Journal of the NARO Research and Development
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The AI-soil map and Soil-Environmental application programming interface for visualization of fertilization effect of each agricultural field
Yusuke TAKATA Michiko HAYANOMizuki MORISHITATakahiro TAKIMOTOSohei KOBAYASHIKenta MOCHIZUKINobuhisa KOGAYoshitaka HARA
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2025 Volume 2025 Issue 20 Pages 37-

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要旨

みどりの食料システム戦略KPIで掲げられた化学肥料30%低減,肥料価格高騰への対策等,圃場毎に肥料や有機質資材の肥効を可視化する需要が増加している.全国437万 haの農地を対象に,圃場一筆ごとの「肥効の見える化」を実現するため,高精細度土壌図(AI-土壌図)を整備するとともに,生産者が有機質資材の種類や施用時期を市販営農支援ソフトに入力すると,土壌の特性や温度水分に基づき肥効を算出できる土壌環境API(Application Programming Interface)を開発した.土壌環境APIは,AI-土壌図と気象データから圃場一筆毎に土壌温度水分を推定し,その推定値から緩効性肥料や有機質資材の肥効を日単位で予測し,肥効予測データの配信を行うAPIである.土壌環境APIは土壌温度水分推定API,緩効性肥料養分供給API,有機質資材の肥効見える化APIから構成される.また,土壌環境APIで可視化した有機質資材の肥効に基づき化学肥料削減(30%削減を目標)が可能かどうか13県の公設試験場と連携して畑作物20事例で試験を行い,収量を維持しつつ,平均で化学肥料40%の削減が可能であることを実証した

Summary

The data visualization of the fertilization effect of organic or inorganic fertilizer on a field-by-field basis can help cut fertilization costs, and early realization of a 30% reduction in chemical fertilizer use, as in the KPI of Strategy for Sustainable Food Systems, MIDORI. A high-resolution soil map is required to visualize fertilizer efficacy for each field. We developed a high-resolution soil map named “AI-soil map” covering Japanese agricultural land and a Soil-Environmental API (Application Programming Interface). This API estimates soil temperature and moisture for each field based on AI-soil map and weather data, predicts the fertilizer efficacy of slow-release fertilizers and organic materials daily based on the estimated values, and delivers the fertilizer efficacy prediction data. The Soil Environment API consists of a soil temperature and moisture estimation API, a slow-release fertilizer nutrient supply API, and an organic material fertilizer efficacy visualization API. In collaboration with public research institutions in 13 prefectures, tests were conducted on 22 field crops to confirm the possibility of reducing chemical fertilizers (target 30% reduction) by visualizing the fertilizer efficacy of organic materials using the “Soil-Environmental API”. It has been demonstrated that chemical fertilizers can be reduced by an average of 45% while maintaining crop yields. The “AI-soil map” and the “Soil-Environmental API” are opened by the agricultural data distribution platform, WAGRI.

はじめに

みどりの食料システム戦略(みどり戦略)の重要業績評価指標(KPI)で掲げられた化学肥料使用量30%低減の早期実現,肥料価格高騰への対策等,圃場毎に肥料や有機質資材の肥効を可視化して,肥料資源を有効に活用しようという需要が増加している.特に,みどり戦略KPIの化学肥料30%低減において,堆肥等の有機資源を活用した施肥体系の確立が重要視されている.堆肥等の有機資源を活用するためには,それら肥効を正確に予測し,これらに基づき化学肥料の施用量を低減することが重要である.

堆肥等の有機質資材の窒素肥効は,農地施用後の土壌中において,堆肥等に多く含まれる有機態窒素(古賀ら 2019)が微生物による分解(無機化)を経て無機態窒素へと変化し,作物が吸収可能となることによって発現する.これまで,土壌中での施用有機物の無機化は土壌温度によって大きく影響を受けることが知られており,反応速度論的解析が精力的に研究されてきた(杉原ら 1986古江,上沢 2001).また,最近では施用有機物の土壌中での分解速度を土壌温度,土壌水分および施用有機物の特性をパラメータとした関数で表せられることが報告された(古賀ら 2023).

生産現場では,追肥回数や生産コスト削減を目的として緩効性肥料が広く用いられている.この緩効性肥料は肥効発現をコントロールできるため,追肥を省略して生産コスト削減が可能となるため広く用いられている.緩効性肥料の肥効発現もまた,土壌温度をパラメータとした関数として表すことが可能である(原 2020).このように,生産現場で有機質資材や緩効性肥料の肥効を予測して,追肥の量やタイミングを含めた適正施肥を実現していくためには,生産現場での土壌温度データの利活用が重要となる.

これまで,各地の気温や降水量等の気象データをリアルアイムで取得することは容易にできるが,土壌温度・水分データの入手は非常に困難であった.そのため,圃場単位での有機質肥料や緩効性肥料の肥効可視化には気象データが代用されている状況であった.農研機構では日本土壌インベントリー( https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/)上で公開している土壌物理性データと気象官署およびアメダスで得られた気象データを用いて1日ごとの土壌温度水分の推定が可能であることを示し,土壌温度・水分の日々の推定値(平年値)を公開した(農研機構 2019).この1日ごとの土壌温度水分推定スキームを用いることで,リアルタイム土壌温度水分データの作成が可能となる.

農研機構が日本土壌インベントリーで公開しているデジタル農耕地土壌図および土壌物理性データは,縮尺5万分の1相当であり,その解像度は100 m程度である(農研機構 2019).そのため,圃場一筆毎の土壌の種類を判定することには適さず,また,全国農地を網羅するものでもなかった.そのため,デジタル農耕地土壌図を用いて農地一筆毎の土壌特性を調べたり,土壌温度水分を推定したりすることには適さなかった.

このような既存のデジタル農耕地土壌図の問題点(低解像度,空白域など)を解消し,圃場一筆毎の土壌特性を確認できる高精細度土壌図(AI-土壌図)を開発し,さらに,生産者が有機質資材の種類や施用時期を市販営農支援ソフトに入力すると,土壌温度水分に基づき肥効を算出(見える化)することができる土壌環境APIを開発することを本研究の目的とした.また,これら開発技術を用いて圃場毎に有機質資材の肥効を可視化することで,作物収量を維持しつつ化学肥料削減が可能か全国的に実証試験を行ったので,その概要についても紹介する.

AI-土壌図の開発

圃場毎の「肥効見える化」実現のため,既存土壌図の問題点(低解像度,空白域など)を解消し,圃場一筆毎の土壌特性を確認できるようにするため,機械学習を用いたデジタル農耕地土壌図の高精細度化(AI-土壌図開発)に取組んだ.

先ず,図1のように,縮尺5万分の1相当の農耕地⼟壌図(既存土壌図)を10m格子で区切り,各格子点の土壌分類名を目的変数として,各格子点における特徴量データ(地質,地形,気象,土地利用)を独立変数としたデータセット(データセット総数:約2億9千万)を作成した(早野ら 2021).上記の特徴量データはいわゆる土壌生成因子と呼ばれている環境データ群であり,土壌の生成・分類に影響を与えていると考えられている.これらデータセットについて,農研機構のスパコン「紫峰」を用いて都道府県ごとにランダムフォレスト法によるAI学習器の構築を行った.構築した学習器を使用し,気象,地形,母材(地質),土地利用データに基づいて,既存土壌図の空白域における土壌種類を推定した.更に,作成したAI-土壌図(解像度10 m)について,圃場一筆毎に優占する土壌種名(土壌統群,土壌亜群,土壌群名)を紐づけた.このように解像度を筆単位としたAI-土壌図データの予測精度の検証を下記のとおり行った.

1)縮尺5万分の1相当の農耕地⼟壌図(既存土壌図)が作成された1959年~1978年にできるだけ近い年代(1979~1982)に行われた土壌調査データ(農林水産省土壌環境基礎調査事業で実施)の収集.

2)1)のデータの内,調査した農地が現時点でも把握できる地点を選定(729地点).ただし,1979~1982年当時,土壌調査地点の位置情報を10 m以内の精度で記録していないので,精度検証用データの位置精度は圃場毎に異なる.

3)精度検証用データの土壌分類名(大群および群レベル)と既存土壌図およびAI-土壌図の土壌分類名を比較してそれぞれの正答率を算出(表1).

表1からAI-土壌図はデジタル農耕地土壌図の予測精度とほぼ同一となった.これは,AI‐土壌図が既存のデジタル農耕地土壌図上で表現されている土壌の種類ごとの分布状況と土壌生成因子との空間的な関係性を忠実に再現しつつ,高精細度化できていることを示したものと考えている.開発したAI-土壌図は,2023年から農業データ連携基盤WAGRIよりAI‐土壌図情報付与済筆ポリゴン取得API,統合農地データ取得API等としてデータ配信されている.

図1. 土壌生成因子による機械学習を用いたAI-土壌図の開発
表1.精度検証用データ(729点)に対する既存土壌図およびAI-土壌図の正答率


土壌環境APIの概要

土壌環境APIは,エンドユーザー(生産者・営農指導員)が入力したデータから,緩効性肥料や有機質資材の肥効を圃場一筆毎に日単位で定量化するアプリケーションである(図2).本APIは,入力データに圃場の位置情報,緩効性肥料や有機質資材の種類とその施用量,計算開始日(例えば,施用日),計算終了日(例えば,収穫予定日),1 kmメッシュ農業気象データシステム(農研機構 2022)から得られる気象データ(圃場位置情報と計算期間から自動取得),WAGRI-AI-土壌図情報付与済筆ポリゴン取得APIから得られる土壌データ(圃場位置情報から自動取得)を用いて,圃場一筆毎に緩効性肥料や有機質資材の肥効を日単位で予測し,肥効予測データの配信を行う.土壌環境APIは(1)土壌温度水分推定API,(2)緩効性肥料養分供給API,(3)有機質資材の肥効見える化APIから構成されている(図2).なお,有機質資材の肥効見える化APIについては,好気的条件下での肥効発現を推定しているため畑圃場に限った利用を推奨している.

図2. WAGRI に実装した土壌環境API

1.土壌温度水分推定API

土壌温度水分推定APIはエンドユーザーが選択する圃場について1日毎の土壌温度・水分の推定値を計算して出力する.日々の土壌温度・水分推定には土壌の物理性データ(透水性や水分保持等)と気象データ(気温,日射量,降水量等)が必要である.農研機構は土壌の種類ごとに土壌物理性データを整理しており(滝本ら 2017),WEBサイト「日本土壌インベントリー」( https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/)で公開している.本APIでは,選択圃場の土壌の種類を特定するためAI-土壌図を使用して,選択圃場の緯度経度情報を基に土壌の種類を特定する(図3).選択圃場の緯度経度情報は1 kmメッシュ農業気象データシステムから気象データを取得する際にも使用する.本APIは土壌の種類名毎に紐づけられた土壌物理特性値と農業気象データを用いて地表面や土壌内の熱・水輸送を計算し,1日毎の土壌温度・水分を高精度に計算し,データ出力を行う.

図3. WAGRI-土壌温度水分推定APIにおける土壌温度・水分計算スキーム

2.緩効性肥料養分供給API

緩効性肥料養分供給APIは養分供給の様式や遅速が多様である緩効性肥料からの日々の養分供給量を計算できるアプリケーションである.エンドユーザーが緩効性肥料の種類と日々の温度(土壌温度水分推定APIから取得できる)を入力すると,日々の養分供給量の推移を数値として出力することができる.本APIを利用することで日々の養分供給割合を参考に,それぞれの圃場に適した緩効性肥料の種類と施肥量を決めることが可能である.

3.有機質資材の肥効見える化API

本APIは畑圃場に施用された有機質資材の主要な肥効(窒素,リン酸,カリウム)を可視化するアプリケーションである(図4).エンドユーザーが施用する資材について,その資材の施用日,収穫日,資材の施用量,資材の種類,土壌温度・水分(土壌温度水分推定APIから取得できる)を入力すると,本アプリ独自の数理モデルを使って,肥効量を予測,出力することができる.なお,本APIで肥効を可視化できる有機質資材は(1)牛ふん堆肥,(2)豚ぷん堆肥,(3)鶏ふん堆肥,(4)植物油かす,(5)魚かす,(6)骨粉,(7)米ぬか,(8)イネ科(ライムギ,エンバク,セイヨウチャヒキ),(9)イネ科(ソルガム,スーダングラス),(10)アブラナ科(シロカラシ,キカラシ),(11)マメ科(ヘアリーベッチ,クリムソンクローバー),(12)マメ科(クロタラリア),(13)キク科(ヒマワリ)であり,(4)~(7)は市販資材,(8)~(13)は緑肥である.本アプリで予測した肥効量を参考に,化学肥料を削減することが可能である.

図4. WAGRI-有機質資材の肥効見える化APIの概要

土壌環境APIを用いた畑圃場における化学肥料削減実証試験

本研究で開発したAI-土壌図および土壌環境APIの有用性を検証するため,2023年度から全国13県(岩手県,秋田県,茨城県,栃木県,群馬県,千葉県,神奈川県,愛知県,兵庫県,山口県,長崎県,鹿児島県,沖縄県)の公設試験場と連携して,8つの畑作物(キャベツ,レタス,ホウレンソウ,ニンジン,サツマイモ,スイートコーン,ブロッコリー,キク)と有機質資材の種類等を組み合わせた20事例において実証試験を行った.実証試験では,施用する有機質資材の窒素・リン酸・カリウムの肥効を可視化し,その肥効分を各公設試験場が独自に定める作目ごとの標準施肥量から差し引くことで,化学肥料の使用量を削減した処理区を設置した.22事例での化学肥料削減率は平均で40%(窒素24%,リン酸59%,カリウム42%)であった.作物収量について,標準施肥量区(化学肥料単用)と化学肥料削減区(有機質資材施用区)とを比較すると,標準施肥量区の収量を100とした場合,化学肥料削減区で収量は108となり,有機質資材の肥効を可視化することで作物収量を維持しつつ,化学肥料使用量を30%以上削減できることが実証された(望月ら 2024).

おわりに

土壌環境APIを用いた化学肥料削減実証試験では,有機質資材の肥効を可視化することで化学肥料の使用量を40%低減しても作物収量を維持できることが明らかとなった.今後,実証試験の結果を数理モデルに適用して,有機質資材を連用した場合の肥効発現や窒素成分の溶脱量などを評価することで,環境保全的な有機質資材の施用量と化学肥料の更なる削減が可能であるか検討を進める予定である.

謝辞

本研究は,農林水産省「国際競争力強化技術開発プロジェクト」,生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(JPJ007097)および生研支援センター「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」(JPJ011937)において行った.

利益相反の有無

著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
The author retains the copyright of their paper and grants permission to the National Agriculture and Food Research Organization (NARO) to publish the paper in the Journal of the NARO Research and Development.
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