Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Preface
Sport Marketing
Junya Ishibuchi
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2022 Volume 42 Issue 2 Pages 3-5

Details
Translated Abstract

The purpose of this special issue is two-fold. The first objective is to show the latest progress in sport marketing research, which has been attracting attention and growing in recent years, and to indicate future research directions. The second objective is to provide an opportunity for researchers and practitioners in brand management to learn about methods and ideas for developing enthusiastic fans and building relationships with customers through sport marketing research. This special issue contains four excellent sport marketing articles.

スポーツとマーケティング

スポーツが人を魅了する力は大きい。2019年9~11月に開催されたラグビーワールドカップ2019日本大会,2021年7~9月に開催された東京オリンピック・パラリンピック,2022年2~3月に開催された北京オリンピック・パラリンピックなどを思い出して頂きたい。両オリンピック・パラリンピックはコロナ禍における開催となったが,これらの大会において観戦に熱中した経験,選手を熱心に応援した経験,プレーに感動した経験をお持ちの方は多いだろう。また上記の国際大会に限らず,国内の日本プロ野球(NPB),Jリーグ,WEリーグ,Vリーグなどの試合観戦でも同様の経験をお持ちの方は多いに違いない。

スポーツには,「見るスポーツ」と「するスポーツ」の側面がある(Harada, 2018)。オリンピック・パラリンピックや,NPBなどの試合観戦は,多くの人にとって「見るスポーツ」の側面が強いと考えられる。テレビや競技場でスポーツを「見る」ことによって,スポーツと接する機会は多いだろう。また,スポーツには「見る」だけではなく,自身が主体的にスポーツに参加することでスポーツに接する「するスポーツ」の側面もある。学校教育,クラブ活動,ジムなどを通じて,スポーツをしている,あるいはしていた方は,「するスポーツ」としての側面を経験していると言える。

マーケティングは,「見るスポーツ」,「するスポーツ」のいずれとも深い関わりがある。たとえば,「見るスポーツ」に関わるマーケティング活動として,観戦チケットの販売,放映権の管理・販売,スポンサーシップ,観戦ツアーの企画・販売,プロスポーツチームやリーグのファン育成・グッズ販売などの活動が挙げられる。また,「するスポーツ」に関しては,競技団体による競技人口増加のための施策の立案・実施,スポーツ用品メーカーによる商品の製造・販売,教育機関や地域におけるクラブの運営,企業によるフィットネスクラブ経営などの活動が挙げられる。プロスポーツ,アマチュアスポーツを問わず,これらの活動にマーケティングの視点は必要になってきており,スポーツとマーケティングの関係は益々密接になってきている。

スポーツマーケティング研究

学術研究においても,スポーツとマーケティングの関係に着目するスポーツマーケティングという研究分野が発展してきている。1985年に北米スポーツマネジメント学会,1993年にヨーロッパ・スポーツマネジメント学会が設立され,日本でも,2007年に日本スポーツマネジメント学会が設立され,研究の蓄積が進んでいる。日本マーケティング学会においても,カンファレンスにおいてスポーツマーケティングに関する研究発表(たとえばNishio(2016)など)や,学会誌『マーケティングジャーナル』でもスポーツマーケティングに関係する学術論文(たとえばMizuno, Sano, and Sasahara(2021)など)が掲載されている。また,吉田秀雄記念事業財団の研究広報誌『アド・スタディーズ』の2019年Vol. 67では「進化を続けるスポーツマーケティング」(AD STUDIES, 2019)という特集が組まれている。

スポーツマーケティングの研究領域は大変広範である。スポーツイベントに関するマーケティング(オリンピック・パラリンピックなど),プロスポーツのマーケティング(観戦者の集客,チームやリーグのブランド・マネジメント,ファン行動分析など)や,スポーツ用品のマーケティング,スポーツによる地域振興を目指すマーケティング,スポーツ・ツーリズム,スポーツと教育の関係などがある。このような広範なテーマについて,精力的に研究が行われている。

本特集の目的と掲載論文

本特集の目的は2つある。第一の目的は,近年注目を集め,研究の蓄積が進む,スポーツマーケティング研究の最新動向を紹介し,今後の研究の方向性を示すことである。前述の通り,スポーツマーケティング研究は広範で進展も著しい。特集号を通じて,研究の展望を得たいと考えている。第二の目的は,ブランド・マネジメントに関する研究者や実務家が,スポーツマーケティングの研究成果を通じて,顧客との関係構築の方法や考え方について学ぶ機会を提供することである。前述の通り,スポーツには人を魅了する強い力があり,チームやクラブの熱狂的なファンが存在することも多い。企業やブランドと強い感情的な絆を持つ顧客をどのように育成するかに関して,スポーツ分野以外のブランド・マネジメントに関する研究者や実務家が学ぶことは多いだろう。本特集を通じて,スポーツマーケティング研究の益々の発展を期待することは勿論,マーケティング研究全般の発展にも寄与したいと考えている。このような狙いのもと,本特集は,スポーツマーケティングに精通した研究者・実務家の4つの論文を掲載している。

第1論文は,藤本淳也氏による「スポーツマーケティングとは何か―特異性の考察―」である。藤本氏は,スポーツマーケティングとは何か,スポーツマーケティングの独自性はどこにあるのかについて丁寧な議論をされている。藤本氏は,議論に基づき,スポーツマーケティングの独自性をスポーツプロダクトとスポーツ消費者に求め,スポーツプロダクトの特異性として「公共性・公益性」「競争性」「自発性・自主性」「時間的制約性」を指摘し,スポーツ消費者の特異性として態度と行動を指摘している。また,今後の研究の方向性について展望を示されており,スポーツマーケティングの研究を行う後進にとって必読の論文であると考えられる。

第2論文は,松岡宏高氏・姜泰安氏・和田由佳子氏による「ラグビー観戦者のセグメンテーション:Two-Stepクラスター分析の活用」である。松岡氏らの論文は,ジャパンラグビートップリーグの試合会場で収集した3,140名の大規模データをTwo-stepクラスター分析し,ラグビーの顧客層を検討した大変優れた実証研究である。松岡氏らは,クラスター分析の結果,5つの顧客層を発見し,各層の特徴を確認している。特に,観戦チケット価格を妥当,安いと感じている割合が多い顧客層を特定されており,観戦チケットの価格設定に大きな実務的示唆を提供している。また,チケット価格を高いと感じている割合が多い顧客層も特定されており,ラグビー観戦者の顧客層別のマーケティングに重要な示唆を提供している。

第3論文は,大井義洋氏による「日本初の女性プロ・サッカーリーグ「WEリーグ」の挑戦―パーパス経営を推進する弱い繋がりの強さによるコレクティブ・インパクト―」である。大井氏は,2021年9月に誕生し,今まさに注目されている日本初の女性プロ・サッカーリーグ「WEリーグ」のビジネスモデルを文献資料とインタビュー結果から丁寧に考察されている。その結果,WEリーグは明確なパーパスを有している点,Gender問題など社会課題の解決を意識している点,ステークホルダーが集合体として価値創造に取り組んでいる点などを明らかにし,WEリーグのビジネス・エコシステムの独自性を明らかにしている。

第4論文は,西尾建氏による「スポーツ観戦者の世代別コホート分析―ラグビーワールドカップ2019日本大会観戦者調査から―」である。西尾氏は,ラグビーワールドカップ2019日本大会のスタジアム観戦者6,237名の大規模なアンケート・データを世代別コホート分析し,世代別の観戦動機や満足度規定因の相違を検討されている。その結果,4つの世代間の観戦動機や満足度の規定因が異なること,にわかファンと従来ファンで満足度の規定因が異なること,Y世代では女性ファン数が男性ファン数を上回っていることなど,有益で興味深い発見が示されている。

また,本号は,上記の特集論文以外にも,レビュー論文1本,マーケティングケース2本,書評1本を掲載している。いずれも優れた論文,ケース,書評である。特集論文と共にぜひお目通し頂ければ幸いである。

References
 
© 2022 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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