Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Featured Article / Invited Peer-reviewed Article
Diversified Consumer Practices in Online Spaces:
A Study of Online Brand Communities from the Perspective of Consumer Heterogeneity
Shunta RokushimaTakeshi Matsui
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 45 Issue 3 Pages 186-195

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Abstract

本論文は,日本におけるオンライン対戦ゲームのコミュニティの経験的研究を通じて,現代のオンライン・ブランド・コミュニティが,人々のどのような創造的実践およびその相互作用によって成り立っているのかを検討する。近年,インターネットや情報技術の発展に伴って,オンライン空間における人々のコミュニケーション手段が多様化している。特に,新型コロナウイルスの流行で新たな消費者層がコミュニティに加わったゲーム産業では,このような傾向が顕著である。本論文はこのような現象に注目し,まず,実践,動機,活用可能な資源,役割といった点で特徴の異なる消費者の実践が,どのようなものであるかを記述する。そしてそのような異なるタイプの消費者の実践がコミュニティ活動全体にどのように影響しているのかの検討を通して,現代のオンライン・ブランド・コミュニティをどのように捉えるべきかについて議論する。

Translated Abstract

This paper examines how contemporary online brand communities are formed through creative practices and interactions of people, based on an empirical study of online competitive gaming communities in Japan. In recent years, with the development of the Internet and information technology, the means of communication for people in online spaces have become increasingly diverse. This is particularly true in the gaming industry, where the spread of the new coronavirus has led to the addition of a new consumer group to the community. This paper focuses on this phenomenon and first describes the different practices of consumers who differ in terms of their motivations, available resources, and roles. Then, by examining how the practices of these different types of consumers affect community activities as a whole, we discuss how we should view contemporary online brand communities.

I. はじめに

情報技術の発展に伴って,オンライン空間おける消費者の実践およびその相互作用が多様化してきている。1990年代のインターネットの登場以降,人々の活動領域はオンライン空間へ広がっていった。こうしてオンライン空間に生まれた集団はオンライン・コミュニティ(online community)と呼ばれ,会話,情報などの資源交換,学習,遊び,ただ一緒に過ごすといった目的のためにオンライン上で人々が集まる場のことを指す(Kraut & Resnick, 2012)。とりわけ本論文の研究文脈であるブランド理論においては,このような現象はオンライン・ブランド・コミュニティ(online brand community,以下「OBC」と表記)と呼ばれ,特定のブランドを中心としてオンライン・プラットフォーム上に形成される,地理的な制約のない専門性の高いユーザーグループであり,集団的または共有された目標を達成することを目的とするものを指す(Behl et al., 2024; Muniz & O’Guinn, 2001; Wirtz et al., 2013)。

上述したOBCは,2000年代以降,消費文脈にけるコミュニティ研究で中心的な概念となっているブランド・コミュニティ(brand community,以下「BC」と表記)という概念をオンライン空間の現象に流用したものである。BCには同族意識,儀式と伝統,道徳的責任という3つの特徴があり(Muniz & O’Guinn, 2001),これらはオンライン上のコミュニティにおいても確認されている(例えばHakala et al., 2017)。BCはメンバー間の結びつきが強く,長期間存続するコミュニティである(Canniford, 2011)。BCを自己アインデンティティの一部とする消費者が存在し(Muniz & O’Guinn, 2001),ユーザー・イノベーションなどが見られることから(Franke & Shah, 2003),価値創造の場として注目されている。

そんな中,2000年代から用いられてきたBCに基づく消費者の集合的な現象の説明に限界があると指摘したのがArvidsson and Caliandro(2016)である。2010年代以降のモバイル端末やソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」と表記)の発展は目まぐるしく,人々は時間や物理的距離に制限されることなく肯定/否定の両方を含むブランドへの解釈を容易に観察できるようになった(Paschen et al., 2017)。このような技術的環境を踏まえArvidsson and Caliandro(2016)は,オンライン空間においてはブランドへの関心を同じくする消費者の間に,BCの特徴であるコミュニティの維持装置としてのメンバー同士の継続的な相互作用,熟慮されたコミュニケーション,首尾一貫した集団的アイデンティティなどが見られないことがあると指摘する。そしてそれらよりむしろSNSの共有機能による個人の視点や意見の集約,衝動的な個人的感情,多数のアイデンティティや解釈の併存が,現象を捉える上で重要になってきていると強調する。このような経緯からBCに代わる概念としてブランド・パブリック(brand public,以下「BP」と表記)が提示されたのである。

BPとは,SNSにおいて「ハッシュタグ」(#)などのインターネット機能を媒介して発生する,ブランドに関する個人の感情的表現によって形成される消費集団を指す(Arvidsson & Caliandro, 2016, pp. 1–5)。BPは参加者同士の社会的関係が希薄であるため,肯定/否定を問わず比較的自由な発言が許容される(Choi et al., 2019)。BPはオンライン上に存在する開かれた空間であり,人々はブランドに対する他者の意見や実践を観察したり,それを受けて独自の解釈を生み出したりすることができる(Kozinets, 2010; Matsui et al., 2023)。このような特徴から,BPではブランドを愛する人だけでなく,ブランドの批判者や(Scholz & Smith, 2019),第三者的位置付けのジャーナリスト(Hansen et al., 2018)もブランド現象を構成する一部とみなされる。以上のようにBPはブランド現象の周辺的な人々を議論に取り込んだ,BCでは捉えられきれない人々の集合的な消費現象を検討できる概念である。

上記の対照的な特徴を持つ2つの概念を念頭に実際の現象を観察すると,SNSが普及し,その使用が日常となった現代においては,両者が想定する消費者が共存し,それぞれの実践およびその相互作用によってコミュニティ活動が発展・変化しているように思われる。2010年代後半以降,テキスト,画像,録画された動画などのインターネット初期からのコミュニケーション手段に加え,リアルタイムの映像や音声,ギフティング,バーチャルアバターを用いた身動きなども他者とのコミュニケーション手段として人々に受け入れられるようになった。このような多様なコミュニケーション手段は,様々な人々の現象への参加を可能にした。その結果,本論文の事例を通して示すように,今日のオンライン空間におけるブランド現象は,情報交換や私的な交流にとどまらない長期的なコミュニティ活動から,ハッシュタグなどを用いた一時的な感情的表現まで含まれるものとして,現象の参加者に認識されるようになってきているのである。このような仮定に基づき,本論文の以下では,BCとBDのそれぞれで想定されている特徴を持った消費者が共存し,直接的・間接的に互いに影響を及ぼし合うオンライン上の集団を指して「現代のOBC」と表記する。

以上のような近年の変化を踏まえると,本論文は,現代のOBCがどのような人々の,どのような創造的実践によって成り立っているのかを実際の現象の分析を通して検討することに意義があると考える。このような問題意識から本論文は,2010年代中頃から活動が活発になっているオンライン対戦ゲームのコミュニティ活動に注目する。具体的には,オンライン対戦ゲーム「デッドバイデイライト」(Dead by Daylight,以下「DbD」と表記)の日本コミュニティの1つである「非公式大会グループ」を分析対象として,現代のOBCにおける消費者の実践とそれらの相互作用を解釈学的に分析する。2018年のユーキャン新語・流行語大賞に「eスポーツ」がノミネートされたことが示すように,近年はオンライン対戦ゲームが競技性のあるエンターテイメントの1つとして注目されている(Kawamata et al., 2023)。この傾向は2020年の新型コロナウイルスの流行を経てさらに加速したと推察され,10代から40代の男女を中心とする,近年の余暇の過ごし方としても洞察があると考える。

本論文の構成は以下の通りである。第2節では,現代のOBCにおける消費者の多様さを把握するための概念として異質性を説明し,既存研究において異質性がどのように扱われてきたのかを整理する。第3節では,本論文の事例であるオンライン対戦ゲーム「DbD」および分析対象である「非公式大会」グループについて説明する。そして本論文のデータと分析手法について概説する。第4節では,非公式大会グループに関連する消費者を本論文の分析を通して4つのタイプに分類し,実践,動機や目的,資源,役割という異質性の4つの観点から記述する。そして続く第5節では,第4節の発見事実を踏まえた上で現代のOBCの特徴について議論する。最後に第6節で本論文の結論と限界を整理する。

II. 既存研究の検討 コミュニティにおける消費者の異質性

本節では,現代のOBCに併存する多様な消費者を識別するために本論文が用いる異質性(homogeneity)という概念に関する議論を整理する。ブランド現象に関わる人々の多様化に伴い,消費研究において異質性が注目されるようになってきた。異質性とは,なんらかのまとまりの中に異なる性質を持ったものが存在することを表す概念である。既存研究を参考に,本論文では異質性を「主体の現象に関わる目的や動機,消費実践,活用・交換することができる経済的・社会的資源,および現象において果たす役割,における差異」(Thomas et al., 2013, pp. 1010–1013)と定義する。定義にある経済的資源とは「財,サービス,金銭的手段などの物質的役割を担う資源」を指し,また社会的資源とは「シンボル,人的ネットワーク,ステータスといった個人的・社会的アイデンティティの構築や,他者に意味を伝達する際に表現的役割を担う資源」を指す(DeLanda, 2006; Thomas et al., 2013)。

前節で論じた通り,現代のOBCは誰もが容易にアクセスできる性質から,特定のブランドに関する様々な解釈や実践に触れることができる場となっている。しかしながら,このような特徴が認められる一方で,OBCの中核を成す消費者の異質性については十分に検討されていない(Molander et al., 2023)。その理由としては,コミュニティ概念自体が消費者の同質性(homogeneity)に焦点を合わせるものであるからと考えられる(Thomas et al., 2013)。マーケティング領域において,コミュニティ概念がどのように捉えられてきたのかを整理したHato(2016)は,「メンバーがコミュニティと同一化することによって当該ブランドやコミュニティへのコミットメントを高めること」(p. 15)が企業のコミュニティ管理において重要であったと指摘している。また,消費者の同質性は市場のセグメンテーションでも有用であり(Keller, 2021),集団的アイデンティティや共有されている価値観といった同質性を理解することが,コミュニティの内外を識別する「境界線」を把握することになるのである。したがってこれまでの研究は,消費者の同質性とは何か,またそのような同質性はメンバー同士の絆,ブランドへの忠誠心,継続的なコミットメントをどう高めるかといった,より効果的なコミュニティ運営のための知識の創出に関心があったと理解できる。

既存研究では初心者と専門家(Sirsi et al., 1996)や,新規会員と古参の会員(Reinhardt & Hemetsberger, 2007)がどのように異なっているのかといったように,時折,消費者の異質性に言及することがあるが,これらは消費者の自己アイデンティティに対応するコミットメントのレベルや専門知識のレベルといった一次元の差異に限定される。しかしながら,消費コミュニティ研究における経験的証拠は,消費者の異質性が多元的であり,コミュニティ活動において重要な役割を担っていることを示している。例えば,Franke and Shah(2003)では,イノベーションに必要な資源や支援,またそのイノベーションがコミュニティ内で自由かつオープンに共有されていることを明らかにしている。これは,消費者の経済的資源や得意とする実践の違いを起点とした,メンバー間の相互行為と理解することができる。これらを考慮すると,消費者の異質性は,消費者同士の互恵的な相互行為を促進し,ひいてはコミュニティ活動の発展に寄与するといったポジティブな側面を有していると考えられる。

コミュニティ内の消費者の異質性には上述したようなポジティブな側面がある一方で,消費者同士の対立の起点となり,結果的にコミュニティ活動を衰退させる可能性も示されている。例えば,ブランドが発展し大衆市場に向けて展開されることは,古参の消費者にとって望まない主流化(mainstreaming)をもたらす場合がある。このような場合,古参の消費者はコミュニティを放棄したり(Irwin, 1973),新たなコミュニティを形成したり(Thompson & Coskuner-Balli, 2007),以前の意味を取り戻す運動に従事したりする可能性がある(Arsel & Thompson, 2011)。これらの消費者の反応はコミュニティを分断するものであり,SNSを用いた誹謗中傷などに発展する場合がある(Behl et al., 2024)。以上のように,特定のブランドや消費への関心を同じくする消費者の間には,コミュニティ活動やブランドの価値にネガティブな影響を与えうる異質性が存在する。しかしながら,繰り返し述べているように,消費者の異質性がオンライン空間でどのように消費者の実践に影響しているのかについての経験的証拠は少なく,上述した2つの側面の関係は明らかでない。

コミュニティ内の消費者の異質性に注意を払う例外的な研究に,長距離ランニング・コミュニティを分析したThomas et al.(2013)と,スキニージーンズのブランド・コミュニティを分析したMolander et al.(2023)がある。これらの研究では,コミュニティ内に共存する異なる消費目的・資源・実践などを特徴とする消費者グループが,状況に合わせて共同・併存・対立といった関係性を築きながら,ブランドの価値や意味を変化させていることが示唆されている。しかしながら,コミュニケーションや実践の面で多様化した現代のOBCにおいては経験的証拠が不足しており,現象の理解が進んでいない。

III. 分析対象と調査手法

1. DbDの概要と日本コミュニティにおける非公式大会グループ

上述した課題を解決するために,本論文が分析対象として選択したのがオンライン対戦ゲーム「デッドバイデイライト」(DbD)の日本のコミュニティである。DbDはカナダのゲーム開発・運営企業のビヘイビア社によって2016年にリリースされ,現在までサービス提供が行われている。このゲームはかくれんぼと鬼ごっこを組み合わせたようなゲーム設計であり,プレイヤー達は追いかける側と追われる側の2つの陣営(1人対4人)に分かれて競い合う。比較的シンプルなゲーム設計や操作方法にもかかわらず,緊張感のあるホラー体験などが評価され,世界累計プレイヤー数は6,000万人を記録している。また,派生ゲーム,コミックス,映画,アパレル製品,期間限定カフェやポップアップストアなど,その世界観を他の製品・サービスに付与することで付加価値を生み出しており,単なる流行のゲームではなく,継続的な成長を遂げているゲーム・ブランドであると本論文は捉えている。

DbDの日本コミュニティはオンライン上でのコミュニティ活動が盛んである。ツイッター(現エックス),ユーチューブ,5ちゃんねる(旧2ちゃんねる),ディスコードといったSNSやコミュニケーション・ソフトウェアを介し,ユーザーたちは日々,ゲーム・バランスやゲーム内での倫理的行動についての議論,ゲーム仲間の募集や交流,コスプレ写真や二次創作品に基づく交流,動画投稿やリアルタイム配信を通じた交流などを行っている。

複数あるコミュニティ活動の中でも,本論文が注目するのが「非公式大会」グループの活動である。ここでの非公式大会とは,ゲームの運営企業は関与せず,消費者が企画・運営を行うゲーム競技会を指す。非公式大会は2020年頃までは一部のコア・ユーザーの間だけでの遊びであった。このようなコミュニティ活動は「DbDはeスポーツを目指していない」という運営企業の方針1)から逸脱しているように見えるため,SNS上では一部の消費者から「幼稚な遊び」として批判されることがあった。しかしながら2021年に世界初の公式大会が日本で開催されたことをきっかけに,非公式大会というDbDの楽しみ方が注目されるようになった。公式大会のルールは,2017年からよりフェアで白熱した試合が生まれるようなルールを模索し続けてきた「企画運営者」や「選手」(次節で詳述する)からすると欠陥の多いものであったが,非公式大会の存在を知らなかった消費者に認知されたことや,ビヘイビア社がこの活動に「お墨付き」を与えてくれたことで大きな転換点になったという。

DbDは2020年の新型コロナウイルスの世界的流行の際に芸能人の狩野英孝氏などが動画配信サイトでゲームプレイの様子を配信し始めたことをきっかけに,20代から40代の男女を中心に知名度が上昇した。この時期にDbDを始めたユーザーは,社会人になってからはゲームと距離を置いていた人やそれまでの人生でほとんどゲームに触れてこなかった人が含まれ,コロナ禍以前からゲームを遊んでいたユーザーとはゲームの目的やコミュニティ活動の実践が質的に異なる。筆者は2019年から参加者の1人としてこの現象に関わる中で,非公式大会グループは以前からコミュニティ活動に従事していたコアなユーザー層とコロナ禍を経て新たに参加するようになった新たなユーザー層の相互作用によって発展してきた歴史があることを理解した。このような経緯から,DbDコミュニティは第1節で論じた現代のOBCにみられる多様なコミュニケーションおよび実践,そしてその相互作用が検討できる事例であり,本論文に適した分析対象であると考える。

2. 研究手法

非公式大会グループの活動がオンライン空間を中心に(発展として一部オフラインでの活動を含む)展開されていることを考慮し,本論文はネトノグラフィー(netnography)とエスノグラフィー(ethnography)をブレンドさせたアプローチを採用する(Kozinets, 2015)。ネトノグラフィーとは,技術文化の発展の過程で変化する人間の現実や社会世界の探求・理解を重要視し,それらをオンライン空間における人々の構築的・伝達的な現実をデータとして扱うことで明らかにする研究アプローチである(Kozinets, 2002, 2015, p. 121)。人類学者が行うような参与観察を含む現地調査であるエスノグラフィー(Sato, 2015)の技法を,オンライン上の文化やコミュニティの研究に応用したものであり,オンライン空間における人々の社会的なインタラクションとそこで構築されるコンテンツから人間の経験に対する文化的な理解を得ることを目的としている(Kozinets, 2010, p. 6)。

質的調査では,積極的なコミュニケーションのない観察と記録では,調査者の理解は単なる記述的説明に終わってしまう。そのため調査者は「メンバーにとって適切と思われるレベル」(Belk et al., 2013/2016, p. 170)で文化やコミュニティに参加し,直接的な体験や相手との交流を通して文化的意味を理解することが重要となる。したがって本論文では,オンライン空間を主とする文化的な複雑さに満ちた社会的世界に調査者が没入(immersion)し,コミュニティ活動やそこに属する消費者と深く関わることによってデータを収集する。

本論文は,筆者の2019年からの参加者としての経験に基づいてDbDの日本コミュニティの概要を整理し,調査対象者への半構造化深層インタビューや,オンライン上で実施されるイベント,日常的な実践,派生的なオフライン・イベントのフィールド観察および参与観察を通してKozinets(2015)が提言する次の3種のデータを収集した。第1に,「アーカイバル・データ」(archival data)は研究者が観察の結果,オンライン空間から発見・収集したあらゆるオンライン社会経験関連データのことを指す。この種のデータは,オンライン空間における人々の交流の歴史的事実や文化的なベースラインを確認するために用いることができる。第2に,「引き出されたデータ」(elicited data)は,研究者自身の社会的相互作用を通じて創出されたデータのことを指す。この種のデータは,研究者自身がオンラインコミュニティの一員として活動することによって生成されるデータであり,研究者による現象の汚染でもバイアスでもなく,観察法の本質である(Kozinets, 2015)。第3に,「生み出されたデータ」(produced data)は調査者が社会的フィールドにおける自身の経験を振り返ることによって作成されるデータのことを指す。調査中に観察したもの,見聞きしたキーワード,調査者の暫定的な思考を記録したフィールド・ノーツ2)が該当する。表1は本論文の具体的なデータを要約したものである。

表1

本論文のデータセット

出典:筆者作成

分析作業はBelk et al.(2013/2016)Giesler and Thompson(2016)Kozinets(2010, 2015),Sato(1998, 2002, 2008, 2015),Silverman(2014)のガイドラインを参考にしながら行う。収集したデータは,定性調査のための分析ソフトウェア「MAXQDA」に蓄積し,質的データ分析の手法の1つである質的コーディングによって分析する。質的コーディングは,⑴「エミック」(emic)なコードと「エティック」(etic)なコードを収集したデータに付与し,⑵それらが集約可能か検討する,という2つの作業の反復を通して,実際の現象と既存研究の知見の両方の立場から,理論的な洞察を得ようとする分析手法である。エミックなコードとは,研究対象者が語る言葉そのものから直接作り出されるコードを指し,エティックなコードとは,調査対象者が必ずしも用いるわけではないが,適応がその学術分野で適切であると考えられる言葉や概念から作り出されるコードを指す(Belk et al., 2013/2016)。この2つのコードをデータに付与していくことで,データの中から注目すべき意味のまとまりを抽出する。第2の段階は,第1の段階で割り振ったコードが,より抽象的なコードにまとめることができるのか,あるいはより細かいコードに分解できるのかを検討する。以上の作業の反復を通して,データから生み出した複数のコードをカテゴリ化し,高次の抽象的な概念として現象を理解し,コードの間に「関係性」を見出すことで理論化を進めていく。

IV. 発見事実

本節では調査および分析を通して明らかになった,DbDの非公式大会における消費者の実践を記述する。表2は,非公式大会に関わる消費者の特徴を異質性に基づいて整理したものである。以下ではそれぞれの消費者の実践,動機,利用・活用している資源,コミュニティにおける役割ついて記述する。

表2

異質性に基づく消費者の分類

出典:筆者作成

1. 企画運営者

「企画運営者」とは,非公式大会を企画し,オンライン上で催しを執り行う消費者のことを指す。企画運営者は,自身のアイデア,デザイン・スキル,人的ネットワークなどを活用し,大会規定の検討,SNSでの周知活動,対戦組み合わせの決定,配信画面の設定や操作,点数の集計,不正の有無の判断などを行う。こういった活動はエックスなどのSNS,ディスコードなどのコミュニケーション・ソフトウェア,OBSなどの動画配信管理ソフトウェア,ユーチューブなどの動画配信プラットフォームなどを利用して行われる。

非公式大会が大きくなると,企画運営者は非公式大会に運営補助者を自身の人的ネットワークから招き入れ,大会運営チームを組織化していく。このような組織化が進められることで,上述した仕事をより適性のある消費者が担うようになり,非公式大会中の映像演出などがより洗練されたり,企業とコンタクトを取ることができるようになったりしていった。このような結果,近年は非公式大会にスポンサー企業が付くようになり,運営機材や優勝賞品がより充実したものになってきている。2021年に発足された「Dead by Daylight Informal Championship of Japan」(以下「DIC」と表記)という非公式大会の団体は,運営効率化のために一般社団法人化し,東京や大阪などでホテルのホールやイベントスペース借りて大規模なオフライン・イベントを開催している。

企画運営者は非公式大会の開催を通じてDbDコミュニティの発展に貢献することをその動機としており,後述するその他の消費者に交流の場を提供する役割を担っている。SNS上では非公式大会という催しへの批判や,非公式大会関係者の言動に対する指摘・誹謗中傷が一定数あるものの,それらを踏まえた主催団体としての見解・対応を企画運営者が示すことで,このような交流の場が維持されている。

2. 選手

「選手」とは,非公式大会にプレイヤーとして参加する消費者のことを指す。1万時間以上かけて洗練された操作スキルや,それぞれの対戦場面おける定石およびゲームの仕様に関する知識などを活用し,ハイレベルのパフォーマンスを披露することで非公式大会を盛り上げる,このコミュニティの「主役」である。

前述の通り,DbDの運営企業であるビヘイビア社は,プレイヤーが勝敗の結果を追求するeスポーツのようなゲームにはしないという企業の方針を明らかにしている。ただしこれは競技性に注目したコミュニティ活動を否定するものではなく,追いかける/追われるという非日常的なホラー体験やそれを通じた他者との友好的な交流,興奮というものを重視してゲーム開発を行うという意図がある。しかしながら,上述したような方針のため公式大会は滅多に開催されず,消費者によって自主的に行われている非公式大会が実質的には腕前を競い合う最高峰の舞台として人々に認識されている。したがって腕自慢の選手にとっては非公式大会こそが晴れの舞台となり,競合選手との駆け引きや腕試しといった体験,そして試合を勝ち抜くことで獲得できる栄誉がコミュニティ活動の動機となる。

選手たちはオンライン上でチームメンバーを募集し4~6人程度のチームを結成する。このメンバーは非公式大会が始まった初期はオフラインの交友関係に基づいて組織されることもあったが,発展に伴ってSNS上の人的ネットワークがその基盤になってきている。選手たちは仕事や学業の合間を縫って週に1回以上2,3時間のチーム練習時間を確保し,コミュニケーション・ソフトウェアを使って会話をしながら戦術や連携の確認をする。非公式大会の募集がSNS上に公開されれば応募し,抽選や予選会を突破することで本戦に進む。

実力のある選手たちは,ユーチューブなどの動画配信プラットフォームで日常的なゲームのプレイ風景をリアルタイムで配信することで,さらなる人気を集めている。このような実践はDbDを始めたばかりの初心者や,操作スキルおよび知識の向上を目指す消費者にとって有益な場となり,DbDの「師範」として支持されるようになっている。また選手は,非公式大会やリアルタイムの配信活動によって築いた社会的地位を活用し,マンツーマンのコーチング活動なども行なっている。「スキルタウン」や「ココナラ」といった消費者間取引を円滑にするプラットフォームが活用され,動画配信プラットフォームからの収益などと合わせて選手の収入源となっている。このように選手たちが自身のスキルを活用してマネタイズしながら後進のプレイヤーを育成する実践は,非公式大会に継続的に新たな消費者が参加することを促しており,したがって選手は「非公式大会の存続のための装置」の役割を担っていると考えられる。

3. 観客

「観客」とは,動画配信プラットフォームを介して非公式大会の様子を観覧する消費者を指す。観客は,高い操作スキルを持つプレイヤー同士の対戦をエンターテイメントとして楽しむこと,特定のチームや選手を応援すること,自身のスキル向上のために洞察を得ること,この種のコミュニティ活動を批判することなどを目的として,非公式大会に関わりを持っている。観客の実践としては,ユーチューブなどの動画配信プラットフォームで選手の活躍を視聴したり,その感想や情報をSNS上に投稿したりする。視聴中はチャット欄に流れる大量のコメントの一部として非公式大会に加わり,自身の考えや興奮をテキストやスタンプという形式に変換して表現する。非公式大会の規模が大きくなるにつれてチャット欄は大量のコメントで溢れてしまい,テキストチャットによる観客同士の会話や,出演者とのやりとりは少なくなっていく。そのため動画配信プラットフォームのチャット欄は,相互作用の場というよりも観客の興奮や心情を一方的に表現するための場となる。また観客はここで目にした体験をSNSやネット掲示板にも投稿する。配信場所では肯定的なコメントが圧倒的に多いが,SNSやネット掲示板などでは否定的な意見が述べられることがある。

また観客は,運営団体(企画運営者)の個人スポンサー(一口1,000円前後から)になったり,選手および運営団体のメンバーシップ制度(一月あたり500円前後)に加入したり,選手のコーチング(2時間で3,000~5,000円程度)を受けたりすることで,コミュニティ内の交流を促進している。さらにオフラインのコミュニティ・イベントが開催される際には,SNSなどで一時的に他の観客と協力し,会場に装飾品としてフラワースタンド(5万~10万円程度)を提供したりする。以上のような観客の実践に注目すると,コミュニティ内の別の消費者(企画運営者や選手など)に対して金銭的な援助をすることも観客の役割として理解できる。観客は企画運営者や選手に比べて人的ネットワークや社会的地位といった社会的資源が少なく,それゆえ観客同士の結びつきは希薄であるものの,オンライン空間で上述したような実践にはげむ総体として捉えた場合には,経済的資源によってコミュニティ活動を下支えする存在であると理解できる。

4. 提携者

「提携者」とは,DbDコミュニティ内の別のグループに属しながら,非公式大会グループの活動の支援を行う消費者である。第3節で述べた通り,日本のDbDコミュニティは非公式大会を中核とするグループ以外にも,様々なコミュニティ活動に基づくグループが併存している。提携者は,このグループの垣根を越えてコミュニティ活動を行なっており,非公式大会グループに新たな資源をもたらしていると考えられる。

例えば,非公式大会の配信に出演し,司会進行や戦況の説明をする実況解説者のポジションは,ゲームに関する知識が多く,話術に長け,カジュアルにゲームをプレイする消費者から人気が高いゲーム実況者が,有償の依頼を受けた上で仕事として務めることがある。したがって実況解説者は,現実世界のスポーツ中継のフォーマットを模倣することで非公式大会を人々に馴染みのあるものにしながら,非公式大会グループと別のグループの消費者を結びつける役を担っているのである。

また別の例として,DbDの登場キャラクターを含むイラスト制作,二次創作品の制作,コスプレ活動などを通して他者との交流を図るアーティスト消費者は,企画運営者や選手との消費者間取引を通して非公式大会グループに貢献している。企画運営者との間では,参加賞として選手ごとにイラストを作成したり,優勝の景品としてオリジナル・フィギュアを制作したりする仕事を依頼されることがある。また,選手との間では,選手紹介の際に用いられるアイコンの制作依頼を請け負ったりしている。DbDのOBCでは消費者のアイデンティティを表すものとしてアイコンが重要視されており,このようなアイコン制作依頼を「正装に着替える儀式」とみなす消費者もいる。さらに,非公式大会では試合と試合の間の準備時間を活かして,コスプレ写真コンテストやイラスト制作コンテストを開催することもある。コンテストはエックスにハッシュタグを付けた上で作品を投稿することでエントリーでき,したがって非公式大会は選手以外の消費者にも活動の場を提供している。

V. 議論

前節で確認した消費者の多様な実践や役割を踏まえると,近年のオンライン空間におけるブランド現象は,BCの特徴とBPの特徴の両方が同時に存在し,複雑に絡み合っていると考えられる。本論文の分析対象であるDbDの非公式大会グループでは,企画運営者,選手,提携者の実践は協業的であり,非公式大会の実施とその成功のためにそれぞれの役割を全うしている。この3者間では同じコミュニティ活動に従事するメンバーとして「大会関係者」という集団的アイデンティティを共有しており(同族意識),また非公式大会という消費者文化が存続し続けるように参加の手続き,規約,罰則等の制度化が進んでいる(儀式と伝統)。さらに他のグループの消費者から「大会関係者が人知れず非倫理的な行為をして他のプレイヤーに嫌がらせをしている」というような批判を受けないよう,大会関係者は高い倫理観を持って普段から行動することが徹底されている(道徳的責任感)。このような特徴を鑑みると非公式大会グループはBCの側面を持つと考えられる。

その一方で観客は,非公式大会グループに関連する消費者の中では周辺的な位置付けになっている。前節で記述したように観客は非公式大会に関わりを持っているものの,それらは「熟慮されたコミュニケーション」(Arvidsson & Caliandro, 2016)とは呼ばれないだろう。したがって,観客の実践は,現象に対する消費者の考え,興奮,心情が可視化されたものであり,肯定/否定の両方を含む,集約された感情的表現として人々の前に現れる。以上を踏まえると,非公式大会グループはBPの側面も有している現象であると考えられる。

本論文は,非公式大会グループは実践,目的,活用・交換可能な資源,役割の異なる様々な消費者たちによる,これらの2つの側面の相互作用によって発展してきていると考察した。現在の非公式大会グループを形作った2021年頃に注目すると,当時の非公式大会は企画運営者や選手たちの数年間にわたる検討によって制限やルールといった点では成熟しつつあった。しかしそこに異質性の4つの観点で異なる特徴を持った新たな消費者が現象に加わったことで,その様相が大きく変化した。観客の動機として「エンターテイメントとして興味がある」や「操作スキルや知識について知りたい」というものがあることを述べたが,これらの動機が発展すると「独自のルールで非公式大会を主催してみたい」「自身もプレイヤーとして参加したい」というようなものに変化する場合がある。このような経緯で現象に新たな消費者が加わるようになったことで,それまでにない解釈をもとに新しいタイプの非公式大会や新チームが生み出されていったのである。

2020年以前の非公式大会は「誰が一番,テクニックが洗練されているか」のみに焦点が合わせられていたが,上述した新たな消費者の加入の中で生まれてきた非公式大会は「女性プレイヤーの中で」や「大会への出場経験が浅いプレイヤーの中で」といったような参加者の属性に制限を設けるものや,「1対1の上手さ」「隠密行動上手さ」「一番「恥ずかしい」プレイヤーを演じられるか誰か」といったようにゲームのルールの根本部分を改変するようなアレンジが数多く考案されていった。その結果,ハイレベルの非公式大会は敷居が高く感じられ参加を見送っていた消費者たちが,自身の技量やゲームに求める価値観の観点で適合する非公式大会を選択し出場できるようになっていった。

以上のように本論文の分析対象においては,BCの特徴(同族意識,儀式と伝統,道徳的責任感)と,BPの特徴(インターネット機能による個人の視点や意見の集約,衝動的な個人的感情,多数のアイデンティティや解釈の併存)の双方が見られ,その相互作用がコミュニティ活動の発展に繋がったと結論づける。

VI. おわりに

本論文は,情報技術の発展に伴ってコミュニケーション手段が多様化した現代のOBCがどのような人々の,どのような創造的な実践によって成り立っているのかについて,オンライン対戦ゲームのコミュニティを分析事例として考察した。本論文の結論としては,現代のOBCはBCとBPに見られる特徴を持つ消費者が共存しており,それぞれの消費者の実践と相互作用によって,そのコミュニティ活動が発展・変化してきている。このような結論は,近年のブランド現象は境界線が曖昧になっており,ブランドとそのコミュニティをどのような枠組みによって捉えるべきか再検討する必要性を示している。ここまで論じた通り,近年のブランド現象は,ブランドを愛する消費者だけでなく,態度,実践,コミットメントの程度が異なる消費者たちが複雑に関わる現象になってきている。そのためそれらを包括的に捉える理論的枠組みを検討することが,学術的にも実務的にも重要であると本論文は考える。

最後に本論文の議論と関連付けながら今後の経験的研究を進める上での課題を2点挙げる。第1に,現代のOBCにおける消費者グループ間の影響関係を考慮することである。Molander et al.(2023)などの例外的な研究を除いて,そのような側面がブランドの価値創造にどのような影響があるかを検討した研究はほとんどない。この点については,本論文の非公式大会グループは,他のグループとの関わりを考慮できる提携者の議論によって,部分的に対応できる分析対象であったと考えているが,十分に検討できたわけではない。したがって,今後のより綿密な調査においてはグループ単位の異質性や相互作用も考慮に入れ,分析を行う必要があると考える。

第2に,消費者を中心としたオンライン上の現象に企業がどのように関わっているのかを検討することである。本論文においては,企業がスポンサーとして非公式大会へ参加するようになったことが,一部から批判があったこのコミュニティ活動に「本物の大会らしさ」を付加した要因の1つになっていると考える。このような企業との連携がどのような交渉・実践の中で発展するのかを検討することは,消費者の立場が強くなってきているオンライン空間においては,ブランド現象をより深く理解するために重要であると考える。現象に関わる様々な主体を考慮した調査および分析は長い調査期間を必要とするが,本論文と異なる文脈を含め,さらなる研究の蓄積が期待される。

謝辞

本特集号の担当シニアエディターの山本晶慶應義塾大学教授に心より感謝致します。また,株式会社碩学舎ならびに財団法人吉田秀雄記念事業財団による研究助成に御礼を申し上げます。

Data Availability

本研究の根拠データの参照を希望する読者は,用途の詳細を明記の上,著者にEメールにて請求されたい。


1)開発企業であるビヘイビア社は,DbDを明確な勝ち負けの基準があるにゲームにするのではなく,プレイヤーのそれぞれが独特の体験を楽しめる点を重視した開発方針をとっていることを明言している。(https://automaton-media.com/articles/interviewsjp/20191007-103384/,2025年3月6日最終アクセス)

2)フィールド・ノーツとは,調査において作成されるメモ書きのことであり,紙やテキストファイルへの物理的なメモから,デジタルファイル,音声録音,ビデオファイルに記録された調査者の思考まで様々な形式をとる(Kozinets, 2015)。

References

六嶋 俊太(ろくしま しゅんた)

一橋大学大学院経営管理研究科特任講師。2019年大阪経済大学経営学部卒業。2021年一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了を経て,2025年同研究科博士後期課程単位取得退学。

松井 剛(まつい たけし)

一橋大学経営管理研究科教授および東京科学大学エネルギー・情報卓越教育院教授。主著は『ことばとマーケティング:「癒し」ブームの消費社会史』(碩学舎),『アメリカに日本のマンガを輸出する:ポップカルチャーのグローバル・マーケティング』(有斐閣)。

 
© 2025 The Author(s).

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