2020 Volume 1 Issue 1 Pages 3-11
本稿では,近年利用者が減少しているゴルフ場の活性化につながるマーケティング戦略を検討することを目的とした。まず,これまでゴルフ場が実施している取り組みではなぜ利用者が増加しないのか分析した上で,「サービス・ドミナント・ロジック」を援用した新たな取り組み事例を示し,その効果をゴルフ場関係者や参加者へのインタビューによる調査を通じて検証した。検証は,ゴルフ場と利用者の関係に着目し,顧客と価値を創り出す価値共創概念を援用し参加者を増やした事例として,「ゴルフ甲子園」を取り上げ,文脈価値と価値共創の視点で考察を行い,ゴルフ場と利用者との共創によって生み出される文脈価値に焦点を当てた視点から,ゴルフ場の新たな活用法の可能性を示した。
The number of users in golf courses has decreased recently. The purpose of this study was to investigate a marketing strategy to revitalize the golf course operation business. In this study, we analyzed why measures taken to date were not effective to increase the number of users. We then evaluated the business case in which ‘service-dominant logic’ was newly incorporated, and examined its effectiveness based on the interviews with those concerned with the golf course and their guests. Focusing on the relationship between the golf course and users, the competition called ‘GOLF KOSHIEN’ is one of the cases that increased the numbers of guests using the co-creation value concept. From this study, it is considered that a golf course has potential as a new utilizing method from the perspectives of value co-creation and the value-in-context developed by the golf course and its users.
日本のゴルフ場の歴史は,1901年に創設された兵庫県神戸市の神戸ゴルフ倶楽部に始まった。ゴルフ場数は,1960年代の高度経済成長期に急速に増加したものの,2002年には2,460箇所とピークを迎えている。しかしながら,2015年には2,317箇所とピーク時の94%にまでゴルフ場数は減少している。他方,ゴルフ場利用者は,1992年の1億232万人/年(5万456人/ゴルフ場数・年)をピークに,2015年には8,650万人/年1)(3万7,874人/ゴルフ場数・年)とピーク時の85%にまで減少している。つまり,ゴルフ場利用者が減少傾向にあるにも関わらず,ゴルフ場数を増やしたために,一ゴルフ場あたりの利用者数は減っている。この様な状況において,日本のゴルフ場の倒産件数は,1990年代後半から増えはじめ,2002年に倒産件数は108件,その後2009年までの間に倒産件数は600件を超えた(Saito, 2012)。以上から,ゴルフ人口が1992年をピークに下降しているにもかかわらずゴルフ場の建設が続くことで,ゴルフ場数が過剰になっていることがわかる。
2. 研究の動機と目的1992年以降,ゴルフ人口が減少した多くのゴルフ場は,割引券による利用者のプレー料金の値引きや特典2)を付与して薄利多売の方法で誘客してきた。結果,利用者の単価は下落し,薄利で利用者を奪い合う状況に陥っている。その一方で,ゴルフ場利用者の増加にはつながっていない。
このような状況を解決するためには,ゴルフ場利用者を増やしている成功事例を調査し,その特徴を詳細に研究する必要がある。現に,値引きや特典を付与する方法以外で,ゴルフ場と利用者との間で価値を作り出す参加者の組織やゴルフ場と参加者の組織が存在し,集客に成功している事例がある。本研究において,当該事例を通じて,ゴルフ場利用者が増える新たな方法を研究することは,利用者が減少しているゴルフ場経営の将来にも活路を与えることとなろう。
ゴルフ場経営に関する先行研究には,ゴルフ場の社会的責任や役割について経営戦略と課題を指摘した研究(Katayama & Yashiro, 2004)や,組織論の観点から日本経営品質賞受賞企業である千葉県夷隅ゴルフクラブを事例分析したWatanabe(2008)による研究がある。しかしながら,ゴルフ場と顧客との関係を題材にした先行研究は存在しない。そこで,企業と顧客との関係性について視点を向け,サービスをプロセスとして捉えて研究するサービスロジック3)の研究と,顧客を競争優位のコア・コンピタンス4)として捉えている研究の適用を検討する。この2つの分野の研究には,企業と消費者・顧客が協力しながら価値を創造するという共通概念が存在する。この概念は価値共創とよばれ,2000年代になってから企業戦略論とマーケティング論とで議論されるようになった。企業戦略論では,企業が顧客を価値創造の協力者として捉えることで,企業の競争力の源泉となる(Prahalad & Ramaswamy, 2004)。彼らによれば,企業は,多彩な消費者の経験に焦点を合わせ,絶えず経営資源を組み替え,消費者コミュニティと触れ合うことで,消費者の状況に応じてイノベーションを行わなくてはならない,と主張している。他方,マーケティング論においては,Vargo and Lusch(2004)により“サービス”5)を軸として,市場やマーケティング,企業や顧客との関係を捉え直したサービス・ドミナント・ロジック(以下,S-Dロジックと称す)といわれる概念が提唱された。
2. サービス・ドミナント・ロジックとグッズ・ドミナント・ロジックVargo and Lusch(2004)は,グッズ・ドミナント・ロジック(以下,G-Dロジックと称す)は,製品(グッズ)の生産と交換をビジネスや経済学の主要な構成要素と捉えて「グッズ中心」の概念であると説明し,グッズ中心では,企業と顧客の関係は,企業が生産過程でグッズに価値を埋め込んでいくことで価値を作り出し,顧客は価値を消費する関係になるとした。しかし,顧客が望んでいるのは,グッズを使用したことで得られる体験や経験の「使用価値」であり,従来のG-Dロジックの「交換価値」の概念では,顧客の望む価値であるS-Dロジックの「使用価値6)」の概念を捉えにくいと主張した。一方でS-Dロジックは,モノとサービスとは区別せず,“サービス”を中心に経済活動を捉えている。
S-Dロジックが成立するためには,基本的前提が11個7)(Foundational Premises,以下,FPと称す)ある。上位概念としての5つの公理はS-Dロジックの土台をなし,FPのプラットフォームとしての役割を果たしている。それらがS-Dロジックの基本構造を形成している(Vargo & Lusch, 2016)
(公理1)FP1:サービスが交換の基本的基礎である,FP2:間接的交換は交換の基本的基盤を見えなくする,FP3:財はサービス供給のための伝達手段である,FP4:オペラント資源は競争優位の基本的源泉である,FP5:すべての経済はサービス経済である,
(公理2)FP6:顧客は常に価値の共創者である,FP7:企業は価値提案しかできない,FP8:サービス中心の考え方は顧客志向で関係的である,
(公理3)FP9:全ての経済的および社会的アクターが資源統合者である,
(公理4)FP10:価値は常に受益者によって独自にかつ現象学的に判断される,
(公理5)FP11:価値創造はアクターが創造した制度や制度配列を通じて調整される
この中で,価値共創に関わるFPは,FP6,FP9,である。文脈価値に関わるFPは,FP10である。
そこで,次章ではFPを使いゴルフ場の事例から文脈価値や価値共創の概念の要素を見つけ出すことを検討し,文脈価値と価値共創の概念をもとに事例を分析していく。
3. これまでのゴルフ場経営の取り組みとG-Dロジックの交換価値ゴルフ場は,誘客のために様々な取り組みをしてきた。その1つがオープンコンペと言われる競技形式のイベントである。このイベントは,ゴルフ初心者や良いスコアが出ない人でも成績が上位になるようにハンディキャップを付けて,レベルの違う人たちでも参加しやすく,全員に賞品が行き渡るようになっている。このイベントが始まった頃の賞品は,ゴルフ用品が多かった。なぜなら,ゴルフ用品メーカーからゴルフ用品の協賛があったからである。ゴルフ用品メーカーからすれば,オープンコンペは自社製品の宣伝や販売促進の機会となる。一方,ゴルフ場側は,自社だけで賞品を購入する必要がなく,経費削減に効果があった。その後,ゴルフ場は,ゴルフ用品以外を賞品にするオープンコンペを企画した。例えば,洋菓子やステーキ肉,地元野菜など,女性の参加者も意識した賞品が貰えるオープンコンペである。それらもメーカーや生産者からある程度の協賛がある。しかし,他のゴルフ場のオープンコンペと差別化して誘客したいゴルフ場は,賞品内容を競い合い,賞品購入費の増大につながった。多くのゴルフ場が各種オープンコンペを開催し,徐々にマンネリ化をもたらした。
もう1つの誘客方法が,プレー代金の値引きである。値引きの方法は,ゴルフプレー代に昼食を含めたり,割引券を配布したり,インターネット予約サイトに割引料金を提示したりするものである。しかし,いずれの方法も顧客の増加にはつながりにくいにもかかわらず,顧客の減少に歯止めをかけるため,さらなるプレー代金の値下げや賞品内容の競い合いに踏み切っている。
以上のようなゴルフ場の取り組みは,ゴルフ場はあくまでゴルフをプレーする「場所」を提供するビジネスであり,賞品や値引きによって集客を促すというG-Dロジックの主要概念である交換価値に焦点を当てているといえる。
「ゴルフ甲子園」は,根っからの野球好きの2人の会話から生まれた。2005年,よみうりカントリークラブ社長の山室寛之氏と西野支配人との間で,自社のゴルフ場運営について話し合いが行われた。山室社長は,株式会社読売巨人軍の球団社長を兼任しており,野球の知見がある人物である。西野支配人は,青春時代に野球漬けの毎日を過ごした経験者である。山室社長は,「ゴルフ人口がますます減少していくため,ゴルフ場の利用者は減少する。よって,ゴルフ場の利用者を増加させるためには,ゴルフ場に行けば楽しく,かつ,面白いと思ってもらえる場所にしなければならない」との危機感を持っていた。これを受けて,西野支配人は,ゴルフ場に行くと何か楽しく,かつ,面白いと思える場所にするにはどのようなアイデアがあるのかを,従業員と共に考えた。結果,ゴルフ場を同窓会の場として利用してもらう,という発想を得た。また,ゴルフ場を会場とする同窓会参加者の傾向として,高校時代に野球部に所属していた者が多いことに気が付いた。元高校野球部のメンバーには,現役当時の「あの対戦相手にやられた」という悔しい思いが心に刻まれている。当時の悔しい思いをゴルフでリベンジできたら楽しく,かつ,面白いのではないかと考えた。そこで,ゴルフチームを高校野球部OB単位で編成し,対抗戦を行う「高校野球部OB会ゴルフ対抗戦」を開催することにした。ゴルフ会員,会員の知人,および従業員の知人に対して,高校野球部OB会(以降,OB会と称す)に「高校野球部OBゴルフ対抗戦」の趣旨説明を行い,参加者を募った。
ところが,OB会の幹事に趣旨を説明しても,企画当初は好意的な反応は得られず,第1回は10チームしか参加しなかった。しかしながら,ゴルフをプレーする楽しみのみならず,プレー後の懇親会で旧友と再会を喜ぶ姿,当時のライバル校の参加者と談笑する姿に手ごたえを感じることができた。加えて,後日,OB会の幹事から参加者に楽しんでもらえたとの報告を受け,この企画の発展の可能性を感じた。
2. ゴルフ甲子園の変遷ゴルフ甲子園は,回を重ねるにつれ運営方法を変更している。運営方法の変更は,ゴルフ場による決定で変更されたものとゴルフ場と参加者の一部の人との相談によって決定されたものがある。
現在のゴルフ甲子園の運営方法を表にまとめると,下記の表1のとおりである。ゴルフ甲子園の企画の特徴は26個あり,その内従来のゴルフ場企画との共通点が4個,ゴルフ甲子園の特異点が22個ある。ゴルフ甲子園の運営は,当初から変わらないものと(表1の1から9の項目),変えたもの(表1の10から26の項目)に分けることができる。ゴルフ甲子園は,ゴルフ場を同窓会の場として利用してもらうという発想を下敷に,当初は値引きや参加者への記念品を特典に付けて参加者を増やした。ゴルフ場は,同窓会の中でも,野球部OBをターゲティングしたため,参加者を想定して,高校野球時代に思い出があること,チームで戦うこと,プレー後に同窓会として懇親会を行うことを運営方法の中に入れ,参加者同士が懇親を深めることを目的とした当初から変わらない運営方法を決めた。
ゴルフ甲子園の企画の特徴
出所:読売ゴルフ株式会社インタビューより,筆者作成
一方で,ゴルフ場は参加者の要望を取り入れ,より参加者を増やす目的で運営方法を変更した。すなわち,年齢別や女性用のティーインググラウンドを設置したことで,参加者の現状に沿ったものとなった。また,参加者の状況を見ながら,組み合わせ方法の変更行い,懇親を深めることができるように工夫を重ねた。他にも,予選開催日の変更などを行い,結果として,ゴルフ甲子園は参加者を増やすことに成功した。
しかし,参加者が増えたことで,ゴルフ場は,新たな課題を抱えることとなった。それは,予選通過率が下がったことで,参加者から不満が出たことである。そこで,ゴルフ場は「幹事会」を作り,ゴルフ場と幹事会がお互いに意見を出し合い,相談をしながら運営方法を変更した。ゴルフ甲子園は,決勝大会を定休日に貸し切りで開催することで参加チーム数を増やし,一方で決勝大会のチーム数を増やすことで,予選会への参加チーム枠を増やすことになった。結果,運営方法を変更したことで,参加者の満足度を高め,さらに参加者を増やすことに成功した。
3. 現在のゴルフ甲子園予選会の参加チーム数は,徐々に増えて第6回で58チームとなって,以降の予選会も60チーム前後となっている。(予選会参加チーム数は,図1のとおりである。)
ゴルフ甲子園参加チーム数の推移
出所:ゴルフ甲子園ホームページより筆者作成
4. 参加者インタビュー次に,参加者がゴルフ甲子園にどんな価値を感じて参加しているのかを確認するため,第13回ゴルフ甲子園決勝大会の参加者9)にインタビューを実施した。インタビューでは,参加者が以下のように語っている。
Aは,「高校で当時甲子園を目指していたが,県大会の決勝戦で3年連続県立芦屋高校に負けた悔しい思い出がある。しかし,ゴルフ甲子園で,対戦相手であった県立芦屋高校の人とプレーする機会があり,ゴルフそっちのけで野球の話で盛り上がった。また,昔は,同年代の高校野球部OB会で集まっていたが,今はゴルフ甲子園の時だけになった。」
Bは,「高校で3年間甲子園を目指していた。夏の県大会で3年連続して滝川第二高校に負けた。滝川第二高校に,野球で負けたが,ゴルフでは勝ちたいと思って参加している。この企画は,チームプレーになっていて,ゴルフが上手でなくても参加しやすいルールになっているのが良いと思っている。」
Cは,「高校で野球をやっていたが,高校が統廃合でなくなったので,今ではこのイベントが野球部OBと会える貴重な機会となっている。」
Dは,「このイベントは,普段会うことがない野球部OB会の人と話す機会となり,一緒にゴルフをすることができて良かった。」
Eは,「高校で野球をやっていた当時に対戦した関西学院高校の人と50年経った今でも,野球をしていた当時の話をできるのが楽しい。普段の生活ではこういった機会がない。」
インタビューによって,このイベントでは,参加者が高校野球をしていた当時の体験を話題にして楽しんでいること,普段会う機会が少ない高校野球をしていた当時の人と会う機会となっていること,が確認できた。
「ゴルフ甲子園」は,「ゴルフ場に行けば楽しく,かつ,面白いと思ってもらえる場所にしなければならない」という危機感から誕生した。当初は,参加者は少なかったものの,回を重ねるにつれて,プレーフィーの値引きをせずとも,参加者は増加していった。参加者が増加した理由は,ゴルフ場側が参加者に寄り添って参加者の要望を汲み取ること,「幹事会」を作り,ゴルフ場側と幹事会側が意見を出し合って,相談しながら運営方法を変更していることが挙げられる。つまり,このイベントは交換価値の概念では説明できない,顧客とともに価値を創造し経験価値を生み出すことに成功したといえる。参加者へのインタビューでも明らかになった通り,参加者は「ゴルフをすること」そのものに価値を感じているのではなく,「参加する人との親睦」という文脈に価値を感じていると考えられる。そこで次に,S-DロジックのFPを用いて,文脈価値と価値共創の視点で考察を行う。
2. ゴルフ甲子園の文脈価値のFPの確認ゴルフ甲子園では,出身校ごとにチームを作る。参加者は,それぞれの高校野球部OBの一員として参加することで,当時を思い出しながらゴルフ甲子園に参加する。当時の思い出は,参加者ごとに異なるし,また,それぞれ卒業してから現在に至るまでの経験や現況も異なる。よって,参加者が,感じる価値は異なる。前述した参加者へのインタビューからも,当時の悔しい思い出を有する参加者や,嬉しい思い出を有する参加者がいることが確認できる。参加者は,同じ高校野球を体験した境遇の人との交流に価値を感じていることも確認できた。つまり,「価値は常に受益者によって独自にかつ現象的に判断される」というFP10の要件を満たすと判断できるのである。次に,文脈価値が,価値共創によって創られるFPが存在しているか,確認していく。
3. ゴルフ甲子園の価値共創のFPの確認イベントの運営方法は,ゴルフ場側で決定されるものと,ゴルフ場側と参加者の幹事会側との意見交換により決定されるもの,の2種類存在することが確認できた。事例から運営方法の承認のプロセスを,ゴルフ場側で決定されるものと,ゴルフ場側と参加者の幹事会との相談により決定されるものとに大分類し,さらに,それぞれを,参加者の要望による発案,あるいは,ゴルフ場の発案とに区分した(表2)10)。
ゴルフ甲子園の運営方法の承認までのプロセス
出所:読売ゴルフ株式会社インタビューより,筆者作成
表2の15から26の項目を見ると,当初設定した運営方法を徐々に変更していることが確認できる。当初から変わらない項目(表2の1から9の項目)は,ゴルフ場側が,提案した項目である。これらは,支配人が元高校野球関係者の喜びそうな運営方法として設定した。途中から追加した項目(表2の10から14の項目)は,ゴルフ場側が参加者とのやり取りを通じて,参加者の要望を聞き取ったり,汲み取ったりすることで,参加者の現況に寄り添って各々が参加しやすいようゴルフ場が提案して追加したものである。参加者は,ゴルフ場の提案を自らのその時の状況や環境,高校時代の思い出を背景に活用しながら,他の参加者と交流してそれぞれの文脈価値を創り出している。このように参加者の現況にそった提案によって,参加者を増やした。
その他に,ゴルフ場側と参加者の幹事会側との双方向的なやり取りによって変更した運営方法(表2の15から26の項目)もある。幹事会とのやり取りによって変更した運営方法は,決勝大会への進出確率に不満があった参加者の要望に応えるために,ゴルフ場が自らの定休日を活用することを提案し,平日の開催に合わせて,参加者が環境や状況を活用してチームを編成している。この運営方法は,参加者を増やす大きな要因となった。価値共創が生まれる前提条件の視点で分析すると,FP6とは,「価値は受益者を含む複数の顧客によって常に共創される。」であり,FP9とは,「すべての社会的および経済的アクターが資源統合者である。」という価値共創の前提である。本事例では,ゴルフ場側が参加者である元高校野球関係者との間で,“サービス”の交換が行われ,文脈価値が共創されていることを認識していることから,FP9が存在していると言える。したがって,ゴルフ場側と参加者である幹事会側と共に,ゴルフ甲子園は回を重ねるにつれ常に運営方法の変更を通じて価値共創することで,参加者が増加していることを認識していることからFP6が存在していると言える。
4. 事例研究からの示唆これまでのゴルフ場が主催する企画では,交換価値に焦点が当てられていたが,それではゴルフ人口の減少を食い止められなかった。一方,本稿で取り上げた「ゴルフ甲子園」の事例では,回を重ねるにつれて拡大しながら発展してきた。ただ,予選参加チーム数が上限に達していることや,参加者の固定化により,参加者が高齢化し,将来の活性化に課題もある。これらの課題に対し,ゴルフ場は,参加者の一部の人と「幹事会」を作り,お互いに提供できる発想を出し合い運営をしている。
本研究では,ゴルフ場の活性化を目的としたゴルフ甲子園において,S-Dロジックにおける文脈価値・価値共創がどのように行われているのかを検証した。研究を進めたところ,顧客の文脈価値・価値共創に目を向ける企画が,ゴルフ場の新たな活用法を考える要素になることがわかった。つまり,ゴルフ甲子園は,ゴルフ場を「同窓会の場」として捉えることにより,ゴルフ場で過ごす経験や体験によって,顧客が文脈価値を感じることを狙った企画なのである。この企画によって,ゴルフ場をゴルフプレーする場所として捉えるだけでなく,「人が集う場所」として捉えることができる。人が集う場所としてゴルフ場を捉えると,結婚式場や,マラソン大会の会場,花火大会の会場など,ゴルフ場の活用法が広がる。このように,文脈価値・価値共創の視点は,ゴルフ人口が減少しているゴルフ場経営にとって,ゴルフ場利用者の増加の切り札になり得ると言えるだろう。今後も,S-Dロジックに立脚しゴルフ場経営の活性化につながるマーケティング戦略に取り組んでいきたい。
本論文の作成にあたり,同志社大学大学院ビジネス研究科教授の藏本一也先生には調査事例企業をご紹介いただき,指導教授の加登豊先生や山下貴子先生からは丁寧な研究指導をいただいたことに感謝申し上げます。また,調査対象企業並びに企画参加者の皆様には,ご多忙にもかかわらず,対応いただき心より感謝申し上げます。最後に,マーケティングカンファレンス2019オーラルセッション報告時においてコメントを頂戴した佐藤晋太郎先生(早稲田大学)に深く感謝の意を表し,編集委員の匿名査読者の皆様にもお礼申し上げます。
①企画ゴルフ場の運営者から本研究の目的について理解が得られ,インタビュー調査への協力が得られた。また,企画参加者へのインタビュー許可が得られたこと。
運営者インタビューは,読売ゴルフ株式会社・よみうりカントリークラブ執行役員支配人の西野宗一氏,読売ゴルフ株式会社・よみうりゴルフウエストコース副支配人の西口隆雄氏である。第1回目は,両名に対し,2017年5月17日13時30分~14時51分までの間,よみうりカントリーウエストコース2階レストランコンペルームにてインタビューを実施した。第2回目は,2018年3月3日14時から16時までの間,よみうりカントリーウエストコース2階レストランにて,西口副支配人にインタビューを実施した。
②企画ゴルフ場は,会員制ゴルフ倶楽部と会員制ではないゴルフコースの2コースを運営しており幅広い顧客層がいること。
③実施実績が,ホームページで公開されていたこと。ゴルフ甲子園 Retrieved from https://www.yomiurigolf.co.jp/koshien/参照のこと。(2018年7月1日アクセス)