Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Collective Psychological Ownership:
Applicability to Research in Marketing
Ryohei Kitazawa
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2023 Volume 42 Issue 4 Pages 51-57

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Abstract

対象に対する個人の所有感覚である個人的心理的所有感という概念は,2000年代初期に組織論の文脈において提唱されて以降,製品に対する購買意図や支払い意思額の向上などのマーケティング成果をもたらすために,マーケティング研究に盛んに応用されてきた。さらに,この概念に加えて,対象に対する集団の所有感覚である集団的心理的所有感という概念が提唱されており,組織の効率性などの組織成果に関して,個人的心理的所有感とは異なる帰結をもたらす可能性が指摘されている。それにもかかわらず,マーケティング領域にこの概念を応用することを試みた研究はほとんど存在しない。本稿は,個人的心理的所有感と集団的心理的所有感に関する研究をレビューし,後者の概念の,消費者コミュニティや経験消費などのマーケティング研究への応用可能性を検討する。

Translated Abstract

The concept of individual psychological ownership, or an individual’s sense of ownership toward an object, was proposed in the context of organizational theory in the early 2000s. Since then, this concept has been widely applied in marketing research, since it led to marketing outcomes such as increased purchase intention and willingness to pay for the product. In addition, the concept of collective psychological ownership—a group’s sense of ownership toward an object—was proposed outside the marketing field. It has been suggested that this concept may have different consequences from those of individual psychological ownership with regard to issues such as organizational effectiveness. However, there are few studies that attempt to apply this concept to the marketing field. This paper reviews studies on individual and collective psychological ownership and examines the possibility that collective psychological ownership may be applicable in marketing research on consumer community and experiential consumption.

I. はじめに

個人的心理的所有感(individual psychological ownership,以下,iPO)とは,対象に対して個人が抱く「これは私のものだ(it is MINE)」という所有感覚のことである(Pierce, Kostova, & Dirks, 2001)。この概念は,Academy of Management Review誌において提唱されて以降,組織論の文脈において,仕事や所属する組織に対する個人の態度や行動を予測する重要な要因として注目されている(Dawkins, Tian, Newman, & Martin, 2017)。例えば,iPOは,個人の組織に対するコミットメント(e.g., Han, Chiang, & Chang, 2010; Van Dyne & Pierce, 2004),仕事に対する満足(e.g., Avey, Wernsing, & Palanski, 2012; Peng & Pierce, 2015),組織に対するスチュワードシップ行動(e.g., Bernhard & O’Driscoll, 2011; Park, Song, Yoon, & Kim, 2013),売り上げ成果(e.g., Brown, Pierce, & Crossley, 2014; Wagner, Parker, & Christiansen, 2003)に正の影響を及ぼすと言われている。

こうした組織論におけるiPOへの注目を契機として,2010年前後に,iPOをマーケティング研究へ応用しようとする試みがなされた。その結果として,iPOがさまざまなマーケティング成果(e.g.,対象に対するロイヤルティの形成,支払い意思額の向上)をもたらすことが示された。さらに,2010年代中後期になると,マーケティング研究の文脈における,デジタル消費やアクセス・ベース消費などの新たな消費様式への関心の高まりを契機として,iPOは,さらなる注目を集めることになる。例えば,新たな消費様式と従来の消費様式を比較した研究(e.g., Atasoy & Morewedge, 2018)や,新たな消費様式における消費者行動を説明した研究(e.g., Fritze, Marchand, Eistingerich, & Benkenstein, 2020)が出現した。

こうした2010年代以降のiPOに関するマーケティング研究の流れとは別に,組織論の文脈において,Pierce and Jussila(2010)は,iPOの考え方に依拠して,集団的心理的所有感(collective psychological ownership,以下,cPO)という概念を提唱した。彼らによると,cPOとは,対象に対して集団的に形成される「これは私たちのものだ(it is OURS)」という所有感覚のことである。この概念が提唱されて以降,組織論をはじめとした多くの研究領域へcPOを応用しようとする試みがなされている(e.g., Gray, Knight, & Baer, 2020; Nijs, Martinovic, Verkuyten, & Sedikides, 2021; Verkuyten & Martinovic, 2017)。こうしたマーケティング研究以外の研究領域へのcPOの積極的な応用にもかかわらず,cPOをマーケティング研究へ応用しようとする試みは,ほとんど存在しない。

そこで,本稿は,iPOの定義とiPOに関するマーケティング研究(第II節),および,cPOの定義とcPOに関するマーケティング領域外の研究(第III節)をレビューし,それらを踏まえて,cPOのマーケティング研究への応用可能性を提示する(第IV節)。本稿の目的は,cPOのマーケティング研究への応用可能性を提示することによって,本稿が,cPOに関するマーケティング研究に読者諸賢が取り組む契機となることである。

II. iPOに関するマーケティング研究

1. iPOという概念について

iPOとは,個人が,対象(または,対象の一部)を,自身のものであるかのように感じている状態のことである(Pierce et al., 2001; Pierce, Kostova, & Dirks, 2003)。個人が,法的に所有していない対象に対してiPOを抱くこともあれば,反対に,法的に所有している対象に対してiPOを抱かないこともある。例えば,法的所有権のない対象である,自分の考案したアイデアや自分の家族に対して個人がiPOを抱くことがある一方(Shaw, Li, & Olson, 2012; Verkuyten & Martinovic, 2017),法的所有権を有する対象である,株式を保有している企業や売却する予定の記念品に対して個人がiPOを抱かないことがある(List, 2003)。

また,iPOは,以下の3つの要因によって形成されると言われている(Jussila, Tarkiainen, Sarstedt, & Hair, 2015; Pierce et al., 2001, 2003)。つまり,(1)コントロールの経験,(2)自己投資,および,(3)知識や親しみである。コントロールの経験について,対象との相互作用を通して,個人は,コントロール感を得,対象に対してiPOを抱くと言われている。例えば,自家用車に対するコントロールの経験(自分の好みに合わせて,好きなように車の外装・内装などをカスタイマイズする経験)によって,個人は,「自分の思うままに使えるから,この車は,私のものだ」という感覚を抱くであろう。自己投資について,個人は,自分の労力や注意,時間などのリソースを投資した対象に対して,iPOを抱くと言われている。例えば,アパートに対する自己投資(アパートの購入のために,金銭的リソースを投資すること)によって,個人は,「自分の貯金をすべて投資したから,このアパートは,私のものだ」という感覚を抱くであろう。知識や親しみについて,個人は,豊富な知識を有し,親近感を抱く対象に対して,iPOを抱くと言われている。例えば,一眼レフカメラに対する知識や親しみ(一眼レフカメラを使用するにつれ,カメラのさまざまな機能や使用感といった知識を蓄積し,カメラに親近感を抱くこと)によって,個人は,「このカメラについて詳しくなったし,身近に感じるから,このカメラは,私のものだ」という感覚を抱くであろう。

ただし,上述したすべての要因が,いつもiPOの形成に影響を及ぼしているとは限らない(Jussila et al., 2015; Pierce et al., 2001, 2003)。つまり,対象に対するコントロールの経験と自己投資という2つの要因によってiPOが形成されることもあれば,対象に対する自己投資という1つの要因によってiPOが形成されることもあるということである。また,Bagga, Bendle, and Cotte(2019)によると,影響を及ぼす要因が多いほど,iPOの水準は高いという。

2. iPOのマーケティング研究への応用

第I節において概観したように,iPOが,マーケティング研究へ応用されるようになったのは,2010年前後である。組織成果に関するさまざまな帰結をもたらすことに鑑みて,iPOは,マーケティング成果に関してもさまざまな帰結をもたらしうるものとして期待されたのである。例えば,Shu and Peck(2011)は,iPOが,マーケティングの文脈において,授かり効果(endowment effect)を発生させるということを初めて示した。授かり効果とは,ある対象を所有している個人は,所有していない個人と比べて,その対象に対する評価が高いという心理的傾向のことである(Kahneman, Knetsch, & Thaler, 1990; Thaler, 1980)。具体的には,授かり効果は,受入意思額(willingness to accept,以下,WTA)と支払意思額(willingness to pay,以下,WTP)の差で表される。WTAとは,ある消費者が,製品やサービスを手放す代償として求める最小価格のことであり,ある対象を所有している消費者の,対象に対する評価と見なされる(Horowitz & McConnell, 2002)。それに対して,WTPとは,ある消費者が,製品やサービスを手に入れるために支払う最高価格のことであり,ある対象を所有していない消費者の,対象に対する評価と見なされる(Horowitz & McConnell, 2002)。WTPがWTAより低い場合,授かり効果が発生する。Shu and Peck(2011)以前は,授かり効果が発生する要因として,人間の損失回避性(loss aversion)が関連していると言われてきた(Kahneman et al., 1990; Knetsch & Sinden 1984; Thaler, 1980)。それに対して,Shu and Peck(2011)は,iPOが授かり効果を発生させる要因であるということを,実証分析によって示した。

2010年前後に,授かり効果以外のマーケティング成果を示した研究として,Fuchs, Prandelli, and Schreier(2010)が挙げられる。彼らは,顧客参加型の新製品開発が製品に対する需要を増大させること,そして,この因果関係を,顧客のiPOという変数が媒介していることを示した。つまり,iPOがもたらすマーケティング成果として,製品に対する需要の増大を見出したのである。その他にも,2010年前後に,顧客エンゲージメント(Asatryan & Oh, 2008)や製品評価(Peck & Shu, 2009)の向上などが,iPOがもたらすマーケティング成果として見出された。

2010年代中後期になると,新たな消費様式への関心の高まりを契機として,iPOに関するマーケティング研究は,さらなる発展をみせる。つまり,新たな消費様式と従来の消費様式を比較した研究や,新たな消費様式における消費者行動を説明した研究が出現した。前者の例として,非所有型の消費様式(アクセス・ベース消費など)の普及に着目し,非所有製品のiPOと所有製品のiPOを比較検討したBagga et al.(2019)が挙げられる。彼らによると,所有製品のiPOは,非所有製品のiPOよりも高く,製品に対する消費者のWTPも高いという。また,後者の例として,アクセスベースサービス(e.g., 音楽ストリーミングサービス,カーシェアリングサービス)に対するiPOの先行因子と帰結を見出したFritze et al.(2020)が挙げられる。彼らによると,アクセスベースサービスに対するiPOが,代替となる物質の所有意向に負の影響を及ぼすという。音楽ストリーミングサービスに対してiPOを抱いている消費者は,iPOを抱いていない消費者に比べて,代替となる物質であるCDを所有しにくいということが,例として挙げられる。

以上のように,iPOという概念は,2010年前後から2022年現在に至るまで,さまざまなマーケティング研究に応用されている。

III. cPOに関するマーケティング領域外の研究

1. cPOという概念について

Pierce and Jussila(2010)は,他者の存在を考慮しない排他的な概念であったこれまでのiPOの考え方を発展させて,cPOという概念を提唱した。彼らによると,cPOとは,対象(または対象の一部)に対して集団的に形成される「これは私たちのものだ(it is OURS)」という所有感覚のことである。換言すると,同一対象にiPOを抱いている個人間の相互作用によって,他者を,「私たち(US)」として認識した個々人が,単一の共有されたマインドセットとして形成する,集団的な所有感覚がcPOである。cPOが形成されるプロセスは,3段階に分けられる。第1段階において,個人は,対象に対してiPOを抱く。第2段階において,個人は,対象に対してiPOを抱いているのは,自分だけではないということに気づく。第3段階において,同一対象に対してiPOを抱いている個人間の相互作用を通して,個人間の合意を伴った,対象に対する集団的な所有感覚(つまり,cPO)が形成される。

cPOは,以下の3つの要因によって形成されると言われている(Pierce & Jussila, 2010)。つまり,(1)同一対象に対するコントロールの経験を共有しているという個人間の共通認識,(2)同一対象に対する自己投資を共有しているという個人間の共通認識,(3)同一対象に対する知識や親しみを共有しているという個人間の共通認識である。コントロールの経験,自己投資,知識や親しみという,iPOの形成要因を他者と共有しているということを,相互作用を通して,個々人が認識することによって,cPOが形成されるのである。

ただし,iPOと同様に,上述したすべての要因が,いつもcPOの形成に影響を及ぼしているわけではない。また,影響を及ぼす要因が多く,個々人の認識が共有されている度合いが高いほど,cPOの水準は高いという(Pierce & Jussila, 2010)。

2. iPOとcPOの関係について

iPOとcPOの関係について,cPOを提唱したPierce and Jussila(2010)は,何らかの対象に対する所有感覚であるという点において,両概念は類似していると指摘した。また,「私たち(US)」という感覚の中に「私(ME)」という感覚が組み込まれ,「私たちのもの(OURS)」という感覚の中に「私のもの(MINE)」という感覚が組み込まれているように,cPOという概念の中に,iPOという概念が組み込まれているという。そして,個人がiPOを抱かずに,cPOが形成されることはないと結論づけた。さらに,彼らは,iPOからcPOへと発展していくかどうかを決定する要因として,個人間の相互作用が重要であると主張した。つまり,個人間の相互作用によって,対象に対する所有感覚についての合意が形成され,iPOがcPOへと発展していくと主張したのである。ただし,彼らは,前項において概観したcPOが形成されるプロセスの第2段階,つまり個人が対象に対してiPOを抱いているのは,自分だけではないということに気づいた際に,iPOとcPOがどのような状態で存在しうるのかということについて,今後の研究で考慮すべきであると位置づけた。

Pierce and Jussila(2010)以降,iPOとcPOの関係について言及した研究も展開された(e.g., Dawkins et al., 2017; Henssen, Voordeckers, Lambrechts, & Koiranen, 2014)。例えば,Henssen et al.(2014)は,Pierce and Jussila(2010)の提唱した,個人間の合意を伴う,集団的に形成されるcPOとは別に,個人間の合意を伴わずに,対象に対して個人が抱く「これは私たちのものだ(it is OURS)」という所有感覚としての,個人レベルのcPOが存在すると主張した。そして,彼らは,iPOと個人レベルのcPOは弁別される概念であり,個人が,対象に対して,iPOと個人レベルのcPOの両方を同時に抱くことや,片方の感覚のみを抱くことがあるということを,実証分析によって示した。

また,Dawkins et al.(2017)は,上述したHenssen et al.(2014)の,iPOと個人レベルのcPOに関する主張をレビューした上で,今後の研究課題として,iPO,個人レベルのcPO,およびPierce and Jussila(2010)の提唱した集団レベルのcPOの関係を探究する必要性を指摘した。

以上のように,2010年にcPOという概念が提唱されて以降,iPOとcPOの関係について盛んに検討されている現状である。

3. cPOのマーケティング領域外の研究への応用

前項において概観したように,2010年にcPOという概念が提唱されて以降,多くの研究領域へcPOを応用しようとする試みがなされている。例えば,Pierce, Jussila, and Wang(2020)は,組織におけるチームデザイン(チームに割り当てられる仕事の複雑さ,および,チームの裁量権の度合い)が,チームの効率性に及ぼす影響について,cPOを用いて説明した。具体的には,仕事に対する知識と自己投資を共有しているというチームメンバー間の共通認識によって形成される,チームのcPOが,チームデザイン(仕事の複雑さとチームの裁量権の度合い)がチーム効率性に及ぼす正の影響を媒介しているということが,彼らの実験によって示された。

また,Nijs et al.(2021)は,欧州人を対象にして,自国に対するcPOが,その人の政治的態度と政治的行動に及ぼす影響を探究した。彼らの調査によると,自国に対するcPOは,排他的な自決権感情を媒介して,移民に対する態度とEUに対する態度に対して負の影響を及ぼすという(ただし,この効果は,個人の政治的イデオロギーによって,調整される)。さらに,こうした移民やEUに対する否定的な態度が,EU離脱を意図した投票行動を引き起こすということも示された。

一方,社会心理学の文脈においては,Verkuyten and Martinovic(2017)が,これまでの集団力学に関する知見とcPOの考え方を統合して,cPOに関する新たな主張を展開した。まず,彼らは,対象に対してcPOを形成した集団は,2種類のマーキング行動をとると主張した。2種類のマーキング行動とは,コントロール志向のマーキング行動,および,アイデンティティ志向のマーキング行動である。コントロール志向のマーキング行動をとる集団は,対象へのアクセスや使用をコントロールする権利を内集団が有しているということを,外集団に誇示する。征服した土地に自国の国旗を立ててその土地をコントロールする権利を外集団に誇示することがこの例に当てはまる。アイデンティティ志向のマーキング行動とは,内集団のアイデンティティを外集団に表現することである。また,この行動は,アイデンティティを表現した後に,内集団の他者や外集団からのフィードバックを受けて,内集団のアイデンティティを洗練または再構築することにも関連している。上述した自国の国旗を立てる行動は,国の歴史・文化的伝統・地位などを表現するためにとられることもある。それに加えて,彼らは,cPOを形成した集団は,対象に対して責任感を抱く可能性があると指摘した。この責任感によって,内集団の個人間の相互作用が促進されたり,対象に対する有害な行動が抑制されたりする可能性があるという。

以上のように,cPOは,マーケティング領域外のさまざまな研究に応用されており,集団の,または,集団内の個人の心理的反応や行動についての豊富な知見をもたらしている。

IV. cPOのマーケティング研究への応用可能性

本稿によって,iPOがマーケティング研究に積極的に応用されているということ,および,cPOがマーケティング領域外の研究に積極的に応用されているということが示された。最後に,これまで蓄積されてきたcPOに関する知見をどのようにマーケティング研究に応用できる可能性があるのかということについて吟味したい。

第1に,cPOには,消費者コミュニティ研究に対する応用可能性が指摘できるであろう。近年,消費者コミュニティへの関心が高まっている。消費者コミュニティには,ブランドコミュニティ(Muñiz & O’guinn, 2001),消費者トライブ(Cova, Kozinets, & Shankar, 2007)などさまざまな類似する概念が存在し,これらのコミュニティが製品やサービスに及ぼす影響について議論されている。消費者コミュニティにおいては,特定の対象(ブランドなど),および,その対象を愛好する消費者集団が存在するため,cPOが形成される可能性がある。そのため,形成されたcPOが,対象に対する消費者の態度や行動,消費者コミュニティ間の集団関係,および,消費者コミュニティ内の個人関係にどのような影響を及ぼすのか議論する余地があるといえよう。例えば,消費者コミュニティ間の集団関係について,先述したVerkuyten and Martinovic(2017)の主張を応用すると,cPOが形成された消費者コミュニティは,外集団に向けて,マーキング行動をとる可能性があると考えられるであろう。また,cPOが形成されやすい消費者コミュニティの特徴について議論する余地があるといえよう。つまり,対象に対するコントロールの経験,自己投資,および,知識や親しみを共有しているというコミュニティメンバー間の共通認識を促進するようなコミュニティの特徴を探究する余地があるということである。

第2に,cPOには,経験消費に関する消費者行動研究に対する応用可能性が指摘できるであろう。今や,多くの消費者が,物質よりも経験を重視し,より多くの金銭を投資することを好むという(Carter & Gilovich, 2012)。経験消費において,多くの場合,消費者は,経験を他の消費者と共有することになる。例えば,あるアーティストの音楽コンサートを鑑賞した消費者は,その経験を,他の消費者と共有することになるであろう。こうした経験消費において,経験を共有する消費者集団は,cPOを形成する可能性がある。そのため,形成されたcPOが,その対象に対する消費者の態度や行動にどのような影響を及ぼすのか議論する余地があるといえよう。また,経験を共有する消費者集団内の個人間関係について,先述したHenssen et al.(2014)Dawkins et al.(2017)の,iPOと個人レベルのcPOに関する主張が応用できる可能性がある。つまり,消費者が,iPOと個人レベルのcPOのどちらか片方のみの感覚を抱く状況や両方の感覚を抱く状況などを識別し,消費者行動を説明することができる可能性があるということである。例えば,経験を共有する他の消費者の特性が好ましくない場合,消費者は,他の消費者と同じ集団に所属することを拒否し,対象に対するiPOのみを抱き,個人レベルのcPOは抱かない可能性があると考えられる。そして,集団内の消費者が抱くiPOと個人レベルのcPOの差異が,経験消費における消費者行動の差異を生み出すと考えられるであろう。

以上のように,cPOという概念は,消費者コミュニティ研究や経験消費に関する消費者行動研究といったマーケティング研究に対する応用可能性を多分に有している。今後は,マーケティング領域外の研究を参考にしてiPOとcPOという2つの概念を精緻化した上で,cPOに関するマーケティング研究に着手する必要があると考えられる。

謝辞

慶應義塾大学商学部の小野晃典先生には,本誌へご招待いただくとともに,本稿の執筆に際して,手厚いご指導を賜った。ここに記して,心より感謝申し上げたい。

北澤 涼平(きたざわ りょうへい)

慶應義塾大学商学部を卒業後,慶應義塾大学大学院商学研究科前期博士課程に入学,現在に至る。論文“Your Customers May Feel Jilted: The Hidden Risk of Hybrid E-Customization Systems”にてMCP-CE Mass Customization & Personalization Missionaries & Presenters of the Year 2020受賞。専門は,消費者行動論。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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