Journal of the NARO Research and Development
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Commentary
Research progress on countermeasures toward restoration of agricultural-environment and resumption of farming after radioactive disaster
Yuzo MAMPUKU
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RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 2021 Issue 8 Pages 3-10

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Abstract

2011 年に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により,福島県などを中心に広範囲が放射性物質に汚染された.事故直後,大気から降下した放射性物質が直接作物の葉や枝に沈着する直接汚染が発生し,直接汚染状況の影響が少なくなると,土壌に沈着した放射性物質を吸収する間接的汚染が問題となった.福島県災害対策本部は農作業を延期し,福島第一原発の半径 0 km 圏内および土壌中の放射性セシウム濃度が 5,000 Bqkg-1 を超える水田作付けを禁止した.農研機構は組織的にこの災害と向き合い,種々の成果を公表,2012 年には東北農業研究センターの福島研究拠点に「農業放射線研究センター」を設置して,被災地における継続的な研究体制づくりを進めた.筆者は,2012 年 4 月から現在(2020 年度)まで,福島県伊達郡飯舘村に派遣され,復興対策課専門員として自治体の職員と共に関係各省庁との協議,住民説明会,除染の対応,廃棄物の対応,営農に関する対応を経験した.この間の除染から営農再開,除染廃棄物を含む環境回復を,農研機構の研究と重ねて紹介する.

事故の経緯

平成 23(2011)年 3 月 11 日,東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故(東電福島第一原発事故)により,福島県などを中心に広範囲が放射性物質に汚染された.地震発生当時1 号機から3 号機は運転中,4 号機から 6 号機は定期検査中であり,地震の発生により,運転中であった原子炉は,自動停止したもののすべての外部電源を喪失.1 号機から 3 号機において非常用炉心冷却装置による注水が不能となる事態が一定時間継続したため,各号機の炉心が露出し,炉心溶解に至っている(東京電力株式会社 2012).

また,燃料棒被覆管等のジルコニウムと水蒸気との化学反応により大量の水素が発生し,1 号機では,原子炉格納容器等から漏えいした水素が原因と思われる爆発が原子炉建屋上部で発生.炉心燃料がすべて使用済燃料プールに移動されていた4 号機においても水素が原因と思われる爆発が発生し,これらの爆発による原子炉建屋等の破損に伴い,環境に大量の放射性物質が放散された(東京電力株式会社 2012).

このため,政府は福島第一原発の半径 20 km 以内からの避難と 20 ~ 30 km 圏内での屋内退避を要請(内閣府 2011).その後も放射性物質の放出は続き,風向や風速,降雨などによって放射性物質の沈着が観測された(農林水産省 2012).

東電福島第一原発事故直後は,大気から降下した放射性物質が直接作物の葉や枝に沈着して作物中の濃度を高める直接汚染が発生.3 月 19 日に福島県内の牛乳,茨城県内のホウレンソウから暫定規制値(放射性セシウム 500 Bqkg-1)を超える放射性物質が検出され,20 日には関東・東北 6 県で生産された野菜・原乳から基準値を超える放射性物質が検出された(農林水産省 2011a).

事故直後の直接汚染状況の影響が少なくなると,土壌に沈着した放射性物質を吸収する間接的汚染が問題となり,福島県災害対策本部は農作業を延期した(福島県 2013).4 月 8 日政府は,福島第一原発の半径 30 km 圏内および土壌中の放射性セシウム濃度が 5,000 Bqkg-1 を超える水田でイネの作付けを禁止することとした(農林水産省 2012).しかし,玄米や,牧草,茶葉など広範囲で暫定基準値を超え,多くの農産物に影響を与えた(農林水産省 2012).平成 24(2012)年 4 月に新たな一般食品の放射性セシウムの基準値(100 Bqkg-1)が定められ(厚生労働省 2012),福島県産の玄米は全袋検査を平成 24(2012)年から実施している(福島県 2012a).農研機構は組織的にこの災害に対応し,種々の成果を公表した(農研機構 2016).

一方,面的な除染の実施に対し政府は平成 23(2011)年 8 月に福島市に除染推進チームを設置し,一元的な除染を開始した(避難指示区域は環境省直轄,汚染状況重点調査地域は市町村が実施)(環境省 2011).環境省直轄除染区域と市町村除染区域に仕分けされことにより除染は効果的に進められたが,広範囲の環境汚染の除染の推進は,関係者の不断の努力があって進められた.突然の災害に遭われた住民に対しては,これまではほぼ無縁であった放射線,放射能とは何か,除染はどのようにするのか,など一から説明が必要であった.住民の帰還を進めるにはまず除染が必要であるが,その前に除染の説明,土地,建物の所有者の確認,所有物への立入り許可,所有物損害への補償など種々の同意が必要であった.さらに除染を効率的に実施するには除染で発生する土壌,ガレキ,伐採木等の汚染物の保管場(仮置き場)の確保も不可欠であった.環境省と関係市町村は住民との対話を重視し,筆者の派遣された飯舘村では年間 200 回を超える住民懇談会,説明会等を実施し,相互理解に努めた.住民の信頼を得るためにはこのような努力が必要であった(飯舘村 2011).

東電福島第一原発事故後,農研機構では被災地の営農再開・農業再生に向けた研究に取り組んできた.平成 23(2011)年に表土削り取り,反転工等の農地除染技術を農林水産省と取りまとめ「農地土壌の放射性物質除去技術作業の手引き」として公表(農林水産技術会議 2011a農研機構 2011a),これらは,平成 24(2012)年に農林水産省が実施した農地除染対策実証事業に活かされ「農地除染対策の技術書」として環境省の除染ガイドラインに引用されている.また,平成 24(2012)年には東北農業研究センターの福島研究拠点に「農業放射線研究センター」を設置し,被災地における継続的な研究体制づくりを進め,同センターには「放射性物質分析棟」を設け迅速な研究を開始している.

筆者は,平成 24(2012)年 4 月から令和 2(2020)年(現在も継続中)まで,福島県伊達郡飯舘村に派遣され,産業振興課専門員(2012 年から 2019 年の間は復興対策課専門員)として,自治体の職員と共に関係各省庁との協議,住民説明会,除染技術開発のサポート,除染の対応,除染廃棄物の減容化,営農再開に関する対応を経験した.この間の除染から営農再開,除染廃棄物を含む環境回復を,農研機構の研究と重ねて紹介する.

農地汚染状況の把握

農研機構は,事故直後から農林水産省委託プロジェクト研究,交付金を活用し,農地土壌汚染状況の把握,農作業環境における空間線量の把握,放射性物質を取り除くための除染技術の開発など,被災地の営農再開・農業再生に向けた研究に幅広く取り組んだ.農業環境変動研究センターは 昭和 34(1959)年から放射性物質モニタリング調査を継続して実施しており,この情報は農耕地土壌とそこに栽培される作物の放射能汚染に関する日本における唯一の長期モニタリングデータ(農環研 2010)として,土壌や作物汚染の対照データとして活用された(農研機構 2011b).さらに農業環境変動研究センターは,福島県の依頼を受け,農地土壌中の放射性セシウム濃度を測定し,その結果は各県のウェブサイト上に公開した.その後,文部科学省の航空機モニタリングによる空間線量率マップ,デジタル農地土壌図および放射性セシウム濃度の実測値に基づいて,深さ 15 cm の農地土壌の放射性セシウム濃度分布図を作成して公開した(農林水産省 2011b).2011 年 11 月時点で,福島第一原発から北西方向,およびそこから福島県中通り地方の南と北方向に放射性セシウム濃度が高い土壌が分布していた(図 1).また,福島県外においても局所的に放射性セシウム濃度が高い場所(ホットスポット)が散見され(大原 2011),福島県内でも,福島市や伊達市でもホットスポットを確認している.2011 年の調査結果から農作物の作付け制限の目安となる土壌放射性セシウム濃度が 5,000 Bqkg-1農林水産技術会議 2011b)を超える農地は福島県内で約 8,900 ha と推定された(農林水産技術会議 2012).その後の物理的減衰やウェザリングと呼ばれる放射性セシウムの浸透や流出などの現象により,農地の放射性セシウム濃度は着実に低下することの情報を提供している(高田ら 2015).

当時,全域が避難対象となった自治体は,住民の避難先確保,情報等の不足による放射性物質への対応,政府対応,関係省庁対応などに追われ,役場機能は著しく低下していた.さらに,これまで経験したことのない放射能汚染による住民説明は困難を極め,「放射線」「放射性物質」「放射能」という言葉の意味の混同,アルファ線やベータ線,ガンマ線,エックス線,中性子線,更には,放射性物質が放射線を出す能力を表す単位の「ベクレル」,人体影響を表す「シーベルト」の説明は極めて難しく,原発事故の影響と原爆による影響とを直接関連させる方々も多く見られ,住民説明会は混沌とした状況であった.筆者も飯舘村などでの住民説明会において,水稲の作付け制限濃度と農作業者の被曝の関係性,散在するSNS 等の情報や報道情報などの信憑性や確実性についての多くの質問を受け,専門用語をどのようにわかりやすく説明するか,住民感情に配慮した細心の注意をもって説明することの難しさを実感した.先にも述べたように,住民の方が安心して生活できるためには,こうした住民対応は繰り返し実施される必要があった.

土壌中における放射性セシウムの存在形態

土壌に降下した放射性セシウムは,水に溶けると 1 価の陽イオン(Cs+)となる.したがって,土壌中の負電荷に捕捉される(山口ら 2012).土壌有機物や粘土鉱物に由来する負電荷は,それぞれ Cs+ に対する親和性が異なるとともに,土壌ごとに有機物や粘土鉱物の組成や含量も異なる.本章では,土壌中におけるセシウムの存在形態,土壌の負電荷へのCs+ 吸着メカニズム,Cs+ 吸着サイトとして重要な土壌構成成分の特徴とわが国の土壌における分布について明らかにした.さらに,福島県の土壌の特性および土壌分類ごとの分布状況をレビューした上で,福島県の農地土壌における放射性セシウムを公表している.この中で,福島県の土壌特性及び農地土壌中の放射性セシウム濃度分布,福島県の土壌特性からの挙動を予測することで,農作物へ与える影響を評価している.農家の方々へこれらの情報を伝えることは極めて重要であるが,専門的知識を必要とする論文の他に,わかりやすい情報提供が出来なかったことは反省すべき点である.

農地除染技術の開発

国内において農地が高濃度の放射性物質により汚染される事態は,歴史上,初めてのことである.1986 年のチェルノブイリ原子力発電所の事故後の調査では,降下した放射性物質による土壌汚染は表層に集中していると IAEA は報告している(杉浦 2011).福島での事故においても同様の状況であると想定し,表層の土壌を除去することで汚染された農地を利用可能な状態に回復させることが期待された.中央農業総合研究センターは,マスク等の簡易な防護措置で一般の作業者が立ち入ることができる地域で農家等が作業を行うことを想定し,主に市販の農業機械(パワーハロー,フロントローダ等)を利用して土壌の放射性物質の量を低減する作業体系を確立し(農研機構 2011c),農村工学研究所が建設用機械のアタッチメントを改良した表土削り取り工法を開発した(農研機構 2011d)(図 2).これらは,地目(水田,畑)や汚染程度等を考慮した上での,農地土壌除染技術の適用の考え方及び各技術の詳細を取りまとめ,これを基に農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)作業の手引きを取りまとめた.農家自らが除染できる技術体系を身近な器具で実施できることが評価された一方で,実際の除染作業ではバックホウやブルドーザーなどの大型機械が適用された.これら大型機械の導入は,除染作業効率を向上させる効果は確認できたが,機械本体の重量,作業による振動によって農地基盤層の破壊,暗渠排水の破断につながるなども確認されている.

その頃,直轄除染対象区域(平成 23 年法律第 110 号「特措法」)の飯舘村では,連日除染(宅地,農地,林縁部等の除染)に関する環境省の説明会が開催された.飯舘村の農地は,住民意向により全域表土削り取り工法が採用された.環境省の実施した表土削り取り工法は,農地土壌表面付近に沈着した放射性セシウムを極めて効果的に除染することができた.しかし,客土には村内の汚染されていない真砂土が用いられてことにより,農家からは農地が砂場になったと批判を受けた.さらに,長大法面や一部の畦畔は,雑草の深刈り程度しか実施されず,放射性物質が残る結果となっている.現在は,帰還困難区域を除く全域において,宅地,農地,林縁部の除染を完了し,営農再開や農地の維持管理を進める箇所が徐々に増えてきた.しかし,表土削り取りによる,除去土壌は飯舘村村内で約 160 万 m3 に達し,村内 96 箇所の仮置場に一時的に保管されており,依然として営農作業等の 妨げとなることも多い(図 3).福島県全体では約 1400 万 m3 が廃棄土壌となり,早期に全量を中間貯蔵施設への運搬することを目標に,各地から運搬が開始されている.

作物への放射性セシウムの移行低減

平成 23(2011)年に農環研と福島県,茨城県,栃木県,群馬県の研究機関と連携して水稲試験を実施し,カリウム肥料が放射性セシウムの土壌から玄米への移行に及ぼす影響を調査した(Kato et al. 2015).結果,カリウムを慣行施肥の 3 倍量施用すると,粘土鉱物を多く含み放射性セシウムの固定能力が高く,移行係数が低い土壌を除き,玄米への移行係数が低下することを明らかにしている.また,化学肥料に加えて牛ふん堆肥を長期施用した土壌は,交換性カリウム濃度が高く,玄米の放射性セシウム濃度や移行係数が低くなった.粘土鉱物としてゼオライトやバーミキュライトを含む土壌を評価し,放射性セシウム濃度の低減技術として,カリウム含量の低い水田では土壌の交換性カリウムが 25 mgK2O100g-1 程度となるように地域慣行施肥を実施するよう推奨した(福島県 2012b)(図 4).これらの結果に基づき,2013 年に営農再開支援事業を活用して,福島県などでは,約 84,000 haの水田でカリウム資材を増肥する吸収抑制対策が実施された(福島県 2012b).

また大豆でも,水稲と同様に土壌のカリウム濃度により放射性セシウムの移行が低下することが明らかとなり,土壌の交換性カリウムが 25 mgK2O100g-1 程度を目標に対策した(農林水産省 2015).そばにおいては,30 mgK2O100g-1 程度を目標として対策を推奨した(農林水産省 2014).

牧草の対策として,草地更新は採草地表面の放射線空間線量率と新播牧草中放射性セシウム濃度を低減でき,放射性セシウムを深く埋没させるプラウ耕を組み合わせる完全更新法が有効であることを明らかにした.また,確実な土壌撹拌が出来れば,ディスクハロー耕等による表層撹拌でも移行低減効果が得られる(福島県 2014).

飯舘村においても,カリウム資材を除染後水田へ増肥する作業が実施されたが,避難先から村内に戻っての作業は農家の負担となった.表土削り取り等の除染後農地には幾ばくかの放射性セシウムが残存していることから,継続的な対策が求められるが,これら対策を農家に意識づけすることが極めて重要である.

放射性セシウムの食品の調理・加工での動態解析

環境中に放出された放射性物質は,事故後 9 年以上が過ぎ,放射性物質の自然減衰が促進され,放射性セシウム(137Cs)についての影響について消費者の不安が大きく,食品中の放射能濃度測定の妥当性について検討された.一般食品に含まれる放射性セシウム濃度は食品衛生法で基準値 100 Bqkg-1厚生労働省 2012)と規定されており,正確なリスク評価・管理のためには,その加工・調理過程における放射性セシウムの動態も把握する必要がある.農研機構は,玄米をとう精・炊飯調理する過程において,糠および洗米水として放射性セシウムが除去されることを明らかにしている(図 5)(農研機構 2018).精白米の場合,とう精・炊飯調理後の炊飯米の放射性セシウム濃度は玄米の濃度の約 1/8 となり,加工・調理過程での放射性セシウムの動態を解明した.現在,各自治体には食品中の放射性セシウム濃度を簡易に計測できる体制が整い,食品加工の技術と共に,消費者の安全に寄与している(農研機構 2018).しかし,依然として放射性セシウム濃度の高い山菜類やキノコ類については,住民からの対策を求められることも多い.

福島の環境回復

福島県内,帰還困難区域を除いて平成 30(2018)年末までに面的除染が終了し,それに伴い多量の汚染土壌,汚染廃棄物が発生,福島県内で約 1,400 万 m3 に達している(環境省 2015a).これらは多いときで約 1,300 カ所(図 6)などの仮置き場に保管されるか,仮置き場の設置が困難な地域(福島市,郡山市など住宅密集地)では住宅地,空き地などに保管されている.これらは特措法に基づいてすべて大熊町,双葉町に設置されている中間貯蔵施設に運搬が進められている.この輸送(図 7)は平成 27(2015)年度にパイロット輸送として 4.6 万 m3 が県内各市町村から運ばれたのをはじめとし,令和元(2019)年には 405.9 万 m3 が輸送され,これまでに 850.9 万 m3(2019 年 8 月直轄,2019 年 6 月非直轄 HP 上で日々更新)が輸送され 2021 年度にはほぼ輸送が終了することになっている(環境省 2015a).これにより,これまで借地してきた仮置き場の原状復帰(設置前の状況に戻し地権者に返還すること)が実施されている.

一方,中間貯蔵施設は約 1,600 ha の土地が用意され(環境省 2015b),仮置き場から輸送してきた汚染土壌,廃棄物の受入・分別施設,土壌貯蔵施設,さらに分別後伐採木,解体家屋などは焼却施設で焼却,減容化されその焼却灰(放射性セシウムが濃縮)は廃棄物貯蔵施設で貯蔵されることになっている(環境省 2015c).この中間貯蔵施設での貯蔵期間は貯蔵開始から 30 年以内とされ,その後は福島県外の処分場(場所未定)で処分されることになっている(環境省 2019).中間貯蔵施設では 8,000 Bqkg-1 以下の土壌とそれ以上の土壌を分類して雨水等の侵入を防ぎ,また汚染土壌粒子や放射性セシウムが地下水に移行しないような養生を行い貯蔵することとしている.中間貯蔵施設の最終処分については,「福島復興再生基本方針」平成 24(2016)年 7 月 13 日(閣議決定)等において,「中間貯蔵開始後 30 年以内に,福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる.」旨,明らかにしており今後の対応が求められる(復興庁 2012).

筆者の派遣された飯舘村においては,平成 24(2012)年に,福島県飯舘村(長泥地区,小宮地区,草野向押地区)及び川俣町(山木屋細田地区,山木屋日向地区)の約 40 ha の農地を対象とした農地除染対策実証事業(農林水産省 2013)時の住民意識と,居住制限区域と避難指示解除準備区域が解除された以降の農家意識は大きく異なっていると感じる.住民は,未知の物質であった放射性物質の対応と対策を体験し,避難を乗り越え,現在に至る.除染による環境回復も進んでいるが,時間の経過による帰村意識の薄れ,村内のインフラ整備への不満など環境回復の先にある村での生活再開に向けて多くの課題を残している.営農再開においては,帰還して農業を営む方の減少,高齢化などが影響しており,今後の課題となっている.

おわりに

放射性物質により,多大な影響を受けた我が国の農林水産業において,放射性物質対策について多方面からのアプローチは,安全な農産物を供給するために極めて重要である.ある程度の対策技術と営農再開へ寄与するデータの蓄積が進められる中,今後も継続的に国,地方自治体,研究機関,民間企業,関係団体等との連携を密に,分野横断的な放射性物質対策を進める必要があると考える.

謝辞

放射性物質による対策は極めて慎重かつ迅速な対応が求められた.筆者が,福島県伊達郡飯舘村に派遣され,復興対策課専門員として活動できたのは,飯舘村復興対策課の皆様,NTCI(前JIRCAS 副理事長)安中正実氏,一般社団法人日本土壌肥料学会 木村武氏,北海道大学 信濃卓郎教授,福島大学 申文浩准教授,福島県 佐藤睦人氏,齋藤隆氏,農研機構 中谷誠副理事長,湯川智行所長,太田健氏,松波寿弥氏,長坂善禎氏,好野奈美子氏,堀井幸江氏,神山和則氏,大倉利明氏,山口紀子氏,藤原英司氏,栂村恭子氏,八戸真弓氏,久保田富次郎氏,土原健雄氏,また農林水産省・環境省から貴重な資料提供とご指導によるものであり,ここに深く感謝申し上げる.

引用文献
 
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