2025 Volume 45 Issue 3 Pages 183-185
This special issue revisits the concept of online communities within the contemporary media landscape. Defined as any virtual space where people come together with others to converse, exchange information or other resources, learn, play, or just be with each other (Kraut et al., 2012), online communities have undergone significant transformations due to advances in information technology. The proliferation of sophisticated devices and diverse digital content, alongside the ubiquity of freely available digital resources, has reshaped their nature. While online communities at the early stage were characterized by text-based communication via platforms such as bulletin boards, mailing lists, and early social networking services, current modalities of exchange have expanded to encompass financial and non-financial support, commerce, viewership, and competitive engagement, with participants extending from human users to virtual avatars, and a mixture of both. Furthermore, the traditional dichotomy between offline and online communities is increasingly blurred by technologies like mixed reality. The rise of enterprise social networking platforms has also fostered the growth of online communities beyond consumer-to-consumer interactions, shedding light on business-to-business interactions. This special issue aims to consolidate diverse scholarly perspectives on these evolving phenomena, offering a critical re-examination of online communities in the context of the present-day media ecosystem.
オンライン・コミュニティとは「会話,情報などの資源交換,学習,遊び,ただ一緒に過ごすといった目的のためにオンライン上で人々が集まる場」である(Kraut et al., 2012)。近年の情報技術の進歩による端末やコンテンツの進化と多様化,無償のデジタル財の普及などに伴い,オンライン・コミュニティはその姿を変化させている。インターネット黎明期においては,テキストベースの情報交換を,掲示板やメーリングリスト,SNSで行うことが主流であった。現在の交換の在り方は,従来から存在するテキストベースの情報交換に加えて金銭的・非金銭的応援,売買,観戦,対戦など多岐にわたり,参加主体も人間,2D,3Dのアバターなど多様である。また,従来のコミュニティにおいてはオフライン・コミュニティとオンライン・コミュニティを個別に検討していたが,現在は複合現実(mixed reality)などの技術によってオンラインとオフラインの境界が曖昧になりつつある。さらに,法人向けSNSやB2Bコミュニティの普及により,B2C,C2C以外のオンライン・コミュニティも多く生まれている。このような状況で,オンライン・コミュニティに関連した幅広い論文を集め,オンライン・コミュニティを現在の社会・方法環境で再検討したいというのが本特集号のテーマの意図である。本特集号の招待査読論文の執筆者は,マーケティングおよび消費者行動の気鋭の研究者たちである。以下に本特集号の論文の概略を紹介する。
六嶋・松井論文では,オンライン対戦ゲームのコミュニティを分析事例とし,オンライン空間において多様化する消費者の実践を考察している。本研究の重要な特徴は,オンライン・コミュニティの在り方を現代の情報環境下で再検討している点である。オンライン・コミュニティはMuniz and O’Guinn(2001)が提唱するブランド・コミュニティ(BC)が理論的基盤であった。その後,市場環境の変化に伴い,新たな概念としてArvidsson and Caliandro(2016)がブランド・パブリック(BP)という概念を紹介した。本研究は2025年現在においては,BCとBPの両者が想定する消費者が共存し,それぞれの実践およびその相互作用によってコミュニティ活動が発展・変化しているという見解を問題提起として提示し,そうしたオンライン上の集団を指して「現代のOBC」と表記し,考察している。また,分析にあたりアーカイバルデータ,引き出されたデータ,生み出されたデータの複数のデータを用いて多角的に検証を行っている点も,本研究の価値を高めている。
福田・赤松論文は,現実世界のステータスブランドが,物理的な実体を持たないメタバースの仮想製品において,その価値をどのように転移させるのかを明らかにしている。本研究の独自性は,「フィジタルフレンド」という新しい概念を導入している点である。フィジタルフレンドとは物理空間で対面接触があり,かつメタバース上でも交流する友人として概念化された,現実世界とデジタル空間を往来する独特の交友関係である。メタバースと現実社会が融合しつつある環境において,物理空間とオンライン空間の境界はあいまいになりつつあり,主体間の関係性もオンライン・オフラインの二元論では語れなくなっている。本研究で紹介されている通り,メタバースはグッチやナイキなど多くのブランドが注目し,マーケティング施策に取り入れている。本研究はこのメタバース空間における価値の転移について,3つの実証研究を通じて新たな知見を提示しており,理論的貢献だけでなく,メタバース上で仮想製品や関連体験を提供する企業にとっても価値ある研究となっている。
柿原論文では,VTuberとオーディエンスの相互作用を,Hoffman and Novak(2018)の「消費者―オブジェクト集合体」理論に基づいて考察している。VTuberとは,実在する人物(配信者)がデジタルアバターを通じ匿名性を保持しながらコンテンツを発信する新形態のクリエイターである。VTuberは主にYouTubeなどの動画プラットフォームでコンテンツを配信する点は人間のYouTuberと共通しているが,配信画面上で表示されるデジタルアバターは,それ単体でキャラクターとしてのペルソナ設定やストーリーを持つことが多いという。そのため,VTuberは「実在する配信者」であり,自律した「ペルソナ(人格)」でもあり,様々な設定に基づく「フィクショナルなキャラクター」でもある。近年,消費者行動の領域ではアバターやロボットなど「人間ではない何か」を対象とした研究が蓄積されているが,本研究の対象は現実と仮想の境界が曖昧であるという点で興味深く,新規性が高い。また,リサーチデザインとして定量調査と定性調査を組み合わせて分析している点も本研究の議論にリアリティと深みを与えている。
厳・髙橋論文はYouTubeにおけるビューティー・ファッション系のインフルエンサーを対象とし,インフルエンサーの信憑性や消費者の羨望が,パラソーシャルな関係性を通じて推奨意向にどのように影響するのかを構造方程式モデルを用いて分析している。コミュニティの在り方は変化しても,そのコミュニティのなかで平均的な参加者よりも大きな影響力を持つインフルエンサーは依然として存在しており,その重要性は増している。また,インターネット黎明期のインフルエンサーはテキストベースでその影響力を形成していたが,現在のインフルエンサーの主戦場は動画である。インフルエンサーが一般化するなかで,インフルエンサーとオーディエンスとの関係性も,共感,尊敬,羨望,そしてパラソーシャルな関係性など,多様になっている。マーケターはインフルエンサーを起用する際に対象製品との相性を慎重に検討することが必要となるが,本研究はインフルエンサー・マーケティングの実践,特にインフルエンサーのキャスティングに実務的な示唆を与えてくれるものである。
長橋・及川論文では,B2Bブランド・コミュニティに焦点を当て,参加者の能動的な参加行動とブランド・ロイヤルティの関係を,社会的認知理論における自己効力感のフレームワークを用いて解明している。従来のオンライン・コミュニティ研究の多くはB2C,C2Cの文脈で研究されており,B2Bコミュニティは多くの企業が導入しているにも関わらず,研究論文が蓄積されてこなかった。そうした意味で,本研究はコミュニティ研究のリサーチギャップを埋めるものである。本研究ではB2Bブランド・コミュニティ参加者を対象とした定量調査を実施し,その分析結果の知見を踏まえてコミュニティ・リーダーへの定性調査を実施し,参加者の自己効力感の源泉となる代理体験と言語的説得が実際にどのようなものなのか,またそれがどのように制御体験と能動的参加行動につながるのかを明らかにしている。Blanchard et al.(2022)は実験と質問調査票など複数のデータセットを用いた論文を“data rich articles”と呼び,混合アプローチの利点を主張しているが,本研究も定量と定性の混合アプローチによって対象への深い洞察を実現している。
これらの5本の論文は,オンラインゲーム,メタバース,VTuber,YouTuber,B2Bコミュニティなど,多様な現象を扱っており,そのこと自体がオンライン・コミュニティの多様化を体現している。また,これらの論文の分析アプローチは定量,定性,混合研究法と多岐にわたっており,分析対象の理解に深い洞察を与えている。オンライン・コミュニティは構造化・非構造化データを大量に生成する。このデータの特徴は,定量・定性の両方の研究アプローチを必要とする。また,オンライン・コミュニティ上の参加主体の行動は参加主体の動機や感情,主体間の複雑な関係性を反映するため,その実態を正しく理解するためには定量・定性の両方のアプローチが重要であることが伺える。本特集号が,読者の知的好奇心を刺激し,オンライン・コミュニティを対象とした新たな研究が生まれることを願っている。