2023 Volume 42 Issue 4 Pages 3-5
Culture is one of the key concepts in marketing and consumer behavior research. The relationship between culture and marketing is diverse: not only does culture influence marketing activities and consumer behavior, but marketing also creates culture/subculture and companies sell cultural contents and use culture in their marketing activities. This special issue presents four studies that focus on the diverse aspects of culture and marketing.
文化は企業のマーケティング活動や消費者行動に影響を及ぼす重要な概念の1つである.国際マーケティングにおける国や地域の文化のみならず,サブカルチャーをはじめとした消費文化や,芸術やスポーツといった文化的コンテンツ,組織や集団の文化に至るまで,マーケティング・消費者行動研究では文化を中心的な概念の1つとして研究の対象としてきた.
実際,近年のJournal of Marketing誌においても数多くの研究が発表されている.例えば,国際的なマーケティング活動における文化の影響に注目した研究(Hohenberg & Homburg, 2016; Samaha, Beck, & Palmatier, 2014)や,文化と密接に関係する社会規範が消費者行動に与える影響に関するメタ分析(Melnyk, Carrillat, & Melnyk, 2022),文化と消費者の価格感度の研究(Kübler, Pauwels, Yildirim, & Fandrich, 2018),文化次元の1つである権力格差に注目した研究(Lee, Lalwani, & Wang, 2020; Paharia & Swaminathan, 2019; Winterich, Gangwar, & Grewal, 2018),文化的コンテンツの海外進出(Gao, Ji, Liu, & Sun, 2020)などがある.
本号の特集では改めて文化とマーケティングの関係に注目し,マーケティング・消費者行動研究とマーケティングの実務において文化が持つ重要性を再確認したい.
企業のマーケティング活動と文化との関係は多様である.海外進出した企業のマーケティング活動に文化が影響を及ぼすという関係(文化に影響される)や,消費に関する文化・サブカルチャーをマーケティング活動によって作り出すという関係(文化を作る),文化的な要素を含む製品・サービスをマーケティングの対象とするという関係(文化を売る),芸術やスポーツといった文化的な活動をマーケティング活動に利用するという関係(文化を利用する)などがある.
消費活動も同様に,国の文化や準拠集団のサブカルチャーから影響を受けるのみならず,異質な文化を積極的に受け入れて消費する場合や,異質な文化を拒絶し自国の文化を選んで消費する場合もあり,文化と密接な関係がある.このように,企業のマーケティング活動にとって文化は常に考慮すべき重要な課題であり,実務家にとっても文化に関する新たな研究成果を知ることは意義あることだろう.
本特集では4つの論文を掲載している.それぞれ文化とマーケティングの異なる側面に焦点を当てた,最新の研究成果である.第一論文は文化を消費する研究,第二論文は文化を売る研究,第三,第四論文は文化を使ったマーケティングの研究である.
第一論文は,金春姫氏による「多文化時代におけるポップカルチャーと消費者行動―包括的分析フレームワークの構築に向けて―」である.同論文では,欧米やアジアのポップカルチャーを消費する消費者に焦点を当て,日本を含む複数国におけるインタビュー調査から,ポップカルチャーの消費がその他の消費活動に及ぼす影響を定性的に明らかにした.Youtubeや動画配信サービスの普及により,多様な国の文化的コンテンツ,特に音楽やドラマなどのポップカルチャーが世界中で消費されるようになり,消費者に文化変容(acculturation)が起きている可能性を指摘している.文化変容と消費者自身のエスニック・アイデンティティが消費行動に影響するモデルを提示した.
第二論文は,松井剛氏による「ニューヨーク市における日本料理レストランの歴史」である.近年,寿司やラーメンをはじめとした和食・日本食が世界中で消費されている.しかし,生魚のような異質な食文化を受け入れることは,海外の消費者にとって容易なことではない.本論文は多様な食文化が受容されているニューヨーク市において日本食レストランが定着した歴史を,当事者に対するインタビューと,新聞記事や料理書,レストランのメニューなどの歴史的アーカイブから明らかにしている.20世紀初頭,ニューヨーク市最初の日本料理レストランの誕生から,近年の日本料理の多様化に至るプロセスが記述されている.
第三論文は,川北眞紀子氏,薗部靖史氏による「メディアとしてのアートプレイス―芸術支援のパブリック・リレーションズにおける役割―」である.アートがある空間(アートプレイス)をメディアととらえ,それを使った企業活動を類型化し特徴を整理している.企業は芸術支援を通じてブランド・イメージの向上やステークホルダーとの対話を行っている.また近年では,SDGsの取り組みとして芸術支援を行う企業も多い.こうした活動をパブリック・リレーションズの視座から再定義し,アートプレイスの所有形態とステークホルダーとの相互作用性によって分類し,その運用と効果について考察した.
第四論文は,松井彩子氏による「スポーツスポンサーシップにおけるネガティブインシデントへの消費者の反応―東京五輪のスポンサー汚職に関するツイートデータを用いて―」である.2021年に行われた東京オリンピックでは,様々な不祥事があったことが報じられている.東京オリンピックのスポンサー企業は,スポーツという文化的イベントをサポートすることによって企業イメージの向上を意図していたはずである.しかし,不祥事が報道されることによってイベントのイメージが低下し,その影響がスポンサー企業にも波及した可能性がある.本研究ではTwitterの書き込みデータから,スポンサー企業への影響を探索的に調査している.
いずれの論文も,文化とマーケティング活動,消費者行動の関係に重要な示唆を与えてくれる研究である.