Japan Marketing Review
Online ISSN : 2435-0443
Peer-Reviewed Article
A Mobile App Engagement Comprehensive Model of Matching to Purchase History Data:
Empirical Research Using Customer Data from a Food Company
Hiroyuki Takahashi
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 5 Issue 1 Pages 55-63

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Abstract

本研究は,モバイル・アプリ・エンゲージメントに関する研究である。近年,エンゲージメントに関する研究は研究面でも実務面でも注目されている。本研究はモバイル・アプリ・エンゲージメントに影響する要因とロイヤルティを測定し,実際の購買行動データを突合した包括モデルによって,構造的な関係性を明らかにする。調査は,食料品企業のモバイル・アプリの会員に対して行った。分析の結果,モバイル・アプリのデザイン性(特に使い勝手の良さ)がエンゲージメントを高め,エンゲージメントがアプリの態度的ロイヤルティ(主に他者への推奨意図)と行動的ロイヤルティに影響を与え,購買行動にも正の影響を与えていた。特に,モバイル・アプリ・エンゲージメントは,態度的ロイヤルティよりも実際の購買行動にも強い影響を及ぼしていることが明らかになった。

Translated Abstract

Mobile app engagement is receiving increasing attention in both practice and academic research. The aim of this study was to examine structural relationships through a comprehensive engagement model, and to measure the factors that influence mobile app engagement and loyalty and that match actual purchase history (behavior) data. The study was conducted on the mobile apps of members of a grocery company. The model was used to show that the design of the mobile app (especially its ease of use) increased engagement, and that this engagement influenced attitudinal loyalty (mainly the intention to recommend the app to others) and behavioral loyalty, and positively influenced purchase behavior. Especially, the mobile app engagement had a stronger influence than attitudinal loyalty on actual purchase behavior.

I. 問題意識

日々の生活においてモバイル端末は欠かせない存在になりつつある。モバイル端末を利用すれば,新商品やサービスの特徴の認知,商品の比較やレビューの確認,支払いといった購買意思決定プロセスの多くの部分が可能になる(cf. S. J. Kim, Wang, & Malthouse, 2015)。そのため,電子商取引(以下,EC)の飛躍的な成長とともに,ECにおけるモバイル利用率は,54.8%と半数を超えてきており(Shaun, 2024),2024年には70%を超えてくることが予想されている(Srail, 2023)。特に,小売業界においてアプリを使った注文は,18歳から54歳までの年齢においては70%ほどもあり,55歳以上でも50%以上が利用しており(Freedman, 2023),モバイル端末におけるアプリの存在は購買のシーンにおいて重要性が増している。そのため,企業は,リアル店舗だけでなく,モバイルフォンやアプリ,モバイル端末を通じて交流し,その接点を通じて顧客と緩やかにつながる良い関係―エンゲージメント―を築くことができれば,ロイヤルティを高め,収益につなぐことが可能になる(cf. S. J. Kim et al., 2015; Y. H. Kim, Kim, & Wachter, 2013)。

そこで本研究は,実際にアプリを運営している食料品企業との共同研究で取得した調査データと購買行動データを突合してモバイル・アプリ・エンゲージメントの効果を測定することを目的とする。具体的には,アプリ会員に対し,インターネットを通じた量的質問票調査を実施することで,心理データを測定し,回答者の会員IDで購買行動データと突合し,包括的なモデルで分析することで,アプリのどのようなデザイン性がエンゲージメントを高め,さらに,アプリのロイヤルティや購買行動にどのように影響するのかを明らかにしていく。

II. モバイル・アプリの活用に影響する要因

1. モバイル・アプリとのインタラクティブな関係性

アプリの利用は,ブランドへの関与を高め,またブランドが所属する製品カテゴリーへの関心も高める(Bellman, Potter, Treleaven-Hassard, Robinson, & Varan, 2011)。小売アプリに関する最近の研究でも,モバイルの位置情報機能を使った「双方向性」(インタラクティブ)が感情的関与に正の影響を与え,それがアプリのダウンロードと利用につながることを示す(Kang, Mun, & Johnson, 2015)。特に,アプリとのインタラクティブな関係性は,顧客とブランドとのエンゲージメントを強め,好意的な態度や購買意向の先行要因として機能する(Chapman, Selvarajah, & Webster, 1999; McLean, 2018; S. J. Kim et al., 2015)。つまり,アプリの利用を高めるようなインタラクティブ性のある要素がエンゲージメント形成の前提として求められる。

ただし,これまでモバイル・マーケティングに関する研究は多くなされてきているものの,Bellman et al.(2011)S. J. Kim et al.(2015)の研究以外に,アプリによる金銭的効果を具体的に検証した研究はほとんどない。特に実際の購買行動データとの関連性を見たものはない。この点からも,本研究が購買行動にまで踏み込んで分析することの意義は大きい。

2. モバイル・アプリ・エンゲージメントを高める要素

エンゲージメントに関する研究は,2000年以降に急激に研究が進んできており,実務,研究領域の両方において関心が高まってきている。エンゲージメントとは,今回対象とするモバイル・アプリ以外にもブランドやコミュニティ,SNSやメディアなどに対して,消費者が主体的,対話的にゆるやかに関わる程度である。つまり,エンゲージメントとは対象に対する顧客の「資源投資」に焦点を当てた相互作用に関する概念であり,従来の満足度や信頼性,コミットメントなどは,時間とともに発展する(関係が深まる)関係性の質の概念とは異なる(Behnam, Hollebeek, Clark, & Farabi, 2021; Hollebeek, Srivastava, & Chen, 2019)。具体的には,購買前のSNSに対する「いいね!」や「フォロー」,情報検索や,購買後の使用を通じた接点などの行動的側面に加え,その背景にある心理的要素も含む。これは,購買にとどまらない「購買を超えた関係性」(VanDoorn et al., 2010)とも言われており,瞬間的で特定の状態ではなく,より持続的で広い範囲を対象とした感情的,認知的に関わっている状態を指す(cf. Y. H. Kim et al., 2013; Schaufeli, Salanova, González-Romá, & Bakker, 2002)。

では,モバイル・アプリのエンゲージメントを高めるデザイン性の要素には何が必要になるのだろうか。アプリに対してエンゲージメントな状態とは,自分から進んで注意が向けられ,興味や関心などの好奇心を持っている内発的な関心状態である(Chapman et al., 1999)。そこで本稿では,まず,モバイル・アプリ・エンゲージメントに影響するアプリの要素について先行研究を整理する。

アプリなどの新しい技術が受容される理論がいくつかある。「技術受容モデル」(TAM: Davis, 1989)は,顧客が新しい技術を受け入れて使うかどうかに影響を与えるもので,「知覚された使いやすさ」(perceived ease of Use)と,「知覚された使い勝手のよさ」(perceived usefulness)が関係してくる。モバイル・アプリの研究においても,「知覚された使いやすさ」は,エンゲージメントに正の影響を与えている(McLean, 2018; Tian, Lu, & Cheng, 2021)。特に,アプリのようなメディア要素を持った接点の場合,「インターフェイス・デザイン」や「情報検索のしやすさ」とも関連しており,これらの要素がエンゲージメントに正の影響を与えていた(Fang, Zhao, Wen, & Wang, 2017; S. J. Kim et al., 2015; Qing & Haiying, 2021; Tarute, Nikou, & Gatautis, 2017; Tian et al., 2021)。また,「知覚された使い勝手のよさ」もアプリのエンゲージメントに正の影響を与えている(McLean, 2018; Tian et al., 2021)。

次に,「タスク−技術適合理論」(TTFT: Goodhue, 1995)について検討する。この理論は,消費者が処理したいタスクと技術が提供する能力が一致していれば,採用し続けるというものであり,アプリを通じた購買シーンにおいては,「利便性」(convenience)が関連する(McLean, 2018)。例えば,生活をより簡単にし,効率の良い買い物ができること(McLean, 2018),タイムリーな情報入手やフィードバックへの対応,入力処理が早いことなどの時間的な利便性(タイムリーさ)(S. Kim & Baek, 2018),旅行経験の魅力を高める,行きたい場所を簡単に理解できる,時間の節約の助けになるなどのアプリの機能を通じた「関連する優位性」(Fang et al., 2017)などが,モバイル・アプリのエンゲージメントに正の影響を与えている。なお,この時間的な利便性は,情報系のアプリの方が体験系のアプリよりもエンゲージメントに(有意に)強く影響していた(S. Kim & Baek, 2018)。こういった時間的な利便性には,「情報の質」なども関連する。特に,アプリを通じて,有益な情報が示されることや,色々な情報が入手できることが重要である。これらの要素もアプリのエンゲージメントに正の影響を与えている(Tarute et al., 2017)。

技術受容モデルのその後のバージョンでは,消費者が経験する楽しみのレベルが経験に対する満足度と同様に,技術の使用を左右する要因として挙げられている(Venkatesh & Bala, 2008; Venkatesh, Thong, & Xu, 2012)。モバイル・アプリのエンゲージメント研究においても,「楽しさ」(enjoyment)は正の影響を与え(McLean, 2018; Qing & Haiying, 2021),アプリの継続利用にも正の影響を与えている。その他には,自分のニーズに適合する商品や自分が求めている商品を示してくれるといった「互換性」(Fang et al., 2017; S. Kim & Baek, 2018)や,他社よりも安い商品の提供や節約できることなどの「知覚された価格優位性」(Tian et al., 2021)なども影響していた。上記の点を表1に整理する。

表1

モバイル・アプリ・エンゲージメントに影響する要素

上記を整理すると,モバイル・アプリのエンゲージメントを高めるためには,インタラクティブな関係性が前提となり,それを達成するために必要なアプリのデザイン性の要素には,「使いやすさ」,「使い勝手」,「利便性」,「楽しさ」,「互換性」などが重要になる。これをふまえ,以下の仮説を設定する。なお,今回の調査に用いるアプリに,ニーズに沿ったカスタマイズ的な要素や機能がないため,分析の視点から「互換性」は除外する。

H1:アプリのデザイン性はエンゲージメントに正の影響を与える。

3. モバイル・アプリ・エンゲージメントとロイヤルティ

Khan et al.(2023)で,モバイル・アプリとデスクトップPCとを比較した場合,モバイル・アプリに対するエンゲージメントの方が態度的ロイヤルティに強く影響することを示している。Hsieh, Tseng, and Lee(2023)Tarute et al.(2017)でも,ブランド・アプリ・エンゲージメントがアプリの態度的ロイヤルティを高めている。そこで以下の仮説を設定する。

H2:モバイル・アプリ・エンゲージメントはアプリの態度的ロイヤルティに正の影響を与える。

Hsieh et al.(2023)Tarute et al.(2017)Qing and Haiying(2021)では,モバイル・アプリのアクティブなユーザーに調査しており,アプリに対するエンゲージメントが高まれば,アプリの継続的な利用意向(continue intention)にも正の関係を与えることを示している。Thakur(2016)も,モバイル・ショッピング・アプリのエンゲージメント要素(金銭的評価,自己とのつながり,楽しさ,利便性など)の尺度を設計し,それがアプリの継続利用意向に正の影響を与えることを示している。他にも,アプリのチェックイン機能や情報検索などを継続的に利用するほど,将来の支出にも正の影響を与える研究(S. J. Kim et al., 2015)もある。これらの研究から,アプリの利用を通じたエンゲージメントが高まれば,継続利用や支出を伴う購買行動も強化されることが予想され,以下の仮説を設定する。

H3:モバイル・アプリ・エンゲージメントはアプリの行動的ロイヤルティに正の影響を与える。

次に,アプリの態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの関係について検討する。これまでの消費者行動研究において,「真のロイヤルティ」は,認知的,感情的な態度が伴った購買行動によって形成されると示されてきた(Bloemer & Kasper, 1995; Dick & Basu, 1994)。顧客のブランドに対するロイヤルティは,認知的・感情的・意欲的・行動的ロイヤルティといった段階を経て形成される(Oliver, 1999)。これまでの研究において行動的ロイヤルティはOliver(1999)をもとに心理的な尺度として他の認知・感情・意欲的な側面とセットで測定されたもの(e.g. Han, Kim, & Kim, 2011; Harris & Goode, 2004)と,Jacoby and Chestnut(1978)を軸にリピート購買のパターンとしての研究がある。今回は,エンゲージメントとロイヤルティの心理的要素間の関係を確認すること,および購買行動までの関連性を目的としたことから,アプリに対する態度的・行動的ロイヤルティを,心理的側面で測定し,さらに実際の購買行動との関係も同時に測定する。なお,ブランド・ロイヤリティと実際の購買行動とは正の関係にあることはこれまでにも実証されてきた(e.g. Fetscherin, Boulanger, Gonçalves, & Quiroga, 2014; Jacoby & Kyner, 1973)。上記の点をふまえ,以下の仮説を設定する。

H4:アプリの態度的ロイヤルティはアプリの行動的ロイヤルティに正の影響を与える。

H5:アプリの行動的ロイヤルティは購買行動に正の影響を与える。

ここまでの内容をふまえ,本研究の構造仮説モデルを図1に示す。なお,本研究ではモバイル・アプリ・エンゲージメントを心理的要素で測定するもうひとつの理由は,アプリ上での行動履歴ログがまだユニークID単位で整備できていないためである。

図1

構造仮説モデル

III. 実証分析

1. 調査対象企業と測定項目

今回の調査対象は,食料品を製造し,全国に多くの販売拠点(無人)を展開している企業が運営するアプリである。アプリの機能は,購入時のポイント管理,キャンペーン・お知らせ情報,現在位置と拠点検索,簡易なゲーム機能,設定管理のみのシンプルな設計であり,EC機能はなく,購入時にポイントを貯める形で購買履歴が把握できる。この企業のアプリの会員数は27万人で,アクティブユーザーは10万人前後である。マイボイスコム社の調査システムを用いてインターネット上に量的質問票を作成し,2023年2月15日から28日までの期間にアプリ会員に対してプッシュ通知で上記調査票のURLリンクを告知した。データの回収後,エンゲージメントの尺度のすべての回答が「5.とてもそう思う」および「1.全くそう思わない」の不備票(5,084サンプル)を削除,さらに,同一回答者の重複(1,100サンプル),ユニークIDが不明で購買履歴データとマッチできない回答(4,252サンプル),合計購入点数が極端に多い回答(単純集計で標準偏差の2倍以上の購入点数の1,078サンプル)を除外し,最終的に2万7,773サンプルを分析対象とした。

測定項目は,小売企業のモバイル・アプリの研究であったMcLean(2018)が今回のアプリの活用シーンに近いと想定し,この研究を追試しつつ,本研究の目的である行動的ロイヤルティとの関係を確認する。そのため,McLean(2018)が引用していた尺度をアレンジして利用した(Davis, 1989; Davis, Bagozzi, & Warshaw, 1992; Hollebeek, Glynn, & Brodie, 2014; Mathwick, Malhotra, & Rigdon, 2001; Zeithaml & Berry, 1996)。アプリの態度的ロイヤルティは他者への推奨意図がやや多く設定されていたが,推奨意図は態度的ロイヤルティの重要な要素であり(e.g. Chitturi, Raghunathan, & Mahajan, 2008),ウェブサイトのサービス品質(e.g. Parasuraman, Zeithaml, & Malhotra, 2005)や航空サービスのロイヤルティ(Gures, Arslan, & Tun, 2014),企業ロイヤルティ(Evanschitzky et al., 2012)などの研究でも,他者への推奨を含めた類似の尺度が用いられていることから,今回はMcLean(2018)の尺度をそのまま用いた。行動的ロイヤルティはGeçti and Zengin(2013)を参考に,アプリによって強化された具体的な行動を尺度として設計した(表2参照)。

表2

エンゲージメント,満足度,ロイヤルティ尺度の信頼性・収束妥当性

注:【このアプリ】の表記は,実際の調査では「アプリ名」を,【この企業】の表記は「企業名」を入れて実施している。

2. コモン・メソッド・バイアスと概念間の信頼性・妥当性・弁別性

コモン・メソッド・バイアスを確認するために,今回の分析に用いた7つの構成概念(質問項目=26)を全て投入し,固有値1以上を因子抽出の条件とした主因子法による探索的因子分析(回転なし)をIBM SPSS Statistics ver. 28にて行った。その結果,4つの因子が抽出され,第一因子の寄与率は47.262%と,基準値の50%を下回っていたことから,コモン・メソッド・バイアスは問題ないと判断し,次のプロセスに進むことにした。

各概念の信頼性,内的一貫性・収束妥当性について示す。信頼性はクロンバックα係数および合成信頼性(Composite reliability: CR)にて確認した。α係数は0.6以上あれば内的整合性があり,CRは基準値の0.7を超えていたため,内的一貫性を備えていると言える。収束妥当性は,平均分散抽出(Average variance extracted: AVE)を用いて行う。全ての因子が最低ラインである0.5を超えていることから,収束妥当性があると認められる。弁別妥当性は,全てのAVEの平方根の値が因子間の相関係数より大きいことが要件となる。表3で示すように「使い勝手」において「利便性」「楽しさ」「エンゲージメント」の相関係数よりもやや低い傾向にあった。ただし,今回は4つの要素をデザイン性で包括したモデルであり,成果変数に大きな影響はないと判断し,分析を進めた。

表3

構成概念間の弁別妥当性

注:表の対角線にはAVEの平方根を表記し,その下の段は因子間の相関係数を示している。

3. 購買行動データと分析結果

分析に用いたのは,過去3年間のアプリ経由で把握できている購買行動データのみを分析対象とする。3年間の合計購買点数,合計購買金額,顧客期間である。顧客期間とは初回の購入日から調査日までの期間を日にちで換算したものである。今回の回答者の購買点数の平均は399.62個,標準偏差は547.522,購買金額の平均は4万4,363.61円,標準偏差は6万0,086.852,顧客期間の平均は751.77日,標準偏差は536.820であった。購入点数と購入金額が全体的に少ないユーザーが多く,ロングテール型の分布であった。心理データの分布の形状とは異なるため,この3つのデータを標準化してから分析に進んだ。

上記を含めた仮説モデルを検証するために,IBM SPSS Amos(ver. 28)で構造方程式モデルを作成し,分析を行った(図2参照)。適合度指標として用いた,CFI(>0.90以上で良い)は0.954,Hoelter(0.5)は365(サンプル数の27773sより小さければχ2検定が棄却されても問題がない),SRMRは0.054,RMSEAは0.057となった(いずれも0.05未満で良い)。適合度指標はほぼ十分な適合度であったことから,このモデルで解釈を進めた。分析の結果,すべてのパスは0.1%リスクで有意,かつ,いずれも正の影響となり,仮説はすべて検証された。購買行動に対する標準化総合効果は,アプリのデザイン性が0.099,エンゲージメントは0.113,アプリの態度的ロイヤルティは0.037,アプリの行動的ロイヤルティは0.149となり,購買行動には,アプリの態度的ロイヤルティよりもエンゲージメントの方が強い効果があることが示された。

図2

購買行動データを含めたエンゲージメントの包括モデル

IV. まとめと今後の課題

今回の分析で明らかになった点は大きく2点ある。第一に,心理データと購買行動データを突合した包括的なモデルを通じて,モバイル・アプリ・エンゲージメントが実際の購買行動に影響を与えていることを示した点である。モバイル・アプリのデザイン性(特に使い勝手の良さ)がエンゲージメントを高め,エンゲージメントがアプリの態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティに影響を与えた結果,購買行動にも正の影響を与えることを示してきた。これまで,モバイル・アプリ,および,エンゲージメントが実際の購買行動にどのように影響するのかについての研究があまり進んでいなかったことから,実務的にもアプリをどのように設計すべきかを示せた意義は大きいと言える。第二に,(アプリの行動的ロイヤルティを経由した上での影響ではあるが)態度的ロイヤルティよりも,モバイル・アプリ・エンゲージメントの方が購買行動に対して強い影響を及ぼしている点である。アプリを設計する際もこの点を大切にしていく必要がある。ただし,今回のアプリの態度的ロイヤルティは他者への推奨意図が多くを占めているため,今後の測定においては配慮が必要である。

最後に本研究の課題について述べる。まず,今回の共同研究で調査対象としたアプリは比較的シンプルなものであり,あまり深い使い込み要素(互換性などの要素)がなかったため,その要素の影響は測定できていない。購買行動のデータと心理データの分布が異なっていたため,推定方法も改善していきたい。今後,このアプリはアップデートと共に機能を追加していく可能性がある。測定した心理データが購買データよりも後に測定されているという課題もあることから,今後は心理データの測定タイミングに配慮して,継続的に測定を行う予定である。

謝辞

本研究は令和5年度 科学研究費 基盤(C)課題番号23K01639「エンゲージメントの行動データと心理尺度の統合モデルによるブランド・マネジメント」の助成を受けて進めたものである。共同研究先企業の方々にも日々,協力して頂いている。また,マーケティングレビューのシニアエディター,マーケティング・カンファレンス2023オーラルペーパーの査読者からは,改稿のための貴重なコメントを頂いた。ここに感謝の意を表する。

References
 
© 2024 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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