Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Segmentation of Rugby Spectators:
Use of Two-Step Cluster Analysis
Hirotaka MatsuokaTaeahn KangYukako Wada
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 42 Issue 2 Pages 17-28

Details
Abstract

本研究は,この数年間の日本代表チームの活躍や国際大会開催の影響も相まって人気が高まり,ファン層拡大の契機に直面し複雑化していると想定されるラグビーの観戦市場を研究対象とした。スポーツ消費者を対象にしたマーケット・セグメンテーションの有効性を改めて確認するためにも,クラスター分析を用いて観客層を探ることを目的とした。さらに,発見された各クラスターの属性,観戦行動および今後の観戦行動意図の比較を試みた。実際にラグビーの試合会場を訪れた観戦者を対象に,スタジアム内で質問紙調査を実施し,3,140部の有効なサンプルを獲得した。過去のスポーツ関連経験,知識および観戦理由に関する変数を用いてTwo-Stepクラスター分析を行った結果,有効な5つのクラスターが発見された。さらに各クラスターには,人口統計的属性,観戦時の行動,および今後の行動意図において異なる特性があることが確認され,スポーツ観戦市場におけるマーケティング戦略への有用性の可能性が示唆された。

Translated Abstract

The popularity of rugby has increased over the last few years due to the success of the Japanese national team and the hosting of an international event. This study targeted the rugby spectator market, which is assumed to be becoming more complex in the face of the opportunity to expand the fan base. To reaffirm the effectiveness of market segmentation for sport consumers, the study aimed to explore spectator segments using cluster analysis. Furthermore, the attributes, spectating behavior, and future spectator behavioral intentions were examined for each identified cluster. Questionnaire surveys were administered in the stadium to spectators who attended rugby games, obtaining a valid sample of 3,140. Two-Step cluster analysis using variables related to past sports-related experience, knowledge, and reasons for watching the game revealed five valid clusters. Each cluster had different characteristics in terms of demographic attributes, spectating behavior, and future behavioral intentions, suggesting the potential usefulness of this approach for marketing strategies in the sport spectator market.

I. はじめに

見るスポーツをプロダクトとして捉えた場合に,その品質の予測不能性は類を見ないプロダクト特性である(Matsuoka, 2010; Mullin, Hardy, & Sutton, 2014)。同じサービス財でプロダクト特性が比較的近い舞台演劇や音楽ライブなどのエンタテインメントと比べても,そのイベントの結果,つまり顧客に提供される品質が一定であることはない(Matsuoka, 2019; Shank & Lyberger, 2015)。これが,スポーツ消費者の心理と行動を複雑にし,ひいてはスポーツマーケティングの実践を困難なものにしている原因の一つである。

言うまでもないがスポーツイベントには勝者と敗者が存在する。スタジアムやアリーナで観客を集めて行われるチームスポーツにおいて敗者となる確率は基本的には50%である。必ずしも負け試合が観客の不満を引き起こすわけではないが,これだけ品質が不安定なプロダクトを扱うビジネスは他に例がない。このコアプロダクトの調整が極めて困難であるため,スポーツマーケターはファンサービスと呼ばれる各種催し物や試合会場での飲食,映像や音楽を駆使した雰囲気づくりに注力している(Biscaia, Correia, Yoshida, Rosado, & Marôco, 2013; Byon, Zhang, & Baker, 2013)。一方で,この不確実さが良い方向に働いたときには,突如として観客,視聴者が増え,ライセンスグッズが売れ,売り上げが増加する。この急激な人気の向上は,プロスポーツにおけるチームの好成績や人気選手の活躍によって常々起こっているが,2年に一度や4年に一度という大規模イベントでの日本代表の好成績が人気を高める現象もよく見られる。

各競技の日本代表選手やチームが国際大会で活躍することによってその競技および選手が高頻度でメディアに取り上げられ注目されるようになる。その結果,一時的に国内のリーグ戦や大会に観客が集まるというような現象は,これまで何度となく起きてきた。しかしながら,その一時的な人気を上手く活用し,継続した集客,ファン基盤の拡大へと結実させた成功事例はほとんどない。例えば,女子サッカーは2011年のワールドカップ優勝を機になでしこリーグの平均入場者数を前年比約3倍に増やしたが,その好況は長くは続かなかった(Matsuoka & Arai, 2017)。バレーボールも4年に一度のオリンピックイヤーに国内男女のトップリーグであるVリーグの入場者数が一時的に高まり,オリンピック後に下がるという傾向を20年以上繰り返している(Adachi, Yamashita, & Matsuoka, 2022)。

一時的な人気の高まりの要因となっているスポーツ消費者の心理や行動の特性を把握する取り組みが十分に行われなかった,あるいは把握を試みてもその情報を観客の維持やファン層拡大に活かせなかったと推察される。確かに一見客を常連客へと移行させるのは容易ではないが,マーケティング不足であったと指摘されても仕方がない。このようなスポーツ事業における予測不能なプロダクト特性が好転した際の好機を掴みきれないという失敗の繰り返しを止めるべく,科学的かつ実践的な手法が提示されることがスポーツビジネス界には求められる。例えばマーケット・セグメンテーションはあまりにも基本的かもしれないが,新規顧客の獲得どころか既存の観客やファンの的確な把握さえもできていない国内のスポーツリーグや競技団体は少なくない。多様な顧客の存在を把握するセグメンテーションとそれに基づくマーケティング戦略は,一時的な人気に頼らない安定的な集客戦略には不可欠である。スポーツファンや観戦者をセグメンテーションの手法を用いて分析し,理解することの有用性は,これまでの研究からも明らかである(e.g., Alexandris & Tsiotsou, 2012; Doyle, Kunkel, & Funk, 2013; Mumcu & Lough, 2021; Uhrich, Behrens, Kang, Matsuoka, & Uhlendorf, 2020)。

本研究では,この数年間において日本代表チームの活躍によって人気が高まったラグビーの観戦市場を研究対象として取り扱うこととする。ラグビーは2015年にイングランドで開催されたワールドカップでの日本代表チームの活躍で国内トップリーグも注目されるようになった。続けて2019年日本開催のワールドカップ(以下,W杯2019)によって「にわかファン」と呼ばれるような新たなファン層が出現した。本研究は,このようなファン層拡大の契機を得るという状況に直面し,国内ラグビーの観戦市場における観客層をクラスター分析を用いて探ることを目的とする。さらに発見されたクラスターごとの属性を確認し,観戦行動および今後の観戦意図の比較を試みる。

II. スポーツ観戦行動を予測する要因

1. 人口統計学的属性

性別や年齢などの人口統計学的属性は,スポーツ消費者の心理や行動を把握する上でも頻繁に使われる説明変数である(e.g., Kang, Hahm, & Matsuoka, 2022; Lamberti, Rialp, & Simon, 2021; Tobar, 2006)。性別によって見るスポーツの種類やその頻度が異なり,スポーツ観戦に求めることも異なる(e.g., Adachi et al., 2022; Yamashita, Kang, & Matsuoka, 2021)。年齢はその世代またはライフステージと関連していると考えられるが,これもまたスポーツ観戦行動における違いが確認される変数として扱われている(e.g., Hahm, Kang, & Matsuoka, 2021; Kang et al., 2022)。実際に日本国内のテレビでのスポーツ観戦の状況を確認すると,30代までの成人は40代以上と比べて観戦率が10%程度低いと報告されている(Sasakawa Sports Foundation, 2018)。また,研究の数は多くはないが経済的要因もスポーツ観戦行動に関係する変数として扱われている(Oh, Kang, & Kwon, 2020)。

このように人口統計的要因によるスポーツ観戦行動の差異は頻繁に確認され,必ずと言ってよいほどにスポーツマーケティング研究では用いられている。しかしながら,スポーツ観戦の種類(種目,競技レベルなど)及び方法(席種,利用媒体など)の多様化に伴って,基本的属性だけでは多様なニーズや行動を的確に把握することが困難になっている。例えば全ての20歳代女性,あるいは全ての50歳代男性が,必ずしも同様の行動を取るわけではない。本研究ではファン層拡大の契機に直面し複雑化していると想定されるラグビー観戦市場のクラスター分析を行なうため,その判別をするための変数として人口統計的変数を用いることは避け,クラスター発見後の特徴把握のために用いることとした。

2. スポーツチームに対するファンの心理的要因

スポーツ観戦市場において,スポーツチームに対する消費者の心理的な結びつきを表す概念は,スポーツ消費者(ファンや観戦者)に固有の特性でありスポーツ観戦者の行動予測において最も重要な要因の一つである。その概念には,アイデンティティ理論および社会的アイデンティティ理論を基盤とした「チームアイデンティフィケーション」(e.g., Deguchi, Tsuji, & Yoshida, 2018; Lock & Heere, 2017),そしてブランドロイヤルティの態度的ロイヤルティを援用した「チームロイヤルティ」(e.g., Funk & James, 2006; Wakefield & Sloan, 1995)などが含まれ,それぞれに数多くの研究が見られる。それら多くの研究においてはこのような心理的要因が直接的および間接的に将来のスポーツ観戦行動(再観戦意図や再観戦行動)を予測する重要な変数であることが確認されている(e.g., Matsuoka, Chelladurai, & Harada, 2003; Yoshida, Nakazawa, Inoue, Katakami, & Iwamura, 2013)。しかしながら,このようなファンの心理を測定しセグメント化に用いることを簡易に行うことは実践的には困難である。この簡便化は別の課題としてさておいて,実践的で平易な手法を提示する本研究においては,このようなファンの心理的要因を変数として使用しないこととした。

3. 過去のスポーツ関連行動

スポーツ消費者行動においても過去の消費経験(頻度や期間)は将来の消費行動を予測する上での重要な要因である。Yoshida et al.(2013)は,Jリーグの再観戦行動を予測する要因の検討を行う中で,応援年数を操作変数として,ファンクラブ入会年数を調整変数として分析モデルに組み込んでいる。Wada, Matsuoka, and Fujimoto(2022)は国内ラグビーのトップリーグを対象に,ファンである期間,つまり試合観戦の消費者としての期間を基準に観戦者を二分して特徴の把握を試みた。本研究のクラスタリング指標としても,いつからどれぐらいの期間にわたって応援しているのか,言い換えるとファン歴は,有効に活用できると考えられる。

メガスポーツイベントに関連する行動もその後のスポーツ観戦行動に影響を与えると考えられる。近年は,スポーツイベントに対して経済的効果よりはむしろ社会的効果(人の態度や行動の変化)が期待され,その解明が進んでいる(e.g., Gibson et al., 2014; Ritchie, Chien, & Shipway, 2020)。例えば,2002年に韓国と日本で開催されたサッカーのワールドカップでの観戦行動がその後のサッカー観戦行動にポジティブな影響を与えていたことが,両国の対象者において確認されている(Hahm et al., 2021)。まさに本研究の起点でもある国際大会のインパクトを日常的なスポーツ消費行動へと誘う上での課題を解明するには,W杯2019に関わる行動は有効な説明変数の一つとなり得ると考えられる。

本研究の対象となるラグビーの競技経験もクラスタリング変数としては有効であると考えられる。そもそも,スポーツを実際に行う「スポーツ参加」とそれをエンタテインメントとして見る「スポーツ観戦」は異なる性質の消費である。しかし両者には関係があり,スポーツ参加経験の違いよって観戦への態度や行動に差異が見られることが確認されている(e.g., Casper & Menefee, 2010; Matsuoka, 2014)。特に本研究が対象とするラグビーのようにそれほど競技人口が多くない種目においては,その競技経験がその種目のスポーツ観戦行動を規定する傾向がある(Mastromartino, Qian, Wang, & Zhang, 2020; Mumcu & Lough, 2021)。

4. 競技に関する知識

スポーツマーケティングにおいても製品に対する消費者の知識は消費行動を規定する重要な要因の一つである。Keller(1993)によるブランド知識を援用してブランドとしてのプロスポーツチームの解明に取り組んだ研究も見られる(Wada & Matsuoka, 2020)。スポーツ消費者の知識と関与に焦点化したInoue, Matsuoka, Takeuchi, and Arai(2016)の研究成果は,競技に関する知識はその競技への関与を介して消費行動意図及び行動に影響を与えることを示唆している。さらにInoue and Matsuoka(2020)は,観戦者の競技に関する知識はスポーツ観戦という製品の精通性の一部を説明しそれが観戦行動への関与に影響を与えることを明らかにした。本研究の対象であるラグビーは,比較的ルールや戦術が複雑であるため,この競技に関する知識が観戦行動を規定する一つの要因となっている可能性は否めない。

5. 観戦理由

最後に,なぜ観戦したいと考えたのかという内的および外的な動機付け要因も,観戦行動の重要な決定要因の一つである。特に内的な動機付け要因については,様々なスポーツ観戦者を対象に構成因子の探求に関する多くの研究が蓄積されている(e.g., Milne & McDonald, 1999; Trail & James, 2001; Wann, 1995)。さらに,それらの動機要因が観戦行動に与える影響についての検討も行われている(e.g., Nakazawa, Yoshida, & Iwamura, 2014; Wang & Matsuoka, 2014)。

本研究は誰もが注目する国際大会によって一時的に拡張したと想定される観戦市場を分析するため,その国際大会の誘因としての効力を確認する必要がある。そのため,いくつもの流行語が生まれるほどに社会現象となったラグビー人気が観戦理由となっているのか,あるいはその観戦はそのようなブームに起因しないのかについては,観戦者をクラスタリングする要因としては適していると考えられる。

III. 研究方法

1. 調査対象とデータ収集

本研究は,ラグビーの試合に訪れた観戦者をクラスター化することを目的としている。多様な観戦者を調査対象とすることが求められるため,ジャパンラグビートップリーグの5会場(秩父宮ラグビー場:以下,秩父宮;東大阪市花園ラグビー場:以下,花園;レベルファイブスタジアム:以下,レベスタ;豊田スタジアム:以下,豊田;ノエビアスタジアム神戸:以下,ノエスタ)と全国大学ラグビーフットボール選手権大会の1会場(以下,大学選手権),そして全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会の1会場(以下,高校大会)の来場者を対象に質問紙調査を行った。データ収集は,2019年12月30日から2020年1月26日にかけて行われた。各会場に調査員が配置され,試合開始前に調査票を配布しその場で回答を求め回収した。調査員はスポーツマーケティングを専門とする大学院生および学部生であり,調査の目的と方法の説明を受けた後,対象者の来場時間,性別と年齢を把握しながらサンプルの代表性を考慮して調査票の配布と回収を行った。その結果,計3,140部の有効回答が得られた(秩父宮:n=464,花園:n=441,レベスタ:n=397,豊田:n=413,ノエスタ:n=426,大学選手権:n=586,高校大会:n=413)。

2. 調査項目

クラスター分析には,W杯2019のメディアを通した観戦回数(以下,W杯2019の観戦回数),ラグビーのファンになった時期(以下,ラグビーファン歴),ラグビースクールや部活動でのラグビーの競技経験の有無(以下,ラグビープレー経験),ラグビーの戦略・戦術に関する知識の程度(以下,ラグビーの知識),来場試合の観戦理由が「周囲で盛んに話題になっているから」が当てはまる程度(以下,観戦理由:話題性)の5項目が用いられた(表1)。「W杯2019の観戦回数」の回答選択肢として,「5試合以下」,「6~10試合」,「11試合以上」の3つのカテゴリーが設けられた。「ラグビーファン歴」は,第一次ラグビーブーム,ラグビー低迷期,トップリーグ開幕,ワールドカップでの活躍などの日本ラグビー史の出来事に基づいて6つのカテゴリーに分けられた(「~1985年」,「1986~1995年」,「1996~2014年」,「2015~2018年」,「2019年~」,「非ファン」)。「ラグビープレー経験」は「経験あり」と「経験なし」の2択,「ラグビーの知識」は5段階リッカートタイプ(「ラグビーの戦略・戦術がわかる」に対して「5:大いにあてはまる」から「1:全くあてはまらない」)で測定された。最後に「観戦理由:話題性」も「5:大いにあてはまる」から「1:全くあてはまらない」の5段階尺度で確認された。

表1

分析に用いた質問項目

次に,各クラスターの特徴分析のため,10項目が設けられた(表1)。基本的属性には性別と年齢,世帯年収(「600万円未満」,「600~1,200万円未満」,「1,200万円以上」)が用いられた。次に観戦行動に関して,試合会場およびそこまでの自宅からの所要時間(以下,会場までの所要時間),来場時の同伴者数(「1人」,「2人」,「3人以上」),チケット入手方法(「購入した」と「招待券をもらった」),チケット価格に対する認識(以下,チケット価格への認識:「高い」,「妥当」,「安い」,「わからない」)が設けられた。最後に,ラグビー観戦市場の拡大可能性を探るうえで重要な変数となる今後の行動意図を測定する2項目を設定した。今後1年間における国内ラグビーのトップリーグの試合会場での観戦意図(以下,今後1年間のTL観戦意図)および2023年に開催予定のワールドカップのTV観戦意図(以下,W杯2023のTV観戦意図)はそれぞれ7段階リッカート尺度で測定された。

3. 分析方法

観戦者のクラスター化のため,Two-Stepクラスター分析が用いられた。分析に用いる変数に定性と定量の両方のデータを含む場合はTwo-Stepクラスター分析が望ましい(Chiu, Fang, Chen, Wang, & Jeris, 2001)。また,この分析は1,000サンプル以上の大規模データのクラスター化に適した手法であり(Norusis, 2011),研究モデルに最適なクラスター数まで提示されるため(Sarstedt & Mooi, 2014),本研究において最も相応しい分析と考えられる。分析にはIBM SPSS Statistics 27.0が使用され,先行研究のガイドラインに沿って分析が行われた(Sarstedt & Mooi, 2014; Uhrich et al., 2020)。定性的変数に「W杯2019の観戦回数」,「ラグビーファン歴」および「ラグビープレー経験」,定量的変数に「ラグビーの知識」と「観戦理由:話題性」が設定された。その後,距離測度に「対数尤度」の手法が適用され,クラスター数の設定には「自動的に判定」を採用した。最後に,クラスター化の基準にはベイズ情報量規準(Bayesian information criterion; BIC)が用いられた。各クラスターの特徴については,χ2検定と分散分析(ANOVA)によって比較分析が試みられた。

IV. 分析結果

1. Two-Stepクラスター分析の結果

Two-Stepクラスター分析を行った結果,本研究に最適なクラスター数として「5クラスター」が提示された。クラスターの品質を表す「Cohesionと区切りのシルエット指標」は「.2」と適正な適合度を示した(Fair cluster quality≧.2; Sarstedt & Mooi, 2014)。予測変数の重要度は,「W杯2019の観戦回数」,「ラグビーファン歴」,「ラグビープレー経験」が1.00を示し,「ラグビーの知識」が.79,「観戦理由:話題性」が.12をそれぞれ示した。各クラスターの割合は,クラスター1が25.2%(n=790),クラスター2が24.8%(n=778),クラスター3が20.7%(n=649),クラスター4が10.4%(n=325),クラスター5が19.0%(n=598)であった(表2)。

表2

Two-Stepクラスター分析の結果

※平均値を比較した項目の数値は,上段が平均値,下段(カッコ内)が標準偏差

*** p<.001

クラスター1は,全対象者のW杯2019の観戦回数が「5試合以下」で,ラグビープレー経験は「なし」であった。また,多くがラグビーの「非ファン」であり(42.8%),ラグビーの知識の程度も他のクラスターに比べて最も低い(M=2.73)。周囲で盛んに話題になっていることが観戦理由としてある程度当てはまるようであった(M=3.35)。したがって,「一時的観戦者:Temporary Spectators」と命名することができる。

クラスター2は,全対象者のW杯2019の観戦回数が「6~10試合」で,ラグビープレー経験は「なし」であった。ファンになった時期は一様ではないが「2019年以降」のファンの割合が比較的高い(22.4%)。ラグビーの知識レベルは高くはなく(M=3.18),観戦理由としての「話題性」がクラスター1に次いで高い(M=3.12)。そのため,「潜在的ロイヤルファン:Potential Loyal Fans」と命名することができる。

クラスター3は,全対象者がW杯2019を「11試合以上」見ていたが,ラグビープレー経験は「なし」であった。ファン歴は一様ではないが1985年以前からのファンは含まれていない。ラグビーの知識は中程度で(M=3.48),観戦理由としての「話題性」が先の2つのクラスターよりも低かった(M=2.91)。そのため,「現代的ロイヤルファン:Modern Loyal Fans」と命名することができる。

クラスター4は,全対象者がW杯2019を「11試合以上」見ており,「1985年以前」からのラグビーファンである。ラグビープレー経験者が45.2%を占め,ラグビーの知識レベルも高い(M=4.23)。周囲で盛んに話題になっていることは観戦理由としてはあまり当てはまらないようであった(M=2.32)。そのため,「長年のロイヤルファン:Longtime Loyal Fans」と命名することができる。

クラスター5の対象者のW杯2019の観戦頻度およびファン歴は一様ではなかったが,全対象者がラグビープレー経験者であった。当然ながらラグビーの知識レベルは高い(M=4.28)。観戦理由としての「話題性」はそれほど高くはないがクラスター4よりは低くなかった(M=2.87)。そのため,「ラグビー経験者:Current and Former Rugby Players」と命名することができる。

2. 各クラスターの特徴分析の結果

過去のスポーツ関連経験,知識および観戦理由に関する変数を用いたTwo-Stepクラスター分析によって発見された5つのクラスターには,それぞれの属性,観戦時の行動,および今後の観戦意図に異なる傾向が見られることが確認された(表3)。性別に関しては,「長年のロイヤルファン」と「ラグビー経験者」は多くを男性が占めているのに対し,「潜在的ロイヤルファン」「現代的ロイヤルファン」は男女比が大きく異ならず,「一時的観戦者」においては女性の方が高い割合を占めた(女性:54.5%)。各クラスターの平均年齢を比較すると,「ラグビー経験者」が最も低く(M=38.8),次いで「一時的観戦者」(M=42.9),さらに「潜在的ロイヤルファン」(M=46.7)と「現代的ロイヤルファン」(M=46.3)が同程度,そして最も顕著に高いのが「長年のロイヤルファン」であった(M=56.2)。世帯年収は「一時的観戦者」が比較的低く,「潜在的ロイヤルファン」「現代的ロイヤルファン」「ラグビー経験者」が同程度であり,「長年のロイヤルファン」が比較的高いという傾向が見られた。

表3

各クラスターの特徴分析の結果

※平均値を比較した項目の数値は,上段が平均値,下段(カッコ内)が標準偏差

*** p<.001

次に調査対象となった当日の観戦行動に関してクラスター間の違いを確認した。調査時の観戦試合については,各クラスターにおいて全7試合の観客がある程度の割合で含まれていた。ただ,「現代的ロイヤルファン」には秩父宮の観客が(19.7%),「長年のロイヤルファン」には大学選手権の観客が(24.0%),そして「ラグビー経験者」には高校大会の観客が(28.6%),それぞれ比較的多く含まれていた。試合会場までの平均所要時間は「ラグビー経験者」が最も長く105.3分で,その他のクラスターは総じて80分程度であった。

試合当日の同伴者の人数についてもクラスター間において違いが確認された。「一時的観戦者」と「潜在的ロイヤルファン」は1人での観戦が約1割で,2人での観戦と3人以上での観戦がそれぞれ4割強を占めていた。「現代的ロイヤルファン」は2人での観戦が半数以上(53.3%)を占めているのが特徴的であった。「長年のロイヤルファン」も2人での観戦の割合が最も高いが(47.8%),他クラスターと比べると一人での観戦が比較的多く19.8%を占めた。一方で「ラグビー経験者」は,3人以上での観戦者が52.6%を占めて最も多いことが確認された。

チケットは,すべてのクラスターにおいて7割強の者が購入し,3割弱の者が招待券をもらっていた。そのチケットの価格に対する認識については,各クラスターにおいて約半数が「妥当」であると感じており,2割強が「安い」と感じ,「高い」と感じていたのは10%未満であった。中でも「高い」と感じた者の割合が比較的高かったのは「一時的観戦者」と「ラグビー経験者」であった。「高い」と感じた者の割合が最も低く(2.7%),かつ「安い」と感じた者の割合が最も高かった(27.8%)のは「現代的ロイヤルファン」であった。

最後に,今後の行動意図を比較したところ,「今後1年間のTL観戦意図」および「W杯2023のTV観戦意図」の両方において,統計的に有意な平均値の差が確認された。前者においては「一時的観戦者」(M=5.70)が他のいずれのセグメントよりも低く,「現代的ロイヤルファン」(M=6.71)と「長年のロイヤルファン」(M=6.75)が他のセグメントよりも高かった。後者においても「一時的観戦者」(M=6.13)が最も低く,「現代的ロイヤルファン」(M=6.80)と「長年のロイヤルファン」(M=6.89)が最も高い2つのセグメントであった。Cohenのη2は「今後1年間のTL観戦意図」で0.11,「W杯2023のTV観戦意図」で0.07であり,効果量からみてもクラスター間の差が小さくないことが確認された(Cohen, 1988)。

V. 議論

1. 研究結果の実践的貢献

本研究は,ラグビー観戦の市場を研究対象として,Two-Stepクラスター分析を用いて有用なセグメントを探ることを試みた。試合会場において収集したデータ(n=3,140)を活用し,過去のスポーツ関連経験,知識および観戦理由を変数として分析に用い,5つのクラスターを発見した。続いて行った比較分析によって,各クラスターにおける人口統計的属性,観戦時の行動,および今後の行動意図の特徴が確認された。

最大のクラスターは「一時的観戦者」であった(n=790,全体の25.2%)。W杯2019の観戦試合数も比較的少なく,ラグビーファンではないと認識している者が半数近くを占めるセグメントである。周囲で盛んに話題になっていることが観戦のきっかけになっている可能性が高く,一時的に関心を持って来場した客層であると見ることができる。今後の観戦行動意図は決して低くはないが,あくまでも意図であり,その測定値も他の層と比べると明らかに低い。いわゆる「にわかファン」と呼ばれる客層であると推察され,その多くが定着して固定客となることは期待できそうにはない(Harada & Matsuoka, 1999)。しかし,このセグメントの関心を長く保つことがラグビー観戦市場の底辺拡大には不可欠であろう。

「一時的観戦者」とほぼ同じ割合を占めたのが「潜在的ロイヤルファン」であった(n=778,全体の24.8%)。この層は,W杯2019のテレビ観戦試合数,ラグビーの知識,今後の観戦行動意図も比較的中程度であったが,「一時的観戦者」に比べるとそれぞれが高く,今後の固定客としての定着可能性が期待される客層である。「一時的観戦者」を一足飛びにロイヤルファンに引き上げることは困難だが,このセグメントを次の段階のロイヤルファンへと導くことは効果的な戦略であると考えられる(Mullin et al., 2014)。行動,知識,今後の意図ともに高いレベルに引き上げられつつあるが,「話題性」が引き金になっている可能性も否めないため,この客層の内的動機を向上させる必要がある。

「現代的ロイヤルファン」と「長年のロイヤルファン」はともにラグビー観戦に対するロイヤルティが高いセグメントである。明らかに異なるのは,ラグビーファンになった時期であり,それが1985年以前か否かで明確に分かれている。大学と社会人ラグビーが注目を集めた昭和から,その後の長い低迷期を経て,代表チームの活躍による人気向上という浮き沈みがあったラグビーを長きにわたり支えてきたのは「長年のロイヤルファン」である。W杯2019のテレビ観戦試合数も多く,今後の観戦行動意図も高い。今後もラグビー観戦から離れていくことは想像し難い客層である。しかしながら,このセグメントは最も小さい(n=325,全体の10.4%)。この「長年のロイヤルファン」を軽んじることは出来かねるが,これまで通りにこの客層の欲求に合わせたスポーツ観戦サービスに固執しすぎると,他のセグメントに合わず,定着しそうな客層を逃してしまう危険性もあると考えられる。コアなスポーツファンの存在がライトなスポーツファンや新規観戦者を試合会場から遠ざける可能性もある(Asada & Ko, 2019)。

このような点からも現在およびこれからの中心的な客層には「現代的ロイヤルファン」が位置づけられるのではないだろうか。このセグメントは今回の対象者の20.7%(n=649)を占め,性別,年齢層のバランスも良く,「一時的観戦者」と「潜在的ロイヤルファン」を引き寄せやすい客層とも位置づけられる。何よりも,チケット価格に対して「高い」というネガティブな反応がほとんどなく,むしろ「安い」と感じている観客が少なくない。これは,この客層がラグビー観戦の価値を既存のチケット価格以上に評価していると読み取ることもできる。実際に,本調査を行った翌シーズンにチケット価格が引き上げられているが,このセグメントが値上げを理由に離脱する可能性は低いと推察される。

最後に,分類されたすべての対象者が競技経験があるという特徴的な「ラグビー経験者(n=598,全体の19.0%)」もセグメントとして確認された。この層は競技に関する知識が豊富で関与も高いため一定の消費が見込めるセグメントであるが,その母数に限りがあることからも,大幅な市場拡大は見込めない。一般的に注目度が低いスポーツでは,この競技経験者が観戦者の多くを占める傾向がある(Mumcu & Lough, 2021)。エンタテインメントとしての価値が低いスポーツが競技に直接関連する価値しか提供できていないことが一因だと考えられる。本研究で多様なセグメントが発見されたラグビー市場には,エンタテインメント価値が見出されていると推察される。したがってこのセグメントに固執せず,「一時的観戦者」や「潜在的ロイヤルファン」に目を向けることも検討すべきである。

2. 今後の課題

スポーツ市場の把握にクラスター分析を用いた研究では,少数の似たような特性を持つセグメントが発見されるに止まり,実践的には役立ちにくい報告が多い(Mumcu & Lough, 2021; Tapp & Clowes, 2002)。しかし,本研究は特徴的な5つのセグメントを確認し,スポーツマーケティング研究におけるTwo-Stepクラスター分析の有用可能性を示すことができた。また,そのクラスタリングにおいて「W杯2019の観戦回数」,「ラグビーファン歴」および「ラグビープレー経験」という過去の行動が鍵となる要因であることが明らかにされたことは,実践的にも有益であると考えられる。しかしながら,データ収集を行った試合が限定的であったこと,実際の観戦者を対象にしたことで潜在層を把握できなかったこと,そして実践的な活用が難しいことを理由にスポーツファンにとっては重要な心理的要因を用いなかったことなど,残された課題も少なくない。今後は調査対象と測定項目の再検討が求められると同時に,他のスポーツイベントを対象とした調査及びその分析の実施についても期待される。加えて,スポーツビジネス現場におけるスポーツマーケティング研究の有効な活用方法についての更なる検討も急務である。

謝辞

本研究は公益財団法人日本ラグビーフットボール協会から早稲田大学スポーツ科学研究センターに委託された受託研究の成果の一部です。

松岡 宏高(まつおか ひろたか)

早稲田大学スポーツ科学学術院教授。専門はスポーツマネジメント,スポーツマーケティング。著書に,「スポーツマーケティング」(大修館書店,2018年,共編著)など。2001年オハイオ州立大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。

姜 泰安(かん てあん)

早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員。公益財団法人笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所政策オフィサー。専門はスポーツマーケティング。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。博士(スポーツ科学)。

和田 由佳子(わだ ゆかこ)

立命館大学スポーツ健康科学部専任講師。専門はスポーツマネジメント,スポーツマーケティング。聖心女子大学文学部卒業,立命館大学スポーツ健康科学研究科修了,早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。博士(スポーツ科学)。静岡ブルーレヴズ(ジャパンラグビーリーグワン)社外取締役。

References
 
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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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