Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Social Media Marketing:
12 Years of Research
Hisashi Mari
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J-STAGE Data

2023 Volume 43 Issue 2 Pages 70-77

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Abstract

本稿では,広範な研究領域に跨る,ソーシャルメディアを活用したマーケティング活動とソーシャルメディアによって変化したマーケティング(ソーシャルメディアマーケティング)に関連する研究成果を体系化し,次なる研究課題を明らかにするため,システマティックレビューを行った。レビューの結果,「eWOM/UGC」「Social Listening」「Community」「Communication Chanel」の4つの主要な研究領域が提示され,将来の研究可能性が示唆される。このような体系化された整理はこれまで存在しておらず,当該領域における理論的な貢献とソーシャルメディアマーケティングに取り組む実務家に対しても実践的な示唆をもたらす。

Translated Abstract

This paper systematizes research findings related to social media marketing activities and marketing changed by social media (collectively defined as social media marketing) in a systematic review and identifies areas for future research. The review suggests four major areas for future research: eWOM/UGC, Social Listening, Community, and Communication Channels. This is the first systematic review of this area. The paper provides theoretical contributions in this area and practical suggestions for companies engaged in social media marketing.

I. はじめに

ソーシャルメディア(以下,SM)とは,Web2.0の思想的・技術的基盤の上に構築され,ユーザー生成コンテンツ(UGC)の作成と交換を可能にするインターネットベースのアプリケーション群である(Kaplan & Haenlein, 2010)。Web2.0の思想的・技術的基盤の上に構築されているということは,それ以前にみられた単一方向のコミュニケーション構造に,双方向性と即時性が加わり,互いがコンテンツの制作者であり,閲覧者であり,コンテンツを通じて相互にインタラクションが可能になったという点がSMの特徴である。

この思想的・技術的な進化がマーケティングに対しても大きな変化を齎した。先進的な一部の実務家らによってマーケティング活動への導入が試みられ,同時に,SMの普及によって社会そのものが変化していった。

一方,その実践は試行錯誤の連続である。個別の活用事例が積み重ねられ,経験則に基づく法則らしきものも登場したが,学術研究は遅れをとってきた。事実,ソーシャルメディアマーケティング(以下,SMM)という学術用語が主要なジャーナルに掲載された論文の中に登場するのは2009年のことであり,今回の文献調査の限りにおいて,SMMに関する包括的なレビュー論文は驚くべきことに1篇も存在していない。

そこで本稿では,2009年から2020年に至るまでのSMMに関する論文を網羅的にサーベイし,今後の学術的な研究の方向性を提示することを目的としたシステマティックレビューを実施し,研究の体系化を行い,将来の研究への示唆を導出する。

II. 研究方法

本稿では,マーケティング領域におけるSMに関連する研究についてのシステマティックレビュー(Denyer & Tranfield, 2009; Nishikawa, 2020; Webster & Watson, 2002)を行う。システマティックレビューとは,既存の研究を探し出し,その貢献を選択・評価し,また,データを分析・統合し,何が明らかになっていて何が明らかになっていないかについて,合理的に明確な結論に達することができるような方法でエビデンスを提示する方法論である(Denyer & Tranfield, 2009)。

第1に,本研究の目的に合致する検索ワードを定式化した。検索ワードは著者の事前知識から“Social Media”と定めた。事前の検討においては“Social Network Services”や“Social Networks”,個別プラットフォーム名(Facebook, Twitter, Instagramなど)も想定されたが,初期の探索の段階で近年の論文では“Social Media”が一般的となっていることや黎明期の論文も近年の論文から流れを追えることが明らかとなったため,検索ワードは拡げず,絞り込むこととした。

第2に,マーケティング分野の主要ジャーナルを網羅しているオンラインデータベースEBSCO Business Source Premierに収録されている学術誌(査読あり)を対象に検索ワードに合致する文献を抽出し,さらにそこから学術専門誌以外のもの(雑誌・業界紙・製品レビュー)と全文PDFが入手不可能なものを除外し,そこからScimago Journal & Country Rankのマーケティングカテゴリの2020年のTOP50にランクインする主要ジャーナル(https://www.scimagojr.com/journalrank.php?category=1406&year=2020)に掲載されている論文のみに絞り込んだ。その結果,抽出された1,000篇の文献の書誌情報及び要約,キーワードをエクスポートし,データ抽出フォームを作成するとともに,フルペーパーを入手した。

第3に,データ抽出フォームの文献タイトル,要約,さらに個々の文献に記述される方法論や結論を確認し,本研究において明らかに関連のない文献を除外。その結果,絞り込まれた513篇を本稿のレビューの対象とした。

III. 研究の変遷

初めて“Social Media Marketing”という用語が論文の中で用いられたのは,あくまで今回の文献調査の限りではあるが,2009年のJournal of Marketing Managementに掲載されたJones, Temperley, and Lima(2009)によるPrimark社のケーススタディを扱った論文である。彼らはSMが存在する世界における企業のレピュテーションとブランドのマネジメントに関する問題を考察している。2009~2010年にかけてはSMM研究の黎明期と言え,1年間に発表される論文数もまだ一桁台と少なく,JonesらのようにSMの登場により市場や消費者行動がどのように変化しつつあるか,あるいは,既存のマーケティングがどのような影響を受けるかといった社会現象としてのSMそのものに目を向ける研究が大半を占める。

SMの定義は初期においては確立されておらず,Web2.0を基盤とするもの(Jones et al., 2009; Winer, 2009),消費者生成メディア(Mangold & Faulds, 2009)といずれもSMの一側面を捉えたものが多い。これらを統合的に取りまとめ,以後の研究に大きな影響を与えたのがKaplan and Haenlein(2010)である。彼らは,ソーシャルメディアとは,Web2.0の思想的・技術的基盤の上に構築され,ユーザー生成コンテンツ(UGC)の作成と交換を可能にするインターネットベースのアプリケーション群であると定義し,双方向性と即時性によるインタラクションがSMの特徴であるとしている。本稿もこの定義に準じる。

2011年に入ると1年間に発表される論文数は二桁台となり,急激にこの領域への研究関心が高まっていったことが見て取れる。SMとマーケティングの関係を探る論文が多いことも,この頃の研究潮流の大きな特徴である。この傾向は1年間に発表された論文の33.3%がConceptual Paperであった2013年をピークに,徐々に減少へと転じ,直近5年(2016~2020年)のConceptual Paperの年平均は6.8%,下限は2019年の1.3%となっており,研究テーマの成熟傾向が推察される。

2017~2020年の4年間でこの12年間に掲載された論文の約半数(52.2%)が発表されており,上昇トレンドにあることから,この領域に対する研究関心は依然として衰えていない。研究方法については量的研究が53.2%,次いで質的研究が24.2%を占め,続いてConceptual Paper/Theoretical Paper(12.1%),混合研究(6.0%),Review/Meta Analysis(4.5%)の順であった。また,研究の中で取り扱われるステークホルダーの関係性はBtoCのみならず,CtoC,CtoB,BtoB,GtoCと多様であることもSMがマーケティングに齎した影響範囲の広さを表しており,SMM研究の特徴のひとつとして挙げられる。

IV. 主要な研究領域及び代表的な議論

前節で示した通り,SMがマーケティングに与える影響範囲は広い。従って,マーケティング研究や消費者行動研究の様々な領域がSMの影響を受けて拡張され,SMM研究を形成している。これまでに公刊された幾つかのレビューがいずれも包括的なものではなく,領域が限定されていることがこれを物語っている。例えば,ブランドコミュニケーション(Voorveld, 2019),e-WOM(King, Racherla, & Bush, 2014),広告(Batra & Keller, 2016)などが挙げられる。

本稿では,これらの整理も参考にしながら,あくまで今回のシステマティックレビューの結果として,eWOM/UGC,Social Listening,Community,Communication Chanelの4つに分類した。

1. eWOM/UGC

eWOM/UGCは最も研究が活発な領域のひとつである。eWOMはオンライン上で行われる消費者間の会話であり,消費者は,仲間とコミュニケーションをとりながら,自分が体験した製品やサービスを支持したり非難したりしている(Moran & Muzellec, 2017)。また,より広い概念としてUGC(User Generated Contents;消費者生成コンテンツ)があり,Twitterのつぶやき,Facebookのステータスアップデート,YouTubeの動画,消費者が作成した製品レビューや広告など,さまざまな形態をとっている(Smith, Fischer, & Yongjian, 2012)。このようにSMの大きな特徴として消費者が多くの人々に向けて簡単に情報発信ができるようになったことが挙げられ,これによって企業等のマーケティングコミュニケーションの在り方も大きく変化した。

発信者の行動と先行要因:eWOM/UGCに関連するユーザーの行動は「消費」「貢献」「創造」の3つのレベルに分類され(Muntinga, Moorman, & Smit, 2011),その先行要因として「娯楽」「統合と社会的相互作用」「個人のアイデンティティ」「情報」「報酬」「権限移譲」という6つの動機が議論されてきた(Buzeta, Pelsmacker, & Dens, 2020)。さらに先に投稿された内容が頻度や評価に影響する(Moe & Schweidel, 2012)ことや,プラットフォームによって調整される(Buzeta et al., 2020; Smith et al., 2012)ことなど,発信者の行動とその先行要因については幅広く議論されている。

受信者の行動と先行要因:近年では消費や創造だけではなく貢献に対する関心も高い。特にSMのネットワークを通じた社会的伝達(シェア)は主要なテーマである(Lamberton & Stephen, 2016)。ネガティブな内容よりポジティブな内容(Berger & Milkman, 2012),情報的・事実的なメッセージや感情的なメッセージ(Ordenes et al., 2019),ストーリー・スタイル(Aleti, Pallant, Tuan, & Laer, 2019),情報源に対する親近感や重要性を感じているか(Chu & Kim, 2011),社会的つながりの強さ(Noort, Antheunis, & Reijmersdal, 2012)など様々な先行要因が明らかにされている。中でも拡散性が高く影響力の大きいユーザーを対象とした研究はインフルエンサー研究と呼ばれる(McQuarrie, Miller, & Phillips, 2013; Ye, Hudders, Jans, & Veirman, 2020)。

マーケティング成果:eWOM/UGCはどのようなマーケティング成果をもたらすのかは大きな話題のひとつである。ここでは,収益(Yazdani, Carson, & Gopinath, 2018; Yoon et al., 2018),購入意向(Grewal, Stephen, & Coleman, 2019; Schivinski & Dabrowski, 2016)などが取り上げられているが,消費者が製品情報を投稿することで投稿者の購入意図が低減される(Grewal et al., 2019)ことや,業界や製品カテゴリによって差が生じる(Schivinski & Dabrowski, 2016)ことなども明らかにされている。

2. Social Listening

前項の通り,消費者の情報が大量にSM上に生成されるようになった。Social Listeningはこのような情報をどのようにしてマーケティングに活用するかを研究する領域である。

Social Listeningの意義:初期の研究においては,SM上に生成されるようになった消費者の生の情報をマーケティングに取り入れることがなぜ重要かが議論されてきた。例えば,Gorry and Westbrook(2011)はヴァセリンやスターバックスなどのケースを通じて,顧客の声を聞くことの重要性を主張している。

Social Listeningの方法論:日々SM上に生成され続ける大量の情報をどのように分析するとよいかは,この領域の主要な議題のひとつである。テキストマイニングを通じた感情(センチメント)分析(Liu, Burns, & Hou, 2017)への関心が集まる一方,急増している写真や画像をどのように分析できるか(Giglio, Pantano, Bilotta, & Melewar, 2020; Kaiser, Ahuvia, Rauschnabel, & Wimble, 2020)についても注目が集まりつつある。また,ブランドに関連する価値や量を抽出する方法についてコンセンサスが得られていないことなども指摘されている(Kübler, Colicev, & Pauwels, 2020)。

マーケティング成果:これらの取り組みを直接的にマーケティング成果へとつなげる研究もある。例えば,売上(Sonnier, McAlister, & Rutz, 2011)や株価(Schweidel & Moe, 2014)などとの関係について調査が進められている。

3. Community

SMでは時に参加者間の共通の関心(例えば,好きなブランド)を核としながら相互作用が発生し,その相互作用が同類意識や同一化を生んだり,他の集団との境界を意識したりすることがあるが,このような特徴は主にブランドコミュニティ研究の中で捉えられ,発展を遂げている。

概念と特徴:SMの登場によってコミュニティはどのように変化していくのか,あるいはSMはどのようなコミュニティとして捉えることができるのかに主眼を置いた研究は盛んである。例えば,オルターブランドコミュニティやカウンターブランドコミュニティ(Cova & White, 2010),ブランドパブリック(Arvidsson & Caliandro, 2016)といった新しい概念が提示されている。また,様々なコミュニティが同じ概念ののもとにまとめられているとの批判から分類を試みようとする研究もある(Breitsohl, Kunz, & Dowell, 2015)。

消費者の意識や行動:ユーザーや企業がSMを利用してコミュニティを形成しようとするケースも増えている。そのようなSM上のコミュニティにおける消費者の意識や行動はこの領域の主要な論点のひとつである。例えば,ブランドの文化がメンバーの行動とブランドや他メンバーとの集団的な相互作用を通して生成されること(Schembri & Latimer, 2016)や消費者がコミュニティを閲覧する際に認知的,社会的,個人的な利益を得る場合,消費者が認識するSMM活動がブランドエクイティに影響を与えること(Zollo, Filieri, Rialti, & Yoon, 2020),企業がコミュニティのメンバーを社会化するために行う取り組みの効果はどのようなものか(Liao, Huang, & Xiao, 2017)などが明らかにされている。

マーケティング成果:この領域でもマーケティング成果との関係が議論されており,売上(Zhang, Trusov, Stephen, & Jamal, 2017),購買意図(Kim & Lee, 2019),ブランドロイヤリティ(Hajli, Shanmugam, Papagiannidis, Zahay, & Richard, 2017)などが挙げられている。

4. Communication Chanel

SMの発展によって企業等は直接消費者と関係を構築できるようになった。このことにより企業等はマスメディアを使わなくてもSMを通じて効率良く情報を発信できるようになりつつある。さらにSMの特徴である双方向性と即時性を活かして24時間365日常時接続型の双方向型コミュニケーションを志向することもできるようになった。さらには消費者と直接会話をしたり,直接販売が行われたり,それらの関係を管理したりすることもできるようになっている。当該領域は,このような新しいマーケティングコミュニケーションの手段としてのSMを捉える研究である。

メディアとしてのSM:ユーザーが急増したことで企業等は従来のメディア同様にSMを使って広告を配信することができるようになっている。このことを受け,これまでの広告研究の流れを汲みながら,メディア間比較やクロスメディア効果(Danaher & Dagger, 2013),インタラクティブ広告の効果(Shen, Chiou, Hsiao, Wang, & Li, 2016)といった様々な研究が進められている。

参加の先行要因:広告を使わずに企業等が消費者に情報を届けるためにはブランドのアカウントをSM上に開設し,ユーザーにフォローしてもらわなければならない。消費者はなぜSMを利用するのか,そしてブランドのアカウントをフォローするのか,その先行要因を探る研究は盛んである。プラットフォームによっても先行要因は異なりTwitter(Chu, Chen, & Sung, 2016; Wood & Burkhalter, 2014),Instagram(Song, Lee, & Kim, 2019)などプラットフォーム別に研究が進んでいる。

エンゲージメントの先行要因:企業等の発信に対してユーザーから何らかの反応を得るための先行要因とその反応との関係もこの領域の非常に大きな論点である。例えば,使用する声のトーン(Barcelos, Dantas, & Sénécal, 2018),二人称の代名詞(Cruz, Leonhardt, & Pezzuti, 2017),読みやすさ(Davis, Horváth, Gretry, & Belei, 2019),サービス提供型と商品提供型(Swani & Milne, 2017),感情的な訴求と情報的な訴求(Rietveld, Dolen, Mazloom, & Worring, 2020),対話(Colliander, Dahlén, & Modig, 2015),コンテンツタイプと返信タイプ(Taecharungroj, 2017),企業の積極的な関与の負の効果(Homburg, Ehm, & Artz, 2015)など,様々な要因が提示されている。

販売と関係管理(Social Commerce/Social CRM):近年ではSMを通じて販売が行われたり,それらの関係性を管理したりすることができるようになっているが,この論点は未だ発展途上にある。数少ない実証研究では,消費者がSocial CommerceやSocial CRMに参加する動機(Bianchi, Andrews, Wiese, & Fazal-E-Hasan, 2017; Zhang et al., 2017)やその成果(Lu & Miller, 2019; Wang & Kim, 2017; Zhang et al., 2017)に注目が集まっている。

マーケティング成果への影響:ここでもまたマーケティング成果との関係は議論されている。SMを通じた対話が購入意向を高める(Colliander et al., 2015)ことや,ブランドのファンページのコンテンツとブランドリレーションシップの関係(Kefi & Maar, 2020),パラソーシャルインタラクションとロイヤリティ(Labrecque, 2014)など様々な視点からの研究が進められている。

V. おわりに

本稿は,SMMに関する文献のシステマティックレビューを行い,4つの領域における発展を確認した。今後の研究として,企業等と消費者間の関係に関するさらなる考察や,2019年以降増えつつある,写真や動画のコーディング技法の開発や機械学習の活用を生かした分析が求められるだろう。なお,本稿ではシステマティックレビューの手続きに従い文献調査を実施したが,その方法論については改善の余地が残る。第一に,調査手順の厳密性を優先したため,拾いきれていないジャーナルや論文が存在することを否定できない。第二に,より堅牢なレビューを行うために,2人以上の独立したレビュアーによる文献抽出や構造化を検討すべきである(Nishikawa, 2020)。

謝辞

拙稿の刊行に際して,東京都立大学の水越康介先生より,貴重なご助言をいただきました。ここに記して,感謝の意を申し上げます。

麻里 久(まり ひさし)

静岡大学情報学部卒業。広告会社勤務。

首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻

高度専門職業人養成プログラム修了(MBA)。

現在,東京都立大学大学院社会科学研究科

博士後期課程在籍。

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全てのエビデンスデータはJ-STAGE Data で利用できます。(リンク先)The data analysis file and all annotator data files are available in J-STAGE Data, (link here)


References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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