Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Happiness and Well-Being of Consumers in Brand Research:
Constructs, Antecedents and Consequences
Yu Matsubara
Author information
Keywords: Brand, Happiness, Well-being
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 44 Issue 1 Pages 68-75

Details
Abstract

消費者のハピネスやウェルビーイング(以下,「“幸せ”」)に対する注目が高まっており,その中でもブランドは個人の“幸せ”に結びついていると考えられている。一方で,ブランド研究において消費者の“幸せ”に焦点を当てた理論的な検討はまだ初期段階にある。そこで,本文献研究はマーケティング研究のさらなる発展に向け,ブランド研究における消費者の“幸せ”を扱った研究を概括し,今後に向けた重要研究課題を提示することを目的とした。“幸せ”の概念,先行要因,結果要因という3つの観点からレビューを行った結果,(1)概念が整理されていないこと,(2)負の影響を及ぼす先行要因に関する検証が不足していること,(3)一般的な“幸せ”の結果要因についての検討が比較的少ないこと,などが示唆された。

Translated Abstract

Consumer happiness and well-being have attracted increasing attention, with brands viewed as particularly suitable for enhancing individual happiness and well-being. However, theoretical studies on these issues within brand research are still in their early stages. This literature review aims to consolidate research on consumer happiness and well-being in brand research, through outlining crucial research topics to advance marketing research. The review indicates that (1) the constructs lack proper organization, (2) there is insufficient validation of antecedents with negative effects, and (3) there is a relative scarcity of studies on the consequences of general happiness and well-being.

I. はじめに

ウェルビーイングという言葉が社会的に浸透し頻繁にメディアに取り上げられるようになったように,“幸せ”1)は人間にとっての永遠の課題であり,哲学者や宗教家,近年では心理学者によって探求されてきた(Oishi, 2009)。マーケティングも消費を通じて消費者の“幸せ”に影響を与えることができると考えられており,消費者の“幸せ”に対する注目が高まっている(Anderson & Ostrom, 2015)。特にブランドは,社会的地位,成功,名声,集団への帰属といったポジティブな手がかりを有しているため,個人の“幸せ”の達成に適していると考えられている(John & Chaplin, 2019)。一方で,ブランド研究での消費者の“幸せ”に関する理論的な検討は初期段階にあると指摘されている(Zhou et al., 2022)。そこで,本文献研究はマーケティング研究のさらなる発展に向け,ブランド研究における消費者の“幸せ”を扱った研究を概括し,今後に向けた重要研究課題を提示することを目的とする。

II. 消費者の“幸せ”に関する研究

ブランド研究における消費者の“幸せ”に関する研究を詳細に検討する前に,消費者の“幸せ”に関する研究を概観する。これまでの消費者の“幸せ”に関する研究は,「消費者ウェルビーイング」(Consumer Well-Being)(Ayadi et al., 2017),「消費者満足」(Consumer Satisfaction)(Šeinauskienė et al., 2015),「ウェルビーイング」「主観的ウェルビーイング」(Desmeules, 2002; Zhan & Zhou, 2018)といった概念を用いて発展してきており,明確な構成概念として研究されてこなかった(Dhiman & Kumar, 2023)。この様な消費者の“幸せ”に関する研究課題に対して,Dhiman and Kumar(2023)は,マーケティング活動と消費者の相互作用において消費者が瞬間的に経験するポジティブな感情が「消費者ハピネス」(Consumer Happiness)であるとし,消費者ハピネスを「消費前,消費中,消費後のマーケティング刺激や活動との出会いによって引き出される,消費者が経験する瞬間的なポジティブ感情」(p. 117)と定義した上で,消費者の“幸せ”に関する研究についてマーケティングに関わる158誌における30年間の研究を対象としたレビューを行っている。そして,「消費者ハピネス」という用語は既存研究において標準的な定義がなされていないことや,消費者の“幸せ”に関する研究は様々な文脈で研究が行われている人の“幸せ”に関する文脈の一つに位置づけられることを指摘している(Dhiman & Kumar, 2023)。

一方で,この研究(Dhiman & Kumar, 2023)ではブランドに関する消費者の“幸せ”について1つの研究(Kumar et al., 2021)のみを参照した上で,(1)この分野の研究の進展は鈍いこと,(2)研究者間においてもブランドの役割を理解しようとする努力はわずかであることを指摘している。また,今後の研究で取り上げるべき具体的な研究課題として,「ブランドはどのようにして消費者にはハピネスをもたらすのか」「そのようなブランドが使用するキャッチフレーズは,消費者のハピネスにどのような影響を与えるのか,あるいはハピネスを向上させるのか」「消費者はキャッチフレーズを見ただけでハピネスを感じるのか」「本当に消費後にハピネスを感じるのか」をあげるにとどまっている(Dhiman & Kumar, 2023)。ここから,「“幸せ”の概念に関する議論」と「“幸せ”の先行要因」が主要な検討課題となると考えられるが,ブランドに関する消費者の“幸せ”については十分に議論されているとは言えず,改めて詳細なレビューに基づいた研究課題の整理が必要であろう。

III. ブランド研究における消費者の“幸せ”

ここからは,ブランド研究において消費者の“幸せ”がどの様に検討されてきたのかを整理する。その中でも消費者の“幸せ”をレビューした先行研究(Dhiman & Kumar, 2023)によって指摘されている研究課題を踏まえ,主に「どのような“幸せ”を扱っているのか」(概念に関する議論)に着目した上で,「どのような要因が“幸せ”に影響を与えるのか」(先行要因に関する議論)という点に加えて,“幸せ”がもたらす影響も確認すべく「どのような要因が“幸せ”によって影響を受けるのか」(結果要因に関する議論)という点も検討を行う。

1. レビューの概要

レビューの対象とした文献は,確認する研究成果の質を一定水準以上に保つため先行研究(Mari, 2023; Matsubara, 20242)を参考にScimago Journal Rank(2022)のマーケティングカテゴリにおける上位50ジャーナルを対象とした。これらのジャーナルを対象に,EBSCO Business Source Premierにおいて“brand AND well-being”,“brand AND happiness”で検索を行うことにより抽出した。2024年2月16日に抽出された文献を最終的な対象とした。そのうち,(1)ブランドに関する議論を行っていない研究,(2)消費者の“幸せ”を先行/結果要因として扱っていない文献,(3)実験刺激としてHappyな印象を与えるような消費者の心理的な状態としての“幸せ”を扱っていない研究,(3)従業員に関する研究,(4)マテリアリズムに関する研究(マテリアリズムは「富や消費を個人の達成や幸福と結びつける信念」(Moldes et al., 2022, p. 892)であり,“幸せ”に関する消費者の直接的な知覚を表す概念ではない。)をレビューの対象から除外した。その結果,最終的にレビューの対象となった文献は38篇となった。このうちブランド経験(Brand Experience)(Schmitt et al., 2015)とブランド・パーパス(Brand Purpose)(Williams et al., 2022)を主題とするレビュー論文が2篇存在していた。また,レビューの対象となった文献はすべて2015年以降のものであった(2015年2篇,2016年1篇,2018年4篇,2019年2篇,2020年3篇,2021年5篇,2022年8篇,2023年9篇,2024年3篇)。全38篇のうち半数以上の20篇がここ3年で発表されていることを考えると,ブランドと消費者の“幸せ”の関係に対する注目が近年高まっていると言えよう。

2. 概念に関する議論

どのような“幸せ”が扱われているかについては,大きく3つの傾向が見られた。(1)「ブランド・ハピネス」(Brand Happiness)(Boisvert et al., 2023; Kumar et al., 2021; Mansoor & Paul, 2022; Purohit et al., 2024; Rodrigues et al., 2024; Schnebelen & Bruhn, 2018),「主観的ウェルビーイング」(Subjective Well-Being)(Chang, 2020; Choi et al., 2022; Kang & Shao, 2023; Kim & Chang, 2023; Kuanr et al., 2022; Prentice & Loureiro, 2018; Zhang et al., 2022),「ウェルビーイングの知覚」(Well-Being Perception)(Ahn et al., 2015; Hwang & Lee, 2019; Kim et al., 2021)など,消費者の“幸せ”に関する先行研究と同様に様々な概念が用いられていること(Dhiman & Kumar, 2023),(2)様々な定義が用いられており,場合によっては定義に関する十分な議論のないままに検討が進められていること(e.g., Davvetas et al., 2022; Gilal et al., 2023),(3)消費に関わらない一般的な“幸せ”に関する定義(e.g.,「個人の人生に対する認知的評価(人生の満足度など)と感情的経験(気分や感情など)」)を用いているにも関わらず測定項目は消費に関する項目(e.g.,「(ブランド)を利用することは私の理想の生活の一部だ。」)によって“幸せ”が測定されている研究(e.g., Kang & Shao, 2023)や,呼称として一般的な“幸せ”に関する概念(e.g.,「主観的ハピネス」)を用いているにも関わらず,消費に関する定義(e.g.,「『イベント,および満足と充足の認知的判断』に対する感情的な反応,および消費者の肯定的な感情」)を設定している研究(e.g., Shahid & Paul, 2021)が存在することが明らかとなった。具体的には,最も多く扱われていたのが「主観的ウェルビーイング」の7篇であり,続いて「ブランド・ハピネス」が6篇,「ウェルビーイングの知覚」が4篇,「人生満足」が2篇(Brick et al., 2018; Honora et al., 2024),それ以外はそれぞれ異なる概念を扱っていた。なお,ここでの整理は著者(ら)の呼称に基づいている。ここからブランド研究における消費者の“幸せ”は多様な側面から検討がなされていると言えるが,一方で領域として扱うべき概念が統一されていないとも考えられる。この中で,「ブランド・ハピネス」については「消費者の最大の感情的充足感であり,異なるブランドとの接触点(購入,消費,広告など)で誘発される,心地よい高および低覚醒の感情の瞬間ベースの経験」(Schnebelen & Bruhn, 2018, p. 102),「ウェルビーイングの知覚」については「ブランド(消費財・サービス)が様々な生活領域でどの程度ポジティブな影響を与えるかについての消費者の認識」(Grzeskowiak & Sirgy, 2007, p. 291)という定義が多く用いられており,今後ブランド研究における“幸せ”の議論の中心となることが考えられる。心理的な構成概念を用いる以上,構成概念とその定義については研究を行う上で重要な点であることは明白である。ブランド研究にとどまらず,マーケティング研究において消費者の“幸せ”に関する知見を体系立てて蓄積するためには,構成概念と定義について整理を行った上で知見の蓄積がなされるべきであろう。

では,“幸せ”という概念を検討する上で,どの様な基準を参考にしたら良いのだろうか。“幸せ”は様々な学術領域で探求されてきたが,その中でも実証的に知見を蓄積し多くの分野において応用されているのが心理学の知見である。心理学領域において,“幸せ”は「エウダイモニア」(Eudaemonia),「ハピネス」(Happiness),「ウェルビーイング」(Well-Being)などいくつかの用語が使い分けられている(Nakatsubo, 2021)。それぞれの概念は心理学においても未だ議論されている段階だが,「ハピネス」と「ウェルビーイング」については,主観的なウェルビーイングを構成する要素の一つとしてハピネスが存在すると説明されている(Diener et al., 1999)。ここから,心理学においてはハピネスとウェルビーイングは明確に区別されていると考えられる(Matsubara, 2022)。消費者行動研究では両概念は同義として扱われることが多いと指摘されていることからも,ブランド研究においても心理学での両概念の区別を考慮する必要があろう(Nicolao et al., 2009)。

ハピネスとウェルビーイングの両概念を区別する上では,「ヘドニック(Hedonic)・アプローチ」と「エウダイモニア(Eudaemonia)・アプローチ」に基づいて両概念を整理することが1つの視点としてあげられる。「ヘドニック・アプローチ」とは,「ハピネス」に焦点を当て快楽の達成と苦痛の回避の観点からウェルビーイングを定義するアプローチであり,「エウダイモニア・アプローチ」とは,人生の意味と自己実現に焦点を当て人がどの程度完全に機能しているかという観点からウェルビーイングを定義するアプローチである(Ryan & Deci, 2001)。消費者は,ブランドとの様々なタッチポイント(情報探索,購入前・購入,消費など)で短期的な感情状態としてハピネスを獲得することができると説明されていることからも,ヘドニック・アプローチ的な短期的感情とエウダイモニア・アプローチ的な長期的心理状態を区別して検討を行うことが妥当であろう(Purohit & Radia, 2022)。この観点について,レビューの対象となった文献においても,ハピネスを短期的な感情状態として定義づけている研究(e.g., Kumar et al., 2021),ウェルビーイングを自己実現や生きがいなどの長期的な心理状態として定義づけている研究(e.g., Lee et al., 2020),ヘドニック・アプローチ(Asante et al., 2024),エウダイモニア・アプローチ(Williams et al., 2022)によって概念を説明している研究が確認された。

これに加えて,先ほども指摘したように扱われている“幸せ”がブランドや消費に関連したもの(e.g.,ブランド・ハピネス)か,消費とは関連しない一般的なもの(e.g.,人生満足)か,という点でも定義と項目を一致させるなど整理をする必要がある。このように,どの様な“幸せ”を扱うのか(ヘドニック的/エウダイモニア的,長期的/短期的,消費関連/一般的)を明確にした上でそれに沿った尺度で測定することなどが今後の研究では求められよう。

3. 先行要因に関する議論

次の視点は,ブランド研究における消費者の“幸せ”を高める要因とは一体何か,というものである。正の影響を有する要因についてはレビューの対象となったほとんどの文献において検討されていた。例えば,短期的な感情状態である“幸せ”に対しては,ブランドのマステージ(Masstige: Kumar et al., 2021; Mansoor & Paul, 2022),購買意図(Purchase Intention: Purohit & Radia, 2022)が正の影響を及ぼすことが検証されている。また長期的な心理状態として“幸せ”を扱ったものとしては,ウェルビーイングを人生における自己機能,自己実現,自制の認識と捉え,大学生を対象に大学へのアイデンティフィケーション,肯定的なeWOM行動,大学における人生満足によるウェルビーイングへの正の影響が検証されている(Lee et al., 2020)。さらに,ウェルビーイングの指標としてはほぼ普遍的かつ最も有効なものの一つであると考えられている「人生満足」(Life Satisfaction)を高める要因についても,いくつかの研究(Brick et al., 2018; Choi et al., 2022; Honora et al., 2024; Mrad & Cui, 2020)で検証されている(Diener, 1984; Diener et al., 1999; Oishi, 2009)。なお,ここでの「人生満足」は呼称ではなく定義と測定尺度により判断している。

ほとんどの研究が“幸せ”に正の影響を及ぼす要因を検討していることに対して,負の影響を及ぼす要因については3つの研究(Kang & Shao, 2023; Mrad & Cui, 2020; Zhang et al., 2022)のみで検討されていた。この様に,ブランドが消費者の“幸せ”に及ぼす負の側面に関する研究は限定的であるため,今後の検討課題の1つと言えよう。

また,消費に関連する“幸せ”については23篇,一般的な“幸せ”については16篇の文献において検討されていた(両方を検討している文献が2篇を含んでおり,かつ判断ができないものを1篇除外しているため,合計は総数とは一致しない)。ここから,消費関連/一般的のどちらの“幸せ”の先行要因についても,ほぼ差はなく検討されていると考えられる。したがって,ブランド研究における消費者の“幸せ”の先行要因については,負の影響を及ぼす要因についてはやや遅れがあるものの偏り無く知見の蓄積が進んでいる段階にあると言えよう。

4. 結果要因に関する議論

次に,ブランド研究で扱われている消費者の“幸せ”が何をもたらすのかに関する研究結果について確認する。レビュー対象の文献のうち,半分を下回る17篇のみが結果要因に関する検証を行っていた。ここから分かる様に,ブランド研究においては消費者の“幸せ”による結果要因の解明は積極的には進められておらず,検証を進める余地が大いに存在する。

具体的には,消費に関連する“幸せ”については,「ブランド・ロイヤルティ」(Brand Loyalty)(Ahn et al., 2015),「ラグジュアリーブランド購買意図」(Luxury Brand Purchase Intention)(Thapa et al., 2022)などのブランドに対する肯定的な態度や行動がほとんどである(Boisvert et al., 2023; Hwang & Lee, 2019; Kim et al., 2021; Lv & Wu, 2021; Mansoor & Paul, 2022; Purohit et al., 2024; Purohit & Radia, 2022; Qayyum et al., 2023; Schnebelen & Bruhn, 2018; Troebs et al., 2018)。ここから,ブランドに起因する“幸せ”は,ブランドに対する何らかの肯定的な態度を導く要因であると言える。一方で,一般的な“幸せ”については,「ブランドへの態度」(Brand Attitudes)(Chang, 2016),「ブランド回避」(Consumers’ Brand Avoidance)(Kuanr et al., 2022)など検証が限られている。ブランドが消費者の一般的な“幸せ”に一定の貢献があることは明らかとなっているため,消費者の一般的な“幸せ”はブランドに関するマーケティング目標に貢献するのかという疑問について,さらなる知見の蓄積が望まれる。

また,消費に関連する“幸せ”と一般的な“幸せ”の関係を検証した研究も存在する(Sato et al., 2023)。この研究では,様々な生活領域における満足を合算することにより総体的なウェルビーイングにつながるというアプローチであるボトム・アップアプローチを理論的な背景として検証を行っている(Diener, 1984; Sato et al., 2023)。この様に,“幸せ”を概念毎に弁別した上でその関係性を検証することも,ブランド研究における消費者の“幸せ”を理解する上で重要な試みとなるであろう。

IV. 今後の研究課題

ここまで,「どのような“幸せ”を扱っているのか」(概念に関する議論),「どのような要因が“幸せ”に影響を与えるのか」(先行要因に関する議論),「どのような要因が“幸せ”によって影響を受けるのか」(結果要因に関する議論)という3つの観点からレビューを行った。その結果,それぞれの研究において扱われる“幸せ”の概念が統一されておらず,定義に関する十分な議論が行われないまま研究が行われていることや消費に関連する/しないなどの点で定義と尺度が一致していないなど概念的な混同が生じている可能性が示唆された。人の“幸せ”については,心理学を中心に非常に多くの概念によって検討が進められており,明確に概念が定まっていない状況である(Nakatsubo, 2021)。したがって,ブランド研究においても「この研究で対象とするのはどの様な“幸せ”なのか」といったことを丁寧に定めた上で議論を行うことや,定義に対する内容的妥当性を備えた尺度で測定することなどが求められる。それにより,消費者の“幸せ”についての多角的な視点による研究をいくつかの潮流に位置づけることが可能となり,消費者の“幸せ”に対するさらなる理解につながるであろう。

また先行要因については,知見の蓄積が進んではいるものの,負の影響に関して検討を進める必要があること,結果要因に関しては検証を進める余地が大いに残されており,特に一般的な“幸せ”についての検討が比較的少ないことが明らかとなった。この点はより具体的な研究課題であり,概念的な課題への検討と併せ積極的に進められるべきである。

最後に,上記の3つの観点には含まれなかったものの,特徴的な検討を行っていた研究について確認し今後の研究課題を考察する。まず検討対象とするブランドについて,ラグジュアリーブランドなどの従来のブランド研究で頻繁に用いられてきた対象以外に,ヒューマンブランドを対象とした研究(Honora et al., 2024; Rodrigues et al., 2023)や,一般に物質的な購買よりも人々を幸せにするとされる経験的な購買について,購買関連ハピネス(Purchase-Related Happiness)への影響を購買タイプ間で比較した研究(Razmus et al., 2022)が存在した。この様に,今後は消費やブランドの種類に応じた知見の蓄積も必要であろう。さらに,高齢者の社会的なウェルビーイング(Social Well-Being)に対してインターネット上での口コミ行動(eWOM)が及ぼす影響について,ネトノグラフィーを用いて定性的に検討した研究(Wilson-Nash & Pavlopoulou, 2023)も存在していた。この様に現在主流となっている定量的な検証だけでなく,消費者を観察するなど定性的に議論を行っていくことも,ブランドと消費者の“幸せ”に関連する現象への深い理解や特異事例の発見などのために進められるべきである。

消費者の“幸せ”については,日本国内のマーケティングに関するジャーナルにおいても研究の進展がみられ,2021年以降マーケティングジャーナルや消費者行動研究でも消費者の“幸せ”に関する研究がいくつか発表されている(e.g., Inoue & Ueda, 2023; Matsubara, 2022)。本文献研究が日本国内での議論の活性化の一助となれば幸いである。

1)  後述するように,ブランド研究において消費者の幸福感は“happiness”と“well-being”の2つの概念によって捉えられており,どちらも邦訳としては「幸福」や「幸福感」などが当てられる。そこで,本稿ではこれらすべての幸福感をまとめて呼ぶ際に“幸せ”という言葉を用いる。

2)  本研究は,Matsubara(2024)による2022年までの文献レビューを最新の文献に拡張したものである。

謝辞

本稿の執筆にあたっては,東京都立大学の水越康介先生より手厚いご指導を賜りました。ここに記して,感謝申し上げます。

松原 優(まつばら ゆう)

関西学院大学商学部助教。琉球大学観光産業科学部卒業。早稲田大学スポーツ科学研究科修士課程修了。修士(スポーツ科学)。東京都立大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。埼玉学園大学経済経営学部専任講師を経て2024年より現職。専門は消費者行動論。

References
 
© 2024 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top