2025 Volume 26 Pages 31-
本研究は 、 ⽇本における確定拠出年⾦制度と⾦融リテラシー (Financial Literacy) の関係を分析する 。 ⾦融リテラシーは⾦融知識・⾦融⾏動・⾦融態度の三要素か ら成り⽴つと広義に捉え 、 これらの要素が⾦融リテラシーに与える影響を検証し た 。 また 、 性別 、 年代 、 ⾦融資産 、 制度の違いに着⽬した 。 結果として 、 ⾦融リ テラシーを向上させるためには 、 単なる⾦融知識の習得だけでなく 、 ⾦融⾏動の 促進や⾦融態度の変容が重要であることが⽰された 。 特に 、 ⼥性や低⾦融資産層 の⾦融リテラシー向上には 、 より積極的な⽀援策が求められる 。
WEB Journal『年金研究』No. 26
確定拠出年金における属性別金融リテラシー
沼田 優子
明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 専任教授
【 記 事 情 報 】
掲載誌:年金研究 No.26 pp. 31-59 ISSN 2189-969X
オンライン掲載日:2025年5月20日
掲載ホームページ: https://www.nensoken.or.jp/publication/nenkinkenkyu/
論文受理日:2025年3月14日 論文採択日:2025年4月25日
DOI:https://doi.org/10.20739/nenkinkenkyu.26.0_31
要旨
本研究は、日本における確定拠出年金制度と金融リテラシー(Financial Literacy)の関係を分析する。金融リテラシーは金融知識・金融行動・金融態度の三要素から成り立つと広義に捉え、これらの要素が金融リテラシーに与える影響を検証した。また、性別、年代、金融資産、制度の違いに着目した。結果として、金融リテラシーを向上させるためには、単なる金融知識の習得だけでなく、金融行動の促進や金融態度の変容が重要であることが示された。特に、女性や低金融資産層の金融リテラシー向上には、より積極的な支援策が求められる。
近年、日本政府は「資産所得倍増プラン」のもと、家計の現預金を投資へと向かわせ、企業価値向上の成果を家計に還元することで、更なる投資や消費を促進し、「成長と分配の好循環」を実現することを目指している(内閣官房, 2024)。その具体的な施策として、NISA制度の抜本的拡充・恒久化や金融経済教育の充実などが進められてきた(金融庁, 2023)。こうした中、近年は「職域における金融教育」の重要性が強調されている。金融との関わりを、本人の意志に任せると無関心層が取りこぼされてしまうことから、職場で健康診断のように、一層の金融教育を提供する仕組みが模索されているのである。2024年3月15日に閣議決定された『国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針』にも、「学校教育や職域・地域における教育等を通じた金融リテラシーの向上」が必要であると明記された(金融庁, 2024)。
もっとも金融庁の調査によれば、金融経済教育は「行うべきだ」と回答した人が7割超と国民の金融教育ニーズは高いにも関わらず、現時点で自身が何らかの金融経済教育を「受けたことがある」と認識している人は7%に過ぎない(金融庁, 2022)。また、特に若年層で投資未経験者が多い要因として、「資産運用に関する知識がない」ことを挙げる人が約4割に上ることも報告されている(金融庁, 2022)。
このような課題を受け、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構は、2024年3月に「資産形成を社会実装するための長期研究チーム」を発足させた(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構, 2024a)。このチームの設立目的は、資産形成に関する調査の実施や実践的な課題に関する研究・報告を継続的に行い、その成果を社会に発信・還元することで、国民の長期的な資産形成に向けた行動変容を促し、社会実装を目指すことにある。具体的な活動として、職域における資産形成や金融経済教育の実態を把握するための調査を実施し、その結果を2024年11月に公表した(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構, 2024b)。
しかしこの調査結果においても、金融知識や金融教育が必ずしも実践に結びついていない現状が浮き彫りになった。例えば、「投資を理解し、かつ自分で判断等を行っている者」は22%に過ぎず、「投資を理解していてもあまり投資行動をとらない者」が26%、「投資についてそれほど理解していなかったり、投資を行っていなかったりする者」が50%にも及ぶ。
これらの結果を踏まえ、資産形成の社会実装に焦点をあててきた本研究チームは、金融教育が投資行動に結びついていない要因の一つとして、従来の金融知識の詰め込み型教育だけでは、資産形成の実装に結びついていない可能性があると考えた。一般に金融教育の第一歩はセミナー形式や冊子の配布が多いが、短時間で知識を詰め込んでも消化しきれず、その知識をどう活用したら良いのかわからなかったりするからである。
そこで、本研究では、金融知識を内包しつつも、より広い概念である金融リテラシーに着目した。また、職域における金融リテラシーを向上させるためには、個人の特性や状況に応じた金融教育の提供、すなわちパーソナライゼーションの必要性があると考えた。そのため、属性ごとに金融リテラシーにどのような差があるかを探索することとした。こうした議論を通じて、金融知識に偏重した金融教育の限界を克服する。そのためには、どのような施策が考えられるかを探究する一助となることを目指す。
Shi et al.(2025) のビブリオメトリクス分析(bibliometrics)によれば、研究者たちの関心が金融リテラシーに向いたのは比較的最近のことである。米国では1980年代、企業に運用を任せることができる確定給付年金(DB)から、自ら投資判断を行わなければならない企業型確定拠出年金 (DC)への移行が進んだ。これに伴い、個人の金融リテラシーの低さが露呈し、老後の資産形成に対する不安が高まった(Lusardi & Mitchell, 2007a)。
初期の研究は、貯蓄率の低さによる個人の経済的脆弱性を懸念し、職域における金融教育の効果を実証したBernheim & Garrett(1996)や、ワシントン州の金融リテラシー調査(Moore, 2003)などで、その数は限られた(Shi et al., 2025)。それが、2008年の世界金融危機時に個人が大きな損失を被ったことから、金融リテラシーなどを含む金融マネジメント(Financial Management)の重要性が再認識され、その後研究が急増した(Shi et al., 2025)。この経済的混乱が一般市民にとっての啓発のきっかけとなり、各国政府はより強固な金融教育や消費者保護策に重点を置くようになったのである。
Shi et al.(2025)によれば、個人の金融マネジメントの研究は、大きく4つのクラスターに分類される(表1)。この中で、金融リテラシーが中心的なキーワードの一つとなっていった。個人の資産形成や経済的意思決定に及ぼす影響が大きかったからである。Shi et al. (2025)によれば、金融リテラシー、金融能力 (Financial Capability)、金融行動 (Financial Behavior)の出版論文数は、2007年まではせいぜい年1~2本であったが、金融危機を契機に増え始め、2016年以降は年40本超、そして2022年は遂に100本を超えた。
【表1】 個人の金融マネジメントに関する研究の分類
クラスター名 | 研究内容 |
---|---|
概念的定義と理論的基盤 | 金融リテラシー、金融能力、金融行動等の理論的な定義や測定方法に関する研究 |
金融リテラシー、金融能力、金融行動の関係性 | 金融リテラシーが金融行動や金融能力とどのように結びつくかを探る研究 |
金融教育と金融行動の関係 | 金融教育が金融リテラシーや金融行動に与える影響を分析する研究 |
個人の金融マネジメント行動に影響を与える要因 | 心理的要因や経済状況などが金融行動に及ぼす影響に関する研究 |
出典:Shi et al.(2025)
金融リテラシーの測定方法に関するレビュー論文のOuachani et al.,(2021)によれば、金融リテラシーは多面的な概念であり、その測定には統一的な定義や指標が存在しない。研究者たちは、目的や対象に応じて、正答率など客観的指標や自己評価などの主観的指標を使い分けており、特に貯蓄、投資、借入、消費、リスク理解などの領域の測定が多い。
Moore (2003)は既に金融リテラシー調査において、金融知識(Financial Knowledge)にだけでなく、金融経験(Financial Experience)や金融態度(Financial Attitude)なども測定していた。しかしKadoya & Khan (2020) は、初期の研究の大半が金融リテラシーを金融知識とほぼ同義とされたと指摘している。金融リテラシーをより広い概念として捉える契機の一つとなったのは、実際の金融行動等と関連付ける必要性を強調した Lusardi & Mitchell(2007a) 等であった。
その後、経済協力開発機構(OECD)の金融教育に関する国際ネットワーク(INFE)が、金融知識、金融行動、金融態度からなる金融リテラシー尺度を国際比較のために開発し、14カ国(日本や米国は含まれていない)で予備的な研究を行った。その報告書であるAtkinson & Messy (2012)は、金融リテラシーを「金融に関する健全な意思決定を行い、究極的には金融面での個人の幸福(well-being)を達成するために必要な、金融に関する意識、知識、技術、態度および行動の総体」と定義した。この定義はその後「OECD/INFE金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」でも採用された(Organization for Economic Co-operation and Development, 2012)。こうして、Kadoya & Khan (2020)などの近年の研究では、金融リテラシーは単なる知識の尺度ではなく、実際の行動や態度と結びつけて評価するものとして位置づけられた。
このように金融リテラシーの測定方法は様々であるが、Atkinson & Messy (2012)の「金融リテラシー尺度」は国際比較調査に使われたこともあり、広く普及している。その内容を見ると、第一に金融知識を測る8つの基本的な設問の内容は、①分配、②現在価値、③貸付金利、④元利金計算、⑤複利、⑥リスクとリターン、⑦インフレーション、⑧分散投資と多岐にわたる。第二に金融行動の設問は、①どの程度、商品購入前に熟慮するか、②期日前に支払いをするか、③金融状況を細かく管理するか、四長期的な金融の目標を設定し、それを達成するために努力するかなど、望ましい行動を取っているかを問う。最後に金融態度は、①長期的視野にたってお金を貯蓄するよりもお金を使う方が満足度は高い、②私はその日暮らしをする傾向があり、明日は明日の風が吹くと考える、③お金は使うためにある、という問いにどの程度賛同するかを問う。つまり、より望ましい将来のために現在の行動を決めたり判断したりできるか、またそのような考え方を好意的に捉えているかを問う。いずれも、金融全般について幅広く問う内容で、投資固有の設問ではない。しかし投資を行う上では不可欠な要素となっている。なお、 Atkinson & Messy (2012) の予備研究はリスクに対する態度を問う「貯蓄や投資をする際に、自分のお金をリスクにさらす覚悟がある」という設問も加えたが、顕著な差が出なかったため、本研究でははずされた。
Atkinson & Messy (2012)はこれらの尺度を総合して金融リテラシーを評価している。ただし、3つの要素の重みは異なり、「おそらく最も重要である」のが金融行動で、それに続くのが金融知識であろうと考えた。そして3つの要素が満遍なく高かった低い個人は多くなく、通常は1つまたは2つの要素で突出することが多いと報告した。Atkinson & Messy (2012) によるリテラシーの構成要素は図1のように表すことができる。
【図1】 金融リテラシーの構成要素
出典:Atkinson & Messy(2012)
金融リテラシー研究の背景に確定拠出年金の普及があるとすれば、誰もが豊かな老後を迎えられるようにするためには、金融リテラシーの低い属性を特定し、何等かの施策を講じる必要があろう。そのため、金融リテラシーが低い属性に対する関心は高い。例えば連邦準備銀行の調査(Hogarth & Hilgert, 2002)は、独身、マイノリティ、若年層(~34歳)または高齢層(65歳~)、低学歴、低所得、という属性の個人の金融リテラシーが低いと指摘した。またLusardi & Mitchell (2011a)の50 歳以上を対象とした研究によれば、女性、マイノリティ、低学歴の属性の個人の金融リテラシーが低い。
Atkinson & Messy (2012)は、性別、年齢、学歴、就業状況及び所得別の分析を行った。その結果、金融リテラシーは女性、若年層(30歳未満)と高齢層(60歳超)、低所得、低学歴で低いことを確認した。一般に年を重ねるほど金融知識が蓄積されるものの、高齢層の場合は金融市場の急速な変化に対応できなかったり認知能力が低下したりする可能性を指摘している。
なお、金融リテラシーが低い属性が明らかになる中で、女性はそれらが複合的に重なり合うことも指摘された。例えばLusardi & Mitchell (2008)は、他の高齢層と比べても高齢女性の金融リテラシーは著しく低く、男性よりも寿命が高いことを鑑みると、その困窮度合いは大きいと指摘した。こうして次節に見るように、女性に焦点をあてた研究が進んだ。
Atkinson & Messy(2012)は、女性に注目した大がかりな国際比較調査としては初めてのものであると言われている。この研究において、金融知識は女性が顕著に低かったが、金融行動には、それほど明らかな差は見られなかった。その理由として、金融行動の設問の多くは、家庭において日々行われるべき行動だったことが指摘されている。金融態度は、女性の方が男性よりも高い国が多かった。このことは、女性の方がより長期的な視野を持ちやすい可能性を示唆する。金融リテラシーに関しては、金融知識の差の影響を受け、どの国においても女性の方が低かった。
Dash & Mishra(2024)のビブリオメトリックス分析によると、女性投資家の投資意向と意思決定は、金融リテラシー、リスク行動、個人の財務計画などの要因と密接に関連している。また金融知識・金融行動・金融態度は金融リテラシーに内包される概念であると位置づけた。
なお、女性投資家は金融リテラシーだけでなく、社会的・心理的要因の影響も受けながら投資決定を行う傾向が明らかになっている。Dash & Mishra(2024)は、以下の項目を挙げた。これらの要素は女性の金融行動を理解し、女性の金融リテラシー向上や資産形成を促進するための重要な手掛かりとなる。
米国では確定拠出年金の発展とともに、個人の自助努力だけでは老後に向けた資産形成(退職プラニング)が不十分となる懸念が生まれたことから、金融リテラシー研究が進んだ。例えば Lusardi & Mitchell(2007b)は、1992年と2004年のベビーブーマー世代を比べ、退職プラニングを綿密に行った者の方が、金融リテラシーが高く、富も蓄えられていることを指摘した。またLusardi & Mitchell(2007a)は、米国人の金融リテラシーの低さから、老後の準備は不十分であり、金融リテラシーを向上させる教育が喫緊の課題であると述べた。対象を50代以上に絞り、金融リテラシーと退職プラニングの関係を検証した先行研究としては、Lusardi & Mitchell(2011b)などがある。彼らも女性に加え、若年層と高齢層の金融リテラシーが低いことを示した。
Lusardi & Mitchell(2011a)は、金融リテラシーと退職プラニングという金融行動との関係を検証した。その結果、金融リテラシーが高い人ほど、退職後プラニングを行う可能性が高いことを示した。これは、金融リテラシーが高ければ、退職後の貯蓄や投資に必要な金額を計算してゴールを定め、そのゴールに向けた計画を実行するという、複雑な行動をとることができることを示唆している。その結果として、老後に向けた資産を十分に形成しやすい(Lusardi & Mitchell, 2011a)。
退職プラニングを行う上では、株式投資が欠かせない。40歳以上の個人に調査を行ったYoong (2010)によれば、株式市場に関する投資知識の欠如は、株式保有傾向を著しく低下させる。またClark, Lusardi & Mitchell(2014)が、DCに加入する従業員を分析したところ、金融知識の高い従業員は、DCにおいて株式を保有する可能性が高く、30年間の勤務期間において、金融知識の低い同僚よりも25%多くの退職資金を形成できると試算された。
職域特有の投資行動に注目した研究としては、Fisch et al., (2020)がある。この研究では投資家を、DCなどの職域プランのみ保有する「職域のみの投資家」と職域以外にも口座を保有する「アクティブ投資家」に分けた分析を行った。後者の約半数は、日本の個人型確定拠出年金(iDeCo)に相当するリタイアメント・プラン(個人退職勘定、IRA; Individual Retirement Accountなど)とそれ以外の口座の両方を保有している。金融リテラシーの観点からみると、職域のみの投資家はアクティブ投資家と比べて、著しく金融知識が低い。また、職域のみの投資家には、低所得、低学歴、女性などの社会的に脆弱な属性を持つ人々が多く含まれており、この傾向はどの年齢層においても見られた。これらの結果は、特に職域のみの投資家に向けた金融教育の必要性を示唆した。
なお、興味深いのがフィンランドの研究である(Kalmi & Ruuskanen, 2018)。フィンランドは、教育水準が非常に高い一方で、公的年金制度も含め、社会保障が手厚い。そのため、個人の退職プラニングの動機付けが薄く、金融リテラシーと退職プラニングの関係が他国と比較して希薄となる傾向がある。この状況は、フィンランドの社会制度が個々の計画立案に及ぼす影響を示唆しており、金融リテラシーの向上や退職プラニングへの意識付けを促進するための政策的介入の重要性を浮き彫りにしている。
我が国で金融リテラシーを、金融知識に金融行動と金融態度を加えた3要素からなる包括的な概念と初めて定義した研究の一つはKadoya & Khan(2020)と言われている。この研究は、この3要素ごとに個人の属性などとの関係を分析した。その結果、教育水準、金融資産のバランス、金融情報の利用は金融知識、金融行動、金融態度と正の相関があることがわかった。また、男性は女性より金融知識が豊富であるが、女性は金融行動および態度においてより肯定的な傾向が確認された。年齢に関しては、金融知識と正の相関があるが、金融態度とは負の相関が認められる。また中高年層は金融知識で優れている一方、若者や高齢者が金融行動および態度においてより肯定的であることが示された。つまり、これまでの金融リテラシーと性別・年齢の関係は、より広い視点で説明すると異なる結果となることが示された。
Okamoto & Komamura(2021)は、わが国の金融リテラシーと年齢・性別との関連性を明らかにした。その結果、実際の金融リテラシーは年齢とともに上昇するが、おおむね60歳代前半をピークとしてその後は減少傾向を示すことが明らかとなった。また、男性の方が女性よりも金融リテラシーや金融知識が高いが、金融行動および態度に関しては、女性の方がより慎重かつ計画的な行動を取る傾向が見られた。
なお我が国において、金融リテラシー(金融知識と同義)が高い方が退職プラニングを行うことを示したのは、Sekita (2011)である。ただし日本の金融リテラシーは、世界的に見ても低く、その傾向が特に女性、若年層、低所得層、低学歴者で見られることが確認された。
上述したように、わが国では現在、職域が金融リテラシー向上支援の主な担い手となることが期待されている。しかし、国内外の金融リテラシーに関する先行研究は数多く存在するものの、その対象を職域に絞った研究は多くはない。また一般的な金融リテラシー尺度が使われることが多く、職域特有の金融リテラシー向上に向け、どのような働きかけが有効なのかについては十分に解明されていない。
このような研究に意義があると考える背景には、職域と一般の金融行動が、異なる性質を持つということがある。職域で金融リテラシー向上の重要性が高まったのは、DC制度の導入が広まったからである。DCは、企業が制度設計や商品選択を行い、その枠組みの中で加入者が自ら投資を行う。また、企業は加入者に対して投資教育を提供しなければならない。つまりDCは福利厚生としての側面を持つ一方で、加入者が制度を理解し、能動的にインフォームド・デシジョン(情報に基づく意思決定)に基づく投資をしなければ、老後に必要な資産を形成できないかもしれない。
しかしそのためには、金融リテラシーの向上が不可欠である。特に、基本的な金融知識だけでは不十分で、投資や制度の仕組みに関する知識に加え、望ましい金融行動や金融態度も含めたより包括的な金融リテラシーが求められる。ところが現実には、セミナーや冊子配布など、知識の詰め込み型を中心とした投資教育が主流となっており、それが必ずしも質の高い投資判断に結びつく金融リテラシーの向上につながっていないと指摘されている。さらに、従業員への福利厚生は本来、公平に提供されるべきものであるにもかかわらず、制度の恩恵を十分に享受できていない従業員がいるとすれば、何等かの策を講じる必要があろう。
そこで本研究では、確定拠出年金に関する金融リテラシーの構成要素を分析し、性別をはじめとする属性による違いを検討する。また金融リテラシー格差縮小の一助となることを目指し、属性間比較も行う。リサーチクエスチョンは以下の通りである。
1. DCに関する金融リテラシーに影響を及ぼす要因はどのようなものか
2. 対象者の属性などにより、金融リテラシーに及ぼす要因に差はあるか
本研究では、確定拠出年金に関連する金融リテラシーを、従来の金融知識だけでなく、金融行動や金融態度も含む包括的な概念として捉え、その構成要素が金融リテラシーに与える影響を実証的に検証する。
従来、金融リテラシーは主に金融知識と同義に扱われてきた(Lusardi & Mitchell, 2007a)。同研究では金利等に関する基本的な設問を用いて金融リテラシーを測定しているが、同時に、金融リテラシーと金融行動には密接な関係があり、単なる知識提供だけではなく、行動変容を促す仕組みの重要性も指摘した。個人の特性に応じた金融教育の提供の重要性についても指摘した。この流れを受け、OECD/INFE調査(Atkinson & Messy, 2012)では、金融知識・金融行動・金融態度の3要素を測定し、それらの合計をもって金融リテラシー指標とする手法を確立した。この考え方は、Kadoya & Khan(2020)にも引き継がれており、本研究でも踏襲する。
金融リテラシーを測る尺度としては、Lusardi & Mitchell(2011)の3設問(インフレーション、金利、リスク分散)や金融知識・金融行動・金融態度を含めたAtkinson & Messy (2012)の包括的金融リテラシーが良く用いられる(例えばKadoya et al., 2020)。しかし本研究では、職域で求められる金融リテラシーの実態に即するためには、確定拠出年金制度に関する理解も重視すべきであると判断した。そのため、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構(2024b)が用いた調査票を参考に、より制度に即した内容の設問から金融知識・金融行動・金融態度の3要素を得点化し、分析対象とした。
研究対象は、確定拠出年金の加入者とし、職域での状況(DC)と比較するために、iDeCo加入者も含めた。両制度の基本的な仕組みに大きな違いはないが、iDeCoは加入者が自らの意思で任意に口座を開設する必要がある点で、職域でほぼ自動加入となる企業型とは異なる特性を有している。その他にも金融リテラシーが低い人々を特定するために、性別、金融資産、年代などの属性間比較も行った。
研究手法としては、金融リテラシーを従属変数、金融知識・金融行動・金融態度を独立変数とした重回帰分析を行った。また性別や年代、資産、制度別(DC、iDeCo)などのグループ間比較には一元配置分散分析を用い、さらに条件ごとの重回帰分析を通じてモデルの説明力の違いも検証した。
Atkinson & Messy(2012)、Kadoya & Khan(2020)、Dash & Mishra(2024)などによれば、金融リテラシーは、金融知識・金融行動・金融態度を内包する概念である。しかしAtkinson & Messy, (2012)は3要素が金融リテラシーに及ぼす影響の度合いは一様ではなく、金融行動が最も重要な可能性を示唆した。そのため、本研究では、構成要素ごとの影響力の差異を検討する必要があると考えた。以上より、下記を仮説1とする。
仮説1:金融知識・金融行動・金融態度はいずれも金融リテラシーに正の影響を及ぼす。
金融リテラシーを金融知識とほぼ同義と捉える研究の多くでは、男性よりも女性の金融リテラシーが低い。金融リテラシーをより包括的に捉えるAtkinson & Messy(2012)、Kadoya et al.(2020)、Dash & Mishra(2024)も、男女差があることを確認した。Atkinson & Messy(2012)は、金融行動では差が認められないが、金融知識については男性が女性を上回る傾向を指摘している。Kadoya et al.(2020)は、女性は金融知識が低い一方で、金融行動および金融態度は優位であることを示している。Dash & Mishra(2024)は、女性が男性よりも長期的な視野にたった金融態度を示す可能性を示唆した。
なお、女性はライフスタイルの多様性や金融知識の不足が、金融リテラシー・モデルの説明力を低下させる可能性がある。Dash & Mishra(2024)は、心理学的要因も含め、女性特有の属性が金融リテラシーに影響を与えるとしている。以上より、下記を仮説2とする。
仮説2a: 男女間で金融知識・金融行動・金融態度・金融リテラシー得点を比較すると、金融リテラシー、金融知識は女性の方が低く、金融行動と金融態度は男性の方が低い
仮説2b: 男女とも金融知識・金融行動・金融態度はいずれも金融リテラシーに正の影響を及ぼす
仮説2c: 男女間で金融リテラシー・モデルを比べた場合、女性のモデルは説明力が低い
金融リテラシー研究においては、所得(Atkinson & Messy 2012; Fisch et al., 2020; Hogarth & Hilgert, 2002; Sekita, 2011)や金融資産(Kadoya et al., 2020; Lusardi & Mitchell, 2011b)が、個人の金融知識・金融行動・金融態度に与える影響が注目される。本研究は、老後に向けた資産形成手段としての確定拠出年金をとりあげたことから、金融資産に焦点をあてた。Kadoya et al.(2020)は、金融資産が多いと金融リテラシーが向上することを示している。Lusardi & Mitchell(2011b)も同様であるが、その理由として、投資余力や経験が上がることを指摘している。またそうなれば、投資に対する態度も肯定的になると考えられる。
以上より、下記を仮説3とする。
仮説3a:高金融資産群ほど、金融知識・金融行動・金融態度・金融リテラシーの水準は高い
仮説3b: 金融資産に関わらず、金融知識・金融行動・金融態度はいずれも金融リテラシーに正の影響を及ぼす
仮説3c: 金融資産群間の金融リテラシー・モデルを比べると、高金融資産群の方が、金融リテラシー・モデルの説明力が高い
年代による金融リテラシーの差異も多くの研究で確認されており、若年層と高齢層の金融リテラシーが低いとの指摘が少なくない(Hogarth & Hilgert, 2002; Lusardi & Mitchell, 2011b)。Atkinson & Messy(2012)はその理由として、若年層(30歳未満)ほど金融取引経験が少なく、金融知識および金融行動が低いことを示している。一方、高齢層(60歳超)は認知能力低下により、市場変化への対応が困難となる可能性を指摘している。また我が国ではOkamoto & Komamura(2021)も、金融知識は年齢とともに蓄積されるが、60代をピークに減少する傾向を示している。
Kadoya et al., (2020)も、金融リテラシーは若年層ほど低く、中年層で最も高くなり、高齢層で再び下がると指摘する。特に若年層ほど投資経験も限られ、金融知識・金融行動が低くなるからである。しかし、年齢を重ねるに従い、投資知識や投資経験が高まることから、金融リテラシーも向上する可能性がある。一方で、退職年齢が近づくと、金融リテラシーの向上意欲が下がるかもしれない。金融態度は、若年層とシニア層の方が高い。若年層は金融取引で失敗した経験が少なく、高齢層は資産形成をしてきた実績があるからである。
以上より、本研究も年齢と金融リテラシーは正の相関があると考える。先行研究によれば高齢者の金融リテラシーは下がるが、本研究は職域に焦点をあてており、高齢者であっても現役層であるため、金融リテラシーの低下は見られないと予想する。また高齢者はより老後に向けた資産形成の意識が高まり、他の要因の影響を受けにくくなることから、金融リテラシー・モデルの説明力が高まると予想する。以上より、下記を仮説4とする。
仮説4a: 年代別に金融知識・金融行動・金融態度・金融リテラシーを比べると、いずれも若年層はその水準が低く、年代を重ねるにつれて高くなる
仮説4b: 年代に関わらず、金融知識・金融行動・金融態度はいずれも金融リテラシーに正の影響を及ぼす
仮説4c: 年代別に金融リテラシー・モデルを比べると、年代が上がるにつれ、金融リテラシー・モデルの説明力が高まる
確定拠出年金制度が金融リテラシーに与える影響については、Fisch et al.,(2020)が参考となる。Fisch et al., (2020)は、DCのみの加入者は受け身であり、IRAなどのその他の口座を保有する個人よりも、金融知識が低い傾向があるとした。またKalmi & Ruuskanen(2018)のフィンランドの研究においても、社会保障制度が手厚いことから、自律的な金融行動をとろうという意識が希薄である可能性を示唆した。
我が国のDCは、米国のような任意加入制ではなく、原則全員加入となっているため、米国以上に受け身になる可能性があると予想する。従って、DCのみの加入者は、自ら口座を開けなければ投資ができないiDeCoのみの加入者、DCとiDeCo両方の加入者と比べると、金融リテラシーは低いと考える。ただしDCが設定されるのは大企業が多いことから、iDeCoのみの加入者と比べると正社員比率が高く、投資教育も受けられる。従って、DCのみの加入者をiDeCoのみの加入者と比べると、恵まれた投資環境にいる可能性が高いと考えられる。
iDeCoの加入者は本来、自営業者から会社員まで多岐にわたる。ただし本研究は、厚生年金加入者(常勤もしくはそれに近い)を対象としたことから、大半は正社員である。また本研究の設計上、DCがない者はiDeCoのみの加入者として分類されるものの、その中には、企業年金がない者とDBだけがある者が含まれるため、企業からの福利厚生が薄いとは限らない。いずれにせよ、自ら口座を開設するという金融行動を経なければ、iDeCoでは投資できないため、一定程度の金融リテラシーはあると考える。DCとiDeCoの両方の加入者は、恵まれた環境にいる上、資産運用意欲もあることから、金融リテラシーは最も高いと予想する。
金融リテラシー・モデルの説明力は、受け身で投資を行うDCのみの加入者が最も低く、投資環境に恵まれている上、投資意欲もある両方の制度の加入者が最も高いと予想する。以上より、下記を仮説5とする。
仮説5a: 確定拠出年金制度別にみた金融知識・金融行動・金融態度・金融リテラシーを比べると、いずれもDCのみの加入者はその水準が低く、iDeCoのみの加入者、両方の加入者の順に高くなる
仮説5b: 確定拠出年金制度に関わらず、金融知識・金融行動・金融態度はいずれも金融リテラシーに正の影響を及ぼす
仮説5c: 確定拠出年金制度別に金融リテラシー・モデルを比べると、DCのみの加入者の説明力が最も低く、両方の加入者の説明力が最も高くなる。
本調査は、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構が2024年8月に実施した「職域における資産形成・金融経済教育等に関する調査」の基本集計データを用いて、金融リテラシーに与える影響の特定を試みた。調査対象者は、厚生年金に加入している15歳以上64歳以下の者であり、DC(15歳以上)とiDeCo(20歳以上)のいずれかの確定拠出年金に加入している者である。調査は全国を対象に、楽天インサイト株式会社がインターネット調査の形式で実施した。調査期間は2024年8月8日~8月15日である。サンプル数は、DC加入者3,676名、iDeCo加入者1,324名の合計5,000名 である。このうち、DCのみ加入していた者は1,661名(33.2%)、iDeCoのみ加入していた者は1,064名(21.3%)、DCとiDeCoの両方に加入したいた者は2,077名(41.5%)となった。性別では男性3,625名(72.5%)、女性1,358名(27.2%)、その他は17名(0.3%)であった。この内、男性の平均年齢は45歳(SD = 10.0, 年齢レンジ = 15~64歳、女性1,358名の平均年齢は37.5歳(SD = 9.97, 年齢レンジ = 16~64歳)であった。
本研究では、独立変数を金融知識、金融行動、金融態度、従属変数を金融リテラシーとした。具体的には公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構 (2024b)の設問を用い、それぞれの合成変数を作成した。また統制変数はKadoya et al.(2020)等の先行研究を参考に、性別、婚姻状況、年代、学歴、就業形態、年収、金融資産とした。
金融知識の測定においては、Q11-1, Q11-2, Q11-3, Q11-4, Q11-5, Q12, Q13, Q41, Q42を用いた。確定拠出年金制度における金融リテラシーの予測因子の特定を目的とした本研究においては、金融知識については「厚生年金と国民年金の両方の制度に加入していることを知っている」など、制度の仕組みを問う設問を用いた。金融行動については、Q11-6, Q11-7,Q14,Q20, Q25, Q29を用いた。これも「年金定期便(はがき)で年金記録や将来の年金見込額を確認したことがある」等、制度の手続きに関わる行動を問う設問が含まれている。金融態度は、金融に対する個人の捉え方を測る変数であるため、Q38、Q40-2、Q40-5を用いた。これにはリスク選好の代理変数の他、老後の資産設計(運用)に関わるストレスの程度を問う設問が含まれている。従属変数とした金融リテラシーは、自分の金融リテラシーの程度を問うQ43-1を用いた。
なお項目により、回答の選択肢が諾否法のものと、段階評定法のものが混在したが、段階評定法の回答は0〜1の範囲の得点になるよう処理を行った。また逆転項目と考えられる項目に関しては、事前に得点を反転する処理を行った。
仮説3の金融資産別分析においては、金融資産がないもしくはわからないと答えた1,463人を低金融資産、100万円未満~1,000万円未満の2,166人を中金融資産、1,000万円以上の1,371人を高金融資産とした。仮説4の年代別分析においては、20代の758人を若年層、30~40代の2,715人を中年層、50代以上の1,527人をシニア層とした。
表2は、金融知識、金融行動、金融態度、金融リテラシーの各変数間の関連性を検討するための相関係数である。これらの変数はそれぞれと正の相関があり、r=.191からr=.628の範囲であった。中でも金融知識と金融行動の間の相関が最も高かった。
【表2】 確定拠出年金における金融リテラシーに関する変数間の相関係数
仮説1では、金融知識(M=.404, SD=.237)、金融行動(M=.488, SD=.242)、金融態度(M=.525, SD=.234)が金融リテラシー(M=.473, SD=.259)を説明できるかを検証した。最初に金融リテラシーを従属変数とし、統制変数のみを投入した重回帰分析を行った(表3)。その結果、R²=.112(p<.001)となり、モデル1は有意であった。有意な独立変数であることが判明したのは、性別、年齢、金融資産であった。金融リテラシーを従属変数として、金融知識、金融行動、金融態度も投入したモデル2は、R²=.222(p<.001)と有意となった。標準化偏回帰係数(β)は、金融態度、金融行動、金融知識の順に高かった。よって仮説1は支持された(図2)。
【表3】 確定拠出年金における金融リテラシーに及ぼす
金融知識・金融行動・金融態度の影響(重回帰分析)
【図2】 確定拠出年金における金融リテラシーに及ぼす
金融知識・金融行動・金融態度の影響(パス図)
仮説2aの検証では、まず、男女の各変数の平均値を算出し、その得点間に有意な差があるかを検証した(t検定)。本研究においてはいずれの変数においても、男性が女性を上回り、その差は有意であった(表4)。よって金融リテラシー、金融知識は女性の方が男性よりも低いという仮説は支持されたが、金融行動と金融態度は男性の方が低いという仮説は支持されなかった。仮説2bは男女ともに金融知識・金融行動・金融態度が、金融リテラシーに対して正の影響を与えるか検証した。その結果、モデルはいずれの性別においても有意で、仮説2bは支持された(図3)。仮説2cの金融リテラシー・モデルの説明力は女性の方が低いという仮説は支持された。男性はR²=.222(p<.001)であるのに対し、女性はR²=.173(p<.001)となった。なお、男性の金融知識のβは、男性の金融行動や金融態度と比べても、女性の金融知識と比べても低くなった。
【表4】 確定拠出年金における金融リテラシーに関する変数の男女比較
【図3】 確定拠出年金における男女別の金融リテラシーに及ぼす
金融知識・金融行動・金融態度の影響(パス図)
仮説3aでは金融資産に着目し、対象者を低金融資産群、中金融資産群、高金融資産群に分け、各変数の平均値を算出した。いずれの資産群においても、その水準は高金融資産になるほど高くなり、一元配置分散分析の結果、いずれの群間差も有意であった(表5)。仮説3bでは、いずれの資産群においても金融知識・金融行動・金融態度が、金融リテラシーに対して正の影響を与えるかを検証した。その結果、モデルはいずれの資産群、性別においても有意ないしは有意傾向を見せたため、仮説3bは支持された(図4)。ただし低金融資産群においては、男女ともに、金融知識・金融行動の影響は限定的であった。仮説3cのモデルの説明力は男性の場合、中・高金融資産で逆転した。しかし女性の場合は、金融資産とともに説明力の増加が顕著で、高金融資産群では男性を上回った。よって仮説3cは一部支持された。なお女性の金融知識は資産が増えるほど影響力が高まり、その値は高金融資産群において金融行動・金融態度以上の値となった。
【図4】 確定拠出年金における金融資産別の金融リテラシーに及ぼす
金融知識・金融行動・金融態度の影響(パス図)
【表5】 確定拠出年金における金融リテラシーに関する変数の金融資産別比較
仮説4aでは、金融リテラシーの各変数における年代別の違いに着目し、対象者を若年層(20代)、中年層(30~40代)、シニア層(50代以上)に分け、それぞれの平均値を算出した(表6)。一元配置分散分析による群間差は有意であったが、年代が上がるにつれて水準も上がったのは、金融知識と金融行動のみであった。金融態度と金融リテラシーは、逆に年代が上がるにつれて下がっていった。従って、仮説4aは一部支持された。仮説4bで、年代別に金融知識・金融行動・金融態度が金融リテラシーに正の影響を与えるかを検証したところ、このモデルは概ね支持された。ただし若年層男性の金融知識、シニア層女性の金融行動が有意ではなかった。仮説4cで、年代別の金融リテラシー・モデルの説明力を比較した結果、男女ともにシニア層が最も高い説明力を示し、中年層の説明力が最も低かった。よって仮説4cは支持されなかった。βを見ると、若年層は男女ともに金融行動の影響が大きく、金融知識の影響が小さいのに対し、中年層とシニア層では金融態度の影響が大きい。
【表6】 確定拠出年金における金融リテラシーに関する変数の年代別比較
【図5】 確定拠出年金における年代別の金融リテラシーに及ぼす
金融知識・金融行動・金融態度の影響(パス図)
仮説5aで、金融リテラシーの各変数における確定拠出年金制度の違いに注目したところ、いずれの変数においてもDCのみの加入者の水準が最も低かった(表7)。iDeCoのみの加入者と両方の加入者の水準を比べると、金融リテラシーを除いては、iDeCoのみ加入者の水準の方が高かった。よって仮説5aは一部支持された。仮説5bに関しては、金融知識、金融行動、金融態度がいずれも金融リテラシーに正の影響を与えるという仮説が概ね支持された。ただし、iDeCoのみの女性の金融態度、両方の女性加入者の金融知識は有意でなかった。
仮説5cの金融リテラシー・モデル説明力を比べると、男女で異なる結果となった。iDeCoの説明力が、男性は最も高かったのに対し、女性は最も低かった。よって、仮説5Cは支持されなかった。各変数の影響力を比べると、女性のiDeCoのみ及び両方の加入者を除き、金融知識・金融行動・金融態度の順に大きくなっていった。
【表7】 確定拠出年金制度別の金融リテラシーに関する変数の比較
【図6】 確定拠出年金制度別の金融リテラシーに及ぼす
金融知識・金融行動・金融態度の影響(パス図)
本研究の結果を考察すると、対象者全体に加え、男女別・金融資産別・年代別・確定拠出年金制度別の全てのグループにおいて、金融知識・金融行動・金融態度が金融リテラシーに影響を及ぼすモデルは概ね有意となった(仮説1、2b、3b、4b、5b)。このことは、確定拠出年金においては、このモデルが一定程度の説明力を持つことを示唆していよう。先行研究を見ても、金融リテラシーが長らく金融知識と同義とされてきたことを鑑みれば、金融知識が金融リテラシーの重要な要素となることは言を俟たない。一方で、金融知識を上げるべく行われてきた金融教育の限界も報告されている。このモデルに倣えば、金融知識偏重の金融リテラシー向上策には限界があり、金融行動や金融態度を上げる施策も検討されるべきであろう。具体的には金融知識を向上させるセミナーも行った後、その場で各人にオンライン上の情報確認を促すことや、手続きを簡素化する制度設計なども効果的であろう。金融態度は、信頼性の高い雇用主が、資産形成の後押しを職場ですることにより、肯定的になるかもしれない。
ただし福利厚生の公平性の観点からは、職場で提供する以上、金融リテラシーが極端に低い属性には何等かの施策が必要となろう。そこで異なる属性が金融知識・金融行動・金融態度・金融リテラシー得点に差をもたらすのか、仮説2a,3a,4a,5aにおいて検証した。またこれらの属性などがモデルの説明力にどのような差をもたらすのかについても、仮説2c,3c,4c,5cで検証した。
まず、男女別にみると、本研究では金融知識・金融行動・金融態度・金融リテラシーの全ての得点において、男性が女性を上回った。このような結果が得られた理由には様々なことが想定され、今後の詳細な研究が必要である。ただ先行研究にもあるように、第一に男性の方が女性よりも金融教育を始めとする資産形成環境に恵まれていることは理由として想定すべきであろう。
性差でみた金融リテラシー・モデルは、男女ともに有意であり、その有効性が示唆された。ただし、R2をみると、女性の方が、モデルの説明力がやや低い傾向がみられた。これはモデル外の変数の影響を示唆するものであり、その特定を試みる研究も、今後の女性の金融リテラシーの向上のためには必要であろう。またβをみると、男女ともに金融態度、金融行動、金融知識の順に高い値であった。特に、男性の金融知識の値は、女性の金融知識や、男性の金融行動・金融態度と比較しても、相対的に低いと解釈ができる。このことは、男性は金融リテラシーに及ぼす金融知識の影響が特に低いことを示唆している。この結果を踏まえれば、男性の場合、従来の金融知識偏重型の金融教育は、効果が限定的な可能性が考えられる。
金融資産別に各変数を見ると、全てにおいて金融資産が高い程、得点も高くなった。ただし、金融リテラシー・モデルを構成する各変数が高い者程、金融資産を多く有している可能性もあるため、因果関係は定かではない。とは言え、金融資産がないと金融知識の獲得よりも勤労に時間をあてることを重視するかもしれないし、投資の場合は余裕資金がなければ金融行動を起こし難く、金融リテラシー上げられる要因は少ないであろう。一方で金融資産が多ければ、全ての変数の得点を上げて金融リテラシーを高めることが、より良質な金融の意思決定につながる可能性が高いため、そのような努力を重ねると考えられる。
特筆すべきは、女性の金融リテラシー・モデルの説明力である。金融資産が増えるにつれて、着実にモデル及び金融知識の説明力が上がっている。高金融資産群におけるモデルの説明力は、男性よりも高い。こうした結果が得られた理由は、本研究からは特定できないが、女性の方が男性よりも金融知識や金融リテラシーの向上と関連性が強く、金融資産を増やす経年的な努力が実を結びやすいことが、仮説として想定できる。これは、女性に対する金融教育においても示唆深く、長期的な投資関連行動とその肯定的な結果の関連性について、希望が持てる結果である。
確定拠出年金の対象者を若年層、中年層、シニア層に分けて算出した、それぞれの変数の平均値は興味深い。年代が上がるにつれ、金融知識と金融行動はその得点が上がったが、逆に金融態度と金融リテラシーは下がったからである。職域における金融教育は継続的に行うことが望ましいとされているが、このことは、従来の金融知識偏重型の金融教育で経年的な努力を重ねても、金融リテラシーを効果的に上げられない可能性を示唆している。
また金融リテラシー・モデルの説明力を比較しても、男女ともに若年層とシニア層の説明力が高い。しかし、各変数の影響力を比べると、若年層では金融行動の説明力が高いのに対し、シニア層では金融態度の説明力が高い。これらの結果は、金融リテラシーの向上を目的とした教育や支援策を年代のニーズに合わせてパーソナライズする必要性を示唆している。
確定拠出年金制度と金融リテラシー・モデルの関係を見ると、いずれの変数においても、DCのみの加入者の水準が最も低かった。これはDCがその制度上、加入者の能動的な関与や意思決定を必要としないため、受動的に利用しかねないためだと考えられる。またDC導入企業は大企業が多く、所得も高めであることから、そもそも能動的な資産形成の必要性を感じないのかもしれない。もっともDC導入企業においては、投資教育が義務となっているにも関わらず、どの変数の得点も最も低いことは、その在り方の再考を示唆している可能性がある。
iDeCoのみの加入者は、DCのみの加入者よりも全て得点が高い点を除くと、傾向がつかみにくい。その背景には、彼らが能動的に口座開設をしたという共通点以外は、属性が多岐にわたることが要因の一つと考えられる。iDeCoのみの加入者には、企業年金を持たない自営業者やパートタイマーなどの非正規社員の他、DBだけの企業年金の加入者も含まれる。従来型のDB導入企業の従業員も、比較的恵まれた環境におかれている可能性がある。ただし、iDeCoのみに加入の女性は、パートタイマーであるなど、資産形成に不利な複数の要因が重なる傾向が見られた。このことは、iDeCoのみの女性加入者のモデルの説明力が著しく低いことからも示唆される。
DCとiDeCo両方の加入者は、恵まれた環境におかれている上、資産形成意欲もあるが、金融知識と金融行動の得点は、iDeCoのみの加入者に及ばない。また両方に加入していながら、金融リテラシー・モデルの説明力における男女差が、比較的あるのも気になる。ただし、金融態度の影響力は男性以上に高いため、資産形成の阻害要因を特定して取り除くことができれば、金融リテラシーが大幅に改善する希望がもてるかもしれない。
本研究の調査設計では、職域における金融リテラシーに対する影響を検証するにあたり、各説明変数を操作的な合成変数とした。したがって、結果の解釈においては慎重であるべきであろう。今後、追試を行い本研究の外的妥当性を検証する際には、それぞれの変数を測定する項目の作成を慎重に行うべきであろう。本研究のモデルの説明力が、iDeCo加入者及びDCとiDeCo両方の加入者の場合、男女差が著しいなど、本研究の調査で測定している変数だけでは、解釈が困難な結果がみられる。特に女性の場合は、本研究では特定できなかった変数が、金融リテラシーに大きな影響を及ぼしている可能性が示唆されている。
本研究は、確定拠出年金における金融リテラシーに焦点をあてることで、金融知識習得後の取り組みを示唆し、資産形成の社会実装に資することを目的とした。金融リテラシーは、金融の意思決定に大きな影響を与えるためである。結果として、本研究における主たる変数である金融知識、金融行動、金融態度はいずれも、金融リテラシーの予測因子となることが示された。また特筆すべき点としては、金融リテラシーが金融知識と同義に捉えられてきた歴史があるにも関わらず、金融リテラシーに対する金融行動や金融態度の影響も大きいことがある。
またこれらの変数得点及び金融リテラシー・モデルの説明力は、男性よりも女性の得点が概ね低かった。この結果は、同質的な制度や金融教育を提供する職域という場においても、女性に対する支援不足の可能性を示唆している。もっとも加入制度の違いや年代など、金融リテラシー・モデルの説明力に差をもたらす要因は、ほかにも明らかになった。つまり本研究は、単純な性差の比較にとどまらず、多様な属性やライフスタイルを考慮した、パーソナルな金融教育による介入の重要性を示唆している。よって、このモデルを今後の金融教育に生かすのであれば、例えば金融態度・金融行動・金融知識の順に重みづけされた教育プログラムを実施することによって、金融リテラシーの向上が期待できるであろう。
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