Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Designing Visual Metaphors in Advertisements:
A Fuzzy-Set Qualitative Comparative Analysis (fsQCA) of Cognitive Elaboration and Comprehension
Ryosuke TakeuchiJue Wang
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J-STAGE Data

2022 Volume 42 Issue 1 Pages 28-39

Details
Abstract

視覚的メタファーは,認知的精緻化や理解を促進するために有効な広告表現の1つである。標的市場に広告効果を発揮できる視覚的メタファーを設計する際の指針を提供するために,本研究は,視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力に着目したうえで,視覚的構造の複雑性,概念的類似性,顕在性,言語メッセージ,認知的欲求という5つの要因がどのように組み合わさると,認知的精緻化や理解を促進するかについて探究する。具体的には,ファジィ集合質的比較分析を用いることによって,認知的精緻化を促進する条件組み合わせは,視覚的構造の高い複雑性,低い概念的類似性,低い顕在性,言語メッセージの欠如,強い認知的欲求であることを示す。さらに,理解を促進する条件組み合わせは,視覚的構造の低い複雑性,高い概念的類似性,高い顕在性,言語メッセージの高い明示性であることも示す。

Translated Abstract

A visual metaphor is an advertising creative that can evoke cognitive elaboration and improve comprehension. To offer useful guidance in designing effective visual metaphors for target markets, the present research focuses on the cognitive effort required to interpret visual metaphors and explores how configurations of five factors can increase cognitive elaboration and comprehension. These factors are visual structure complexity, conceptual similarity, explicitness, verbal messages, and need for cognition. Our fuzzy-set qualitative comparative analysis reveals that visual metaphor ads evoke increased cognitive elaboration in the presence of visual structure complexity and need for cognition, and in the absence of conceptual similarity, explicitness, and verbal messages. The analysis also shows that consumers accurately comprehend visual metaphor ads that include conceptual similarity, explicitness, and direct verbal messages, and do not have visual structure complexity.

I. 問題意識

広告を実施するマーケターにとって,消費者の思考を喚起したり,製品の属性や便益を彼らに理解させたりすることは,非常に重要な目標である。それを達成するために有効な広告表現の1つは,視覚的メタファーである。「メタファーの本質は,ある事柄を通して別の事柄を把握し経験すること」(Lakoff & Johnson, 2003, p. 5)であり,ここでいう前者の事柄は起点領域,後者の事柄は目標領域と呼ばれる。広告における視覚的メタファーの場合,消費者にとって馴染み深い対象が起点領域に設定される一方,製品(または製品を使用する消費者)が目標領域に設定されることが一般的である。例えば,洗剤ブランドTideの広告においては,青空と液体洗剤が計量カップ内で一体化した状態で描かれている。この視覚的メタファーを解釈しようとする消費者は,起点領域(青空)と目標領域(液体洗剤),さらには両者の共通点(清々しさ)を特定していく(Peterson, 2019)。そのような過程で思考は喚起され,最終的には,液体洗剤によって青空のような清々しさを感じることができると理解するのである。

強調すべきことに,視覚的メタファーを含む広告には様々な要因が存在する。特に強い学術的関心が向けられてきた要因は,起点領域と目標領域の描かれ方の種類を表す視覚的構造の複雑性である(Gkiouzepas & Hogg, 2011; Madupu, Sen, & Ranganathan, 2013; Mohanty & Ratneshwar, 2015; Peterson, 2019; Phillips & McQuarrie, 2004; Ryoo, Jeon, & Sung, 2021; van Mulken, le Pair, & Forceville, 2010; van Mulken, van Hooft, & Nederstigt, 2014)。他にも,起点領域と目標領域の概念的類似性(Gkiouzepas & Hogg, 2011; Mohanty & Ratneshwar, 2015),目標領域がパッケージ・シンボル・ロゴであることを表す顕在性(Chang & Yen, 2013),視覚的メタファーに添えられている言語メッセージ(Ang & Lim, 2006; Jeong, 2008; McQuarrie & Phillips, 2005; Ryoo et al., 2021)といった要因が挙げられる。

このような点に注目すると,視覚的メタファーを設計するマーケターは,標的市場に広告効果を発揮できるよう,消費者要因を考慮しながら,上記の諸要因を組み合わせていく必要があるといえる。しかし,既存研究が着目したのは,それらの一部に限られている。それゆえ,視覚的メタファーと消費者に関する諸要因がどのように組み合わさると,思考が喚起される程度を指す認知的精緻化や,理解を促進するかについて探究されていない。本研究は,ファジィ集合質的比較分析(fsQCA)を用いて,この問いに解答する。

本研究の貢献は,次の3点である。第一に,認知的努力(Payne, Bettman, & Johnson, 1993)という概念を援用することによって,視覚的メタファーと消費者に関する諸要因の役割を統一的な視点から捉えられるようにする。第二に,その視点に基づき,認知的精緻化や理解を促進する条件組み合わせを識別する。第三に,視覚的メタファーを設計するマーケターが,認知的精緻化や理解を促進するための指針を提供する。

II. 既存研究レビュー

1. 広告における視覚的メタファー

本節においては,表1のとおり,視覚的構造の複雑性,概念的類似性,顕在性,言語メッセージ,認知的欲求が認知的精緻化や理解に及ぼす影響に関する既存研究を概観する。同表の(+)は正の影響,(–)は負の影響を表す。「*」には次々段落において言及する。

表1

認知的精緻化や理解に対する5つの要因の影響

視覚的構造は,起点領域と目標領域の描かれ方であり,両者が個別に描かれているならば並置,両者が一体化した状態で描かれているならば融合,いずれか一方しか描かれていないならば置換と呼ばれる(Phillips & McQuarrie, 2004)。前章において言及したTideの広告が該当するのは,融合である。重要なことに,一体化した起点領域と目標領域を消費者に分離させる点において,並置より融合の方が複雑である。また,描かれている一方の領域に基づき描かれていない他方の領域が何であるか消費者に推測させる点において,並置や融合より置換の方が複雑である(Phillips & McQuarrie, 2004, p. 118)。視覚的構造の複雑性が高い場合,消費者が起点領域を通して目標領域を容易に解釈できないため,認知的精緻化が高く(Phillips & McQuarrie, 2004),理解が低い(Mohanty & Ratneshwar, 2015; van Mulken et al., 2014)ことが示されている。しかし,「思考を巡らせ楽しむ個人の傾向」(Cacioppo & Petty, 1982, p. 116)と定義される認知的欲求が強い場合,視覚的構造の複雑性が高いとしても理解は高いことも示されている(Mohanty & Ratneshwar, 2015)。

概念的類似性は,「メタファーに用いられる2つの対象(起点領域と目標領域)の関連性の程度」(Gkiouzepas & Hogg, 2011, p. 106,本研究の著者が括弧内を補足)と定義される。例えば,Tideの広告の目標領域である液体洗剤は,清々しさを感じさせる点において起点領域の青空と関連しているため,高い概念的類似性を知覚する消費者が多いであろう。概念的類似性が高い場合,消費者が起点領域を通して目標領域を容易に解釈できるため,理解は高く,その水準は認知的欲求が強い場合に一層高いことが示されている(Mohanty & Ratneshwar, 2015)。なお,表1の「*」に関して,論拠は不明確であるものの,中程度以上の概念的類似性は,認知的精緻化に対する視覚的構造の複雑性の正の影響が発生するための前提条件であるという見解も存在する(Gkiouzepas & Hogg, 2011)。

顕在性は,目標領域がパッケージ・シンボル・ロゴであることを表す(Chang & Yen, 2013, pp. 80–81)。例えば,Tideの広告の目標領域である液体洗剤は,上記3つのいずれでもないため,視覚的メタファーは顕在的ではなく潜在的である。ただし,潜在的な視覚的メタファーを含む広告の隅などの目立たない箇所には,上記3つのいずれかが描かれていることが多く(Chang & Yen, 2013, p. 80),Tideの広告でもそうである。本研究の著者が知る限り,認知的精緻化や理解に対する顕在性の影響は検討されていない。

言語メッセージは,まるで錨が船舶を一定の範囲に留めるように,視覚的メタファーの意味を特定することから,アンカー(anchor)とも呼ばれる。言語メッセージが添えられている場合,消費者が起点領域を通して目標領域を容易に解釈できるため,認知的精緻化が低いことが示されている(Jeong, 2008; McQuarrie & Phillips, 2005)。また,製品属性に直接的に言及する言語メッセージは明示的である一方,そうでない言語メッセージは暗示的であると見なすこともある(Ryoo et al., 2021)。例えば,Tideの広告の“The freshness of the outdoors. Now in liquid form.”という言語メッセージは,清々しさ(freshness)という製品属性に直接的に言及しているため,明示的であるといえる。

2. 意思決定方略に必要な認知的努力

前章において言及したとおり,本研究は,認知的精緻化や理解を促進する条件組み合わせを識別する際,認知的努力という概念を援用する。この概念は,ブランドの比較や選択の方法(以下,意思決定方略)を特徴づけることで知られているため,本節においては,意思決定方略に必要な認知的努力に関する既存研究を概観する。その際に例示する方略は,等加重型方略,つまり製品属性の水準の和をブランドごとに算出して,その値が最も高いブランドを選択する方略である(Bettman, Johnson, & Payne, 1991, p. 59)。

意思決定方略に必要な認知的努力の水準は,基本的情報処理という最小単位の情報処理の総数である。例えば,等加重型方略は,(1)製品属性の水準の読込,(2)製品属性の水準の加算,(3)製品属性の水準の和の比較という基本的情報処理によって構成される(Payne et al., 1993, p. 82)。製品属性1~2を含有するブランド1~2を比較する状況においては,ブランド1を対象に2個の(1)と1個の(2),ブランド2を対象に2個の(1)と1個の(2),製品属性の水準の和同士を対象に1個の(3)が必要である。これらの基本的情報処理の総数7が,上記の状況において等加重型方略に必要な認知的努力の水準である。

また,製品属性やブランドの数が増加すると,意思決定方略に必要な認知的努力の水準も増加する(Bettman, Luce, & Payne, 1998, pp. 199–200; Payne et al., 1993, pp. 135–136)。例えば,等加重型方略の場合,前段落の状況より製品属性の数が多い状況においては,基本的情報処理の(1)と(2)が多く必要であり,ブランドの数が多い状況においては,(1)~(3)が多く必要である分,認知的努力の水準は高い。

さらに,消費者が投入可能な認知的努力の水準は,制約されることがある。このような制約をもたらす要因の1つは,時間的圧力である(Bettman et al., 1998, p. 196; Payne et al., 1993, p. 96)。意思決定の時間が限られている状況においては,一定水準以下の認知的努力しか投入できない可能性が生じる。例えば,この水準を,等加重型方略に必要な認知的努力の水準が超過している場合,この方略は選択可能な意思決定方略の中から除外される。

III. 仮説

1. 視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力

(1) 視覚的メタファーに関する4つの要因の役割

認知的精緻化や理解を促進する条件組み合わせを識別するに先立って,視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力という視点から,視覚的構造の複雑性,概念的類似性,顕在性,言語メッセージそれぞれの役割(本項)と,認知的欲求の役割(次項)を吟味する。その際,視覚的メタファーを解釈しようとする消費者は,(1)起点領域の特定,(2)目標領域の特定,(3)両者の共通点の特定を行うと仮定する(Peterson, 2019)。

視覚的構造が並置である場合とは異なり,融合である場合,起点領域も目標領域も本来の状態で描かれていないため,消費者にとって各領域を特定することは困難であると考えられる。また,視覚的構造が並置や融合である場合とは異なり,置換である場合,一方の領域しか描かれていないだけでなく,他方の領域が何であるか推測することも必要であるため,消費者にとって後者の領域を特定することは非常に困難であると考えられる。それゆえ,視覚的構造の複雑性は,Peterson(2019, p. 90)も暗示するとおり,(1)起点領域の特定や(2)目標領域の特定に必要な認知的努力の水準を高めるであろう。

概念的類似性は,(3)起点領域と目標領域の共通点の特定に必要な認知的努力の水準を低めるであろう。というのも,双方の領域が関連している場合,消費者は,多くの共通点を容易に想起できると考えられるためである。

顕在性は,(2)目標領域の特定に必要な認知的努力の水準を低めるであろう。というのも,目標領域に設定されるパッケージ・シンボル・ロゴは,広告においてマーケターが強調することを望む情報であるからこそ,視覚的メタファーを解釈する際に重要であると消費者が判断する結果,それに注意を向けやすいと考えられるためである。

言語メッセージが添えられていない場合とは異なり,添えられている場合,消費者は視覚的メタファーを解釈する際に画像情報だけでなく,起点領域・目標領域・両者の共通点のいずれかに関する言語情報も活用できるため,各領域やそれらの共通点を容易に特定できると考えられる。それゆえ,言語メッセージの存在は,その内容次第で,(1)起点領域の特定,(2)目標領域の特定,または(3)両者の共通点の特定に必要な認知的努力の水準を低めるであろう。また,言語メッセージが暗示的である場合とは異なり,明示的である場合,起点領域と目標領域の共通点としての製品属性が強調されるため,消費者は,両者の共通点を容易に特定できると考えられる。それゆえ,言語メッセージの明示性は,(3)起点領域と目標領域の共通点の特定に必要な認知的努力の水準を低めるであろう。

(2) 認知的欲求の役割

以上の4つの要因の役割は,認知的努力の水準を変化させるため,意思決定における製品属性やブランドの数の役割に類似している。それに対して,認知的欲求は,消費者が投入可能な認知的努力の水準の制約をもたらすと考えられる。この役割は,意思決定における時間的圧力の役割(Bettman et al., 1998; Payne et al., 1993)に類似している。具体的には,認知的欲求が弱い場合,消費者は視覚的メタファーの解釈に一定水準以下の認知的努力しか投入できない可能性が高い。それゆえ,その水準を超過する認知的努力が必要な解釈は行わないであろう。他方,認知的欲求が強い場合,そのような制約は生じないであろう。

2. 認知的精緻化や理解を促進する条件組み合わせ

視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力の水準が高ければ,認知的精緻化が促進されやすいと考えられる。前節の議論を踏まえると,認知的努力の水準を高める条件組み合わせは,視覚的構造の高い複雑性,低い概念的類似性,低い顕在性,言語メッセージの欠如であるといえる。このように高水準の認知的努力を投入できるのは,認知的欲求の強い消費者に限られるはずである。

他方,視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力の水準が低ければ,理解が促進されやすいと考えられる。前節の議論を踏まえると,認知的努力の水準を低める条件組み合わせは,視覚的構造の低い複雑性,高い概念的類似性,高い顕在性,言語メッセージの高い明示性であるといえる。このように低水準の認知的努力を投入できるのは,認知的欲求の強い消費者と弱い消費者の双方であるため,条件組み合わせの中に認知的欲求は含めない。

以上より,次の仮説1~2を導出する。

仮説1:視覚的構造の高い複雑性,低い概念的類似性,低い顕在性,言語メッセージの欠如,強い認知的欲求という条件組み合わせは,高い認知的精緻化の十分条件である。

仮説2:視覚的構造の低い複雑性,高い概念的類似性,高い顕在性,言語メッセージの高い明示性という条件組み合わせは,高い理解の十分条件である。

IV. データの収集

1. 事前テスト

(1) 事前テスト1:視覚的構造の複雑性と顕在性

視覚的構造の複雑性,顕在性,言語メッセージを操作するために事前テスト1~2を実施した(概念的類似性と認知的欲求については実験において測定)。事前テスト1の目的は,視覚的構造の複雑性と顕在性の操作であった。第一に,実験用ブランドとして,McIlhenny社のTABASCO®という実在するブランドを選定した。その理由は,(1)多数の既存研究が実在するブランドを用いた点(Chang & Yen, 2013; Gkiouzepas & Hogg, 2011; Jeong, 2008; Madupu et al., 2013; Ryoo et al., 2021),(2)TABASCO®の広告において視覚的メタファーが積極的に採用されている点,(3)それらの広告は海外向けであり,本研究の実験参加者の大半にとって未知である可能性が高い点である。

第二に,オンライン上の画像検索を通じて,視覚的メタファーを含むTABASCO®の広告の画像を33枚収集した。そのうえで本研究の著者1名が,マーケティング論以外を専攻する大学院生2名それぞれとの議論を通じて,視覚的構造の複雑性の3水準(並置/融合/置換)と顕在性の2水準(潜在/顕在)を掛け合わせた6類型のいずれかに各広告を分類した(Madupu et al., 2013)。著者2名で分類の妥当性を検討した結果,並置・潜在0枚,並置・顕在3枚,融合・潜在1枚,融合・顕在12枚,置換・潜在11枚,置換・顕在6枚という結論に至った。並置・潜在が0枚であったため,著者1名がPhotoshop CCを用いてTABASCO®の広告素材などを編集することによって,並置・潜在の候補を新たに3枚作成した。別の著者1名,上記の大学院生2名それぞれとの再議論を通じて,これらの広告を並置・潜在に分類できることを確認した。

第三に,2021年9~10月に2回のオンライン調査を実施した。並置・潜在の広告3枚の作成に時間を要したため,その他の広告33枚を調査1,並置・潜在の広告3枚を調査2の対象に設定した。調査1の標本は,性別と年代が偏らないよう調査会社によって抽出された90名であった(男性53.33%;20代10.00%,30代12.22%,40代14.44%,50代32.22%,60代17.78%,70代13.33%)。作業の負荷を軽減するために,広告33枚を三等分にして,各回答者には広告11枚を分類してもらった。調査2の標本は,同じ要領で抽出された別の90名であった(男性46.67%;10~20代17.78%,30代13.33%,40代15.56%,50代15.56%,60代17.78%,70代12.22%,80代7.78%)。調査1~2ともに,上記の6類型の定義と具体例,および,各広告の起点領域と目標領域を伝えたうえで,6類型のいずれかに各広告を分類してもらった(Chang & Yen, 2013; Madupu et al., 2013)。

第四に,事前分類との一致率が最も高い広告を類型ごとに選定した。表2のとおり,すべての類型において,事前分類との一致率p^は,分類が全く無作為であった場合の一致率0.17より高かったため,選定した6枚の広告(以下,実験用広告)が事前テスト1を通過したと判断した。なお,同表の「広告の意味」列には,便宜的に直喩を用いて「TABASCO®の辛さは~」に続く内容を記載している。また,視覚的構造が置換である実験用広告に関して,「*」付きの各領域は,画像としては描かれていない。

表2

実験用広告

(2) 事前テスト2:言語メッセージ

事前テスト2の目的は,言語メッセージの操作であった。第一に,TABASCO®の実際の広告とウェブサイトを参考にして,すべての実験用広告に使用可能な言語メッセージの候補を考案した。明示的メッセージの候補は,「衝撃の辛さは従来品の約10倍」と「メキシコ産唐辛子は衝撃の辛さ」であった(ともに辛さという製品属性への直接的な言及あり)。暗示的メッセージの候補は,「感覚を爆発させよ」と「あなたの舌が叫び出す」であった(ともに製品属性への直接的な言及なし)。Photoshop CCを使用することによって,元々言語メッセージが添えられていた場合はそれを消去したうえで,上記の4候補を各広告に追加した。

第二に,2021年11月にオンライン調査を実施した。標本は,事前テスト1に未参加であり,性別と年代が偏らないよう調査会社によって抽出された100名であった(男性47.00%;10代4.00%,20代11.00%,30代14.00%,40代20.00%,50代14.00%,60代18.00%,70代13.00%,80代6.00%)。言語メッセージの明示性を測定するために,「意味を理解しづらかった-意味を理解しやすかった」と「間接的だった-直接的だった」(Ryoo et al., 2021を一部修正)という質問項目に7点SD尺度(1:対語の左側~7:対語の右側)で回答してもらった(α=0.89, CR=0.95, AVE=0.90)。

第三に,上記の2個の質問項目の平均の差が最も大きくなるペアとして,明示的メッセージ「メキシコ産唐辛子は衝撃の辛さ」(M=3.71, SD=1.21, 95%CI[3.47, 3.95])と,暗示的メッセージ「感覚を爆発させよ」(M=3.48, SD=1.27, 95%CI[3.22, 3.73])を選定した。前者の平均は後者の平均より高かったため,両者が事前テスト2を通過したと判断した(t[99]=1.89,片側p=0.03,Cohen’s d=0.19,Hedges’s g=0.19)。

2. 実験

(1) 計画

2021年12月にオンライン実験を実施した。標本は,事前テスト1~2に未参加であり,性別と年代が偏らないよう調査会社によって抽出された180名であった(男性50.00%;20代15.56%,30代19.44%,40代22.78%,50代20.00%,60代22.22%)。実験内容に注意を向けていたか確認するために,「5を選んでください」という注意チェック(1~7のいずれかを選択)を実験の中盤に実施して,正答した者のみが標本を構成するよう調査会社に依頼した。実験計画は,3(視覚的構造の複雑性:並置/融合/置換)×2(顕在性:潜在/顕在)×3(言語メッセージ:なし/暗示/明示)の被験者間実験計画であった。

(2) 手続

第一に,合計18群に実験参加者180名を10名ずつ割り当てた。そのうえで,要求特性の効果を最小化するために,ある企業が計画中のキャンペーンに使用予定の広告を閲覧して質問項目に回答してもらうという架空の実験目的を伝えた(Chang & Yen, 2013)。

第二に,実験参加者自身のペースで,普段と同じように1枚の実験用広告を閲覧してもらった(Madupu et al., 2013; Mohanty & Ratneshwar, 2015)。その後,全く同じデザインの広告を実験参加前に閲覧したことがあるか否かについて,「はい/いいえ」の2択で回答してもらった。180名の内,「はい」と回答したのは6名であった(並置・顕在・メッセージなし,融合・潜在・暗示的メッセージ,置換・潜在・明示的メッセージ,置換・顕在・明示的メッセージの各1名と,融合・顕在・明示的メッセージの2名)。広告の閲覧経験が認知的精緻化や理解に影響を及ぼすことを防ぐために,これら6名のデータを以降の分析対象から除外した(van Mulken et al., 2010)。

第三に,認知的欲求,認知的精緻化,注意チェック,理解,概念的類似性の順で質問項目に回答してもらった。回答終了後,実際の実験目的は広告表現の検討であった点と,実在する広告に本研究の著者が編集を加えた広告を閲覧してもらった点を伝えた。

(3) 測定

質問項目は,表3のとおりである。認知的欲求と認知的精緻化の測定には7点リッカート尺度(1:全くそうでない~7:非常にそうである),理解の測定には自由記述方式,概念的類似性の測定には7点SD尺度(1:対語の左側~7:対語の右側)を用いた。理解に関する回答が認知的精緻化を高めることを防ぐために,認知的精緻化の後に理解を測定した。また,概念的類似性の質問項目に回答してもらう際,実験用広告の起点領域と目標領域を伝えたため,その情報が理解を高めることを防ぐために,理解の後に概念的類似性を測定した。

表3

質問項目

実験後,本研究の内容を把握していないコーダー2名に報酬を支払い,理解の回答522個(180名から6名を除いた174名×3個の自由記述)の分類作業を進めた。第一に,視覚的メタファーの定義,実験用広告の起点領域・目標領域・両者の共通点,分類方法と具体例を解説したうえで,疑問点がないことを確認した。第二に,各コーダー単独で(1)起点領域・目標領域・両者の共通点の3個を全く含まない回答,(2)1個を含む回答,(3)2個を含む回答,(4)3個とも含む回答のいずれかに各回答を分類してもらった。第三に,重み付きκ係数を算出した結果,その値は0.89(p=0.00)であったため,分類の信頼性は高いことが示された。第四に,分類が一致しなかった68個の回答を対象に,コーダー2名同士の議論によって分類を一致させるよう依頼した。第五に,上記の(1)~(4)を1~4点にそれぞれ変換したうえで,各実験参加者の最大値をその参加者の理解の得点と見なした。

記述統計量と相関係数の有意性は,表4のとおりである。相関行列において,「*」はp<0.01,対角線上の値はAVEの正の平方根を表す。

表4

記述統計量と相関係数の有意性

V. 分析結果

1. キャリブレーション

fsQCAのガイドラインを提示したPappas and Woodside(2021)に倣って,ファジィ集合メンバーシップ値の完全非所属,境界点,完全所属の閾値を設定した。具体的には,7点尺度の複数の質問項目によって測定した概念的類似性,認知的欲求,認知的精緻化については,各質問項目の平均を算出した後,2点を完全非所属,4点を境界点,6点を完全所属の閾値に設定した。1~4点で得点化した理解については,5%点の値が1点,50%点の値(中央値)が2点,95%点の値が3点であったため,それぞれを完全非所属,境界点,完全所属の閾値に設定した。そのうえで,分析ソフトウェアfs/QCA 3.0のキャリブレーション(較正)機能を用いて,元の値をファジィ集合メンバーシップ値に変換した。

上記の研究が,実験において操作した要因の扱い方に言及していなかったため,実験を実施したfsQCA研究であるOrdanini, Parasuraman, and Rubera(2014)に倣って,視覚的構造の複雑性(並置/融合/置換)と言語メッセージ(なし/暗示/明示)については,括弧内の左側の水準,中央の水準,右側の水準のファジィ集合メンバーシップ値をそれぞれ0.00,0.50,1.00に設定した。顕在性については,潜在と顕在のファジィ集合メンバーシップ値をそれぞれ0.00と1.00に設定した。

2. 必要条件の分析

視覚的構造の高い/低い複雑性,高い/低い概念的類似性,高い/低い顕在性,言語メッセージの高い明示性/言語メッセージの欠如,強い/弱い認知的欲求が,高い認知的精緻化や高い理解の必要条件でないかについて確認した。必要条件に関する分析の結果,各原因条件の整合度は,高い認知的精緻化の場合に0.46~0.75(被覆度0.38~0.66),高い理解の場合に0.44~0.72(被覆度0.42~0.69)であった。すべての整合度が0.90を下回ったため,各原因条件は,高い認知的精緻化の必要条件でも高い理解の必要条件でもないことが示された。

3. 十分条件の分析

(1) 仮説のテスト

仮説1をテストするために,視覚的構造の高い複雑性,低い概念的類似性,低い顕在性,言語メッセージの欠如,強い認知的欲求という条件組み合わせのファジィ集合メンバーシップ値を算出した。その値(図1左側のプロット図の横軸)と高い認知的精緻化(同図の縦軸)の関係性を分析した結果,整合度0.81は0.75を上回ったため,仮説1「視覚的構造の高い複雑性,低い概念的類似性,低い顕在性,言語メッセージの欠如,強い認知的欲求という条件組み合わせは,高い認知的精緻化の十分条件である」は支持された(被覆度0.15)。

図1

仮説1~2のプロット

仮説2をテストするために,視覚的構造の低い複雑性,高い概念的類似性,高い顕在性,言語メッセージの高い明示性という条件組み合わせのファジィ集合メンバーシップ値を算出した。その値(図1右側のプロット図の横軸)と高い理解(同図の縦軸)の関係性を分析した結果,整合度0.79は0.75を上回ったため,仮説2「視覚的構造の低い複雑性,高い概念的類似性,高い顕在性,言語メッセージの高い明示性という条件組み合わせは,高い理解の十分条件である」は支持された(被覆度0.16)。

(2) 中心条件と周辺条件

分析結果をより詳細に考察するために,中心条件と周辺条件の識別に進んだ。高い認知的精緻化に関する真理表を構成する際,25=32個の論理的に考えうるすべての条件組み合わせのファジィ集合メンバーシップ値を算出したうえで,その値が0.5より大きい事例数を条件組み合わせごとにカウントした。事例数1以上の条件組み合わせを対象に整合度を算出した後,事例数の区切り値を3以上,整合度の区切り値を0.75以上に設定した。同様の手順で,高い理解に関する真理表も構成した。

真理表を構成した後,中間解と節約解を導出した。前者を導出する際は,上記のとおり支持された仮説1~2と一貫性のある論理残余のみを使用した。中間解と節約解をもとに識別した中心条件と周辺条件は,表5のとおりである。●は原因条件の存在,は原因条件の欠如を表す。また,比較的大きな●やは中心条件,比較的小さな●やは周辺条件を表す。

表5

中心条件と周辺条件

高い認知的精緻化に関する条件組み合わせは1個であり,仮説1のそれと同一であった(整合度=解整合度0.81,粗被覆度=固有被覆度=解被覆度0.15)。中心条件は,(1)低い概念的類似性かつ強い認知的欲求,(2)低い顕在性かつ強い認知的欲求であった。強い認知的欲求は,両者に含まれるため,認知的精緻化を促進する際に極めて重要な役割を果たしたと考えられる。また,認知的欲求の強い消費者は,視覚的メタファーに関する諸要因の中でも,特に概念的類似性や顕在性に注意を向けており,それらが低く難解な視覚的メタファーの意味を読み解こうとする過程で思考を強く喚起した可能性がある。

他方,高い理解に関する3個の条件組み合わせの解整合度は0.75,解被覆度は0.39であった。以下においては,整合度が0.75を上回った条件組み合わせ2(整合度0.78,粗被覆度0.30,固有被覆度0.12)と条件組み合わせ3(整合度0.81,粗被覆度0.16,固有被覆度0.02)について考察する。中心条件は,(1)高い概念的類似性かつ高い顕在性,(2)高い顕在性かつ言語メッセージの高い明示性であった。高い顕在性は,両者に含まれるため,理解を促進する際に極めて重要な役割を果たしたと考えられる。また,認知的欲求の強い消費者は,概念的類似性という画像情報に基づき理解を試みた(条件組み合わせ2)のに対して,認知的欲求の弱い消費者は,明示的言語メッセージという言語情報に基づき理解を試みた(条件組み合わせ3)可能性がある。さらに,認知的欲求の強い消費者(条件組み合わせ2)とは異なり,認知的欲求の弱い消費者が視覚的メタファーを理解するには,並置という最も単純な視覚的構造が重要であるといえる(条件組み合わせ3)。

VI. 総括

1. 貢献

本研究は,視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力の重要性を強調することによって,視覚的構造の複雑性,概念的類似性,顕在性,言語メッセージ,認知的欲求それぞれの役割を統一的な視点から捉えた。この発想は,視覚的メタファーを巡る広範な現象を統一的に説明できる理論の基礎になりうるかもしれない。また,仮説1として,視覚的構造の高い複雑性,低い概念的類似性,低い顕在性,言語メッセージの欠如,強い認知的欲求という条件組み合わせが,高い認知的精緻化の十分条件であることを示した。仮説2として,視覚的構造の低い複雑性,高い概念的類似性,高い顕在性,言語メッセージの高い明示性という条件組み合わせが,高い理解の十分条件であることも示した。

以上の知見は,上記の諸要因の一部のみに着目した既存研究の知見(表1)を発展させるだけでなく,視覚的メタファーを設計する際の3種類の指針を含意している。第一に,標的市場を構成する消費者の認知的欲求が強い場合,認知的精緻化の促進を目指すマーケターには仮説1の条件組み合わせ1を推奨する一方,理解の促進を目指すマーケターには条件組み合わせ2を推奨する。前者のマーケターは,概念的類似性と顕在性を意図的に低めること(中心条件),後者のマーケターは,概念的類似性と顕在性を高めること(中心条件)に資源を集中させることが望ましい。第二に,標的市場を構成する消費者の認知的欲求が弱い場合,理解の促進を広告目標に設定したうえで,顕在性と言語メッセージの明示性を高めること(中心条件)に資源を多く投入しながら,条件組み合わせ3を実現すると効果的である。第三に,標的市場を構成する消費者の認知的欲求が不明である場合,理解の促進を広告目標に設定したうえで,仮説2の条件組み合わせを実現すると効果的である。

2. 限界と今後の研究課題

本研究は,認知的精緻化と理解の一方を促進する条件組み合わせは識別できたものの,双方を同時に促進する条件組み合わせまでは識別できなかった。それゆえ,認知的精緻化と理解の水準の総計を最大化するような条件組み合わせについても仮説化を試みる必要があった。また,実験用広告において,ブランドや製品属性は統制できたものの,起点領域と目標領域の組み合わせや視覚的メタファーの意味までは統制できなかった。それゆえ,これらの要因も厳密に統制した実験を実施する必要があった。

今後の研究課題は,認知的欲求以外で,マーケターが市場細分化に利用できる要因について検討することである。視覚的メタファーの解釈に必要な認知的努力との関係性を明確化できれば,認知的欲求以外の要因によって特徴づけられる標的市場に対しても効果的な視覚的メタファーを設計できる可能性が開けるであろう。

謝辞

本研究の公表に際して,慶應義塾大学商学部の小野晃典先生に謝意を表したい。本研究は,JSPS科研費JP19K13833およびJST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2123の助成を受けて実施された。

竹内 亮介(たけうち りょうすけ)

東洋大学経営学部講師。2019年 慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。博士(商学)。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て,2018年より現職。専門分野は,広告論,消費者行動論。

王 珏(おう かく)

中華人民共和国湖南省岳陽市生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程在籍。2022年 同研究科修士課程修了。修士(商学)。専門分野は,広告論,消費者行動論。

Data Availability Statement

全てのエビデンスデータはJ-STAGE Data で利用できます。(リンク先)The data analysis file and all annotator data files are available in J-STAGE Data, (link here)


References
 
© 2022 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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