Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Marketing Case
Current State of Regional Branding Using Mascot Characters:
Media Strategy of Gunma Prefecture and the Branding Project of “Gunma-chan”
Shunya HamadaToshiko Nitta
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 42 Issue 4 Pages 97-107

Details
Abstract

本稿はコンテンツを活用するマーケティングのマネジメント事例研究である。群馬県はマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」を用いて,県内外の事業者へのデザイン貸与やグッズ販売等を通じた群馬エリア経済への貢献と,群馬エリアの宣伝・広報に長年取り組んできた。現在,群馬県は,さらに戦略的に「ぐんまちゃん」を群馬県のキラーコンテンツと位置付け,ブランド化事業を行って認知度と好感度の向上を達成し群馬エリアのブランド向上に結び付けようとしている。この取り組みは近年群馬県が推進するメディア戦略が基礎になっている。本稿では,1)群馬県の26年間の「ぐんまちゃん」運営の状況を確認し,2)現在の群馬県のメディア戦略と3)「ぐんまちゃん」ブランド化事業に焦点をあてて論じ,コンテンツを活用するマーケティングのマネジメントで考慮すべき要を抽出する。

Translated Abstract

This is a case study of content marketing management in Japan. The mascot “Gunma-chan” has been widely used for publicity and promotion of Gunma Prefecture as a means to boost the local economy. Gunma businesses have worked “Gunma-chan” into the design of Gunma products to be sold throughout Japan. Currently, Gunma Prefecture is conducting a “Gunma-chan” strategic branding project to maximize the promotion and brand recognition of Gunma Prefecture. This initiative is based on the recent reforms promoted by Gunma Prefecture to improve the branding of the area. In this paper, we will 1) review the management of Gunma Prefecture’s “Gunma-chan” throughout its 26-year history, 2) discuss the current media strategy of Gunma Prefecture, and 3) analyze the “Gunma-chan” branding project. Based on this approach, we present the main points that should be considered in moving forward with the marketing strategy for goods that use the “Gunma-chan” image.

「ぐんまちゃん」ファミリー(左「あおま」,中央「ぐんまちゃん」,右「みーみ」)

出典:画像提供 群馬県

I. はじめに

コンテンツ(エンタテインメントも含む)の力を用いたマーケティングでは,マーケティングを行う主体がコンテンツの魅力を消費者に伝え,併せて一般の商品・サービスの認知や好感を高めることで,消費者の好意的な消費心理の向上と,望ましい消費行動の促進が図られる。方法の代表的な例として,動画コンテンツ内での商品露出(プロダクトプレイスメント)や,アニメやドラマの舞台となったエリアへの観光促進(コンテンツツーリズム)等が挙げられる。企業だけでなく非営利団体も取り組んでおり,特に自治体は,マスコットキャラクターを用いたマーケティングを数多く実施している。

これらのマスコットキャラクターは,ご当地キャラやゆるキャラと呼ばれる場合もある。国内には多数のご当地キャラやゆるキャラがおり,2020年度に開催された,ゆるキャラグランプリには990体がエントリーしていた(自治体運営以外のキャラクターも含む)。ご当地キャラやゆるキャラにはかわいらしさや楽しさ,面白さといった個性がそれぞれにあり,これらの魅力によってメディアで取り上げられ,人々の話題にもなる。魅力の裏付けやキャラクターの持つ力の表れとして注目されることが多いのが,関連商品やグッズの売上額や商品数であり,特にエリア色の強いご当地キャラであれば,そのエリアそのものやエリア産品のブランド向上の状況や売上額といった経済効果である。ブランド論において,Keller(2011)は他者のブランドとの差別化の手段としてロゴやシンボル等と共にキャラクターを含めており,特にマスコットキャラクターを用いるマーケティング上の効果については,研究事例は多くないものの,例えばGarretson and Niedrich(2004)がマスコットキャラクター(Garretson and Niedrich(2004)においてはスポークスキャラクター)の特徴がブランドへの態度に影響を及ぼすことを示している。ご当地キャラに自治体が運営として関わる事例が多くみられるが,このことはマスコットキャラクターの持つエリアやエリア産品のブランド向上の効果が自治体により強く期待され,実感もされている表れであろう。ご当地キャラやゆるキャラはブームにもなって様々なコンテストやイベント等が行われてきており,今では定着した感がある。

長く続くご当地キャラの一つに「ぐんまちゃん」(群馬県運営)がいる。「ぐんまちゃん」はコンテストで1位になる等,人気の高いマスコットキャラクターであり,群馬県は県内外の事業者へのデザイン貸与や群馬県の広報・宣伝に利用してきた。近年,群馬県は戦略的に,「ぐんまちゃん」の積極的活用を行うと共に「ぐんまちゃん」の露出を高めている。その結果「ぐんまちゃん」は認知度と好感度が向上しており,以前にも増して,ぐんまちゃんを通じた群馬県エリアに対するポジティブな印象を群馬県内外に与えている。

昨今,地域ブランドの重要性がますます高まっている。そこで群馬県による「ぐんまちゃん」のマーケティングマネジメントを一般的なキャラクターの普及と継続の過程を念頭におきながら詳説し,自治体によるコンテンツを活用したマーケティングの要を抽出する。

II. 「ぐんまちゃん」が誕生した背景となりたち

1. 群馬県の状況

群馬県は,人口は全都道府県の中で第18位の194万人(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2020)で,県内総生産(名目)は第17位の8兆9,898億円(Cabinet Office, 2018)であり,都道府県単位でみると中位規模のエリアである。米作や野菜栽培,畜産,機械工業が盛んであり,農業産出額は第14位の2,361億円(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, 2019)で,年間製造品出荷額等(従業者4人以上)は第12位の8兆9,819億円(Gunma Prefecture Statistics Division, 2020)となっており,様々な農産物と製品が県外に出荷されている(Gunma Prefecture Statistics Division, 2015)。また,温泉・保養地等多くの観光資源があり,コロナ禍前の統計ではあるが観光入込客数は6,449万人で観光消費額は1,894億円(Gunma Prefecture Tourism Value Creation Division, 2017)で,県外からの観光者が多数,群馬県を訪れていると推測できる。このような状況があることから,群馬県は,県外へのパブリシティや,国民体育大会(国体)や植樹祭といった全国イベントの県内誘致に取り組んできた。2020年には多目的な大型施設である群馬コンベンションセンター(Gメッセ群馬)を開場して大規模な博覧会や学会の誘致を開始する等,投資を続けている。

2. 「ぐんまちゃん」のなりたち

(1) 「ぐんまちゃん」の誕生

「ぐんまちゃん」には初代と2代目がいる。

1983年に群馬県で開催された第38回国体のマスコットキャラクターとして登場したのが「ぐんまちゃん」(初代)である。漫画家・絵本作家である馬場のぼる氏のデザインによるもので,国体のマスコットキャラクターとしては初めて愛称が付けられた。第38回国体の後も,群馬県はこの「ぐんまちゃん」(初代)を発行物や管理する施設等で用いた。

現在目にする「ぐんまちゃん」(2代目)のデザインは,「ゆうまちゃん」という名称で,1994年に開催された「全国知的障害者スポーツ大会(ゆうあいピック)」群馬大会のマスコットキャラクターとして登場した。中嶋史子氏(当時群馬県職員)によるデザインが公募の結果選ばれた。その後,名称を公募した結果,応募で最も多かったゆうあいとぐんまという響きを持つ名が選定された。ゆうあいピック群馬大会以降も第9回全国スポーツ・レクリエーション祭(1996年),全国健康福祉祭(2004年)等,群馬県で開催された全国イベントでマスコットキャラクターとなった。

2008年になって群馬県は「ゆうまちゃん」を「ぐんまちゃん」と呼ぶようになった。群馬県が,東京都内にアンテナショップ「ぐんま総合情報センター(ぐんまちゃん家)」をオープンしたことがきっかけである。この変更は,著作権が理由で2通りのデザインを固定して利用していた「ぐんまちゃん」(初代)と異なり,「ぐんまちゃん」(2代目)はデザイン変更を自由に行うことができ,利用が容易で汎用性も高い,という利点が背景にあった。一般的なキャラクタービジネスにおいては,デザイン変更や名称変更は経営から担当者までの各階層において非常にハードルの高い判断となるが,今振り返ってみれば群馬県内での大きな調整は生じず,ゆるく変更は行われたとのことである。

(2) 「ぐんまちゃん」のコンセプトとデザイン

「ぐんまちゃん」(2代目)は,原作者の中嶋氏曰く,長く愛してもらえるように男性も女性もなく共感される子供のキャラキターとし,シンプルなデザインにしたという(図1)。見た目は二頭身という設定である。ゆうあいピック群馬大会のシンボルマークをオマージュし,ベストに友情を表わす緑色と,帽子やネクタイに赤色があしらわれることが多い。県名と名前の一致もあってか,群馬県民には親しみやすく全国的にもわかりやすく,「ぐんまちゃん」は浸透していった。

図1

「ぐんまちゃん」のデザイン(2021年)

出典:画像提供 中嶋史子氏,群馬県

「ぐんまちゃん」以外のキャラクターは後述のアニメ放映をきっかけに公になった。

(3) 「ぐんまちゃん」の成長① 県民の財産としての「ぐんまちゃん」

群馬県は「ぐんまちゃん」の運営を行うにあたり,1996年に担当セクションを県有財産の保全管理を担当する管財課とした。

誕生以来,「ぐんまちゃん」はグッズ販売の要望やデザインの利用要望が高かった。そこで群馬県は1996年よりイラストの利用許諾制度を開始したが,商用は全て有償であり,利用される商品やサービスとデザインの確認が必ず行われるという許諾制であった。このように堅実な運用を行ったこともあり,管財課が「ぐんまちゃん」を所管した1996年から2009年までの14年間のデザイン利用件数は1,687件と年平均100件程度であった(表1)。

表1

「ぐんまちゃん」利用件数推移

出典:群馬県提供資料から筆者作成

(4) 「ぐんまちゃん」の成長② 「ぐんまちゃん」の人気化と活用

2009年に「ぐんまちゃん」の担当セクションが企画課に変更された。当時の企画課は群馬県全体のイメージアップを管掌しており,郷土食や観光地といった群馬ならではの特色ある事柄をPRしていこうという姿勢であった。そこで群馬県は,群馬オリジナルの存在の一つであり,PR方法でもあった「ぐんまちゃん」を積極的に活用していった。

キャラクタービジネスは,キャラクターそのものの認知度向上が重要であり,一般に,認知が高まり利用が進めば,利用がさらに認知を高めていく現象が起きうる。2000年以降,群馬県は「ぐんまちゃん」着ぐるみの貸出制度を用意し,多数のイベントに利用されて好評を得ていたが,企画課が担当セクションとなってから,「ぐんまちゃん」の対外露出を高め,利用をさらに促進するための仕組みが用意されるようになった。例を挙げると,他自治体のご当地キャラと比べても早い時期である2009年に,「ぐんまちゃん」のデザイン利用を無償で届け出のみとする許諾制に変更した。すると,県産品を中心にデザイン利用が広がり始めた(表1)。また,「ぐんまちゃん」を利用した群馬県の広報・宣伝活動も行われた。群馬県は2012年に「群馬県宣伝部長」,2015年に「好き好き!すき焼き大使」とし,「ぐんまちゃん」はスポークスキャラクターとしても露出機会が増えていった。

これらのこともあり,「ぐんまちゃん」は群馬県内外のイベント等で目にすることが多くなり,話題性も高くなったことから新聞や雑誌,テレビ等のマスメディアで頻繁に取り上げられたが,群馬県は「ぐんまちゃん」の認知と好感のさらなる向上策として,他のキャラクターと競うことに取り組み,ゆるキャラグランプリ(2011年~2020年まで開催)にエントリーした。「ぐんまちゃん」がコンテストで1位になることで群馬エリアのイメージアップが進む,という考えのもと,群馬県が県内自治体等を通じて数年にわたりキャンペーンを打ち投票を促した結果,2014年のゆるキャラグランプリでグランプリ(1位)を獲得した。この際は,県内で祝賀会が行われる等,群馬県内外で大きな話題になった。

「ぐんまちゃん」が人気者になることは,ぐんまという語の普及と群馬県の好感につながっていったと考えられる。様々な取り組みの結果,「ぐんまちゃん」のデザインを使った商品販売の経済効果は2013年度には売上高が20億円で経済波及効果は14億円の合計34億円,パブリシティ効果の広告宣伝費換算額は8億円となった(Gunma Economic Research Institute, 2015)。また,「ぐんまちゃん」のデザイン利用件数は2014年度には6,034件になった。

(5) 「ぐんまちゃん」の成長③ 「ぐんまちゃん」の継続的活用

2015年,「ぐんまちゃん」担当セクションが広報課に再度変更になった。

Nippon Research Center(2022)をみると,認知度(「次の「ご当地キャラ」のうち,あなたがご存知のものはどれですか。知っているものをすべてお知らせください。」)と好感度(「そのうち,あなたがお好きな「ご当地キャラ」はどれですか。」)は2015年以降大きな変動はなかったものの,徐々に低下した(図2)。インターネット上では,キャラクターデザインについてネガティブな話題もとりあげられた。2(4)で述べたように「ぐんまちゃん」は多数のイベントに貸出利用されて好評を得たが,利用者それぞれにサイズの違いや仕草の違い等があり,期待するイメージにそぐわない,とファンからの苦情が生じた。2014年に群馬県は利用ガイドラインを示したが,利用者には必ずしも順守されなかった。

図2

「ぐんまちゃん」の認知度(上),好感度(下)の推移

出典:Nippon Research Center(2022)から筆者作成

また,毎年伸びていたグッズの利用件数が2014年をピークに徐々に減少し始めた(表1)。これらは,一般的な商品やサービスにも生じうる,認知や人気が高まった後の停滞の表れと捉えられる。また,ゆるキャラグランプリ1位を目標としたキャンペーンが終了していたことも理由の一つと考えられる。

さらに,メディア環境が変化した。インターネットが普及し消費者にとってSNSが生活に不可欠になる等,「ぐんまちゃん」誕生時と比べて,マスメディアとインターネットの位置づけは,送り手の群馬県と受け手の消費者のいずれにとっても大きく異なっている。この変化はどのようなマーケティングの主体にとっても対応は難しい。群馬県も「ぐんまちゃん」紹介サイトを設置したが,基本的には旧来のメディア対応を行うに留まっていた。

III. 群馬県の新たなメディア戦略と「ぐんまちゃん」

1. 群馬県のメディア戦略

(1) 方針

山本一太知事の就任をきっかけに,群馬県は2021年に知事戦略部を設置した。「新・群馬」の創造に向けた取組の司令塔として,政策立案や情報発信,トップセールス等を戦略的・機動的に実施するため」とされ,その一環で広報課を再編したメディアプロモーション課が新設された。この時に群馬県が示したのが「世界にたった一つだけの群馬県を内外に戦略的に発信する」というメディア戦略である。「群馬県庁内の各所属が,日本最先鋭の自前のコンテンツ創出力を持ち,県内のタイムリーな情報を独自のメディアミックスにより,国内外に発信する」という理念のもと,国内外へのプロモーションが行われることとなった。知事戦略部にはデジタルトランスフォーメーション課も設け,デジタル技術の活用により,バックオフィス業務だけでなく,メディアプロモーション課と連携した,データを活用するメディア施策の変革の実現を図ることになった。

(2) 施策

群馬県は,既存のメディア対応に加えてインターネット対応を進めた。そのために,群馬県が自ら発信を行う情報を豊かにする取り組みと,プラットフォームの用意を行った。

群馬県庁舎には,2020年に「群馬県動画・放送スタジオ tsulunos」を設け(図3),県職員によって広報番組等のコンテンツを制作し,2021年にコワークスペース「官民共創スペースNETSUGEN」を設け,スタートアップや学生等の情報が集まるようになった。

図3

動画・放送スタジオ「tsulunos」(左),動画ポータルサイト「tsulunos.jp」(右)

出典:画像提供 群馬県

また,2020年以降,動画ポータルサイト「tsulunos.jp」(図3)やYouTube「tsulunos」等のオウンドメディアとSNSアカウント等を用意し,知事会見や「tsulunos」スタジオでの制作コンテンツ,「NETSUGEN」の情報等,群馬県の情報を群馬県自身が発信できる体制を整え,重点的にパブリシティを行いたい内容を群馬県内外に伝える姿勢を強めて,既存のメディアとインターネットを併せたメディアミックスを積極的に行うようになった。

2. 「ぐんまちゃん」の成長④ 群馬の魅力を生み出すコンテンツの「ぐんまちゃん」

2020年に,「ぐんまちゃん」は広報課に引き続きメディアプロモーション課の所管になった。このことは,「ぐんまちゃん」が,群馬県が進めるブランド戦略の中核となりうるという考えが理由である。群馬県は「ぐんまちゃん」をキラーコンテンツと位置付けて,ブランド化を図り,2(5)でみた課題に対する対処と新たな取り組みを同時に行っている。

(1) 「ぐんまちゃん」のクオリティコントロールの徹底

群馬県は「ぐんまちゃん」のクオリティコントロールを改めて徹底した。2020年に「ぐんまちゃん」着ぐるみの貸出制度を終了し,本来のイメージにそぐわない利用を減らすことができた。また,「ぐんまちゃん」のデザイン利用についても,原作者の中嶋氏の協力を得て,許諾制ではあるがデザインチェックを行う体制を整えた。

(2) 「ぐんまちゃん」そのものと共に群馬エリアが話題になる仕掛け作り~メディア露出への注力とアニメ制作の実施~

戦略的に,認知と好感を高めるための,コンテンツ制作やプロモーション,キャラバン隊によるリアル「ぐんまちゃん」活動(イベント支援や県内幼児施設への訪問等)等様々な取り組みの企画を行った。コロナ禍にあっても実施することができた企画のうち,本項では特に,インターネットを用いたプロモーションとアニメ制作について触れる。

① インターネット上の発信の強化

2020年,群馬県は「ぐんまちゃん」ポータルサイトと,TwitterやInstagramの「ぐんまちゃん」アカウントを開設する等,インターネットで「ぐんまちゃん」を広めることに取り組んだ。「ぐんまちゃん」に関する情報をこまめに掲載する他,オリジナルコンテンツを頻繁に制作してSNSや「tsulunos.jp」,YouTubeで配信した。その中で最も重点的に取り組んだオリジナルコンテンツが次項に示すアニメ「ぐんまちゃん」である。

② アニメ制作と放送及び配信

2021年に,群馬県はアニメ「ぐんまちゃん」の制作と放送,配信を行った。全国の自治体では初めてという30分番組1クールでの放送が可能になった理由は,自らアニメ制作を行うことで「ぐんまちゃん」の魅力や世界観を最も効果的に表現でき,また放送する際も放送時間を選ぶことができて,主なターゲット(幼児~就学前児童)に対し効果的に訴求できるからである。さらに,アニメ制作を本格的に行えば,制作発表から放送後まで話題となる機会が多く得られ,マスメディアだけでなくインターネットメディアでの取り上げやSNS等での情報拡散が期待できるからである。

群馬県は実力に定評のある監督と脚本家,制作会社,そして有名声優をブッキングしテーマを「ぐんまちゃんはいつだってともだち」として原作の「ぐんまちゃん」のイメージに忠実にアニメを制作した(全13回,各回30分3本立)。2021年10月~12月にかけて全国で放送し(関東6局関西2局),ネット配信を22社のプラットフォームで行った。

アニメ放送・配信そのものに「ぐんまちゃん」の認知と好感の高まりは期待されたが,群馬県はさらに,視聴者間での話題が広がるような,関連する取り組みをアニメ制作発表から放送終了後まで意図的かつ徹底して続けた。例を挙げると,アニメ内では群馬県内の観光地や名産品を取り上げ,プロモーションでは意識的にプロに依頼してアニメ宣伝のためのグッズやポスターといった必要素材等を製作した(図4)。また放送の開始前や期間中には,イベントやテレビ番組,インターネット番組への出演の他,スタジオ「tsulunos」での関連番組制作と配信,ポスターを撮影しリツイートするキャンペーン,宣伝映像の駅やショッピングモール等での放映とYouTube等の配信,一部放送回の期間限定無料配信,SNSでの周知等を行った。放送後は出演声優のリアルイベントも行った。

図4

アニメ「ぐんまちゃん」内のシーン(左上:尾瀬,左下:桐生八木節祭り)と宣伝ポスター例(右)

出典:画像提供 群馬県

(3) 「ぐんまちゃん」の現在

コロナ禍の現在,キャラクタービジネスは全般にリアルイベントの開催が十分に行えず,グッズ販売等に苦戦している。「ぐんまちゃん」も,県民を対象としたアニメ先行試写会が定員を大きく超える応募があったにも関わらず中止される等,イベント開催が容易ではなかった。しかし,群馬県の調査ではグッズ販売は2020年に約446億円,2021年に約522億円と売上が伸びている。また,2015年から徐々に低下していた認知度と好感度が2019年から2021年にかけて上向きになっている(Nippon Research Center, 2022)。これらのことから群馬県は「ぐんまちゃん」のブランド化事業の様々な取り組みに手応えを感じており,中でも,特にアニメ制作と放送,配信に効果があったと考えている。アニメ放送前(2020年9月)と放送後(2022年1月)の時期に行われたNozawa(2023)の調査結果をみると,純粋想起(何も提示せずに,好きなご当地キャラの名前を3つまで記入)が6位から4位に,認知率(キャラ名と県名(市区町村のキャラは市区町村名も)提示で「よく知っている」「名前を聞いたような気がする」)が41.8%から57.8%に,好意度(キャラ名提示で「好き」「やや好き」)が30.8%から45.1%に向上していた。筆者が,「ぐんまちゃん」について学習しアニメ視聴した文京学院大学生にインタビューした結果でも,「おとぼけキャラなのがわかって,親近感が増した」,「お友達がいることを知って,関係性から「いいやつ」だとわかった」等,アニメという高度な表現力によりキャラクターや世界観がはっきりしたことで「ぐんまちゃん」への親しみやすさや好感が高まったことが示唆されており,アニメが価値づくりの重要な一助になったと考えられる。またインターネット上での反響は大きく,YouTubeでの期間限定無料配信は4万回以上再生され,Twitterでは「ぐんまちゃん」という語が各回放送時期に10回トレンド入りした。インターネット上では熱心なファンによる自主的な宣伝もみられる等,アニメをきっかけとしたファンや視聴者同士の交流等も広がっている。また,自治体と多くの観光施設がアニメポスターの掲出に協力し県内に「ぐんまちゃん」を応援する雰囲気が高まった。

IV. 現在の「ぐんまちゃん」を活用した地域ブランディング まとめ

群馬県の「ぐんまちゃん」のブランド化事業は進められている最中にあるが,現段階でも「ぐんまちゃん」の認知と好感等は高まっており,また経済効果(グッズ販売額)も増加傾向にあることから,「ぐんまちゃん」運営の目的である群馬エリアの宣伝と経済への貢献も,直接的にも間接的にも進んでいると捉えることができる。

これらのことは,コロナ禍で従来のようなリアルなイベントやプロモーションが十分に行えない中でも,アニメ制作・放送・配信や,オリジナルイベント,オリジナルコンテンツ等の,群馬県全体のメディア戦略に基づいた,「ぐんまちゃん」のメディアミックスとコンテンツ企画が適切に行われていることを示している。そこで,「ぐんまちゃん」運営の状況から,コンテンツを活用するマーケティングを進める上で参考になる点と,地域ブランディングをさらに発展させるための課題を抽出する。

1. キャラクターを活用するマーケティングの実務へのインプリケーション

(1) 「ぐんまちゃん」の普及と活用の各段階への適応

「ぐんまちゃん」誕生からの26年間を概観すると,キャラクターの普及と活用の効果(利用数や経済効果等)には,一般商品と同様の,変化の段階があると考えられる(図5)。

図5

「ぐんまちゃん」人気化と活用の推移のイメージ

出典:筆者作成

キャラクタービジネスを進める上ではまずキャラクターが知られることが重要である。「ぐんまちゃん」は高い認知と好感を得ることに成功しており,その大きな要因の一つは事業者や消費者・ファンにとっての「ぐんまちゃん」利用の自由度の高さであった。しかし,その点がキャラクターのイメージを逆に下げ,認知や好感が高まらず利用が停滞した時期があった。現在は,利用のし易さはできる限り残しながら自由度を下げてクオリティのコントロールを進め,さらにアニメを主なテコ入れ策とし認知と好感を再び高めている。

また,「ぐんまちゃん」誕生から現在までの間にメディア環境の大きな変化があったが,近年の群馬県の「ぐんまちゃん」運営では,従来のマスメディアやリアルイベントに加えて,インターネットへの対応,特にオウンドメディアの用意・活用とデジタルプラットフォームの活用を重点的に行い,情報提供を絶えず行って,露出機会の多面化に成功している。これらは,短時間で終わってしまうイベントや,意図がなかなか及ばず思い通りにならないマスメディアでの露出を補い,認知や好感の再度の高まりに寄与したと考えられる。

(2) 「ぐんまちゃん」についての消費者間のインタラクションへの適応

SNSの普及によって,近年マーケティングでは消費者間の相互関係が以前もまして重要となっており,継続的に話題を作り消費者に対してコミュニケーションの材料を用意することが必要不可欠になっている。群馬県はSNSの運用に力を入れる共に,様々なコンテンツをファン・消費者に絶え間なく提供し情報拡散のきっかけを作っている。大きな効果があった事柄の一つがアニメ制作である。放送の他インターネット上の動画プラットフォームを多く利用して消費者の視聴機会を増やした結果,「ぐんまちゃん」についてのファンや視聴者感の口コミやバズが強く起こり,認知や好感を高めたと考えられる。

2. 「ぐんまちゃん」を活用するマーケティング 今後の課題

群馬県は群馬県民の幸福度をあげることを大きな目標として,サービスの質を高め,人口減少を止めて県外からの来訪促進や県外への県産品の輸出を増やすことに取り組んでいる。「ぐんまちゃん」活用の今後の課題として,群馬県がマーケティングを進める上で,群馬エリアの来訪者数増加等,群馬経済にどう貢献していくのか,という点がある。

これらの課題に際して,「ぐんまちゃん」担当は,まず,引き続き「ぐんまちゃん」の認知と好感を高めることに取り組むことにしており,規模の大きな企画として,アニメの2作目を制作して1作目でのエリアを上回る全都道府県での放送の準備を進めている。さらに,アフターコロナに,県外の消費者が「ぐんまちゃん」に会うために群馬エリアに来訪することを理想と目標として,魅力の高いコンテンツやイベント等の準備を行っている。

群馬県は「ぐんまちゃん」の成長に期待しており,今後も多くの企画を準備している。

謝辞

本稿作成にあたり,群馬県の宇佐美友章メディア戦略アドバイザーと,メディアプロモーション課の前川尚子課長,千葉純也次長,桑名かおり補佐をはじめとした皆様に長期間にわたる取材をさせて頂き,さらに資料を提供頂きました。ここに記し感謝申し上げます。

濵田 俊也(はまだ しゅんや)

文京学院大学大学院経営学研究科客員教授(経営学部マーケティング・デザイン学科(23年4月新設)にも所属)。早稲田大学法学部卒業後,企業勤務。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了,京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。

新田 都志子(にった としこ)

文京学院大学経営学部/経営学研究科教授。大分大学経済学部卒業後,企業勤務を経て,学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。専門は消費者行動研究をベースとしたマーケティング戦略。近年はデザインによる人の行動変容を研究。

References
  • Cabinet Office. (2018). Prefectural accounts.(内閣府(2018).『平成30年度県民経済計算』)(In Japanese)
  •  Garretson,  J. A., &  Niedrich,  R. W. (2004). Spokes-characters: Creating character trust and positive brand attitudes. Journal of Advertising, 33(2), 25–36.
  • Gunma Economic Research Institute. (2015). The economic effect of the local character “GUNMACHAN”.(群馬経済研究所(2015).『ご当地キャラクター「ぐんまちゃん」の経済効果について』)(In Japanese)
  • Gunma Prefecture Statistics Division. (2015). 2015 input-output tables for Gunma Prefecture.(群馬県統計課(2015).『平成27年(2015年)群馬県産業連関表』)(In Japanese)
  • Gunma Prefecture Statistics Division. (2020). Census of manufacture; Revised report by industry 2020.(群馬県統計課(2020).『令和2年工業統計調査結果(確報)』)(In Japanese)
  • Gunma Prefecture Tourism Value Creation Division. (2017). Gunma Prefecture Visitor Statistics and Expenditure Survey Results 2017 (Estimate).(群馬県観光魅力創出課(2017).『平成29年群馬県観光客数・消費額調査(推計)結果』)(In Japanese)
  • Keller, K. L., Parameswaran, M. G., & Jacob, I. (2011). Strategic brand management: Building, measuring, and managing brand equity. India: Pearson Education India.
  • Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries. (2019). Statistics of agricultural income produced.(農林水産省(2019).『令和元年生産農業所得統計(確報)』)(In Japanese)
  • Ministry of Internal Affairs and Communications. (2020). Population census.(総務省(2020).『令和2年国勢調査人口速報』)(In Japanese)
  • Nippon Research Center. (2022). The 8th NRC characters & mascots national survey.(日本リサーチセンター(2022).『第8回NRC全国キャラクター調査』)(In Japanese)
  • Nozawa, T. (2023). Character quantitative survey. In N. Tsujimoto, N. Taguchi, T. Nozawa, & N. Araki (Eds.). Marketing of the contents, by the contents, for the contents: Movie/animation/character analysis case (pp. 95–127). Osaka Metropolitan University Press.(野澤智行(2023).「キャラクター定量調査」辻本法子・田口順等・野澤智行・荒木長照(編)『コンテンツの,コンテンツによる,コンテンツのためのマーケティング―映画・アニメ・キャラクター分析事例―』大阪公立大学出版会)(In Japanese)
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top