Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Investigating Distribution Channel Strategies for Increased Profitability:
A QCA Approach
Ryuta Ishii
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML
J-STAGE Data

2022 Volume 42 Issue 1 Pages 52-64

Details
Abstract

流通チャネル戦略に関する先行研究は,(1)企業成果として売上拡大のような有効性指標を用いてきた,(2)個々のチャネル戦術の組み合わせの効果を検討してこなかった,(3)チャネル構造の影響を看過してきた,という問題点を抱えている。本論は,これらの問題点を解決するために,結果として収益性を設定した上で,6つのチャネル戦術(関係特定的投資,コミュニケーション,パワー,コンフリクト,チャネル統合,および,デュアル・チャネル)の組み合わせの効果を探究する。ファジィ集合QCA(fsQCA)を実行した結果,高収益を生み出す4つのチャネル戦略パターンを同定することに成功した。本論は,個別のチャネル戦術ではなく,それらを組み合わせたチャネル戦略こそが,企業成果を左右するということを示唆することによって,チャネル研究の進展に貢献を成している。

Translated Abstract

Prior research on distribution channel strategies has limitations of: (1) use of effectiveness indicators such as sales growth as outcomes, (2) no examination of the combination effects of channel tactics, and (3) overlooking the effects of channel structure. This paper aims to address these limitations by investigating the impact of a combination of six channel tactics: relationship-specific investment, communication, power, conflict, channel integration, and dual channels. The results of a fuzzy set QCA (fsQCA) show that there are four patterns of channel strategies that generate high profitability. This paper contributes to the advancement of channel research by suggesting that combinations of channel strategies, rather than individual channel tactics, determine firm performance.

I. はじめに

流通チャネル戦略は,マーケティング・ミックスのうちのPlaceに該当する戦略であり,その特徴の一つは,企業間の活動や関係性とかかわっているということである(Anderson & Coughlan, 2002; Watson, Worm, Palmatier, & Ganesan, 2015)。企業間の活動を首尾よく調整し良好な関係性を保つには,大規模かつ長期的な投資が必要である。チャネル戦略はこうした特徴を有するため,ひとたび効果的な戦略を確立することができれば,それは,競合他社には模倣されにくい競争優位の源泉となる。したがって,効果的なチャネル戦略の策定と実行は企業の生存にとって必要不可欠なのである(Palmatier, Stern, & El-Ansary, 2016)。

流通チャネル戦略に関する先行研究は,流通チャネル戦略を構成する個々の意思決定,すなわち,チャネル戦術が企業成果に及ぼす影響について検討し,豊富な研究知見を生み出してきた。例えば,製造業者と流通業者の間で関係特定的投資を行うことによって,製造業者は,他のチャネル関係では生み出せないような,差別化された製品やサービスを提供することができるようになり,高い企業成果を獲得することができる(Choi & Hara, 2018; Jap, 2001)。また,チャネルパートナーとの適時かつ頻繁なコミュニケーションを行うことによって,製造業者は,互いの現状や方針について共有することができ,強固な協力関係を形成して,競争優位を達成することができる(Mohr & Spekman, 1994; Trada & Goyal, 2020)。他にも,チャネルパワーの獲得やコンフリクトの解消が,企業成果を左右するということが見出されてきた(Samaha, Palmatier, & Dant, 2011; Yuki, 2014)。

このように,先行研究は,チャネル戦術が企業成果に及ぼす影響を吟味することによって,チャネル研究の進展に貢献してきたものの,次の3つの問題点を抱えてしまっている。第1に,先行研究の多くは,企業成果として,売上拡大や目標達成のような有効性指標を用いており(e.g., Choi & Hara, 2018; Jap, 2001),利益成長率や収益性のような,コストを考慮に入れた効率性指標を用いてこなかった。それゆえ,先行研究は,特定のチャネル戦術が便益を生み出すということを示してきた一方で,それがコストに見合った便益を生み出しうるのか否かについては,ほとんど知見を提供することができていない。チャネルマネジャーが,投資回収率の観点から見てどのチャネル戦術に注力するべきかに関する示唆を提示するためには,効率性指標を説明対象として設定することが求められるであろう。

第2に,先行研究は,個々のチャネル戦術の組み合わせの効果,すなわち,チャネル戦略の効果について,ほとんど検討してこなかった。この効果を理解することは,極めて重要であろう。というのも,個々のチャネル戦術は,企業成果を高める可能性も低める可能性もあるということが,これまでに見出されてきたからである。例えば,関係特定的投資は,製品差別化を実現することで企業成果を高めると主張する研究がある一方で(Choi & Hara, 2018; Jap, 2001),取引相手の機会主義的行動を誘発することで企業成果を低めると主張する研究もある(Crosno, Manolis, & Dahlstrom, 2013; Trada & Goyal, 2017)。同様に,チャネル間のコンフリクトは,取引相手のコミットメントを引き下げることで企業成果を低めると主張する研究がある一方で(Samaha et al., 2011),意見交換の機会を生み出すことで企業成果を高めると主張する研究もある(Chang & Gotcher, 2010; Tang, Fu, & Xie, 2017)。以上のように,チャネル戦術は,他の条件次第で,企業成果に対して肯定的な影響も否定的な影響も与えうるため,チャネル戦術のどのような組み合わせによって,どのような影響が生じるのかを探究することは,チャネル現象を理解するために重要な試みであろう。

第3に,先行研究は,チャネル構造の影響を看過する傾向にある。製品流通のためのチャネル構造は,製造業者ごとに大きく異なる。例えば,チャネル統合の観点から見れば,独立チャネルを用いて流通業者に大きく依存する製造業者も存在すれば,統合チャネルを用いて流通業者の役割を最小限に抑える製造業者も存在する(Anderson & Coughlan, 2002)。また,デュアル・チャネルを採用して,統合チャネルと独立チャネルをバランスよく用いる製造業者も存在する(Sa Vinhas & Anderson, 2005)。採用するチャネル構造が異なれば,そのチャネル構造における流通業者の役割も異なるわけであり,どのようなチャネル関係管理戦術を実行するべきかも異なるはずであろう。したがって,チャネル構造を考慮に入れた上で,チャネル戦略の効果を検討することが,チャネル研究の進展には必要不可欠であろう。

本論の目的は,以上の3つの問題点を解決することによって,チャネル戦略に関する新たな知見を提供することである。具体的には,次のように問題点の解決を試みる。まず,結果たる企業成果として,コストを考慮に入れるべく,収益性の指標を設定する。次に,チャネル関係とチャネル構造にかかわる代表的な6つのチャネル戦術(すなわち,関係特定的投資,コミュニケーション,パワー,コンフリクト,チャネル統合,デュアル・チャネル)を,収益性を左右する原因条件として取り上げる。そして,それらの組み合わせの効果,すなわち,高収益を生み出しうるチャネル戦略のパターンを探究する。そのために本論が用いる分析手法は,ファジィ集合質的比較分析(fsQCA)である。fsQCAは,複数の原因条件の組み合わせが,ある結果を引き起こすのか否かを分析する手法である。これを用いることで,多数のチャネル戦術の組み合わせの効果を検討することができると期待される。本論は,先行研究が抱える問題点を解決し,高収益を生み出す4つのチャネル戦略パターンを同定することによって,チャネル研究の進展に貢献を成すであろう。

II. 理論背景

1. 流通チャネル研究の潮流

流通チャネル戦略は,チャネル関係の管理とチャネル構造の選択という2つの大きな意思決定から構成される(Palmatier et al., 2016)。チャネル関係に関する先行研究は,1980年代までは,製造業者と流通業者の主従的なチャネル関係に着目するパワー論を展開してきたが,1980年代以降は,両者の対等なチャネル関係に着目する協調関係論を積極的に展開している(Yuki, 2014)。ただし,これは,パワー論が不要になったということを意味するわけでは決してない。現在でもパワーによって取引相手の同調を獲得するようなチャネル関係は,しばしば観察されるわけであり,チャネル関係の分析には,今なお,パワーやコンフリクトといった概念が必須であると考えられている(Samaha et al., 2011; Watson et al., 2015)。

他方で,チャネル構造に関する先行研究,すなわち,チャネル構造選択論は,主に,チャネル統合に関する問題に取り組んできた(Anderson & Coughlan, 2002)。加えて,近年,研究者の間で注目されているのが,デュアル・チャネルである。製造業者の中には,統合チャネルと独立チャネルの双方を用いる業者がおり,そうしたチャネル構造が企業成果にいかなる影響を及ぼすのかについて,理論的・経験的な検討が行われている(Ishii, 2020; Kabadayi, 2011; Takata, 2019)。

以上のようなチャネル関係やチャネル構造に関する先行研究の潮流を踏まえて,本論は,収益性を左右するチャネル戦術として,協調関係論,パワー論,および,チャネル構造選択論にかかわる戦術をそれぞれ2つ取り上げる。具体的には,図1に示されるとおり,協調関係論にかかわる戦術として関係特定的投資とコミュニケーション,パワー論にかかわる戦術としてパワーとコンフリクト,そして,チャネル構造選択論にかかわる戦術としてチャネル統合とデュアル・チャネルを取り上げる。以下では,これらのチャネル戦術に関する先行研究を概観したい。

図1

概念モデル

2. チャネル戦術に関する先行研究

(1) 関係特定的投資

関係特定的投資とは,特定の取引関係に専用化された再配置不可能な投資のことを指す(Williamson, 1985)。関係特定的投資が企業成果を高めるのか低めるのかについて,先行研究の間で一貫した結果は見出されていない。もともとの取引費用理論は,関係特定的投資の負の側面を強調していた(Williamson, 1985)。すなわち,関係特定的投資を行った企業は,その取引関係にロックインされ,取引相手の機会主義的行動を促進してしまい,ひいては,企業成果を損なってしまうというのである。これについては数多くの経験的知見が報告されており(e.g., Crosno et al., 2013; Trada & Goyal, 2017),例えばTrada and Goyal(2017)は,製造業者の関係特定的投資が,流通業者の機会主義的行動を引き起こすということを見出した。他方で,関係論(Dyer & Singh, 1998)や関係性マーケティング(Håkansson & Snehota, 1995)に関する先行研究は,関係特定的投資の正の側面に焦点を合わせてきた。例えば,関係論に依拠したJap(2001)は,関係特定的投資を行うことによって,製造業者は,差別化された製品を生み出すことができるような,特別なチャネル関係を構築することができ,ひいては,競争優位を獲得しうるということを見出した。また,関係性マーケティングに依拠したChoi and Hara(2018)は,関係特定的投資を行うということが,取引相手に対して,当該ビジネス関係を継続したいという意思を示すことを意味し,結果として,関係性の強化と企業成果の向上につながるということを見出した。

(2) コミュニケーション

先行研究の多くは,チャネルメンバー間の迅速かつ適切なコミュニケーションは,企業成果に対して好ましい影響を及ぼすということを示してきた。例えば,Trada and Goyal(2020)は,製造業者と流通業者の間での道具的・社会的なコミュニケーションが,流通業者の機会主義的行動を抑制し,製造業者は,高い関係成果を獲得しうるということを見出した。他方で,コミュニケーションが必ずしも企業成果を高めるとは限らないという知見も存在する。例えば,Mohr and Spekman(1994)は,コミュニケーションが利益満足度に対して負の影響を及ぼすということを見出した。その理由として,彼らは,製造業者が流通業者とコミュニケーションを頻繁にとることによって,流通業者に対して,自社は大切なパートナーであり,利益分配を多く得るべき企業であるという過度な期待を抱かせてしまうからだと考察した。

(3) パワー

パワーとは,他社に影響を及ぼす能力のことを指す(Palmatier et al., 2016)。パワーを獲得することによって,製造業者は,流通業者の行動を統制することができるようになり,結果として,企業成果を高めることができると示唆されてきた。例えば,Yuki(2014)は,製造業者によるパワーの獲得が,流通業者からの同調を獲得しうるということを見出した。他方で,パワーの行使の仕方によっては,チャネル関係を破壊しうるということも指摘されており,例えば,Gaski and Nevin(1985)は,取引相手を脅すような強制的なパワーの行使が,取引満足度を引き下げ,結果として,企業成果を低めるということを見出した。

(4) コンフリクト

コンフリクトとは,あるチャネルメンバーが,自身の目標を達成するのを阻止・妨害するような行動を他のチャネルメンバーが採っていると知覚している状況のことを指す(Palmatier et al., 2016)。先行研究の多くは,コンフリクトが企業成果に対して負の影響を及ぼすと主張してきた。例えば,Samaha et al.(2011)は,機会主義および不平等性と並んで,コンフリクトを,チャネル関係の破壊的要因として位置付けており,製造業者と流通業者のコンフリクトが,流通業者の成果に負の影響を及ぼすということを見出した。他方で,コンフリクトが機能的役割を担っていると主張する研究も存在する。例えば,Chang and Gotcher(2010)は,製造業者と流通業者がコンフリクトに対して肯定的な態度を持っていれば,コンフリクトを通じて互いの理解を深め,ひいては企業成果を高めうるということを見出した1)

(5) チャネル統合

チャネル統合とは,製造業者が,流通活動を他社に外注するのではなく,自社で直接的に担うことを指す(Anderson & Coughlan, 2002)。先行研究は,チャネル統合が企業成果に直接的な影響を及ぼすというよりは,チャネル統合と他要因との適合性が企業成果を左右するということを示してきた(Brettel, Engelen, Muller, & Schilke, 2011; He, Brouthers, & Filatotchev, 2013)。例えば,Brettel et al.(2011)は,チャネル統合と取引費用要因の適合性が,収益性に及ぼす影響を探究した。具体的には,資産特殊性,需要不確実性,あるいは,取引頻度が高くて,かつ,チャネル統合を行っている企業は,そうでない企業よりも,高い収益性を享受しているということを見出した。

(6) デュアル・チャネル

デュアル・チャネルとは,統合チャネルと独立チャネルの双方を用いるチャネル構造のことを指す(Sa Vinhas & Anderson, 2005; Takata, 2019)。先行研究は,デュアル・チャネルの採用には,企業成果を高めるような正の側面と低めるような負の側面が伴うと指摘してきた。正の側面としては,流通業者に対する監視機能を強化して,流通業者の機会主義的行動を抑制しうるということや(Kabadayi, 2011),顧客との接点を増加させて,製造業者の市場志向能力や企業家志向能力を活用しうるということ(Ishii, 2022; Takata, 2019)を指摘してきた。他方で,負の側面としては,チャネル間でのコンフリクトを生じさせてしまうということを指摘してきた。Sa Vinhas and Anderson(2005)は,デュアル・チャネルを採用している製造業者は,独立流通業者から,自社の販売部隊に有利なようにマーケティング戦略を実行しているのではないかと疑われやすく,その疑念がコンフリクトを生み出すということを示した。

以上より,先行研究は,チャネル戦術が,場合によっては,企業成果に対して正負いずれの影響も及ぼしうるということを示してきたと結論づけられるであろう。次章以降では,チャネル戦術の組み合わせの効果を探究するための実証分析について記述したい。

III. 調査方法

1. データの収集

チャネル戦略が収益性に及ぼす影響を分析するために,本論は,質問紙郵送による調査法を用いて1次データを収集した。調査対象は,国内市場に向けて生産財を生産している日本の製造業者であった。サンプリングフレームは,「日経NEEDS」(日本経済新聞社)に記載されている機械,電子機器,精密機器,化学,あるいは,非鉄金属・金属製品の5つの業種に属する東証一部および二部上場企業全677社のリストであった。この中から生産財を主力とする現存の製造企業を抽出し,「D-VISION NET」(ダイヤモンド社)および各企業のWebサイトを参照しながら,507社1,000事業部を送付先として選定した。

これら1,000事業部に,カバーレター,調査票,および,料金後納の返信用封筒を含む封筒を郵送した。カバーレターと調査票には,次の3点が明記された。すなわち,(1)回答内容は外部に漏洩しないということ,(2)流通・販売に従事した経験のある方に回答を依頼しているということ,および,(3)回答協力者には本調査の結果レポートを送付するということ,である。調査票の発送から2週間後に,調査票の返送を促すための督促状を発送した。

回収された調査票は273票(回収率は27.3%)であった。273票のうち,11票は,回答拒否や欠損値の理由で分析から除外されたため,有効票は262票(有効回答率は26.2%)であった。さらに,本論の分析対象は,少なくともある程度は独立チャネルを採用している事業部であるということを踏まえて,独立チャネルを採用していない事業部を分析から除外した。その結果,74事業部が除外されたため,最終的なサンプルサイズは188であった。

2. 情報提供者の確認

キーインフォーマントチェックを行うために,調査票にて,製品の流通・販売に関する回答協力者の知識・経験水準を測定する7点尺度の質問項目を設定した。回答協力者の知識水準の平均値は5.99(標準偏差は0.98),経験水準の平均値は5.94(標準偏差は1.22)であった。また,企業における勤続年数の平均値は23.5年(標準偏差は10.2),部門における勤続年数の平均値は13.6年(標準偏差は10.2)であり,大半の回答協力者が常務,部長,次長,あるいは,課長などの上級職に就いていた。以上より,本調査の回答協力者は,自社の流通・販売に関する知識と経験を充分に有しているということが示唆された。

3. 無回答バイアスの確認

無回答バイアスについて,2つの方法を用いて検定を行った。まず,早期回答協力者グループ(N=134)と後期回答協力者グループ(N=54)の間で,原因条件や結果にかかわる変数の平均値を比較した。多変量分散分析(MANOVA)の結果,両グループ間に有意な差は確認されなかった(Wilks’ Lambda=0.96, p=0.48)。次に,調査票を返却した事業部のグループ(N=273)の年間売上高と,返却しなかった事業部のグループ(N=727)の年間売上高を比較した。t検定の結果,両者の間に有意な差は確認されなかった(t=0.58, p=0.56)。以上より,本調査において,無回答バイアスが重大な問題ではないということが示唆された。

4. コモンメソッドバイアスの確認

コモンメソッドバイアス避けるために,MacKenzie and Podsakoff(2012)に従って,まず,調査設計の段階において対処法を実施した。具体的には,不明瞭な質問内容の明確化,および,回答内容の機密性の保持を行った。次に,2つの事後的な検定を行った。第1に,単一因子検定を行った結果,固有値が1以上の因子が3つ抽出され,第1因子で説明できる分散は22.0%という低い値に留まった。第2に,MV(marker variable)法による検定を行った。MVとして,「主力製品を生産する技術・テクノロジーは,イノベーションが生じやすい」で測定される,技術の変動性を用いた。MVの統制前後で,相関係数やその有意性はほとんど変わらなかった。以上より,本調査において,コモンメソッドバイアスが重大な問題ではないということが示唆された。

5. 測定方法

調査票作成の段階で,電子機器や化学などの製造業に従事する11名の実務家に対して,1人あたり1時間から1時間半の時間でヒアリング調査を行った。本調査においては,そこでのコメントを参考にして修正された質問項目を使用した。

回答協力者には,各事業部の主力製品の販売経路を想定してもらって,調査票に回答してもらった。質問項目は,先行研究を参考にして作成され,大半の質問項目は,7点リカート尺度(1:全くそう思わない~7:非常にそう思う)で測定された。結果たる収益性を測定するために,He et al.(2013)およびKabadayi(2011)を参考にして,1つの質問項目を作成した。具体的には,「過去3年間,国内における,その主力製品の利益成長率は高い」を作成した。関係特定的投資を測定するために,Takata(2013)が用いた質問項目に若干の修正を加えた2つの質問項目を用いた。具体的には,「貴社は,営業員のトレーニングや教育に多くの時間を費やしている」,および,「主力製品を販売するためには,十分な販売経験を積んだ営業員が必要である」を用いた。コミュニケーションを測定するために,Palmatier, Dant, and Grewal(2007)の3つの質問項目を用いた。具体的には,「貴社と独立チャネル(代理店・商社)は,互いに,正確に情報を伝達している」,「貴社と独立チャネル(代理店・商社)のコミュニケーションは,迅速あるいはタイムリーに行われる」,および,「貴社と独立チャネル(代理店・商社)が相互に情報を交換する場が,定期的に設けられている」を用いた。パワーを測定するために,Yuki(2014)の1つの質問項目を用いた。具体的には,「独立チャネル(代理店・商社)は,貴社に比べて,交渉力をもっている」(逆転尺度)を用いた。コンフリクトを測定するために,Duarte and Davies(2003)を参考にして,1つの質問項目を作成した。具体的には,「貴社と独立チャネル(代理店・商社)の関係が,敵対的になってしまうことがある」を作成した。チャネル統合を測定するために,まず,回答協力者には,統合チャネルと独立チャネルによる主力製品の売上比率を回答してもらった。ただし,統合チャネルとは,自社営業部隊ないし半数以上の資本を有する系列子会社と定義され,独立チャネルとは,独立した商社ないし代理店と定義された。そして,統合チャネルによる売上比率をチャネル統合の尺度として用いた。デュアル・チャネルは,統合チャネルと独立チャネルの売上比率を乗じて,それを100で除した値を用いた(Sa Vinhas & Anderson, 2005)。

6. キャリブレーション

fsQCAの手法を利用するためには,各変数の値を,0から1の間の値をとるファジィ集合メンバーシップ値に変換しなければならない(Fiss, 2011)。このようなキャリブレーション(較正)を行うためには,完全所属,完全非所属,および,境界点という3つの閾値を設ける必要がある。完全所属と完全非所属を規定する値は,ある集合に完全に所属するか否かを明確に線引きする閾値であるのに対して,境界点は,どちらとも言えないという最も曖昧な値である。本論は,各閾値を設けた後,対数オッズ法を用いてキャリブレーションを行った。

各閾値は,表1に示されるとおりであった。結果たる収益性については,先行研究(e.g., Schneider, Schulze-Bentrop, & Paunescu, 2010; Tóth, Thiesbrummel, Henneberg, & Naudé, 2015)に従って,中央値を境界点として設定し,第1四分位数と第3四分位数を,それぞれ,完全非所属と完全所属の値として設定した。6つの原因条件については,先行研究に従って結果よりも保守的な閾値を設定するべく,中央値を境界点として設定し,第1十分位数と第9十分位数を,それぞれ,完全所属と完全非所属の閾値として設定した。

表1

キャリブレーションのための閾値

IV. 分析結果

1. 必要条件の分析

高収益のために必要な条件が,6つの原因条件の中に存在するか否かを検討するために,結果が存在する事例(すなわち,高収益の企業)において,特定の原因条件が常に存在ないし不在しているか否かを分析した。必要条件として考えられるのは,整合度の値が0.90という規準値を上回るか否かで判断しうる(e.g., Schneider et al., 2010; Tóth et al., 2015)。表2に示されるとおり,分析の結果,単一条件の整合度は0.47~0.68であり,0.90を超える原因条件は存在しなかった。したがって,6つの原因条件は,高収益の必要条件ではないと結論づけられた。

表2

必要条件の分析結果

2. 十分条件の分析

十分条件の分析は,真理表の作成,準備,分析という3段階で行われた(Fiss, 2011)。真理表作成の段階では,観察された事例を,特定の条件組み合わせに割り当てた。条件組み合わせの数は,本論における原因条件が6つであるため,全部で64(2の6乗)であった。各事例は,先述のようにキャリブレーションされたファジィ集合メンバーシップ値に基づいて,64のうちの特定の条件組み合わせへと割り当てられた。

次に,真理表準備の段階では,64の条件組み合わせのうち,十分条件の分析に使用するものを,事例数と整合度の観点から選定した。本論では,先行研究(Fiss, 2011; Tóth et al., 2015)に従って,事例数については3,整合度については0.80という規準値を設けた。つまり,3つ以上の事例を含み,かつ,整合度が0.80以上の条件組み合わせのみを分析対象として設定する一方,2以下の事例しか含まない条件組み合わせや,整合度が0.80を下回る条件組み合わせを論理残余として取り扱った。

最後に,真理表分析の段階では,解を節約することで分析を行った。すべての論理残余を用いれば,複雑解から節約解を得ることができる。しかし,この節約法は,現実的には存在しえない原因条件の組み合わせも起こりうると仮定するような,反事実的条件法による分析である(Fiss, 2011)。そこで,実質的に意味のある論理残余のみを用いて複雑解を節約した中間解を求めた。そして,各条件組み合わせに含まれる原因条件群を,節約解と中間解の双方に含まれる中核条件と,中間解のみに含まれる周辺条件に分類した(Fiss, 2011)。

分析の結果は,表3に示されるとおりであった。高収益を生み出す4つの条件組み合わせ(C1~C4)が同定され,単一の組み合わせのパターンではなく,複数のパターンが,高収益という結果を引き起こすということが示された。解被覆度が0.41であったことから,全体として,4つの条件組み合わせは,結果の41%を説明していると考えられる。各条件組み合わせを評価するために,整合度と被覆度という2つの適合指標を確認した。整合度の値は,0.79~0.84という充分に高い値であったため,結果を引き起こすのに十分であると考えられる。また,粗被覆度の値も0.19~0.22という満足のいく値であり,重要性が高いと考えられる。固有被覆度は0.02~0.09であり0を超えていたため,各条件組み合わせが結果の説明力向上に貢献していると考えられる。

表3

十分条件の分析結果

注:黒円は条件の存在を示す一方,×印は条件の不在を示す。また,大円は中核条件を表し,小円は周辺条件を表し,空欄は中立条件を表す。

V. 議論

4つの条件組み合わせについて,チャネル構造の観点から分類すると,まず,C1とC2は,デュアル・チャネルを採用せず,売上の大半を統合チャネルないし独立チャネルのみで生み出す,シングル・チャネル採用企業である。C1とC2の相違点は,C1ではチャネル統合の存在が周辺条件,コンフリクトが中立条件として同定されているのに対して,C2ではチャネル統合が中立条件,コンフリクトの存在が周辺条件として同定されていることである。これを踏まえると,C1には,統合チャネルに依存するシングル・チャネル採用企業が全て含まれる。すると,実質的には,C2には,独立チャネルに依存するシングル・チャネル採用企業のみが含まれることになる。C3とC4は,デュアル・チャネル採用企業であるが,C3の企業は,主として統合チャネルを用いるのに対して,C4の企業は,主として独立チャネルを用いる。以上を踏まえると,C1~C4は,チャネル統合の有無(すなわち,主たる使用チャネルタイプ)およびデュアル・チャネルの有無(すなわち,チャネルシステム)の観点から4つに分類されるチャネル構造に,それぞれ該当する。チャネル構造の典型例と共に,各条件組み合わせの戦略を表すと,表4のように示される。

表4

高収益を生み出す流通チャネル戦略

注:各セルには,当該チャネル構造の典型例が図示してある。また,〇印は原因条件の存在,×印は原因条件の不在を表す。

製造業者がシングル・チャネルを選択している場合(C1とC2)においては,パワーをもった上で関係特定的投資を実施することが高収益を生み出すためには必須である。関係特定的投資は,その取引関係でしか生み出せない価値を生み,売上の観点から収益性に貢献する。さらに,関係特定的な資産の形成を通じて,取引相手同士の方針や意見について知ることによって,その後,首尾よい活動調整が可能となり,コストの観点からも収益性に貢献する。他方で,関係特定的投資の懸念点は,取引相手の機会主義的行動を促進してしまうことである。しかし,製造業者は,パワーをもつことで,機会主義の発生を抑制することができる。かくして,製造業者は,パワーによって関係特定的投資の負の側面を抑えつつ,その正の側面を享受することによって,高い収益性を実現することができる。さらに注目するべきは,高収益を生み出すシングル・チャネル採用企業は,コミュニケーションを行わないということである。この結果は,収益性という観点から見ると,コミュニケーションには無駄が多く,それよりも,関係特定的な資産の形成こそが重要であるということを示唆している。

シングル・チャネル採用企業の中でも,C2,すなわち,独立チャネルメインの企業にとっては,コンフリクトの存在が重要な原因条件である。製造業者と流通業者の間で,ある程度のコンフリクトが発生していると,両者は,その解決を通じて,互いに関する理解を深めたり,新たなアイディアを創出しあったりして,革新力や市場対応力を高めることができる(Chang & Gotcher, 2010; Tang et al., 2017)。独立チャネルを主に用いる企業にとっては,流通業者とのそうしたコンフリクトに向き合うことが重要なのである。

C3とC4はいずれも,デュアル・チャネル採用企業であるが,C3は,主として統合チャネルを用いて,独立チャネルをサブチャネルとして用いる企業であるのに対して,C4は,主として独立チャネルを用いて,統合チャネルをサブチャネルとして用いる企業である。双方に共通するのは,高収益を生むためには,積極的なコミュニケーションが欠かせないということである。これは,シングル・チャネル採用企業のケースにおいて,積極的なコミュニケーションの不在こそが高収益を生み出すという分析結果が示されていたこととは,極めて対照的である。ここで示唆されているのは,シングル・チャネルとは異なり,デュアル・チャネルという構造を企業が採用しているからこそ,コミュニケーションしなければならないことがあるということである。具体的には,統合チャネルと独立チャネルのチャネル間コーディネーションに関するコミュニケーションが必要であろう。どちらのチャネルが,どの地域,顧客,製品を担当するのか,メーカーのサポートをどちらが受けるのか等についての意思疎通や合意形成が,デュアル・チャネルを効果的に運用するために求められる(Ishii, 2020; Sa Vinhas & Heide, 2015)。

デュアル・チャネル採用企業の中でも,統合チャネルを主として用いる企業は,ある程度のコンフリクトを許容しなければならない。デュアル・チャネルの使用に対して,流通業者は反感を抱きやすい(Ishii, 2020; Sa Vinhas & Anderson, 2005)。それを解消するには多大なコストが必要であり,そのコストが収益性を圧迫する危険性がある。コンフリクト解消の代わりに,製造業者は,関係特定的投資を行うことが求められる。関係特定的投資は,流通業者の機会主義的行動を引き起こしやすいが,製造業者が主として統合チャネルを用いているならば,自社販売部隊がチャネルメンバーの行動を監視することによって,機会主義的行動を抑制することができる(Kabadayi, 2011)。

それに対して,デュアル・チャネル採用企業の中でも,主として独立チャネルを用いる企業には,コンフリクトの解消が必要である。統合チャネルメインのケースでは,コンフリクト解消のためのコストが収益性を圧迫するが,独立チャネルメインのケースでは,独立流通業者を通じた販売が売上の大半を占めるため,彼らとのコンフリクトや自社へ非協力的な行動が,チャネルシステム全体に悪影響を及ぼし,収益性を悪化させる(Ishii, 2020; Sa Vinhas & Anderson, 2005)。それゆえ,コンフリクトの解消が求められる。

VI. おわりに

1. 理論的貢献

本論は,次のような点において,チャネル研究の進展に貢献している。第1に,本論は,個々のチャネル戦術ではなく,それらを組み合わせたチャネル戦略のパターンこそが,企業の収益性を左右するということを示した。先行研究の多くは,個々のチャネル戦術に焦点を合わせており(e.g., Jap, 2001; Tang et al., 2017; Trada & Goyal, 2020),それらの組み合わせの効果を看過してきた。個々のチャネル戦術は,他の条件次第で,正負いずれの効果をも発揮する可能性があるということを考慮に入れると,チャネル戦術同士の組み合わせの効果を検討することは重要な試みであっただろう。本論は,fsQCAの分析手法を用いることによって,高収益を生み出しうるチャネル戦術の4つの組み合わせパターンを見出すことに成功した。

第2に,本論は,敢えて消極的なチャネル戦術を展開することが,収益性にとっては好ましい場合があるということを示した。例えば,分析の結果,本論は,シングル・チャネル採用企業のケースでは,コミュニケーションが収益性を損なうということを見出した。また,主として統合チャネルを用いるデュアル・チャネル採用企業のケースでは,コンフリクトの解消が高収益を阻むということを見出した。先行研究の多くは,コミュニケーションの実施やコンフリクトの解消が企業成果に対して好ましい影響を及ぼすと主張しているものの(e.g., Samaha et al., 2011; Trada & Goyal, 2020),成果指標が収益性であったり,他のチャネル戦術との組み合わせを考慮に入れたりすると,それらの戦術が,必ずしも好ましい効果を有するとは限らないという知見を,本論は提供することができた。

2. 実務的含意

本論は,チャネルマネジャーに対して,次のような含意を提供しうる。マネジャーは,自社の収益性を高めたいのであれば,どのようなチャネル戦術に注力して,そして全体として,どのようなチャネル戦略を展開するのかを検討する必要がある。直観的には,チャネルメンバーと頻繁にコミュニケーションをとり,関係特定的な資産を形成し,パワーを保持して,コンフリクトの解消に努めるという具合に,すべてのチャネル戦術に積極的に投資するべきであると思えるかもしれない。しかしながら,そうした“理想的な”チャネル戦略の実行には,多大なる時間と労力を要し,それが収益性を圧迫することがあるし,そもそも,それが必ずしも“理想的な”戦略とは限らない。それゆえ,場合によっては,特定のチャネル戦術に対して,敢えて投資しないという意思決定も,高い収益性を獲得するためには必要である。

具体的には,マネジャーは,自社のチャネル構造に合わせて,チャネル関係管理戦術の意思決定を行うべきである。もし,自社がシングル・チャネルを採用しているのであれば,パワーを保持した上で,関係特定的な資産を形成するべきである。自社のパワーによって,流通業者の機会主義的な行動を未然に防ぎつつ,関係特定的な資産によって,他社には模倣できないような価値ある製品やサービスを提供することができ,その結果として,高い収益性を実現することができる。他方で,チャネル管理コストを節約するべく,積極的なコミュニケーションをとるための投資は不要であるし,独立流通業者を主たる販路として用いている場合には,コンフリクトの解消にも積極的になる必要はない。

それに対して,もし,自社がデュアル・チャネルを採用しているのであれば,コミュニケーションが高収益を生み出す鍵である。統合チャネルと独立チャネルは,顧客,地域,取扱製品,メーカーサポートなど,様々な資源をめぐって競争している。そうした資源の配分について合意形成するべく,積極的な意思疎通を行うべきである。加えて,デュアル・チャネル採用企業の中でも,主たる販路が統合チャネルであるならば,流通業者とのある程度のコンフリクトを許容する代わりに,関係特定的資産の形成に努めるべきである。他方で,主たる販路が独立チャネルであるならば,コンフリクトの解消に注力するべきである。というのも,そうした企業にとって,コンフリクトは,収益性に対して深刻な影響を与えるからである。

3. 限界と課題

本論は,次の2つの限界を抱えている。第1に,本論は,分析のために横断面データを使用した。この種のデータは,チャネル研究ではしばしば用いられるものの,チャネル戦略と企業成果の関係を探究するためには,長期的なパネルデータを使用することが望ましいであろう。第2に,本論は,単一の情報提供者からデータを収集した。この収集方法は,コモンメソッドバイアスを引き起こしてしまう危険性を有している。複数の情報提供者からデータを提供してもらうことによって,この限界を克服できるであろう。

今後の研究には,次の2つの課題に取り組むことが望まれる。第1に,今後の研究には,本論が取り上げなかったチャネル戦術についても検討することが望まれる。そうしたチャネル戦術としては,例えば,信頼,コミットメント,分権性,モニタリング,補完的資源などが挙げられる。これらの戦術を分析に含めることによって,チャネルマネジャーに対して,さらなる有用な知見を提供しうるであろう。第2に,今後の研究には,収益性以外の結果に焦点を合わせることが望まれる。具体的には,売上や市場シェアのような有効性指標に焦点を合わせたり,チャネル管理費用のようなコスト指標に焦点を合わせたりすることも求められるであろう。そうした多様な指標に焦点を合わせることによって,チャネル戦略に関して,さらに理解を深めることができるであろう。

謝辞

本論の公刊にあたりましては,慶應義塾大学の小野晃典先生に心よりの感謝を申し上げます。なお,本研究はJSPS科研費JP 19H01543の助成を受けたものです。

1)  パワー論において,コンフリクトは成果指標として扱われることが多い。しかし,企業は,種々の解消法を用いてコンフリクトの水準を統制しうるという理由で,コンフリクトの解消(ないし促進)を成果指標を左右する要因として捉える研究も多く存在する(e.g., Chang & Gotcher, 2010; Tang et al., 2017)。こうした研究に倣って,本論はコンフリクトの解消(ないし促進)を,チャネル戦術の一つとして捉えている。

石井 隆太(いしい りゅうた)

立命館大学経営学部准教授。2015年 慶應義塾大学商学部卒業,同大学商学研究科修士課程・後期博士課程修了。博士(商学)。日本学術振興会特別研究員(DC1),福井県立大学経済学部助教を経て,2021年より現職。専門は,流通論,マーケティング・チャネル論。

Data Availability Statement

全てのエビデンスデータはJ-STAGE Data で利用できます。(リンク先)The data analysis file and all annotator data files are available in J-STAGE Data, (link here)


References
 
© 2022 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top