Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Preface
Marketing for Content Business
Akinori Ono
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2024 Volume 44 Issue 1 Pages 4-5

Details
Translated Abstract

The content business is booming in Japan. Relatively new types of content, such as manga (cartoon) and anime (animation), are regarded as parts of Japanese pop culture, and marketing is being used to attract fans around the world. Most businesses also reuse existing hit content and create various goods and services. Moreover, people who live in places that have been filmed for manga and anime are using destination marketing to attract tourists or “pilgrims” who regard the places as sacred and want to visit. Other kinds of content, such as music, novels and paintings, are also important parts of content in Japan, and are the subjects of thriving marketing efforts. However, there is insufficient academic research in this area. This special issue includes five articles using datasets collected in Japanese content markets to fill this research gap.

本号の特集テーマは,コンテンツビジネスを巡るマーケティングである。コンテンツとは,動画,画像,文字,音声などの形態をとり,誰かが創作して現在ないし過去に著作権を保有している/保有していた価値物のうち,各種メディアを容器として流通ないし配信するタイプの価値物のことである。

これらの価値物をメディアと組み合わせて販売するビジネスが,コンテンツビジネスであり,その販売過程で,コンテンツビジネスの事業主体が円滑な販売を目論んで立案・実行するマーケティングのことを,ここでは,コンテンツビジネスを巡るマーケティングと呼んでいる。蛇足ながら,コンテンツマーケティングとは,ごく一部に混用が見られるものの,一般的には,コンテンツビジネスを巡るマーケティングとは別種の企業活動であり,コンテンツを生成し,それを活用して,それとは異なる製品・サービスを販売するマーケティング手法のことを指す。マーケティング手法がコンテンツであり,マーケティング対象が別に存在するのが,コンテンツマーケティングであって,マーケティング対象がコンテンツであるのが,本特集が取り扱う,コンテンツビジネスを巡るマーケティングである。

さて,コンテンツとは,具体的に何であろうか。それは幾つかの種類に分けることができる。それについて言及しておきたい。

動画コンテンツは,古くは,映画館で上映されたりテレビで放映されたりし,DVD等の収録された上で販売されたりしてきたものを指し,最近では,YouTubeやNetflix等で配信されているものを指す。

画像コンテンツは,クラシカルな絵画のように書き上げられてそれ自体が流通するものや,絵画の図録や漫画,写真集のように印刷,製本されて流通するもの,さらには,ネット配信される絵画,漫画,写真等を含む。

文字コンテンツは,美しい情景描写の文学作品や詩歌から,お堅い内容の学術論文まで,多様なものを指し,それらは雑誌に掲載されたり単行本として製本されたり,ネットで配信されたりする。

音声コンテンツは,その筆頭は音楽であり,ライブ演奏されることもあれば,CDに収録されることもあるし,Spotify等で配信されることもある。朗読コンテンツも人気である。

さらには,それらのコンテンツには,コンテンツの著作者の故郷や居住地,コンテンツの制作現場,あるいは,コンテンツの題材や背景の素材を収集するための取材現場などの,ゆかりの場所が,ファンにとって聖地巡礼先になる場合がある。その意味で,コンテンツは,言わば場所というメディアを得て消費されることもある。

マーケティングの観点から観て,コンテンツを制作し,メディアに収納しつつ,製品・サービスの形態で販売するビジネスの興味深い点の1つは,すでに上述の例に含意されているとおり,特定のコンテンツが様々なメディアを得て,様々な形態で消費されるということである。さらに,新しいメディアに収納されるとき,コンテンツは,新たな制作者の関与によって若干あるいは大幅に改編され,新たな販売者の関与によって販売されることがあるということである。こうしたコンテンツビジネスの特異性ゆえに,コンテンツビジネスを念頭においていない通常の製品・サービスを研究対象としてきた多くのマーケティング研究は,コンテンツビジネスに関する含意を提供しそこなってきた。今回の特集は,この問題を解消しようとする取り組みとして先駆的な試みとして位置付けられる。

第1に,菊盛・石井論文[全文和訳付英文論文]は,小説が原作の映画に関する口コミの発信者に焦点を合わせた論文である。小説というコンテンツを二次利用して制作された映画というコンテンツについて,情報発信しようとする個人を,小説ファンと小説未読者に分類し,前者のほうがより強い口コミ発信意図を有することを見出した上で,個人的欲求充足期待が社会的欲求充足期待を介して正負両方の口コミを発信する意図を高めるというメカニズムをモデル化することに成功した。

第2に,竹内・王論文[全文和訳付英文論文]は,テレビ番組というコンテンツの放映告知を行う広告が,放映に関する情報だけでなく,番組の主要なコンテンツを含むことによって,それ自体が,コンテンツ消費者にとっての価値物となりうるという点に着目した論文である。広告がコンテンツを含む程度「コンテンツ再現性」を鍵概念として,精緻化見込が低い消費者も,精緻化見込が高い消費者も,コンテンツ再現性が高い広告を好むものの,そのような広告を伴ったテレビ番組の視聴意図が高いのは,精緻化見込の高い消費者だけであるという興味深い非対称性を見出すことに成功した。

第3に,千葉・北澤論文[全文和訳付き英文論文]は,コンテンツ配信サブスクリプション・サービスに対する消費者の満足度と契約継続意図を調査した論文である。消費者は,良コンテンツ比率が高い場合,高水準の満足度と契約継続意図を形成するということ,また,その傾向は,視聴コンテンツをオススメではなく自力で選択する消費者ほど大きいということを見出すことに成功した。

第4に,小野(雅)論文[和文論文]は,千葉・北澤論文と同じくコンテンツのサブスク・サービスに焦点を合わせているが,ネット配信型サブスクと有形財の間の選択問題をモデル化した論文である。映像コンテンツである映画,文字コンテンツである小説,そして,画像コンテンツである絵画について,それぞれ物理的購買ではなく,デジタルコンテンツのサブスク契約を選択する消費者の決め手となる要因が,異なるということが見出された。

最後に,津村・大方・岩崎・豊田論文[和文論文]は,アニメコンテンツに誘発された「アニメ聖地巡礼」を行うファンたちが,居住地から聖地までの距離がどれだけ遠いかによって,聖地に設置された「聖地巡礼ノート」に対して,いかなる事柄を記念に書き残すかという点について,差異があると主張する論文である。具体的には,250 km圏内の近距離巡礼者が,アニメキャラやイベントに関する書き込みを行うのに対して,圏外の遠距離巡礼者は聖地の地域的魅力に関する書き込みを行う,ということを見出すことに成功した。

この特集が,コンテンツビジネスを巡るマーケティング研究の先駆けとなって,同分野に関する知識の前進に貢献することを期したい。

 
© 2024 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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