Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Relationship between use of health foods and health literacy in 40-60 years old adults
Yukiko kudoNaohiko KinoshitaMichiko HonmaRiko MinagawaYuko Udakazuo IshigamiKenji SuzukiJunichi ShibayamaToru Takiguchi
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2022 Volume 21 Issue 3 Pages 121-131

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Abstract

健康情報の吟味能力であるヘルスリテラシーは重要である。しかるに、健康食品の利用は医薬品と異なり利用者の意思決定と自己責任に委ねられ健康リスクに対する判断も求められる。そこで健康食品の利用とヘルスリテラシーの係わりの実態の検証を目的に質問票調査を行った。解析は健康食品利用の有無と利用頻度をそれぞれ目的変数とした二項ロジスティック回帰分析と重回帰分析を性、年齢、学歴、健康状態等を説明変数として行った。結果、ヘルスリテラシーと健康食品の摂取との関連は性差が顕著であった。ヘルスリテラシーは機能的・伝達的・批判的の3つの下位尺度に分類される。利用要因では男性は伝達と批判の交互作用が有意で、ヘルスリテラシー値は1標準偏差当たり約1.4倍健康食品摂取確率が増加することが示された。女性では有意性が認められなかった。利用頻度の増加要因では男性は伝達と批判の交互作用が有意となり、女性は機能と伝達の交互作用が有意となった。すなわち、男性は情報を論理的に収集し批判的に意思決定した場合健康食品を多用し、女性は美容中心の情報に関心を持つ傾向が顕著であった。よって健康食品の情報資料は、男女間の関心の共通性と思考の重心の違いを意識して作成することで個々のヘルスリテラシーの機能を高め、健康食品の安全利用に効果的であると考えられた。更に不足したヘルスリテラシーを補完すれば、より安全な健康食品の利用につながると考えられた。

Translated Abstract

The ability to examine health information called health literacy is important. However, the use of so-called health foods is left to the decision-making and self-responsibility of the user, and judgment on health risks is also required. Therefore, a questionnaire survey was conducted to verify how the use of health foods was related to health literacy. Binary logistic regression analysis and multiple regression analysis were applied to identify the reasons for the relevant questions. Remarkable gender differences were found between health literacy and the consumption of health foods. Health literacy is commonly categorized into three literacies as functional, interactive and critical health literacy. Regarding use factors, it was shown that the interactive health literacy is composed of transmission and criticism was significant, it indicated that the probability of consuming healthy foods increased 1.4 times by each standard deviation of this interactive health literacy. In contrast, no significance was observed in women. Regarding factors related to the increase in use frequency, the interaction between transmission and criticism was significant among men, and the interaction of the function and transmission was significant among women. In other words, men used health foods after obtaining information and making critical decisions regarding them, while women tended to be more interested in health foods for beauty-related reasons. Therefore, health food information was effective for promoting the safe use of health foods by enhancing individual health literacy by emphasizing the different points of interest for men and women. Furthermore, it was thought that supplementing the lack of health literacy with education would lead to the safe use of health foods.

I はじめに

いわゆる健康食品に関する情報はテレビの通販番組や新聞、雑誌の広告等を媒介して流布しており、2012年の内閣府消費者委員会の調査1)によれば消費者の75%が利用経験を持ち、また利用頻度も25%がほぼ毎日使用している。市場規模は推定年間2兆円の一大産業となっている。しかし薬品と比較すると健康食品の定義は多義的かつ曖昧で、有害事例の正確な報告や適量および過剰摂取の量的基準、効果と有害性のエビデンスが明らかではない。これは健康食品の分類が日常的に購入、摂取する食品に属していることに起因していると考えられる。その一方で、日常的な不健康状態を改善する等の、あたかもなんらかの健康効果が確認されたかのような食品であることをセールスポイントにしている。仮に健康効果に着目し医薬品と同等と考えるならば、過剰摂取やアレルギー等の危険な負の側面のエビデンスがクローズアップされるべきであると考える。厚生労働省や内閣府消費者庁等が健康食品に関する注意を喚起し、消費者に向けたガイドブックの作成やサイトの運営等2)-4)を行っている。しかしながら、現状では行政通知を含む法的な品質維持や安全性等に関する規制基準は十分に整備されておらず、健康食品の利用は事実上利用者の意思決定と自己責任に委ねられている。つまり、現状においては健康食品を利用する側にその情報を入手し正しく活用する力が無ければ、場合によっては不適切な摂取が日常化する、あるいは有害な心身の状態が発現しても利用者が気付かないまま放置されるということになるであろう。健康食品の潜在的危険性については国立健康・栄養研究所情報センターの開設サイト5)でも健康食品が関係した被害として、健康被害(①製品の問題、②利用法の問題)と経済問題(高額な製品の購入)の2つを挙げている。

このような日常的、潜在的に危険な状態を自己防衛することに役立つ知識と行動体系と考えられるのがヘルスリテラシーである。このヘルスリテラシーの概念は提唱したNutbeam6)によれば①機能的、②伝達的(相互作用的)、および③批判的の3つの下位尺度に分類される。①機能的ヘルスリテラシーは日常生活場面で効果的に機能するための読み書きの基本的なスキル、②伝達的ヘルスリテラシーは社会的スキルとともに日常的な活動に参加し様々な形式のコミュニケーションから情報を入手したり、意味を引き出したり、新しい情報を変化していく環境に適用するために利用されるより高度な認知的な読み書きのスキル、そして③批判的ヘルスリテラシーは社会的スキルとともに情報を批判的に分析し、その情報を生活上の出来事や状況をコントロールするために利用されるより高度な認知的スキルとされている。更に、WHOによれば「健康の維持増進のために情報にアクセスし、理解、活用する動機や能力を決定する認知力、社会的スキル」と定義7)し、「健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価し活用(情報を使うことでより健康に結びつくような、よりよい意思決定を行うこと)する力」8)とされている。

前述の国立健康・栄養研究所情報センターが示している理由等により、利用に関して多くの潜在的な危険性を抱える健康食品を安全に利用するためにヘルスリテラシーは健康食品の適切な利用をする上で必要なスキルであると考えた。日本医師会健康食品安全対策委員会報告書9)の中では「いわゆる健康食品の問題は、その表示や広告といった、商品が身にまとった情報に対する吟味能力こそが問題の核心である」とし、ヘルスリテラシーの重要性を伝えている。続けて「仮に、ある商品が怪しげな健康情報とともに販売されている場合、その情報が正しいかどうかをきちんと考え、時には専門家の助言を活用することができれば、大半の健康食品問題は駆逐することも可能である」として、ヘルスリテラシーがもたらす健康食品問題解決の可能性を述べている。また先行研究10)-12)において「ヘルスリテラシーは代替医療の安全な利用に重要である」、「ヘルスリテラシーが高いほど、より健康的な生活習慣をおくっている」ことが示されているが、個々個人が健康食品を利用することや毎日使うこととヘルスリテラシーとの関連を明らかにした報告やマニュアルは見当たらない。そこで、健康食品の安全利用かつ有効な利用にヘルスリテラシーが重要であるならば、その実態把握が健康食品の安全利用への一助になると考え、健康食品の利用にヘルスリテラシーがどのように関連するかを検証することを本研究の目的とした。

II 方法

1 対象者と選定方法

全国を対象とし、男女で健康食品利用者及び非利用者(以後利用者、非利用者とする)とし、利用者が多い中年期以降で前期高齢者を含む70歳代を除いた40-60歳代とした。健康食品は年代が上がるほど利用頻度が高くなり1)、そして労働安全衛生法に基づく定期健康診断(労働安全衛生規則第44条第2項)も40歳から項目が増えるため、より健康意識が強まると考え40歳代以上とした。健康食品を多用し健康意識の高い世代の実態を知ることは、健康食品が抱える問題解決の一助になると考える。また、ヘルスリテラシーは加齢とともに失われていくが、その要因として、加齢に伴い能動的な学習能力が低下し、情報を評価して判断する認知能力が低下することが挙げられている13)。そのため、70歳代はヘルスリテラシーが低いことが予想され対象外とした。

Web調査会社(株式会社メルリンクス)の層化無作為抽出質問票(アンケート)専用サイト(いーこえモニター:http://www.e-koe.net)に登録されたアンケート・モニター7万人(提携先のパネルも含めると80万人)の中で調査に同意した上で回答し、サンプル条件(全国区、40-60歳代の男女、利用者と非利用者)をクリアした登録者から健康食品利用有無別、男女別、10歳階級別の層化無作為抽出した。対象者の内訳は男女別に利用者と非利用者の2群をそれぞれ40代、50代、60代について各50人ずつの計600人とした。抽出の方法は、登録しているアンケート・モニターに健康食品利用の有無を分ける事前調査を行い(回収5000人)、そのうち研究に同意したモニター(3016人[利用者2117人、非利用者899人])に本調査アンケートを送信し、指定人数(各年代男女とも50人づつ)に達した時点で回収終了とした。

2 調査方法

2019年5月13日-16日の4日間を調査期間とし、上記調査会社を介したインターネットを用いたWeb上のアンケート調査を行った。

3 用語の定義

本研究では内閣府消費者委員会が行った「消費者の『健康食品』の利用に関する実態調査(アンケート調査)」1)を参考に、健康食品を「健康の保持増進に資する食品として販売・利用される食品」とし、サプリメントを「健康食品のうち、錠剤型、カプセル型、または粉状のもの」とした。調査対象者がイメージしやすいように健康食品とするもの(サプリメントを含む)と健康食品とはしない食品や薬の画像を合わせて提示した(附録1)。

4 調査項目

調査項目の構成は基本属性(年齢、性別、婚姻状況、学歴)、主観的健康感、現病歴(現在治療中の疾患)・健康診断等での指摘の有無と種類、アレルギーの有無と種類、健康食品に対するイメージ、利用頻度、利用目的、重視項目、およびヘルスリテラシーである。

主観的健康感は視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale:VAS)14)を用いて尋ね、記入例を示して現在の自分の健康度を主観的に捉えて -100から+100までの数値で表すものとした。また各項目のその他の内容は自由記述とした。各項目を構成する選択肢は表1に示す。

5 ヘルスリテラシーの評価

ヘルスリテラシーの評価には日本人成人を対象として妥当性と信頼性15)が検証されている評価尺度14-item Health Literacy Scale(HLS-14)16)を用いた。全14項目から構成されるヘルスリテラシーの評価尺度であり、内訳は5項目の機能的、5項目の伝達的、および4項目の批判的というヘルスリテラシーからそれぞれ構成される包括的な尺度である。各項目に対して、全くそう思わない、あまりそう思わない、どちらでもない、まあそう思う、強くそう思う、の5件法(1-5点)で回答し、得点は総得点(14-70点)と各下位尺度の得点(機能的ヘルスリテラシーと伝達的ヘルスリテラシーは5-25点、批判的ヘルスリテラシーは4-20点)を算出した。いずれのヘルスリテラシーも高得点であるほどヘルスリテラシーが高いと評価される。本研究においては,HLS-14の総得点と各下位尺度の得点を使用した。

6 分析方法

解析に際しての性差の解釈に伴う交絡因子の調整を容易にするため全て男女別に行った。

健康食品の利用要因分析として健康食品を使用するかしないかの使用動機に関わる要因を探るため、健康食品利用の有無を目的変数とし、年齢、婚姻状況、学歴、主観的健康感、現病歴・健康診断等での指摘の有無と種類、アレルギーの有無と種類、健康食品に対するイメージ、ヘルスリテラシーを説明変数とし、現病歴・健康診断等での指摘の有無については、何らかの身体的異常の有無、治療の有無、異常があるが未治療か、アレルギーの有無を説明変数として、変数増減法の通法(変数入出力基準:p<0.15)による二項ロジスティック回帰分析を行った。

 続いて健康食品利用頻度の増加要因分析として摂取回数増加に関わる要因を探り、その要因の説明力を検証するため月の利用頻度を元に数量化したものを目的変数とし、健康食品の利用要因分析と同じ項目を説明変数とした変数増減法による重回帰分析を行った。数量化は(ほぼ毎日利用している:30、週に数回利用している:15、週に1回くらい利用している:5、月に1回くらい使用している:1、以前は頻繁に利用していたが、最近は1か月以上利用していない:0.5、時々[不定期に]利用している:0.1、利用したことがない[ほとんど利用しないを含む]:0)とした。

ヘルスリテラシーは総得点と各下位尺度得点とともに、下位尺度同士の交互作用が要因としてあるのかを探るために下位尺度同士を掛け合わせた数値を説明変数として加えた(機能的ヘルスリテラシー×伝達的ヘルスリテラシー、機能的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシー、伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシー、機能的ヘルスリテラシー×伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシー)。ヘルスリテラシー及びそれらの交互作用が有意な場合のオッズ比の解釈に際しては単位を1ではなく、1標準偏差(1sd)を単位としてオッズ比を再計算しその影響度を解釈した。更に、有意な場合はヘルスリテラシーの交互作用値の分布と1sd毎のオッズ比(odds_1sd)を計算した。

統計解析にはエクセル統計(BellCurve For Excel,Version3.10)を用い、統計学的有意水準は基礎統計量については危険率(α)が5%未満(p<0.05)とし、二項ロジスティック回帰分析の場合の変数の入出力基準は通法のp<0.15とした。

7 倫理的配慮

本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認(2019年4月12日,承認番号18156-190412)を得た。対象者に対しては本研究の参加理解・協力の文章をインターネットのアンケート画面に掲載し、研究参加に同意した者だけがその後のアンケートに進める方法で行った。

III 結果

1 健康食品の利用要因分析

表2-1に対象者男性の健康食品利用要因分析として行った二項ロジスティック回帰分析の結果を示した。男性の健康食品の使用動機には、健康食品に対するイメージとして[簡単に栄養補給が出来て便利](OR=5.67、95%CI=3.14-10.26)、[病状の改善に効果がある](OR=2.57、95%CI=1.19-5.55)、アレルギーの有無と種類として[アトピー性皮膚炎](OR=16.87、95%CI=3.49-81.64)、現病歴・健康診断等での指摘の有無と種類として[上記以外で,治療中の病気がある](OR=3.36、95%CI=1.47-7.68)、伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシー(OR=1.00、95%CI=1.00-1.01)が有意に関連していた。計量値である伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシーはオッズ比の比較する単位(k)を1標準偏差(86)に調整すると(OR=1.39、95%CI=1.38-1.39)であった。図1に伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシーのヒストグラムと1SD増加することのオッズ比の変化を示した。度数分布は非対称の凸型分布を示した。1標準偏差毎のodds_1sdの累積値は平均-3σを1.00とした場合、平均値前後(平均値±1σ)では1.9-2.7倍、平均値+3σでは5.17倍健康食品を選択する確率が高くなることが示された。続いて表2-2に対象者女性の結果を示した。女性の健康食品の使用動機には、健康食品に対するイメージとして[簡単に栄養補給が出来て便利](OR=7.18、95%CI=4.00-12.90)、学歴(OR=1.28、95%CI=1.04-1.59)、アレルギーの有無と種類として[食物のアレルギー](OR=6.69、95%CI=1.23-36.36)が有意に関連していた。学歴は学歴が高いほど健康食品を利用しているという結果であった。ヘルスリテラシーとの関連はみられなかった。

2 健康食品利用頻度の増加要因分析

表3-1に対象者男性の健康食品利用頻度の増加要因分析として行った重回帰分析の結果を示した。男性の健康食品の摂取回数増加には、健康食品に対するイメージとして[簡単に栄養補給が出来て便利](β=0.28、p<0.001)、[病気の予防に効果がある](β=0.14、p=0.0150)、アレルギーの有無と種類として[アトピー性皮膚炎](β=0.23、p<0.001)、現病歴・健康診断等での指摘の有無と種類として[上記以外で、治療中の病気がある](β=0.27、p<0.001)、伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシー(β=0.14、p<0.001)、治療の有無(β=-0.15、p=0.0280)が有意に関連していた。この有意結果は2健康食品の利用要因分析の結果と符合している。治療の有無は治療中の疾患のない人の方が健康食品の摂取回数が多いという結果であった。総ヘルスリテラシーやそれぞれの下位尺度との関連はみられなかった。続いて表3-2に対象者女性の結果を示した。健康食品に対するイメージとして[簡単に栄養補給が出来て便利](β=0.39、p<0.001)、[美容やダイエットに効果がある](β=0.11、p=0.0205)、アレルギーの有無と種類として[アトピー性皮膚炎](β=0.17、p<0.001)、[アレルギーのその他](β=0.14、p=0.0062)、学歴(β=0.17,p<0.001)、機能的ヘルスリテラシー×伝達的ヘルスリテラシー(β=0.14、p=0.0038)、婚姻状況(β=-0.09、p=0.0461)が有意に関連していた。本項目は2健康食品の利用要因分析の結果では有意ではない。学歴が高いほど、また未婚である人の方が健康食品の摂取回数が多いという結果であった。総ヘルスリテラシーやそれぞれの下位尺度との関連はみられなかった。

IV 考察

1 性差の取扱い

重回帰分析やロジスティック回帰分析において性別に解析するか、ダミー変数として変数の一つとして組み込んだモデルとするかは議論のあるところである。本研究では性差が交絡因子として働く場合、他の説明変数の種類によって性差が意味する交絡因子の内容が分析毎に異なる可能性17)がある。この点を考慮して解釈を容易にするため全ての分析を男女別に行った。

2 ヘルスリテラシーとの関連

本研究では、健康食品が食品扱いされているため医薬品と異なり、量的、質的な効果と安全性に関するエビデンスが希薄で規制が緩い健康食品の利用及び利用頻度にヘルスリテラシーとの関連があるのかを最重要の関心項目として検証した。その結果、利用の要因として男性にはヘルスリテラシーの交互作用を示す伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシーに有意な関連がみられた。ここで、説明変数がカテゴリー値でなく計量値の場合、単位となる数値(通常k=1)の設定には注意を要する。本研究は単位:kとして標準偏差等を用いることが妥当18),19)と判断し、この組み合わせのヘルスリテラシーの1標準偏差ごとのオッズ比であるodds_1sdは1.39であった。度数分布図とodds_1sdとの関係を示した図1において伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシーの1標準偏差ごとのodds_1sdの累積値は平均-3σを1.00とした場合、平均値前後(平均値±1σ)では1.9-2.7倍、平均値+3σでは5.17倍健康食品を選択する確率が高くなることが示された。一方で、女性には健康食品の利用とヘルスリテラシーとの関連は男性と違い交互作用に関しても有意差はみられなかった。この結果の違いは、健康食品の利用に際し疾病リスクの軽減を意識しているか否かと考えられた。疾病リスクの軽減を考える男性は、医薬品を購入するのと同様の意識で効能の情報を入手、理解、そして吟味し意思決定すると判断された。これに対して疾病リスクの軽減を男性ほどには意識していない女性は、軽く捉えて深く考えることなく利用の意思決定をするのではないかと推察した。そのいわば疾病に重きを置かない短絡的な思考がヘルスリテラシーが関連しない理由ではないかと考える。

表3-13-2に重回帰分析結果で示した利用頻度の増加要因として、男性はヘルスリテラシーの交互作用を示す伝達的ヘルスリテラシー×批判的ヘルスリテラシーが高度に有意であった。この傾向はロジスティック回帰分析でも有意であった。一方、女性は交互作用を示す機能的ヘルスリテラシー×伝達的ヘルスリテラシーとの関連が高度に有意であった。回数を問わず健康食品を使うだけなら軽い気持ちでできても、毎日使うにはより強い目的や根拠が必要と考えられる。そのためには必然的にターゲットとなる健康食品の情報をより多く入手し、より深く理解して意思決定をしなければならない。その行動は健康を意識した健康行動であり、結果として利用頻度の増加にはヘルスリテラシーとの関連がみられたものと推察される。ただ、この関連はヘルスリテラシー相互の交互作用であり男女で違った結果となっている。男女ともに関連のあった伝達的ヘルスリテラシーは健康食品の情報を得て理解する点で必要不可欠であったためと考えられる。男性は情報を入手、伝達、適用する能力と情報を批判的に吟味する能力が組合さり交互作用により利用頻度を増していると考えられた。これに対して女性は基本的読み書き能力と情報を入手、伝達、適用する能力が組み合わさり利用頻度を増していると判断された。男女の特性の違いとしては、一般に男性は客観的事実を優先し、女性は主観的意見を優先する視覚的能力の強さがあると指摘されている20)。これに従えば、このヘルスリテラシーの違いもそれになぞらえていると考えられた。機能的ヘルスリテラシーは情報を受ける、いわば受け身的な立場でそれらの情報を理解できる能力であり、その補完には、参考にする資料の読みやすさ、内容の理解のしやすさが重要とされるが、情報伝達の視覚的な見やすさも加えられている7)。つまり、機能的ヘルスリテラシーは見て読んで理解する力といえる。本研究におけるヘルスリテラシーと健康食品の選択の関係の係わりの違いから、男性は入手した情報を批判的に吟味、分析して摂取回数増加の意思決定を行っていると推察されるのに対し、女性は健康食品を紹介している媒体(資料)の真偽ではなく、いわば出来具合、イメージに左右されやすく摂取回数増加の意思決定を行っていると推察される。男性の特性から考えると論理的であり、女性の特性から考えると視覚的能力の駆使の違いである。そうであるならば、健康食品のホームページやガイドブックなどの情報は、男性に向けては論理的に女性に向けては視覚的に、安全性と効果的利用ができるような説明にシフトすることが有効と考える。

ヘルスリテラシーは教育を通して改善が可能であると言われており、わが国でも学校や職場、地域や医療現場においてヘルスリテラシーに着目した様々な取り組みが行われている7)。本研究で関連がなかったヘルスリテラシーから考えると、男性は利用と利用頻度において機能的ヘルスリテラシーの不足が考えられ、女性はヘルスリテラシーを発揮することなく健康食品を利用し、利用頻度においては批判的ヘルスリテラシーの不足が考えられた。関連するヘルスリテラシーに則した情報のあり方を工夫するとともに、不足したヘルスリテラシーを教育によって補完することができれば、より安全な健康食品の利用につながるのではないかと考える。

3 他の関連要因と男女の違い

利用及び利用頻度の両方において、健康食品のイメージとして男女とも[簡単に栄養補給が出来て便利]に高度に有意な関連がみられた。本来なら栄養補給は食事によって行われるものであるが、忙しく不規則な対応が求められる現代社会では時間短縮を図るため手軽なものを欲する傾向があり、利用者が健康食品を便利なものとして求めイメージしていることは想像に難くない。またアレルギーのアトピー性皮膚炎も利用頻度の要因として男女ともに高度に有意に関連していた。利用の要因としてもアレルギーは関連しており、アレルギー体質の改善を健康食品に求めているのではないかと推察される。例えば、腸内環境とアレルギーの関係が最近注目されている。こうした健康情報の流布に沿う形で健康食品でのアレルギーの改善を謳った宣伝が多い。アレルギーの中でも特にアトピー性皮膚炎はその経過が長期にわたり皮膚炎の寛解再燃を繰り返すことで知られており、症状が目に見えるために精神的な苦痛も大きく、患者は治す方法を探し求める21)という報告がある。こうした背景から利用及び摂取回数増加につながったのではないかと考えられる。

他にも、男性は利用において、健康食品に対するイメージで[病状の改善に効果がある]という根拠の薄い認識22)を持っており、健康食品に対して医薬品と同様の効果を期待していると考えられた。また利用頻度では「病気の予防に効果がある」とイメージしており、利用及び利用頻度において現病歴・健康診断等での指摘の有無と種類で[上記以外で治療中の病気がある]が有意となり、自身の疾病リスクを強く意識していることがうかがえた。

女性は利用及び学歴が高いことと利用頻度が有意な関連にあり、婚姻状況も利用頻度と有意な関連(未婚の利用頻度が高い)があった。男性は20代を境に自意識が安定もしくは下降するが、女性の場合は年を重ねることで公的・私的自意識ともに顕著に高くなる23)ことが示されており、また健康食品に対するイメージ[美容やダイエットに効果がある]にも有意な関連がみられたこともあって、美容に力を入れていると考えられる。学歴の高い女性は社会進出している者が多く収入もあり、既婚に比べて未婚の方が自分自身への投資も行いやすいことが利用及び摂取回数増加につながったと考える。

利用及び利用頻度の要因においてヘルスリテラシー以外で男女に違いがあったのは、男性は有意となった要因の多くが疾患に関することであり、一方女性は美容に対する意識である。健康食品の効能を意識する際の男女間の違いは、男性の関心が疾病リスクの軽減、女性が美容ということに重点が置かれると推察される。

本研究の限界として、第一に、本研究は横断研究であるため健康食品の利用とヘルスリテラシーの因果関係までを明確にすることはできない。第二に対象者がインターネットアンケートモニターであったため情報の取扱いに長けていた可能性があり、一般的消費者のヘルスリテラシーより得点が高かった可能性を拭えない。第三に健康食品利用後の健康アウトカムが不明であるため、その要因の是非を評価できない。今後はより幅広い対象者について検討するとともに、健康アウトカムを含む調査の実施を検討するべきである。

V 結論

男女ともアトピー性皮膚炎等の何らかの[アレルギー]体質を訴えた人の健康食品利用が高度に有意であった。しかしながら、この効能については利用者のニーズに合わせてメーカーが重点的に宣伝している可能性が高く功罪について検証が必要である。次いで[健康食品の利便性]に関する有意性が高かった。一方ヘルスリテラシーとの関連は性差が顕著であり、男性は、情報を論理的に収集して批判的に意思決定した場合健康食品を多用し、一方女性は機能的な視覚的能力を駆使し、美容を中心とした情報に関連して健康食品に関心を持つ傾向が捉えられた。本研究の結果、ホームページやガイドブックなど健康食品の情報は男女間の関心の共通性と重心の違いがある点を意識し、男性に向けては疾病リスクを中心とした効能と安全性に関する内容を論理的に示し、女性に向けては美容やダイエットを中心とした内容を、安全性も合わせて確認できるような視覚的にわかりやすい説明にシフトすることが個々個人のヘルスリテラシーの機能を高め健康食品の安全利用に効果的と考える。また、関連するヘルスリテラシーに則した情報のあり方を工夫するとともに、不足したヘルスリテラシーを教育によって補完することができれば更に、より安全な健康食品の利用につながるのではないかと考える。

謝辞

本研究を実施するにあたり、ご協力を頂いた調査対象の皆様に深謝する。また、研究遂行の過程で貴重な示唆を頂いた大学院医療情報・経営管理学専攻(分野)拡大院生研究会の皆様に感謝申し上げる。

利益相反

本研究において、利益相反に該当する事項はない。

References
 
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