Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
[title in Japanese]
[in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 21 Issue 3 Pages 139-140

Details

【はじめに】

支援機器は、これまでの補装具や日常生活用具の範囲にとらわれず、障害者の生活を支援する幅広い範囲を包含する機器の総称であり、障害のある方々にとって生活機能をよりよくするために欠かせない環境因子である。しかしながら、一般の製品と比べると様々な特殊性があり、その開発から効果的な利用に至る過程において、多くのボトルネックが存在している。それらを背景として、現在厚生労働科学研究において「障害者の支援機器開発に携わる医療・福祉・工学分野の人材育成モデル構築に資する研究」(研究代表:出江紳一)が実施されており、本稿では、そこで取り組んでいる人材育成モデルに関して、特に工学研究者の立場から概説する。

【支援機器開発促進のための枠組みと考え方】

支援機器開発をむずかしくしている要因としては、以下のような事項を挙げることができる。

・障害のある人が使うものである

・開発する人が使う人の状況を把握しにくい

・生活のなかで使うものなので、利用場面が多様である

・開発から利活用に至る過程で、多様なステークホルダが関わる

・ステークホルダ間の情報共有が難しい

・障害当事者や医療福祉専門職の関わりが欠かせない

・新たな技術の導入による開発リスクが高い

これらの課題を解決し、効果的な機器開発を進めていくために、支援機器の開発から利活用に至るプロセスをサイクルとして考え、そこに関わるステークホルダを図1のような支援機器開発・利活用ハートサイクルとして整理した。ここには、利用者や家族等の支援者を中心に、医療福祉専門職、研究者、エンジニア、技術者、デザイナ、試験機関、企業、行政機関など、多くのステークホルダが存在し、それぞれの役割を担っている。さらに、これらのステークホルダが情報を共有し効果的な支援機器の利用に向けた取り組みを協働で行うことが重要となる。

【支援機器開発に関わる人材育成モデルプログラム】

図1のサイクルにおいて、機器開発は主に右半分のプロセスとなる。しかしながら、前述のようにサイクルに関わるすべてのステークホルダが機器開発に関わることが重要となる。本研究では、医療機器の開発の手法として発展してきたバイオデザインを、支援機器開発に取り入れることで、新たな人材育成モデルプログラムを構築している。

ここでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士およびその養成教育機関の学生を、主とした対象として想定し、支援機器開発に携わる機会のある医療福祉専門職が、開発に効果的に関与し関係者とスムーズなコミュニケーションを図るために、ニーズ発の開発プロセスについて理解することを目的としている。また、新しい支援機器の開発普及について、自身のキャリアパスを拡げるために、専門的技術を応用できる機会として位置づけることも視野に入れている。

プログラムの概要を以下に示す。

①受講者の理解進捗に合わせて、入門編となる講義形式(90分×1回)と、応用編となるワークショップ形式(180分×1回)の2つを用意する。

②新型コロナウィルス感染防止を考慮し、講義についてはオンラインでも受講できるものを用意する。ワークショップモデルについては、対面でなければ理解度が下がる可能性があり、できるだけ対面で実施する。

③ワークショップでは、ケーススタディの題材を使用する。バイオデザインプログラムでは医療福祉の現場を観察するが、本ワークショップでは現場観察を実施せず、代替として支援機器用のケースを用意して、それも基に議論を進める。

④文部科学省の単位交換プログラムの制度に載せることで普及を図ることを想定する。

これまでに、プログラム案のα版を作成し、試行を実施している。

【おわりに】

本稿では、工学者の立場から、支援機器開発の課題を整理すると共に、開発から利活用までを効果的に進めるための支援機器開発・利活用ハートサイクルを示した。さらに、得られた課題の解決策として取り組んでいる、バイオデザインの手法を取り入れた支援機器にかかわる人材育成モデルプログラムの概要を説明した。

今後は、現在進めている試行の結果をふまえ、改良を重ねていく予定である。

 
© Niigata Society of Health and Welfare

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top