Japan Marketing Review
Online ISSN : 2435-0443
Peer-Reviewed Article
Impact of Exaggeration in Advertisement of a Fabric Softener on Product Attractiveness:
Comparative Analysis of the Effects of Fragrance and Ethical Elements
Takehiro EbitaniTakumi Kato
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 5 Issue 1 Pages 21-29

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Abstract

近年,商品機能を過剰に表現した「過剰広告」が散見される。それら過剰広告が消費者の知覚に及ぼす影響については,これまで盛んに議論されてきた。既存研究の多くは過剰広告の負の影響について論じたものだが,以下2つの条件では正の影響を及ぼす;(1)消費者がブランドに好意的な態度を有する,(2)過剰さを受容しやすい国民性を有する。しかし,これら既存研究は消費者の態度や属性に依拠しており,消費者に魅力的に映る過剰広告の要素についての議論は乏しい。そこで本研究は柔軟剤広告を対象に,過剰な要素として香り(私益)とエシカルさ(公益)を挙げ,各要素を過剰に訴求した場合の広告の魅力について,以下2つの仮説を導出した。H1:柔軟剤広告の香り要素(私益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に負の影響を与える。H2:柔軟剤広告の過剰なエシカル要素(公益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に正の影響を与える。ランダム化比較試験の結果,2つの仮説は支持された。よって,消費者の知覚する広告の魅力を高めるために過剰広告の公益要素は効果的であり,企業は積極的に消費者に訴求すべきである。

Translated Abstract

Exaggerations through which product features are excessively highlighted are common in current advertisements. The impact of such exaggerated expressions on consumers perception have been widely discussed. While much of the existing research has focused on the negative consequences of exaggeration, positive effects have been suggested under two conditions: (1) when consumers already hold a favorable attitude towards the brand, and (2) when the national culture is more accepting of exaggeration. However, these studies often rely on consumer attitudes and attributes, and there is a scarcity of discussion on the exaggerated elements that are perceived to be attractive by consumers. Therefore, this study focuses on fabric softener advertisements, identifying fragrance (private benefit) and ethicality (public benefit) as exaggerated elements. Two hypotheses were formulated for the attractiveness of advertisements when each element is excessively emphasized: H1: excessive representation of the fragrance element (personal benefit) in fabric softener advertisements negatively influences the attractiveness of the ad; and H2: excessive representation of the ethical element (public benefit) in fabric softener advertisements positively influences the attractiveness of the ad. The results of a randomized controlled trial supported both hypotheses. Thus, exaggerated expression of the public benefit element enhances the perceived attractiveness of advertisements, suggesting that companies should actively incorporate such elements to enhance consumer perception of ad appeal.

I. 研究の目的

広告で溢れかえっている現代において,競合他社よりも優れた商品であることを消費者に印象付けるために,必要以上に過剰な演出や表現を用いた広告(以下,過剰広告)が散見される。特に柔軟仕上げ剤(以下,柔軟剤)や制汗剤などは,香りの魅力を視覚的に伝えるため,香りを過剰に訴求することが多い。例えば,男性化粧品ブランドのAXEでは,大半の男性は女性の目に映らないが,AXE BODY SPLAYを使用してはじめて女性の目に映るという演出のテレビ広告が放送された(Maidigitv, 2020)。また,同商品が日本に初上陸した際のテレビ広告では,男性がスプレーを使用した瞬間,海・山から水着姿の女性が走って男性の元へ駆けつけるという演出が採用され,この広告について49.8%の消費者が広告としては行き過ぎと回答した(Ikeuchi & Maeda, 2012)。上記のような過剰広告は,消費者に不信感を与え(Gao & Scorpio, 2011),消費者の商品購入意向に負の影響を及ぼす可能性がある(Punjani & Kumar, 2021)。実際,広告で不快な思いをしたことがある人の41.6%は広告表現が大げさであると感じている(Ikeuchi, Takeda, & Setoguchi, 2008)。このことから,消費者庁でも製品の機能を過剰に表現した広告への注意喚起をし,相談窓口を設けている(Consumer Affairs Agency, 2021)。

これまでの研究では過剰広告は信用されないと想定されてきたが,消費者は完全に信じているわけでも完全に懐疑的でもなく,あくまで1つの情報と解釈している(Chakraborty & Harbaugh, 2014)。過剰広告が正の影響を及ぼす条件としては,以下の2つである;消費者がブランドに好意的な態度を有する場合(Lee, 2014),過剰さを受容しやすい国民性を有する場合(Gao, Li, & Scorpio, 2012)。しかし,上記2つは過剰広告を受容する消費者の態度や属性に限定されており,消費者に魅力的に映る過剰広告の要素についての議論は乏しい。そこで本研究では柔軟剤広告を対象に,香り(私益)とエシカルさ(公益)の各要素を過剰に訴求した場合の,消費者が知覚する広告の魅力度の違いについて検証した。これまで過剰広告の影響の正負を広告の要素で分類し比較検証している研究は少なく,本研究は柔軟剤を取り扱う消費財メーカーの広告制作に有意義な示唆を提供する。

II. 柔軟剤を対象とした過剰広告に関する先行研究と仮説の導出

1.柔軟剤広告の香り要素(私益)の過剰訴求が広告の魅力に与える影響

消費者にとって柔軟剤は,香水に代わって他人に香りを感じさせるツールになっている(Fujii, Saito, Miyahara, Egawa, & Takaoka, 2012; McQueen, Moran, Cunningham, Hooper, & Wakefield, 2020)。しかし,柔軟剤広告において,嗅覚情報である香りを広告内で伝えるのは難しい(Ellen & Bone, 2013)。したがって,多くの企業は過剰な表現や演出を用いて香りを訴求しているが,そのような香りの過剰訴求は,実物の香りの評価以上の期待を消費者に想起させることが分かっており(Toncar & Fetscherin, 2012),消費者に不快なものとして知覚される(Ikeuchi & Maeda, 2012)。

私たちは,過剰な広告を消費者が見た際に,公益よりも私益の内容の方が否定的な評価を下しやすいと推察した。なぜなら,商品購入の判断をする際に,消費者はエシカル要素などの公益よりも,価格,品質,ブランドや便利さなどの私益を重視しているからである(Eriksson, Feber, Granskog, Lingqvist, & Nordigarden, 2020)。消費者の重視する私益要素である柔軟剤の香りを過剰に訴求した場合,その真実性の判断が厳しくなることで,広告の魅力を損なう可能性がある。よって,以下の仮説を導出した。

H1:柔軟剤広告の香り要素(私益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に負の影響を与える

2. 柔軟剤広告のエシカル要素(公益)の過剰訴求が広告の魅力に与える影響

近年,人や社会,環境のことを配慮している企業やその商品を選択する,エシカル消費への関心が高まっている(Sueyoshi, 2022)。また,消費者の環境や健康意識の高まりに伴って,企業は持続可能なビジネスモデルへの転換を迫られており(Puspita & Chae, 2021),広告にも顕著に表れている。例えば,日本コカ・コーラ社はCoca Colaのボトルが100%リサイクルされ,い・ろ・は・すのボトルに生まれ変わるという内容のサステナブル広告を打ち出した(Coca-Cola Japan, 2023)。上記のようなエシカル面に配慮した広告は,消費者を感化,魅了し(Sorab, Dey, & Banerjee, 2022),消費者の購入意向に影響を与える(Zhang & Ahmad, 2022)。しかし,前節で述べた私益要素と比較すると,消費者の商品選択時にエシカル要素(公益)の重要度は低い(Eriksson et al., 2020)。このことから,エシカル要素(公益)は過剰性を伴った内容でも許容されると推察した。柔軟剤業界では,界面活性剤の揮発性や(Chatsuvan, Homwuttiwong, Morris, & Ongwandee, 2022),化学物質過敏症の患者への影響など(Caress & Steinemann, 2009),環境や人体への影響が問題視されている。これら問題に配慮した柔軟剤のエシカル広告では,過剰訴求が許容されると推察し,以下の仮説を導出した。

H2:柔軟剤広告の過剰なエシカル要素(公益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に正の影響を与える

III. 検証方法

1. 調査方法

調査にあたって図1に示すとおり,香り要素とエシカル要素をそれぞれ過剰に表現した2つの過剰広告と,過剰性を含まない柔軟剤の広告(以下,通常広告)の計3つの画像を作成し,ランダム化比較試験を実施した。香り要素の過剰広告1)では,「98%の人が柔軟剤の香りを本物の花の香りと間違えた」という,柔軟剤と本物の花があたかも同じ香りであるという主張で過剰さを表現した。一方で,エシカル要素の過剰広告では「周りの人と私を考えた香料不使用の柔軟剤」という主張に,人工香料が人体に及ぼす影響の注意書きを加えた。人工香料が多くの柔軟剤で使用されているにも関わらず,人工香料の悪影響や健康に対する懸念を訴求することで過剰さを表現した。最後に,通常広告では「花の香りの柔軟剤」という表現を採用した。

図1

ランダム化比較試験に使用した画像(上:香り要素の過剰広告,中央:エシカル要素の過剰広告,下:通常広告)

検証にあたり,2023年1月14日から17日に日本でオンライン調査を実施した。回答者は20代から60代の男女300人であり,性別及び年齢が均等になるように収集した。設問は表1に示す12項目である。Q1–3は回答者属性,Q4–6は柔軟剤の使用状況,Q7–9は柔軟剤の香りに関する設問である。Q10–12では,質問毎に画像広告を提示し,広告の印象についての設問に回答してもらった。回答者の属性は,表2に示すとおりである。

表1

調査の設問一覧

Note:SAはSingle Answer(単一選択)を指す。

表2

変数定義

2. 検証方法

本研究では,重回帰分析を適用し,2つのモデルを構築した。H1の香り要素(私益)の過剰性についての検証に向けたModel 1は,目的変数に,広告の魅力度(表2のNo. 5),説明変数には表2のNo. 1–4, 6–17の変数を投入し,広告の過剰性知覚(No. 6),香り過剰群ダミー(No. 7),エシカル過剰群ダミー(No. 8),柔軟剤購入頻度(No. 16)をステップワイズ法で変数選択した。また,広告の過剰性知覚(5段階尺度)(No. 6)と香り過剰群ダミー(0:通常広告,1:香り過剰群)(No. 7)の交互作用を含めた。一方で,H2のエシカル要素(公益)の過剰性についての検証に向けたModel 2では,Model 1で選択した変数に,広告の過剰性知覚(5段階尺度)(No. 6)とエシカル過剰群ダミー(0:通常広告,1:エシカル過剰群)(No. 8)の交互作用を含めた。交互作用項に使う変数をそのまま利用すると,独立変数との多重共線性が大きくなるため両変数は中心化した(Aiken & West, 1991)。有意水準はどちらも5%とした。分析環境は,統計解析ソフトRを使用した。

IV. 検証結果と考察

3のModel 1の結果を確認すると,香り過剰群ダミーと広告の過剰性知覚の交互作用項の回帰係数は有意で負の関係であった(回帰係数=−0.349,p値=0.010)。図2に示すとおり,回答者が広告を過剰と認識した場合(平均値+1 標準偏差),香り要素の過剰表現は広告の魅力に負の影響を与えた(回帰係数=−0.502,p値=0.005)。よって,H1は支持された。

表3

重回帰分析の結果

Note: ***p<0.001; **p<0.01; *p<0.05

図2

香り過剰群ダミー(左)とエシカル過剰群ダミー(右)の交互作用線グラフ

Note: ***p<0.001; **p<0.01; *p<0.05

次に,表3のModel 2の結果を確認すると,エシカル過剰群ダミーと広告の過剰性知覚の交互作用項の回帰係数は有意で正の関係であった(回帰係数=0.381,p値=0.004)。図2に示すとおり,回答者が広告を過剰と認識した場合(平均値+1 標準偏差),エシカル要素の過剰表現は広告の魅力に正の影響を与えた(回帰係数=0.816,p値=0.000)。よって,H2は支持された。

この結果が提供する実務への示唆は以下の2点である。1つ目は,広告の魅力を高める過剰広告の要素と,広告の魅力を損ねる過剰広告の要素があることを企業は認識するべきである。過剰な訴求がすべて否定的に捉えられる訳ではないため,肯定的に受け止められる内容なら広告への採用も有益である。2つ目は,商品の公益要素の視点から過剰訴求を効果的に活用することである。本研究では,柔軟剤過剰広告の香り要素(私益)ではなく,エシカル要素(公益)が広告の魅力を高めた。このことから,環境配慮や社会貢献といった公益の内容は,慎重な姿勢ではなく,積極的に消費者に訴求すべきである。

しかし,本研究の限界は,以下の4点である。1つ目は,本研究結果は柔軟剤広告のみの結果であり,他商材でも同様の効果が得られるかは追加検証の余地がある。2つ目は,本研究では画像広告を使用したため,映像広告での演出や表現については考慮されていない。3つ目は,私益の要素や公益の要素をさらに細分化し,香り(私益)やエシカルさ(公益)以外の要素についても検証する必要がある。例えば,柔軟剤の肌ざわりやパッケージの高級感など,その他の私益要素を過剰に訴求した場合も,広告の魅力を損ねるかについては不明である。最後に4点目に,エシカル過剰広告の「周りの人と私を考えた香料不使用の柔軟剤」という表現が,自分の体に害が及ばないという私益の側面も強調した可能性がある。回答者がエシカル過剰広告の表現を私益ではなく公益を強調するものと理解していたのかという点において,本研究結果の解釈は限界をともなうものである。これらは今後の研究課題である。

V. おわりに

これまで既存研究では,過剰広告の正負の影響について論じられてきた。しかし,それら既存研究は広告を知覚する消費者の属性や態度によって影響の正負を判断しており,正負を決定づける過剰広告の要素についての議論は不足していた。そこで本研究では,柔軟剤広告に焦点を当て,過剰な要素として香り(私益)とエシカルさ(公益)を挙げ,それぞれの要素を過剰に訴求した場合の広告の魅力について比較検証した。オンライン調査で得たデータをもとに検証した結果,回答者が広告を過剰と認識した場合,香り要素(私益)の過剰表現は広告の魅力に負の影響を与え,エシカル要素(公益)の過剰表現は広告の魅力に正の影響を与えることが明らかになった。よって,消費者の知覚する広告の魅力を高めるためには,過剰広告の公益要素は効果的であり,積極的に消費者に訴求すべきである。今後は,過剰広告の商品・サービスの対象や広告の形態,公益・私益要素の細分化を考慮した上での検証が必要である。

References
 
© 2024 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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