2024 Volume 2024 Issue 17 Pages 53-69
日持ち性は花きの重要形質であり,2014 年から日持ち性の向上を目標としたダリア育種を開始した.22 品種を育種材料として品種間交雑を行い,切り花の日持ち日数を指標とした選抜とその選抜系統間での交雑を 3 世代繰り返した.2020~2021 年に系統適応性検定試験を実施した結果,桃色に中心白色の美しい複色花色の第 3 世代選抜系統 828-18,および濃桃色の系統 937-C58(‘NAMAHAGE キュート’× 第 2 世代選抜系統 628-48)の 2 系統が新品種候補として有望と判定され,2022 年 7 月に,それぞれ ‘エターニティピーチ’ および ‘エターニティシャイン’ として品種登録出願した.2 品種の最大の特徴は,優れた日持ち性である.2020 年および 2021 年の調査で,2 品種の日持ち日数は,蒸留水で6.4~12.3 日(切り花用主要品種 ‘かまくら’ の 1.2~2.2 倍),GLA(1%グルコース,0.5 mL・L-1 kathon CG および 50 mg・L-1 硫酸アルミニウムから構成される品質保持剤)で 9.1~12.1 日(‘かまくら’ の 1.4~2.0 倍)であった.‘エターニティシャイン’ はエチレン処理に対する感受性が低く,落弁が生じにくかった.2020~2021 年に全国 5 カ所で栽培時期の異なる作型で栽培した切り花も同様の良日持ち性を示したことから,2 品種の優れた日持ち性は環境によるものではなく,品種特性であることが明確に示された.
The vase life of cut ornamental flowers is important breeding target in determining their quality and consumers’ preference. As the vase life of cut dahlia (Dahlia variabilis) flowers is very short, we initiated a research breeding program in 2014 to improve it. We chose 22 commercial cultivars as initial breeding materials, and repeatedly crossed and selected promising offspring with long vase life for three generations, from 2014 to 2018. Third-generation selected line 828-18, which has beautiful gradation flower color with a pink and white center, and line 937-C58 (‘Namahage Cute’ × second-generation selected line 628-48) with deep pink flowers were judged to be the most suitable as new cultivars with long vase life. We registered these cultivars with Japan's Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries and released them as ‘Eternity Peach’ and ‘Eternity Shine’. These two new dahlia cultivars had genetically determined long vase lives of 6.4 to 12.3 days (1.2 to 2.2 times the vase life of a standard cultivar, ‘Kamakura’) in distilled water, 9.1 to 12.1 days (1.4 to 2.0 times the vase life of ‘Kamakura’) in GLA (10 g·L−1 glucose, 0.5 ml·L−1 kathon CG, and 50 mg· L−1 aluminum sulfate) under 23 ℃, 12-h photoperiod, and 70% RH conditions in 2020 and 2021. Moreover, flower of ‘Eternity Shine’ had low sensitivity to ethylene (no petal abscission upon 10 µL·L-1 ethylene treatment in 2020 test). Cut flowers cultivated at five locations nationwide with different cultivation seasons in 2020 and 2021 also showed similar long vase life, clearly indicating that the long vase life of our three cultivars were not due to the environment but the characteristics of cultivars.
日持ち性は消費者が花を選ぶ際のポイントの一つで,花きにおける最も重要な育種目標の一つである(小野崎 2023a).消費者や花き流通関係者に切り花に求めることは何かと尋ねると,常に上位に来る回答は「日持ちの良さ」である(小野崎 2016).一例を挙げると,農林水産省が 2020 年に行った一般家庭における花や緑の購入実態調査(インターネットアンケート)で,日本居住の 18 才以上の男女 21,702 人に切り花を購入する際の障壁(購入をためらう理由)を尋ねたところ,最も多い回答は「花はすぐに枯れてしまう」で 18.2%であり,さらに,1 年以内の実店舗での切り花購入者 512 人に,切り花を購入したり飾ったりする際に困ることや不満点を尋ねたところ,最も多い回答は「すぐ枯れてしまう,長持ちさせるのが難しい」で 36.9%であった(https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/f_R2itaku/attach/pdf/R2itaku-7.pdf).
良日持ち性は消費者からの要望が高く,近年では切り花の日持ち日数を明示してそれを保証する日持ち保証販売の取り組みも広がりをみせている(市村 2016,松島 2015).
ダリア(Dahlia variabilis)は,豪華な巨大輪から清楚な小輪まで大きさや花型のバリエーションに富み,多彩な花色を有することから,人気の切り花品目として全国的に生産・消費が拡大している新規有望花き品目である(小野崎 2018,2023a).(株)大田花き花の生活研究所の推定によると,2020 年のダリアの生産額は28.2億円と推定されており,今後も切り花の重要品目としての成長が期待されている.
ダリアの花の老化には,エチレンの作用,活け水内の細菌増殖,糖質の不足等が影響する(Azuma et al. 2019).ダリアの品質保持技術について,出荷前および湿式での輸送中におけるグルコースなどの糖質と抗菌剤による品質保持剤処理(市村 2016),サイトカイニン類の 6-ベンジルアミノプリン(6-benzylaminopurine, 以後 BA)の花弁全体への散布処理(Shimizu-Yumoto and Ichimura 2013),品質保持剤と BA 処理の併用(辻本ら 2016)などが検討され,いずれもダリアの日持ち延長に効果があり,広範な品種に利用可能であることが示されている.
しかしながら,品質保持剤を用いた場合の保証可能日持ち日数は,主要切り花のキク,バラ,カーネーション,ユリ,トルコギキョウが常温(23℃)で 7 日以上であるのに対し,ダリアの一般品種では常温(23℃)で 5 日と,1 週間の日持ち保証は困難であった(市村ら 2011,農研機構花き研究所 2014).そこで著者らは,ダリア切り花の家庭向け,輸出向け等への用途拡大に向けて,交雑育種によるダリアの日持ち性向上の研究を 2014 年から開始した.
6 年にわたる研究により,2020 年に良日持ち性品種 ‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’ および ‘エターニティルージュ’ が育成された(小野崎,東 2022).2022 年夏から商用苗の販売が開始され,2022 年秋から花き市場への出荷が始まり,2023 年からは本格的に全国への普及が進んでいる.特に,ダリアを好んで仕入れする小売店や仲卸業者での評価が上昇し,消費者の人気も高まっている(小野崎 2023b).現状のエターニティシリーズは暗赤色,濃桃色,深赤色の 3 色のみであるが,花色や花型の違う品種を増やして欲しいとの要望が実需者から寄せられ,エターニティシリーズのバリエーション拡大に期待が高まっている.そこで,交雑育種によるさらなる日持ち性の向上とともに,エチレンの作用による輸送時の落弁が生じにくいエチレン低感受性など,切り花輸出に適する品種開発についても,検討を進めてきた.
2020 年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり,花き需要の主軸が業務需要からホームユースへ移行している.家庭等におけるダリアの消費をさらに拡大するためには,日持ち性の向上が必須であり,遺伝的な日持ち性が向上したダリア品種の活用は,ダリアの消費拡大に大きく貢献する.
2020 年以降に,農研機構で育成した日持ち性に優れる有望系統について,夏秋期出荷作型の系統適応性検定試験場所として秋田県農業試験場(秋田県秋田市; 以後,秋田農試),冬春期出荷作型の系統適応性検定試験場所として奈良県農業研究開発センター(奈良県桜井市; 以後,奈良農研セ),高知県農業技術センター(高知県南国市; 以後,高知農技セ)および宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市; 以後,宮崎総農試)の 4 場所で,有望系統の全国的な系統適応性評価を実施した.
その結果,育成地を含む全国 5 カ所のどこで栽培しても優れた日持ち性を示す上に,桃色に中心が白く抜ける美しいグラデーション花色を有し観賞性が高い,早生で生産性に優れる,舌状花が減少して開花直後から中心部の管状花がむき出しになる露心花が発生しない,ブーケなどに使いやすい上向き咲きであるなどの特徴を有する ‘エターニティピーチ’,および,鮮やかな濃桃色で,夏期高温期(7~8 月)採花の日持ち性や高温下(28℃)の日持ち性にも優れる,エチレン低感受性で落弁しにくい,露心花が発生しない,早生で生産性に優れるなどの特徴を有する ‘エターニティシャイン’ の 2 品種を育成したので,その育成経過と品種特性の概要について報告する.
1)本研究における日持ち日数の評価方法
日持ち日数の評価については,外花弁が水平状態に達した開花ステージで花を収穫し,調査に供した.切り花は茎長 40 cm に切り揃えた後,最上部の葉以外は除去し,蒸留水,抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)および GLA 液(1%グルコース,kathon CG 0.5 mL・L-1および硫酸アルミニウム 50 mg・L-1から構成される品質保持剤,Ichimura et al. 2006)を入れた 300 mL または 500 mL 容のコニカルビーカーに 1~3 本ずつ挿し,気温 23℃(GLA・28℃区は気温 28℃),相対湿度 70 %,蛍光灯(光強度:10 μmol・m-2・s-1)で 12 時間日長に調節した恒温室内に置き,花全体の 1/3 以上の花弁に萎凋や褐変が確認された日までの日数を調査した.BA 剤としては,市販のミラクルミスト ff(クリザール・ジャパン(株))を切り花収穫・調整後,収穫当日の花全体に散布した.
なお,本研究で抗菌剤として用いたイソチアゾリン系抗菌剤 kathon CG(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株))原液には,抗菌作用のある有効成分として 11.3 g・L-1の 5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMIT)と 3.9 g・L-1 の 2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)が含まれている.
2)ダリアの日持ち性向上を目標とした交雑育種
本研究では,育種材料とした 22 品種間の交雑後代を「第 1 世代」,第 1 世代選抜系統間の交雑後代を「第 2 世代」,第 2 世代選抜系統間の交雑後代を「第 3 世代」と定義して,ダリアの育種研究を進めてきた.第 1 世代,第 2 世代,第 3 世代の育成経過,交雑組合せおよび選抜については,既報(Onozaki and Azuma 2019; 小野崎,東 2022; Onozaki and Fujimoto 2023)に詳細に記載したので,以下に概要のみを記載する.
2014年秋に,切り花用ダリア 22 品種間で 45 組み合わせの品種間交雑を行った.2015 年春に交雑種子を播種して開花した 314 実生の日持ち日数を調査し(第 1 世代),2015 年 10 月に日持ち日数 5.1 日以上の 64 系統を一次選抜した(第 1 世代選抜系統).2015 年 10 月に第 1 世代選抜系統間で 29 組合せの交雑を行い,2016 年に開花した 308 実生の日持ち日数を調査し(第 2 世代),2016 年 10 月に日持ち日数 6.0 日以上の 73 系統を一次選抜した(第 2 世代選抜系統).さらに,2016~2018 年 10 月に第 2 世代選抜系統間で 28 組み合わせの交雑を行い,2017~2019 年春に交雑種子を播種して開花した 229 実生の日持ち日数を調査し(第 3 世代),2017~2019 年 10 月に日持ち日数 6.1 日以上(2017 年),6.2 日以上(2018 年),6.0 日以上(2019 年)の合計 80 系統を 1 次選抜した(第 3 世代選抜系統).
実生の日持ち日数の調査は,ダリアの日持ちが低下しやすい 7 月~9 月中旬の夏季高温期に行った.切り花を抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)入りのコニカルビーカーに 2~3 本ずつ挿し,恒温室(気温 23℃,相対湿度 70%,12 時間日長)内で日持ち日数を調査した.
3)‘エターニティピーチ’(系統 828-18)および‘エターニティシャイン’(系統 937-C58)の育成系譜
系統 828-18 は第 3 世代 229 実生から一次選抜した 80 系統の一つであり,種子親の第 2 世代系統 609-10 に花粉親の第 2 世代系統 614-71 を交雑した後代である( 図 1).
育成系統の変異を拡大するために,2018 年春に ‘NAMAHAGE キュート’ など合計 12 品種を育種材料として導入し,2018~2019 年に日持ち性品種間差異の調査を行い(Onozaki et al. 2024),2018 年秋に品種×良日持ち性系統または良日持ち性系統 × 品種の交雑を行った(データ略).系統 937-C58 は種子親品種 ‘NAMAHAGE キュート’ と花粉親の第 2 世代選抜系統 628-48 の交雑後代である( 図 2).
4)‘エターニティピーチ’ および ‘エターニティシャイン’ の最終選抜および品種登録出願
系統 828-18 は 2 年間,系統 937-C58 は 1 年間の系統適応性検定試験を実施した結果,育成地だけでなく,秋田農試,奈良農研セ,高知農技セおよび宮崎総農試の栽培環境下でも良日持ち性を示し,その他の形質も対照品種と同等の特性を示したことから,良日持ち性のダリア品種として有望と判断した.2022 年 7 月 29 日に,それぞれ,‘エターニティピーチ’(品種登録出願番号:第 36388 号,出願公表:2023 年 1 月 17 日),‘エターニティシャイン’( 品種登録出願番号:第 36389 号,出願公表:2022 年 10 月 17 日)として品種登録出願した.
1)栽培概要
農研機構野花研において,2018 年秋に一次選抜した第3世代系統を,2019 年に栽培時期,栽培法の異なる 3 区(冬春期・施設・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,夏秋期・ハウス・鉢栽培)で日持ち性を再評価して,2019 年秋に 5 系統(系統823-3,816-7,814-13,828-18,815-20)を二次選抜した.2020 年,2021 年は ‘エターニティピーチ’(系統 828-18)および ‘エターニティシャイン’(系統 937-C58)を供試し,対照品種としては切り花用ダリアの代表品種である ‘ミッチャン’,‘黒蝶’,‘かまくら’ の 3 品種を用いた.夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培の 2 作型で栽培し,特性調査を行った(表1).夏秋期・露地栽培については,基肥として BM ようりん(朝日工業(株),N:P2O5:K2O=0:20:0)を 16 kg/10 a,苦土入り CDU 複合燐加安(ジェイカムアグリ(株),N:P2O5:K2O=12:12:12)を N 施用量が 20 kg/10 a となるように施用した.2020 年 5 月 12 日または 2021 年 5 月 11 日に露地圃場の幅 60 cm の畝に株間 40 cm で挿し芽苗を定植し,両年とも 6 月 17 日に 1 回目の摘心を行い,7 月 13 日または 7 月 15 日に 2 回目の摘心を行った(表 1).
冬春期・施設・土耕栽培では,基肥として,BMようりん(朝日工業(株),N:P2O5:K2O =0:20:0)を40g/m2,被覆燐硝安加里エコロング 413-180(ジェイカムアグリ(株),N:P2O5:K2O=14:11:13)を 170 g/m2 施用した.2020 年 7 月 30 日または 2021 年 8 月 2 日に挿し芽苗を温室内の幅 60 cm の畝に株間 40 cm で定植した.定植から 9 月 14 日または 9 月 9 日までは遮光下で栽培した.両年とも 8 月 19 日から赤色 LED(DPDL-R-9W,鍋清(株))で 5:00~7:00,16:00~19:30 に電照を行い,14.5 時間日長とした.8 月 20 日または 8 月 23 日に 1 回目摘心を行い,9 月 16 日または 9 月 22 日に 2 回目摘心を行った.10 月下旬から最低夜温 10℃で加温した( 表 1).
2)日持ち性
日持ち調査については,前項の特性調査の栽培で採花した切り花に加えて,冬春期・施設・鉢栽培,夏秋期・ハウス・鉢栽培の切り花を供試して行った(表 1).鉢用土には市販の基肥入り培養土(ロイヤル培養土,刀川平和農園(株))を用いた.冬春期・施設・鉢栽培では,赤色 LED(DPDL-R-9W,鍋清(株))で電照を行い,14.5 時間日長,10℃加温条件の温室内で栽培した.夏秋期・ハウス・鉢栽培では,5~10 月には寒冷紗(クールホワイト 45-50%遮光,ダイオ化成(株))で遮光を行い,無加温,自然日長条件のハウス内で栽培した.それぞれの栽培から採花した切り花を,前述の「本研究における日持ち日数の調査方法」に基づいて,日持ち日数の調査を行い,切り花用主要品種 ‘かまくら’,‘黒蝶’,‘ミッチャン’ の日持ち日数と比較した.
‘エターニティピーチ’
3 年間にわたり様々な条件で日持ち性評価を行ったが,概して日持ちに季節変動,年次変動は比較的少なく,安定して優れていた.
2019 年の栽培時期,栽培法の異なる 3 区での日持ち性再調査において,‘エターニティピーチ’(系統 828-18)の日持ち日数は,蒸留水区で 6.0~7.6 日(‘かまくら’ の 1.2~1.9 倍),GLA 処理区で 10.4~10.6 日(‘かまくら’ の 1.3~1.7 倍)と比較的優れていた(データ略).
桃色に中心が白く抜ける 2 色のグラデーション花色が美しく(図 3),観賞性が高い,茎が曲がらず,揃いが良く育てやすい,露心しにくい,上向き咲きであるなど,日持ち性以外の形質にも優れていた.そこで,第 3 世代系統 828-18 を品種候補の一つとして,2020~2021 年度の 2 年間,系統適応性検定試験に供試した.
2020 年度の調査では,収穫時期,栽培法の異なる 3 回の日持ち調査(夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した(表 2).‘エターニティピーチ’ は,蒸留水区で 6.4~8.4 日(‘かまくら’ の 1.2~1.4 倍),抗菌剤区で 9.5 日(‘かまくら’ の 1.6 倍),GLA 処理区で 9.1~10.5 日(‘かまくら’ の 1.1~1.7 倍),GLA+BA 処理区で 9.7~12.5 日(‘かまくら’ の 1.2~1.3 倍),28℃・GLA 処理区で 6.5~7.7 日(‘かまくら’ の 1.2~1.3 倍)と日持ち日数が長く,良日持ち性を示した(表 2).
2021 年度の調査では,収穫時期,栽培法の異なる 4 回の日持ち調査(夏期高温期(7~8月),夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した(表 3).‘エターニティピーチ’ は,蒸留水区では 8.0~8.8 日(‘かまくら’ の 1.3~1.5 倍),GLA 区では 9.5~9.6 日(‘かまくら’ の 1.4~1.6 倍),GLA+BA 区では 10.1~11.0 日(‘かまくら’ の 1.1~1.4 倍)と安定した日持ち性を示した.夏期高温期(7~8 月)採花の抗菌剤区では 6.3 日(‘かまくら’ の 1.6 倍),28℃・GLA 区では 6.3~7.3 日(‘かまくら’ の 1.2倍)であり,いずれも対照品種を上回った(表 3).
‘エターニティシャイン’
2020 年度の二次選抜時を含めて,2 年間にわたり様々な条件で日持ち性評価を行ったが,日持ちに季節変動,年次変動は少なく,安定して優れていた.
2020 年の栽培時期,栽培法の異なる 3 区での日持ち性再評価において,‘エターニティシャイン’(系統 937-C58)の日持ち日数は,蒸留水区で 9.2~11.4 日(‘かまくら’ の 1.7~2.2 倍),抗菌剤区で 11.0 日(‘かまくら’ の 1.8 倍),GLA 処理区で 10.2~12.1 日(‘かまくら’ の 1.7~2.0 倍),GLA+BA 処理区で 9.4~14.8 日(‘かまくら’の 1.2~1.5 倍)と優れていた(表 2).さらに,夏期高温期(7~8 月)採花の抗菌剤区では 10.3 日(‘かまくら’ の 2.6 倍),28℃・GLA 処理区で 7.5~10.4 日(‘かまくら’ の 1.3~1.8 倍)であり,高温下での日持ち性にも優れていた.
濃桃色のフォーマルデコラ咲き(幅の広い舟形の花弁が幾重にも重なるダリアの代表的な花型)(図 4)で,花弁数が多く,栽培時期,栽培法に関わらず露心花が発生しにくい,‘かまくら’ と同等の早生であり,生産性に優れる,茎がまっすぐに伸び,茎が硬くて茎曲がりが少ないので切り花を取り扱いやすい,草勢が強く,切り花長,ボリュームともに優れ,切り花品質が良好であるなど,日持ち性以外の形質にも優れていた.そこで,系統 937-C58 を品種候補の一つとして,2021 年度に系統適応性検定試験に供試した.
2021 年の調査では,収穫時期,栽培法の異なる 4 回の日持ち調査(夏期高温期(7~8 月),夏秋期・ハウス・鉢栽培,夏秋期・露地栽培,冬春期・施設・土耕栽培)を実施した(表 3).‘エターニティシャイン’ は,蒸留水区では 9.9~12.3 日(‘かまくら’ の1.6~2.0倍),GLA 区では 11.0~11.4 日(‘かまくら’ の 1.5~1.8 倍),GLA+BA 区では 10.3~11.6 日(‘かまくら’ の 1.2~1.6 倍)と安定した日持ち性を示した.夏期高温期(7~8 月)採花の抗菌剤区では 11.5 日(‘かまくら’ の 2.9 倍),28℃・GLA 区では 8.9~10.2 日(‘かまくら’ の 1.5~2.0 倍)であり,いずれも対照品種を上回った(表 3).
以上のように,‘エターニティシャイン’ は夏期の高温下で栽培した切り花の日持ち性に優れた.夏秋期・露地栽培は,9 月の暑さと風雨にさらされる悪条件であるが,蒸留水区で 2020 年が 9.2 日,2021 年が 10.7 日と,対照品種 ‘かまくら’ の 1.7~2.0 倍の良日持ち性を示した(表 2,3).その他の GLA 処理区,GLA+BA 区でも 10 日以上と日持ち日数が長く,良日持ち性を示した.一方で,BA 処理の効果は低い傾向にあり,2020 年の夏秋期・露地栽培を除いては,BA 処理しても日持ちがさらに向上しない試験が多かった.
図 5 に,‘エターニティシャイン’ と一般品種 ‘ミッチャン’ を同じ日に収穫して GLA 液に生けて,0,2,4,6,8,10 日目の切り花の様相を示した.10 月 17 日採花と短日期の自然日長の露地圃場における切り花であるため,‘ミッチャン’ では 4 日目以降に花中心部の管状花がむき出しになる露心が生じたが,‘エターニティシャイン’ では 10 日目まで露心が発生しなかった(図 5).また,‘エターニティシャイン’ は 10 日目まで花弁に萎凋は発生せず,日持ちの比較的良い ‘ミッチャン’ の約 2 倍の良日持ち性を示した(図 5).
3)一般的特性
‘エターニティピーチ’
開花始期が早い早生品種である.2020 年夏秋期・露地では 9 月 7 日に開花し,早生品種 ‘かまくら’ より 4 日開花が早かった(表 4).2021 年夏秋期・露地では,9 月 13 日に開花し,‘かまくら’ より 1 日開花が早かった.2020 年冬春期・施設では 11 月 30 日に開花し,‘かまくら’ よりも 3 日遅かったが,2021 年冬春期・施設では 12 月 5 日に開花し,‘かまくら’ よりも 15 日開花が早かった.収穫本数については,2 年間の試験で豊産性の ‘かまくら’ と同等であり,生産性が高かった.露心花率は,自然日長の夏秋期・露地,14.5 時間電照の冬春期・施設とも 0%であり,2 年間の調査を通じて露心花は発生しなかった.最大花径は,夏秋期では 10.8~11.8 cm,冬春期では 12.0~12.2 cm と,中輪の花径であった.9 月に調査した夏秋期・露地の切り花調整重が重く,花にボリュームがあった.挿し芽発根率は,2020 年では 69.4%と対照品種と同等であり,2021 年では 77.9%と対照品種をやや上回り,苗増殖の点でも問題はない.花色は,冬春期栽培では桃色に中心が白く抜ける 2 色のグラデーション花色であった(図 3)が,高温期に収穫する,夏秋期の 9 月調査では桃色単色であった(表 4).
‘エターニティシャイン’
開花始期が早い早生品種である.2021 年夏秋期・露地では 9 月 5 日に開花し,早生品種 ‘かまくら’ より 9 日開花が早かった(表 4).2021 年冬春期・施設では 11 月 26 日に開花し,‘かまくら’ よりも 24 日開花が早かった.2021 年の夏秋期・露地,冬春期・施設とも豊産性の ‘かまくら’ を上回る収穫本数を示し,生産性が高かった.夏秋期・露地では,7 月 15 日の 2 回目摘心後の萌芽が早く,開花始期が 9 月 5 日と,暑さの中でも開花が早かった.また,1 番花収穫後の 2 番花の立ち上がりも早く,3 番花まで収穫できた.2021 年冬春期・施設でも,収穫本数が 31.5 本と多かった.露心花率は,自然日長の夏秋期・露地,14.5 時間電照の冬春期・施設とも 0%であり,露心花は発生しなかった.最大花径は,夏秋期栽培では 10.5 cm,冬春期栽培では 12.9 cm と,中輪の花径であった.9 月に調査した夏秋期・露地栽培では切り花調整重が重く,切り花にボリュームがあった.挿し芽発根率は 68.6%と対照品種を上回る発根率を示し,苗増殖の点でも問題はない.花色は鮮やかな濃桃色であり(図 4),夏秋期と冬春期間での花色差異は僅かであった.
4)‘エターニティシャイン’ のエチレン感受性
ダリアのエチレン感受性については,‘黒蝶’ へのエチレン処理により落弁が促進されて日持ち日数が低下したことから,エチレン感受性はあり(Shimizu-Yumoto and Ichimura 2013),エチレン感受性の品種間差異の検討では,12 品種を供試した実験で,‘NAMAHAGE マジック’,‘カーネリアン’,‘ガーネット’,‘NAMAHAGE キュート’,‘彩雪’ では,10 μL・L-1 のエチレン処理により処理 2 日以内に落弁が誘発されるなど,供試 12 品種中 9 品種ではエチレン処理により 3 日以内に落弁や萎凋が誘導された(Azuma et al. 2020).一方,‘ヘブンリーピース’,‘ミッチャン’,‘ポートライトペアビューティ’ では,エチレン処理後の花弁の萎凋までの反応日数がそれぞれ 4.2 日,4.5 日,4.0 日であり,エチレン感受性に品種間差異があることが示されている(Azuma et al. 2020).
ダリアの夏秋期における長距離輸送では,市場到着時における花散りのクレームが一定量あり,夏秋期産地を中心に,輸送中の落弁の生じない,エチレン低感受性品種が望まれている.切り花輸送時に落弁の生じない品種・系統を選抜するため,エチレン処理用アクリルチャンバー内で切り花にエチレン連続処理を行い,落弁の有無,エチレン処理後の日持ち日数を調査した.
2020 年 9~11 月に 5 品種(表 5)の切り花を供試した.外花弁が水平状態に達した開花ステージで切り花を収穫し,すべての葉を除去した茎長 20 cm の切り花を抗菌剤液(kathon CG 0.5 mL・L-1)入りのコニカルビーカーに生けた.エチレン処理は 70 L のアクリルチャンバーを用い,10 μL・L-1 の濃度となるようにエチレンガスまたは無処理区として空気を注入し,24 時間毎にチャンバー内のガスを入れ替え,再びエチレンガスを再導入することにより,10 µL・L-1 のエチレン連続処理を行った.切り花を入れたチャンバーは,23℃, 12 時間日長下におき,エチレン処理後,花序全体で 10 枚以上の落弁または 1/3 以上の花弁に萎凋が生じるまでの日持ち日数と形態を調査した.
チャンバー内無処理区とエチレン処理区における日持ち日数を比較すると,‘エターニティシャイン’ 以外の 4 品種は,エチレン処理区ではチャンバー内無処理区に比較して日持ち日数が 1.4~3.5 日低下し,特に,‘エターニティトーチ’,‘エターニティルージュ’ では有意な低下であった.一方で,‘エターニティシャイン’ ではエチレン処理による日持ち日数の低下はみられなかった(表 5).さらに,‘エターニティシャイン’ 以外の 4 品種では,チャンバー内無処理区およびエチレン処理区で落弁が認められたが,‘エターニティシャイン’ では落弁が生じなかった(表 5).以上のように,‘エターニティシャイン’ はエチレン処理による日持ち日数の低下や落弁が生じない上に,エチレン処理区における日持ち日数が他の 4 品種に比較して長かった.
2023 年 2 月に宮崎県の生産地から農研機構(つくば市)への 2 日間の長距離輸送後に,GLA 液に生けた切り花の日持ち日数を恒温室(気温 23℃,相対湿度 70%,12 時間日長)内で調査したところ,一般品種 ‘ミッチャン’ の 6.2 日に対し ‘エターニティシャイン’ では 15.2 日と約 2.5 倍の良日持ち性を示し,‘エターニティシャイン’ は長距離輸送後の日持ち性にも優れることも確認している(Onozaki et al. 2024).
1)試験概要
系統適応性検定試験を,2020~2021 年に秋田農試(以後「秋田」と略す),奈良農研セ(以後「奈良」と略す),高知農技セ(以後「高知」と略す),宮崎総農試(以後「宮崎」と略す)の 4 場所で実施した. 2020 年は ‘エターニティピーチ’,2021 年は ‘エターニティピーチ’,‘エターニティシャイン’ を供試し,両年とも対照品種として ‘ミッチャン’,‘黒蝶’,‘かまくら’ を供試した.各検定場所における試験設計および耕種概要を表 6 に示した.
2)日持ち性
2020 年度では,秋田の日持ち日数は,‘かまくら’ では,蒸留水区で 6.4~7.0 日,GLA 区で 7.5~8.0 日,GLA+BA 区で 10.3~10.4 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 9.7~10.5 日,GLA 区で 12.2~12.8 日,GLA+BA 区で 14.7~15.6 日であった(表 7).秋田では,28℃での日持ち試験を行った.‘エターニティピーチ’ の 28℃・GLA での日持ち日数は,露地の切り花では ‘かまくら’ と同等であったが,施設の切り花では ‘かまくら’ の 7.3 日に対し,9.0 日であった.奈良の冬春期施設栽培では,‘かまくら’ では,蒸留水区で 5.8 日,GLA 区で 7.3 日,GLA+BA 区で 9.0 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 9.3 日,GLA 区で 11.8 日,GLA+BA 区で 13.5 日であった(表 7).高知の冬春期施設栽培では,‘かまくら’ では,蒸留水区で 6.1 日,GLA 区で 8.0 日,GLA+BA 区で 9.6 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 9.3 日,GLA 区で 11.8 日,GLA+BA 区で 13.3 日であった(表 7).宮崎の冬春期施設栽培では,‘かまくら’ では,蒸留水区で 6.9 日,GLA 区で 8.0 日,GLA+BA 区で 10.0 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 10.4 日,GLA 区で 12.0 日,GLA+BA 区で 16.0 日と顕著に優れていた(表 7).
2021 年度は,秋田の夏秋期栽培では,‘かまくら’ では,蒸留水区で 6.7~7.0 日,GLA 区で 7.7~7.8 日,GLA+BA 区で 8.5~10.8 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 10.5~11.4 日,GLA区で 12.0~12.4 日,GLA+BA 区で 14.3 日であり,‘エターニティシャイン’ では,蒸留水区で 12.9~15.0 日,GLA 区で 15.5~17.7 日,GLA+BA 区で 17.2~18.6 日であった(表 8).秋田では,28℃・GLA 区 での日持ち試験を行ったが,‘かまくら’ の 6.8~7.3 日に対し,‘エターニティピーチ’ では 9.0~9.3 日,‘エターニティシャイン’ では 12.0~13.7 日であった.奈良の冬春期施設栽培では,‘かまくら’では,蒸留水区で 5.0 日,GLA 区で 6.8 日,GLA+BA 区で 8.0 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 9.0 日,GLA 区で 11.3 日,GLA+BA 区で 13.8 日,‘エターニティシャイン’ では,蒸留水区で 10.3 日,GLA 区で 14.3 日,GLA+BA 区で 11.5 日であった(表 8).高知の冬春期施設栽培では,‘かまくら’ では,蒸留水区で 5.1 日,GLA 区で 6.4 日,GLA+BA 区で 7.7 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 9.3 日,GLA 区で 10.5 日,GLA+BA 区で 11.1 日,‘エターニティシャイン’ では,蒸留水区で 11.5 日,GLA 区で 12.9 日,GLA+BA 区で 13.1 日であった(表 8).宮崎の冬春期施設栽培では,‘かまくら’ では,蒸留水区で 6.1 日,GLA 区で 4.9 日,GLA+BA 区で 8.0 日なのに対し,‘エターニティピーチ’ では,蒸留水区で 7.5 日,GLA 区で 9.7 日,GLA+BA 区で 11.4 日,‘エターニティシャイン’ では,蒸留水区で 8.1 日,GLA 区で 9.6 日,GLA+BA 区で 11.1 日であった(表 8).
3)切り花特性
2020 年度の ‘エターニティピーチ’ については,一番花収穫本数は,夏秋期栽培の秋田,冬春期の宮崎では対照品種よりやや少なかったが,冬春期栽培の奈良,高知では対照品種を上回った.開花始期は,秋田の施設では遅く,晩生品種 ‘黒蝶’ よりも 4,5 日遅かったが,秋田の露地では対照 3 品種より早かった.奈良では,‘黒蝶’ と同等の開花始期であり,高知,宮崎では,‘黒蝶’ よりそれぞれ 7 日,2 日早かった.露心花率は,いずれの場所でも 0%であり,露心花の発生がなかった.挿し芽発根率は,4 場所で 90~100%の高い発根率を示した(表 7).
2021 年度の ‘エターニティピーチ’ については,一番花収穫本数はほぼ対照品種と同等であり,生産性について問題なかった.開花始期は,秋田の露地では対照 3 品種と同等で,秋田の施設では早生品種 ‘かまくら’ と同等であった.奈良では晩生品種 ‘黒蝶’ と同等で晩生であったが,高知,宮崎では ‘黒蝶’ よりもそれぞれ 8 日,21 日早かった.露心花率は,いずれの場所でも 0%であり,露心花の発生がなかった.挿し芽発根率は,秋田,奈良では 100%,高知では 75%,宮崎では 93.8%と高く,苗生産上の問題はない(表 8).
2021 年度の ‘エターニティシャイン’ については,一番花収穫本数はほぼ対照品種と同等~やや上回っており,生産性について問題なかった.開花始期は,秋田の露地,施設とも,早生品種 ‘かまくら’ より早い早生であった.奈良,高知では ‘かまくら’ よりも開花始期がそれぞれ 3 日,1 日早く,早生であった.一方,宮崎では ‘かまくら’ よりも開花始期が 17 日遅く,中生であった.露心花率は,4 場所でも 0%であり,露心花の発生がなかった.挿し芽発根率は,秋田露地,奈良では 100%,秋田施設では 86.7%,高知では 80.0%,宮崎では 93.8%と高く,苗生産上の問題はない(表 8).
‘エターニティピーチ’
花型はフォーマルデコラ咲きで,花色は桃色に中心が白く抜ける 2 色のグラデーション花色が美しく,観賞性が高い.生育に関しては,花首が強い,茎がまっすぐに伸び,曲がりが少ない,揃いが良く育てやすい,咲き進むと花弁が下向きになるので出荷しやすく,花弁折れのクレームがない花型であるなど,優れた栽培特性を有していた.2020 年の宮崎の冬春期施設栽培,2021 年の秋田の夏秋期施設栽培の切り花特性評価では,最有望の評価であった.挿し芽発根率は,2 年間を通じて高い発根率であり,苗生産上の問題はない.日持ち性については,‘エターニティシャイン’ に比較するとやや劣るが,2 年間の日持ち性の評価でいずれも対照品種を上回っていた.横向きでなく上向きで開花するので,ラウンドアレンジメントやブーケなどに使いやすい花型である.
一方で,つくばの夏秋期栽培の高温期(8~9 月)は複色花色にならず,桃色単色の花色となる欠点が認められた.ただし,2022 年度の秋田,奈良,高知,宮崎の現地実証試験での栽培では,8~9 月開花の秋田での夏秋期栽培を含めて,桃色単色花の発生はなかった.
‘エターニティシャイン’
鮮やかな濃桃色のフォーマルデコラ咲きで,花弁数が多く,露心花は夏秋期,冬春期とも全検定場所で発生しなかった.夏秋期,冬春期とも ‘かまくら’ と同等の早生であり,1 番花の採花本数が多く,2 番花の立ち上がりも早いため,生産性に優れる.茎がまっすぐに伸び,茎が硬くて茎曲がりが少なく,切り花を取り扱いやすい.草勢が強く,切り花長,ボリュームともに優れ,切り花品質が良好である.挿し芽発根率についても,全場所で高い発根率であり,苗生産上の問題はない.
全場所でいずれも良日持ち性であり,日持ち性について全く問題ない.つくばでの評価では,夏期高温期(7~8 月)採花の日持ち性や高温下(28℃,GLA)の日持ち性も優れていた.つくばの夏秋期・露地は 9 月の暑さと風雨にさらされる悪条件であるが,蒸留水で 10.7 日と 10 日以上の日持ち日数を示した.
本品種は良日持ち性に加えて,エチレン処理後の日持ち性にも優れ,落弁しにくいことが示された.したがって,長距離の輸送にも適する良日持ち性品種として切り花輸出等にも適用可能と考えられる.一方で,BA 処理の効果は低い傾向にあり,BA 処理しても日持ちがさらに向上しない場所が多かった.奈良県での 2021 年度の日持ち試験によると,ダリアの花の老化症状である萎凋は通常外花弁から内花弁へと進行するが,GLA+BA 処理区では中位花弁からの萎凋が助長され,日持ち日数も LA 区の 14.3 日に対し,GLA+BA 区では 11.5 日と,BA 処理により日持ちが低下することが観察された(表 8).
宮崎では,1 番花の一部の花首の付け根に小さい花芽の付く奇形花が認められたため要検討の評価であったが,発生率は 1 番花の約 1 割と軽微であり,2 番花および 2022 年の宮崎の栽培ではこの奇形花は発生せず,2022 年度の秋田,奈良,高知,宮崎の現地実証試験での栽培でも奇形花の発生は皆無であった.宮崎以外のつくば,秋田,奈良,高知では有望または最有望の評価であり,評価が非常に高かった.
系統適応性検定試験の結果から,2 品種は全国のダリア生産地で栽培可能と考えられる.2 品種とも挿し芽発根率は対照品種と同等であり,苗増殖の点での問題はない.‘エターニティシャイン’ については,エチレン感受性が低いことが示唆され,落弁が生じにくい.
共通して良日持ち性を有し,美しい複色花色を兼ね備えた品種,高輸送性を兼ね備えた品種など,それぞれに異なる特徴を有している.品種名は,英語で「永遠」を意味する「エターニティ(eternity)」を冠したエターニティシリーズとして命名した.‘エターニティピーチ’(Eternity Peach)は桃のようなかわいらしい花色であることから,‘エターニティシャイン’(Eternity Shine)は夏季の強光や高温に強く,光輝くような濃桃色なので「永遠の輝き」という意味で,それぞれ命名した.
本品種の育成については,小野崎は 2014 年 4 月~2022 年 2 月まで,藤本は 2020 年 5 月~2022 年 2 月まで,東は 2016 年 4 月~2017 年 3 月に担当した.
新品種 ‘エターニティピーチ’,‘エターニティシャイン’ について,育成地のつくばだけでなく,2020~2021 年に秋田,奈良,高知,宮崎の栽培時期の異なる作型で栽培した切り花も同様の良日持ち性を示した(表 7,8)ことから,その優れた日持ち性は環境によるものではなく,品種特性であることが明確に示された.
これまでに,日持ち性による選抜と交雑を繰り返すことで,日持ち性に優れるダリア品種の開発を進めてきた.2020 年に育成した ‘エターニティトーチ’ は第 1 世代の選抜品種,‘エターニティロマンス’ および ‘エターニティルージュ’ については第 2 世代の選抜品種である.これら 3 品種の育種親をたどると,共通親として,比較的日持ち性の良い品種である ‘ミッチャン’ が共通して育種材料に用いられていた(小野崎,東 2022).
今回育成した ‘エターニティピーチ’ は,日持ち性による選抜と交雑を 2 世代にわたり行った第 3 世代由来の品種,‘エターニティシャイン’ については,‘NAMAHAGE キュート’ と第 2 世代選抜系統 628-48 の後代である.育成系譜図により親をたどると,両品種の育種親についても,‘ミッチャン’ が共通して育種材料に用いられていることがわかった(図 1,2).したがって,‘ミッチャン’ にはダリアの良日持ち性に関与する遺伝子が存在し,その良日持ち性は後代に遺伝することがさらに裏付けられた.
‘エターニティシャイン’ の種子親品種である ‘NAMAHAGE キュート’ は,比較的日持ち性の良い品種であった.2018~2019 年に切り花用ダリア 16 品種の夏秋期における日持ち日数を調査したところ,‘NAMAHAGE キュート’ は GLA 区の平均日持ち日数が 9.6 日と供試 16 品種中で最も高く,蒸留水区に比較して GLA 区では約 2.4 倍に日持ちを延長させる効果が認められた(Onozaki et al. 2024).表 5 に示したチャンバー外区における ‘NAMAHAGEキュート’ の抗菌剤液に生けた日持ち日数は 8.3 日と,‘エターニティシャイン’ の 8.5 日,‘エターニティトーチ’の 8.8 日と同程度であった.Ichimura and Azuma(2022)は,ダリアの花序から小花を分離して小花の日持ちを比較したところ,‘NAMAHAGE キュート’ は分離した小花の日持ち日数が 7.0 日と供試 10 品種中で最も優れていた.また,エチレン作用阻害剤のチオ硫酸銀錯塩(STS)処理の実験では,‘NAMAHAGE キュート’ の平均日持ち日数は,蒸留水区の 3.3 日に対して STS 処理区では 7.0 日と約 2.1 倍に増加し,STS 処理区の日持ち日数は供試 10 品種中 2 番目に優れていた(Ichimura and Azuma 2022).‘NAMAHAGE キュート’を交雑親に用いるとその後代の日持ちが向上することがうかがわれた(Onozaki et al. 2024).
多くの花きにおいて,エチレンにより花弁の萎凋または落弁が促進されることが知られている.エチレン感受性は,切り花を一定濃度のエチレンに暴露し,花に老化の兆候が認められるか否かで評価される(市村 2010).エチレン感受性の先駆的な研究例としては,Woltering and van Doorn(1988)は,22 科 93 種の広範な植物種の切り花について,約 3 ppm のエチレンで 22~24 時間処理し,無処理と比較した老化の状態によりエチレン感受性を 5 段階に評価している.本研究では,ダリアのエチレン感受性を,70 L のアクリルチャンバー内で 10 µL・L-1 のエチレン連続処理後,花序全体で 10 枚以上の落弁または 1/3 以上の花弁に萎凋が生じるまでの日持ち日数をチャンバー内無処理区の日持ち日数と比較して,評価した.
チャンバー外区とチャンバー内無処理区間の日持ち日数を比較すると,‘エターニティシャイン’ 以外の 4 品種では,チャンバー内無処理区ではエチレン処理なしにもかかわらず日持ち日数が低下し,落弁が確認された(表 5).アクリルボックス内は相対湿度が 100%になることから,日持ち日数低下と落弁には相対湿度が関係することが示唆された.
日持ち性による選抜と交雑を 3 回繰り返して日持ち性が大幅に向上した超長命性系統 003-15 や,第 4 世代 3 系統(012-19,003-29,012-32)を供試したエチレン処理の試験では,系統 003-15,012-19,003-29,012-32 のエチレン処理後の日持ち日数は 2.0~2.8 日で,いずれも落弁が誘発され,4 系統ともエチレン高感受性と判定された(Onozaki and Fujimoto 2023).これら 4 系統では,チャンバー外の日持ち日数が 9.5~12.8 日なのに対し,チャンバー内無処理区での日持ち日数が 3.0~4.8 日と大幅に低下しており,チャンバー内の高湿度の影響と思われる日持ち日数の低下幅が大きかった.
一方,本研究の ‘エターニティシャイン’ のエチレン処理後の日持ち日数は,10.0 日と供試 5 品種中で最も長く,落弁も生じなかった.さらに,‘エターニティシャイン’ は,チャンバー外区とチャンバー内無処理区間での日持ち日数低下幅が 1.0 日と小さく,かつ,チャンバー内無処理区との比較でエチレン処理による有意な日持ち日数の低下は認められず(表 5),エチレン感受性が低いことが示唆された.
‘エターニティシャイン’ の種子親品種の ‘NAMAHAGE キュート’ は,チャンバー内無処理区の日持ち日数 4.7 日からエチレン処理区では 3.3 日と低下し,かつ,落弁が発生した(表 5).Azuma et al. (2020)も同様に,‘NAMAHAGE キュート’ について,萎凋・落弁までの時間がチャンバー内無処理区の 2.8 日に対し,10 μL・L-1のエチレン処理区では 2.0 日と有意に低下し,かつ,落弁が発生するエチレン高感受性の品種であることを報告している.‘エターニティシャイン’ の花粉親の第 2 世代選抜系統 628-48 は,2018 年秋の一次選抜後に交雑に用いた後,二次選抜はせずに廃棄したため,エチレン感受性は調査しておらず,系統 628-48 のエチレン感受性は不明である.現在,エチレン感受性の異なる両親間後代におけるエチレン感受性やエチレン低感受性系統の作出を目指した育種研究を行っており(藤本,小野崎 2022),今後,エチレン感受性の遺伝性について検討する必要がある.
ダリアは,メキシコを中心とした中央アメリカの高原地帯に自生する球根植物である(Behr and Debener 2004;奥村,藤野 1989).これらの地域は低緯度であるが,ダリアは標高 1500~3700 m 付近の高地に自生する(Saar et al. 2003)ため,自生地の気候は比較的冷涼である.ダリアは周年出荷される品目であるが,暑さに弱いため,夏秋期は主に北海道,東北や標高の高い冷涼地で生産されている(山形 2022).日本の夏の高温下では,ダリアの生育は停滞し(三吉 2018,山形 2022),日持ち性も低下する.仲ら(2015)は,ダリア切り花の日持ち性の季節変動を調査し,‘黒蝶’,‘かまくら’,‘祝盃’ の蒸留水における日持ち日数は,夏秋期の 7~10 月に低下し,冬期の 12~2 月に長くなる季節変動があることを報告している.本研究では,夏期・高温期(7~8 月)採花の切り花の日持ち性についても,2020 年,2021 年の 2 年にわたり調査した.鉢栽培を行ったビニールハウス内の 2020 年または 2021 年の 7 月 1 日~8 月 31 日における平均最低気温は,それぞれ 22.5℃,22.4℃,平均気温は,それぞれ 27.3℃,27.1℃,最高平均気温は,それぞれ 35.4℃,34.1℃であった.‘エターニティシャイン’ は,そのような夏期高温条件下のハウス内でも生育して開花し,かつ,日持ち日数についても 10.3~11.5 日(‘かまくら’ の 2.6~2.9 倍)と良日持ち性であった(表 2,3)ことから,耐暑性についても優れていることが明らかになった.したがって,本研究で用いた選抜と交雑による育種法は,冬春期の良日持ち性だけでなく,ダリアの日持ちが低下する夏期についても日持ち性に優れるダリアの育成に効果的であることが示唆された.
2020 年に育成した ‘エターニティトーチ’,‘エターニティロマンス’,‘エターニティルージュ’ の普及拡大が進んでいる(小野崎 2023b).今回追加された ‘エターニティピーチ’,‘エターニティシャイン’ についても 2024 年夏以降に苗販売が開始される予定で,これまでに開発した良日持ち性ダリアエターニティシリーズ 5 品種の普及を通じて,ダリア切り花全体の消費拡大,消費者ニーズ向上が期待される.
今後は,良日持ち性ダリア品種の老化抑制メカニズムの解明や日持ち性に連鎖した DNA マーカーの開発等の研究を進め,今後の品種開発に活かしていきたい.
本研究は,農林水産省委託プロジェクト研究「国産花きの国際競争力強化のための技術開発」(課題番号 15653424;2015~2019 年),農林水産省農産局「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進」(2021 年)により実施した.本品種の系統適応性検定試験に当たり,秋田県農業試験場(秋田県秋田市),奈良県農業研究開発センター(奈良県桜井市),高知県農業技術センター(高知県南国市),宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市)の担当研究員各位の協力を得た.また,研究の遂行に当たり,農研機構野菜花き研究部門 非常勤職員の吉丸しづ香氏,本郷真弓氏,中村真菜美氏,本橋里江子氏および農研機構管理本部技術支援部つくば第 6 業務科藤本・大わし技術チーム野菜花き班の職員各位には本品種の育成に関して,多大なる協力を得た.ここに記してお礼申し上げる.
すべての著者は開示すべき利益相反はない.