Journal of the NARO Research and Development
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Original Paper
New Japanese plum cultivar ‘Honey Beat’
Hideaki YAEGAKI Yuko SUESADAMasami YAMAGUCHIYutaka SAWAMURATakashi HAJIEisuke ADACHITakayoshi YAMANEKatsuyuki SUZUKIMakoto UCHIDA
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RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 2025 Issue 23 Pages 61-

Details
要旨

「ハニービート」は農研機構果樹研究所において,2001年にPP-26-6に「太陽」を交雑して得られた実生から選抜された.2009年より系統名スモモ筑波6号としてスモモ第2回系統適応性検定試験に供試し,全国10か所の公立試験研究機関で試作栽培を行い,その特性を検討した.2025年3月12日に登録番号30868号として種苗法に基づき品種登録された.樹勢はやや強く,短果枝および花芽の着生は中程度である.開花期は,育成地では3月30日頃で,「大石早生すもも」および「ソルダム」と同時期である.収穫期は育成地では7月12日頃で,「大石早生すもも」より22日程度遅く,「ソルダム」より11日程度早い.果形は円形であるが,一部の果実は果頂がやや尖る.果実重は128 g程度で,「ソルダム」と同程度である.果皮色は赤紫色で,果肉色は黄色である.裂果の発生は基本的に少ないが,場所や年次により認められる.果汁の糖度は15.5%,酸度はpH 4.4前後で,酸味が弱く食味は良好である.

Summary

‘Honey Beat’ is a new Japanese plum (Prunus salicina Lindl.) cultivar released in 2025 by the Institute of Fruit Tree and Tea Science, National Agriculture and Food Research Organization in Japan. ‘Honey Beat’ was selected from seedlings obtained from a cross between PP-26-6 and ‘Taiyo’. ‘Honey Beat’ was originally designated as Plum Tsukuba 6 and was evaluated in the 2nd national trial of plums at 10 experimental stations in Japan beginning in 2009. The cultivar was ultimately selected, named ‘Honey beat’, and registered as No. 30868 under the Plant Variety Protection and Seed Act of Japan on March 12, 2025. Tree vigor is semi vigorous. The tree bears medium spurs and medium flower buds. Flowering and harvest time at Tsukuba were approximately March 30 and July 12, respectively. Fruit shape is circular, but some fruits have slightly pointed apex. Fruit weight is about 128 g, which is about the same as ‘Soldum’. The pericarp color is reddish purple, and the flesh color is yellow. The occurrence of fruit cracking is basically rare, but it is observed depending on the place and year. The flesh juice had a soluble solids concentration of 15.5% and an acidity of around pH 4.4. The taste is good.

緒言

ニホンスモモは早生種の「大石早生すもも」と中生種の「ソルダム」が二大品種であり,2002年の栽培面積はそれぞれ951 haおよび748 haであった(農林水産省生産局果樹花き課 2004).これはニホンスモモ全体の栽培面積の半分以上を占めていた.しかし,両品種とも酸味が強いことから甘味をより好む現在の消費者嗜好には合わないため,2022年ではそれぞれ466 haおよび246 haと,ニホンスモモ全体の栽培面積の減少率(16.7%)よりも大きく減少している(農林水産省生産局 2025).この2品種に代わり,酸味が弱く果実が100 g以上と大きい 「貴陽」,「秋姫」,「サマーエンジェル」などの品種が増えているが,いずれも中生以降の品種である.ニホンスモモの消費拡大を図るためには,これらよりも早い時期に収穫できる酸味の弱い品種が必要である.

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門(以下,果樹茶業研究部門と略)ではこれまでに酸味の弱い「ハニーローザ」(山口ら 1998)および「ハニーハート」(山口ら 1999)を育成しているが,果実がそれぞれ50 g程度および85 g程度とやや小さいことなどから広くは普及していなかった.その後も育種研究を継続した結果,酸味が弱く既存品種よりも早く収穫可能で,果実が大きく良食味の新品種「ハニービート」を育成したので,その育成経過と特性を報告する.

育成経過

2001年に農研機構果樹研究所(現 果樹茶業研究部門)においてPP-26-6に「太陽」を交雑し,得られた種子を同年秋に播種した.なお,PP-26-6は「ソルダム」×「オザークプレミア」から得られた選抜実生である(図1).発芽した実生を苗圃で1年間養成を行った後,2003年2月に個体番号PP-71-6を付して定植,2008年に一次選抜した.2009年よりスモモ筑波6号の系統名を付してスモモ第2回系統適応性検定試験に供試し,果実品質,栽培特性等について検討した.その結果,2017年2月の平成28年度果樹系統適応性検定試験成績検討会(落葉果樹)において新品種候補として適当であるとの結論を得た.2017年5月31日に「ハニービート」と命名し種苗法による品種登録出願を行い,2025年3月12日に登録番号30868号として品種登録された.

本品種の系統適応性検定試験を実施した公立試験研究機関は以下の10場所である.

山形県農業総合研究センター園芸試験場,群馬県農業技術センター,埼玉県農業総合研究センター園芸研究所,山梨県果樹試験場,長野県果樹試験場,石川県農業総合研究センター園芸研究所農業試験場,福井県園芸試験場,和歌山県果樹試験場かき・もも研究所,高知県農業技術センター果樹試験場および農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門(すべて2017年3月現在における名称).なお,埼玉県は2011年度に,高知県は2014年度に試験を中止した.

果樹茶業研究部門における育成担当者と担当期間は以下のとおりである.

山口正己(2001年1月~2009年3月),土師 岳(2001年1月~2005年10月),八重垣英明(2001年1月~2008年3月,2011年4月~2017年3月),末貞佑子(2004年8月~2017年3月),安達栄介(2008年4月~2011年3月),山根崇嘉(2009年4月~2012年3月),澤村 豊(2012年4月~2017年3月),鈴木勝征(2001年1月~2004年3月),内田 誠(2004年4月~2006年3月).

図1. 「ハニービート」の系統図

特性の概要

1.育成地における特性

育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法に従い, 2014~2016年の3年間果樹茶業研究部門において,「大石早生すもも」と「ソルダム」を対照品種として「ハニービート」の樹体特性と果実形質の調査を行った.供試樹はいずれもス台(ミロバランスモモ)に接ぎ木し,「ハニービート」は2014年に6年生の2樹を,「大石早生すもも」は7年生の1樹を,「ソルダム」は12年生の2樹を用いた.

調査の結果を表1および表2に示した. 調査を行った形質のうち,年次により成績が変動した離散的尺度の形質は,「多~中」のように,~で結び,「中」と「高」の間の特性値は「やや高」のように表現した.数値化された形質については,品種と年を要因とする二元配置分散分析を行い,F検定において有意水準5%で平均値が異なると判定された形質のみ,最小有意差法により平均値間の差の有無について検定を行った.月日で表示された形質については,1月1日からの日数により数値化して同様に解析した.

表1.「ハニービート」,「大石早生すもも」および「ソルダム」の樹の特性

(農研機構果樹茶業研究部門 2014 ~ 2016 年の平均)


z 5 つの階級に分類:直立;やや直立;中間;やや開張;開張.

y 5 つの階級に分類:強;やや強;中;やや弱;弱.

x 5 つの階級に分類:少;やや少;中;やや多;多.

w 80%の花が開花した時の日付.

v 4 つの階級に分類:無;少;中;多.

u 収穫果が半数を越した時の日付.

t 異なる文字間には有意差あり.

s NS, ** :それぞれ下記の分散分析により,P ≦ 0.05 レベルで有意差なし,P ≦ 0.01 レベルで有意差あり.

Xij = μ + Gi + Yj + Eij

Xiji 番目の品種のj 番目の年次の測定値;μ:総平均値;Gii 番目の品種の効果;Yjj 番目の年次の効果;Eij:反復誤差.

表2.「ハニービート」,「大石早生すもも」 および「 ソルダム」の果実の特性

(農研機構果樹茶業研究部門 2014 ~ 2016 年の平均)


z 6 つの階級に分類:扁円;円;短楕円;楕円;卵円;紡錘.

y 5 つの階級に分類:不良;やや不良;中;やや良;良.

x 5 つの階級に分類:無;微;少;中;多.

w 2 つの階級に分類:無;有.

v 異なる文字間には有意差あり.

u NS, **:それぞれ下記の分散分析により,P ≦ 0.05 レベルで有意差なし,P ≦ 0.01 レベルで有意差あり.

Xij = μ + Gi + Yj + Eij

Xiji 番目の品種のj 番目の年次の測定値;μ:総平均値;Gii 番目の品種の効果;Yjj 番目の年次の効果;Eij:反復誤差.

1)樹性

樹姿は「直立」と「開張」の「中間」で,樹勢は「やや強」である(図2).短果枝および花芽の着生はいずれも「中」である.

開花盛期は育成地(茨城県つくば市)で3月30日であり,「大石早生すもも」および「ソルダム」と同時期で,花粉は多い.

Beppu et al.(2003)のPCR法により「ハニービート」のS遺伝子型を判定したところS cS fとなった(データ省略).同じS遺伝子型である「サマークイーン」とは交雑不和合性を示し,S bS cS fである「貴陽」の受粉樹には使用できないと考えられる.しかし,その他の主要品種とはS遺伝子型が異なるため交雑和合性を示す.

収穫盛期は育成地で7月12日であり,「大石早生すもも」より22日遅いが,「ソルダム」より11日早い.酸味の弱い既存品種である「サマーエンジェル」および「貴陽」の2014~2016年の収穫盛期はそれぞれ7月21日と7月24日であった.「ハニービート」は酸味の弱い品種では収穫期が早いと言える.

図2.「ハニービート」の樹姿

2)果実特性

果形は「円」であるが,やや果頂が尖る果実が混じる(図3).果実の大きさと形の揃い(玉揃い)は「良~中」である.

果皮色は紅紫で,果梗部を中心に「貴陽」でも見られる輪紋状の模様が発生しやすい.裂果の発生は「無~中」である.

果実重は128 gと「ソルダム」と同程度で,「大石早生すもも」より大きい.果肉の色は「黄」である.

糖度は15.5%,酸度はpHで4.4程度である.糖度は「大石早生すもも」および「ソルダム」と有意な差はないが,酸度は両品種より有意に低く食味良好である.

図3.「ハニービート」の果実

2.系統適応性検定試験における特性

2009年からスモモ第2回系統適応性検定試験に供試し,育成地の果樹茶業研究部門を含め「ソルダム」を対照品種として育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法により特性を調査した.「ハニービート」の2014~2016年の各場所の成績を表3および表4に示した.表5には数値化された形質について,3年間のデータが揃っている群馬県,山梨県,長野県,和歌山県の4場所のデータを用いて品種と場所を要因とする二元配置分散分析を行った.月日で表示された形質については,1月1日からの日数により数値化して同様に解析した.

表3.系統適応性検定試験における「ハニービート」の樹の特性(2014 ~ 2016 年の平均)z


z 評価方法は表1参照.

y 樹齢は2016 年次.‘高’は高接ぎ.

表4.系統適応性検定試験における「ハニービート」の果実の特性(2014 ~ 2016 年の平均)z


z 評価方法は表2参照.

表5.系統適応性検定試験における「ハニービート」と「ソルダム」の成績の比較(2014 ~ 2016 年の平均)


s NS,*,** :それぞれ下記の分散分析により,P ≦ 0.05 レベルで有意差なし,P ≦ 0.05 レベルで有意差なあり,P ≦ 0.01 レベルで有意差あり.

Xjk = μ + Gj + Yk + Ijk + Ejk

Xjkj 番目の品種のk 番目の場所の測定値;μ:総平均値;Gjj 番目の品種の効果;Ykk 番目の場所の効果;Ijk:品種と場所の交互作用;Ejk:反復誤差.

1)樹性

樹姿は,高接ぎで試験を実施したため評価しなかった和歌山県を除き,全場所が「直立」と「開張」の「中間」と判定した.樹勢は,「強」から「中」まで評価が分かれたが,「強」が4場所と最も多かった.短果枝および花芽の着生は,いずれも「中」の判定が最も多かった.

開花盛期の場所別平均は,和歌山県で3月23日と最も早く,山形県が4月19日と最も遅かった.また,2016年時の樹齢が8年生で,かつ「ソルダム」と樹齢が同じであり,3年間のデータが揃っている4場所の全体平均を比較すると本品種の開花盛期は4月1日となり,「ソルダム」と同時期であった(表5).

収穫盛期の場所別平均は和歌山県で6月30日と最も早く,群馬県が7月24日と最も遅かった.また, 樹齢および3年間のデータが揃っている4場所における本品種の収穫盛期の全体平均は7月14日となり,「ソルダム」と有意に異なりその差は6日であった.

2)果実特性

果形は,「円」と「短楕円」に評価が分かれたが,「円」の判定が6場所と多かった.玉揃いは,場所や年次により変動があるが全て「中」以上の判定であった.果皮色は,「紅」または「紅紫」の判定であった.裂果の発生は,場所や年次により「無」から「中」までの変動があった.

果実重の場所別平均は,石川県が68 gと最も小さく,農研機構が128 gと最も大きかった.樹齢および3年間のデータが揃っている4場所の果実重全体平均は93 gで,「ソルダム」と同じ値となった. 

果肉色は,「淡黄」から「橙黄」まで評価が分かれたが,「黄」の判定が5場所と最も多かった.

糖度の場所別平均は15.5%から19.4%までの変動があった.樹齢および3年間のデータが揃っている4場所の平均は16.9%で,「ソルダム」より1.3%高いが有意な差ではなかった.

酸度はいずれもpHで4.0以上であった.樹齢および3年間のデータが揃っている4場所の平均は4.3で,「ソルダム」と有意に異なりその差は0.5であった.しかし,酸度のみ品種間と場所間の交互作用が有意であった.

空洞果は、場所や年次により発生が認められた.

3.適応地域および栽培上の留意点

系統適応性検定試験において東北地方南部から近畿地方で栽培が可能であることは確認されたが,それ以外の地域での栽培適性については不明である.

灰星病,黒斑病などに罹病性であるため,通常の薬剤散布が必要である.黒斑病は主要品種の中では発生は少ない傾向にある.育成地では成熟期に短時間に大量の降雨があった2012年は裂果が多く発生した.同様に収穫期の裂果が発生しやすい「貴陽」で行われているように,笠かけを行うことで発生を少なくできると考えられる(図4新谷 2018).

図4.笠かけした「ハニービート」の果実
謝辞

本品種の育成に当たり,系統適応性検定試験を担当された関係公立試験研究機関の各位,ならびに多大のご協力を寄せられた歴代職員,研修生の各位に心から謝意を表する.

利益相反の有無

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
The author retains the copyright of their paper and grants permission to the National Agriculture and Food Research Organization (NARO) to publish the paper in the Journal of the NARO Research and Development.

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