2024 Volume 43 Issue 3 Pages 19-31
製品開発研究において,クラウドファンディング(CF)がマーケティング・リサーチやプロモーションの役割を果たすことが指摘されるようになっている。ところが,これらの役割の実態を実証的に明らかにする研究は試みられていない。そこで本研究では,日本の大手購入型CFプラットフォームにプロジェクトを掲載した支援者に対して調査を行い,いくつかの仮説の検証を試みた。分析の結果,CFの支援者と新製品パフォーマンスの間において,(1)支援者から学習し,新製品の品質を改善させる,(2)プロモーション効果が向上する,という2つの媒介効果が確認された。また,製品の非精通性によって,これらの効果が変化することも示された。一方,CFが競合の参入を促進し,新製品パフォーマンスを低減させるという媒介効果については,統計的に有意な関係を確認できなかった。
Marketing researchers have suggested that crowdfunding (CF) plays roles in marketing research and promotion in new product development. However, empirical evidence of these roles is lacking. In this study, we tested hypotheses of these roles by conducting a survey of organizations that implemented projects on a large Japanese reward-based CF platform. Our findings reveal two mediating effects between the number of backers and new product performance (NPP): (1) learning from backers and improving new product quality, and (2) enhancing promotional performance. The results also show that consumer product unfamiliarity moderates the relationship between promotional performance and NPP. However, we did not find a statistically significant mediating effect of competitive entry on the relationship between the number of backers and NPP.
近年,大手企業がクラウドファンディング(CF)を実施するケースが増加している。たとえば,パナソニックはコミュニケーション・ロボットのプロジェクト,NECはインソール型の歩行分析センサーのプロジェクト,LIXILは泡シャワーのプロジェクトを実施している。豊富な経営資源を有する大手企業にとって,CFの目的は資金調達ではない。新製品に対する消費者の反応を確認するためのマーケティング・リサーチや,SNSで認知を拡大するためのプロモーションのためである。大手企業以外も,購入型CFの起案者のほとんどは,そうした目的でプロジェクトを実施しているという(Hirashima, 2021)。
製品開発研究においても,CFのマーケティング・リサーチとしての役割に対して注目が高まっている。Product Development and Management Associationが2023年に発行したThe PDMA Handbook of Innovation and New Product Developmentの第四版では,クラウドソーシングとCFに関する章が新たに設けられた。そこでは,製品開発におけるCFの効果として,支援者との共創プラットフォームになりうる点,販売チャネルや市場テストの場として有効である点,新たな価格設定法になりうる点,新製品を普及させるプロモーション手段になりうる点が指摘されている(Tajvarpour & Pujari, 2023)。
また,テクノロジー製品やハードウェア製品に関するCFの起案者に対して調査を行ったStanko and Henard(2017)や映画の興行収入に関するデータを分析したRoma, Natalicchio, Panniello, Vasi, and Messeni Petruzzelli(2023)のように,CFの成果と新製品パフォーマンスの結びつきを検証する試みも取り組まれている。このように,CFの資金調達以外の効果についての知見が蓄積されつつあるが,先行研究には重要な課題も残されている。第一に,ほとんどの研究ではCFと新製品パフォーマンスの直接的な関係しか検証されておらず,そのメカニズムについては概念的な議論にとどまっていることである。第二に,CFのデメリットについてはあまり議論されていないことである。さらに,Cowden and Young(2020)やWachs and Vedres(2021)のように,新製品アイデアの模倣リスクを指摘する研究もあるが,まだ十分な議論はなされていない。
これらのリサーチ・ギャップを基に,本研究では以下のリサーチ・クエスチョンを設定した。第一に,CFはマーケティング・リサーチやプロモーションの手段として有効なのか。第二に,CFには競合の模倣を促進させるというデメリットがあるのか。これらのリサーチ・クエスチョンに取り組むため,本研究では日本の代表的なCFプラットフォームにプロジェクトを掲載した起案者に対してアンケート調査を行い,そのデータを基に仮説を検証する。
仮説モデルを導出するため,CFと製品開発に関する先行研究の系統的なレビューと実務家への探索的なアンケート調査を実施した。
1. 先行研究のレビューWeb of ScienceおよびScopusにおいて,「crowdfunding」および「product development」というキーワードを用いて2023年までに発表された論文を検索した。その結果,Web of Scienceでは30篇の文献が抽出され,Scopusでは61篇の文献が抽出された。そのうち,25篇の文献は重複していたため,66篇の文献の要約を精査し,製品開発の文脈でCFが議論されているかどうかを確認した。その結果,表1に示される10篇の文献が抽出された。
製品開発におけるCFに関する先行研究
実証研究(e.g., Stanko & Henard, 2017)の結果で共通しているのは,CFの成果は,新製品の革新性や品質,そして市場での成果と正の関係にあることである。その理由としてあげられているのは,主に3つの効果である。第一は,資金調達効果である。CFが成功するほど,より多くの資金を獲得できる(Wachs & Vedres, 2021; Weber, Steigenberger, & Wilhelm, 2023)。支援者からの資金だけでなく,プロジェクトの成果が大きいほど投資家からもその後の資金を調達しやすくなるため,結果として,製品の開発やプロモーションに多額のコストをかけられるようになる。第二は,マーケティング・リサーチ効果である。CFによって,製品を市場に導入する前に消費者の反応を見きわめたり,支援者からのフィードバックにより製品品質を向上したりする(Aygoren & Koch, 2021; Eiteneyer, Bendig, & Brettel, 2019; Stanko & Henard, 2017; Tung, 2022)。第三は,プロモーション効果である。支援者が当該製品をSNSで取り上げ,情報を拡散してくれる(Roma et al., 2023; Stanko & Henard, 2017)。また,大きく成功したプロジェクトは,ニュースとしてマス媒体やインターネットで取り上げられることもある。
一方で,CFのネガティブな効果を論じた研究もある。Wachs and Vedres(2021)は,CFによって競合他社の模倣が促進される可能性を指摘した。というのも,CFはインターネット上でオープンに行われるため,競合他社はその様子を観察できるからである。しかし,ボード・ゲームのカテゴリーを対象とした分析の結果,彼らの予測とは異なり,CFが実施されたボード・ゲームの方が,以後に発売されたゲームとの類似性が低かった。
2. 探索的調査製品開発におけるCFの役割に関して,起案者である企業がどのようにとらえているのかを明らかにするため,CFの実施経験を有する大手文具メーカーの製品開発担当者32名に対して,2022年の7月から8月にアンケート調査を実施した。具体的には,「CFの実施が,製品開発面へ及ぼす効果や社内にもたらす影響などについてどのようにお考えですか。あなたご自身のCFへのお考えについて,ご自由にご回答ください。」という項目に対して,自由回答で意見を求めた。32名の回答には74の文章が含まれていた。
回答の文章を精査し,資金調達効果,マーケティング・リサーチ効果,プロモーション効果,そして競合による模倣の内容が含まれるかどうかを検討した。第一著者と第二著者が独立でコーディングを行った結果,75.7%の文章で分類が一致し,十分な評価者間信頼性(κ=.670)が確認された(Landis & Koch, 1977)。一致しなかった文章については,著者間で議論して最終的なコーディングを行った。回答者32名のうち,資金調達効果については1名,マーケティング・リサーチ効果については19名,プロモーション効果については16名が言及していた。また,競合他社への情報漏洩に関するリスクを指摘していたのは2名だった。
このように,日本における購入型CFでは,特にマーケティング・リサーチ効果とプロモーション効果が強く知覚されていることが確認された。一方で,資金調達効果に関してはあまり意識されていなかった。実際,CFの目標金額を見ても,本研究の調査対象となった1,655件のプロジェクトのうち,1,450件(87.6%)が30万円以下と少額である。そのため,本研究ではCFのポジティブな効果としてマーケティング・リサーチ効果とプロモーション効果の2つに焦点を当てていく。競合への情報漏洩については,コメントの数は少ないものの,新製品パフォーマンスに重要な影響を及ぼすと考えられるため,その影響を検討した。
本研究の仮説の概要は,図1に示したとおりである。第一の仮説は,マーケティング・リサーチ効果に関連している。CFの支援者数が増えるほど,支援者からの学習が促進され,それが新製品の品質改善へと結びつき,最終的に新製品パフォーマンスを向上させる。支援者からの学習とは,彼らのフィードバックを積極的に取り入れ,製品開発に活かすことである。製品開発研究では,ナレッジマネジメントの観点から顧客参加型製品開発の効果が指摘されている。顧客は企業が有していないようなニーズに関する知識(解決すべき課題は何か)とソリューションに関する知識(その課題をどうやって解決するのか)を有しており,彼らを開発プロセスに加えることでそうした知識を自社に取り入れ,新製品へと反映できる(Chang & Taylor, 2016)。CFでも同様に,支援者が多くなるほど,起案者が得られる知識の量も多くなり,結果として,新製品の品質改善へと結び付くと思われる。
仮説モデル
加えて,CFの支援者は,一般的なマーケティング・リサーチの協力者とは2つの点で異なっており,その違いはフィードバックの量と質に大きな影響を及ぼすだろう。第一に,支援者はプロジェクトを探索し,代金を支払うというコストをかけて製品を入手している。一方で,マーケティング・リサーチの協力者には,製品が無料で提供されることが一般的である。人は無料で製品を得た場合には社会的交換の観点から価値を判断し,有料で製品を得た場合には経済的交換の観点から価値を判断するため,無料で得た場合の方が製品の価値をより高く評価しやすい(Shampanier, Mazar, & Ariely, 2007)。したがって,CFの支援者の方が,それだけのコストに見合った製品なのかどうかをより厳格に評価し,適切なフィードバックを寄せてくれると考えられる。
第二に,購入型CFの支援者は,製品開発への協力に高いモチベーションを抱きやすい。支援者がCFに参加する目的には,一般発売に先んじた新製品の入手だけでなく,プロジェクトへの関与や起案者の応援といったこともある(Zhang & Chen, 2019)。起案者に対するフィードバックやコミュニケーションを通じて,支援者はプロジェクトに関与し,協力し,理解を深めていく(Zheng, Xu, Zhang, & Wang, 2018)。結果として,当該プロジェクトに対して心理的所有感を抱くようになり,新製品の成功へコミットメントを高めようとする。実際,Zheng et al.(2018)は,支援者のコントロール感と知識が高まるほどプロジェクトに対する心理的所有感が高まり,結果としてプロジェクトへより深く関与しようとする傾向を明らかにしている。以上より,次の仮説を設定した。
仮説1:CFの支援者数は,支援者からの学習と新製品の品質改善を媒介して新製品パフォーマンスへプラスの影響を及ぼす
第二の仮説は,CFのプロモーション効果である。支援者はフィードバックを寄せてくれるだけでなく,新製品の存在や魅力を他者へ伝達する伝道師としての役割も果たす。支援者の多くは新しいもの好きで,自ら積極的に情報収集を行う層であり,ロジャーズの普及理論でいう初期採用者に該当する(Stanko & Henard, 2017)。初期採用者は前期追随者や後期追随者にとっての準拠集団となりやすく,彼らのクチコミは影響力が高い傾向にある。さらに,プロジェクトに対する心理的所有感が高まるほど,支援者は新製品の成功を個人的な関心事ととらえ,クチコミによるプロモーション活動に積極的に取り組むようになる。Ismagilova, Rana, Slade, and Dwivedi(2021)においても,ロイヤルティが高くオピニオンリーダーの傾向が強まるほど,eクチコミは促進されると指摘されている。消費者にとって,CFでの成功や支援者のクチコミは,新製品に対する知覚リスクを引き下げる重要な情報となりえる。多くの消費者から支持されている事実やクチコミでの評価を参照することで,製品の品質を推測できるからである。よって,次の仮説を設定した。
仮説2:CFの支援者数は,プロモーション効果を媒介して新製品パフォーマンスへプラスの影響を及ぼす
CFと新製品パフォーマンスを媒介する第三の要因は,競合の模倣である。CFでは,支援者は実際に製品を手に取って確認することはできない。したがって,起案者は製品のベネフィットや品質を支援者に訴求するため,様々な情報を提供する必要がある。それらの情報は,支援者だけでなく模倣者にとっても有益である。CFで人気を博しているプロジェクトを見つけ,それを素早くコピーすることで,模倣者は低コストかつ低リスクで利益を得られる。実際,KickstarterやIndiegogoでは,アイデアを模倣したコピー製品が販売される事例が散見されるという(Cowden & Young, 2020)。Wachs and Vedres(2021)のボード・ゲームを対象とした研究では,CFと模倣の関係は支持されなかったが,それは模倣製品がBGGのような専門サイトに取り上げられておらず,測定されなかった可能性も考えられる。したがって,本研究ではCFの成果が模倣を促進し,新製品パフォーマンスを低下させると考え,次の仮説を設定した。
仮説3:CFの支援者数は,競合の参入を媒介して新製品パフォーマンスへマイナスの影響を及ぼす
CFの効果を左右する調整変数として,本研究では消費者の製品に対する非精通性を取り上げた。非精通性とは,消費者の製品に対する使用経験や知識の少なさを指している。つまり,消費者にとって馴染みの薄い製品であるほど,非精通性は高くなる。非精通性が高い製品に対して,消費者は確たる評価基準を有しておらず,また知覚するリスクも高いと考えられる。したがって,CFの結果を他の消費者の評価として参考にしたり,支援者のクチコミを参照したりすることで,当該製品の品質を推測するだろう。You, Vadakkepatt, and Joshi(2015)のメタアナリシスにおいて,試用できないなどの理由で知覚リスクの高い製品ほど,eクチコミの影響力が大きくなる傾向が確認されている。
また,非精通性が高いというのは,多くの消費者にまだ受け入れられていないことを意味する。したがって,技術的な機能で優れていたとしても,消費者にとっての使いやすさやニーズとの適合水準は十分ではない可能性がある。CFを通じて得られた支援者の意見には,実際に使った経験や機能への要求など,消費者の感想が豊富に含まれている。したがって,そうした支援者の意見の活用によって,より消費者のニーズへ合致した品質改善が可能となる。Chang and Taylor(2016)は,顧客参加型製品開発は先進国よりも新興国の方が効果的だと指摘しているが,その理由として,新興国企業は顧客に関する知識が十分でないことをあげている。顧客の知識が十分に取り入れられていないという点は,非精通性が高い製品においても同様である。消費者の声を取り入れた品質改善はどの製品においても重要だが,非精通性が高まるほどその有効性も高まるものと思われる。
非精通性の高い製品では,競争はネガティブなものではなく,むしろポジティブなものと考えられる。Moore(1991)が指摘するように,新製品がキャズムを超えて広く普及するためには,消費者にとっての選択肢,つまり競合の存在が欠かせない。なぜならば,前期追随者は周囲が製品を購入し,普及が進んでいると知覚しなければ新製品を受け入れないからである。またMoore(1991)によると,前期追随者は複数の選択肢からの比較検討を好む傾向にあるという。したがって,非精通性が高い製品の場合,競合の参入は新製品パフォーマンスへプラスの影響を及ぼすと考えられる。そこで,以下の仮説を設定した。
仮説4:消費者の製品に対する非精通性が高いほど,新製品パフォーマンスに対する(a)新製品の品質改善と(b)プロモーション効果が及ぼすプラスの効果は強くなり,(c)競合の参入が及ぼすマイナスの効果は弱くなる
仮説を検定するため,日本の大手の購入型CFプラットフォームであるA社で実施された「プロダクト」カテゴリーのプロジェクト起案者にインターネット・アンケート調査を行った。2020年と2021年に終了日が設定された1,655のプロジェクトに関して,起案者へ調査の回答を依頼した結果,114の回答が得られた。そのうち18件は無回答だった。また,22件は自社で開発した製品ではなく,4件はCF後に上市されていなかった。また,対象期間外に終了したプロジェクトについての回答が10件あった(2019年:1件,2022年:5件,2023年:4件)。そのうち,2023年の5月(1件)と7月(1件)に終了したプロジェクトに関しては,新製品パフォーマンスを測定するうえで十分な期間が経過していないと考えられるため分析から除外した。4件はCFの終了から1年以上経過していないが,半年程度経過しており,ある程度の成果は測定可能と判断した。最終的なサンプル・サイズは68である。
17件の無回答と分析対象の回答の比較によって,ノンレスポンス・バイアスを検討した(Armstrong & Overton, 1977)1)。支援金額,目標金額,支援者数の3つをマンホイットニーのU検定で比較した結果,すべて非有意(p>.10)となり,2群に差がないという帰無仮説は棄却できなかった。したがって,本研究ではノンレスポンス・バイアスは問題とはならないと判断した。
2. 測定尺度いくつかの構成概念については,先行研究で用いられている測定尺度を援用し,適切な測定尺度の存在が確認できなかった構成概念については新たに作成した。CFの支援者数は当該プロジェクトのページに記載されている支援者数を用いた。支援者からの学習についてはEiteneyer et al.(2019)を援用し,新製品の品質改善に関してはMillson and Wilemon(2008)やDas Guru and Paulssen(2020)を参考に,7つの属性に関する改善度を尋ねた。プロモーション効果に関しては,予算の節減や消費者の認知および理解の向上などの観点から測定尺度を作成した。競合の参入については,Jaworski and Kohli(1993)を参考にしながら模倣と競合の参入という2つの項目を用いた。製品の非精通性については,Coupey, Irwin, and Payne(1998)とCowley and Mitchell(2003)の測定尺度を採用した。この尺度は得点が高くなるほど,顧客が当該製品に慣れ親しんでいることを意味するため,逆転化させて用いた。新製品パフォーマンスに関しては,Im and Workman(2004)を援用した。新製品の品質改善については「改善されなかった」から「大幅に改善された」までの5ポイントのリッカート尺度で測定し,それ以外の項目については「まったくそう思わない」から「非常にそう思う」までの7ポイントのリッカート尺度で測定した。
新製品パフォーマンスに対して価格や販路が及ぼす影響を統制するため,CFの支援金額を支援者数で除した一人当たりの支払金額とCFプラットフォーム上での製品販売の有無をそれぞれ価格と販路の代理変数としてモデルに加えた。支援者数と一人当たりの支援金額に関して,尖度と歪度の絶対値が大きかったため,Box Cox変換により正規分布へ近似させた。
最終的なサンプルである68件のうち,4件の回答の一部に欠損値が確認された。具体的には,新製品パフォーマンスと後述するマーカー変数である。新製品パフォーマンスは具体的な数値ではなく主観的な尺度で尋ねているものの,秘匿性の高い情報なので回答を避けられた可能性がある。また,これらの質問項目はアンケートの最後のページだったため,集中力の低下などで回答を避けられた可能性もある。このように,本研究の欠損値は完全な無作為によって生じたとは考えにくいが,明確な理由は不明である。また検定力を考慮すると,本研究のサンプル・サイズは必ずしも大きくない。したがって,多重代入法を用いて欠損値を補って仮説を検定した。具体的には,Takahashi and Watanabe(2017)に基づき,EMB(Expectation-Maximization with Bootstrapping)による代入データを20セット作成し,分析結果を統合させた2)。
2. 測定尺度の信頼性と妥当性測定尺度の信頼性と妥当性を検討するため,最尤推定法による確認的因子分析を施した(表3参照)。本研究のサンプル・サイズは大きくないため,すべての測定尺度を用いて確認的因子分析を行った場合,Bentler and Chou(1987)の5:1基準を大幅に下回ってしまう。そこで,(1)支援者からの学習と新製品の品質改善,(2)プロモーション効果,競合の参入,製品の非精通性,(3)新製品パフォーマンスとマーカー変数,という3つのモデルに分けて推定した。なお,信頼性と妥当性の分析では,欠損値を有するサンプルを除外した。
確認的因子分析の結果,3つのモデルの適合度指標は良好であり,また因子負荷量については1項目のみ.5を下回ったものの,他の項目は十分な大きさだった。AVEに関して,プロモーション効果以外の構成概念では.5以上となり,収束妥当性が確認された(Fornell & Larcker, 1981)。プロモーション効果のAVEは.473と.5をわずかに下回ったが,αやCRは高いため,許容可能だと判断した。信頼性については,すべての構成概念においてα係数とCRは.7を上回り,十分な水準にあることが確認された。弁別妥当性に関しては,構成概念間の相関係数の二乗とAVEを比較して検討した。その結果,すべての構成概念間のAVEは構成概念間の相関係数の二乗を上回っていた。したがって,弁別妥当性についても問題がないことが確認された(Fornell & Larcker, 1981)。
3. コモン・メソッド・バイアス独立変数には二次データを用いているものの,媒介変数と従属変数にはアンケート調査のデータを用いている。本研究では,一人の回答者にどちらも尋ねているため,コモン・メソッド・バイアスが問題となる可能性がある。そのため,Harman’s One Factor Test(Podsakoff & Organ, 1986)とMV法(Lindell & Whitney, 2001)を用いてコモン・メソッド・バイアスの影響を検討した。Harman’s One Factor Testでは,マーカー変数を除く6つの構成概念で用いた25の質問項目を用いて探索的因子分析(主因子法,無回転)を施した。その結果,固有値1以上の因子は6つ抽出され,第一因子の寄与率は27.184%となり,コモン・メソッド・バイアスは問題ないことが確認された。
MV法では,Miller and Simmering(2023)に基づき,本研究の構成概念とは理論的に無関係と考えられる青色への態度を測定し,それをマーカー変数として用いた。マーカー変数と新製品パフォーマンスの相関係数(|r|=.130)を用いて統制した相関係数と統制していない相関係数を比較した。その結果,マーカー変数の影響の統制によって相関係数の符号は変化しなかったものの,15の相関係数のうち9つにおいて有意水準が変化した(表2参照)。したがって,マーカー変数をモデルに導入してコモン・メソッド・バイアスの統制を試みた。
構成概念の記述統計量と相関係数
**p<.01, *p<.05, †p<.10
※下三角行列には構成概念間の相関係数が示されており,上三角行列にはマーカー変数によって統制された構成概念間の相関係数が示されている。NPPおよびMVとの相関係数のサンプル・サイズは64であり,それ以外のサンプル・サイズは68である。
B:CFの支援者数,BI:支援者からの学習,QI:新製品の品質改善,P:プロモーション効果,CE:競合の参入,PU:製品の非精通性,NPP:新製品パフォーマンス,SP:一人あたりの支援金額,AF:プラットフォーム上での販売の有無,MV:マーカー変数
確認的因子分析の結果
※1:逆転項目,※2:I-T相関が低いため(<.30),分析から除外した。
4. 分析結果はじめに,Baron and Kenny(1986)の3ステップ法に基づいて媒介効果を検討した。第一ステップとして,CFの支援者数が新製品パフォーマンスに及ぼす直接効果を推定したところ,有意な傾向が確認された(Mean b=.580, p=.076)。第二ステップでは,CFの支援者数を独立変数とし,4つの媒介変数を従属変数とするモデルと支援者からの学習を独立変数とし,新製品の品質改善を従属変数とするモデルを推定した。その結果,CFの支援者数から,援者からの学習(b=.493, p=.071),新製品の品質改善(b=-.369, p=.080),プロモーション効果(b=.609, p=.014),競合の参入(b=.685, p=.072)への影響は有意もしくは有意傾向だった3)。第三ステップとして,すべての変数を含む回帰モデルを推定した(model 6)。その結果,新製品の品質改善(Mean b=.372, p=.081),プロモーション効果(Mean b=.326, p=.071)が新製品パフォーマンスへ及ぼす影響で有意傾向が確認されたが,競合の参入の効果は非有意だった(Mean b=.073, p>.10)。また,CFの直接効果も非有意となった(Mean b=.405, p>.10)。以上の結果から,CFの支援者数と新製品パフォーマンスの関係における,援者からの学習-新製品の品質改善とプロモーション効果の媒介効果が示唆された。
間接効果の検定に関して,Process 4.3(Hayes, 2022)を用いて代入データごとに推定し,それぞれのブートストラップ信頼区間を検討した4)。分析の結果,すべての代入データにおいて,支援者からの学習-新製品の品質改善の間接効果が有意傾向にあった(Mean b=.034,図2参照)。したがって,仮説1は支持された。プロモーション効果に関しては,5つの代入データにおいて非有意だったものの,15の代入データでは有意傾向だった(Mean b=.174,図3参照)。したがって,仮説2は部分的な支持だと判断した。競合の参入の間接効果(Mean b=.029)はすべての代入データで有意水準を満たさず,仮説3は棄却された。
支援者からの学習と品質改善の間接効果(ブートストラップ90%信頼区間)
プロモーション効果の間接効果(ブートストラップ90%信頼区間)
製品の非精通性の調整効果の分析結果は,表4のmodel 7-9に示されている。プロモーション効果と非精通性の交互作用項は有意傾向だったものの,仮説で示したプラスではなくマイナスの関係だった(Mean b=-.206, p=.079)。新製品の品質改善と競合の参入に関して,非精通性との交互作用項は有意水準を満たさなかった(Mean b=-.169, p>.10; Mean b=.022, p>.10)。したがって,仮説4a,仮説4b,仮説4cは棄却された。
回帰分析の結果
**p<.01, *p<.05, †p<.10
B:CFの支援者数,BI:支援者からの学習,QI:新製品の品質改善,P:プロモーション効果,CE:競合の参入,PU:製品の非精通性,NPP:新製品パフォーマンス,SP:一人あたりの支援金額,AF:プラットフォーム上での販売の有無,MV:マーカー変数
※新製品パフォーマンスとマーカー変数を含むモデルでは,20の代入モデルを統合した結果が示されている。
交互作用項が有意傾向だったプロモーション効果と製品の非精通性について,Simple Slope Testを施し,詳細な関係を検討した。その結果,製品の非精通性が低いケースにおいてプロモーション効果と新製品パフォーマンスはプラスの関係にあり(Mean b=.601, p=.009),一方で,非精通性が高いケースにおいてプロモーション効果と新製品パフォーマンスは有意な関係にはない(Mean b=.057, p>.10)ことが示された。
新製品の品質改善度やプロモーション効果は,10%水準ではあるものの新製品パフォーマンスを向上させる傾向が確認された。一方,競合の参入は新製品パフォーマンスに対してマイナスの影響を及ぼすと予測されたが,偏回帰係数は統計的に有意ではなかった。加えて,消費者の製品に対する非精通性を調整変数として導入した場合でも,競合の参入の影響は認められなかった。競合の参入には,顧客の奪い合いというデメリットだけでなく,市場の活性化というメリットもあり,その影響は一意には定められないのかもしれない。これらから,本研究で分析した構成概念でいうならば,新製品の成功のためには競合という外部の影響よりも製品の改良やプロモーションといったマーケティングの方が重要だと考えられる。
製品の非精通性の調整効果に関する仮説は,新製品の品質改善度とパフォーマンスの関係においても棄却された。したがって,品質を改善させていくことは,どのような製品であっても重要だと言えるだろう。プロモーション効果が新製品パフォーマンスに及ぼす影響は,我々の仮説とは異なり,非精通性が高いほど弱くなるという結果となった。非精通性が低い,つまり消費者にとって馴染みのある製品ではプロモーション効果は新製品パフォーマンスとより強く結びついていた。ところが,非精通性が高いカテゴリーではプロモーション効果と新製品パフォーマンスの有意な関係は確認されなかった。利用経験も多く,製品の特徴を熟知しているようなカテゴリーのほうが,消費者はSNSにおける支援者のクチコミなどに対して関心を持ちやすいと思われる。一方で,消費者にとって馴染みが薄い場合,新製品の情報が広まったとしても,あまり関心がもたれないのかもしれない。
本研究の調査および分析結果によって,CFのマーケティング・リサーチ効果とプロモーション効果の一端が統計的に示された。こうしたファインディングスから,いくつかの実務的および理論的な含意が示唆される。実務的な含意として,テスト・マーケティングや新製品導入のプロモーションとして,CFが有効な手段になりえるということがあげられる。ただし,CFを実施するためには,プラットフォームの手数料やページ作成のコストを要するため,自社製品との適合性を勘案しながら進めるべきである。理論的な含意として,先行研究で論理的な説明にとどまっていたCFの成果が新製品パフォーマンスへと結びつくメカニズムを統計的に検証できた点があげられる。
本稿を結ぶにあたり,本研究の限界について言及したい。第一に,本研究では日本のCFプラットフォームだけを調査対象としている点である。日本の購入型CFでは資金調達をあまり目的としておらず,海外のCFとは異質性がある。また,支援者の目的や特性も海外とは異なるかもしれない。したがって,本研究だけで結果を一般化することは難しい。第二に,多くの製品開発研究にも共通するが,新製品パフォーマンスが主観的尺度になっている点である。より正確な成果を測定するためには,実際の売上金額や利益額を用いる必要がある。第三に,本研究ではチャネルに対する効果を十分に議論できていない点である。Aygoren and Koch(2021)やTung(2022)は,CFでの成功が起案者やプロジェクトの質のシグナルとなり,投資家からより多くの資金を得られやすいと指摘している。それと同様に,CFでの成果が大きくなるほど,小売店のバイヤーへ訴求しやすくなり,チャネルを拡大できる可能性がある。消費者向けの製品にとって,チャネルの拡大はパフォーマンスの向上にとって重要な先行要因である。本研究では,CFのプラットフォーム上での製品販売をダミー変数として扱うことで統制してはいるが,他のチャネルについては考慮できていない。今後の研究では,上で述べたような3つの限界に対する取り組みが望まれるだろう。
本研究はJSPS科研費19H01545の助成を受けたものです。
石田 大典(いしだ だいすけ)
早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。現在,同志社大学商学部准教授。専門は製品戦略。
大平 進(おおひら すすむ)
早稲田大学人間科学部卒業。University of Pennsylvania, School of Arts & Sciences 修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。現在,日本大学商学部准教授。専門はマーケティング戦略。
恩藏 直人(おんぞう なおと)
早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。現在,早稲田大学商学学術院教授。専門はマーケティング戦略。