Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Marketing Case
Generation of Marketing Data through Use of Technology:
A Case Study of REVISIO Inc.
Yuki HagaNaoto Onzo
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 42 Issue 4 Pages 87-96

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Abstract

近年,テクノロジーの進歩に伴って,企業や消費者を取り巻く環境は大きく変化している。特に,機械学習を中心としたAI関連技術の進化は,企業にビッグ・データの取得と分析を可能にし,それに伴う顧客価値の創出や伝達の機会を与えている。しかし,急速に変化する今日の市場では,適切にデータを取得し,分析・解釈を行い,価値あるマーケティングにつなげることは極めて困難であると言える。そこで,本稿では一般家庭から独自のデータを取得し,分析・ソリューションまでを一貫して企業に提供することで成長を遂げたREVISIO株式会社(以下,REVISIO)の取り組みを紹介する。REVISIOは,テレビCMの視聴データについて独自の方法による収集を行い,ユニークな指標を用いた分析を実施し,顧客である広告出稿企業から支持を得ている。なぜ,REVISIOのデータは顧客に受け入れられたのか。本稿では,独自のインタビューからその成功の要因を考察した。その結果,REVISIOのマーケティングが顧客の4Aを満たし,REVISIOの取り組みが顧客にとっての価値を生んでいることが明らかになった。

Translated Abstract

In recent years, the environment surrounding companies and consumers has been markedly changed with advancement of technology. In particular, the evolution of AI-related technologies, especially machine learning, has enabled companies to collect and analyze big data, providing opportunities to create and communicate customer value. However, in today’s rapidly changing market, it is very difficult to acquire, analyze, and interpret data and link it appropriately to marketing. This paper introduces the efforts of REVISIO Inc. (REVISIO), a company that has achieved growth by acquiring unique data from households and providing companies with comprehensive services, including analysis and solutions. REVISIO collects TV commercial viewing data using proprietary methods and analyzes these data using proprietary metrics. This approach has gained the support of its clients; that is, advertising companies that place TV commercials. In this paper, we examine why REVISIO’s data were accepted by their clients by evaluating the factors behind the success of REVISIO based on interviews. The findings reveal that REVISIO’s marketing satisfies the 4As of the clients and that REVISIO’s efforts create value for their clients.

REVISIO株式会社のステートメント

出典:REVISIO株式会社より提供

I. はじめに

近年,テクノロジーの進化に伴って,企業や消費者を取り巻く環境が大きく変化している。機械学習を中心として,AIやそれに付随した技術の進歩が原動力となっており,それらの技術を用いてビッグ・データを分析し,顧客価値を創造・伝達することが企業に求められている。関連して,MSIによる「2022–2024 Research Priorities」では,優先すべき研究課題の一つとして「測定と分析」,すなわち企業の活動が顧客に与える影響を測定し,分析する新たな手法を挙げている(Marketing Science Institute, 2022)。その具体的な内容として,マーケティング・アクションに対する顧客の「アテンション,エンゲージメント,カスタマーエクスペリエンス」を測定することの重要性が唱えられている。しかし,新たなテクノロジーやビッグ・データを適切に活用し,顧客の求める価値を創造し,伝達することは容易ではない。本稿では,テクノロジーとデータを適切に活用し,企業のアクションに対する顧客の反応を新たな形で測定することに成功したREVISIO株式会社(以下,REVISIO)の取り組みについて紹介する。

従来,テレビCMに対する顧客の反応は,画面に広告が出現したことを示すインプレッションによって測定されていた。当然,画面に表示されたテレビCMが全て消費者に視られているわけではないため,これは顧客の反応を測定する方法として適切とは言い難い。加えて,近年の「ながら視聴」に代表されるメディア消費行動の変化も考慮すれば,伝統的なインプレッションに代わる,新たな測定方法が求められるのは必然の流れだといえる。そこで,REVISIOはテクノロジーの活用によって,その問題を解決する新たな測定方法を開発した。テレビCMの「視られた量」を正確に測定するアテンション・データである。さらに,REVISIOは新たなビジネスモデルを開発することで,このアテンション・データを彼らの顧客にとって価値ある形で正確に伝達することに成功している。ここでいうREVISIOの顧客とは,CMに対する顧客の反応を測定したいと考えるCM出稿側の企業を指す。すなわち,REVISIOはこの新たな指標をCM出稿企業のニーズに合わせてカスタマイズするとともに,その価値を独自のビジネスモデルによって伝達し,顧客企業数を増加させている。

REVISIOは,どのようなテクノロジーの活用によって新たな測定方法の確立に成功したのか。また,その測定方法とアテンション・データとはどのようなものか。そしてそれは,REVISIOの顧客にとってどのような価値を持ち,どのようなビジネスモデルによって顧客の元に届けられているのか。本稿では,REVISIO共同創業者/取締役営業統括の河村嘉樹氏および執行役員/マーケティング・BizDev担当の山田慎也氏へのインタビューに基づいて,上記の問題意識を明らかにしている。

II. REVISIO株式会社の沿革と事業概要

1. 沿革

REVISIOは,2015年3月にTVISION INSIGHTS株式会社の名義で創業した。創業当初は,わずか3名での旗揚げであったが,同年6月にデータの取得を開始すると,現在のテレビCMに対する顧客の注視データの取得と分析を実施し,Microsoft Innovation Award 2015での最優秀賞受賞や日経コンピューター「ミライITアワード2016」選出といった高い評価を獲得した。その後,確かな技術とデータを携えて,広告出稿企業を中心として顧客を増やし,今日に至っている。REVISIO株式会社への社名変更は2022年10月のことであり,再定義を意味する「Redefine」とラテン語でビジョンを意味する「Visio」に由来する。この社名には,テレビなどにおけるメディアのコンテンツの多様化や,消費者のメディアに対する態度の変化に伴い,企業としての視野を広げ,消費者の「視る」行為を再定義したいという思いが込められている。

今日までのREVISIOの成長は,データ取得世帯の拡大と顧客数の増加という2種類の指標から窺い知ることができる。後に詳説するように,REVISIOはテレビCMに対するアテンション・データを取得するため,消費者の家庭に人感センサーを設置している。センサーを設置した家庭は,創業当初は100世帯のみであったが,翌年の2016年には関東の600世帯に,2017年には800世帯,2020年には1,000世帯へと拡大した。2022年9月の時点では,関東の2,000世帯,4,864人のデータを取得するまでに至っている。2021年からは関西の世帯への拡大も進めており,現在では600世帯1,469人のデータ取得を可能にしている。センサー設置を進めるため,初期は河村氏を始め,REVISIOチームが実際に機材を担いで家庭を一軒一軒訪問したのだという。

REVISIOの顧客企業数の増加は,図1で確認できる。図からは,2015年の創業以降一貫して顧客数が増加傾向にあることが読み取れる他,2022年現在においても増加傾向が続いている様子がわかる。のちの頁で詳説するが,じつは,この背景にも企業を個別に訪問し説得したというREVISIOの地道な努力が隠されている。これらの指標から,REVISIOは現在も成長中の企業なのである。

図1

顧客数の推移(累積)

出典:REVISIO株式会社より提供

2. 事業概要

REVISIOは現在,テレビCMの「視られた」状態を正確に測定するアテンション・データを中心とした事業を展開している。具体的には,アテンション・データへのアクセスを可能にし,グラフ等による可視化を可能にするwebツール「Telescope」の提供を中心としている。加えて,データの分析からソリューションまで,一貫したコンサルティングサービスを提供している。これらの事業については,REVISIOのマーケティングの根幹に深く関わっているため,のちの頁で詳説する。加えて,2022年にはデータ取得の対処をコネクテッドTVまで拡大したほか,メディアバイイング事業やクリエイティブ制作事業に進出するなど,REVISIOの事業は拡大傾向にある。

III. REVISIOの課題と取り組み

1. REVISIOの課題

REVISIOが直面した課題の1つに,メディアとしてのテレビに対する消費者の視聴態度の変容があげられる。近年,消費者によるテレビ注視率の低下がREVISIOの調査によって明らかにされている。この注視率の低下は,テレビがついているにもかかわらずその前に消費者がいない,もしくは視線を向けていないといった形で発生しているため,これまでのインプレッションデータでは測定することができない。こうした背景には,スマートフォンの普及や「ながら視聴」が挙げられる。また,もう1つの現象として「若者のテレビ離れ」も確認できる。これらの変化により,テレビCMは特定の消費者にリーチすることが難しくなっているのである。

REVISIOが直面した別の課題は,日本の広告業界全体に共通したものであった。そのうちの1つは,日本のテレビCMについて,その効果測定のための手段や業界の体制が不十分であったことである。例えば,これまでのテレビCMの評価指標はインプレッション,すなわちCMが放送された量を測定したものであり,加えて,CMが放映されてからデータを企業が入手し,分析・解釈した上で施策に反映させるまでのサイクルも極めて長かった。具体的には,データの入手までに2ヶ月,最終的な成果反映までに数ヶ月から半年を要することも珍しくなかった。結果として,テレビCMの視聴データに対する潜在的な市場規模は巨大であるにも関わらず,データはあくまで広告出稿の付属品として扱われ,売り物として扱われることはなかったのである。一方,広告の出稿主である企業が,より正確な広告評価に対するニーズを有していなかったわけではない。REVISIOは,見込み顧客となる企業へのヒアリングから,より詳細で分析可能な視聴データや,データの取得から成果発表までのサイクルを高速化することが,広告出稿主企業から求められていることを発見した。さらに河村氏は,こうしたニーズが表面化しなかった原因の一つとして,業界内のテレビCMに対する固定観念の存在を指摘している。つまり,テレビCMの出稿は,広告主企業と広告会社の両者にとって極めて大掛かりで派手な事業であり,細やかなデータや統計的分析は二の次である,という暗黙的な共通認識が存在したことにより,能動的な測定手法の開発やデータの分析が実施されなかったのである。REVISIOが参入する以前,こうした体制にメスが入れられることはなかった。

REVISIOはどのようなデータによって,顧客のニーズを満たしたのだろうか。すなわち,リーチが難しい最終消費者へのリーチ測定をどのように実現しているのだろうか。またどのようなマーケティング施策によって業界内の常識を打破し,顧客を獲得し続けているのだろうか。以下の項では,これらの課題を解決するための具体的な取り組みを紹介する。

2. REVISIOの取り組み

(1) 消費者の「注視」を測定するアテンション・データ

ここでは,具体的な取り組みの一つとして,テクノロジーを利用した新たな効果測定方法と,それを実現するアテンション・データを紹介する。REVISIOは,人体認識センサー技術によって,顧客ニーズに応えるデータ収集を可能にした。図2は,実際にREVISIOが一般家庭に設置した人体認識センサーである。このセンサーと,同時に取り付けられる小型PCは,消費者の目線の補足と,テレビを見ている人物の特定を実現している。つまり,家庭内の特定の人物がテレビを注視していたか否かを,365日24時間,秒単位で正確なデータとして収集できるのである。

図2

REVISIOの人感センサー

出典:REVISIO株式会社より提供

この測定方法は,従来のリモコンやメーターを活用した測定方法と比較して,より自然な状況で,消費者がテレビを実際に視聴していたことを特定でき,正確なデータを収集できるという点で優位性を有している。また,消費者の視線を測定できるだけではなく,秒単位のデータを結びつけることで,より大きな顧客価値を創出できる。その価値とは,1つのテレビCMに対する注視だけでなく,テレビCMの中で特に注視が集まっている箇所を特定できるという点である。これは,当該箇所における音や映像の内容を加味することで,消費者がCMに惹きつけられる理由を浮かび上がらせることができる。

例えば,ビールのCMであれば,グラスに注ぐ瞬間や喉越しを表現する音が流れた瞬間に注視が集まっているかもしれない。さらに,その時,注視しているのは子供ではなく大人だけかもしれない。センサーによる目線と人物の捕捉によって,そのような仮説を定量的に検証することができる。近年,マーケティングの学術研究では,広告に対する消費者の注意をより正確に測定する手法として,アイ・トラッキングの技術の利用が標準的になりつつある。(Jung & Heo, 2021; Myers, Deitz, Huhmann, Jha, & Tatara, 2020など)。したがって,REVISIOの測定手法は,近年のアカデミアでも求められるような,正確で定量的な指標を提供する技術的に高度なものであるといえる。むしろ,REVISIOのデータはセンサーで目線を捉えるだけでなく,映像全体を機械学習することによって目線以外の動きや個人の特定をも可能にする測定手法である。この点を踏まえると,REVISIOのデータは今日のアカデミアよりもはるかに先進的なものであるといえるだろう。

加えて,このデータの優位性は,拡張可能性の面からも特徴づけることができる。関東・関西合わせて2,600世帯をパネルとして持つREVISIOのデータは,実際の人口構成に沿う形で形成されており,詳細なデモグラフィック属性と結びつけることが可能である。具体的には,性・年齢だけでなく,年収,車や持ち家の有無などの所有財産,アルコール飲用頻度などの趣味嗜好等,調査参加者の詳細な属性情報と紐づけられている。これらの世帯からは継続的にアンケート回答を取得できるため,広告主企業の関心に合わせて,調査パネル内のターゲットとなる視聴者のセグメントを柔軟に設定し,テレビCM出稿の参考データとすることができる。こうしたデータの特徴は,これまでのデータでは難しかった特定消費者へのリーチの有無を測定することに大いに役立つといえる。

テレビCMについて独自の測定方法を提案している企業はREVISIOだけではない。ノバセル株式会社や株式会社テレシーなどが,テレビCMの効果測定サービスを販売する競合として名が上がる。しかし,河村氏によれば,REVISIOのデータは2つの点で競合他社に対する優位性を備えている。一つ目は,カメラによってデータを取得している点である。これにより,より直接的に「テレビを視聴していること」に関するデータを取得することができる。もう一つの点は,過去の蓄積が豊富だという点である。REVISIOは,競合他社と比較して最も早くデータの取得を開始している。時系列の豊富なデータが,分析者により精緻な因果推論を可能にすることはいうまでもないだろう。このように,REVISIOは競合他社との比較で見ても,特筆すべき取り組みを実施している企業であると考えられる。

まとめると,REVISIOの注視度を測定するアテンション・データは,消費者の態度変容によるリーチの難化という1つ目の課題を解決するものである。そして,かつてブラックボックスであったCMの効果をより正確に測定する手段となることで,顧客である広告出稿主に対する価値を創造しているのである。

(2) データ分析とソリューションの提供

REVISIOの特筆すべき取り組みは,アテンション・データをサービスと組み合わせて販売している点にも見られる。全く新しい測定手法によって収集されたアテンション・データは,それ単独では顧客にとって分析や実践への応用が難しい。そこで,REVISIOはアテンション・データとともに,分析ツールおよび分析結果の解釈から導かれるソリューションを顧客に提供することで,アテンション・データが創出する価値を最大限顧客に届けている。ここで重要な役割を担うのが,REVISIOのWEBツール「Telescope」である。Telescopeは,図3のように,アテンション・データを各種グラフやヒートマップを通じて可視化するツールであり,顧客はこれを利用することで,REVISIOのデータからテレビCMの効果や改善すべき点を引き出すことができる。

図3

Telescope画面の例

出典:REVISIO株式会社より提供

アテンション・データを有効活用するためのREVISIO独自の指標として,A-UR(アテンション・ユニークリーチ)を紹介しておこう。A-URは,複数回放映されたCMのパネル・データにおいて,少なくとも1回以上,3秒以上のアテンション(注視)があった視聴者の割合である。これはCMを注視したことがある視聴者の割合として解釈できるため,たとえば,視聴者のデモグラフィックデータと組み合わせることで,自社のCMが真にターゲット顧客にリーチしたかどうかを確認することができる。Telescopeでは,このA-URや他のデータと組み合わせることで,「当該CMはターゲットの何%に真に届いたか」,「視聴率が同程度の異なるCMと比較してリーチに差があるか」,「CMは何度同じ人に見られたか」といった疑問に答えることができる。このTelescopeは,CM放送の後,データが最短2日間で反映されるという点も大きな特徴であり,従来のデータと比較して格段に早いデータ取得であることはいうまでもない。

さらに,Telescopeと同時に,顧客企業の疑問を個別にヒアリングし,豊富なデータから適切な組み合わせを考案し,ソリューションを提供することによって,顧客ごとにカスタマイズした価値を届けている。「アテンション・アド」サービスがそれである。顧客が過去に出稿したCMのアテンション・データの分析を通じて,効果的なCMのプランニング・制作・バイイングから次回の分析まで,一貫したサポートをしている。言い換えるとREVISIOは,こうしたツールの提供とソリューションの提供によって,「分析スキルがない」あるいは「分析リソースがない」顧客のニーズを満たしているのである。

(3) 顧客獲得のためのダイレクト・マーケティング

最後に紹介するのは,潜在顧客を顕在化させる段階,あるいは既存顧客と長期的関係を築く段階における取り組みである。前述したように,テレビCMに関連する業界内には,「効果測定のための詳細な指標は存在しない」あるいは「詳細な指標は広告主企業に求められていない」といった暗黙的な共通認識が存在していた。こうした状況下で顧客を獲得するために,REVISIOは潜在顧客を個別に訪問し,個々の関心に応じてデータの価値を伝える直接的なコミュニケーションを実施している。河村氏の言葉を借りれば,まさに「顧客を一社一社口説いた」のである。これにより,REVISIOは,従来からの常識に覆い隠されがちな全く新しい独自データの価値を,顧客に説得することに成功したといえる。しかし,こうした説得は容易ではなかった。これまで広告主企業が依存してきた,広告の効果を示すKPI(重要業績評価指標)を,全く別のアテンション・データを活用したKPIに置き換えるという提案は,業界内で大きな反発を招いたのだという。そこで,REVISIOは既存のテレビ業界の暗黙の了解やアンバランスな力関係を逆手にとって広告主企業に説得を行った。すなわち,従来,広告主企業とテレビ局・広告会社との情報が非対称的であった部分を明らかにすることで,広告主企業の信頼を獲得したのである。具体的には,ブラックボックスであったデータの取得・分析手法を明快に説明するとともに,テレビCMのROIを「注視されているか」という指標で明確化した。REVISIOの商機は,まさに情報の非対称性にあったといえるだろう。

さらに,REVISIOはこの過程で,詳細なデータに対するニーズの存在を明確に確認した。河村氏は,広告会社やテレビ局と広告出稿主企業の力関係がアンバランスであることを指摘した上で,表に出せないまま高まっていたデータに対するニーズを「マグマのようだった」と振り返っている。このような顧客に対する個別の説得は,組織の新技術・イノベーション導入に関する過去の学術的な知見と整合している。たとえば,イノベーション特性としての不確実性は,その導入に負の影響を与えることが知られている(Nooteboom, 1989; Rogers, 1995など)。すなわち,顧客にとってイノベーションの内容や成果・リスクが不明である場合に,その導入が躊躇されるのである。したがって,イノベーションの効果を伝達するようなサプライヤーのコミュニケーションや,その他の知覚リスクを低減する活動が,イノベーションの導入意向に影響を与えるとされている(Easingwood & Beard, 1989)。加えて,顧客と直接的に関係するダイレクト・マーケティングは,メッセージ内容のカスタマイズか可能であり,長期的な関係を構築することができる利点を持つ(Kotler & Keller, 2019)。したがって,REVISIOの試みは,新技術に対する顧客の不確実性・情報の非対称性を払拭し,長期的関係を構築することを可能にする有効なダイレクト・マーケティングであったことが考察できる。

IV. 考察・REVISIOのマーケティング戦略

ここまで,REVISIOの先進的な取り組みについて紹介した。なぜこれらの取り組みは成功を収め,REVISIOの成長に寄与しているのだろうか。それは,これらの取り組みが顧客にとって価値をもたらし,顧客の課題を解決するものであるからに他ならない。ここではREVISIOがもたらす価値とそれが解決する顧客の課題に分けて改めてまとめ,REVISIO成長の要因を考察する。

1. REVISIOが顧客にもたらす価値

従来,マーケティングの分野では顧客に価値を届けるマーケティング・ツールとして4つのPが注目され,これに沿って企業は戦略を策定すべきであると説明されてきた。しかし,効果的なマーケティング・プログラム策定のためのフレームワークとして,近年では4つのAのコンセプトが用いられる場合がある。販売者の視点で構成される4つのPと比較して,4つのAは,購買者の視点で構成されるために,顧客価値と顧客リレーションシップに重点を置く現代ではより適切であると考えられるからである(Armstrong, Kotler, & Opresnik, 2019/2022)。したがって,ここでは4つのAフレームワークに沿って,REVISIOがどのような意思決定を行ったかを考察することで,顧客に価値がもたらされる理由を検討してみよう。

1つ目のAは,アクセプタビリティ/需要性(Acceptability)であり,「製品が顧客の期待をどの程度超えるかを指す」概念である(Armstrong et al., 2019/2022, p. 80)。かつて,テレビCMの効果に対する顧客の期待はある程度固定化されていたといえる。効果測定方法の不正確さやソリューションにつなげるまでのサイクルの遅さなど,多くの顧客は「テレビCMはそういうものだ」と捉え,疑問を持っていなかった。REVISIOのアテンション・データとそれに付随したソリューション・サービスは,長年かけて形成された顧客の期待を大きく上回るものであったとは間違いない。REVISIOは,新たなデータおよびサービスと,これまで市場に存在したデータを比較することで,高い需要性を確認し,効果的なマーケティング・プログラムを策定できたといえる。

続いて,2つ目のAは,アフォーダビリティ/値頃感(Affordability)であり,これは,「顧客が快く支払うことができる製品価格の範囲を示す」ものである(Armstrong et al., 2019/2022, p. 80)。REVISIOは,顧客が快く支払う価格をどのように推定したのだろうか。アテンション・データの提供からテレビCMの出稿まで一貫してサポートするREVISIOでは,データの費用や調査費用を明確に示した上で,正確な効果測定のもと,効率的にテレビCMを出稿することを可能にしている。出稿企業の目標顧客に集中してリーチするように小さな単位での出稿もできるため,既存の広告出稿費と比較して,より抑えた投資で従来通りの効果が得られるようなCM出稿が実現される。効果に基づいた価格設定は,顧客にとって十分な値頃感を得られるものであり,REVISIOの成功したマーケティングの一部であるといえる。

3つ目のAとして,アクセシビリティ/入手可能性(Accessibility)がある。これは,「顧客がどのくらい手軽に製品を手に入れられるかを示す」ものである(Armstrong et al., 2019/2022, p. 80)。値頃感の部分と関連するが,REVISIOのデータを元にしたテレビCM出稿は,従来の大掛かりなイメージを伴うCM出稿と比較して,極めて入手可能性が高い製品・サービスであるといえる。実際,REVISIOの顧客としては,これまでテレビCM出稿を考えてこなかった比較的小規模な企業も想定されており,REVISIOのマーケティング戦略策定段階において,入手可能性について検討が行われていたことが窺える。

最後のAは,アウェアネス/認知度(Awareness)である。すなわち,「顧客がどの程度,製品の特徴について情報を得ているか」(Armstrong et al., 2019/2022, p. 80)を意味する。全く新しいデータを主軸にしたREVISIOのマーケティングは,検討段階において,その利用価値や特徴に関する認知度が低いことが問題となった。この点を克服するために,データ等の製品・サービスをそれ単体で提供するのではなく,顧客への個別のコミュニケーションと共に提供されたのではないだろうか。これは,4つのAの検討により,マーケティング上の弱点を見事に克服している点であるといえる。

以上,REVISIOのマーケティング戦略では,その策定段階において4つのAに関する事項が十分に検討されていたことが考察できる。では,そうして届けられる価値はどのような消費者の課題を解決するものなのか。次の項で整理してみよう。

2. REVISIOが解決する顧客の課題

近年,テクノロジーの飛躍的な進歩に伴い,消費者や企業は膨大なマーケティング情報に囲まれている。Armstrong et al.(2019)によれば,その情報の真価は,情報から顧客に関する洞察,すなわちカスタマー・インサイトを抽出し,利用することで顕現する。すなわち,今日の企業は,自身に利用価値があるデータを探し出し,カスタマー・インサイトを抽出してマーケティング戦略に利用するという一連の流れを実行する必要があるといえる。しかし,情報が氾濫する今日の市場環境において,それは決して容易であるとは言えない。多くの企業が,どのデータを分析すべきか,どのような分析をするべきか,そしてどのような解釈をするべきかについて,日々複雑な意思決定に悩まされていることは容易に想像できる。

REVISIOの製品・サービスが解決するのは,企業が持つビッグ・データの有効活用が困難であるという普遍的課題である。換言すれば,REVISIOによるアテンション・データとデータ分析サービスの提供によって,顧客企業はカスタマー・インサイトの抽出と活用が可能になる。さらに,REVISIOのデータとサービスは,Armstrong et al.(2019)が指摘する,迅速でリアルタイムのデータ取得とデータ分析を必要とするジャスト・イン・タイム・リサーチや視聴者の行動によるターゲティングのような,デジタル環境で企業に新たに求められているマーケティング・リサーチに合致している。こうした,時代の変化に伴って生じた顧客の課題を,最新のテクノロジーによって解決できる点において,REVISIOのデータやサービスは顧客に価値をもたらすことができるのである。

V. おわりに

本稿では,REVISIOの先進的な取り組みを紹介したのちに,成長の要因をREVISIOが顧客にもたらす価値,そして解決する顧客の課題という2つに分けて考察した。REVISIOの成長は,顧客視点に立ったマーケティング戦略の検討と,テクノロジーの活用による顧客の課題解決にあるといえる。また,業界内に存在した固定観念や長年解決されてこなかった問題をテクノロジーによって解決することで達成されている。したがって,ある意味で既存の業界内のプレイヤーの間隙を縫うことで生まれた成功であるといえる。

しかし,REVISIOの成功は,現代のテレビCMが持つ高い効果や価値の証明であるとも考えられるだろう。消費者の生活習慣やメディア視聴態度の変化に伴い,特に若年層を中心にテレビ保有台数が減少している。それ自体はテレビCMに関わるプレイヤーにとって向かい風であることは間違いない。同時に,テクノロジーは急速に進化している。REVISIOのように,テクノロジーの応用によって,テレビCMが持つ価値を高めることができるのもまた事実である。REVISIOの取り組みは,テレビCMと,それに関わるすべてのプレイヤーに新たな可能性を示してくれている。

謝辞

本ケースの作成にあたって,REVISIO株式会社より共同創業者/取締役営業統括の河村嘉樹氏および執行役員/マーケティング・BizDev担当の山田慎也氏に多大なご協力とご尽力をいただいた。ここに記し,感謝を申し上げる。

芳賀 悠基(はが ゆうき)

2022年,早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了。現在,同大学大学院商学研究科博士後期課程に在籍。専門はマーケティング戦略・消費者行動。

恩藏 直人(おんぞう なおと)

早稲田大学商学学術院教授。早稲田大学商学部卒業後,同大学院商学研究科へ進学。博士(商学)。専門はマーケティング戦略。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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