力製品であれば新製品期にはカスタマーレビューの評価が高くなくとも売れ筋製品となり得ることになる。この点は先行研究において示されてきたようにブランドが単体でもつ影響力の大きさを示しているといえる。しかし,時間的な要素は企業がコントロールできるものではなく,いかなる製品も新製品であり続けることはできない。一方,カスタマーレビューは発売後時間の経過とともに厚みを増していき,情報源としての信頼感も高まっていく。「ブランド力が高いメーカーの製品であったとしても,新製品期間を超えて売れ筋製品であり続けるためにはカスタマーレビューにおいて高い評価を得られるような製品であることが求められる」ということこそ,本研究における考察を通じて明らかにした最も重要な点であり,同時に実務的な示唆でもあるといえる。

分析結果を解釈する上でいくつか注意すべき点もある。1つは今回の分析結果はブランド力が低い製品についてのカスタマーレビューの役割を否定するものではないという点である。今回は売れ筋製品であるか否かという観点から分析を行ったが,ブランド力が低い製品の場合,今回設定した売れ筋とみなされる水準に達しなかったとしても,カスタマーレビューは十分に効果があったとみなせる場合が多いと考えられるためである。同様に,今回の研究は一定の販売量の水準を目安にした売れ筋製品の条件を確認したものであり,ブランド力が高い製品の場合に新製品期においてはカスタマーレビューが役割を果たしていないという意味ではない点にも注意が必要である。

また,先行研究ではカスタマーレビューの位置付けについてどちらかいうとコミュニケーションの問題という観点から論じられていることが多い。確かにそうした側面も重要であるが,カスタマーレビューは企業が直接管理できるものではない。より本質的なのは消費者に評価されるような優れた製品の開発という側面の重要性であると思われる。Ho-Dac et al.(2013)はカスタマーレビューが消費者に重視されることを前提にした場合,先ず重要なのは優れた製品の開発であるとしている。消費者がカスタマーレビューを利用するようになったことによって,そうした側面は一段と重要になったといえよう。

今回の研究はカスタマーレビューが個別製品の売上に及ぼす影響をみているだけであり,それがブランド力にどのような影響を及ばすのかといったところまで考察している訳ではない。今回の分析結果において示されたように,ブランド力が高い場合,品質面で優れているとはいえない製品を販売したとしても,新製品期には売れ筋製品となる可能性がある。しかし,そうした製品を発売した場合,新製品期間が過ぎた後で売れ筋製品から外れてしまう恐れがあることが示された。その場合,単に当該銘柄が売れなくなるというだけではなく,ブランド力に裏付けられた消費者からの信頼に応えきれなかったという意味で,築き上げたブランド力を傷つけることにもなろう。今回はそうした観点からの考察まで行っている訳ではなく,あくまでも個別製品の売上という側面に限定して考察したということも確認しておきたい。

今後の課題としては先ず今回の分析結果の再検証が挙げられる。今回の研究においては高満足度製品が売れ筋製品のINUS条件となっていることが示されるなど,ブランド力が高い製品におけるカスタマーレビューの役割が示されたが,こうした点についての研究成果の蓄積は今後の課題である。したがって,異なる品目のデータ,もしくは同じ品目でも異なるデータを用いて改めて検証する必要がある。

また,原因条件についても,今回用いた原因条件の再検討と新たな原因条件の追加の両面からさらに検討していく必要がある。今回の研究ではカスタマーレビューの定量的な側面の中で平均値に着目したが,新製品の売上を予想するにあたってはばらつきも重要であることが指摘されている(Clemons et al., 2008)。ばらつきやレビュー数の影響についての考察は今後の課題である。ブランド力についても,今回は標本数との関係から単一の指標を用いたが,ブランドの多様な側面が異なった影響を及ぼしている可能性もある。さらに,新たな原因条件の追加という観点からは,Price,Promotion,Placeなど他のマーケティング・ミックス要素も,製品の品質の手掛かり,もしくは購買意図に影響を及ぼすその他の要因という観点から原因条件となり得る。特に,価格の役割については改めて考察する必要があると考えている。

1)  同調査の詳細についてはKondo(2020)を参照のこと。

2)  当該データセットには型番レベルで4,369商品のデータが含まれているが,製品レベルで分析を行うに際して,製品をどのレベルで集計するのかという問題についても検討した。Zhang et al.(2013)は1つのモデルに複数の色の商品がある場合,それぞれを別の標本として扱っている。その理由としては,色が異なれば価格もカスタマーレビューの評価も売上ランキングも異なるからであるとしている。しかし,本研究で用いている価格.comデータの場合,カスタマーレビューは色別の形式にはなっていない。また,本研究では製品の品質と売上の関係に関心がある。同じモデルでも色によって売上に大きな差がある場合が多いが,その差を製品の品質と結び付けるのは適切ではないと考えられるため,色のバリエーションについては販売量を集計して1つの製品として扱うことにした。分析の対象となる62製品について販売量を集計した。

近藤 浩之(こんどう ひろゆき)

東京経済大学経営学部教授。慶應義塾大学経済学部および商学部卒業。同大学院商学研究科修士課程修了,後期博士課程単位取得退学。2008年より現職。

Data Availability Statement

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References
 
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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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