2019 Volume 2019 Issue 1 Pages 1-
農研機構の歴史は明治 26 年に,当時の農商務省が設立した農事試験場にさかのぼります.2001 年に,それまで分野ごとにあった 13 の国立農事試験場が統合され,独立行政法人としての農研機構が発足しました.その後,農業関連の研究所等を統合し,2016 年から現在の姿となっています.このため農研機構の研究対象は非常に多岐にわたっており,これまでは分野ごとに論文集を発行してきました.しかしながら,農研機構としての統合効果を強化し,他分野の研究成果を相互に知り,取り入れることによって新たな発展が得られる経営を目指しています.そこで,この度これまでの分野別論文集を統合し,農研機構として一つの論文誌「農研機構研究報告(Journal of the NARO Research and Development)」として刊行することとしました.農研機構がカバーする幅広い分野の相乗効果を誘導する一助となる事を確信しています.
政府は我が国が目指すべき未来社会の姿として,第 5 期科学技術基本計画(2016 年 1 月閣議決定)において Society 5.0 を提唱しました.Society 5.0 とは,近年飛躍的に発展する人工知能(AI),データベース,ロボット等の ICT を活用し,サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)です.この新しい概念を,農業・食品分野において具体化し実現することが我々のミッションです.Society 5.0 においては,農業生産のあるべき姿から目指すべき目標を設定し,その実現に向けて技術開発を行っていくバックキャスト型の研究を行います.その中でも,スマート農業システムやスマート・フードチェーンシステムの構築などは,トップダウンで体系的に進めるべき研究の代表と言えます.
創刊号はミニレビュー特集として,この「スマート農業」をテーマに取り上げました.スマート農業は人工知能,ロボット技術,ICT を活用して,超省力・高品質・高生産を実現する新たな農業のことで,内閣府が 2014 年に創設した「戦略的イノベーションプログラム(SIP)」の中で,重要課題のひとつとして位置づけたものです.本年 3 月から SIP で開発された技術を現場実証し,実用化に導く「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」及び「スマート農業加速化実証プロジェクト」が,農林水産省・農研機構主導で始まっています.スマート農業が,府省連携の大型研究プロジェクトである SIP の成果を,事業省庁である農林水産省主導の実証プロジェクトに繋ぎ,破壊的イノベーションを創出して産業競争力を強化するという,Society 5.0 で求められるトップダウン型の研究開発のさきがけとなるよう全力投球する所存です.
今回の特集では,スマート農業に関する農研機構の研究成果を周辺情報も含めたミニレビューの形で紹介しています.SIP で直接開発したものではない技術もありますが,これらも SIP が作り出した流れの中で開発が加速化された技術です.また,テーマに関連した原著論文も掲載しています.
今後は,特集も交えながら,分野の垣根を越えて農研機構の研究成果を掲載していく予定です.本誌の構成や内容,特集のテーマ等についてもご要望を寄せていただければ幸いです.本誌が契機となり,分野の融合や相乗効果が生まれることを期待しています.