2025 Volume 6 Issue 2 Pages 75-81
近年,不確実性を伴う販売手法(例:ガチャやくじ引き)が注目され,日本国内でも多くの企業がその手法を採用している。しかし,既存研究では,リスト内の全商品が同ランク(例:同じ商品の異なる味)の場合は,不確実性を伴う商品が好まれる一方で,異なるランク(例:異なるグレードかつ異なる味)の場合は,避けられる傾向が示された。このため,異なるランクにおける不確実マーケティングと消費者の反応については十分に解明されていない。そこで,異なるランクの条件下で,リスト内から何が選ばれるか分からない不確実性が伴う商品(ランダム商品)の選択意向に影響を与える要因として,希少性メッセージと結果の不確実性を楽しませる要素に着目し,分析を行った。結果,両要因は選択意向を有意に高めることが示された。さらに,これら要因の交互作用を検討した結果,時間的制約がランダム商品の選択意向に与える正の影響を,結果の不確実性を楽しませる要素が弱める有意傾向が示された。本研究は,不確実性を伴う販売手法に対する消費者の心理的要因を明らかにし,理論的・実務的な示唆を提供するとともに,長期的影響を探る今後の研究の必要性を指摘する。
Sales approaches with uncertainty (e.g., gacha and lottery) have attracted recent attention, and many firms in Japan have adopted such approaches. However, studies have shown that products with uncertainty are preferred when all products in the list have the same rank (e.g., different tastes of the same product), while products with different ranks (e.g., different grades and different tastes) tend to be avoided. Therefore, uncertainty marketing and consumer responses under different ranks have not been fully unraveled. Therefore, we conducted an analysis of the scarcity message and the element of entertaining uncertainty about the outcome, as factors that influence the choice intention for a product with uncertainty about what will be selected from a list (random product) under different rank conditions. The results showed that both factors tended to increase the intention to choose random products at different ranks. Furthermore, an examination of the interaction effects of these factors showed that the entertaining uncertainty of the outcome tended to slightly weaken the positive influence of time constraints on the choice intention of random products. This study clarifies the psychological factors of consumers toward sales methods involving uncertainty, provides theoretical and practical implications, and points to the need for future research to explore the long-term effects.
近年,「くじ引き」や「カプセルトイ」など,ランダムに商品が振り分けられる販売手法が多く見受けられ,人々の注目を集めている。例えば,ピーチアビエーションが実施した「旅くじ」は1回5,000円でガチャを回し,引いたカプセルに行き先が指定された航空チケットが入っている商品である。この「旅くじ」は2023年1月時点で累計約3万個を販売し,実際に利用者の約半分は新規顧客であった(Omura, 2023)。また,フルタ製菓株式会社の「チョコエッグ(Furuta Confectionery, n.d.)」は,ランダムにフィギュアが入っているチョコレート菓子であり,購入するまで中身がわからない点が特徴だ。このように,マーケターが意図的に特定の情報を非公開にして消費者の注意と関心を引き出す戦略は「不確実マーケティング」(Kovacheva & Nikolova, 2023)という。この戦略は,消費者が通常不確実性を避け確実性を好むという一般的な行動原則(Kahneman & Tversky, 1979)に反している。
不確実マーケティングについての研究では,ランダムに割引額が決定される仕組みが,確定した割引額よりも消費者の関心を高めることが明らかになっている(Ailawadi et al., 2014; Dhar et al., 1999)。また,Moon and Nelson(2020)は,不確実な結果の方が事前に想定される最悪な結果よりも,満足度を向上させることを示している。例えば,結末が曖昧な映画は,最悪な結末が確定している映画よりも視聴者を楽しませる。以上のように,不確実マーケティングの研究は商品の内容から,販売手法,プロモーション手法まで広範囲に及ぶ。
Buechel and Li(2023)は,消費者が不確実性を避ける一方で,特定の条件下では不確実性を好む場合があることを示した。実験では,参加者に,購入時に既に決められた商品(以下「確実な商品」)とリスト内から何が選ばれるか分からない不確実性が伴う商品(以下「ランダム商品」)の二つの選択肢を与え,どちらが良いか選択させるものであった。ランダム商品には,リスト内の全ての商品が同ランク(味,色,デザインなど)の選択肢で構成されている場合と,異なるランク(価格など)で構成されている場合で実験している。結果として,同ランクの場合では,確実な商品に比べランダム商品が好まれる一方,異なるランクの場合ではランダム商品が避けられることが明らかになった。しかし,先行研究では,異なるランクでの不確実マーケティングについて研究を行なっていない。
本研究では,異なるランクにおいてもランダム商品が好まれる場合があることを明らかにする。近年の企業事例を参考に,不確実マーケティングにおける希少性メッセージと不確実性を楽しませる要素の効果について,3つの研究を実施した。
普段購入を検討しない商品であっても「期間限定」などのメッセージ表示があると,つい購入してしまった経験はないだろうか。この現象は,特定の性質を持ったメッセージが購買意識や意向に与える影響に関連していると考えられる。Cialdini(1993)は,一般的に入手が困難なものは,入手が容易なものよりも優れていると認識する傾向があると指摘している。また,Abendroth and Diehl(2006)は,限られた購入機会において,購入するよりも購入を見送る方が,大きな短期的後悔を引き起こし,「不作為バイアス1)」を逆転する可能性を示した。さらに,Nunoi et al.(2013)は,「期間限定」や「数量限定」といった希少性メッセージが商品評価を高めることを報告している。同様に,Barton et al.(2022)も,希少性が購買意欲を高める効果を有することを明らかにした。これらの研究により,希少性メッセージには,後悔を避けるために購買行動を促し,商品評価を向上させる効果があると示唆される。
本研究では,希少性メッセージの表示によって,商品評価を高めたり,後悔を避けるために行動したりする効果があることから,人々は希少性メッセージの表示によって,ランダム商品の選択意向を高めることができるのではないかと推察する。なぜなら,希少性メッセージを加えることで,「最も低いランクが当たるかもしれない」というリスクよりも「この機会を逃すと買えなくなる」という損失回避の心理が上回り,選択意向を高めるといえるからだ。希少性には,数量的制約と時間的制約の2種類があるため(Cialdini, 1993),Study1では,以下2つの仮説を導出する。
H1:数量制約メッセージの表示あり(vs.なし)の方が,ランダム商品の選択意向が高い。
H2:時間制約メッセージの表示あり(vs.なし)の方が,ランダム商品の選択意向が高い。
2. 方法Study1では,先行研究で使用されたアイスクリームと,それに類似したソフトクリームを商材とし,「確実な商品」と「ランダム商品」の2つの選択肢を左右に配置した画像刺激を利用する。「ランダム商品」では,3つの味(バニラ・チョコレート・ストロベリー)と価格帯の異なる3つのランク(プレミアムシリーズ,スタンダードシリーズ,リーズナブルシリーズ)を設けた。さらに,希少性メッセージの有無を条件として加えるため「希少性メッセージなし」,「数量的制約」,「時間的制約」の3つの条件で画像をそれぞれ作成した。数量的制約では「数量限定」,時間的制約では「期間限定」を表示した。画像刺激の例は,図1に示す。
画像刺激(Study1)
実験はオンライン(2024年12月)で実施した2)。参加者を次の4つのグループにランダムに割り当て3),条件に応じた画像刺激を提示した:(①数量的制約(ソフトクリーム)+希少性メッセージなし(アイスクリーム),②数量的制約(アイスクリーム)+希少性メッセージなし(ソフトクリーム),③時間的制約(ソフトクリーム)+希少性メッセージなし(アイスクリーム),④時間的制約(アイスクリーム)+希少性メッセージ(ソフトクリーム))。参加者にはそれぞれの条件下で,❶と❷のどちらを選択したいかを7段階尺度(1=「❶の選択肢(スタンダードランクのバニラ味アイスクリームを400円で購入する)を選ぶ」,7=「❷の選択肢(リストにある9種類のアイスクリームの中から店員がランダムに選んだアイスクリームを400円で購入する)を選ぶ」)で回答を求めた。表示順序や商材の組み合わせを反転させ,回答の偏りを制御した。実験では,207人(男性81人,女性121人,無回答5人;平均年齢=41.92,SD=11.38)が参加した。分析には,対応のあるt検定を用い,「数量的制約」と「希少性メッセージなし」,「時間的制約」と「希少性メッセージなし」の2グループ間で選択意向の平均値に有意差があるかを検証した。
3. 結果分析の結果,「数量的制約」におけるランダム商品の選択意向(M=3.71, SD=2.22)と「希少性メッセージなし」におけるランダム商品の選択意向(M=3.5, SD=2.17)には有意な差が認められた(t(205)=2.05, p<.01, r=0.14, CI 95% [0.01, 0.43])。また,「時間的制約」におけるランダム商品の選択意向(M=3.74, SD=2.21)と「希少性メッセージなし」におけるランダムな商品の選択意向(M=3.5, SD=2.17)も有意な差が認められた(t(205)=2.37, p<.01, r=0.16, CI 95% [0.04, 0.45])。したがって,H1,H2は支持された。
Study1では,希少性メッセージが,異なるランクのランダム商品の選択意向を高めることが示された。しかし,ランダム商品の選択意向を高めるには希少性メッセージ以外の販売手法も有効な可能性がある。特に,ランダム商品の特徴である「結果の不確実性」に楽しさを加える販売手法に注目が集まっている。この手法では,結果の不確実性を楽しませる要素(例:サイコロを振る,くじを引く,ガチャを回すなど)を通じて商品が決定される仕組みが採用されている。前述したピーチアビエーションの「旅くじ」や西日本旅客鉄道の「サイコロきっぷ(West Japan Railway Company, 2024)」などが,それに該当する。
このような販売手法が注目される背景には,近年,モノが溢れ,体験の価値が相対的に重視され,モノそのものではなく,それを通じて得られる体験に価値を置く考え方が広がっている。SNSの普及がこの動向を後押ししており,消費者は「モノを通じた経験」に価値を見出し,その経験を基に製品選択を行う傾向が強まっている(Kitagawa, 2021)。また,Cuadrado et al.(2018)は「価値とは経験であり,それは購入した製品や選択したブランドにだけ存在するのではなく,むしろそこから得られる消費体験に存在する」と指摘している。
Study2では,ランダム商品を販売する際,結果の不確実性を楽しませる要素が消費者のランダム商品の選択意向に正の影響を与える可能性があると推察する。これは,受け取る報酬が定まっていないという不確実性は,ポジティブな感情を引き起こすことが示唆されているためである(Abuhamdeh et al., 2015; Bar-Anan et al., 2009; Lee & Qiu, 2009; Vosgerau et al., 2006)。また,Custers and Aarts(2005)は,ポジティブな感情を引き起こす行動が選択肢を魅力的に感じさせ,無意識的にその選択肢を選ぶ確率が高まることを明らかにしている。よって,以下の仮説を導出した。
H3:結果の不確実性を楽しませる要素あり(vs.なし)の方が,ランダム商品の選択意向が高い。
2. 方法Study2では,参加者には「結果の不確実性を楽しませる要素あり(以下「楽しませる要素あり」)と「結果の不確実性を楽しませる要素なし(以下「楽しませる要素なし」)」の2つの条件に対応したシナリオと画像刺激を提示する。画像刺激には,Study1で使用した「希少性メッセージなし」の画像と,「希少性メッセージあり」で数量や時間の制約を表示していた部分を「サイコロを振ってアイスを選ぶ!!」に変更した画像を使用した。
「楽しませる要素あり」では,参加者自身がサイコロを振り,アイスクリームが決定される仕組みを提示した。この条件では,ランク3種類:×味3種類の9種類のアイスクリームがあるため「ランクを決めるサイコロ」と「味を決めるサイコロ」の2種類を振り,9種類の組み合わせから1つが選ばれるよう設計した。サイコロの結果は,各組み合わせが等しい確率で選ばれることを説明した。一方,「楽しませる要素なし」では,店員が9種類の組み合わせの中からランダムに1つを選ぶ設定とした。
実験は,Study1と同様にオンライン(2024年12月)で実施し2),207人(男性68人,女性136人,無回答3人;平均年齢=41.37,SD=10.94)が参加し,次の2つのグループにランダムに割り当て3),条件に応じた画像刺激を提示した:(①楽しませる要素なし(ソフトクリーム)+楽しませる要素あり(アイスクリーム),②楽しませる要素なし(アイスクリーム)+楽しませる要素あり(ソフトクリーム))。選択肢の提示方法および測定方法はStudy1に準拠し,「確実な商品」と「ランダム商品」の2つの選択肢を左右に配置した上で,7段階尺度を用いて選択意向を測定した。分析には,対応のあるt検定を用い,「楽しませる要素あり」と「楽しませる要素なし」の2グループ間で選択意向の平均値に有意差があるかを検証した。
3. 結果分析の結果,「楽しませる要素あり」におけるランダム商品の選択意向(M=3.76, SD=2.1)と「楽しませる要素なし」におけるランダム商品の選択意向(M=2.75, SD=1.84)には有意な差が認められた(t(206)=7.48, p<.001, r=0.46, CI 95% [0.75, 1.28])。したがって,H3は支持された。
Study1およびStudy2の結果から,希少性メッセージと,結果の不確実性を楽しませる要素が,異なるランクにおけるランダム商品の選択意向を高める効果があることが示された。しかし,これら二要因の交互作用が消費者の選択意向に与える影響については,さらなる検討が必要である。
Study3では,希少性メッセージと結果の不確実性を楽しませる要素の交互作用が消費者に与える影響に着目し,ランダム商品の選択意向に及ぼす効果を検討する。希少性メッセージが誘発する切迫感と,結果の不確実性を楽しませる要素が喚起する娯楽性という異なる性質の心理的要因が同時に作用する状況では,前者による選択行動への圧力が後者の働きによって中和・弱化される可能性がある。すなわち,「早く選ばなければ損をする」という焦燥感が,「楽しみながら選びたい」という感情によって相殺され,結果として希少性メッセージの効果が弱まることが推察する。したがって,以下の仮説を導出した。
H4:数量的制約の表示あり(vs.なし)がランダム商品の選択意向に与える正の影響を,結果の不確実性を楽しませる要素あり(vs.なし)が弱める。
H5:時間的制約の表示あり(vs.なし)がランダム商品の選択意向に与える正の影響を,結果の不確実性を楽しませる要素あり(vs.なし)が弱める。
2. 方法Study3では,希少性メッセージ(数量的制約/時間的制約)と結果の不確実性を楽しませる要素の交互作用がランダム商品の選択意向に与える影響を検討した。Study1・2と同様の商材を用い,参加者を次の6つのグループにランダムに割り当て3),条件に応じた画像刺激を提示した:(①数量的制約表示あり+楽しませる要素あり,②数量的制約表示あり+楽しませる要素なし,③時間的制約表示あり+楽しませる要素あり④時間的制約表示あり+楽しませる要素なし,⑤数量的制約/時間的制約表示なし+楽しませる要素あり,⑥数量的制約/時間的制約表示なし+楽しませる要素なし)。画像刺激にはStudy1・2で使用した画像に加えて,Study1の「希少性メッセージあり」で数量や時間の制約を表示していた部分を「サイコロを振ってアイスを選ぶ期間限定(または数量限定)!!」に変更した画像を使用した。「楽しませる要素あり/なし」の条件については,Study2と同様のシナリオを参加者に提示した。
実験はオンライン2)(2024年12月)で実施し,1,056人(男性387人,女性647人,無回答22人;平均年齢=41.46,SD=11.20)が参加した。参加者には,それぞれの条件下でランダム商品の選択意向をStudy1・2と同様の7段階尺度で回答を得た。分析には対応のない二元配置分散分析を用い,希少性メッセージ(数量的制約/時間的制約)の有無,および結果の不確実性を楽しませる要素の有無がランダム商品の選択意向に与える主効果と交互作用効果を検証した。
3. 結果と考察ランダム商品の選択意向を従属変数とする2(数量的制約表示:あり/なし)×2(楽しませる要素:あり/なし)の二元配置分散分析の結果,「数量的制約」の主効果は有意であり(F(1, 695)=6.62, p<.05, η2=0.01),「楽しませる要素」の主効果も有意であった(F(1, 695)=12.55, p<.001, η2=0.02)。しかしながら,「数量的制約」と「楽しませる要素」の交互作用効果は有意ではなかった(F(1, 695)=2.18, p=0.14, η2=0.003)(図2)。よって,H4は棄却された。
二元配置分散分析の結果(Study3)
時間的制約においても同様の分析を実施した結果,交互作用が10%水準で有意傾向があり(F(1, 704)=2.84, p<.1, η2=0.004),H5はマージナルなものの支持されたといえる(図2)。交互作用が有意傾向であったため,下位検定を実施した結果,「時間的制約なし/楽しませる要素あり」(M=3.76)と「時間的制約なし/楽しませる要素なし」(M=2.96)間の単純主効果に有意な差があるが(t(319.51)=−3.66 p<.001, r=0.20, CI 95% [−1.24, −0.37]),「時間的制約あり/楽しませる要素あり」(M=4.10)と「時間的制約あり/楽しませる要素なし」(M=3.84)の間には有意な差はなかった(t(335.93)=−1.16, p=0.25, r=0.06, CI 95% [−0.71, 0.18])。また,「楽しませる要素なし/時間的制約あり」(M=3.84)と「楽しませる要素なし/時間的制約なし」(M=2.96)間の単純主効果に有意な差があるが(t(329.60)=3.88, p<.001, r=0.21, CI 95% [0.43, 1.32]),「楽しませる要素あり/時間的制約あり」(M=4.10)と「楽しませる要素あり/時間的制約なし」(M=3.76)の間には有意な差はなかった(t(325.87)=1.52, p=0.13, r=0.08, CI 95% [−0.10, 0.77])。
H4が棄却され,H5がマージナルに支持される結果となった理由は,数量的制約と時間的制約が消費者に与える心理的影響の違いによると考えられる。数量的制約は「数量限定」といった表現により製品の希少性を訴求し,「いつ在庫がなくなるか分からない」という予測できない要素が伴うため,消費者に即時的な損失回避行動を促しやすい。そのため,楽しさの要素が加わっても影響が中和されにくく,交互作用効果が観察されなかったと推察される。一方,時間的制約は「その時間内であれば確実に入手できる」という予測可能性がある。このため,楽しさの要素によって時間的なプレッシャーが緩和されやすく,制約の訴求力が相対的に弱まる傾向が示された。以上より,制約の性質による不確実性の違いが,H4とH5の結果の差に影響したと考えられる。
本研究は,不確実マーケティングに関する既存研究を拡張し,異なるランクにおける希少性メッセージと,結果の不確実性を楽しませる要素が消費者のランダム商品選択意向に与える影響を明らかにした。
理論的貢献としては,数量的制約と時間的制約の希少性メッセージが消費者に与える心理的影響の違いを明らかにした。これは不確実性と希少性に関する理論的理解を深めるものであり消費者行動研究に新たな視座を提供するものである。
実践的貢献として,まず,販売促進において数量限定や期間限定などの希少性メッセージを活用することで,消費者の損失回避心理を効果的に喚起し,従来避けられてきた異なるランクのランダム商品の選択意向を高めることが可能である点が指摘できる。さらに,サイコロやルーレットを使った商品決定や,ランダムボックスなどの楽しめる要素を取り入れることで,消費者に新しい体験価値を提供し,商品への関心や選択意向を向上させることが期待される。ただし,時間的制約メッセージとの組み合わせにおいては,楽しませる要素の導入が希少性による切迫感や即時的行動の促進を弱める可能性があるため,両要素の組み合わせ方を慎重に検討することが重要である。
今後の研究課題について2点を挙げる。第一に,製品カテゴリーの多様性についてである。本研究ではアイスクリーム,ソフトクリームを対象としたが,他の食品やカテゴリーでも同様の傾向が見られるかは実験の余地がある。第二に,長期的影響の評価である。本研究は短期的な購買行動に焦点を当てたが,ランダム商品による体験がブランドロイヤリティやリピート率に与える長期的な影響は明らかになっていない。ポジティブな結果が満足度やブランド愛着を高める一方,期待を下回るネガティブな結果が長期的な悪影響をもたらす可能性もある。これらを明らかにするには,長期的な追跡実験や実証研究が必要である。これらの視点を取り入れることで,不確実マーケティングの研究は学術的な貢献だけでなく,実務的なマーケティング戦略の発展にも寄与すると期待される。
本研究を進めるにあたり,多大なるご指導とご支援を賜りました西川英彦氏(法政大学経営学部教授)に深く感謝申し上げます。また,マーケティングレビューのシニアエディターや三都市カンファレンス2025オーラルペーパーの査読者に心より御礼申し上げます。最後に,ゼミ生の皆様との活発な議論を通じて,研究の深化につながる多くの示唆を得ることができました。重ねて感謝申し上げます。
1)不作為バイアスとは,買って後悔するよりも買わない方が良いと考えてしまうこと(Kahneman & Tversky, 1982; Landman, 1987)。
2)本研究の実験は,クラウドワークス(https://crowdworks.jp/)を通じて参加者を募集した。
3)被験者をランダムに振り分けるランダムリンクは,nimblelinks(https://www.nimblelinks.com/)を利用した。