Quarterly Journal of Marketing
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Current State and History of the Measurement of Implicit Attitudes
Hideya Kitamura
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2025 Volume 45 Issue 1 Pages 14-21

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Abstract

社会心理学領域における潜在態度についてのレビューと解説を行った。顕在測定と区別する形で,潜在測定が誕生する経緯やその理論的先駆となる態度強度とアクセシビリティについてのFazioらの研究を取り上げた。そのうえで,現在世界でよく使用されているGreenwaldらの開発した潜在連合テスト(Implicit Association Test)の説明と実際例の呈示を行い,著者自身で測定を行った実証事例を交えつつ,そこから見られる特徴を議論した。IATで測定される潜在態度が,環境や状況要因によって影響を受けること,短期的に変化可能性があることなどが論じられた。最後に,IATへの批判など留意点について指摘を行った。

Translated Abstract

Implicit attitudes in the field of social psychology are reviewed and explained. Distinguishing between implicit and explicit measures and how implicit measurements emerged are described. Attitude strength and accessibility were introduced through the research of Fazio et al., which served as a theoretical precursor to the theory of implicit attitudes. Implicit attitudes measured by the Implicit Association Test (IAT) developed by Greenwald et al. are influenced by environmental and situational factors. The author discussed the characteristics found in the IAT, including the author’s empirical evidence, and found that implicit attitudes can change in the short term. Finally, criticisms of the IAT and other points to keep in mind are discussed.

I. はじめに

社会心理学領域では,21世紀に入るころから潜在態度の測定が盛んになってきた。潜在測定の基本は,何を測定しているのかについて,回答者側が気づかずに,意図や意識的確信のない反応を利用して態度を測定することである。これに対して,従来質問紙などの形で測定されてきた態度を顕在態度と呼ぶ。「あなたは,どう思いますか?」と問うタイプの顕在測定は,回答者の意図や意思によって不正確になる場合もあり,社会的望ましさの影響を受ける。ちなみに,社会心理学で言う「態度」とは,その態度対象があり,対象に対する肯定的/否定的,あるいは好意的/非好意的な認知・感情を指すものである。

たとえば,テレビの広告においても視聴者が必ずしも宣伝された内容についてブランドや商品名をきちんと記憶しているとは限らない。しかしながら,スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店頭で,なんとなく親近感やなじみを感じて,各種の類似商品の中から当該の商品を手に取って選択し,購入してしまうことがあり,覚えていなくても広告の視聴効果が見られることがある。こうしたものが潜在態度である。自分自身が言語化して報告できなくても何がしかの対象に対して親近感が形成されているような態度変化が生じていることがある。潜在態度は,自身でも気づかない自分の嗜好性を指し示している。さらに,気づいていてもことばで言明するにははばかられるような偏見などを潜在測定によって測定する試みでもある。これに対して顕在態度は,自分で質問紙に回答できるような自身の嗜好性や評価がその対象についての顕在態度と呼ばれるものであり,従来から測定されてきたものである。

すると,潜在測定とは,人の好意的/非好意的な反応を,直接その人に尋ねずにどうやって測定するかの問題と言える。行動から推察することも可能ではあるが,購買行動含めて,行動が生じる以前から予測を行いたいと考えた場合には,態度が行動を予測するという形で,行動とは別物で測ることが要請される。

自身がまだその態度対象のよさや魅力に意識的に気づいていない段階,ひそかに関心を抱いているような段階では,顕在測定による回答よりも潜在態度の方がセンシティブに検出可能であるかもしれないという期待がもてる。これらの測定のヒントは,気になるもの,関心を寄せているもの,好意的なものであれば,そうしたサインに敏感であり,態度対象を示唆するもの(刺激)に対して,特定の反応や概念の連想が活性化されるだろうという考えがヒントになる。

II. 概念連合

主な潜在測定の理論的前提となっているのは,意味ネットワークモデルである(図1)。

図1

意味ネットワークモデル

それぞれの概念は,意味的に近い概念とリンクを通じて相互に結びつけられていて,その概念が意識上,活性化されると,結びついている概念はリンクに沿って,活性化が行き渡る。これが活性化拡散モデルと呼ばれる現象である(Collins & Loftus, 1975)。

活性化の広がりは,無自覚的に進行するので,意識的なコントロールをすることなく,活性化したターゲットと結びつく心のなかのさまざまな概念配置を見ることができる。基本的には,結びついているだろう情報にアクセスする速さを観察することで,活性化を測定している。たとえば,基本的な印象のよしあしを見るには,好意的,ポジティブな特性語(形容詞など)である「かわいい」「親しみやすい」などとの関係で反応時間を測定する方法によって,対象に好意が抱かれているかを検討することができる。

こうした測定が考えられた背景には,意味ネットワークのつながりとして,ものごとにはステレオタイプ的な印象の連合があることが1900年代に見出されてきたことによる。

ステレオタイプの無自覚な活性化は,Devine(1989)の研究では,自動的に関連の深い概念への反応の速さが促進されることから,こうしたつながりがステレオタイプの背景基盤としてあることを示した。

III. 態度の活性化

Gawronski and Bodenhausen(2006)は,その態度についてのモデルで,自動的に形成された表象の原理として「連合過程」と,後に利用場面で修正,調整が行われる過程として「命題過程」の2つを区別する二過程モデルを提案している。偏見などのある社会のなかで生きるうちに,ステレオタイプなどを含む連合が成立して,知識の基盤をなす。こうした知識は関連刺激に基づいて自動的に活性化される。しかし,人は,「偏見をもって振る舞うのはいけないことだ」,「思い込みで人を決めつけるのはよくないことだ」という命題を,教育などを通して保持している時には,連合の使用がこのコンフリクトを受け,調整される。命題間の不一致によって,思い込みの信念の妥当性を減じて,より正確な認知へと修正される余地がある。

態度の活性化に着目した研究のなかでは,こうした心的な連合と反応速度についての知見から,態度の強さを割り出そうとしたFazio and Williams(1986)の発想が注目される。

Fazio and Williams(1986)は,態度強度,すなわち,態度の強さに注目した。それまで態度を測定しても,相関上,必ずしも強く行動にそのままつながらないことが議論されていた(Wicker, 1969)。ペーパーの上での回答と実際の現実世界での行動がどれくらいつながりを有するかは重大な問題であった。万一それほど関連がないということになれば,アンケートなど回答を得ることの意味が消え失せる。こうした顕在測定での回答を「認知」という観点で押さえておこう。顕在回答は,あくまで,自分で「私はそう思っている」「そう思っているに違いない」という認知を回答に反映させたものである。

ジョハリの窓(表1)において示唆されるように,自己のなかで,自分が知っている自分というのは一部である。自分の知らない私も,その上で人から見えている私もある。政党支持においても事前の調査での政党への支持態度と実際の投票行動にずれがあることはよく知られている(日本では「支持政党なし」,「決めていない」という回答が多い)。この頃,「態度と行動は一致するか」というのは社会心理学領域の重要なテーマであった。Fazioはそこで,当時取り入れられ始めていた認知的アプローチの観点から回答者は反応時間に着目し,測定することを試みた。パソコン上での質問に対して回答するまでのスピードを測定し,速く回答できる事項は,脳内でアクセスしやすい状態になっていると捉え,アクセシビリティ(アクセス可能性)が高いものと考えた。思っていることがすぐ口に出るようなものである。考えてもいないことは,理解したり,思い出したりするのに時間がかかる。なじみのある商品であれば,すぐに思い出して,商品名を口に出して答えられる。そんな風な人間のこころと脳の仕組みを利用して,反応時間というものを手掛かりにするアイデアが採られたのである。

表1

ジョハリの窓から潜在態度を加えた応用的修正

実際,支持政党に対する回答の速さを見て,回答の速い,つまりアクセシビリティの高い態度をもつ人たちにおいては,より行動につながりやすいことが示された(Fazio & Williams, 1986)。

さらに,Fazio et al.(1995)は,先行して与えて活性化した概念が後の関連する概念の情報処理を促進するというプライミング効果を活用して,ステレオタイプ情報がプライミングによって活性化することを検証した。アメリカにおいてアフリカ系アメリカ人を連想させる単語をディスプレイに事前呈示した直後に,ポジティブな単語あるいはネガティブな単語を呈示し,それに対する反応(ポジティブか,ネガティブかを左右のキー押しで回答)の速さを測定した。すると,おおむね白人は,ネガティブな単語への反応がポジティブな単語への反応よりも速く,アフリカ系アメリカ人にまつわるネガティブな偏見があることが可視化された。1990年台頃は,徐々に古い攻撃的で直接的な偏見が減じ,公的な社会的場面では特に口に出して偏見的態度を表明することは憚れる社会状況になってきた。現在見られるリバウンド的な移民に対する排外主義が世界でまだ顕著にもたげあがる前夜であった。

そのような時代背景では,特に偏見などの顕在的に表明するには,憚られ,社会的望ましさの低い態度は,あからさまな形で測定しにくくなっていた。

Fazio et al.(1995)は,ウソ発見に模された「ボーガス(偽りの)パイプライン」になぞらえて,「bona fide pipeline」としてこれを発表し,本音での偏見が検出できるものとの位置づけを示した。これはのちに「評価プライミング」という技法のバリエーションとみなされるようになるが,態度対象についてのポジティブあるいはネガティブな評価が測定されるものであると考えられた。しかし,結果の安定性について疑問もあり,一貫性にもいくぶん欠けるため,現在では,IATの方がよく用いられているという状況である。

IV. 潜在連合テスト(IAT)

IAT(Implicit Association Test)は,そのアイデアをGreenwald and Banajiが1995年に発表し,実際のデータについては,Greenwald et al.(1998)において示された。

IATでは,典型的には,一対の対立カテゴリーがあり,それとの関係を調べるための一対の対立属性を置く。たとえば,ジェンダー・ステレオタイプに絡む測定では,女性vs男性というカテゴリーと,仕事vs家庭という対照属性を用いる。属性とは便宜上の分けるための表現であるので,ステレオタイプの場合は関連する作業であったり,関連する特性であったりすることもある。実際,対照ができれば何でもよい。

この作業は,回答者には,「ことばの分類課題」として与えられ,図2では,紙筆版として,左右のいずれかのカッコにチェックを入れることで,上から順に進んで,時間内に何行進めたかをカウントする形式のものを示している。しかし,通常はパソコンを用いて行うことが実験では多い。画面中央に呈示される語について,カテゴリー,属性についてそれぞれ,左右に配されたどちらの方に属するかを割り当てられた左右のキーのいずれかを押すことで回答を行う(図3)。できるだけ素早く回答することが求められる。

図2

健康―食品IATの例(不一致ブロック)

図3

ディスプレイで実施するIATの呈示例

この練習と言える一連の試行(それぞれ「ブロック」と呼ぶ)を経て,次に「混合ブロック」と呼ばれる試行を行う。そこでは,1番目のブロックと2番目のブロックで行われた左右分類を合体させて,図2のリストにあるような語が順次,1つずつ画面に呈示されて,左右のいずれかに分類する。この時,通常その社会に存在するステレオタイプに合致した組み合わせ(便宜上,一致ブロックと呼ぶ)であれば,よりスムースに左右分類ができる。

このような試行を練習ブロックと本番ブロックで2回行うことがある。次に,属性についての左右分類を逆にして,左右を入れ替えたバージョンを練習する。その後に,入れ替えた左右の属性とカテゴリーを合わせた混合ブロックを行う。これも練習試行と本番試行の2回を行う場合もある。

入れ替えると,いずれかが一致ブロック,いずれかが不一致ブロックとなるわけであるが,どちらを先に経験するかは,回答者の半数ずつを割り当てることで,実験上のカウンターバランスを行う。順序の効果はそれほど強くはないと言われる。

不一致ブロックでは,たとえば,左に「女性,仕事」,右に「男性,家庭」となり,実際,反応を間違えたり,戸惑って遅くなったりすることが多くなる。

一回一回の反応の反応時間をコンピュータで測定しており,それぞれの混合ブロック(本番)での反応時間(正答箇所のみ)の平均値をとることで,速さの指標とする。これを混合ブロック間で比較するわけである。具体的には両者の差をとり,合体させた標準偏差で割り算することによって,D値と呼ばれる指標をとり,その大きさで判断する。通常,D値が高い方がステレオタイプ,偏見が強いという風に算出しておくことが多い(不一致ブロックでの平均反応時間から一致ブロックでの平均反応時間を引けばよい)。

このD値の大きさによってステレオタイプの強さ,すなわち頭のなかでのステレオタイプ的な概念連合の強度が測られるのである(Greenwald et al., 2003)。

ステレオタイプというのは認知であり,偏見は感情とされている。感情反応である偏見を測定するには,ポジティブとネガティブという対照語を用意した方がよい。ステレオタイプが混入するかもしれない「すばらしい」「いやな」のような語を用いることもあるし,概念連合であるので,まったく態度対象とは無関係の「平和」「戦争」などの語を用いることもある。名詞であっても形容詞であっても用いることができる。

したがって,商品などについてのイメージ,印象の研究であれば,その商品の特徴が,たとえば,「新しい」「斬新である」とか,「若者向け」,「身近」に感じるなどは,ステレオタイプと同じようなことばの意味での概念連合のある語を用いたらよい。

それに対して,全般的で包括的な印象を知りたいのであれば,「よい」「悪い」や「好ましい」「好ましくない」,あるいは,「平和」「戦争」などの無関連語を用いるとよい。

健康商品や,あるいはまだまだ認知の薄い代替肉などの食品,環境配慮意識に基づくエコロジー消費につながるような環境に配慮した商品など,どれくらい消費者がポジティブな態度を現況有しているかなどを測定する際に,効果的に応用可能である。

たとえば快楽度は高いカロリーの高い食品に対して,健康によいという考えがまさるのか,快楽に負けるのか,表2のような組み合わせでデータをとった結果,高カロリー食品と快楽との対応は性差によって調整され,男性では快楽性が高いが,女性では不快となった。

表2

IATの刺激例

単語は左右で対応している場合も,語義としては正確に対応していない場合もあり,その点は構わない。それぞれの概念についておよそ5個ずつ刺激語が用意できれば,測定上は問題がない。ただ,食品の場合,多くの人にとって嫌いでありそうなものがどちらかに偏って存在すると,そうした具体的な影響も受けるので,できれば,全体的な好意度を事前に予備調査で確認して,用いる語をセレクトすると望ましい。

食品の嗜好性には概して性差が見られたが,属性によって反応が異なることはしばしば観察される。そこで研究1として,自身の集団属性およびその集団への同一化の程度が,自集団高揚的な認知に影響が及ぶことの検証を試みた(Kitamura, 2019)。

研究1

中高時代の部活経験が,運動部と文化部の印象にいかに影響するか検討する。

方法

実験参加者 都内私立大学大学生30名(女性17名,男性13名),平均年齢,20.90歳(SD=0.80)であった。

IAT

運動部として用いた語は,野球部,サッカー部,陸上部,テニス部,バスケットボール部,文化部として用いたのが,美術部,写真部,家庭科部,将棋部,放送部であった。ステレオタイプ的特徴として,外向で活発という特徴に焦点をあて,運動部が活発で外向的であるという肯定的なイメージを検証した。

外向的である特徴は,積極的,明るい,活発な,はで,おおざっぱ,内向的な特徴としては,消極的,暗い,おとなしい,じみ,きちょうめんであった。

これらをPCを用いたVBAによるプログラミングでIATを構成し,反応時間を測定した。集団同一化はIATの後に,Karasawa(1991)を用いて測定を行った。

仮説

1.運動部の方が文化部よりも外向的特徴との結びつきが強く,運動部-外向(一致ブロック)の方が,そうでない不一致ブロックよりも平均して反応時間が速いだろう。

2.1の影響は,自身の所属部活が運動部であった者に強く見られ,文化部所属のものではこのIAT効果はより弱く示されると予測する。

3.1の影響は,集団同一化の得点が高い者において,より顕著に認められるだろう。

結果

高校で部活が運動部であった者が18名,文化部9名,中学においては,運動部22名,文化部8名であった。ちなみに,大学サークルでは運動系が6名,その他が24名であった。

反応時間は300 msec以下を300 msec,3,000 msec以上を3,000 msecとし,反応が正解のものだけについて,各ブロックで平均値,分散を算出した。不一致ブロックの平均反応時間から一致ブロックの平均反応時間を引き,合同された分散の平方根で割ってD値を求めた。

全体としてIATのD値では正であり,仮説1は支持された。部活所属によって,対応のないt検定を行った結果,高校時代の部活においては有意差が見られなかった。中学時代の部活所属では有意であった(t(28)=2.11, p<.05)。中学時代に運動部に所属していた者たちの方が,文化部に所属していた者たちよりも,運動部に対する外向的なイメージの連合が強く,仮説2も支持された。また,中学時代に運動部であった者においては,集団同一化得点とD値は正相関を示し(r=.437, p<.05),仮説3も支持された。すなわち自集団への同一視が強い者ほど,運動部イメージはより外向的で活発なものと認識されていた。

ほかに,地域のイメージとして,関東と関西のイメージを対照させてみると,特に関西の回答者において,関西がよりにぎやかで明るいというイメージがあることが,潜在測定からより明瞭に観察された(Kitamura & Sato, 2008)。このように非常に広いテーマにおいて,IATは活用することができる。印象をとるケースであれば,たいてい何に対しても対応可能である。

V. 測定にまつわる問題と柔軟性

ところで,この潜在測定はどれほどの安定性があるのであろうか。IATは文脈にも敏感であると考えられている。これは必ずしも悪いことではない。なぜなら,状況によって変化する態度の測定に適しているとも言え,広告などによって商品への態度を形成,変化させたい場合など,その変化を検証することに向いていることになるからである。

Gawronski and LeBel(2008)の研究では,評価条件づけによって新たな連合を直接追加する実験を行った(Exp. 2)。そうすると意識される部分の反映である顕在態度においては,変化が検出されなかったが,潜在態度においては,新たに連合されたポジティブ/ネガティブ情報にしたがって変化が観測された。このようなことは,実生活のなかでも生じる潜在学習(無意図的に学習される現象)に基づく潜在態度の方が変化しやすい場合もあることを示していると言えるだろう。

また,Lai et al.(2016)の研究では,教育的な介入や特定の状況的要因がIATスコアに影響を与えることが示されている。すなわち,受け手に対する何らかの介入や言及が影響を及ぼすことがあり,状況や文脈によって態度が変化する場合のあること,意識的な教育やキャンペーンが無意識的な態度に変化をもたらす可能性のあることが示されている。また,本人の自然な経験によっても時間にしたがって変化し,固定的でない可能性を示してる。

しかしながら,IAT研究に対する批判も見られる。アフリカ系アメリカ人に対する非言語的対応を含む相互作用を評価したMcConnell and Leibold(2001)によって示されたIATと現実の差別行動との関連の研究について,Blanton et al.(2009)は再分析を行い,関係が弱いこと,個人レベルでの行動予測は難しいこと,そもそも頑健にアフリカ系アメリカ人に対する否定的バイアスが見られているわけではない点について批判している。

控えめに言って,IATを一人一人の傾向性の予測に使うのは危険があり,集団の傾向性の変化(教育の成果など)などの検出に用いるのが妥当だと考えられる。個人の性格テストのような用い方でIAT値をもって,強い意味での診断結果であるとするには,誤差が多いと考えられよう。集団の変化を測定することは,効果的な環境変化や制度の変化などの実験的検討,介入的検討,キャンペーンの効果,販促上の効果,あるいは実際の施策の効果,組織の改編や業務の見直しに基づく効果の測定といった面で力を発揮する可能性につながる意味があるものと捉えることができるだろう。

Data Availability

本研究の根拠データは,情報提供者から許可を得ていないため,非公開である。


References

北村 英哉(きたむら ひでや)

東洋大学社会学部教授。関西大学等を経て現職。主要編著に,『偏見や差別はなぜ起こる? 心理メカニズムの解明と現象の分析』(ちとせプレス),『あなたにもある無意識の偏見:アンコンシャスバイアス』(河出書房新社),『私たちを分断するバイアス』(翻訳,誠信書房)などがある。

 
© 2025 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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