Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Effect of Color Saturation on Brand Attitudes in Brand Logo Redesign
Hisashi KawamataTakeshi Moriguchi
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 42 Issue 3 Pages 39-50

Details
Abstract

近年,ブランド・ロゴの変更を行う企業が増えている。変更の仕方はさまざまであるが,ロゴの形状は変えずに,色だけを変更する企業も挙げられる。そこで,本研究は,ブランド・ロゴの変更時における彩度の変化が消費者のブランド態度に与える影響を検討する。色の鮮やかさを示す彩度は,消費者に活力やはつらつさといった印象を与えることが知られている。そこで,ブランド・ロゴの変更時における彩度の変化が,ブランドの活力感や,ブランド態度に与える影響を検討した。3つの実験を通じて,1)彩度が高いロゴマークはブランドの活力感の知覚を高める,2)ロゴ・カラー変更時に彩度を高めることで,ブランドの活力感の知覚が高まり,その結果として,ブランドへの態度を高める,3)ブランドの活力感知覚がブランドへの態度に与える影響は,国際展開しているブランドのほうが,国内展開のみのブランドよりも強まることが明らかとなった。ブランド・ロゴ変更時に彩度がもたらす影響とブランド態度の関係を明らかにした本研究は,ロゴの変更を検討する企業に対して多くの示唆を提供すると考えられる。

Translated Abstract

An increasing number of brands have been redesigning their logo. While the manner of change varies, some brands only change the logo color. This study examined the effect of changes in color saturation during brand logo changes on consumers’ brand attitudes. It is known that saturation, which indicates the vividness of a color, gives consumers an impression of energy and dynamism. Therefore, we examined the impact of changes in brand logo color saturation on brand attitudes by enhancing perceptions of brand energy. Throughout three experiments, it was found that 1) a highly saturated logo enhances consumers’ perception of brand energy; 2) increasing saturation when changing the logo color increases brand energy perception, which in turn increases attitude toward the brand; and 3) the effect of brand energy perception on attitude toward the brand is stronger for global brands than for domestic brands. This study, which clarified the relationship between the influence of saturation on brand attitude when changing a brand logo, may provide many suggestions for brands considering logo redesign.

I. はじめに

近年,ブランド・ロゴの変更を行う企業が増えている。例えば,ヤマトホールディングスは2021年4月にロゴを制定してから初となるデザイン変更を行った(Nikkei Design, 2021)。世界を代表するブランドでもロゴの変更が行われており,インターブランドが発表している「世界ブランドランキングトップ100」にランクインしたブランドのうち,少なくとも4分の1のブランドが2021年までの5年間にロゴを変更したという(Nikkei MJ, 2022)。また,ブランド・ロゴの変更を行う際に,ロゴの形のみならず色を変更する例も見られる。例えば,国際的な決済ブランドであるVISAはブランド・ロゴを定期的に変更しており,直近でも2021年に形状の変更に合わせて色も変更した。また,メッセージアプリケーションのLINEは2020年にアプリのアイコンカラーを変更した。

上記のように,ブランド・ロゴ変更は,一般的に行われる企業活動の1つであるが,ブランド・ロゴ変更に関する研究は決して多くはない(van Grinsven & Das, 2015)。また,ロゴマークの構成要素である書体・形状及び色のうち(Kim & Lim, 2019),形状の変化(Walsh, Winterich, & Mittal, 2011)や,形状と色の2要因を用いて消費者の態度変容(Müller, Kocher, & Crettaz, 2013)を検討した研究はあるものの,色のみに注目した研究は少ない。

そこで本研究は,ブランド・ロゴの色の変更に着目し,その影響を検討する。なかでも,色の三要素のうち,色の鮮やかさの指標である彩度の変化に着目し,彩度の変化がもたらす影響を確認する。人々は,彩度が高い色に対してダイナミックな印象であったり(Hogg, Goodman, Porter, Mikellides, & Preddy, 1979),はつらつとした印象(Tomita, 1998)を抱く。これらの知見を用い,彩度によってもたらされる活力あるイメージが,ブランドに与える影響を明らかにすることを試みる。

なお,上述のダイナミックなイメージやはつらつさなどブランドの活力感の知覚に関する研究は,ロゴの形状に関する視点から行われているが,色の視点からは確認されていない。もし,ブランド・ロゴの色の変更によってブランドの活発なイメージを訴求でき,ブランドへの態度にポジティブな影響を与えるのであれば,ブランド・ロゴ変更時の指針として,色の視点からも検討が可能になると考えられる。また,色相に比べ,明度や彩度は,消費者のブランド・イメージに強く影響を与えることから(Ghaderi, Ruiz, & Agell, 2015),ロゴ変更時に彩度を変化させることで,消費者に新たなブランド・イメージを知覚させることができるだろう。上記のような問題意識を土台として,本研究では,ブランド・ロゴ変更時における彩度の変化が消費者のブランド態度に与える影響を検討する。

以下,第2節で既存研究のレビューを行い,第3節で仮説を提示する。仮説に基づき,第4節から第6節で3つの実験を行い,最後の第7節で本研究のまとめを行う。

II. 既存研究のレビュー

1. ロゴやパッケージの変更に関する研究

企業は,ブランド・イメージの変更やブランドの若返りのためにブランド・ロゴやパッケージの変更を行う。ロゴ変更を検討した研究は限定的であるが,ブランド・ロゴを変化させることでより新しいブランドであると知覚することが示されている(Müller et al., 2013)。また,消費者は基本的にはロゴの変化を好まないが,軽微な変化は許容する傾向にある(Pimentel & Heckler, 2003)。ただし,変更後のロゴに対する態度は消費者によって異なり,ブランドに対する愛着が高い消費者ほど,ブランド変更後のロゴを受け入れがたく(Walsh, Cui, & MacInnis, 2019),ロゴを大幅に変更した場合,ブランドロゴへの関心が高い消費者ほど,ブランドを認識するまでの速度が低下する(van Grinsven & Das, 2015)。パッケージ変更の文脈でもパッケージは変更しないほうが良いとされており,その理由として,パッケージの変更により消費者の混乱を招く可能性が指摘されている(Orth, Rose, & Merchant, 2019)。

これらのことを踏まえると,ブランドを象徴するロゴや製品パッケージの変更は,消費者の混乱を引き起こす可能性があり,変更の度合いが大きくなるほど変更後のロゴマークやパッケージを消費者は受容しがたくなるといえる。つまり,ブランド・ロゴを変更する場合はできる限り軽微なものに留めることが良いと言えよう。

2. 広告やロゴの動態性が消費者に与える影響

動きのあるブランド・ロゴは,アクティブな印象をもたらし(Henderson & Cote, 1998),パッケージやロゴに動きのある様相を加えることで,消費者はその対象を好ましく知覚する。Yu, Droulers, and Lacoste-Badie(2022)は,牛乳のパッケージに牛乳を注ぐ写真を挿入することで,パッケージ画像に動態性が生まれ,牛乳への魅力を高めることを示した。Li and Liu(2022)でも,ミネラルウォーターの広告背景やヨーグルトドリンクが入った容器に飛沫を加えた広告を作成し,これらの動きのある広告のほうが,掲載された製品をより好ましく評価することを明らかにした。書体を対象とした研究でも,斜体のフォントを用いることで動態性が生まれ,より具体的なイメージが想起しやすくなったり(Mead, Richerson, & Li, 2020),製品を好ましく知覚することが示されている(Li, Liu, & Zhou, 2020)。

本研究が対象とするロゴマークに目を移してみると,Cian, Krishna, and Elder(2014)は,シーソーやニュートンのゆりかごをモチーフとしたロゴを使用し,ロゴに動きを持たせることでダイナミックな印象を消費者に与えることを明らかにした。また,Baxter and Ilicic(2018)は,ロゴマーク内に描かれる人や動物が力に抗う姿による影響を検討した。動物が向かい風に抗う姿を描いたロゴマークは,企業が積極的に活動を行っているというブランドの活力感(Brand Energy)の知覚を高め,ブランドへの態度を向上させることを明らかにした。

3. 彩度が消費者に与える影響

前項で挙げた研究は,広告や書体,ブランド・ロゴの形状に動きを持たせることによる消費者知覚の変化を検討したものであり,動態性が消費者の活力感の知覚を高めることが示されている。一方,本研究は,ロゴの要素のうち色,特に彩度と活力感の関係を明らかにすることを試みる。そこで,彩度が消費者に与える影響を検討した研究を概観する。

彩度と消費者の関係を検討した研究は,彩度が高まることで消費者の覚醒水準が高まるというメカニズムを考慮した研究が多く挙げられる。例えば,Gorn, Chattopadhyay, Yi, and Dahl(1997)は,広告で使用される色が広告態度に与える影響を検討し,広告に用いられた色の彩度が高いと興奮度が高まり,その結果,広告態度が高まることを示した。また,Gorn, Chattopadhyay, Sengupta, and Tripathi(2004)は,彩度が下がることで,覚醒と対の概念ともいえるリラックス状態となり,リラックス感によってウェブページ上での待ち時間が短く知覚されることを明らかにした。Hagtvedt and Brasel(2017)は,彩度がもたらす覚醒水準により,注意がひきつけられることから,彩度が高い製品のほうが,彩度が低い製品よりも,物理的に大きいと知覚することを示した。Hagtvedtらの研究は,その後の彩度研究に大きな影響を与えており,音の周波数との調整効果(Wang, Qian, & Li, 2020),製品掲載位置の効果(Huang, Yang, & Liu, 2022),さらには,親近感への影響(Xiao, Zhu, Wang, & Wu, 2021)などの研究が,Hagtvedtらの研究から波及している。

ここまで,覚醒水準をメカニズムとして考慮した研究を挙げたが,他の視点からも検討が行われている。食品科学領域では,彩度の高さが野菜や果物に対する新鮮さの知覚に影響を与えたり(Schifferstein, Wehrle, & Carbon, 2019),評価を高める(Lee, Lee, Lee, & Song, 2013)ことを確認している。この彩度がもたらす新鮮さの知覚は,消費者行動研究でも検討されている。例えば,パッケージ全体の彩度と新鮮さの知覚に正の相関があること(Wei, Ou, Luo, & Hutchings, 2012)や,飲料製品のパッケージ写真の彩度を高めることにより,飲料の新鮮さや美味しさの知覚が高まることが示されている(Kunz, Haasova, & Florack, 2020)。

また,彩度は,ダイナミックさや活発さといったイメージを連想させ(Hogg et al., 1979),人やブランドの性格的特徴にも影響を与える。例えば,顔写真の背景色の彩度を高めることで,写真に掲載されている人をより外向的な人間であると評価する(Pazda & Thorstenson, 2018, 2019)。色とブランドパーソナリティの関係をとらえたLabrecque and Milne(2012)は,彩度が高いロゴは,興奮・能力・素朴といったイメージを向上させ,彩度が低いロゴは,誠実・洗練のイメージを向上させることを明らかにした。ほかにも,He and Lv(2021)は,世界各国で販売されている清涼飲料水のパッケージに使用される色を分析し,彩度が高い色がパッケージに多用されていることを明らかにした。彼らは,多くの清涼飲料水ブランドが,ブランド・イメージとして活発さを提供することから,活発なイメージに適合する彩度が高い色をパッケージに採用したためであると結論付けている。彩度から知覚される活発さは,アジアやヨーロッパなど多くの国で連想され(Gao et al., 2007),また,世代間差も小さいため(Ou, Luo, Sun, Hu, & Chen, 2012),世界中の清涼飲料水のパッケージに彩度が高い色を採用していると考えられる。

III. 仮説

前節で示したように,ロゴマーク(Cian et al., 2014)や書体(Mead et al., 2020)に動態性を与えることで,消費者の意思決定に影響を及ぼすことが確認されている。中でも,Baxter and Ilicic(2018)は,動きに抗うような力を感じさせるロゴマークが,活力感を知覚させることを明らかにした。このような活力感の知覚は,ロゴの形状だけではなく,ロゴの色によっても高めることができると考えられる。先で議論したように,彩度が高い色は,ダイナミックさや活動的な印象を連想させ(Hogg et al., 1979),写真の背景などの彩度を高めることで写真に写る人物を外向的な存在であると知覚させる(Pazda & Thorstenson, 2018, 2019)。つまり,ロゴマークの彩度を高めることでブランドが外向的な性格を有し,ダイナミックさやはつらつさといったブランドの活力感を消費者に印象付けられると考える。そこで,以下の仮説を導出する。

仮説1:彩度が高いロゴマークは彩度が低いロゴマークに比べてブランドの活力感の知覚を高める

本研究では,ブランド・ロゴの変更を想定した実験を行うが,先に示した通り,ロゴマークの変更の度合いが大きいと,消費者に受容されにくい可能性がある。一方,その度合いが小さいものであれば消費者に受容される可能性は高い。van Grinsven and Das(2015)は,現在ブランドが使用しているロゴと,ロゴの変更度合いが異なる2種類のロゴ(軽微な変更,大幅な変更)の計3種類のロゴを用いてロゴの認識速度を検証した。この研究では,軽微なロゴの変更を既存のロゴから色のみの変更,大幅な変更を既存のロゴから色と形状の両方の変更としている。変更を行った2種類のロゴの認識速度は,現在使用しているロゴに比べて遅くなるものの,現在使用しているロゴと色のみを変更したロゴとの間に統計的な有意差は確認されなかった。ロゴ変更時の色のみの変化は,消費者のロゴ認識速度を大幅に遅くするものではないという彼らの結果から考えると,色のみの変更は,既存のロゴが有するイメージと大きくかけ離れておらず,ロゴから知覚するブランドへの態度を低減させる可能性は低いと思われる。それよりも,彩度が高まることで得られるブランドに対する活力感の知覚により,ブランドが精力的に活動を行っているという消費者の連想が促され,消費者のブランドへの態度が高まると考えられる。そこで,以下の仮説を導出する。

仮説2:ブランド・ロゴ・カラー変更時に彩度を高めることで,ブランドの活力感の知覚が高まり,その結果としてブランドへの態度が向上する

最後に,ブランドの活力感の知覚がブランド態度に与える影響は,ブランドの特徴によって調整されることを検討する。その際,ブランドの特徴として,ブランドの国際展開の有無を考慮する。国際的に展開するブランドは,多数の領域で強い影響力を発揮していることから(Özsomer & Altaras, 2008),国内のみで展開するブランドに比べ,競争力が高く,市場において力のある存在であるとみなされる(Davvetas & Halkias, 2019)。国際的な展開をするブランドは,世界的な認知や競争力を得るため,より積極的な企業活動を行う必要があり,その活動の成果として,世界的に影響力のある好ましいブランドであると消費者は知覚すると考えられる。つまり,国際的な展開を行うブランドは,国内のみで展開するブランドに比べ,ブランドの活力感の知覚が,消費者のブランド態度に強く影響を及ぼす可能性があり,彩度がもたらす活力感知覚からブランド態度に与える影響をより強めると考えられる。色から知覚される印象と製品特徴を一致させることで対象をより適切であると判断することからも(Bottomley & Doyle, 2006),彩度から知覚される活力感知覚と国際展開を行っているという活力感が一致することで,より好ましい態度をとるようになると考えられる。そこで,以下の仮説を導出する。

仮説3:国際的な展開を行っているブランドの場合,そうでないブランドに比べて,ブランドの活力感の知覚がブランド態度に及ぼす影響が,より強くなる

上記3つの仮説について,以下3つの実験により仮説の検討を行う。

IV. 実験1:彩度がブランドの活力感知覚に与える影響

1. 実験目的と概要

実験1の目的は,仮説1を検証することであり,具体的には,彩度の違いがブランドの活力感の知覚に影響を及ぼすことを確認することである。また,異なる色相でも同様の結果が得られるかを確認するため,赤系と緑系の2種類のロゴマークを利用する。ロゴ・カラーは,Hagtvedt and Brasel(2017)を参考に,赤系のロゴマークは色相を0,明度を54に設定し,緑系のロゴマークは色相を117,明度を70に設定した。また,赤系/緑系いずれのロゴマークも,彩度が高いロゴマークでは彩度を100,低いロゴマークは彩度を50とした(ロゴの形状はAppendixを参照)。

実験は,2022年4月にクラウドワークスに登録している20歳以上の一般消費者141名を対象に行った。実験参加者は4つのグループ(色相:赤/緑×彩度:高/低)にランダムに振り分けられ,それぞれのグループに応じたロゴマークが提示された。その後ブランドの活力感について,リッカート尺度(7件法,1:「まったくそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で回答してもらった。活力感は,Baxter and Ilicic(2018)を参考に,「このブランドは活力がある」,「このブランドは行動力がある」,「このブランドは影響力がある」,「このブランドは勢いがある」の4項目を設定した。なお,アテンションチェックなどの項目をクリアした118名(平均年齢=42.85歳,標準偏差=11.28,女性=71人)を分析の対象とし,活力感の知覚は上記の4項目の平均値を用いることとした(α=0.933, AVE=0.835, CR=0.953)。

2. 結果

「彩度高」条件と「彩度低」条件におけるブランドの活力感知覚についてt検定を行った。その結果,色相が赤系,緑系いずれの場合も「彩度高」条件のロゴマークは,「彩度低」条件に比べ,企業の活力感の値を有意に高めた(赤系:M=4.842, SD=0.797 vs. M=3.283, SD=0.902, t(58)=7.090, p<0.001, d=1.831,緑系:M=4.792, SD=0.655 vs. M=3.057, SD=0.896, t(56)=9.172, p<0.001, d=2.414)(図1)。この結果より,仮説1は支持された。

図1

ブランドの活力感の比較(実験1)

エラーバーは標準偏差を表す

V. 実験2:ロゴ・カラー変更がブランドへの活力感と態度に与える影響

1. 実験目的と概要

実験1は,ロゴ・カラーの彩度が高い方が,ブランドに対する活力感知覚を高めることを確認した。実験2では,ロゴ・カラーの変更を想定し,彩度を変化させた場合におけるブランド態度への影響と,そのメカニズムであるブランドの活力感の影響を確認する。また,実験2では,実験1では用いられなかった色を用い,同様の効果が得られるか確認する。

実験2では,Digitransという架空のブランド・ロゴを作成した。新しいロゴ・カラーは実験1同様Hagtvedt and Brasel(2017)を参考に,色相を22,明度を80に設定し,彩度が高いロゴでは100,低いロゴでは50とした。実験2では,ロゴ・カラーの彩度の変更を想定した実験のため,変更前のロゴのカラーとして,色相及び明度は変更前と変更後で同一の値にし,彩度は変更後のロゴの中間の値となる75に設定した。(ロゴの形状はAppendix参照)。

実験2は,2022年5月に実施され,クラウドワークスに登録している一般消費者150名を対象に行った。実験参加者は2つのグループ(ロゴ変更後の彩度:高/低)にランダムに振り分けられた。初めに,Digitrans社が最近ロゴのカラー変更を行ったということが紹介され,旧ロゴと新ロゴが提示された。その後,Digitrans社の活力感の知覚や態度について,リッカート尺度(7件法)で回答してもらった。ブランドに対する活力は,実験1と同様の4項目からなる尺度を用い,ブランド態度は,Mitchell and Olson(1981)を参考に,「1:悪い-7:良い」,「1:非常に嫌い-7:非常に好き」「1:好ましくない-7;好ましい」「1:品質が悪い-7:品質が良い」の4項目を用いた。また,ブランドの活力感(α=0.948, AVE=0.731, CR=0.916)及びブランドへの態度(α=0.918, AVE=0.648, CR=0.880)いずれも,4項目の平均値を用いて分析を行った。なお,アテンションチェックをクリアした136名(平均年齢=39.11歳,標準偏差=12.38,女性=98人)を分析対象とする。

2. 結果

「彩度高」条件と「彩度低」条件におけるブランドの活力感の知覚及びブランド態度についてt検定を行った。その結果,「彩度高」条件のほうが,「彩度低」条件に比べ,ブランドの活力感の知覚(M=4.721, SD=0.885 vs. M=2.563, SD=0.927, t(134)=13.890, p<0.001, d=2.382)およびブランドへの態度(M=4.871, SD=0.827 vs. M=3.779, SD=0.877, t(134)=7.469, p<0.001, d=1.281)が有意に高かった(図2)。

図2

ブランドの活力感とブランド態度の比較(実験2)

エラーバーは標準偏差を表す

続いてメカニズムを確認するため,変更後の彩度(低:0/高:1)を独立変数,企業への態度を従属変数,ブランドの活力感の知覚を媒介変数とする,媒介分析を行った(Hayes, 2017; PROCESS macro, Model 4)。媒介分析の結果,ロゴ・カラー変更時に彩度を高めることで,ブランドの活力感に正の影響を与え(β=0.765, SE=0.077, t=13.890, p<0.001),また,ブランドの活力感がブランド態度に正の影響を与えていた(β=0.763, SE=0.066, t=8.243, p<0.001)。ブートストラップ法5,000回リサンプリングによる間接効果を確認したところ,ブランドの活力感知覚による間接効果は95%信頼区間で0を含まない正の値であった(β=0.546, SE=0.073, 95%CI[0.401, 0.690])(図3)。

図3

媒介分析の結果(実験2)

注:いずれも標準化変数を用いている。***は0.1%水準で有意であることを示す。

これらの結果より,ブランド変更時に彩度を高める変更を行うことで,ブランドの活力感の知覚が高まり,その結果ブランド態度が高まるという仮説2が支持された。

VI. 実験3:ブランドの国際展開の有無による調整効果

1. 実験目的と概要

実験3では仮説3の検証,すなわち,ブランドの活発感からブランド態度への影響が,ブランドの国際展開の有無によって変化するかを検討する。ブランドの特徴として国際展開の有無を考慮する理由は,以下のとおりである。国際展開を行うブランドは,そうでないブランドに比べ,より大きな市場での競争を強いられる。そのため,ブランドは国際市場で頭角を現そうと積極的な活動を行うようになり,精力的な活動の結果として,好ましいブランド態度が生起されると考えられる。つまり,国際市場という大きな市場で競争を行う必要がある国際展開を行うブランドは,積極性や活力感が高いと知覚されるほどブランド態度を向上させると考えられる。そこで,実験3では国際展開の有無の調整効果を検討する。また,実験3では,1つのロゴマークに複数の色を用いた場合の影響も検討する。

実験3は,2022年8月に実施され,クラウドワークスに登録している一般消費者285名を対象に行った。実験参加者は4つのグループ(彩度:高/低×ブランドの国際展開:あり/なし)にランダムに振り分けられた。初めに,Clothという架空のアパレルブランドがロゴ・カラー変更を行ったということが示された。この時Clothの説明として,「海外展開をしているアパレルブランド」あるいは,「日本国内でのみ展開をしているアパレルブランド」と紹介し,旧ロゴマークと新ロゴマークがそれぞれ提示された。ロゴマークは青系(色相:216,明度:60),赤系(色相:343,明度:95),黄系(色相:45,明度:91)の3色からなり,実験2同様旧ロゴマークの彩度は75,新ロゴマークの彩度は,彩度を高めた場合を100,下げた場合を50とした(形状はAppendix参照)。その後,Clothの活力感(α=0.894, AVE=0.675, CR=0.892)やClothに対する態度(α=0.849, AVE=0.614, CR=0.863)が質問された。それぞれの質問項目は,実験1・2と同様のものを用い,分析時はそれぞれ4項目の平均値を用いることとした。なお,アテンションチェックなどの項目をクリアした244名(年齢=39.13歳,標準偏差=10.39,女性=135人)を分析の対象とする。

2. 結果

分析に先立ち,マニピュレーションチェックとして,Steenkamp, Batra, and Alden(2003)を参考に,Clothに対するグローバル知覚(α=0.829)を確認した。結果,国際展開していると教示した群のほうが,日本国内のみで展開していると教示した群に比べてよりグローバルな知覚が高いことが確認された(M国際展開=4.309, SD=1.082 vs. M国内展開=3.366, SD=1.298, t(242)=6.165, p<0.001, d=0.789)。これをもって,適切にマニピュレーションができたと判断し,仮説検証へ進む。

仮説3の検証のため,ロゴ・カラー変更後の彩度の高低を独立変数(低:0/高:1),ブランドの活力感知覚を媒介変数,ブランドへの態度を従属変数,そして,ブランドの国際展開の有無(国内展開のみ:0/国際展開あり:1)を調整変数とした分析を実施した(PROCESS macro, Model 14)。結果は,以下のとおりである。はじめに,彩度の変更がブランド態度に与える影響を確認したところ,正に有意な値であった(β=0.270, SE=0.127, t=2.120, p=0.035)。続いて,ロゴ・カラー変更時の彩度の変化がブランドの活力感に与える影響は,正に有意な値を示した(β=0.425, SE=0.126, t=3.383, p=0.010)。ブランドの活力感及び国際展開の有無がブランド態度に与える影響について確認すると,ブランドの活力感知覚の主効果は有意に正の値(β=0.494, SE=0.073, t=6.771, p<0.001)を示したが,ブランドの国際展開の有無の主効果は非有意であった(β=0.099, SE=0.100, t=0.992, p=0.322)。また,ブランドの活力感と国際展開の有無の交互作用は,有意に正の値を示した(β=0.244, SE=0.100, t=2.447, p=0.015)。交互作用項が有意であったため,調整効果を確認すると,国際展開の有無にかかわらず,ブランドの活力がブランド態度に与える影響は正に有意であり(国際展開あり:β=0.739, SE=0.070, t=10.582, p<0.001,国内展開のみ:β=0.494, SE=0.073, t=6.771, p<0.001),間接効果は95%信頼区間において0を含まない正の値を示した(国際展開あり:β=0.313, SE=0.098, 95%CI[0.127, 0.513],国内展開のみ:β=0.210, SE=0.098, 95%CI[0.127, 0.513])。しかし,国際展開の有無による間接効果を比較したところ,95%信頼区間で0を含まない正の値を示した(β=0.104, SE=0.055, 95%CI[0.013, 0.225])。したがって,国際展開を行っているブランドは国内展開のみを行うブランドに比べて,ブランドの活力感知覚からブランド態度への影響がより強いといえる。このように,仮説3は支持された。なお,直接効果は非有意であった(β=0.004, SE=0.102, t=0.038, p=0.970)(図4)。

図4

調整媒介分析の結果(実験3)

注:いずれも標準化変数。***は0.1%水準,*は5%水準で有意であることを示す。

VII. まとめ

1. 研究のまとめ

本研究は,ブランド・ロゴ変更における色の役割について検討した。中でも,ロゴ・カラー変更として彩度を高めることで,ブランドに対する活力感知覚を向上させ,ブランド態度を高めることを明らかにした。実験1では,彩度がブランドの活力感知覚に与える影響について色相が異なる2種類のロゴマークを用いて実験を実施し,高彩度のロゴマークの方がブランドの活力感知覚が高まることを確認した。また,実験2では,ブランド・ロゴ変更を想定したシナリオ実験により,ロゴ・カラーの変更時に彩度を高めたブランドのほうが,彩度を下げたブランドよりも,活力感あるブランドであると知覚され,結果としてブランドへの態度が高まることを確認した。最後の実験3では,実験2の結果をもとに,ブランドの国際展開の有無を調整変数とした実験を行った。その結果,ブランドの活力感とブランド態度の間に,国際展開の有無による調整効果が確認され,国際展開しているブランドのほうが,ブランドの活力感からブランドの態度への影響が強まることが明らかとなった。

2. 意義

本研究の学術的意義は以下のとおりである。1点目は,ロゴの彩度変化がブランドの活力感の知覚に影響を及ぼしたことを確認した点である。ブランドの活力感に関する研究は,すでにロゴの形状については検討がされていたが,色による検討はなされていない。本研究では,彩度の変化によってもブランドの活力感の知覚が高まることを確認したという点で,本研究領域の進展に寄与できたといえよう。2点目は,ブランド・ロゴの変更に関する研究への貢献である。ロゴ変更の研究は,先に示したように決して研究が多いとは言えない。その中で,色の変更によるロゴに対する態度への影響を確認した本研究は,ロゴ変更に関する研究に対しても新たな知見を加えられたと考えられる。最後の3点目として,彩度研究への貢献が挙げられる。彩度に関する研究は,近年非常に精力的になされている。その中で,彩度がもたらす活力の知覚という視点を加えられたのは,価値があると考えられる。

また,実務的な意義として,ロゴ変更による活力感の訴求における彩度の利用が挙げられる。本研究では,彩度がもたらす役割として,ブランドの活力感知覚という概念を用いて検討を行った。そして,ロゴの色を変更する際に彩度を高めることで,活力あるブランドであることを訴求し,ブランド態度を高めることを確認した。多くの企業にとって,自社が積極的に活動を行い,他社に比べて競争優位にあることを消費者に印象付けることは有用であると考えられる。そのため,本研究の結果は,企業のブランド戦略における有用な示唆となるだろう。特に,国際的な展開を行うブランドにおいてこの効果が顕著であることから,国際的なブランド展開を行う企業におけるロゴ変更の際の1つの指針にもなるだろう。加えて,彩度の高さがもたらす活発なイメージは洋の東西や世代を問わず有効であるため,本研究の結果は多くの消費者に影響を及ぼしうるといえよう。

3. 今後の課題

一方で,本研究には複数の限界がある。1点目は,活力を知覚する彩度や,ブランドのイメージを毀損しうる彩度の変更幅の閾値を検討できていない点である。実験2・3では,既存のブランド・ロゴの彩度を75,ロゴ・カラー変更により彩度を高めた場合の値を100,彩度を下げた場合の値を50と設定した。ロゴの色の変更後の彩度は,Hagtvedt and Brasel(2017)で用いた値を参考にしたため,ロゴ・カラー変更における彩度の変化幅を2つの彩度の中間となる25と設定したが,これよりも小さな値でも彩度による活力感が知覚されるかは検討すべきであろう。また,彩度を大きく変化させると,今まで積み上げてきたブランド・イメージを毀損する可能性もありうる。これらの点から,ブランドの活力感を訴求しつつブランドのイメージを毀損しない適切な彩度の変化幅を模索する必要があるだろう。

2点目はロゴ・カラー変更について,ロゴ・カラー変更前後の長期的な時間推移を捕捉できていない点が挙げられる。本研究では,架空のブランドやロゴを用いて実験を実施し,実験参加者は初めて見たブランド・ロゴについてロゴ・カラーの変更を行ったというシナリオが示されている。そのため,本研究結果は,非常に短時間で形成されたブランド・イメージの変化に注目していると考えられる。しかし,多くのブランドは長い時間をかけてブランド・イメージを形成しており,ロゴ変更により既に形成されたブランド・イメージがどのように変化するかを検討するほうがより意義があるといえよう。企業が実際に使用しているブランド・ロゴを実験に使用する例もあり(Müller et al., 2013; van Grinsven & Das, 2015),これら研究のように長期間かけて形成されたイメージがロゴの彩度変更によってどのように変化するかを明らかにすることが重要であると考えられる。

また,ロゴ・カラーの変更後の影響も,経時的な変化があると考えられる。ロゴ・カラーが変化した後でも,繰り返しロゴに触れることで,その影響は徐々に低減していく可能性がある。大きな変更を行ったロゴも,繰り返しロゴに触れることで情報処理が促進されることが確認されている(van Grinsven & Das, 2015)。この点から考えると,繰り返しロゴに触れることで消費者が新たなブランド・ロゴに慣れ,ロゴ変更時にブランドが訴求していたイメージを徐々に知覚しづらくなる可能性がある。これらの点を踏まえると,事前のブランド・イメージや事後の経時的な変化をとらえることが今後の研究課題として挙げられる。

3点目は,ロゴの形状との相互作用について検討ができていない点が挙げられる。ロゴマークを用いた研究ではないが,Blazhenkova and Dogerlioglu-Demir(2020)は,錠剤の形状が角張っているときはエネルギッシュな効果を,丸い形状のときは沈静効果を知覚することを確認している。本研究では,四角形あるいは四角形の組み合わせを用いたロゴを使用しており,その他の形状のロゴにおける彩度と活力感の影響を確認していない。ロゴの主たる構成要素である形状の影響を含めた検討を行うことでより厳密な議論が可能になるだろう。

河股 久司(かわまた ひさし)

早稲田大学商学部講師(任期付)。2021年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。早稲田大学商学部助手を経て,2021年9月より現職。修士(商学)。専門は消費者行動。

守口 剛(もりぐち たけし)

早稲田大学政治経済学部卒業,東京工業大学理工学研究科経営工学専攻博士課程修了,博士(工学)。立教大学を経て,2005年より現職。

Appendix

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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