2022 Volume 3 Issue 1 Pages 53-61
近年,実務でも研究面でも,カスタマー・ブランド・エンゲージメントの注目が高まりつつある。そこで,本研究の目的は,カスタマー・ブランド・エンゲージメントを認知的・感情的・行動的な3要素のサブセットで測定し,ブランド評価や満足度,ロイヤルティとともに,購買履歴データを同時に分析する包括モデルを通じて,エンゲージメントの位置付けとともに,購買行動との関係を明らかにすることである。服飾雑貨SPAブランドの顧客に対して行なった質問票調査と顧客の購買履歴データを統合し,構造方程式モデルで分析を行った。その結果,エンゲージメントは,満足度とロイヤルティを経由し,購買行動の「顧客期間」,「購買金額」,「購買回数」と正の関係にあることがわかった。一方,エンゲージメントから購買行動への直接のパスは負の関係であったことから,エンゲージメントは満足度とロイヤルティを経由しなければ,購買行動には至らないことも同時に明らかにした。
In recent years, customer brand engagement has received increasing attention in both practice and academic research. The purpose of this study is to measure customer brand engagement as a subset of cognitive, affective, and behavioral factors, and to clarify the position of engagement and its relationship with purchase behavior using a comprehensive model that analyzes purchase data and brand evaluation, satisfaction, and loyalty simultaneously. Using this model, we identified the relationship between engagement and purchase behavior. We integrated a questionnaire survey and purchase data of customers for a fashion accessories SPA brand, and analyzed these data with a structural equation model. The results showed that engagement is positively related to the length of customer period, total purchase amount, and number of purchases via satisfaction and loyalty. On the other hand, the direct path from engagement to purchase behavior was negatively related, indicating that engagement does not lead to purchase behavior unless it goes through satisfaction and loyalty.
ブランド・ロイヤルティは,ブランド・エクイティにおける最も重要な要素であり,顧客が継続的に購買し続けてもらうための重要な指標の一つである(Keller, 2008)。このブランドと顧客との関係を構築する研究として,ブランド・リレーションシップの研究がこの30年の間に進んできた。特に近年においては,購買のシーンにとどまらない顧客とブランドとの「経験的な関わりあい」としてのエンゲージメントに関する研究が,実務と研究領域の両方において,非常に重要なトピックになってきている(cf. Hollebeek, Glynn, & Brodie, 2014; Leckie, Nyadzayo, & Johnson, 2016; Vivek, Beatty, & Morgan, 2012)。
この顧客とブランドとのエンゲージメントが重視されてきた背景には,インターネットとともにデジタルツールやSNSの発展によって,(購買を通じた接点以外にも)顧客とのタッチ・ポイントが増加したことが影響する(Rosado-Pinto & Loureiro, 2020)。ブログやSNSへの「いいね!」やシェア,コメントに加え,行動履歴(ログ)も取れるようになり,ブランドと顧客との関係が可視化できるようになってきたため,マーケターは,満足度とロイヤルティだけを見ているだけでは不十分な状況になってきている(Pansari & Kumar, 2017; Rosado-Pinto & Loureiro, 2020)。
そこで,本研究の目的は,ブランド評価やアプリ活用度といったカスタマー・ブランド・エンゲージメントに影響する要因と,満足度・ロイヤルティに加え,購買行動を含めた包括モデルで分析することで,エンゲージメントの位置づけとともに,購買行動との関連を明らかにする。
マーケティング分野におけるエンゲージメント研究の概念は,1980年ごろから発展してきたリレーションシップ・マーケティングと,サービス・マーケティングを基にした,ブランドと消費者との相互作用に関する研究の流れに沿いながら発展してきた(Adhikari & Panda, 2019; Rosado-Pinto & Loureiro, 2020)。エンゲージメント研究がスタートした当初は,コンセプチュアルな研究や質的研究が主であり,その対象も,顧客とブランドの関係だけでなく,広告やオンライン・コミュニティ,SNSに対するエンゲージメントなど,幅広い分野が対象になってきた(Hollebeek et al., 2014)。近年は主に顧客とブランドとのエンゲージメントを測定する研究が進みつつあり,認知・感情・行動の3つの側面を含んだカスタマー・ブランド・エンゲージメントの尺度開発が徐々に増えつつある(e.g. Eigenraam, Eelen, Lin, & Verlegh, 2018; Fernandes & Moreira, 2019; Hollebeek et al., 2014)。これらの先行研究に従い,本稿におけるカスタマー・ブランド・エンゲージメントの定義を「消費者がブランドと積極的に関わり,相互作用の中で形成される(購買にとどまらない)認知的・感情的・行動的な関係」(以下,エンゲージメント)として進める。これまでのエンゲージメント研究における課題は,ロイヤルティとの関係を量的に検証した研究はまだ少なく(Fernandes & Moreira, 2019),購買行動との関連性を確認した研究は見られないため,本研究では上記を含めた包括的なモデルを通じて,この点を明らかにすることを目的とする。
2. 仮説モデルエンゲージメントの位置づけをふまえ,仮説モデルを設計する。顧客とブランドとのエンゲージメントは,購買前の接点や購買後のブランドの使用や経験といった多様な状況の中での関わりを通じて形成され,このようなブランドと消費者との相互作用はエンゲージメントに正の影響を与える(Adhikari & Panda, 2019; Harmeling, Moffett, Arnold, & Carlson, 2017; Vivek et al., 2012)。また,ブランドのコアバリュー(価値)を消費者が理解していたり,ニーズにフィットしていたりするほど,エンゲージメントは高まる(Adhikari & Panda, 2019; Rather, Tehseen, & Parrey, 2018)。
特に近年は,モバイル・テクノロジーとアプリの人気の高まりにより,多くの企業がモバイル・アプリを通じて顧客との関係を構築するようになってきている(Tarute, Nikou, & Gatautis, 2017)。旅行アプリとプラットフォームの研究ではあるが,モバイル・アプリのインターフェイス・デザインや使い勝手の良さ,アプリを通じたお得な価格などは,プラットフォーム・ブランドのエンゲージメントの認知的・感情的・行動的な要素を高め,結果的にそのブランドに対する認知やロイヤルティに正の影響を与える(Tian, Lu, & Cheng, 2021)。また,アプリの情報探索のしやすさや,アプリを通じて楽しめる要素があるほど,認知的・感情的・行動的な要素で構成されるエンゲージメントに正の影響を与え,アプリの継続利用にも正の影響を与えている(Qing & Haiying, 2021)。このようにアプリを通じた顧客との接点はエンゲージメントに正の影響を与えると考えられる。アプリを通じたブランドサイトの情報やコラム,ブログやブランドが発信するInstagramやFacebookなどのSNSへのフォローやいいね!など,多様なタッチ・ポイントを通じたブランドとの相互作用が,エンゲージメントの認知的・感情的・行動的な要素のそれぞれに影響することが検討されてきた(Eigenraam et al., 2018)。さらに,ブランド・アプリの存在は,ブランドの認知や態度,関係性に正の影響を与える存在である(van Noort & van Reijmersdal, 2019)。上記の点から,ブランドに対する評価やアプリを通じたブランドとの関係は,エンゲージメントに正の影響を与えると考える。これらの点から以下の仮説(H1, H2a, H2b)を設定する。
H1:ブランド評価は,エンゲージメントの形成に正の影響を与える。
H2a:アプリを通じた接点が多いほど,エンゲージメントの形成に正の影響を与える
H2b:アプリを通じた接点が多いほど,ブランド評価に正の影響を与える
「購買」を中心としたこれまでの消費者行動研究において,ブランドに対する態度や評価は,満足度に影響すると考えられてきた(e.g. Ono, Ogawa, & Morikawa, 2021)。またブランド・エクイティは満足度に強く影響することがメタ分析の結果からも示されている(Szymanski & Henard, 2001)。そこで以下の仮説(H3)を設定する。
H3:ブランド評価は,満足度に正の影響を与える。
次に,エンゲージメントと満足度やロイヤルティとの関係について議論する。これまでの消費者行動研究において,顧客のブランドに対するロイヤルティは,認知的・感情的・意欲的ロイヤルティを経て,形成されること(e.g. Fournier, 1998; Oliver, 1999),そして「真のロイヤルティ」は,認知的,感情的な態度が伴った購買行動によって形成されることが議論されてきた(Dick & Basu, 1994; Keller, 1998; Ono et al., 2021)。実際に近年の日本における小売業を含めたサービス領域においても(業種や業態によってバラツキはあるが),顧客満足はロイヤルティ(再購買意図)に正の影響を与えることが長年の研究の成果から明らかになってきている(Ono et al., 2021)。
近年のエンゲージメント研究においても,エンゲージメントが満足度やロイヤルティに影響を与えるという流れで研究が進んできている(Adhikari & Panda, 2019; Dwivedi, 2015; Fernandes & Moreira, 2019; Hollebeek, 2011; Leckie et al., 2016; Rather et al., 2018)。
これらの点をふまえると,顧客とブランドとの多様な関わりや,使用経験を通じて形成されるエンゲージメントが前提となり,同じブランドを買い続けようとする意図としての満足度,その満足度がベースとなって,感情的・意欲的なロイヤルティが形成されると考えられる(Oliver, 1999; Ono et al., 2021)。さらに,実際の購買行動が伴った状態にある「真のロイヤルティ」とは,良いクチコミの発生や顧客の長期的なリピート購入を伴う売上増加とそれに伴うオペレーションコストの低減,収益性の向上につながるものである(e.g. Dick & Basu, 1994; Keller, 1998; Oliver, 1999; Ono et al., 2021)。そこで以下の仮説(H4, H5, H6)を設定する。
H4:エンゲージメントは,満足度に正の影響を与える
H5:満足度はロイヤルティに正の影響を与える
H6:ロイヤルティは,購買行動と正の関係がある
なお,実務において,主にデジタル・マーケティングは上記で紹介したようなSNSへの「いいね!」の数やフォロワー数,インプレッション数などを「KPI」(Key Performance Indicator)として活動している。これらの活動が,エンゲージメントの認知的・感情的・行動的な要素を高め(Eigenraam et al., 2018),エンゲージメントが「購買行動を促す要因になる」と信じて活動している。そこで,本研究は実務のニーズを反映するために探索的な確認として「エンゲージメントは購買行動と正の関係がある」と設定し,ダイレクトパスを設定した。ここまでの仮説モデルを図1に示す。
仮説モデル
これまでのエンゲージメント研究で掲載されているジャーナルの上位は,Journal of Services Marketing,Journal of Product and Brand Management,Journal of Retailing and Consumer Services,Journal of Marketing Management,Journal of Service Research,Journal of Service Managementなどであり,サービス・マーケティング,製品ブランド・マネジメント,マーケティング・マネジメント系である(Rosado-Pinto & Loureiro, 2020)。これらの経緯から,今回の研究には,大手服飾雑貨SPAブランドを選んだ。自社で商品開発も行い,自社店舗での品揃えと良心的な接客を通じたサービスを行い,2021年現在,日本と中国の都心部と郊外の両方に約500店舗以上を展開している。また,アプリは2021年8月時点で380万人以上がダウンロードしており,ECサイトによる通販も展開する。一般的な購買頻度は年に数回あることから,本研究の対象としてふさわしいと判断し,分析を進めた。
2. アプリ会員およびハウス・ホールド・パネルへの調査顧客データベースから,メインターゲットである18歳から45歳までの女性,かつ,ゴールド会員(年間5,000円以上の購買額),ダイヤモンド会員(年間1万円以上の購買額)の条件に該当する顧客を抽出し,2020年10月から12月の間に,ZOOMを用いたオンライン・デプス・インタビューを12名の顧客に行った。店舗やECサイト,アプリを通じたタッチ・ポイント上での評価をつぶさに確認し,この内容を元にブランド評価の項目を設計した(項目は表3に示す,分析にも使用する)。
次に,マクロミル社の調査システム「Questant」を用いて質問票を作成し,インターネットによる量的調査を2021年1月6日から11日,および,1月18日~24日で実施した。合計1,501名のサンプルを回収したが,このブランドを購入したことがない「未購入者」や「非認知者」を分析対象から除外し,867サンプルを分析対象に用いた。回答者属性は,全員女性であり,年齢構成比は,この企業のターゲット年齢で分けられた区分の13~17歳(ピュアヤング)が16名,18~24歳(ヤング)が180名,25~34歳(ヤングキャリア)が293名,35~44歳(ヤングミセス)が176名,45歳以上(ミセス)が202名である。
3. カスタマー・ブランド・エンゲージメントの概念化認知的・感情的・行動的な要素でエンゲージメントの概念化を進めているDwivedi(2015),Eigenraam et al.(2018),Fernandes and Moreira(2019),Hollebeek et al.(2014)を元に,尺度を作成した(表1参照)。IBM SPSS(ver. 27)で探索的因子分析(最尤法,バリマックスによる直交回転)を行い,共通性の低い項目を削除した後,IBM SPSS Amos(ver. 27)で確認的因子分析を行った。適合度指標として用いたCFI(>0.90以上で良い)は0.946,Hoelter(0.05)は143(サンプル数の867sの方が,このスコアより大きければχ2検定が棄却された可能性があるため他の適合度指標と併せて検討)(Toyoda, 2007),Standardized RMR(以下,S RMR),RMSEAは,0.05以下で良好,0.1以上で良くないと判断されるもので,S RMRは0.051,RMSEAは0.085となった。RMSEAのスコアがやや低いものの,許容範囲である。パスはすべて有意であり,適合度指標は概ね高いスコアであったことから,分析を進めた。
エンゲージメント,満足度,ロイヤルティ尺度の信頼性・収束妥当性
注:【このブランド】と表記している部分は,調査の際はブランド名を入れて実施している。
次に,尺度の信頼性,弁別性について確認した(表2参照)。合成信頼性(CR)はいずれも基準値の0.6を超えていることから,信頼性は十分なスコアを示した。AVE(average variance extracted)はいずれも,基準値の0.5を大きく上回っており,収束妥当性も問題ない。弁別妥当性は,Fornell and Larcker(1981)に従い,AVEの平方根と因子間相関との比較により検証を行なった(表2参照)。その結果,他の因子間相関よりもAVEの平方根の方が高い値を示したため,弁別妥当性が担保できていると判断し,次の分析に進めた。
エンゲージメント,満足度,ロイヤルティ尺度の弁別妥当性
注:表の対角線にはAVEの平方根を表記し,その下の段は因子間の相関係数を示している。
表記について,認知的:認知的エンゲージメント,感情的:感情的エンゲージメント,行動的:行動的エンゲージメントをそれぞれ示している。
4. 購買履歴データを含めたエンゲージメントの包括モデルブランド評価の項目は,探索的因子分析(最尤法,バリマックス回転,寄与率57.8%)を行い,4つの因子「品揃え」「コストパフォーマンス」「商品力」「店舗・サービス対応」に分類し,分析に用いた(表3参照)。アプリの利用状況で確認していた項目は,「会員証として利用している」「コラムやコーディネートなどの商品以外の情報を得る」「キャンペーン情報を得る」「購入履歴を確認する」などの9項目による複数回答(ダミー変数)であったため,スコアの合計値として利用した。
ブランド評価項目と標準化係数
標準化係数は,全て1%リスクで有意(***:p<0.01)
次に,購買行動に関するデータについて説明する。対象となる期間は,2017年10月から2021年1月調査時点までの約3年分の購買履歴データである。トランザクションデータは1,342万1,770件であり,SPSS Modelerを用い,ID(アプリ会員番号)で集計したところ,158万711件の取引データがあった。上記の調査データとマッチングしたところ,136名の対象者が合致した。そこで,このデータを用いて包括モデルを作成する。
今回の分析に用いた変数は,「顧客期間」,「直近購買日」,「購買回数」,「購買金額」である。これらの変数は,顧客のロイヤルティを測定するための最も重要な変数である(cf. Abe, 2011; Harada, 1998)。顧客期間は上記3年間で,直近の購買日から最も過去の購買日を差し引いた日数である(平均299.7日,標準偏差358.3)。これが長いほど顧客である期間が長い。直近購買日は,調査日の2021年1月21日を基点に計算した(平均94.5日,標準偏差171.9)。購買回数は,上記の期間内における購買回数を計算し(平均11.9回,標準偏差10.4),購買金額は,この期間における購買の合計額である(平均3万1,850円,標準偏差40,960.8)。
上記の変数を含めた仮説モデルを検証するために,IBM SPSS Amos(ver. 27)で構造方程式モデルを作成し,分析を行った(図2参照)。適合度指標として用いた,CFI(>0.90以上で良い)は0.815,Hoelter(0.05)は83(サンプル数の136sの方が,このスコアより大きければχ2検定が棄却された可能性があるため他の適合度指標と併せて検討)(Toyoda, 2007),S RMRは0.081,RMSEAは0.075となった。適合度指標はやや低下したものの,モデルの複雑性を考えた場合,十分な適合度であること,さらに,仮説検証のための統計的確認は判断できることから,このモデルで解釈を進めた。
購買履歴データを含めたエンゲージメントの包括モデル
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1,n.s. 有意差なし
分析の結果,仮説:H2a(アプリの活用度からエンゲージメントへのパス),および,仮説:H3(ブランド評価から満足度へのパス)は棄却された。また,エンゲージメントから購買行動への探索的なパスは有意であったものの,そのスコアは負の影響となった。それ以外の,仮説:H1(ブランド評価からエンゲージメントへのパス),仮説:H2b(アプリ活用度からブランド評価へのパス),仮説:H4(エンゲージメントから満足度へのパス),仮説:H5(満足度からロイヤルティへのパス),仮説:H6(ロイヤルティから購買行動へのパス)はいずれも正の影響となり,これらの仮説は検証された。
今回の分析で明らかになった点は大きく2点ある。第一に,最も重要な点は,エンゲージメントが,満足度とロイヤルティを経由し,購買行動の「顧客期間」,「購買金額」,「購買回数」と正の関係にあったことである(ただし,「直近購買日」は,統計的な有意差はなかった)。実際の購買履歴データを分析モデルに組み込むことで,エンゲージメントが真のロイヤルティ(つまりは企業の収益性の向上)を導く存在であることを明らかにした点が本研究の最大の貢献である。ただし,エンゲージメントから購買行動への直接のパスは負の影響となったことから,エンゲージメントだけを高めても意味は無く,満足度とロイヤルティを形成しなければ,購買行動(収益性の向上)にはつながらないことも明らかになった。
第二に,エンゲージメントを高めるために必要な要素は,ブランド評価であった。アプリの存在はブランド評価に正の影響を与えているものの,エンゲージメントにはブランド評価のみが正の影響を与えていた。なお,ブランド評価から満足度への直接のパスは棄却されたことから,顧客との多様な接点があるデジタルな時代においては,エンゲージメントを高めなければ満足度やロイヤルティは高まらない点も明らかにした。
本研究の分析対象とした服飾雑貨SPAブランドの場合であれば,特に製品力や品揃えがエンゲージメントに強く影響しており,次いで,店舗・サービス対応やコストパフォーマンスが影響していた。アプリを含めた顧客とのタッチ・ポイントを通じて,これらのブランド評価に影響する(あるいは評価を高める)要素を伝えながら,施策を実施し続けることが,エンゲージメントを高め,満足度,ロイヤルティを経て購買行動(収益性の向上)につなぐことが重要となる。
最後に本研究の課題について述べる。まず,今後,より多くのサンプルでの実証分析を行うことで結果の頑強性を高めることが求められる。さらに,服飾雑貨の他の企業や,異なる業界でも同様の包括モデルを通じた確認が可能となれば,エンゲージメントの理論的・実務的発展に大きく寄与できるものと考える。今後も継続して研究を進めていく予定である。
本研究は令和2年度 科学研究費 基盤(C)課題番号 20K01977「スマート・フォンのデザイン性と利用状況がブランド・ロイヤルティに与える影響」の助成を受けて進めたものである。共同研究先の服飾雑貨SPAブランド企業では,代表や役員,CX(カスタマー・エクスペリエンス)メンバーをはじめ,多くの方に日々,協力して頂いている。また,マーケティングレビューのシニアエディター,マーケティング・カンファレンス2021 オーラルペーパーの査読者からは改稿のための貴重なコメントを頂いた。ここに感謝の意を表する。