Japan Marketing Review
Online ISSN : 2435-0443
Peer-reviewed Article
Impact of the Congruence Between an AI Model’s Personal Life Settings and Product Characteristics on Product Attractiveness in Advertisement
Takehiro EbitaniTakumi Kato
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2025 Volume 6 Issue 1 Pages 45-51

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Abstract

モデルの広告効果に関する既存研究では,外見的特徴,及び内面的特徴が商品特性と合致していることが重視されてきた。しかし,それら既存研究の対象は,著名人モデルと一般人モデルに限定されている。最近は,低コスト・低リスクの観点から,人工知能(AI)が生成したモデルの広告起用が注目されている。そこで,本研究では,「AIモデルの私生活設定と商品特性が合致すると広告の商品魅力は高まるか?」というリサーチクエスチョンを設定し,ランダム化比較試験を実施した。その結果,洗濯用洗剤広告のAIモデルを対象とした場合,独身よりも,既婚・子ありという属性設定が商品魅力を高めることが明らかになった。本研究結果は,広告の著名人・一般人モデルに関する知見が,私生活が存在しないAIモデルにも適合することを示しており,学術的知見を拡張するとともに,実務家に有益な示唆を提供した。

Translated Abstract

Research on the advertising effectiveness of models has emphasized the importance of congruence between a model’s physical and internal characteristics and the product’s attributes. However, these studies have primarily focused on celebrity and non-celebrity human models. Recently, the use of AI-generated models in advertising has gained attention due to their low cost and low risk. This study addresses the research question: “Does the congruence between an AI model’s personal life setting and product characteristics enhance product attractiveness in advertising?” Randomized controlled trials (RCTs) to investigate this question showed that setting the AI model’s attributes to married with children enhanced product attractiveness in a detergent advertisement. This finding suggests that insights from previous research on celebrity and non-celebrity models can also be applied to AI models, which do not have real personal lives, thereby extending academic knowledge and providing practical implications for marketers.

I. 研究の目的

広告モデルは,長年にわたり著名人が重宝されてきた。著名人による商品やサービスの訴求は,その知名度から,ブランドの認知,信頼,魅力,購入意向に寄与する(Atkin & Block, 1983; Hussain et al., 2020; Osei-Frimpong et al., 2019)。しかし,近年,不祥事リスクの高まりから,著名人を広告に起用する意義が見直され始めている(Huang, 2017)。例えば,Toyotaは自社メディアであるToyoTimesで起用していた著名人の不祥事をきっかけに,契約終了するだけでなく,コンテンツを削除するに至った経緯がある(Nikkei, 2022)。また,米国人ゴルフ選手の不祥事では,NIKEやPepsiCo等スポンサーの株式市場価値が数日で2%以上毀損される事態となった(Knittel & Stango, 2013)。一夜にしての評判の毀損や,コンテンツ資産の消失というリスクを嫌い,著名人を避ける動きが見られる(Allal-Chérif et al., 2024)。

そこで,著名人の代替として,世間的に知名度が低いモデル(以下,一般人モデル)が起用されている。一般人モデルは,コストの安さ,リスクの小ささ,さらには既存イメージがないことによるブランドコンセプトの効果的な演出(Kato, 2023)などが強みである。例えば,Amazonが2016年に制作したTV広告「Amazonプライム ライオン編」では,著名人を起用していないにも関わらず,CM総合研究所が発表する同年度のTV広告ランキング1位を記録した(Tomari, 2017)。このように,コンセプトが明確なブランドの広告は,著名人の知名度に依存することなく,一般人モデルを活用して,商品やサービスの魅力を効果的に伝えている。しかし,最近になって,さらに費用が安く,制作スピードが速く,表現自由度の高いモデルが登場した。それは生成AIにより創造された架空のモデル(以下,AIモデル)である。日本では,伊藤園が2023年に初めてAIモデルをTV広告に起用した(ITO EN Koushiki Channel, 2024)。また,しまむらでは,同社オリジナルのAIインフルエンサー「Luna」のSNS運用を2024年から開始している(Shimamura, n.d.)。このように,今後はAIモデルへの置き換えがさらに進む可能性がある。しかし,人間のモデルと比較して,歴史の浅いAIモデルでは効果的な要因の知見が乏しい。

そこで,本研究では,人間を対象とした広告モデルに関する知見をAIモデルに拡張し,「AIモデルの私生活設定と商品特性が合致する方が広告の商品魅力が高まるか?」というリサーチクエスチョンを設定した。日本におけるランダム化比較試験(randomized controlled trial, RCT)によって,AIモデルのSNS投稿内容,家族構成,学歴に関する情報が商品魅力に及ぼす影響を検証した。私生活が存在しないAIモデルであっても,人間のモデル同様に私生活の背景情報が広告効果に与える影響を明らかにした研究は乏しい。本研究の結果は,広告モデルに関する知見をAIモデルに拡張し,かつ将来的にさらなる市場成長が見込まれるAIモデルの開発・利用を検討している実務家に有益な示唆を提供している。

II. 既存研究と仮説の導出

1. 著名人を対象とした効果的なモデルの特徴

広告効果を向上させるためには,出演するモデルと訴求する商品特性の合致が非常に重要である(Kamins & Gupta, 1994)。著名人を起用する場合,著名人の外見的特徴と内面的特徴の2つの要素が商品特性と合致していることが望ましい。外見的特徴に関する既存研究では,出演するモデルの性別(Klaus & Bailey, 2008),年齢(Bristol, 1996; Jeyabalan & Nagarajan, 2014),人種(Branchik & Chowdhury, 2017),容姿(Agam, 2017; Huh et al., 2014)が消費行動に及ぼす影響が議論されてきた。内面的特徴に関しては,著名人が形成してきたイメージと商品イメージの合致性が広告効果において重要であることが分かっている(Kamins & Gupta, 1994)。例えば,モデルの有する専門性が商品特性と一致していると購入意向に寄与する(Kim et al., 2017; Thomas & Johnson, 2017)。このように,商品・サービス特性と,モデルの外見と内面の両特徴が合致していることが重要である。

2. 一般人モデルとAIモデルを対象とした効果的なモデルの特徴

著名人モデルと比較すると,一般人モデルの訴求効果を高める要因に関する既存研究は限定的である。なぜなら,知名度が低い一般人モデルは内面的特徴のイメージが消費者に浸透していないためである。ただし,外見的特徴については検討が可能である。例えば,消費者が広告を見た際に,一般人モデルが私生活でも同様に商品を使用しているという共感が購入意向を高める(Kato, 2023)。

AIモデルに目を向けると,外見的特徴はもちろん,内面的特徴も存在しないため,企業は自由に制作することができる。例えば,しまむらのAIインフルエンサー『Luna』は,外見に加えて,趣味や特技などの設定が公式サイトで説明されている(Shimamura, n.d.)。物理的存在がないからこそ,AIモデルでは,外見よりもストーリーという内面的特徴の設定が重要である(Allal-Chérif et al., 2024)。学術研究でも,当該分野への関心は高まっており,観察研究を通じてAIモデルの有する専門知識が信頼を得るために重要であることが報告されている(Alboqami, 2023)。しかし,AIモデルの内面的特徴の具体的な設定に関する影響までは知られていない。そこで,本研究では,SNS投稿内容,家族構成,学歴という具体的な設定に着目し,これらの商品と関連性の高い美容ドリンク,洗濯用洗剤,ニュースアプリケーション(以下,ニュースアプリ)を対象として,以下3つの仮説を立てた。

H1:美容ドリンク広告において,AIモデルの美意識の高いSNS投稿の設定は,美意識の低いSNS投稿の設定に比べて,商品魅力の平均が有意に高い。(STUDY1)

H2:洗濯用洗剤広告において,AIモデルの既婚・子ありの属性設定は,独身の属性設定に比べて,商品魅力の平均が有意に高い。(STUDY2)

H3:ニュースアプリ広告において,AIモデルのハーバード大学卒の属性設定は,高卒の属性設定に比べて,商品魅力の平均が有意に高い。(STUDY3)

III. 実証実験

1. STUDY1:AIモデルが訴求する商品とSNS投稿内容の合致性が商品魅力に与える影響

(1) 検証方法

STUDY1では,2024年2月15日から16日にかけて,オンライン調査環境にてRCTを行った。回答者は日本の20–60代の男女500人で,性別と年齢は均等になるように収集した。RCTでは,500人の回答者を各250人の2群に分割した。商品-SNS合致群(処置群)には,AIモデルを起用した美容ドリンクの画像広告(図1)と,美意識の高い私生活設定のAIモデルのSNS投稿画像3つ(図2上)を提示した。商品-SNS非合致群(統制群)には,美容ドリンクの画像広告(図1)と,美意識の低い私生活設定のAIモデルのSNS投稿画像3つ(図2下)を提示した。画像はAdobe Stock,著作権フリー素材(https://unsplash.com/ja),Adobe Fireflyの生成画像を使用した1)。回答者には画像を提示した後,「この商品に魅力を感じますか?」という設問に,5段階尺度(1=まったく当てはまらない,5=とても当てはまる)で回答を求めた。検証方法はt検定を適用し,商品魅力の平均値の差を検証した。分析環境は,統計解析ソフトのRである。

図1

STUDY1のRCTに使用した美容ドリンクの画像広告

図2

STUDY1のRCTに使用したSNS投稿画像(上:美意識の高い私生活設定のAIモデルのSNS投稿画像,下:美意識の低い私生活設定のAIモデルのSNS投稿画像)

(2) 検証結果

1に示すとおり,商品魅力の平均値は商品-SNS合致群が商品-SNS非合致群よりも高い結果となった。しかし,各群×魅力度のマトリクスにt検定を適用した結果,p値=0.162となり,5%水準で有意な結果は得られなかった。よって,H1は支持されなかった。

表1

STUDY1 t検定の結果

2. STUDY2:AIモデルの家族構成の属性設定が商品魅力に与える影響

(1) 検証方法

STUDY2では,図3に示すAIモデルを起用した洗濯用洗剤の画像広告を作成した。画像はAdobe Stock,Adobe Fireflyの生成画像を使用した2)。検証にあたり,2024年7月13日から17日にかけて,オンライン調査環境でRCTを行った。回答者は日本の20–60代の男女700人で,性別と年齢は均等になるように収集した。RCTでは,700人を独身群(統制群)と既婚・子あり群(処置群)の2群に分割して,AIモデルの家族構成について異なる属性設定の注記と図3の画像広告を提示した。その後,「この商品に魅力を感じますか?」という設問に,5段階尺度(1=まったく当てはまらない,5=とても当てはまる)で回答を求めた。検証方法は,t検定である。

図3

STUDY2のRCTに使用した画像

(2) 検証結果

2に示すとおり,商品魅力の平均値は,既婚・子あり群が独身群よりも高い結果となった。また,各群×魅力度のマトリクスにt検定を適用した結果,p値=0.034となり,5%水準で有意になった。よって,H2は支持された。

表2

STUDY2 t検定の結果

Note: ***p<0.001; **p<0.01; *p<0.05

3. STUDY3:AIモデルの学歴の属性設定が商品魅力に与える影響

(1) 検証方法

STUDY3では,図4に示すAIモデルを起用したニュースアプリの画像広告を作成した。画像はAdobe Fireflyの生成画像を使用した。調査対象はSTUDY2と同じである。RCTでは700人を高卒群(統制群)とハーバード大学卒群(処置群)の2群に分割して,AIモデルの学歴について異なる属性設定の注記と図4の画像広告を提示した。その後,「この商品に魅力を感じますか?」という設問に,5段階尺度(1=まったく当てはまらない,5=とても当てはまる)で回答を求めた。検証方法は,t検定を適用した。

図4

STUDY3のRCTに使用した画像

(2) 検証結果

3に示すとおり,商品魅力の平均値は,ハーバード大学卒群が高卒群よりも高い結果となった。しかし,各群×魅力度のマトリクスにt検定を適用した結果,p値=0.773となり,5%水準で有意な結果は得られなかった。よって,H3は支持されなかった。

表3

STUDY3 t検定の結果

IV. まとめと今後の研究課題

1. 理論的貢献

広告モデルの効果に関する既存研究は,著名人と一般人モデルを対象としてきた。広告効果を高める要因として,商品イメージとモデルの外見及び内面の特徴が合致していることを挙げている(Agam, 2017; Branchik & Chowdhury, 2017; Bristol, 1996; Kamins & Gupta, 1994; Kato, 2023; Klaus & Bailey, 2008)。しかし,近年登場したAIモデルの内面的特徴による広告効果は議論されていない。そこで,本研究は,商品イメージと合致したAIモデルの家族構成設定が商品魅力を高めることを示し,AIモデルのSNS投稿設定と学歴設定においても魅力的に評価される傾向が見られた。本研究の結果は,人間を対象とした広告モデルで蓄積されてきた,モデルのイメージと商品イメージが合致することの重要性を,私生活が存在しないAIモデルで検証した点で学術的知見を拡張している。

2. 実務的示唆

本研究は,以下2つの実務的示唆を示している。1つ目は,実務家はAIモデルを広告起用する際に,私生活などの内面的特徴を設定すべきである。本研究の結果は,私生活が存在しないAIモデルにおいても,人間のモデルと同様に,内面的特徴が消費者の知覚に影響を及ぼすことを示した。2つ目は,内面的特徴を設定する上で,訴求商品との合致性を考慮することが重要である。本研究では,STUDY2の洗濯用洗剤とAIモデルの既婚・子ありという属性設定に関して,合致群と非合致群の間で商品魅力の平均値に有意な差が検出された。また,有意差は検出されなかったものの,STUDY1の美容ドリンクとAIモデルの美意識の高いSNS投稿設定,STUDY3のニュースアプリとAIモデルの学歴設定においても,私生活設定の合致性が商品魅力を高める傾向が見られた。よって,実務家は商品特性を鑑みて,AIモデルの私生活を設定することが重要である。

3. 限界と研究課題

本研究はいくつかの限界がある。1つ目は,商材の限定である。本研究の結果は,美容ドリンク,洗濯用洗剤,ニュースアプリの3つの商材に限定されているため,他商材への拡張が必要である。2つ目は,本研究で採用した内面的特徴の設定が,SNS投稿内容,家族構成,学歴に限定されていることである。その他の内面的特徴の設定による影響は考慮されていない。3つ目は,本研究は操作チェックをしていないことである。本研究で採用したRCTは,興味の対象である処置を除いてグループ間の条件を揃えることで,処置効果を推定する方法で,科学的に堅牢な結果を提供する(Torgerson & Torgerson, 2008)。ただし,操作チェックを加えることで,実験の信頼性はさらに高められる。最後に4つ目は,本研究は,AIモデルの普及前の一時点の結果であることだ。普及の段階ごとに,消費者の評価は変化していく可能性があり,複数時点での検証が必要である。また,今後AIモデルが社会に浸透して,人間のモデルとAIモデルの境界がなくなっていった場合に,本研究で示した効果は一層高まる可能性がある。これらは今後の研究課題である。

謝辞

本研究はJSPS科研費23K12567の助成を受けたものです。

1)以下の素材を使用して作成,Adobe Stock,「Beautiful young Asian woman with clean fresh skin isolated on white background, Face care, Facial treatment, Cosmetology, beauty and spa, Asian women portrait generative ai」https://stock.adobe.com/jp/587066214,「Big comfortable bed and table with glowing lamp in room at night」https://stock.adobe.com/jp/430305876,「カラオケ カラオケボックス イメージ」https://stock.adobe.com/jp/236151686,「ファンデーションを拭いたメイク落としシート」https://stock.adobe.com/jp/376475490

2)以下の素材を使用して作成,Adobe Stock,「Portrait happy smiling Asian young woman is doing laundry everyday in home. Generated AI image」https://stock.adobe.com/jp/808862870

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本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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