Journal of the NARO Research and Development
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ISSN-L : 2434-9895
Original Paper
Life cycle assessment of Japanese Black beef production utilizing food processing by-products and food leftovers
Michio TSUTSUMI Katsumi YAMANAKASouhei SAKAGUCHI
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RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 2025 Issue 22 Pages 23-

Details
要旨

エコフィードとは食品製造副産物や余剰食品などから製造された家畜用飼料を指し,その活用には環境負荷低減効果が期待される.本研究では,食品製造粕類サイレージが主原料のエコフィードを多給する黒毛和種牛生産システム(エコフィード牛生産)の環境影響評価を実施し,慣行生産と比較した.解析では,エコフィード活用による廃棄物処理の不要化がもたらす環境負荷のオフセット効果を考慮した.エコフィード牛生産の飼料生産における温室効果ガス(GHG)排出量,酸性化・富栄養化ポテンシャルおよびエネルギー消費量は,慣行生産をそれぞれ27%,17%,15%および26%下回った.飼料輸送プロセスでは同様に,14%,12%,12%および16%下回った.エコフィード原料の廃棄物処理(ほぼすべて埋め立て)回避によるGHG排出量のオフセット効果は他のプロセスの合計の88%に相当した.システム全体では,エコフィード牛生産が慣行生産を,GHG排出量,酸性化・富栄養化ポテンシャルおよびエネルギー消費量でそれぞれ89%,9%,3%および26%下回った.食品製造副産物や余剰食品のエコフィードとしての活用により,GHG排出量およびエネルギー消費量が大きく低減されることが示された.

Summary

A large amount of food processing by-products and food leftovers are treated as waste, while conventional beef production in Japan depends heavily on imported concentrate feed, resulting in considerable impacts on the environment. The utilization of "eco-feed", livestock feed upcycled from food processing by-products, food leftovers, and similar materials, is expected not only to reduce the economic costs of preparing feed but also to help mitigate its associated environmental impacts. This study conducted a life cycle assessment to evaluate the environmental impacts of a Japanese Black cattle production system using eco-feed primarily made from silage of food processing by-products (Eco-feed beef), and compared it with the conventional Japanese beef production method. The analysis considered the mitigation of environmental impacts achieved by avoiding waste disposal through using food processing by-products and food leftovers as animal feed. The objective was to determine the reduction in environmental load when using eco-feed upcycled from these materials. For Eco-feed beef production, the impacts of feed production on climate change, acidification, eutrophication, and energy consumption were mitigated by 27%, 17%, 15%, and 26%, respectively, compared with conventional production. Similarly, the impacts of the feed transportation process were mitigated by 14%, 12%, 12%, and 16%, respectively. The mitigating effect of avoiding waste disposal, predominantly landfill, accounted for 88% of the total climate change impact of the other processes in Eco-feed beef production. Overall, the Eco-feed beef production system outperformed the conventional production system, mitigating the impacts on climate change, acidification, eutrophication, and energy consumption by 89%, 9%, 3%, and 26%, respectively. These results demonstrated that upcycling food processing by-products and food leftover, which would otherwise be disposed of in landfills, into eco-feed substantially reduced the impacts on climate change and energy consumption.

緒言

持続可能な開発(sustainable development)の重要性が国際的に認識されており,持続可能な食料生産はその基盤となる.そのため,食料生産にともなう環境負荷およびその低減に関心が集まっている(Poore and Nemecek 2018Willett et al. 2019).これに関連し,畜産物に係る環境負荷が植物由来の食物の生産に要する環境負荷を上回ることが指摘されている(Poore and Nemecek 2018).この点を踏まえ,Willett et al.(2019)は,食料生産に係る環境負荷を低減するためには,畜産物の消費量を削減し,植物中心の食生活を普及すべきとの見解を示している.しかしながら,彼らは同時に,人類の健康的な生活の維持には畜産物が必要であることを認めている.したがって,持続可能な畜産の実現に向けて,環境負荷低減に資する技術開発および技術普及を進めていく必要がある.

わが国の畜産経営の特徴として,濃厚飼料の多給と国外依存が挙げられる.穀物飼料の生産では化学肥料の施用が一般的であり,それが畜産に係る環境負荷の増大を招く(Tsutsumi et al. 2018).わが国の粗飼料自給率は78%である一方,濃厚飼料自給率は13%であり長年低迷している(農林水産省畜産局飼料課,農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課 2024).飼料の輸入先は米国,オーストラリア,ブラジルあるいはアルゼンチンといった遠方の国である(農林水産省畜産局飼料課,農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課 2024)ため,長距離輸送に係る環境負荷が甚大となる.例えば,わが国の慣行肉用牛生産に係るエネルギー消費量のうち,飼料生産および飼料輸送のプロセスの寄与はそれぞれ64%および34%であり,温室効果ガス(GHG)排出量についても同順に23%および12%を占める(Ogino et al. 20042007a).したがって,自給飼料の増産およびその際の資源投入の抑制がわが国の畜産における環境負荷低減に向けて重要である.

エコフィード(食品循環資源利用飼料)とは食品製造副産物や余剰食品などを利用して製造された家畜用飼料であり,その活用により,近年高騰する飼料費の削減が期待できる(農林水産省畜産局飼料課 2024).さらに,輸入濃厚飼料をエコフィードで代替することにより,飼料生産・輸送の双方に係る環境負荷の低減も可能となるものと考えられる.また,廃棄物として処理されていた食品製造副産物や余剰食品をエコフィードとして活用することにより,廃棄物処理が不要となることの環境負荷低減効果も見込まれる(Siddique et al. 2024).エコフィードの給与は養豚での事例が多いものと見られるが(農林水産省畜産局飼料課 2024),肉用牛生産での給与事例も近年多く報告されている(横溝 2017松橋ら 2022肉牛ジャーナル編集部 2023農林水産省畜産局飼料課 2024大西,服部 2024).

本研究では,食品製造粕類サイレージを主原料とするエコフィードを活用した黒毛和種牛生産に関する環境影響評価をライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて実施し,慣行生産と比較することで,肉用牛生産におけるエコフィードの活用による環境負荷低減効果を定量化する.

材料および方法

1.目的および対象範囲の設定

和歌山県に所在するE社は産業廃棄物処理業者であり,様々な事業を展開しているが,その一環としてエコフィードの製造・販売を行っている.さらに,和歌山県内の自社牧場で,自社製造のエコフィード給与による黒毛和種牛生産を行っている(肉牛ジャーナル編集部 2023).同牧場では,繁殖雌牛用濃厚飼料のほぼすべてと,肥育牛用濃厚飼料の約6割がエコフィードで代替されている.エコフィードは多種の原料で構成されており,ほぼすべてが和歌山県内で調達されている.したがって,同牧場の肉用牛生産では,慣行生産方式と比較して環境負荷が削減されているものと期待される.

E社は2か所の自社牧場を運営しており,それぞれ繁殖・肥育一貫生産および預託牛の肥育生産を行っている.本研究では,繁殖・肥育一貫生産行うY牧場(和歌山県有田郡湯浅町に所在)における黒毛和種牛生産システムを対象に,積み上げ法によるLCAを実施し,食品製造粕類サイレージを主原料とするエコフィードを活用した黒毛和種牛生産(以下,エコフィード牛生産)の環境影響評価を行った.解析の対象は去勢雄牛生産とし,機能単位は枝肉1 kgと定義した.比較の対象として,慣行黒毛和種牛生産についても同様の解析を行った.このとき,慣行生産もY牧場と同地点で行われるものと仮定した.

システム境界は,飼料の生産(加工を含む)・輸送,家畜管理,消化管活動,排泄物およびその処理(堆肥化)を含むものと定義した.一方,E社製造のエコフィードの原料である食品製造副産物や余剰食品は,飼料として活用される以前には産業廃棄物として処理されていた.そこで本研究では,これらの廃棄物処理に係っていた環境負荷が,エコフィードとしての活用により,エコフィード牛生産システムにおいてオフセットされるものと考えた.

2.エコフィードの製造

E社は,繁殖雌牛および肥育牛のそれぞれに向けた配合を施したエコフィードを製造している(堤ら 2025).同社のエコフィード製造工場は和歌山県紀の川市に所在し,エコフィードの原料集積および製造を行っている.エコフィードの原料のほとんどが和歌山県内で発生しており,その他も和歌山県に近い大阪府南部から調達されている.

繁殖雌牛用エコフィードの原料は,原物での配合割合が多い順に豆腐粕サイレージ,麦茶粕サイレージ,ミカンジュース粕サイレージ,ウメ種子,大豆皮およびチョコレートであった.この他にビタミン剤および炭酸カルシウムがごく少量添加されていた.肥育用エコフィードの原料は同様に,緑茶粕サイレージ,大豆皮,大麦(ビール工場においてビール製造に適さないと判断されたもの),乾燥麦茶粕サイレージ,醤油粕,豆腐粕サイレージ,ミカンジュース粕サイレージ,くず大豆およびチョコレートであった.肥育用エコフィードには,ビタミン剤と炭酸カルシウムの他に,飼料用ライストリエノール・脱脂米糠混合飼料(以降,ライストリエノール;築野食品工業株式会社,和歌山)が少量添加されていた.なお,配合の詳細は非公表である.

エコフィードの製造には,くず大豆およびウメ種子の破砕,麦茶粕サイレージおよびウメ種子の乾燥,原料の撹拌・混合の工程が含まれていた.なお,乾燥処理はすべて天日により行われていた.エコフィード原料の食品製造副産物や余剰食品のうち,飼料への活用以前には,原料の1%程度(原物重量ベース)を占めるチョコレートのみが焼却処分されており,その他は埋め立て処分されていた.

3.エコフィード牛生産システム

エコフィード牛生産システムにおける飼養管理,繁殖成績,増体成績および枝肉歩留まりに関するデータは,2018~2023年の実績に基づく.エコフィード牛生産システムでは,すべての家畜が畜舎で管理されていた.また,排泄物の堆肥化処理は堆積発酵により行われていた.

繁殖雌牛への給与飼料は輸入イタリアンライグラス乾草と繁殖雌牛用エコフィードであり,分娩前後のみ少量の市販配合飼料(育成牛用)が追加された(Table 1).初産日齢は747であり,慣行生産(770;全国和牛登録協会 2023)と比較してやや早期であった(Table 2).分娩間隔は406日であり,慣行生産と同値であった.子牛および育成牛への給与飼料は輸入乾草(チモシーおよびイタリアンライグラス)と市販配合飼料であり,エコフィードは無給与であった.子牛の離乳時期は3か月齢で,慣行生産と同様であった.哺乳量は農研機構(2023)に基づいて推定した.

肥育牛への給与飼料は輸入イタリアンライグラス乾草,市販配合飼料および肥育牛用エコフィードであった(Table 1).肥育期間中の全濃厚飼料給与量に対するエコフィードの給与割合は64%(可消化養分総量ベース),全飼料に対する割合は54%であった.出荷月齢は27.2であり,慣行生産(29.6 ;家畜改良センター改良部情報分析課 2022)と比較して2か月以上早期であった(Table 2).このため,出荷枝肉重量は479 kgであり,慣行生産(513 kg)を下回るが,増体成績は慣行並みと考えられる.

Table 1.Feed composition per marketed steer in Eco-feed beef and conventional beef production systems (kg)


1) Feed upcycled from food processing by-products and food leftovers.

Table 2.Overview of beef production of Eco-feed beef compared with the conventional system


4.慣行肉用牛生産システム

黒毛和種牛を対象とした慣行肉用牛生産システムに関する環境影響評価は,既にOgino et al.(20042007a)によって実施されている.しかしながら,それ以降,黒毛和種牛の改良が急速に進んでおり,特に牛体の大型化が顕著である.そこで,本研究ではOgino et al.(20042007a)の肉用牛生産システムに関するモデルを,最近のデータ(家畜改良センター改良部情報分析課 2022農研機構  2023全国和牛登録協会 2023)に基づいて更新した.Ogino et al.(20042007a)のモデルでは,給与する粗飼料の自給および輸入の比率が粗飼料自給率に従うように設定されている.一方,和歌山県は飼料基盤が脆弱であり,自給飼料の調達が難しい.本研究では,和歌山県における慣行肉用牛生産を想定し,稲ワラを除くすべての飼料を輸入でまかなうものとした.また,排泄物の堆肥化処理については,堆積発酵を想定した.

慣行肉用牛生産システムにおいても,すべての家畜が畜舎で管理されることを想定した.給与飼料は,輸入乾草(チモシーおよびイタリアンライグラス),稲ワラおよび市販配合飼料である(Table 1).繁殖成績および肥育成績については前節に記したとおりである(Table 2).哺乳量はエコフィード牛生産システムと同様に推定を行った.

5.インベントリ分析

インベントリ分析にはLCA解析ソフトウェアMiLCA ver. 3.1.1.0 (LCAエキスパートセンター,東京)およびデータベースIDEA ver. 3.1(産業技術総合研究所安全科学研究部門IDEAラボ,つくば)を用いた.

解析の対象は二酸化炭素(CO2),メタン(CH4),一酸化二窒素(N2O),アンモニア(NH3),窒素酸化物(NOx),二酸化硫黄(SO2),硫黄酸化物(SOx)の各排出量に加えエネルギー消費量とした.

前述の通り,エコフィード原料の食品製造副産物や余剰食品は飼料化以前には廃棄物として処理されていた.そのため,多くの既存研究(Siddique et al. 2024)にならい,これらの製造や発生地(食品工場など)までの輸送に係る環境負荷は考慮しないこととした.ただし,エコフィードの製造,あるいはエコフィード原料の発生地からエコフィード製造工場まで,さらにそこからY牧場までの輸送については環境負荷が生じるものと見なしたが,一部原料の破砕処理は極めて短時間で行われるため,考慮しないこととした.また一部原料の乾燥処理は天日により行われており,環境負荷が生じないものとした.エコフィードの撹拌については,実績に基づき0.893 Wh/kgの電力が消費されるものとした.ライストリエノールは米ヌカから米油を製造する際の副産物を原料としているため,他の食品製造副産物と同様,製造に環境負荷が生じないものと見なした.ビタミン剤については,極めて少量であるため,環境負荷を考慮しなかった.

稲ワラは牧場の近隣で生産され,それ以外の飼料作物はすべて米国で生産されるものとし,その際に消費される資源については既報(Pimentel 1980農業環境技術研究所 2003小林,柚山 2006味の素株式会社 2009Pelletier et al. 2010Pradhan et al. 2011Kim et al. 2014)を参照した.なお,市販配合飼料の原料組成についてはOginoら(20042007a)に従った.飼料生産にともなう土壌からの環境負荷物質の排出量は文献(Bouwman et al. 2002IPCC 2006Hayashi et al. 2008温室効果ガスインベントリオフィス  2024)に基づいて推定した(Table 3).

消化管活動によるメタン排出量は,25週齢までの子牛については週齢(関根ら 1986)を,それ以外の家畜については乾物摂取量(Shibata et al. 1993)を用いて推定した(Table 4).家畜による有機物および窒素の排出量はそれぞれIPCC(2006)および寺田ら(1998)に基づいて推定した(Table 4).なお,その際に必要となる飼料成分に関するデータについて,エコフィード牛生産システムでは分析値(堤ら 2025)を,慣行生産では文献値(農研機構 2010)を用いた.さらにこの推定結果を用いて,排泄物およびその堆肥化処理にともなうCH4温室効果ガスインベントリオフィス 2024),NH3Groot Koerkamp et al. 1998Bouwman et al. 2002)およびN2O(温室効果ガスインベントリオフィス 2024)の排出量を算定した(Table 4).飼料給与や畜舎の管理に係る環境負荷については,農林水産技術情報協会(2001)を参照した.

Table 3.Environmental loads associated with direct emissions from soil in feed production, and output coefficients


1) The units, % NH3-N and % N2O-N, indicate the proportion of N emitted as NH3 and N2O, respectively, relative to the applied amount of N.

Table 4.Environmental loads associated with enteric emission, excreta and composting, and output coefficients or estimation equations


1 W: weeks of age.

2 DMI: dry matter intake per day (kg).

3 VS: volatile solid (kg) estimated according to IPCC (2006).

4 Amount of excreted nitrogen was estimated according to Terada et al. (1998).

5 The units, % NH3-N and % N2O-N, indicate the proportion of nitrogen emitted as NH3 and N2O, respectively, compared with the nitrogen contained in excreta.

6.副産物飼料における環境負荷の配分

稲ワラおよび市販配合飼料に含まれる副産物の製造に係る環境負荷については,主産物との経済的配分を次の仮定の下に実施した:(1)玄米と稲ワラの収量はそれぞれ600 kg/haおよび750 kg/ha,玄米と稲ワラの価格比は25:2;(2)小麦1000 kgから780 kgの小麦粉と220 kgのフスマが生産され,価格比は小麦粉とフスマで795:205;(3)大豆1000 kgから205 kgの大豆油と795 kgの大豆粕が生産され,価格比は大豆油と大豆粕で695:305;(4)トウモロコシ1000 kgから646 kgのコーンスターチ,76 kgのコーングルテンミール,200 kgのコーングルテンフィード,78 kgのコーンジャームが生産され,それぞれの価格比はスターチ,グルテンミール,グルテンフィード,ジャームで209:380:91:320.

7.飼料輸送

以下の解析において,米国内でのトラック輸送には20 tトラックが使用されることを想定した.また,日本国内の輸送にはすべて10 tトラックが使用されるものとした.

米国産飼料の輸送に係る環境負荷を,以下の仮定に基づいて計算した.乾草(イタリアンライグラス,チモシーおよびアルファルファ),トウモロコシ,コーングルテンフィードおよび大豆粕は,トラック(50 km)および内航船(1385 km)でニューオーリンズ港まで輸送される(農林水産バイオリサイクル研究「システム化サブチーム」 2006).小麦フスマおよび大麦は,トラック(50 km)と鉄道(2765 km)でポートランド港に輸送される(農林水産バイオリサイクル研究「システム化サブチーム」 2006).ニューオーリンズ港およびポートランド港から神戸港までの海上輸送は,乾草についてはコンテナ船(>4000 TEU),その他についてはバルク運搬船(<80 000 DWT)で行われ,それぞれの距離は17 577 kmおよび9719 kmである(海上保安庁  2011).日本国内の輸送距離は120 kmである.

エコフィードの原料である食品製造副産物や余剰食品はエコフィード製造工場に集積される.それらの発生地とエコフィード製造工場の平均輸送距離は,繁殖雌牛用エコフィードおよび肥育牛用エコフィードの原料それぞれで11.4 kmおよび10.0 kmであった.また,ライストリエノールおよび炭酸カルシウムのエコフィード製造工場までの輸送距離は20 kmおよび210 kmとした.エコフィードは製造工場での加工を経て,Y牧場まで輸送されるが,このときの輸送距離は45 kmであった.

8.廃棄物処理の回避

以前には産業廃棄物として処理されていた食品製造副産物や余剰食品を飼料として活用することにより,廃棄物処理に係る環境負荷が低減される.エコフィード牛生産では,肥育牛1頭の生産につき,埋め立て処理が回避された量は6797 kg(乾物率43.4%)であり,焼却処理が回避された量は63 kgであった.この処理に係っていた環境負荷を算定し,飼料としての活用による環境負荷低減効果を評価した.環境負荷の算定ではIDEAに収録されている「埋立処理サービス,産業廃棄物,動植物性残渣」および「焼却処理サービス,産業廃棄物,動植物性残渣」のデータを参照した.ただし,埋め立て処理時に廃棄物から直接排出されるCH4は排出係数0.145 kg CH4/kg DMを用いて推定した(温室効果ガスインベントリオフィス  2024).さらに,食品製造副産物および余剰食品の発生地から産業廃棄物処理場までの輸送に係る環境負荷を考慮した.輸送距離は焼却処理では87 km,埋め立て処理では122 kmであった.輸送には10 tトラックの使用を想定した.

埋め立て処理ではCH4が大量に排出されるが,その推定に用いる排出係数は大きな不確実性をともなう(温室効果ガスインベントリオフィス 2024).そこで,埋め立て処理におけるCH4排出量について,排出係数に関する感度分析を実施した.不確実性は温室効果ガスインベントリオフィス(2024)に従い,±47%を見込んだ.また,埋め立て処理と焼却処理では生じる環境負荷が大きく異なる.本研究の解析対象では,埋め立て処理がほとんどを占め,焼却処理はわずかであった.このことが解析結果に及ぼす影響を明らかにするため,エコフィード原料であるすべての食品製造副産物や余剰食品が焼却処理されていたと仮定する場合の解析も実施した.

9.インパクト評価

インパクト評価の対象は,気候変動,酸性化,富栄養化およびエネルギー消費量とした.気候変動へのインパクトの指標としてGHG排出量(GWP100年指数)を,次の比率に従って算定した;CO2:1,CH4(生物由来):27,CH4(非生物由来):29.8,およびN2O:273(IPCC 2021).同様に,酸性化ポテンシャル(AP)の算定では,SO2およびSOx:1.00,NH3:1.88,NOx:0.70,富栄養化ポテンシャル(EP)では,NH3:0.35,NOx:0.03に従って計算を行った(Heijungs et al. 1992).

結果

1.気候変動

エコフィード牛生産システムにおける飼料生産および飼料輸送で生じるGHG排出量は,慣行生産の値をそれぞれ27%および14%下回っていた(Table 5).消化管活動のプロセスでは,エコフィード牛生産が慣行生産を5%上回った.エコフィード牛生産における廃棄物処理回避によるGHG排出量の低減効果は24.5 kg CO2eと推定された.この値はエコフィード牛生産における他のプロセスの値の合計の88%に相当し,これがオフセットされることにより,エコフィード牛生産に係るGHG排出量は3.3 kg CO2eと推定され,慣行生産の値を89%下回った.一方,廃棄物処理回避を考慮しない場合においても,エコフィード牛生産の値は慣行生産を7%下回った.

Table 5.Greenhouse gas emissions caused by the beef production of Eco-feed beef and the conventional system, and the contribution of each process and substance (kg CO2e per 1 kg of cold carcass weight of steers)


2.酸性化および富栄養化

エコフィード牛生産システムにおける飼料生産および飼料輸送にともなう酸性化ポテンシャルは,慣行生産の値をそれぞれ17%および12%下回っていた(Table 6).排泄物と堆肥化のプロセスでは,エコフィード牛生産が慣行生産を9%上回っていた.廃棄物処理回避による酸性化ポテンシャルの低減効果は1.7 g SO2eと推定された.エコフィード牛生産に係る酸性化ポテンシャルは278.8 kg SO2eと推定され,慣行生産の値を9%下回った.

飼料生産および飼料輸送にともなう富栄養化ポテンシャルは,エコフィード牛生産が慣行生産をそれぞれ15%および12%下回った(Table 7).排泄物と堆肥化のプロセスでは,エコフィード牛生産が慣行生産を9%上回っていた.廃棄物処理回避による富栄養化ポテンシャルの低減効果は0.05 g PO4eと推定された.エコフィード牛生産に係る富栄養化ポテンシャルは27.56 kg SO2eと推定され,慣行生産の値を3%下回った.

Table 6.Acidification potential caused by the beef production of Eco-feed beef and the conventional system, and the contribution of each process and substance (g SO2e per 1 kg of cold carcass weight of steers)


Table 7.Eutrophication potential caused by the beef production of Eco-feed beef and the conventional system, and the contribution of each process and substance (g PO4e per 1 kg of cold carcass weight of steers)


3.エネルギー消費量

エコフィード牛生産の飼料生産および飼料輸送にともなうエネルギー消費量は,慣行生産をそれぞれ26%および16%下回った(Table 8).廃棄物処理回避によるエネルギー消費量の低減効果は8.7 MJと推定され,このうち50%は廃棄物処理場までの輸送にともなうものであった.エコフィード牛生産によるエネルギー消費量は131.5 MJと推定され,慣行生産の値を26%下回った.

Table 8.Energy consumption caused by the beef production of Eco-feed beef and the conventional system, and the contribution of each process (MJ per 1 kg of cold carcass weight of steers)


4.感度分析

埋め立て処理における廃棄物に直接由来するCH4排出量推定では,排出係数として0.145 kg CH4/kg DMを用いた.これに基づく廃棄物からのCH4発生に係るGHG排出量は24.1 kg CO2eと推定された.上記排出係数に−47%あるいは+47%の不確実性を見込むと,埋め立て処理での廃棄物からのCH4発生に係るGHG排出量は12.8~35.4 kg CO2eの範囲にあると推定された.このときの最小値である12.8 kg CO2eはエコフィード牛生産における他のプロセスの値の合計の46%に相当する値であった.

エコフィード原料であるすべての食品製造副産物や余剰食品が焼却処理されていたと仮定した場合,これに係るGHG排出量は3.5 kg CO2eと推定され,埋め立て処理がほとんどを占めた本研究の対象であるエコフィード牛生産システムの値24.5 kg CO2eを大幅に下回った.一方,このときの酸性化ポテンシャル,富栄養化ポテンシャルおよびエネルギー消費量は,それぞれ29.7 g SO2e,0.67 g PO4eおよび50.1 MJであり,いずれもエコフィード牛生産システムでの値を大幅に上回った.

考察

エコフィード牛生産システムではエコフィードの活用により,飼料生産に係る環境負荷が各評価項目で15~27%,慣行生産との比較において低減されていた.これは,エコフィードを活用することで市販配合飼料の給与量が減少し,その生産で生じていた環境負荷が低減されたためであった.一方,Ogino et al.(2007b)は,食品廃棄物からの液体飼料あるいは乾燥飼料の製造に関する環境影響評価を実施している.その際に,食品廃棄物を焼却すると同時に飼料を輸入する場合も比較対象とした.その結果,液体飼料の製造による環境負荷が最小となる一方で,乾燥飼料の製造は燃料消費が多く,飼料を輸入する場合を上回って環境負荷が最大となることが示された.この例の通り,投入資源が過大である場合には,未利用資源の飼料としての活用が必ずしも環境負荷の削減につながるとは限らない.エコフィード牛生産では,原料の天日による乾燥やサイレージ化が実施されており,燃料消費をともなう乾燥や液化処理などは行われていない.エコフィードの製造に係る環境負荷が飼料生産全体に占める割合はエネルギー消費量で0.2%,GHG排出量で0.1%,酸性化および富栄養化ポテンシャルでは0.1%未満であった.このように,エコフィード製造における投入資源の抑制もまた,飼料生産のプロセスにおける環境負荷低減につながっていた.

エコフィード牛生産システムでは飼料輸送に係る環境負荷が,各評価項目で12~16%,慣行生産との比較において低減されていた.これは,エコフィード活用による輸入飼料の給与量削減に起因する.一方,エコフィード製造工場は,輸送コスト削減を意図して,食品製造工場が集中する地域に立地している.エコフィード原料の平均輸送距離は10 km余りと短距離であり,このような「地の利」も飼料輸送に係る環境負荷低減に寄与していた.

エコフィード牛生産におけるエコフィードの活用による廃棄物処理の回避が,GHG排出量において極めて大きな環境負荷低減効果をもつことが明らかとなった.先進国における食品廃棄物の処理方法としては,埋め立て処理が一般的とされる(Reynolds et al. 2014Willersinn et al. 2015Vitale et al. 2018).エコフィード牛生産で給与されるエコフィードの原料は,エコフィードとしての活用以前にはほとんどが埋め立て処理されていた.埋め立て処理と焼却処理に係る環境負荷をIDEAのデータを用いて比較すると,エネルギー消費量については焼却処理(3.20 MJ/kg)が埋め立て処理(0.14 MJ/kg)の23.5倍である一方,GHG排出量は埋め立て処理(2.13 kg CO2e/kg)が焼却処理(0.22 kg CO2e/kg)の約10倍となる.したがって,結果でも示したように,エコフィード原料の元の処分方法によって解析結果が大きく異なることに注意が必要である.今回対象としたエコフィード牛生産では,埋め立てに係る環境負荷の低減が廃棄物処理の回避によるGHG排出量の大幅な削減に大きく寄与していた.埋め立て処理に係るCH4排出量の推定には大きな不確実性が存在するものの,その値を最も小さく見積もった場合においても,エコフィード牛生産に係るGHG排出量は14.6 kg CO2eと推定され,慣行肉用牛生産で発生するGHG排出量の少なくとも半量近くがオフセットされることが示された.

近畿地方南部は飼料基盤が極めて脆弱であり,和歌山県の牧草作付面積および収穫量は都道府県別でともに46位である(農林水産省 2024).そのため,和歌山県では自給飼料の調達が困難であり,エコフィード牛生産システムにおいてもエコフィードを除く飼料のすべてを輸入に依存している.一方,和歌山県はイタリアンライグラスの栽培適地である(農林水産省農林水産技術会議事務局 2004有田ら 2008).したがって,エコフィード牛生産において給与されているイタリアンライグラスを遊休農地や水田裏作を活用して栽培し,自給することは技術的に可能と考えられる.イタリアンライグラス乾草の輸送がエコフィード牛生産の飼料輸送の環境負荷に占める割合は,各評価項目で48~73%であるが,自給飼料への転換によりそのほとんどを削減することが可能となる.

エコフィード牛生産システムでは,乾物摂取量が慣行生産と比較して多く,その結果,消化管活動でのCH4に由来するGHG排出量が慣行生産を上回った.また,窒素の摂取量も多く,それにともなって窒素排泄量が多くなり,それに由来するNH3排出量の増加によって,排泄物と堆肥化のプロセスにおける酸性化ポテンシャルおよび富栄養化ポテンシャルが慣行生産を上回った.これらの原因として,エコフィードの嗜好性が良く,摂取量は多くなるものの,飼料効率の面では市販の飼料を下回ることが考えられる.したがって,エコフィードの飼料効率の改善もまた,さらなる環境負荷低減につながるものと考えられる.この他のエコフィード牛生産に係る環境負荷を低減する方策として,エコフィードの給与対象の拡大,および給与量の増加が考えられる.すなわち,現状ではエコフィードの給与が実施されていない子牛・育成牛への対象拡大,肥育牛へのエコフィード給与量増加である.エコフィードは限られた原料を配合して製造されており,この策を実行することは容易でないと考えられるが,今後の技術開発に期待したい.

謝辞

本研究の実施に当たり,E社の皆様には多大なるご尽力を賜りました.心より感謝申し上げます.本研究は農畜産業振興機構令和5年度畜産関係学術研究委託調査によるものです.

利益相反の有無

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
The author retains the copyright of their paper and grants permission to the National Agriculture and Food Research Organization (NARO) to publish the paper in the Journal of the NARO Research and Development.

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