Journal of the NARO Research and Development
Online ISSN : 2434-9909
Print ISSN : 2434-9895
ISSN-L : 2434-9895
Mini Review
Performance of combined high-speed ridger and double banding fertilizer applicator and fertilizer saving effects
Masamoto CHIBA
Author information
RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 2025 Issue 20 Pages 43-

Details
要旨

畝内に条状に肥料を施用する局所施用技術は,機械化が進展する以前より用いられてきた肥料の利用率が高い技術である.畝立同時二段局所施肥機は,畝内の上層と下層の二段に条状に肥料を施用することで,高い肥料の利用率と安定した初期生育を両立した機械である.本報では,畝立同時二段局所施肥機の基本的な性能と露地野菜の栽培における肥料節減効果,今後利用拡大が予想される有機質資材を利用する際の注意点をまとめた.作業能率の面では,ベースとなった嬬恋村慣行機の特徴である培土器で畝立を行う構造を活かすことで,一般的な畝立て施肥機と比較し,作業能率が2~4割の向上となる試算が得られた.肥料節減効果の面では,群馬と鹿児島で実施したキャベツ等の栽培試験において,慣行の局所施用法,及び全面全層の施用方法に対し,3割減肥した場合でも同等の収量が得られることを確認した.有機質肥料の利用においては,平均粒径が2~3 mmの範囲を超える円柱状の肥料を用いた場合に,短期的な肥料散布量の変動が大きくなる場合があった.このため,粒形が大きい肥料を利用する場合は,低い成分量で肥料の散布総量を増やす低濃度大量散布となるような施肥設計が望ましいと考えられた.

Summary

The technique of banding fertilizer application, known for its high fertilizer utilization efficiency, has been practiced since before the advent of mechanization. The combined high-speed ridger and double banding fertilizer applicator is designed to maximize fertilizer efficiency and promote stable early growth, as achieved by applying fertilizer in two layers. This report details the basic performance of the machine, the fertilizer-saving benefits observed in open-field vegetable cultivation, and key considerations for using organic materials, which are anticipated to see increased adoption in the future.

In terms of work efficiency, leveraging the soil-covering device structure, a feature of the conventional equipment used in Tsumagoi Village, an estimated 20-40% improvement in efficiency was achieved compared to general ridge-making fertilizer applicators. Regarding fertilizer-saving effects, cultivation tests conducted in Gunma and Kagoshima on cabbage and other crops demonstrated that even with a 30% reduction in fertilizer, yields remained comparable to those obtained with traditional banding and full-layer application methods. When using organic fertilizers, it was found that fertilizers with an average particle size exceeding 2-3mm, particularly cylindrical types, caused significant variations in the amount applied over short distances. Therefore, when applying fertilizers with larger particle sizes, it is recommended to design the application method to achieve low-concentration, high-volume application.

はじめに

令和3年3月に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」において,2050年までに目指す姿として,耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万 ha)に拡大すること,また化学肥料の使用量30%低減が示された(農林水産省 2021).生産現場においては,施肥管理が慣行の化学肥料を中心としたものから有機質肥料へと転換,拡大してくことが予想される.

化学肥料を巡る状況においては,コロナ禍による物流の混乱に加え,ロシアのウクライナ侵攻や中国からの肥料の輸出制限などが加わり,令和4年に全農が公表した秋肥の価格が同年度の春肥比で最大94%の値上げとなったことが大きな話題となった(農業協同組合新聞 2022図1は肥料原料価格の推移を示したものである(財務省関税局 2024).ピーク時からは落ち着きを取り戻したものの,肥料原料の輸入価格は依然として高止まりしている.農業機械研究部門の所在する埼玉県が発行する施肥基準(埼玉県農林部農業支援課 2018)によれば,10 a当たりの窒素施用量は稲や麦で6.5~10 kg程度であるのに対し,国内の露地野菜等では馬鈴薯に次いで栽培面積の多いキャベツ(農林水産省大臣官房統計部 2024)で20~26 kg,ハクサイ28 kg,にんじん19~20 kg,たまねぎ20 kgなどと要求量が2倍以上となる品目も多く,化学肥料の高騰が農家の経営に与える影響は非常に大きいものとなっている.

図1. 肥料原料の輸入価格の推移(四半期ベース)

財務省関税局(2024)より作成.

肥料価格は過去にも何度か高騰しており,これまでにも肥料の削減に効果のある施用法や機械の研究開発が行われてきた.図2屋代(2008)を改編したもので,畝立栽培を行う露地野菜に対応する複数の畝立施肥法の概略と断面図を示したものである.左上は機械化の進展によって,作業の効率の面から採用されてきた全面全層施用法である.他の3点は,肥料の流亡を減らし,効率よく作物に吸収させることを目的に,作物の根域周辺に肥料を集中施用させるために開発された施用方法である.右上が畝内施用法,左下が畝内局所施用法,右下が畝内部分施用法である.畝内施用法は,作物が植えられず根の伸長も少ない畝間の肥料を省略する観点で開発された技術である.図3 は畝内施用を行う機械で,農家が所有する機体である.畝立て直前に土壌の砕土を行うロータリの前方で,畝を形成する位置に肥料流下ホースで肥料を誘導することで,畝部分への肥料の混和を狙った構成となっている.畝内部分施用法は農研機構で開発された技術で,畝内でも特に作物の根が集中する畝の中央部に肥料を集中的に施用し混和することで,肥料の利用効率の向上を図ったものである(屋代 2006).基本的な考え方は畝内施用法と同一だが,ホースの誘導位置やロータリの構造に手を加えることで,肥料の拡散範囲を畝の一部に集中させた技術である.ロータリの爪軸に1畝あたり1対2枚の円盤を配置し,肥料が横へ拡散することを制限することで,畝内でも特に中央部だけに限った肥料の拡散・混和を実現している.畝内局所施用法は,機械化の大幅な進展が起こる前から用いられていた施用法である(八鍬 1957).畝内の一部に集中的に肥料を施用することで硝酸化が抑制されアンモニア態窒素として集積される.アンモニア態窒素は硝酸態窒素に比べて下層への溶脱が少ないため,長期間にわたっての肥効が維持される仕組みである(森崎 1993向笠ら 1973).

図2. 施用法と畝内の施肥範囲

屋代(2008)を改変.

図3. 畝内施用を行う機械(左)とその構成(右)

夏秋キャベツの全国出荷量のうち,その半数を占める主要産地の嬬恋村では,以前より畝内局所施用を行う機械(以下,慣行機とする)が利用されてきた(農林水産省大臣官房統計部 2024,嬬恋村役場未来創造課 2023).現地の栽植密度は10 aあたり6700株~7400株で条間が45 cmと,他の大規模な産地に対し比較的密に定植されるのが特徴である(ぐんまアグリネット 2024愛知県農業水産局農政部農業経営課 2021千葉県農林水産部 2019).生育期間の初期は肥効を抑えて外葉を小振りに育て,肥料を後から効かせることを目的として(須田 2010),現地では大多数の農家が利用している.一方で,図2からも読み取れるように,定植直後の苗の根が肥料に到達するまでに時間がかかるため,初期生育が劣るという課題があった.これに対し,現地では慣行機に後付けで肥料散布機を追加し,畝立て及び局所施肥と同時に畝天面への肥料散布を行っている.これにより,キャベツの生育の観点からは,畝内局所施用による高い肥料の利用率と初期生育の確保が図られたが,畝天面に散布した肥料は,散布後の定植機の通過によって土と共に崩れ落ちたり,風雨によって直接流亡するなど効率や環境面で課題が残されていた.

慣行機の畝成型部の構造に視点を移すと,培土器だけで作溝と畝立を行うことが特徴である.ロータリを用いないため高速で畝を立てることができ,筆者が調査を行った農家では0.55~0.85 m/sで作業が行われていた.ロータリを用いた内盛整形式の畝立施肥機(片平ら 2004屋代 2008)と比較して約2~3倍の速度で,高い作業能率を実現している.

そこで,農研機構農業機械研究部門が中心となって開発を行ったのが,慣行機の構造を最大限活かし,高い作業能率と肥料の利用率を両立させた野菜用の高速局所施肥機(一般名称:畝立同時二段局所施肥機.以下,開発機とする)である.開発機は,近年の政策の方向である水稲作から畑作・園芸作への転換にも合致する野菜向けの機械であり,化学肥料の削減を目標に掲げるみどり戦略においても,政策推進に貢献できる機械として位置付けられている.本報は,開発機を俯瞰し,その構造,能率及び肥料節減効果に加えて,有機栽培の拡大を見据えた有機質資材への適用性についてまとめたものである.

開発機の構造

開発機の構造や作業能率の試算については,千葉(20182019)及び農研機構(2022)で詳細を解説しており,以下にその概要を述べる.

開発機は,培土器により畝立てを行いながら,畝内の上層部と下層部の二段に局所施肥する3条用の作業機で,条間45 cm仕様と条間60 cm仕様がある.肥料繰出し部については,下層施肥用として各畝に対応する55 Lの肥料ホッパ3台(仕様間で向きが異なる)を備え,上層施肥用には55 Lの肥料ホッパ1台を備え,漏斗状の分配器で各畝に肥料を分配する(図4表1 ).条間45 cmの畝形状は,天面幅,裾幅,畝高さがそれぞれ約17 cm,35 cm,13 cm,条間60 cm仕様はそれぞれ約30 cm,50 cm,15 cmの台形形状である.畝成型部について,一般的な畝立て機はロータリで耕耘砕土しながら合成樹脂製の培土板(スリックボード)で土を寄せ固め,台形型に畝を成形する構造であり,先述の通り作業速度は最大0.5 m/s程度である.それに対し開発機では,培土器による簡易耕起方式を採用することで,最大1.4 m/sでの作業ができる.

図4. 畝立同時二段局所施肥機(条間60 cm 仕様)
表1.機械の主要諸元


千葉(2018)を改変.

1.肥料繰出し部

肥料繰出し方式は横溝ロール式で,駆動には電動モータを採用し,GNSSセンサと傾斜角度センサを用いて算出した作業速度に肥料繰出し量が連動するように制御を行う.かさ密度が異なる肥料に対応するため,繰出しロールの回転速度が低い場合と高い場合の2条件での繰出し量を元に校正することで,繰出し精度の向上を図っている.最大散布量は,上層施肥で30 kg/10a,下層施肥で250 kg/10aまで設定可能である(45 cm仕様,最高作業速度である1.4 m/sで粒状化成肥料の場合).

2.畝成形部

畝成形部は,前・後部培土器,PTOからの動力で回転する鎮圧ローラ,接地輪から構成される.作業は,(1)前部培土器で作溝,(2)溝底へ下層の局所施肥(畝天面から深さ約15 cm),(3)後部培土器で土を寄せながら上層の局所施肥(深さ約3~5 cm),(4)鎮圧ローラで畝表面を鎮圧,の順で畝立て施肥が行われる(図5).PTOで駆動する鎮圧ローラは,PTO回転速度540 rpm時に,畝天面に作用するローラ円筒部の周速度が約0.6 m/sで回転する構造とした.ローラで土を成型する作業機として,畦塗り機が挙げられ,畦に接して回転するローラ円筒部の周速度を作業速度より高く設定し,スリップ状態とすることで表面の練り固めを行い,漏水を防ぐことが知られている(来田農産株式会社,武田 1996).しかしながら,開発機で同様に設定すると,畝の肩部の土を掻き散らす現象が確認されたことなどから,ローラ円筒部の周速度を最大作業速度(1.4 m/s)の約5割程度に落とす設定とした.

図5. 畝断面の様子と肥料の施用位置(条間45 cm仕様)

千葉(2018)より.

作業能率

1.試験の方法

作業能率試験は,条間60 cm仕様の機械を用い,鹿児島県農業開発総合センター大隅支場内ほ場で実施した.作業条件は,ほ場面積:33.8 a(長辺72 m,短辺47 m),(設定施肥量:99.5 kg/10a(上層:12.5 kg/10a,下層:87.0 kg/10a),目標作業速度:1.1 m/sとした.散布資材は粒形3~5 mmのゼオライトを用い,作業開始側の短辺畦畔での旋回時に,ホッパ内残量が残りわずかとなった段階で,都度補充を行った.

2.試験の結果と概要

全作業時間は62.1 min,枕地を除く実作業面積30.8 a(長辺65.4 m,短辺47 m)で,ほ場作業量は29.8 a/hとなった.平均作業速度が1.1 m/s,理論ほ場作業量が63.5 a/hであり,ほ場作業効率は48.5%となった.なお,作業時間の内訳は,肥料の供給に16.5 min,畝立て施肥作業に27.5 min,移動と旋回に18.1 minであった.一般の産地で使われる内盛整形式の畝立施肥機の作業速度を0.5 m/s,嬬恋村慣行機の作業速度を実測に基づいて0.9 m/sとし,肥料の補給や旋回に要する時間を同条件として試算・比較すると,一般産地を想定した条間60 cmでは53.6%の向上となり,嬬恋村を想定した条間45 cmでは13.2%の向上となる.また,開発機の最高作業速度である1.4 m/sとの比較では,それぞれ69.6%,25.4%の向上が見込まれた(表23 ).

表2.作業能率調査結果(条間60 cm 仕様)


農研機構(2022)より.

 

表3.作業能率試算値


農研機構(2022)を改変.

露地野菜での肥料節減効果

二段局所施肥技術では,冒頭で述べた局所施肥技術の特性から肥料の流亡が抑制され,高い肥料利用率が得られる.開発機の普及拡大に向けて,二段局所施肥技術による肥料節減効果を確認する栽培試験を実施した.農研機構(2022)では,群馬県吾妻郡嬬恋村に所在する群馬県農業技術センター高冷地野菜研究センターで実施した条間45 cmでのキャベツの栽培試験の結果,鹿児島県鹿屋市に所在する鹿児島県農業開発総合センター大隅支場で実施した条間60 cmでのキャベツ,ブロッコリー及びハクサイについての結果を報告したので,以下にまとめて概要を述べる.

1.キャベツ,条間45 cm

先に述べたように,嬬恋村では露地野菜の栽培で通常行われている全面全層施肥法によらず,畝内局所施用に加えて畝天面への肥料散布が普及している.この方式を慣行区とし,開発機の試作機を用いた二段施肥との生育の比較を行った.肥料は畝の上層用に,くみあい燐硝安加里1号S552(N:15%,P2O5:15%,K2O:12%)を使用し,下層用には,輝90(N:12%,P2O5:12%,K2O:12%)を使用した.栽植密度は7407株/10a(条間45 cm,株間30 cm)で,その他の管理は現地慣行とした.施肥量は上層を一律窒素量で2.0 kg/10aとし,合計施肥量は下層の施肥量で調節し,慣行区で窒素量が合計20 kg/10a,2割減肥区で16 kg/10a,3割減肥区で14 kg/10aとした.品種は「初恋」を用い,育苗は200穴セルトレイで行った.定植は2017年5月11日に行い,8月2日に収穫し,結球重を調査した.

調査結果を表4 に示す.いずれの試験区間も結球重に有意差は無く,減肥を行った場合でも慣行区と同等であった.

表4.キャベツの減肥栽培試験結果(群馬県嬬恋村)


農研機構(2022)を改変.

2.キャベツ,条間60 cm

鹿児島県での栽培試験は,全面全層施肥の慣行区に対し,二段施肥の慣行施肥量区及び二段施肥の3割減肥区での生育比較を行った.肥料は畝の上層用に,くみあいBB48号(N:16%,P2O5:16%,K2O:16%)を使用し,下層用には,園芸用BB555号(N:15%,P2O5:15%,K2O:15%)を使用した.栽植密度は4762株/10a(条間60 cm,株間35 cm)で,その他の管理は現地慣行とした.合計施肥量は慣行区で窒素量が合計15 kg/10a,二段施肥では上層を一律2.0 kg/10aとし,合計窒素量を二段施肥の慣行施肥量区で15 kg/10a,3割減肥区で10.5 kg/10aとした.品種は「夢舞台」を用い,育苗は128穴セルトレイで行った.定植は2017年9月6日に行い12月4日に収穫し,結球重を調査した.

調査結果を表5 に示す.結球重は,二段施肥の慣行施肥量区,3割減肥区共に全面全層施肥の慣行区を有意に上回る結果であった.

表5.キャベツの減肥栽培試験結果(鹿児島県鹿屋市)


平均結球値にある異なる添え字は,Tukey の多重比較法により5%で有意に異なることを示す.農研機構(2022)を改変.

3.ハクサイ,条間60 cm

ハクサイの栽培試験も,全面全層施肥の慣行区に対し,二段施肥の慣行施肥量区及び二段施肥の3割減肥区との生育比較を行った.二段施肥では畝の上層下層共に,ハクサイ配合(N:15%,P2O5:15%,K2O:15%)を使用し,慣行区では基肥にハクサイ配合,追肥にNK2号(N:16%,P2O5:0%,K2O:16%)を使用した.栽植密度は4762株/10a(条間60 cm,株間35 cm)で,その他の管理は現地慣行とした.合計施肥量は慣行区で窒素量が合計18 kg/10a,二段施肥では上層を一律2.0 kg/10aとし,合計窒素量を慣行施肥量区で18 kg/10a,3割減肥区で13 kg/10aとした.品種は「黄楽70」を用い,育苗は128穴セルトレイで行った.定植は2019年10月16日に行い12月26日に収穫し,結球重を調査した.

調査結果を表6 に示す.平均結球重は二段施肥の3割減肥区で5%ほど小さかったが有意差はみられず,同等の生育が得られた.

表6.ハクサイの減肥栽培試験結果(鹿児島県鹿屋市)


農研機構(2022)を改変.

4.ブロッコリー,条間60 cm

ブロッコリーの栽培試験も,全面全層施肥の慣行区に対し,二段施肥の慣行施肥量区及び二段施肥の3割減肥区との生育比較を行った.二段施肥では畝の上層下層共に,くみあいBB48号(N:16%,P2O5:16%,K2O:16%)を使用し,慣行では基肥にくみあいBB48号,追肥にNK2号(N:16%,P2O5:0%,K2O:16%)を使用した.栽植密度は5556株/10a(条間60 cm,株間30 cm)で,その他の管理は現地慣行とした.合計施肥量は慣行で窒素量が合計23 kg/10a,二段施肥では上層を一律2.0 kg/10aとし,合計窒素量を慣行施肥量区で23 kg/10a,3割減肥区で16 kg/10aとした.品種は「おはよう」を用い,育苗は128穴セルトレイで行った.定植は2019年10月16日に行い2020年1月8日に収穫し,花蕾重を調査した.

調査結果を表7 に示す.3区とも平均花蕾重に有意差はみられず,同等の生育が得られた.

表7.ブロッコリーの減肥栽培試験結果(鹿児島県鹿屋市)


農研機構(2022)を改変.

有機質肥料の利用

有機栽培を行う上で欠くことのできない有機質肥料は,機械散布に適した球状への加工コストが高いことなどからペレット状やフレーク状と様々な形状で流通している.開発機の肥料繰出し部に採用している繰出しロールは,概ね微粒状~粒径数mmの範囲で造粒された肥料の利用を前提とした構造であるため,一般的な化成肥料と粒形や物理的特性が異なる有機質肥料を用いた場合には,付着や詰まりなどを原因とした散布精度の低下が懸念される.千葉(2024)では,開発機と同等の構造を持つ肥料散布機を用いて,有機質の土壌改良材を含む有機質資材の形状等が繰出し精度や施肥設計に与える影響を報告したので,以下にその内容を述べる.

1.材料および方法

肥料繰出し部として(株)タイショーのUH-55を用い,繰出しロールとして大量散布ロール(全幅110 mm,直径60 mm,溝数 9列/周,溝開口幅約17 mm,溝深さ約11 mm)を装着した.これは肥料を大量に散布する場合に加え,粒径が4~6 mmの場合や,長さが10 mm以下の有機ペレット等を散布する場合に使うことがメーカーによって推奨されているためである.資材の単位時間当たり繰出し量である繰出し速度(g/s)は,繰出しロールの回転速度を調節する「速度メモリ」を変えることで調節した.設定繰出し速度は,繰出し速度高(速度メモリ設定:10(最高速,無負荷時56 rpm)),繰出し速度中(速度メモリ設定:6.8,同41 rpm),繰出し速度低(速度メモリ設定:3.5,同24 rpm)の3段階とした.

肥料繰出し量の調査は,肥料ホッパに後述の20 kgの有機質資材を充填した状態で定置し,1.0 m/sの速度で動作する全長約4 mのベルトコンベア上に肥料を排出することで行った.また,サンプリング周期5 Hzに相当する200 mmごとにコンベアのベルトをスポンジテープで区切って調査区画を設定し,各調査区画内の肥料繰出し量を測定し変動係数を算出した.

供試材としては平均粒径の異なる全7種類の有機質資材を用いた(表8).資材A,Bは有機JASに適合し,機械散布に適合するよう造粒された肥料である.Cは本試験で用いた資材の中で中程度の径のペレット肥料,Dは造粒加工を行っていない発酵鶏糞,Eは炭やゼオライトを含む土壌改良剤,Fは汚泥肥料,Gは椿油粕である.資材の流動性に影響を及ぼす安息角はE,F,Dの順に高く,含水率と比例する傾向であった.

続いて,計測結果を基に,有機質資材を基肥として用いる場合の実作業への影響を試算した.繰出し量の計測は,ベルトコンベアの速度1.0 m/s時に5 Hzに相当する集計区間200 mmごとに実施したが,計測データを400 mm単位で再集計することで,ほ場を速度0.5 m/sで走行した際の繰出し量に換算することができる.同様に3倍の600 mmで再集計すると,速度0.3 m/s相当の繰出し量に換算することができる.集計単位を上記3段階に変え,各作業速度に対応した繰出し量の変動係数を求めた.また,高,中,低の3段階の設定繰出し速度に対する実際の平均繰出し速度(g/s)から,作業幅1.2 mの条件で作業速度と肥料散布量(kg/10a)の関係を求めた.

表8.試験に用いた資材と性状


平均粒径は目開き0.5,1.0,2.0,2.8,4.0,4.75,5.6 mm の篩を用いて測定.

2.結果と概要

表9 に,設定繰出し速度別の各調査区画内の繰出し量の変動係数を示す.参考として,粒状尿素を被覆して作られ,様々な銘柄の肥料にブレンドされているLPコート(40)の結果も併載した.繰出し速度が低の条件で変動係数が3.8~21.2%であったのに対し,高の条件では1.9~9.4%と,繰出し速度が高いほど変動係数が小さくなる傾向が認められた.これは,繰出しロールの溝への肥料の充填量のバラつきと,繰出しロールの間欠的な計量機構に由来する変動が,ロールの回転速度が低いほど繰出し量のバラつきとして表れた結果と考えられた.

表9.繰出し量の変動係数(%)


変動係数は,ベルトコンベア200 mm 区間ごとの計測値を基に算出.

本試験では,機械散布に適合するように造粒された資材である資材A,Bの他,資材Dが良好な結果を示した.一方で資材Eは,繰出し速度低の場合に変動係数が唯一20%を超え,繰出し速度高でも9.4%と突出して高かった.これは,円柱状のペレットである資材Eの平均粒径が5.2 mmと,他の6資材の1.8~3.0 mmに比べて大きく,繰出しロールの各溝への充填量のバラつきが大きかったためと考えられた.

特に変動係数の大きかった資材Eについて,作業速度に対応した散布量の変動係数を表10 に示す.繰出し速度によらず,作業速度が低いほど繰出しロールの充填量のバラつきが平準化され,変動係数が低下する傾向が確認された.資材Eの平均繰出し速度は,繰出し速度低,中,高でそれぞれ44,72,108 g/sであったことから,作業速度と肥料散布量の関係は図6のようになった.各マーカーの添え字は,表10で示す変動係数である.この図から,他の資材と遜色のない肥料散布量の変動係数である5%未満を達成するには,作業速度が0.5 m/sを下回る範囲で,200 kg/10a以上と,慣行栽培に対し肥料散布量を大幅に増やす必要があることが明らかとなった.

表10.作業速度別に試算した変動係数(%)(資材E)


千葉(2024)より.

図6. 肥料の散布量と作業速度の関係

千葉(2024)より.

以上をまとめると,有機質肥料の使用時に生じうる肥料の形状により増加する比較的短区間に生じる繰出し量の変動による影響を緩和するためには,以下のことを念頭にした施肥設計が必要と考えられた.

  1. ・利用する資材の形状はできるだけ化成肥料に近く,粒径は2~3 mm程度で球に近い形状が望ましい.
  2.  
  3. ・粒径の小さい資材が入手困難な場合は,作業速度を抑え,散布量を増やすような,低濃度大量散布とすることで,区間当たりの散布量が増え,バラつきが平準化される.

おわりに

畝立同時二段局所施肥機は2021年に実用化され,上田農機株式会社より「ボビンローラー三兼3連ソワー」として,UL-1545BNT(条間45 cm)及びUL-1560BNT(条間60 cm)の2型式が,また,株式会社タイショーより「畝立同時施肥機グランビスタKUTシリーズ」として,KUT-345-GP(条間45 cm)及びKUT-360-GP(条間60 cm)の2型式が販売されている(60 cm仕様,45 cm仕様共に,メーカー間の違いは型式名のみであり,性能に違いは無い).

本報告では,畝立同時二段局所施肥機の基本的な性能と肥料節減効果を確認する栽培試験の結果,また今後利用拡大が想定される有機質資材を利用する際の留意点についてまとめた.市販されて数年が経過する本機の二段局所施肥技術を参考として,新たな畝立施肥技術の開発が進行していることを耳にしている.本機の開発を通じて考案した局所施用技術が,化学肥料の削減や有機質肥料の利用拡大に資することを期待する.

謝辞

畝立同時二段局所施肥機の開発にあたっては,上田農機株式会社 代表取締役 春山清利氏,株式会社タイショー 開発部長 井坂博道氏にご尽力をいただいた.ここに記して謝意を表する.

利益相反の有無

著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
The author retains the copyright of their paper and grants permission to the National Agriculture and Food Research Organization (NARO) to publish the paper in the Journal of the NARO Research and Development.
feedback
Top