Japan Marketing Review
Online ISSN : 2435-0443
Peer-Reviewed Article
How WOM Affects Evaluation of Products for Encourages Behavioral Changes:
Consumers’ Analogies of Their Own Behavioral Changes
Mina KogureShigemitsu Morokami
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2021 Volume 2 Issue 1 Pages 22-29

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Abstract

ダイエットなどの消費者自身の変化を期待する「行動変容促進型商品」は消費者の努力の程度によって商品から得られる結果が異なる。そのためダイエット器具の口コミを閲覧する消費者は,口コミ閲覧者自身が可能な努力の程度によって口コミに対して知覚する共感感情が異なり,口コミから類推する製品の評価や購買意思決定が異なると予測される。そこで本稿は口コミ閲覧者の自己効力感とダイエットに対する価値の知覚によって,ダイエットの口コミに対する認知的共感,情動的共感が異なること,知覚する共感の違いによって製品評価やダイエット器具の効果の予測が異なることを場面想定法を用いたアンケート調査から検証した。分析結果より消費者の自己効力感やダイエットの価値の知覚によって口コミに対する認知的共感,情動的共感が異なること,口コミ閲覧者の自己効力感は成功口コミへの共感に関係し失敗口コミへの共感には関係しないことが確認された。また口コミに対する認知的共感はダイエット器具のダイエット効果の予測を高める一方で,口コミに対する情動的共感はダイエット器具の製品評価に影響することが確認された。

Translated Abstract

This paper discusses the effect of consumer reviews on a reader’s purchasing decision-making, especially in the case of products encouraging behavioral changes such as diet-machines. Since the perceived quality of these products depends on the user’s own effort level, readers will predict the value of the product by analogizing how their own efforts will help in obtaining a positive result after purchasing the product. We hypothesize that the reader’s self-efficacy and perceived value of dieting will affect their cognitive and emotional empathy, so that the predicted value of the product will be affected by perceived empathy. A web-based survey was conducted, and the results suggested that emotional empathy influences the impression of products, while cognitive empathy predicts their dieting effect. In addition, effects of consumers’ self-efficacy and attitudes toward dieting were discovered. Consumers with high self-efficacy feel empathy for positive reviews, while consumers who place more value on dieting feel cognitive empathy. These findings demonstrate the reader’s analogical process of predicting the value of “behavior-changing products” based on other consumers’ WOM.

I. 本稿の目的

行動変容促進型商品とは,消費者の行動を健康維持・回復のために望ましい行動に改善する「行動変容」(Hatake, 2009)を促す商品であり,たとえば筋力強化や減量など消費者自身の変化を期待する商材が行動変容促進型商品に該当する。行動変容促進型商品は消費者がどの程度努力をするかによって,商品から得られる結果(筋力強化や減量などの成果)が異なると指摘されている(Morito, 2018)。そのため同じ製品でも使用する消費者の努力の程度や特性によって行動変容の結果や製品の評価が異なり,努力できる消費者が製品を高く評価する一方で,消費者自身の努力不足で十分な成果を得られない消費者は製品を低く評価すると考えられる。したがって行動変容促進型商品の場合には,行動変容の結果の成否が必ずしも製品の品質を反映しているとは限らず,消費者の特性による影響があるのが特徴である。

本稿では行動変容促進型商品の一つであるダイエット器具の口コミを取り上げる。そして消費者の努力によってダイエットが成功した口コミと消費者の努力不足によってダイエットに失敗した口コミが口コミサイトに投稿されている場合に,口コミ閲覧者がそれぞれの口コミをどのように評価しダイエット器具の購買意思決定を行っているのか,その心理過程を明らかにすることを目的とする。

II. 学術背景

従来,消費者は他の消費者の口コミを参照して購買意思決定を行うこと(Bristor, 1990),さらには,口コミ発信者との類似性を判断しながら口コミ内容が自身に当てはまるかどうかを類推し,製品やサービスを評価することが指摘されている(Shibuya, 2013)。そのため努力の程度によって得られる結果(ダイエット成果)が異なるダイエット器具の場合には,口コミ閲覧者が発信者のダイエットの努力の程度に共感できるかどうかによって発信者に対する類似性の評価が変わり,閲覧者自身が製品を使用して得られるダイエット効果をどのように類推するかが異なる。たとえばダイエット器具を用いて努力をすることに挫折しダイエットに失敗した口コミを閲覧した消費者は,自身もダイエット器具を用いた場合に努力をする自信がなければ口コミに共感し,口コミ発信者と同様にダイエット効果が得られないと類推するため,製品評価や購買意図が低くなるであろう。

ただし行動変容促進型商品の場合には,口コミ閲覧者が負の口コミに共感して自身がダイエット効果を得られないと類推した場合でも,ダイエット効果がない原因が必ずしも製品の品質によるものでなく消費者自身の努力不足によるものであると認識していると考えられる。そのため,負の口コミに共感した場合でもダイエット器具の効能(ダイエット効果)については別のものとして評価すると考えられよう。このような行動変容促進型商品の口コミ閲覧者の心理評価過程を説明するために,本稿では口コミ閲覧者が口コミ発信者の成功や挫折の感情に対して知覚する共感を,認知的共感(cognitive empathy)と情動的共感(emotional empathy)の2つ(Mehrabian & Epstein, 1972)に分別する。認知的共感とは「他人の思考,感情,行為の中に自分を想像的に置いてその人の世界を構成すること」と定義され(Dymond, 1949),情動的共感は「他人の情動状態を経験する結果,他人の情動と同じ情動を経験すること」と定義される(Stotland & Walsh, 1963)。2つの共感の違いは,相手の立場に立って状況を把握し,その際の感情を想像する行為なのか,喜び,痛み,苦しみなどの感情について無意識に感情移入してしまう情動的な反応なのか,という点である(Fukuda, 2008)。たとえば「ダイエット器具を使用して筋トレの効果を感じたが,きつくて挫折した」という負の口コミを閲覧する消費者を例に挙げる。口コミ閲覧者はダイエット器具を使用し筋トレ効果を感じる状況を想像し認知的共感を知覚する一方で,挫折するほど筋トレをきつく感じる苦しみの感情について情動的共感を知覚するであろう。そして認知的な共感をもとに筋トレ効果がある器具を使用すればダイエットの成果がありそうだと類推をし,当該ダイエット器具を使えばダイエット効果があることを理解するだろう。それと同時に情動的に「挫折するほど筋トレがつらい」という感情を感じてしまったことによって製品に対して良い感情を抱かず,製品評価を低く見積もるであろう。

こうしたダイエットの成否の口コミに対して知覚する共感感情は,口コミ閲覧者のダイエットに対する態度が関係すると考えられる。ダイエットの成否はダイエット行動を継続できるかによって決定するため,口コミ閲覧者がダイエット行動を継続して実行できるという自覚が製品の効果の類推に影響するであろう。そこで本稿は口コミ閲覧者のダイエット行動の継続に関わる心理によって,口コミへの評価や製品評価が異なることを検証する。ダイエット行動は期待価値理論より(Atkinson, 1957),ダイエットから結果を得られるという期待,つまり自己効力感(self-efficacy)(Bandura, 1982)と,ダイエットに対して感じる価値がともに高まることが必要であると指摘されている(Hatake, 2009, p. 17)。ダイエット行動に対して知覚する価値は,ヘルス・ビリーフモデル(Becker, Drachman, & Kirscht, 1974)で挙げられている,太っていることへの主観的評価1)(太っていることについての罹患性や重大性),太っていることに対する脅威,意思決定バランス2)(ダイエット行動の有益性-ダイエット行動の障害の知覚)が該当する。そこで本稿では,口コミを閲覧する消費者の自己効力感,太っていることへの主観的評価(罹患性と重大性),意思決定バランス(ダイエット行動の有益性-ダイエット行動の障害の知覚)に着目し,以下の仮説を検証する。

H1 自己効力感が高いと成功口コミに対する認知的共感,情動的共感が高く,痩身効果判断3),製品評価,購買意図が高い。反対に自己効力感が低いと失敗口コミに対する認知的共感,情動的共感が高く,痩身効果判断,製品評価,購買意図が低い。

H2 太っていることへの主観的評価が高い消費者は低い消費者よりも成功口コミに対する認知的共感を高く感じ,意思決定バランスが高い消費者は低い消費者よりも成功口コミに対する認知的共感を高く感じる。

H3 口コミに対する認知的共感は口コミ閲覧者の痩身効果判断に影響し,口コミに対する情動的共感は製品評価に影響する。

III. 実験

1. 実験準備

実験で被験者に想定させる商品は,ダイエット商品口コミサイト『ダイエットカフェ』に投稿されている製品のうち,消費者の使用方法によってダイエット効果が異なるダイエット器具を選んだ。口コミ投稿数100件以上,使用方法に関する口コミが10件以上投稿されているダイエット器具を抽出し,さらにそのなかからマッサージ器具や消費者の努力を必要としない器具を除くと,ワンダーコアシリーズの3製品とレッグマジックシリーズの3製品が該当した。そこで本稿ではレッグマジックに類似した製品に関する口コミサイトを想定させて実験を行った。

レッグマジックは両足を開閉して筋トレできる運動器具で,ダイエット効果があるものの足腰の筋肉に強い負荷がかかるため根気がなければ継続して使用することができない商品であることが実際に投稿されている口コミ内容からわかった。そこで本稿では継続的に製品を使用してダイエットに成功した口コミ(成功口コミ)と継続して使用することを断念したためにダイエット効果を感じなかった口コミ(失敗口コミ)の2種類の口コミを,ダイエットカフェのレッグマジックとレッグマジックXについて投稿されている実際の口コミの文章を参考に作成した。口コミ発信者は被験者と同年代の20代女性に設定し,成功口コミは3ヶ月使用して1 kg痩せた設定,失敗口コミは2週間利用して体重変化がなかった設定にした。

2. 実験概要

20代女性220名を対象に場面調査法を用いたウェブ・アンケート調査を行った。はじめに被験者の太っていることへの主観的評価(2項目),ダイエットの有益性(1項目),ダイエットの障害の知覚(1項目),ダイエット自己効力感(4項目)を測定した。そのうえで「あなたは自分の体型が気になっており,ダイエットに関する情報を検索しています。そのなかで,あなたは足を開閉するトレーニングを行うことができるダイエット器具に興味を持ちました。その製品について口コミサイトには以下のような口コミが書かれていました。」という場面を想定させた。そして成功口コミ(みほさんの口コミ)と失敗口コミ(ゆみさんの口コミ)の2つの口コミが書かれている口コミサイトの画面(図1)を被験者に見せた。なお図1はダイエットカフェの口コミデータをもとに作成した。そして,それぞれの口コミに対する認知的共感(3項目),情動的共感(3項目)と,痩身効果判断(1項目),製品評価(5項目),購買意図(4項目)を測定した。いずれの測定項目もリッカート式7件法であった。なお,太っていることへの主観的評価,意思決定バランス(有益性,障害の知覚)はいずれもKanamori(2012)を,ダイエット自己効力感はOka(2003)の運動セルフエフィカシー尺度を参考に作成した。また,認知的共感,情動的共感はEscalas and Stern(2003)を参考に作成し,痩身効果判断はHirayama and Kusumi(2009),製品評価はGordon(2013),購買意図はBataineh(2015)の測定項目に基づいている。

図1

口コミサイトの画像

3. 分析結果

不備のあるデータを除き198名のデータを分析対象とした。はじめに,太っていることへの主観的評価,意思決定バランス,自己効力感の各値の上位・下位30%をそれぞれ高群・低群とした。

次に太っていることへの主観的評価と自己効力感の二要因の分散分析を行ったところ,太っていることへの主観的評価の主効果がみられ,高群が低群よりも成功口コミへの認知的共感(F(1,92)=17.128, p<.001),成功口コミへの情動的共感(F(1,92)=5.429, p<.05),失敗口コミへの認知的共感(F(1,92)=11.721, p<.01),製品評価(F(1,92)=8.126, p<.01),購買意図(F(1,92)=5.132, p<.05)が高かった。また自己効力感の主効果がみられ高群が低群よりも成功口コミへの情動的共感(F(1,92)=8.107, p<.001),製品評価(F(1,92)=22.741, p<.001),痩身効果判断(F(1,92)=16.999, p<.001),購買意図(F(1,92)=15.853, p<.001)が高かった。さらに成功口コミへの認知的共感(F(1,92)=5.453, p<.05),成功口コミへの情動的共感(F(1,92)=5.804, p<.05),痩身効果判断(F(1,92)=2.758, p<.10)において交互作用が確認され単純主効果の検定(Bonferroni法)を行ったところ,自己効力感の高群において太っていることへの主観的評価低群より高群の方が成功口コミへの認知的共感(F(1,92)=21.814, p<.001),成功口コミへの情動的共感(F(1,92)=11.690, p<.001),痩身効果判断(F(1,92)=5.518, p<.05)が高かった。また太っていることへの主観的評価高群において自己効力感の低群より高群の方が成功口コミへの認知的共感(F(1,92)=6.316, p<.05),成功口コミへの情動的共感(F(1,92)=14.713, p<.001),痩身効果判断(F(1,92)=17.813, p<.001)が高く,太っていることへの主観的評価低群において自己効力感の低群より高群の方が痩身効果判断が高かった(F(1,92)=2.857, p<.10)。

また意思決定バランスと自己効力感の二要因の分散分析を行ったところ,自己効力感の主効果がみられ高群が低群より成功口コミへの情動的共感(F(1,102)=7.464, p<.01),製品評価(F(1,102)=13.190, p<.001),痩身効果判断(F(1,102)=16.935, p<.001),購買意図(F(1,102)=6.139, p<.05)が高かった。また成功口コミへの認知的共感(F(1,102)=3.596, p<.10),失敗口コミへの認知的共感(F(1,102)=3.370, p<.10)において交互作用の傾向がみられ単純主効果の検定(Bonferroni法)を行ったところ,意思決定バランス低群において自己効力感低群より高群の方が成功口コミへの認知的共感が高く(F(1,102)=6.058, p<.05),意思決定バランス高群において自己効力感の高群より低群の方が失敗口コミへの認知的共感が高かった(F(1,102)=2.883, p<.10)。また自己効力感の高群において意思決定バランスの高群より低群の方が成功口コミに対する認知的共感が高かった(F(1,102)=4.009, p<.05)。

さらにH3を検証するため共分散構造分析を行った結果,図2のモデル適合度がGFI=.785, AGFI=.734, RMSEA=.084であり許容範囲にあると判断し採用した。なおモデルはχ2検定で棄却されたがHolter(.05)の臨界標本本数(CN)を超えるn=198であることからχ2検定の結果は参照しない。図2より,太っていることへの主観的評価は成功口コミへの認知的共感(β=1.010, p<.001)と失敗口コミへの認知的共感(β=.897, p<.001)に対して同程度の正の影響を与えること,自己効力感は成功口コミへの認知的共感(β=.192, p<.001),成功口コミへの情動的共感(β=.256, p<.001)に対して正の影響を与えることが確認された。また口コミに対する評価が製品評価や購買意図に与える影響については,痩身効果判断は成功口コミへの認知的共感から正の影響を受ける一方で(β=1.302, p<.001),失敗口コミへの認知的共感から強い負の影響を受けることが示された(β=−1.177, p<.001)。そして成功口コミへの情動的共感は製品評価に対して正の影響(β=.331, p<.001),失敗口コミへの情動的共感は製品評価に対して負の影響(β=-.152, p<.01)を与えることが示された。痩身効果判断は製品評価に対して正の影響(β=.550, p<.001),痩身効果判断(β=.501, p<.001)と製品評価(β=.476, p<.001)はともに購買意図に対して正の影響を与えていた。

図2

行動変容促進型商品に関する口コミ閲覧者の心理モデル

IV. 考察

分散分析の結果よりH1とH2は概ね支持され,ダイエットの自己効力感や太っていることへの主観的評価が高い消費者は成功口コミに対して認知的共感と情緒的共感を高く知覚しており,製品の効果を高く評価し購買意図が高かった。ただし,自己効力感も意思決定バランスも高い消費者は自己効力感が高く意思決定バランスが低い消費者よりも成功口コミに対する認知的共感が低かった。この結果は,ダイエットに対する期待と価値の両方が高ければダイエットの実行の可能性が高く成功口コミに対して認知的にも情動的にも共感するという想定とは異なる結果であった。ダイエットに価値を感じていない消費者はダイエットに価値を感じている消費者よりも行動変容段階4)が低い段階であると想定され,ダイエット継続の辛さを経験していない段階であると考えられるため,ダイエットに価値を感じていないが自己効力感が高い消費者はダイエットの行動変容段階が低いが楽観的に自己効力感を感じている消費者であると想定される。そのために「きついが毎日継続して結果を出した」という成功口コミを閲覧した際に認知的に共感を感じたのではないかと考えられる。

またダイエットに価値を感じる閲覧者は成功口コミに対して認知的共感を感じるという仮説は一部支持されなかった。意思決定バランスが高いが自己効力感が低い消費者,つまりダイエットの価値を高く評価しているもののダイエットをやり遂げる自信がない消費者は,価値を感じて自信がある消費者よりも失敗口コミに対する認知的共感を高く感じていた。この結果から,ダイエットをするべきと考えるが自信がない人ほど,失敗した口コミ発信者と類似した立場であるために状況を理解しやすく失敗口コミへの認知的共感が高まったと考えられる。

さらに共構造分散分析の結果より,口コミに対する認知的共感は痩身効果判断に影響し,口コミに対する情動的共感は製品評価に影響することが示されたためH3は支持された。従来研究では口コミ閲覧者が知覚する共感感情が購買意思決定に影響することは指摘されていたものの(Kogure & Morokami, 2020),認知的共感と情動的共感が異なる影響を与えることを精緻化した知見は少ないことから,本稿の結果は学術的な示唆を与えた。また,口コミ閲覧者の太っていることへの主観的評価は成功口コミへの認知的共感と失敗口コミへの認知的共感に対してそれぞれ同程度の正のパスを示したことから,口コミ閲覧者が成功口コミと失敗口コミに対してそれぞれ知覚する共感感情はどちらかに偏っていないことがわかった。ただし消費者の努力不足でダイエットに失敗し悪い口コミをした場合には失敗口コミへの認知的共感によって製品の評判が下がってしまうことが確認されたが,成功口コミへの認知的共感と比べると相対的に小さな影響であることがわかった。そのためダイエットの成否が製品の性能によるものか口コミ発信者の努力によるものかを口コミ閲覧者が考えたうえで類推をしている可能性もあり,今後さらに検証が必要であろう。

V. おわりに

本稿では行動変容促進型商品特徴を踏まえ,ダイエット器具の口コミを閲覧する消費者が成功口コミ(良い口コミ)と失敗口コミ(悪い口コミ)を閲覧した場合に知覚する,口コミ発信者への共感に着目し購買意思決定過程を示した。そして口コミ閲覧者が口コミから類推する過程で自己効力感やダイエット行動の価値の知覚が影響することを指摘し,口コミ閲覧者が知覚する認知的共感は痩身効果判断に影響する一方で情動的共感は製品評価に影響することを明らかにした。

閲覧者の心理に影響する消費者の特性のうち,たとえば自己効力感や意思決定バランスは行動変容段階が上がるにつれて高まることが指摘されているため(Prochaska & Velicer, 1997),行動変容促進型商品のインフルエンサー・マーケティングを行う際には,消費者の行動変容段階に合わせて共感できるインフルエンサーを起用することが効果的であるといえる。この点についてはさらに検証が必要であるが,実務的な示唆が得られたといえよう。

また行動変容促進型商品は消費者の努力の程度によって効果が異なるため,口コミから製品の評価を類推する場合に口コミ閲覧者の特性によっては,ポジティブな口コミであっても製品評価を下げる可能性も示唆された。そのため行動変容促進型商品の推奨のために口コミや体験談を活用する際には,口コミ閲覧者の自己効力感やダイエットに対する態度に合わせた推奨者の口コミを提示すること,共感性の高いエピソードを含む口コミを提示することが効果的であろう。そのためマーケターが行動変容促進型商品の口コミを閲覧させる場合には,行動変容を促す問題(健康問題,技術や学問の習得の問題など)についての罹患度と重大度を把握することが重要であろう。行動変容促進型商品の口コミに関する本稿の議論は,コト消費のように,利用する消費者によって知覚する製品の質が異なる商品に関する議論にも応用が可能であり,さらなる研究の発展が期待される。

謝辞

本研究は国立情報学研究所のIDRデータセット提供サービスにより株式会社T. M. Communityから提供を受けた「ダイエット口コミデータセット」を利用したものです。また本研究はJSPS科研費#20K01971による助成を受けたものです。

1)  ヘルス・ビリーフモデルで「重大性と罹患性の知覚」と呼ばれる要因についてHatake(2009)は「疾病への主観的評価」と名付けた。本稿ではこれに倣い,太っていることや理想としない体型であることの重大性と罹患性の知覚について「太っていることへの主観的評価」と呼ぶ。

2)  意思決定バランスとは,新しい行動の障害よりも有益性が高いと判断された場合に行動変容するという理論(Janis & Mann, 1977)である。ヘルス・ビリーフモデルの「ダイエット行動の有益性-ダイエット行動の障害の知覚」は意思決定バランスの考えに類似する(Hatake, 2009, p. 40)。

3)  痩身効果判断とは,ダイエット器具を使用することで痩せることができると思うか,というダイエット効果について尋ねる項目である。本稿では,単に製品に対する評価ではなく口コミ閲覧者自身が使用する場合に効果があると類推するかどうかを測定するために用いた。

4)  行動変容に関する諸理論を整理したトランス・セオレティカル・モデルにおいては,行動変容に至るまで無関心期~維持期までの5段階の行動変容段階があると考えられている(Hatake, 2009, p. 20)。

References
 
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