2023 Volume 43 Issue 2 Pages 101-110
近年,顧客との共創を製品開発に活用する企業が増えている。しかし,製品化やプロジェクト運営の手間などから,一過性の取り組みに終わってしまうケースも多い。こうした中で,共創をブランドの提供価値の中心に掲げ,事業としても成長を続けているのがサッポロビール初のクラフトビールブランド「HOPPIN’ GARAGE」である。本ケースは,事業として共創に取り組んでいるだけでなく,顧客との共創に挑戦しながらも一度は自社コミュニティを終了し,再度新たに立ち上げるなど,試行錯誤の上に共創を続けてきた先進的なケースでもある。本稿では,どのような課題があり,ビジネスモデルを変更させてきたか,そのHOPPIN’ GARAGEの変遷を,1)自社顧客との共創,2)外部コミュニティとの共創,3)外部イノベーターとの共創,4)外部企業との共創,といった共創形態の変化に合わせて確認する。そこには,事業の状況や課題に合わせて,顧客との共創だけにとらわれず柔軟に共創相手を変えてく,HOPPIN’ GARAGEの巧みなマネジメントが見られる。その成長要因として,1)内部マネジメントの重要性,2)共創手法の最適化,3)共創体制の最適化という3点を提示する。
In recent years, an increasing number of companies have been utilizing co-creation with customers for product development. However, in many cases, this is a transitory process due to the time and effort required to commercialize products and manage the project. In this context, Sapporo Beer’s first craft beer brand, “Hoppin’ Garage,” has been growing as a business with co-creation as the core value of its brand. This represents an advanced case, in which the company has worked on co-creation as a business and also continued co-creation through trial and error, such as closing its own community and re-launching a new one while challenging customers to engage in co-creation. In this paper, we examine the challenges and changes in the business model of Hoppin’ Garage, along with changes in the form of co-creation: 1) co-creation with own customers, 2) co-creation with external communities, 3) co-creation with external innovators, and 4) co-creation with external firms. These findings permit understanding of Hoppin’ Garage’s skillful management of flexibly changing co-creation partners without being limited to co-creation with customers based on business conditions and issues. The growth factors show 1) the importance of internal management, 2) optimization of co-creation methods, and 3) optimization of the co-creation system.
HOPPIN’ GARAGEブランドロゴと製品開発に関わった「主人公」たち
出典:同社HPより,筆者加工
近年,先進的なユーザーであるリードユーザー(von Hippel, 1986, 2005)や,インフルエンサー,ファン顧客など顧客との共創を通じて,成果を出す企業が増えている(Wang, Hayamizu, & Onzo, 2021)。しかし,実施する企業においても,共創は一般的な新製品開発プロセスと併用されることが多い手法であり,ブランドの主要な新製品開発手法となるケースはあまりみられない(Nishikawa, 2006)。
こうした中,共創をブランドの中心に掲げ成長を続けているブランドがある。それが,サッポロビール初のクラフトビールブランドであるHOPPIN’ GARAGEである。そもそも,ビール業界は,酒税法に基づく免許制度が前提となっており,ユーザーである顧客自身が作り手の立場になることは難しい。だが,同社はHOPPIN’ GARAGE以前から現在までの10年以上の長期に渡り,共創と向き合い実践してきた先進的な企業でもある。では,HOPPIN’GARAGEはどのような課題に直面し,共創を通じてそれらを乗り越えてきたのだろうか。本稿では,同ブランドの共創の変遷を追うことで,いかにして同社の中で,「共創」が定着してきたのかを明らかにする1)。
以下では,現在の形態に至るまでの同ブランドの変遷を,自社顧客との共創,外部コミュニティとの共創,外部イノベーターとの共創,外部企業との共創という4フェーズに分け,それぞれについて確認していく。最後に,同社が共創を軸に成長を続けられた要因として,内部マネジメントの重要性,共創手法の最適化,共創体制の最適化という3点を挙げて整理する。
まずは,HOPPIN’ GARAGEの誕生に影響を与えた同社の活動を確認する。実は,サッポロビールが自社顧客との共創に取り組み始めたのはHOPPIN’ GARAGEが最初ではないからだ。
それは,2012年に開始した「百人ビール・ラボ」というプロジェクトである。いわゆる群衆(クラウド)に委託(アウトソーシング)する「クラウドソーシング法」(Howe, 2006)により,フェイスブックに専用ページ「百人ビール・ラボ」(図1左)をネットイヤーグループの子会社と共同で開設し,自社コミュニティを活用して,顧客が飲んでみたいビールをつくることを掲げた(Nikkei Business Daily, 2012)。自社のファンを中心に延べ約1万2000人の顧客から,味やネーミング,パッケージに至るまでの意見を収集し(Nikkei Marketing Journal, 2013),2014年8月に「百人のキセキ 至福のブラウンエール」(図1右),2015年5月には「百人のキセキ 魅惑の黄金エール」などの発売に至った。
百人ビール・ラボの取り組み
出典:同社資料およびニュースリリースより画像掲載
さらに,2015年6月には,同社のサイト上に仮想ビール会社「百人ビール・ラボ社」を設立し(図2左),自社コミュニティを活用した新たな取組みを開始する。ビール愛好家への告知が行われ,「社員」(登録)となるよう呼びかけた。社員は,商品企画部や商品開発部,広告宣伝部といった開発系,それ以外にも人事部や総務部などの仮想組織に所属し,貢献すると昇進することができる。同社は,約1,300人の社員とともに,「どんな季節,場所,誰とのみたいですか?」などオンライン上での議論を重ねていった。
百人ビール・ラボ社の取り組み
出典:同社ニュースリリースより画像掲載
2016年6月には,「日本一笑顔になれるビール」というコンセプトの「カンパイエール」が販売された(図2中央・右)。開発だけでなく,ビールの原料を勉強できるツアーや,発売イベントやプロモーションなども実施され,原料から食卓に届くまで全工程をファンとつくるプロジェクトであった。顧客であるファン参加型の開発手法を実際のビジネスに組み込めるかを見極めるチャレンジとして位置付けられていた。
今でこそファンコミュニティなど,自社顧客との共創はよく目にするようになったが,百人ビール・ラボの取り組みは,当時としては先進的なものとして,メディア等でも多く取り上げられた。
しかし,百人ビール・ラボ社の取り組みは,数多くのファンに惜しまれつつも,2017年には5年間の活動を経て終了し,同時に自社コミュニティも閉鎖することとなった。当時はEC販売も行ってはいたが,メインは一般流通での販売であった。そのため,はじめは多くの顧客が参加しているという話題性から流通に採用されるものの,時間とともに採用が減少するという状況に直面していたのである。一方,自社コミュニティの運営においても,維持コストが膨れてしまう構造的な課題に加え,特定のビール好きの参加に偏るという現象が生まれていた。また,一般流通での上市を前提としていたため,大ロット品の開発が前提となり,製造や品質保証の制約から,今までにない製品開発には至らなかったという反省もあった。
百人ビール・ラボにも関わり,顧客との共創に可能性を感じていた同社の土代裕也氏(当時,マーケティング開発部ビジネス創出グループ 兼 新価値開発部マネージャ)は,2017年8月より,新たな進め方を検討しはじめた。その結果,2018年9月に,テストマーケティングとして,HOPPIN’ GARAGEを開始することとなる。これまでの課題を解決すべく,開発方針とコミュニティ・マネジメントが大きく変更された。
まず,開発方針については,これまでの百人ビール・ラボでは,コミュニティ参加者の合議制により,多くの参加者がつくりたいものを,規模拡大させることを目的とし,年1回程度開発する,というものであった。HOPPIN’ GARAGEはまずこれを止めた。1人の顧客が本当につくりたいものを月1回程度開発するとしたのである。最初から規模をゴールとして目指すのではなく,開発までのスピードの速さや個性的な製品が誕生することを重視した。
次に,コミュニティ・マネジメントについては,自社でコミュニティを運営するのではなく,外部に既にあるコミュニティと連携することで,維持費削減とアクティブな状態を維持することとした。さらに,コアなビール愛好家ではない一般顧客の意見を聞くことも可能となる。そこで協業先としてあがったのが,ビールと相性の良い食のコミュニティを保有しているスタートアップの「キッチハイク」である。キッチハイクが持つ食コミュニティのサービスでは,集まる参加者それぞれがイベントを立ち上げることができ,参加者主導のコミュニティ創出がなされている。このコミュニティを活用することで,ビール愛好家のみの発案ではなく,ビールに興味を持つ人の斬新な意見を継続的に取り入れられると考えた。サッポロビールとキッチハイクが協業するということも自体も話題を呼び,メディアにも多くとりあげられた。
こうした構想のもと,自分が飲みたいビールをつくり,コミュニティの仲間にシェアできる場が改めて作られた。開発手法としては,従来の「クラウドソーシング法」に加え,紹介により先進的ユーザーを探索し共創する「リードユーザー法」(Lilien, Morrison, Searls, Sonnack, & Hippel, 2002)も採用された。両手法とも,審査を経て,アイデアが採用されると,ブルワーとの開発会議(図3左)が実施される。約2カ月後にビールが完成し,コミュニティ上でイベントが告知され,できたビールで仲間と乾杯するという流れである。イベントでの評判が良ければ,商品として売り出す。具体的には,キッチハイクの代表取締役のCEO山本雅也氏と開発した「探検するハニーエール」や,スマイルズの代表取締役の遠山正道氏と開発した「婚姻のグレジュビール」等の個性的な製品が誕生した(図3右)。最終的には,消費者から700ものアイデアを受け,16品のオリジナルビールが生みだされた。また,450回ものイベントを開催することで延べ5,000人ほどの顧客が参加するコミュニティが形成された。キッチハイクとのイベント用だけでも20もの試作品がつくられている。
リードユーザーとの製品開発
注:左図の左:スマイルズ代表取締役遠山正道氏,右:ブルワー成瀬史子氏
出典:同社資料およびHPより画像掲載
しかし,商品は好評,また話題にもなり手応えがあったものの,販売量を安定的に確保し事業化できるとはいえなかった。さらに,2000年初めから広がったコロナ禍により,キッチハイクとの協業によるリアルイベントを鍵とした開発手法が困難となっていた。
2021年4月には,テストマーケティングの結果を踏まえ,HOPPIN’ GARAGEを事業として本格的に立ち上げるために,その開発手法やビジネスモデルそのものが見直された。
まず,開発手法については,顧客によりもたらされる機能的価値よりも情緒的価値に焦点をあて,顧客と共創する方針に変更した。テストマーケティング期に生まれたビールが提供できた価値は「ビールそのもの」ではなく,共創相手の人生ストーリーを深く味わいながら飲める「ビール体験」にある,という発見があったからである。ビールが,法律により顧客自体が試作品を作れないという制約があることも影響している。こうした開発手法は,個性豊かなアーティストや独自のアイデアを実現しているビジネスマンなどの「外部イノベーター」といえる魅力的な人生を歩んでいる人々の「体験」,すなわち人生ストーリーを表現する「ストーリーブルーイング製法」と名付けられた。その手法は,「BREW YOUR STORY 人の数だけ,ビールがあってもいい」というHOPPIN’ GARAGEのタグラインをまさに体現したものになった。
具体的には,4つのプロセスを経て,開発され,顧客に提供できる体験につながる。まず第1に,「ストーリー発掘」である。魅力的な人生ストーリーを持つ「主人公」と呼ばれるイノベーターをプロジェクトメンバー自身で探索し,協議の上で決定する。第2に,主人公と共に製品の「共創開発」である。魅力的な人生ストーリーを持つ主人公とプロジェクトメンバーであるブルワーやデザイナーが直接会話し,そのストーリーや会話からインスピレーションを受けることで,ビールの味わいや香り,デザインが設計,表現,開発されていく。第3に,「D2C」のプロダクトとして届けるステップである。自社ECを通じ,顧客が主人公の人生ストーリーを深く味わえるよう,ビール単品だけではなくビール誕生の背景になるストーリーを綴った読み物も合わせて届ける。第4に,「楽しむ」である。購入者は,プロジェクトメンバーが魅力を感じた主人公の「人生ストーリー」,ブルワーが人生ストーリーに触発され開発した「味」,そしてデザイナーが表現した他製品にはない唯一無二の「パッケージ」や「ストーリーブック」,これらを一体としてあたかも主人公と出会って語らっているかのように楽しみつつ,そのビールを味わうことができる。この製法は,開発部分だけでなく顧客が最後に楽しむところまでが含まれていることが特徴である(図4)。
ストーリーブルーイング製法
出典:同社資料より
この製法は現在も一貫して続いており,これまで「東京・三田のガウディ」と呼ばれる建築家の岡啓輔氏と開発された,時間経過とともに表情を豊かに変えていく「蟻鱒鳶ール」,双子のラッパーである上鈴木兄弟と開発された,ごきげんなラップと一緒にハッピータイムを提案する「RAP & BEER」,8年連続でビブグルマンを獲得した按田餃子の店主と開発された「インカの扉」,がんサバイバーと開発された不安を感じる中でも生きる喜びを心から実感できる「Thanks & Cheers!」など,個性豊かな外部イノベーターとの共創から多数の魅力的な製品が誕生している(図5)。
ストーリーブルーイング製法に関わった外部イノベーター(主人公)たち
出典:同社HPより
また,販売においては,事業化に向けた開発スキーム構築のために,試作品を用いたポップアップイベント(期間限定の販売イベント)が実施された。こうした通常製品とは異なるスキームを別途構築することは,開発側に大きな負荷がかかるため敬遠されることが多い。しかし,ポップアップイベントの実施は顧客の直接的でリアルな反応を得られ,醸造技術者への刺激となり,むしろ開発魂に火を付けることとなった。その結果,挑戦的なプロジェクトに参加意欲のあるメンバーが集まり,社内の体制構築にもつながった。
さらに,Amazonでのオンライン販売の開始だけでなく,自社ECサイトを立ち上げ,サブスクリプションによる定期便提供を開始することで,継続的かつ直接的な顧客接点を強化した。こうして,2021年4月からHOPPIN’ GARAGEは事業としてスタートした。
HOPPIN’ GARAGEは,現在サッポロビールによる新たなビジネスモデルの探索と顧客接点の創出を目的とし,お客様との共創によるビールづくりを展開する同社初のクラフトビールブランドとして位置づけられている。「主人公」と2カ月に1回新たに開発される「数量限定ビール」と,定番の「フラッグシップビール」が6本ずつセットになったサブスクリプションサービス「ホッピンおじさんの新作定期便」を主な商品として展開されている(図6)。
HOPPIN’GARAGEのプロダクト
出典:同社HPより,筆者加工
2023年2月に実施されたプレスイベント「2023年ブランド方針」においては,事業化を開始した2021年から2年間で売上は約2.5倍,定期便会員数は約1.3倍と増加,累計配送件数は22年3月時点で約47,000件に達するとし,成長を続けていることが報告された(PRTIMES, 2023)。また,同社実施の定期便会員顧客調査においても,定期便利用者の93%が「満足している」と回答するなど,顧客からも非常に高い評価を獲得している2)。
HOPPIN’ GARAGEの共創の進化はここで終わらない。好調な滑り出しを経て,ストーリーブルーイング製法の進化や購入体験の充実を図るために,2023年2月より,開発・製造の自前主義を捨てるという大きな事業転換を判断する。社外ブルワーとの共創施策である「ホッピンフレンズ」である。ホッピンフレンズとは,社外のクラフトブルワリーに対して抽出した主人公の人生ストーリーを共有し,ブルワリーが独自の解釈で製造したビールを,HOPPIN’ GARAGEや他のブルワリーが製造したビールを6本セットにして販売する仕組みで,ビールとつくり手であるブルワーの価値向上を目指すプロジェクトである。ストーリーブルーイング製法を自社だけに留めておくのではなく,外部の協力関係を築いたブルワリーに提供する。
顧客は,ひとつのパッケージとして届くことで,同一のストーリーから様々な味わいのビールが楽しむことができるとともに,新たなブルワリーとの出会いも楽しめる(図7)。社外のクラフトブルワリーにとっては,新製品開発の着想をストーリーから得られるということだけでなく,自分たちの製品をHOPPIN’ GARAGEの顧客に対して,かつ流通経路も活用して届けることができるというメリットにつながる。HOPPIN’ GARAGEにとっても,製造ラインを自社内だけではなく外部に持ちつつ,提供価値を拡張することに挑戦している。共創による開発や製造を顧客だけでなく,外部の利害関係者にまで広げる新たな取組の一つといえるだろう。土代氏によると「今後もホッピンフレンズによる共創の輪をさらに広げていきたい」としている。
ホッピンフレンズの取り組み
出典:同社HPより
さらに,販売においても,新たな外部企業と協業を開始する。ブランド初となるリアル店舗となるルミネ新宿でのポップアップショップをはじめ,コワーキングスペース「三茶WORK」でのポップアップバー,YADOKARIや&MIKKE!とのキッチンカーという新たな取組みを計画している。このように,外部企業との新たな共創の取組を始めている。これらの施策により,同年で売上目標3億円,昨年対比1.7倍の成長を見込んでいる(PRTIMES, 2023)。
ここまでHOPPIN’ GARAGEの生い立ちや変遷とともに,共創の取り組みの変化をみてきた。その活動の形態は,自社顧客との共創,外部コミュニティとの共創,外部イノベーターとの共創,外部企業との共創,と,変化を遂げながら,これまでに合計で20品に及ぶ商品を発売している。最後にこれまでの変遷を踏まえ,HOPPIN’ GARAGEが共創を軸に成長を続けられた要因を,3つに整理して,考察する。
第1に,内部マネジメントの重要性である。開始当初の収益がでない期間を,「テストマーケティング期」と位置付けることで,経営陣からの短期収益への期待値を下げ,共創がもたらすものが,開発機能だけなのか,あるいはブランドとして事業化まで可能なのかを試行錯誤しつつも検証することに徹底できたのである。さらに,ブルワーを共創の開発に巻き込むことで,同社全体の開発機能の質に対する貢献ができたといえる。ブルワーは通常製品の開発も兼務しており,ブルワーが今まで考えたこともない新製品開発を行うことで得た知見は,通常の製品開発の質に影響を与えているといえるからである。こうした貢献は,同ブランドに対する社内での協力体制につながっている。
第2に,共創手法の最適化である。百人ビール・ラボにおけるコアな顧客とのクラウドソーシング法では,一般流通での上市といった前提もあり革新的な製品が生まれないという問題があり,テストマーケティング期における多様な顧客とのクラウドソーシング法やリードユーザー法では,製品アイデアより体験に価値があることが明らかになった。その結果,事業立ち上げ期以降は,クラウドソーシング法やリードユーザー法により探索した外部イノベーターと開発するストーリーブルーイング製法に変更した。
第3に,共創体制の最適化である。同ブランドは,上でみた開発手法での共創相手となる顧客を適時変化しているように,各ステージにおいて最適な共創体制に適時変えている。百人ビール・ラボでは,ネットイヤーグループの子会社と共同で,自社コミュニティの運営をしていたが,テストマーケティング期は,コミュニティを持つスタートアップと共創し,事業転換期では,ホッピンフレンズである多くのブルワーをはじめ,商業施設やスタートアップと共創し,事業を拡大している。
当然ながら,同ブランドの共創はこれが最終形態ではないだろう。事業環境や状況の変化に合わせて,今後も変化し,新たな共創をうみだしていくと考えられる。一つの手法やモデルに固執せず,柔軟に様々な顧客や企業との共創に取り組み,成果と結びつけているHOPPIN’ GARAGEから研究者や実務家が学ぶべき点は多い。
本ケースの作成にあたっては,サッポロビール株式会社新規事業開拓部の土代裕也氏をはじめ,籠谷亮氏,篠原輝里子氏から多大なご協力を頂いた。さらに,本研究はUser Innovation Lab.3)の支援および,JSPS科研費JP20K01972,中国科学技術部DL2022035001Lの助成を受けたものである。ここに記して心より感謝を申し上げる。
米満 良平(よねみつ りょうへい)
株式会社博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター上席研究員(本務),株式会社博報堂ブランド・イノベーションデザイン USER INNOVATION LAB.(兼務),亜細亜大学(非常勤講師)。
西川 英彦(にしかわ ひでひこ)
2004年神戸大学大学院経営学研究科修了,博士(商学)。
現在,法政大学経営学部 教授。専門は,ユーザー・イノベーション,デジタル・マーケティング。