Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Predicted vs. Perceived Weight Based on Packaging Design
Atsunori Ariga
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2023 Volume 42 Issue 3 Pages 17-26

Details
Abstract

製品パッケージは,製品情報や概念などを消費者に効率的に伝達するマーケティング手段として有用である。先行研究では,パッケージ内の製品画像(視覚オブジェクト)が空間的に下に配置されたとき,上に配置されたときよりも,その製品は視覚的に重いと評価された。本研究では,パッケージデザインに基づく重さ知覚に対して,視覚と触覚の双方からアプローチすることを目的とした。研究1では,先行研究の結果を概ね再現することに成功した。研究2では,実験参加者が製品を持ち上げて重さを評価しても,研究1と同様の結果が得られることがわかった。研究3では,参加者が事前に視覚的重さを評価してから製品を持ち上げると,視覚オブジェクトがパッケージ内の下に配置された製品は,上に配置された製品よりも軽いと知覚される傾向が見られた。以上の知見は,製品パッケージの心理的効果は消費者の情報処理方略に依存することを示唆している。

Translated Abstract

Product packaging can serve as a medium that conveys information and concepts regarding its contents. Previous research showed that a product image (visual object) spatially located at the bottom of the package led consumers to evaluate the product to be visually heavier in comparison to an image located at the top of the package did. The present study investigated this location effect (or the bottom-heavy association) in both visual and haptic domains. I succeeded in replicating the location effect in the evaluation of the visual heaviness of a product (Study 1). A diminished but significant location effect was also demonstrated in the haptically perceived heaviness when participants lifted the product with their hands (Study 2). However, the preceding evaluation of the visual heaviness of the product disrupted (rather reversed) the bottom-heavy association in the subsequent heaviness perception of the lifted product (Study 3). When the product image was shown on the bottom of the package, participants perceived the lifted product to be lighter in comparison to when the product image was shown at the top. These results suggest that the psychological effects of packaging design are elicited not only by visual processing but also by visual-haptic integration and that they have bidirectional effects on the consumer’s processing strategy.

I. 序論

1. パッケージの重要性

近年,製品のコモディティ化の進展により非計画購買が増加し,消費者の購買意思決定の場は店舗内に移行している(Nakamura, 2018)。さらに,店頭における消費者の購買意思決定に要する時間は比較的短いこと(Dickson & Sawyer, 1990)を踏まえれば,パッケージは売り手のメッセージを消費者に効率的に伝達するマーケティング手段として有用である。つまり,パッケージは製品を保護する物理的機能を有するだけでなく,消費者の視覚情報処理を介した情報伝達としての心理的機能も持ち,その重要性は益々高まっている。

2. パッケージデザインの役割

形状を含む視覚刺激(すなわちデザイン)としてのパッケージは,ブランドパーソナリティを伝達するというマクロな機能も有するが(Schmitt & Simonson, 1997),本研究では製品特徴や製品に関わる概念を伝えるミクロな機能に焦点をあてる。後者に関してはこれまで多くの研究が行われ,パッケージデザインにおける色,文字,画像などの視覚属性(あるいはそれらの組み合わせ)が消費者の情報処理,製品の知覚および評価に影響を与えることがわかっている(e.g., Ampuero & Vila, 2006; Bone & France, 2001; Garretson & Burton, 2005; Hagtvedt & Patrick, 2008; Raghubir & Krishna, 1999; Rettie & Brewer, 2000; Schoormans & Robben, 1997; Underwood, Klein, & Burke, 2001; レビューとしてIshii, 2020を参照)。例えば,Deng and Kahn(2009)は,パッケージデザインが製品の視覚的重さ(視覚情報から推定される重さ)に与える影響を調べた。パッケージ内の製品画像や視覚オブジェクトの空間的配置を操作したところ,下や右に配置されたとき上や左に配置されたときよりも,実験参加者はその製品を重く見積もった。この結果は,視覚的重さがパッケージデザインの影響を受けることを示している。さらに,Deng and Kahn(2009)は,視覚的重さが消費者の製品評価や選好に影響を与えることも明らかにしており,製品の重さ知覚の文脈においてパッケージデザインが重要な役割を果たすことを指摘している。本研究はこの知見を発展させ,パッケージデザインに基づく重さ知覚に対して視覚と触覚の双方からアプローチすることを目的とした。

3. オブジェクトの配置と視覚的重さ

先行研究(Deng & Kahn, 2009)の報告と一致する形で,オブジェクトの空間的配置と視覚的重さの関係性においては「下―重い」と「右―重い」の対応が伝統的に示唆されている(Arnheim, 1974)。まず「下―重い」の対応は一般的な物理法則(すなわち,重力)で説明される。重いものは下に引っ張られ,風船などの軽いものは上に浮かぶという経験則から,我々は「下」と「重い」を概念的に結びつけていると考えられる。次に「右―重い」の対応はレバーの法則で説明される。基本的に人間は視野内の情報を左から右に走査するため,左が基点(支点)となる。レバーを想定した場合,オブジェクトが支点から遠ざかるほど(すなわち,右に配置されるほど)レバーにかかる力は強くなるため,我々は「右」と「重い」を概念的に結びつけていると考えられる(ただし,利き目による説明もある,Hirata, 1968)。以上のように,視覚的重さのメカニズムについては様々な説明があり未解決の点も多いが,オブジェクトの空間的配置と視覚的重さの間に対応法則があることは明らかである。

4. 本研究の目的

店頭における購買意思決定場面を考慮すると,消費者は視覚情報だけに基づいて製品の重さを評価しているわけではない。多くの場合,パッケージを見て,製品を手で持ち上げて重さを評価する。つまり,視覚情報に加えて触覚情報も用いて(場合によっては触覚情報を重視して)重さの評価をし,購買意思決定の判断材料にする。そこで,本研究はパッケージデザインに基づく視覚的重さの知見(Deng & Kahn, 2009)の再現性を確認した上で(研究1),触覚経験(実際に製品を手で持ち上げる場合)においてもパッケージデザインが重さの知覚に影響を与えるのかを調べた(研究2)。さらに研究3では,重さ知覚における視触覚統合の影響について検討を行った。

II. 研究1:視覚による検討(Deng & Kahn, 2009の追試)

1. 方法

(1) 研究倫理

本研究のすべての実験は,広島大学大学院総合科学研究科の倫理審査委員会の承認を得て実施された。実験前にすべての参加者から実験参加およびデータ利用の同意を得た。

(2) 実験参加者

後述する本研究の要因計画,効果量(f=0.25),有意水準(α=0.05)および検定力(1β=0.80)に基づく検定力分析(G*power, Faul, Erdfelder, Buchner, & Lang, 2009)により,サンプル数を事前に算出した。その結果,本研究では19名の実験参加者が最低限必要であることがわかった。実験刺激の順序効果を相殺するため,実験1の参加者は24名(女性15名,平均年齢20.58,標準偏差1.07)とした。

(3) 刺激

同じ大きさの7つの白い箱(縦13 cm×横12.5 cm×奥行12.5 cm)を作成した。そのうち1つは無地ですべての面が白色であった(比較刺激)。残りの6つの箱の前面には視覚オブジェクト(直径4.3 cmの灰色の円)が描かれており(図1),オブジェクトの空間的配置は先行研究(Deng & Kahn, 2009)の研究1と同じであった(上,下,左,右,左上,右下,図2)。

図1

本研究で使用された刺激(視覚オブジェクトが上に配置された実験刺激)

図2

本研究で使用したされた比較刺激と6種類の実験刺激のイラスト

(4) 手続き

実験は実験室において個別に行われた。まず実験参加者の左前に比較刺激,右前に実験刺激が1つ置かれた。参加者の課題は比較刺激と実験刺激を見比べて,実験刺激の視覚的重さを11件法(0=非常に軽い,10=非常に重い)で評価することであった。このとき基準として比較刺激を「5」とするよう教示した。参加者が評価した後,実験刺激は回収され,別の実験刺激が1つ置かれた。つまり,比較刺激は参加者の左前に常に置かれており,右前の実験刺激のみが入れ替わった。参加者は各実験刺激について1試行ずつ評価した(計6試行)。実験刺激の呈示順序はラテン方格法によって定められ,各参加者に割り当てられた。最後に,評価時にどの程度視覚オブジェクトを意識したのか,について11件法で参加者に評価させた(0=全く意識しなかった,10=非常に意識した)。

2. 結果

評価時における視覚オブジェクトに対する意識の平均評定値は9.29(標準偏差0.89)であった。実験刺激ごとの視覚的重さの平均評定値を算出し,図3に表した。1要因6水準参加者内計画の分散分析を行った結果,オブジェクトの配置の主効果が有意であった[F(5,115)=5.74, p<.001, ηp2=0.20]。ライアン法による多重比較を行ったところ,オブジェクトが下に配置された刺激は,上に配置された刺激よりも視覚的重さの評定値が有意に高かった(p<.05)。オブジェクトが右下に配置された刺激は,左上に配置された刺激よりも視覚的重さの評定値が有意に高かった(p<.05)。オブジェクトが右に配置された刺激と左に配置された刺激の間には,評定値の有意な差は見られなかった。

図3

実験1の結果(エラーバーは標準誤差を表す)

3. 考察

実験参加者は刺激表面の視覚オブジェクトを強く意識し,オブジェクトが下および右下に配置された箱を,上および左上に配置された箱よりも重いと推定した。この結果は,先行研究(Deng & Kahn, 2009)の結果および重力による説明(「下―重い」の対応,Arnheim, 1974)と一致する。しかし,オブジェクトが左に配置された箱と右に配置された箱の間に有意差は見られず,この点においては先行研究の結果は再現されなかった。しかし,先行研究では「下―重い」の対応よりも「右―重い」の対応の方が弱いことが実証されている。本研究においても同様に「右―重い」の対応は弱く,有意差に至らなかったと考えられる。オブジェクトの配置の効果について効果量を比較すると,先行研究(ηp2=0.27)よりは減少したが,本研究では先行研究の知見を概ね再現できたと結論できる(ηp2=0.20)。先行研究はパソコン画面上に二次元刺激を呈示していたが,本研究では三次元の実物であっても同様の知見が得られることがわかった。

研究2では,実験参加者が実際に刺激を手で持ち上げた場合に,パッケージデザインに基づく重さ知覚の変調が生じるのかを調べた。一般にある出来事を想像するとき,我々は文脈のみに注意を向けるため,文脈の影響を過大評価して反応するとされている(インパクトバイアス,Gilbert, Pinel, Wilson, Blumberg, & Wheatley, 1998)。一方,実際にある出来事を経験するとき,我々は経験に対して注意を向けるため,反応は文脈の影響をそれほど受けない。この概念を本研究に当てはめて考えると,研究1(および先行研究)は参加者に重さを想像させたため,視覚的重さは文脈(すなわち,オブジェクトの配置を操作したパッケージデザイン)の影響を過大に受けた可能性がある。研究2では参加者に重さを経験させるため,重さの知覚は文脈の影響をそれほど受けないと考えられる。つまり,研究2ではパッケージデザインの効果が研究1よりも減少する,あるいは生じないと予測される。

III. 研究2:視覚と触覚による検討

1. 方法

(1) 実験参加者

研究1と同様に24名(女性14名,平均年齢19.08,標準偏差1.26)とした。

(2) 刺激

研究1と同じであったが,以下の点が異なっていた。箱の中におもりを入れ,比較刺激は約750 g,実験刺激は約850 gとした。

(3) 手続き

研究1と同じであったが,以下の点が異なっていた。実験前に実験参加者の腕についているアクセサリーを外すよう指示した。まず実験参加者に比較刺激を10秒間持ち上げさせ,その後実験刺激を10秒間持ち上げさせた。このとき,両手で箱の左右を挟むようにして持つこと,持ち上げた箱を揺らさないこと,目を閉じないこと,を注意事項として伝えた。参加者の課題は,実験刺激の重さを11件法(0=非常に軽い,10=非常に重い)で報告することであった。このとき基準として比較刺激を「5」とするよう教示した。参加者は計6試行を行い,毎試行開始時に比較刺激を持ち上げて重さを確認した。最後に,評価時にどの程度視覚オブジェクトを意識したのか,について11件法で参加者に評価させた(0=全く意識しなかった,10=非常に意識した)。

2. 結果

評価時における視覚オブジェクトに対する意識の平均評定値は1.88(標準偏差0.88)であった。実験刺激ごとの重さの平均評定値を算出し,図4に表した。分散分析を行った結果,オブジェクトの配置の主効果が有意であった[F(5,115)=4.35, p<.005, ηp2=0.16]。ライアン法による多重比較を行ったところ,オブジェクトが下に配置された刺激は,上に配置された刺激よりも重さの評定値が有意に高かった(p<.05)。オブジェクトが右に配置された刺激と左に配置された刺激の間および右下に配置された刺激と左上に配置された刺激の間には有意な差は見られなかった。

図4

実験2の結果(エラーバーは標準誤差を表す)

3. 考察

視覚オブジェクトが下に配置された箱は,上に配置された箱よりも重く知覚された。この結果は,視覚的重さを評価させた研究1の結果と一致する。研究1では,オブジェクトが右下に配置された箱は左上に配置された箱よりも重いと推定されたが,研究2ではこの間に有意差は見られなかった。また研究1と同様,オブジェクトが左に配置された箱と右に配置された箱の間にも有意差は見られなかった。さらに,研究2の効果量(ηp2=0.16)は先行研究(ηp2=0.27)や研究1(ηp2=0.20)よりも小さかった。したがって,パッケージデザインが重さ知覚(経験)に与える影響は,視覚的重さ(推定)に与える影響よりも減少したが,「下―重い」の対応は一貫して生じることがわかった。

以上の結果は,上述したインパクトバイアス(Gilbert et al., 1998)で説明できる。つまり,研究1(および先行研究)の実験参加者は文脈(パッケージデザイン)に注意を向け,それを手がかりに視覚的重さを評価したのに対し,研究2の参加者は文脈に注意を向けず,経験に基づいて重さを評価したと考えられる。実際,評価時における視覚オブジェクトに対する意識は,研究2において研究1よりも有意に低かった(t(46)=28.42, p<.001, Cohen’s d=8.38)。研究2の参加者はオブジェクトをほとんど意識していなかったことを踏まえると,パッケージデザイン(上下に配置されたオブジェクト)が重さ知覚に与える影響は潜在的であると考えられる。

重さ知覚に関する先行研究では,物体の重さは視覚的重さの対比として知覚されることが明らかになっている。例えば,2つの物体が物理的に同じ重さであっても,大きい物体は小さい物体よりも軽く知覚される(大きさ重さ錯覚,Charpentier, 1891)。この錯覚が生じるメカニズムについては様々なモデルが提案されているが,以下の対比による説明が有力である(Woodworth, 1921)。我々は経験則により,大きい物体は小さい物体よりも重いと見積もって,より強い力で持ち上げようとする。しかし,実際には大きい物体は小さい物体と同じ重さであり,予想と異なる感覚フィードバックを経験する。つまり,大きい物体は見積もりより軽く持ち上げることができるため,結果的に物体自体が軽いものとして錯覚されるという説明である(Granit, 1972)。

もし研究2においても対比効果が生じたのであれば,視覚オブジェクトが下に配置された箱は,上に配置された箱よりも軽く知覚されるはずであった。実験参加者はオブジェクトが下に配置された箱を重く見積もった上で,より強い力で箱を持ち上げるからである。では,なぜ研究2では対比効果が生じず,オブジェクトが下に配置された箱は上に配置された箱よりも重く知覚されたのであろうか。おそらく研究2の参加者は箱を持ち上げる前に,オブジェクトの配置に基づいて視覚的重さを評価しなかったと考えられる。実際,研究2の参加者はオブジェクトの配置をほとんど意識していなかった。それならば,事前に参加者に視覚的重さを明示的に評価させれば,大きさ重さ錯覚のような対比効果が生じ,オブジェクトが下に配置された箱は上に配置された箱よりも軽く知覚されるはずである。研究3ではこの仮説を検証した。

IV. 研究3:視覚と触覚の対比効果の検討

1. 方法

(1) 実験参加者

研究1,2と同様に24名(女性17名,平均年齢20.33,標準偏差0.94)とした。

(2) 刺激

研究2と同じであったが,以下の点が異なっていた。研究2で用いた6種類の実験刺激の中から,視覚オブジェクトが上,下に配置された2種類の実験刺激を用いた。

(3) 手続き

研究2と同じであったが,以下の点が異なっていた。毎試行開始時,実験参加者に実験刺激の重さを推定させた(心理尺度による評価は求めなかった)。その後,研究2と同様に参加者に比較刺激および実験刺激を持ち上げさせ,実験刺激の重さを11件法(0=非常に軽い,10=非常に重い)で報告させた。参加者は計2試行を行った。実験刺激の呈示順序についてはカウンターバランスをとった。評価時にどの程度視覚オブジェクトを意識したのか,についての質問はしなかった。

2. 結果

実験刺激ごとの重さの平均評定値を算出し,図5に表した。対応のあるt検定を行った結果,視覚オブジェクトが下に配置された刺激と上に配置された刺激の間に有意な差は見られなかった(t(23)=1.79, p=.08, Cohen’s d=0.37)。

図5

実験3の結果(エラーバーは標準誤差を表す)

3. 考察

研究1,2および先行研究(Deng & Kahn, 2009)において強固に観察された「下―重い」の対応は消失した。むしろ,視覚オブジェクトが下に配置された箱は,上に配置された箱よりも軽く知覚された(ただし,有意ではない)。効果量も小さくないこと(Cohen’s d=0.37)を踏まえれば,研究3の仮説は概ね支持されたと考えられる。実験参加者はオブジェクトが下(上)に配置された箱を事前に重く(軽く)推定した結果,その対比により,実際に箱を持ち上げたときに軽く(重く)知覚したと考えられる。

V. 総合考察

1. 結果のまとめ

本研究は先行研究(Deng & Kahn, 2009)の知見の再現性を調べ,拡張することを目的とした。研究1では,視覚オブジェクトがパッケージ内の下に配置された箱は,上に配置された箱よりも視覚的に重いと評価されることを示した。したがって,先行研究の結果を概ね再現することに成功した。

研究2では,実験参加者が実際に箱を持ち上げても,視覚オブジェクトがパッケージ内の下に配置された箱は,上に配置された箱よりも重いと知覚された。ただし,先行研究や研究1と比較して研究2の効果量は小さかったことから,実際の重さを知覚(経験)する場合は視覚情報(オブジェクトの空間的配置)の影響を受けにくいことがわかった。逆に先行研究や研究1では,視覚情報が重さの評価に対して過大に影響を与えたと考えられる。

研究3では,実験参加者が事前に箱の重さを推定した場合,視覚オブジェクトがパッケージ内の下に配置された箱は,上に配置された箱よりも軽いと知覚される傾向があった。つまり,先行研究や研究1,2とは逆の傾向を示す結果が生じた。参加者はオブジェクトが下に配置された箱の重さを事前に重く推定した結果,大きさ重さ錯覚のような対比効果が生じ,実際に箱を持ち上げたときに軽く知覚したと考えられる。

以上の結果から本研究では,(1)「下―重い」の対応は一貫して観察される強固な結びつきであり,視覚的重さ(推定)だけでなく,重さの知覚(触覚経験)に対しても影響を与える,(2)「下―重い」の対応が重さ知覚(触覚経験)に与える影響は,視覚的重さ(推定)に与える影響よりも小さい,(3)事前に刺激の重さが推定されると,「下―重い」の対応とは逆の知覚(触覚経験)が対比的に生じる傾向があること,がわかった。

2. 実務的な示唆

店頭における購買意思決定場面を考慮すると,消費者は多くの場合,パッケージを見て,製品を手で持ち上げて重さを評価する。本研究の知見はこのような場面において,消費者がどのような視覚・触覚情報処理を行っているのかを詳細に調べることの重要性を示唆している。例えば,消費者が陳列された製品を手にとって初めてパッケージデザインに接触する場合,消費者は製品パッケージから事前に視覚的重さを評価することはない。その場合,空間的配置を操作したパッケージデザインは意図に沿った情報伝達が達成できると考えられる。しかし,消費者が陳列された製品パッケージから視覚的重さを評価できる場合,パッケージデザインの意図とは逆の情報伝達が行われる恐れがある。これらの知見が今後フィールドなどで蓄積されれば,陳列方法を想定したパッケージデザインの提案が可能になると考えられる。

また,先行研究(Deng & Kahn, 2009)によれば,視覚的重さと好ましさの関係は製品に依存する。例えば,食料品,特にスナック菓子の重さは内容量や味の豊かさと適合するため,重く推定されるほど好まれやすい。一方,パソコンや電球などの非食料品は安全性や便利さと適合するため,軽く推定されるほど好まれやすい。また,スナック菓子であっても健康さを強調したい場合は,視覚的重さが軽くなるような製品画像の配置が効果的である。これらの知見に基づけば,消費者がその製品の重さをどれほど重視するのか,その製品のどのような特性を重視し,それが重さとどのような適合関係(心理的対応関係)を有しているのかを明らかにすることにより,製品に適した有効なパッケージデザインを実現できると考えられる。

さらに,消費者が製品の触覚情報をどの程度重視するかについては個人差があることが知られている(接触欲求,Peck & Childers, 2003)。消費者の接触欲求との関係を調べることで,本研究の知見がどの程度の消費者に当てはまるのか,消費者特性に応じてどの程度効果量が増加・減少するのか,を事前に予測することができると考えられる。

3. 今後の展望

パッケージデザインそのものは視覚情報であるが,製品パッケージは消費者の視覚と触覚およびそれらの感覚間統合を通した情報伝達を可能にする。したがって,製品パッケージの心理的効果に対して多感覚からアプローチすることが重要である。

本研究の結果に基づけば,パッケージデザインが消費者の製品の知覚および評価に与える影響を調べる際には,その消費者の反応が予測の結果なのか,経験の結果なのかを明確に区別する必要がある。予測の場合は消費者が文脈を過大評価している可能性が高く,実際の行動においてその効果が再現されるとは限らないからである。以上の点を考慮することによって,消費者行動に関する正確な知見の蓄積および精度の高い予測が可能になると考えられる。

謝辞

本研究の一部は,広島大学総合科学部の加藤愛望さんの協力のもと行われました。ここに謝意を表します。なお,本研究はJSPS科研費17K17909の助成を受けたものです。

有賀 敦紀(ありが あつのり)

2009年に東京大学大学院で博士(心理学)を取得。その後,日本学術振興会海外特別研究員およびUniversity of Illinois at Urbana-Champaign客員研究員(2009–2011),立正大学専任講師・准教授(2011–2016),広島大学大学院准教授(2016–2022)を経て,2022年より現職。専門は実験心理学,認知心理学,消費者心理学。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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