2024 Volume 44 Issue 2 Pages 174-181
近年,スポーツ産業は多面的な産業へと進化し,変化を続けている。とりわけ,観戦型スポーツにも注目が集まり,関連するマーケティング研究も盛んである。一般的に,顧客満足やロイヤルティが形成される過程で,先行因子となる知覚品質には多くの研究者が関心を向けてきた。知覚品質は,技術的品質(結果)と機能的品質(プロセス)の側面を有しており,観戦型スポーツの文脈では,技術的品質が顧客満足の強い予測因子であり,機能的品質の役割が相対的に弱いことが示唆された。しかし,研究結果の表面的な解釈は問題を引き起こすかもしれない。観戦型スポーツは,サービスの生産と消費の大部分が同じ空間に存在し,サービス提供者と顧客が相互作用する時間は,他のサービスよりも相対的に長くなる。また,選手のパフォーマンスは技術的品質として議論されるが,機能的品質の側面を内包する場合がある。サービスはプロセスの消費であり,今後は複雑な相互作用プロセスのブラック・ボックスを解明し,多様な要素の組合せによるサービス全体としてのマーケティングが重要となる。
The sports industry has evolved into a multifaceted industry and it continues to change. Attention is especially focused on spectator sports, and related marketing research is being actively carried out. Many researchers have focused on the perceived quality as a leading factor in the process of forming customer satisfaction and loyalty. The perceived quality includes aspects of both technical quality (outcome) and functional quality (process), suggesting that, in the context of spectator sports, the technical quality is a strong predictor of customer satisfaction, and the functional quality plays a relatively weak role. However, superficial interpretations of the study results can cause problems. In spectator sports, the production and consumption of services are mostly present in the same space, and the interaction time between service providers and customers is longer than for other services. Athletic performance is discussed as a technical quality but it may also include aspects of the functional quality as well. Services are process consumption, and it is important to clarify the black box that is the complicated interaction process and create marketing as a whole service by combining diverse elements in the future.
スポーツ産業は多面的な産業へと進化し,変化を続けている(Karg et al., 2022)。The Business Research Company(2024)によると,2024年における世界のスポーツ市場規模は5,069億ドル,2033年の収益予測は6,298億ドルと推定され,巨大市場へと成長している。Japan Sports Agency(2022)もスポーツ市場規模の拡大を政策目標として掲げており,スポーツ市場の発展に伴い,スポーツ・マーケティングにも注目が集まっている。
スポーツ・マーケティングとは,スポーツのマネジャーが顧客をスポーツ体験に引き込み,顧客との強い関係を構築して顧客価値を創造し,見返りに顧客から報酬を獲得しようとする社会的・経営的プロセスであり(Karg et al., 2022),スポーツ製品・サービスをスポーツ消費者に直接マーケティングする“Marketing of sport”と,スポーツ消費者以外向けの製品・サービスに,スポーツ資産をパートナーシップやプロモーションとして利用する“Marketing through sport”がある(Mullin et al., 2021)。とりわけ,観戦型スポーツの“Marketing of sport”に関する議論は活気があり(Matsuoka et al., 2022; Nishio, 2022),スポーツ観戦者やファンに関する研究は,社会学,心理学,消費者行動等の学際的な方法で実証されたことを理論的な基盤とする(Funk & James, 2001)。
観戦型スポーツは快楽消費のサービスであり(Madrigal, 1995),競技の勝敗等が顧客満足に強く影響する(Brady et al., 2006)。Zeithaml(1981)の議論に依拠すれば,観戦型スポーツのサービス品質は「探索品質―経験品質―信頼品質」の連続体において経験品質上に位置し,顧客にとって明瞭に評価しやすいものの,競争性という特質があるので,マーケターがサービス品質を制御するのは困難である(Fujimoto, 2022)。
サービスは「プロセスの消費」であり(Grönroos, 2015),観戦型スポーツ研究でもGrönroos(1984)の知覚品質概念(結果としての技術的品質とプロセスとしての機能的品質)を理論的な基盤とするものが多い。しかし,観戦型スポーツにおける先行研究のアブストラクトのみを切り取ると,概ね技術的品質の重要性が強調され,プロセスの側面が抜け落ちる傾向にある。
そこで,本稿のリサーチ・クエスチョンを「観戦型スポーツ研究における知覚品質はどのように整理できるのか,またそれらの知覚品質とアウトカムにはどのような関係があるのか」と設定した。次節では知覚品質概念を俯瞰し,第三節ではGrönroos(1984)の知覚品質概念に依拠しながら,観戦型スポーツの先行研究を整理する。最後に,先行研究の成果を解釈する際に生じる懸念と,今後の研究における方向性を提示する。本稿は,上述した特異な性格を持つ観戦型スポーツの知覚品質研究をレビューすることで,サービス・マーケティングの研究蓄積に貢献するものである。
顧客満足とその因果プロセスを形成する知覚品質,知覚価値,ロイヤルティ(行動意図),収益性の変数間における先行,媒介,結果の関係性は(Anderson et al., 1994; Anderson & Mittal, 2000; Cronin et al., 2000; Fornell et al., 1996; Heskett et al., 1994; Rust et al., 1995),観戦型スポーツの文脈でも基礎となっている。
一般的に,知覚品質が先行し,知覚価値や顧客満足に影響しながら,将来の行動意図を予測するという関係性が示されており,観戦型スポーツの文脈でも同様の関係性が実証され(Biscaia et al., 2023; Wakefield & Blodgett, 1994)1),チーム・アイデンティフィケーション(Van Leeuwen et al., 2002)や感情(Foroughi et al., 2016)の媒介効果も議論されている。
サービス・マーケティングの文脈において,知覚品質は重要な因子である。顧客満足は知覚品質と価格の関数であり,知覚品質と知覚価値の評価が顧客満足に先行する(Athanassopoulos, 2000; Cronin et al., 2000)。また,知覚価値は価格に対するサービスの知覚品質であり(Hallowell, 1996),知覚品質と金銭的・非金銭的コストを比較するので,知覚価値は知覚品質の影響を受ける(Zeithaml, 1988)。
全体的な顧客満足における最初の決定因子は知覚品質であり,知覚価値に先行することや(Fornell et al., 1996),知覚品質そのものが顧客満足に影響する知覚品質効果も指摘され(Churchill & Surprenant, 1982; Cronin et al., 2000),知覚品質に関連した研究は多く,観戦型スポーツの文脈でも活発に議論されている(Biscaia et al., 2013; Byon et al., 2013)。
2. 知覚品質概念における2つの品質側面知覚品質への関心は強く,これまでに幾つかのモデルが提案されてきた(Grönroos, 1984; Parasuraman et al., 1988; Rust & Oliver, 1994)。とりわけGrönroos(1984, 2015)は,知覚品質には技術的品質と機能的品質の側面があるとし,図1のように概念化した。技術的品質は“Technical Quality”の日本語訳であり,文脈によって“Outcome Quality(結果品質)”等の用語も使用される。技術的品質は企業と顧客のサービス・プロセスの結果として,顧客が何を得たかの“WHAT”に対応し,ある程度は客観的に測定できる(Grönroos, 1984)。

サービス品質における2つの側面
出典:Grönroos, 2015, p. 96より引用
一方,機能的品質は“Functional Quality”の日本語訳であり,文脈により“Peripheral Service Quality(周辺サービス品質)”や“Ancillary Service Quality(補助的サービス品質)”等,プロセスの側面として使用される。顧客が何を得たかという技術的品質と比較して,機能的品質は顧客がどのように得たかという“HOW”に対応し,顧客によって主観的に評価される(Grönroos, 1984)。また,総合的な知覚品質はイメージの影響も受ける(Grönroos, 2015)。
Grönroos(1984)は,知覚品質を2つの品質側面から概念化してきたものの,サービス・エンカウンターでは物理的な環境要因も知覚品質に影響することから(Rust & Oliver, 1994; Wakefield & Blodgett, 1996),Grönroos(2015)は研究に応じて,サービス環境(Servicescape)を機能的品質の一部でありながらも,部分的に取り出して扱うことを許容している。
Grönroos(1984, 2015)の概念化はインパクトがある故に,主張の文脈が見落とされる懸念もある。Grönroos(1984, 2015)は,技術的品質と機能的品質に区別するが,どちらかの側面が優位かという議論ではないことは,サービスを「プロセスの消費」と主張することからも理解できる。サービスの顧客は,何を得たかという結果と,どのように得たかというプロセスを組み合わせて,サービスのプロセスを消費しており,どちらの品質も重要となる。
また,技術的品質による競争優位は,競争環境が厳しい現代では持続しづらいので,機能的品質を高めることで持続的な競争優位を獲得,維持することの意義を示している。当然,技術的品質の維持,向上に努めなければ生き残ることができないので,どちらも大事であるが,理論的背景を考慮せずに研究成果,特にアブストラクトのみを表面的に解釈すると,貴重な研究蓄積が誤解を招き,二分された概念間の優位性に関する議論に陥る懸念がある。
観戦型スポーツの文脈における知覚品質には,競技そのもの,スタッフとの相互作用,施設の利便性や創出される雰囲気等,多様な要素がある。表1は,先行研究で変数として使用された知覚品質の構成要素を,技術的品質と機能的品質の側面で整理したものである。

観戦型スポーツ文脈で検証される構成概念及び測定項目
出典:筆者作成
技術的品質の側面では,大きな構成概念として,分類名の技術的品質(Greenwell et al., 2002),または結果品質(Clemes et al., 2011)やコア・サービス品質(Tsuji et al., 2007)という用語が用いられる。その下位概念あるいは測定項目に,オン・フィールド・パフォーマンスの要素が多く使用され,贔屓のチームや選手のパフォーマンス(Yoshida & James, 2011),技術パフォーマンス(Ko et al., 2011),試合パフォーマンス(Kim et al., 2013),相手チームを含めたゲームの質(Theodorakis et al., 2013)といった概念で測定される。また,競技の勝敗結果は,顧客満足の強い予測因子として主張される(Brady et al., 2006)。
オン・フィールド・パフォーマンス以外の構成要素には,ホーム・チーム特性(Byon et al., 2013)や相手チーム特性(Yoshida & James, 2011)が使用され,勝敗記録やリーグの順位,歴史,スター選手等で測定される。Ko et al.(2011)は結果品質の下位概念にバレンスと社会的関係を設定した。前者はイベントで得た便益に対する好意的な感覚等で測定され,後者はイベントでの社会的交流等で測定されており,技術的品質を試合の勝敗や選手パフォーマンスに限定せず,スポーツ観戦における便益の束として考える必要性を示唆する。
機能的品質は技術的品質よりも多様な要素となる。大きな構成概念としては,分類名である機能的品質(Brady et al., 2006)や,周辺サービス品質(Tsuji et al., 2007)等の用語で概念化され,これらの下位概念や測定項目は,人との相互作用とサービス環境との相互作用に大別できる。人との相互作用を包括的に概念化した相互作用品質(Clemes et al., 2011)をはじめ,サービス・スタッフ(Greenwell et al., 2002),スタッフとの相互作用(Ko et al., 2011),選手との相互作用(Clemes et al., 2011),ファンとの相互作用(Ko et al., 2011),飲食サービス(Clemes et al., 2011),社会的環境(Clemes et al., 2011)等が使用される。
サービス環境との相互作用には,物理的な側面と雰囲気の側面がある。物理的な側面は,物理的環境品質(Clemes et al., 2011)として総合的に概念化される他,サービス環境品質(Brady et al., 2006),施設のアクセシビリティ(Yoshida & James, 2010),案内板・看板(Ko et al., 2011),座席の快適性(Yoshida & James, 2010),施設の清潔さ(Clemes et al., 2011),施設の質(Byon et al., 2013),セキュリティ(Biscaia et al., 2013)等の要素がある。
雰囲気の側面では,美的品質(Yoshida & James, 2011)といった総合的な概念の他,施設の雰囲気(Ko et al., 2011),ゲームの雰囲気(Biscaia et al., 2013),映像・音響(Clemes et al., 2011),施設のデザイン(Clemes et al., 2011),群衆経験(Yoshida & James, 2011),エンターテインメント(Kim et al., 2013)等の要素で測定される。その他にもイベント時間(Ko et al., 2011)や情報利便性(Ko et al., 2011)等が機能的品質の要素として使用される。
2. 技術的品質と機能的品質の側面から議論した研究観戦型スポーツの文脈において,知覚品質を技術的品質と機能的品質に分類した研究は幾つか存在する(Brady et al., 2006; Tsuji et al., 2007)。一般的なサービス品質研究の多くは,サービス品質と顧客満足,行動意図との関係性を評価するため,プロセス関連の次元(スタッフとの相互作用,施設,美観,駐車場等)を主に取り扱うが,これらはスポーツ・プロダクトの周辺的要素とされる(Theodorakis et al., 2013)。
品質の構成概念や測定尺度の相違があって容易に比較はできないが,観戦型スポーツの文脈では,機能的品質よりも技術的品質が顧客満足に強く影響することが示唆される(Theodorakis et al., 2013; Tsuji et al., 2007)。本節では,観戦型スポーツ研究の文脈において,顧客満足(知覚価値,行動意図を含む)との関係を技術的品質と機能的品質の側面で議論した研究をレビューする。
Greenwell et al.(2002)によると,技術的品質(ホーム・チーム特性,相手チーム特性)と機能的品質(サービス・スタッフの反応性,説明力,知識・経験,態度)は,共に顧客満足を予測し,機能的品質がわずかに強く影響する。一方で,Brady et al.(2006)は,技術的品質における勝敗結果が顧客満足を最も強く予測するとし,機能的品質やサービス環境品質よりも重要な因子であると指摘する。
Brady et al.(2006)は,サービス品質研究の多くが,機能的品質の議論に傾斜すると指摘した。サービスの違いで,技術的品質を管理できる程度は異なり(例:ホテルと観戦型スポーツ),スタッフやサービス環境が優位でも,結果因子の影響を強く受ける場合,機能的品質の役割が弱くなる(Brady et al., 2006)。対象のサービスが,プロセス指向と結果指向の連続体に位置する場所によって,技術的品質と機能的品質の重要性は変化すると指摘する。
Tsuji et al.(2007)は,アクション・スポーツ(ウェイク・ボードやスケートボード等)の文脈において,コア・サービス品質(技術的品質),周辺サービス品質(機能的品質),アウトカムとしての顧客満足,行動意図で構成されたモデルで検証した。技術的品質(各種目に対する評価)と機能的品質(スタッフの親切さ,適切な情報提供,観戦ロケーション等)は共に顧客満足を予測したが,技術的品質がより強い予測因子であった。
アクション・スポーツの文脈では,機能的品質はそれほど重要ではなく,競技そのものを重要視し,勝敗よりも選手のスキルやトリックといったパフォーマンスを楽しむ傾向が示唆された(Tsuji et al., 2007)。機能的品質と顧客満足は行動意図への直接効果を示したが,技術的品質の直接効果は確認できなかったことから,技術的品質は顧客満足を通して行動意図に影響することが示された(Tsuji et al., 2007)。
Theodorakis et al.(2013)も技術的品質としての結果が,機能的品質よりも強く顧客満足を予測したことから,スポーツ観戦は結果駆動型であり,顧客経験の大部分がコア・プロダクト(試合そのもの)によって決定すると指摘し,Greenwell et al.(2002)とは対照的である。また,技術的品質は行動意図への直接効果を示したのに対し,機能的品質から行動意図への直接効果は確認できず,Tsuji et al.(2007)とは対照的な結果を示した。
Biscaia et al.(2023)では,知覚品質を技術的品質,機能的品質,美的品質に分け,知覚価値,顧客満足,行動意図との関係性をメタ分析構造方程式モデリングで解析し,各品質は顧客満足に影響するが,技術的品質が最も強い効果を示した。技術的品質が知覚価値と行動意図に直接効果を示さない理由に,プロ以外の競技レベル,メジャーではないスポーツを標本に含んだことで,技術的品質に不安定が生じた可能性を指摘する(Biscaia et al., 2023)。
また,Biscaia et al.(2023)は文化圏(西洋と東洋)の違いのほか,スポーツ・レベル(プロとプロ以外)の異なる文脈において,周辺的な娯楽要素は,プロの文脈では観戦型スポーツを継続的に消費する意欲を高める重要な因子であるが,プロ以外の文脈ではオン・フィールド・パフォーマンスが継続的な観戦の原動力になると指摘する(Biscaia et al., 2023)。機能的品質,美的品質と比較して,技術的品質が顧客満足を強く予測することは,Brady et al.(2006),Theodorakis et al.(2013),Tsuji et al.(2007)の結果を支持している。技術的品質と顧客満足間の結果ベースの関係性,機能的品質及び美的品質から知覚価値,行動意図へのプロセス・ベースの関係性は,Tsuji et al.(2007)の結果を支持した。
Yoshida and James(2010)は,技術的・機能的品質を構成概念に設定しないものの,日本のプロ野球と米国の大学フットボールという異なる文脈で,技術的品質の側面はゲーム満足,機能的品質の側面はサービス満足へ影響し,2つの満足が行動意図に影響するモデルを検証した。相手チーム特性と選手パフォーマンスはゲーム満足に影響せず,ゲームの雰囲気(選手パフォーマンスに関連した興奮する雰囲気等)がゲーム満足の強い予測因子であり,スタッフと施設アクセシビリティがサービス満足に影響することは両国で共通していた。
これは,相手チーム特性や選手パフォーマンスが技術的品質の側面として顧客満足に影響したGreenwell et al.(2002)やTheodorakis et al.(2013)とは異なる結果を示した。また,ゲーム満足は両国で行動意図に影響したが,サービス満足から行動意図への影響は日本でのみ確認され,異なる国という文脈での差異を示した。なお,日本においてはゲーム満足度がサービス満足度よりも行動意図を強く予測した(Yoshida & James, 2010)。
表2は,これまでの議論を整理したものである。これらの研究における相違は誤りではなく,研究の多くは幾つかの制約によって範囲が限定されており,研究の目的や文脈を考慮して解釈する必要がある。

技術的品質と機能的品質がアウトカムに与える影響の比較
出典:筆者作成
*( )内の数値は各研究結果内の標準化偏回帰係数を,「n.s.」はNot Significantを示す。技術的品質:TQ,機能的品質:FQ,サービス環境品質:SEQ,美的品質:AQ,知覚価値:PV,顧客満足:CS(ゲーム満足:CS(g),サービス満足:CS(s)),行動意図:BI,相手チーム特性:OC,選手パフォーマンス:PP,ゲームの雰囲気:GA,サービス・スタッフ:SS,施設アクセス:FA,施設スペース:FSを表す。
本稿では,Grönroos(1984, 2015)の知覚品質における2つの側面に着目し,観戦型スポーツをレビューした。観戦型スポーツの文脈では,技術的品質が顧客満足を強く予測し,機能的品質の効果が相対的に弱いことが示唆される。しかし,表面的な解釈は,観戦型スポーツのサービス品質を管理できない領域へと追いやり,品質向上への投資が阻害される懸念がある。例えば,Biscaia et al.(2023)は,全体的な満足が主に技術的品質から直接的な影響を受け,機能的品質と美的品質から間接的な影響を受けるとした一方で,良好な機能的品質や美的品質の知覚がなければ,技術的品質の役割は控えめな効果になると指摘している。
観戦型スポーツは,予測可能なレジャー活動とは異なり,競技開始前に結果がわからない特質がある故に,イベントそのものがドラマティックな感覚を引き出し,感情的反応を引き起こす快楽的な経験ができる魅力を持つ(Madrigal, 1995)。観戦型スポーツを,技術的品質と機能的品質の組み合わせによる「プロセスの消費」として認識し,観戦型スポーツの魅力を十分に発揮できるよう,サービス全体としてのマーケティングが必要になる。
今後の研究における方向性として,まず,異なるスポーツ種目や文脈での更なる検証が求められる。本稿で取扱った研究の多くはチーム・スポーツであり,個人種目(例:ゴルフ,卓球等)の研究蓄積も必要になる。加えて,本稿でも幾分か触れた国際比較研究やプロ・レベルか否かといった異なる文脈でも,同様の結果を示すのか,更なる検証が求められる。その意味でもBiscaia et al.(2023)のメタ分析は,今後の研究蓄積における足掛かりとなる。
また,総合的な知覚品質は,単に技術的品質や機能的品質の次元で決定されるのではなく,イメージの影響も受ける。イメージは,顧客がサービスに関する広告や口コミ,過去の累積的経験等から形成され,顧客の知覚品質に対して正(または負)の影響を与えるフィルターとしての役割がある(Grönroos, 2015)。技術的品質と機能的品質がイメージを通して,どのように総合的な知覚品質を形成するかといった検証が必要である。
加えて,よりダイナミックな知覚品質形成プロセスの解明が必要になる。Grönroos(2015)の知覚品質概念は,理論的主張を明瞭に視覚化する必要性から直線的に描かれるが,相互作用プロセスはより複雑である。観戦型スポーツは,サービスの生産と消費の大部分が同じ空間に存在するプロセスであり,相互作用する時間は他のサービスよりも相対的に長くなる。
多くの先行研究では,選手パフォーマンス等の要素は技術的品質(結果)に分類される。一方で,選手は技術や全力を尽くす姿勢で顧客を興奮させ,顧客は声援を通して選手を鼓舞し,選手が奮起することで更なる感動が創出される相互作用プロセスは,機能的品質の側面も部分的に内包するのではないだろうか。相互作用のプロセスは複雑で,未だブラック・ボックスのままとなっており,今後は,このブラック・ボックスの解明が求められる。
1)一般的な文脈にはBrady et al.(2002),Chen and Dubinsky(2003),Cronin and Taylor(1992),Dodds et al.(1991),McDougall and Levesque(2000),観戦型スポーツの文脈にはBiscaia et al.(2023),Moreno et al.(2015),Tsuji et al.(2007)等があり,Cronin et al.(2000)は両文脈で検討している。
川上 和真(かわかみ かずま)
同志社大学大学院ビジネス研究科修士課程を修了(MBA)。現在,同大学商学研究科博士後期課程に在籍。専門はサービス・マーケティング。