Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Examination of the results of the "Children receiving Medical Care and Their Family Life Survey Report" by the Ministry of Health, Labor and Welfare and 1 after subsequent legal support.
Yumiko Matsui
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2022 Volume 21 Issue 3 Pages 92-99

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Abstract

2020年度「厚生労働省医療的ケア児者とその家族の実態調査報告書」のアンケート結果について考察し、医療的ケア児者と家族の置かれている厳しい生活状況が明らかになった。その後の国による法的整備などによって、相談支援などは強化されつつあるがすぐには改善される状況にはなく、さらなる支援が期待される。特に医療的ケア児支援センターの整備による地域格差のない支援が望まれる。

Translated Abstract

In this paper, I analyzed the 2020 "Children receiving Medical Care and Their Family Life Survey Report" by the Ministry of Health, Labor and Welfare, and show the harsh living conditions that many children receiving medical care and their families face. Although support measures were strengthened by subsequent government legislation, the situation has still not yet improved and further support is expected. In particular, it is desirable to provide support without regional disparities by establishing a national support center for children receiving medical care.

はじめに

日本医師会小児在宅ケア検討委員会によれば、新生児集中治療室(neonatal intensive care unit: NICU)や小児集中治療室(Pediatric intensive care unit: PICU)で救命されて、人工呼吸管理や気管切開、経管栄養などの高度医療的ケアを必要としたまま退院する乳幼児が急速に増えており、2011 年度には850 人であったが、2016 年度には1,333 人に急増していると報告している1)。その後、2020年の厚生労働省「医療的ケア児者とその家族の実態調査報告書」2)によれば、医療的ケアを必要とする児童は2020年に全国に約1万8千人と推測され、増加はより一層加速されようとしていることがわかった。医療的ケア児が増加している背景について、中村は低出生体重児の増加があり、その要因として若年女性のやせ願望、晩婚高齢出産の増加、多胎での出生の増加、妊婦健診の未受診といった社会的要因と、新生児管理の進歩によるハイリスク妊婦の分娩時期の早期選択も関与している可能性があると述べている3)

特別支援学校における医療的ケアは昭和54年(1979年)の養護学校義務制をきっかけに、重度の障害のある児童生徒等も全員就学となり、家庭だけでなく教育や福祉の場において、医療的ケアが行われるようになった4)。学校における医療的ケアは特定行為(口腔内喀痰吸引、鼻腔内の喀痰吸引、気管カニューレ内の喀痰吸引、胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養、経鼻経管栄養)で一定の研修を受けたものが一定の条件のもとに実施できるものと、医行為(特定行為以外の学校で行われている医行為)とがあり、これは看護師が実施できるものである5)。医療的ケア児が急増する中、特別支援学校における教員や看護師の連携もますます重要となってきているが、石原らは教員は医療的ケアを教育環境を整える一部の要素としてとらえ、一方看護師は医療的ケアを医行為として捉え、児童生徒の解決すべき健康問題として捉えているなど認識の違いがある中で組織的に看護師と教員との連携・協働が可能となる体制整備が求められると話す。6)

このように特別支援学校を中心に、医療的ケア児とその家族への支援は整備されつつあるが、対象となる医療的ケア児とその家族の置かれている状況について、特にその家族の困難さに焦点を当てて調査を行ったのが前述した厚生労働省の「医療的ケア児者とその家族の実態調査報告書」(以下本報告書とする)であり、医療的ケア児の状況のみでなく、家族の生活状況も含めて調査が行われており、医療的ケア児とその家族の生活の実態が明らかにされている。調査に当たった実施者は、特に医療的ケア児及びその家族が日常生活を行う上で困難に感じていることや、不安に感じていることに焦点を当てており、医療的ケア児者とその家族の心理面も含めた調査内容としたと述べている。本稿では前半に本報告書に示された内容から、明らかになった医療的ケア児とその家族の抱える問題について取り上げ、その結果について考察を交えながら概説する。その上で、後半に本報告書で明らかになった医療的ケア児と家族のニーズに対して、どのような公的支援と法整備がなされたかについていくつかの法律や文書を取り上げ紹介する。

I 医療的ケア児と家族の実態

本報告書における医療的ケア児の定義は「日常的にたんの吸引(口、鼻や気管切開から)や経管栄養(鼻からのチューブや胃ろう)、酸素療法、人工呼吸器使用などの医療的ケアが必要な児童」とされている。調査目的は、医療的ケア児者とその家族の実態を明らかにし、医療的ケア児者とその家族の将来に向けて、社会的支援、制度のあり方を検討していく材料を提供することであった。その内容は生活実態調査と自治体調査に分かれ、医療的ケア児を対象にWEB調査と事例調査を実施し、自治体については都道府県と市区町村を対象に医療的ケア児とその家族への社会的支援、制度について調査している。調査実施期間は令和元年(2019年)11月18日から令和元年(2019年)11月30日であった。この調査結果から医療的ケア児とその家族が置かれた状況について調査時点での実態が明らかにされた。

本報告書の回答者843名の居住地域は東京都23.1%、神奈川県7.1%、栃木県6.5%、と関東地域に集中しており、その他は分散している。回答者は主にケアを行っている人であり、母94.0%、父5.3%でほぼ母親であった。家族形態は「夫婦と子のみの世帯」が76.6%で最も多く、「3世代世帯」14.1%、「ひとり親と子のみ」6.8%であった。家族形態をみても核家族が多く、医療的ケア児の育児負担は母親へ集中していることが容易に想像できる。

日常生活圏での主な移動手段は自家用車80.8%で最も多く、公共交通機関10.2%、タクシーは福祉タクシーを含めて6.3%であった。この結果からわかるようにスクールバスは利用されておらず、家族による送り迎えが8割を占めている。社会福祉法人キャラマードによれば、このような医療的ケア児の登下校時に、保護者等の付き添いが必要な理由のひとつとして、医療的ケア児の多くがスクールバスを利用できないことを挙げている7)。また、令和元年(2019年)にスクールバスで起きた医療的ケア児の死亡事故を受けて、文部科学省は移動中の対応は危険性が高く看護師等による対応が必要であり、看護師等が対応する場合であっても慎重に対応することと通知している8)

医療的ケア児の年齢は3歳が9.6%と最も多く、1~5歳までの幼児に集中し、6~9歳の小学校低学年がそれに続く。その後年齢が上がるにつれて少しずつ減少傾向にあった。医療的ケアが必要になった理由は、先天性の病気63.8%、後天性の病気19.7%、事故5.3%、その他11.2%で、その他の内訳は「出産時のトラブル」、「超低体重出⽣児」、「原因不明」、「検査中」であった。医療的ケア児の6~7割は重症心身障害もあると言われている。重度の肢体不自由、すなわち「座位までの運動機能」と、重度の知的障害「IQ35以下」を併せ持つ障害児は、大島の分類9)1~4に相当し、このような障害児を「重症心身障害児者」10)と判断しており、医療的ケアを必要とするケースが多いが、医療的ケアを必要としない「重症心身障害児者」も存在し、明確に区別する必要がある。

必要とする医療的ケアの内容(複数回答)は、経管栄養(経鼻・胃ろう・腸ろう)が74%と最も高く、吸引(気管内、口腔、鼻腔内)69%、ネブライザー40.1%、酸素吸入37.5%、人工呼吸器管理33.0%と続いている。そのほか、鼻咽頭エアウェイ2.3%、人工肛門1.3%、IVH(中心静脈栄養)1.1%、継続する透析(腹膜灌流を含む)0.4%で多岐にわたっていた。その他は12.0%で内容はインシュリン注射、血糖値測定、成長ホルモン注射、浣腸、膀胱ろう等であった。NICU 等(NICU 又は ICU(PICU))の入院経験のある児は「吸引」や「人工呼吸器」など、高度な医療を必要としていることが多いという調査結果もある11)。また、一人の子どもは複数のケアを必要としていることが多い。日常的に必要な医療的ケアの大変さを測る指標の一つに、障害福祉サービスにおける医療的ケア判定スコアがあり、これについてもその後令和3年度障害福祉サービス等報酬改定により新判定スコア12)が示されている。

医療的ケア児から5分以上目を離せるかについては、できる59.2%に対して、できないが40.8%で高い割合を占めている。この質問への回答は医療的ケア児をもつ家族の負担がいかに大きいかを示しており、朝から晩まで一日中、息つく暇もなくひたすら児のケアを担い続ける特に母親の姿が浮かび上がってくる。現在利用しているサービスでは、計画相談支援51.8%、短期入所35.2%、児童発達支援33.2%であるが、最も利用したいサービスは緊急預かり支援69.5%、短期入所45.4%、日中一時支援45.4%とわずかな時間でも児を預かってほしいという願いが高い割合に反映しており、訪問レスパイトも45.3%とニーズが高い。特に緊急預かり支援は7割近く、サービスの提供が最も必要とされている。前述したように4割が5分以上目を離せないと回答しており、医療的ケア児の家族の過酷な状況が明らかにされた。そのような家族にとって、最も必要とされるサービスを提供することが求められており、緊急預かり支援、短期入所、日中一時支援についてはて早急に利用サービスの提供が求められる。まずは相談できる専門職者の存在は重要と思われるが相談支援専門員13)に依頼している内容は「サービス利用計画の作成」95.8%、「必要なサービスについての相談支援」73.6%、「利用可能なサービス・事業所の確保」50.2%といずれも高い割合であり、医療的ケア児と家族にとって最も必要とされるサービスの提供者となっている。障害福祉サービス等の利用にあたっての課題は、「医療的ケアに対応可能な事業所が十分でない」78.6%と最も多く、「医療的ケアに対応できる職員が少ない」も63.0%となっている。「利用できるサービスの種類が十分でない」は42.3%であり、サービスの窓口となる事業所の増加が望まれるが現時点では受けられる障害福祉サービスの不十分さが指摘されており、さらなる充実化が望まれる結果となっている。

「医療的ケア児者の家族の抱える日々の生活上の課題と必要なサービス10 項目についての調査」では「医療的ケアを必要とする子どものそばからひと時も離れられない」、「トイレに⼊るのにも不安がつきまとう」に「当てはまる」が14.5%、「まあ当てはまる」23.5%で、計38.0%と、一日中気が休まらない家族の負担が具体的に明らかになった。障害の程度による違いが大きいと思われ、一見低い値と思われる数値であるが、トイレに行く時間も目を離せない重度な障害を持つ家族の負担は想像を超えており、児の障害に応じた個別の支援の在り方が望まれる。状況を改善するために必要なサービスについて「日中のあずかり支援」69.7%、「訪問による在宅ケア(看護)の支援」60.9%、「学校や通所サービスにおける看護の支援」59.4%と、サービスに対するニーズはどれも非常に高かった。ここでも預かり支援の希望が多く、訪問によるサービスやレスパイトケアなどへの要望が高いことがわかる。平成18年(2006年)施行の障害者自立支援法14)において、相談支援専門員が養成され、平成30年(2018年)に研修体制の見直しが検討され、平成31年(2019年)から障害者ケアマネジメント従事者養成研修を3障害統一のものとして改定した相談支援従事者研修(初任者研修・現任者研修)が都道府県レベルで実施されている。平成31年(2019年)4月1日現在22,631人の相談支援専門員が業務に従事しており、医療的ケア児の家族から需要の高い障害児のサービス相談への速やかな対応が期待されている。

家族以外の方に、医療的ケアを必要とする子どもを預けられるところがない状況にあるかについて「当てはまる」33.0%、「まあ当てはまる」24.0%で、半数を超えている。状況を改善するために必要なサービスは、日中のあずかり支援」75.6%、「学校や通所サービスにおける看護の支援」56.3%、「宿泊でのあずかり支援」54.0%の順に多く、いずれも高い値を示している。「放課後等デイサービス」とは児童発達支援管理責任者が作成する個別支援計画に基づいて、自立支援と日常生活の充実のための活動などを行う事業であるが、「日中一時支援」15)は保護者の都合で一時的にお預かりをするサービス事業である。日中一時支援事業 は日中において監護する者がいないため、一時 的に見守り等の支援が必要な障害者等 の日中における活動の場を確保し、障害者等の 家族の就労支援及び障害者等を日常的に介護 している家族の一時的な休息を図ることを目的としている。特別支援学級の下校後に活動する場 (放課後対策)、家族のレスパイト 短期入所(日中預かり)、知的障害者・障害児のショートステイ(日中預かり)、 日中一時支援事業と児童デイサービス (児童デイサービス・タイムケア事業 、 身体障害者・知的障害者のデイサービス 事業)などがある。

登校や施設・事業所を利用するときに付き添いが必要である状況にあるかについて、「当てはまる」43.2%、「まあ当てはまる」17.7%で合計60.9%と付き添いの必要性は高い。状況を改善するために必要なサービスは、「送迎等の移動支援」65.1%、「学校や通所サービスにおける看護の支援」61.0% が多かった。移動支援に関しては障害の特徴や、一人一人様々なニーズがあり最近では市町村単位でヘルパーを派遣し、付き添うことで個別に対応できるサービスも増えており、自治体によって違いはあるが地域に沿った支援が期待できる16)

医療的ケアを必要とする子どもが、年齢相応の楽しみや療育を受ける機会がない状況にあるかについて、「当てはまる」24.3%、「まあ当てはまる」24.0%で合計は48.3%であった。状況を改善するために必要なサービスは、「学校や通所サービスにおける看護の支援」66.3%、「療育・発達支援」54.8%、「送迎等の移動支援」43.5%の順に多く、送迎や移動サービス、看護支援、相談支援、緊急時支援を望んでいる。「障害児の移動支援についてのヒアリング」17)ではヘルパー自身が運転する車による通学支援も必要との意見が聞かれている。

医療的ケアを必要とする子どものことを理解して相談に乗ってくれる相手がいない状況にあるかについて、「当てはまる」7.6%、「まあ当てはまる」18.6%で、合計26.2%であった。状況を改善するために必要なサービスは、「相談支援」が72.4%と高率であった。支援者となるのは前述した相談支援専門員であるが、先に述べたように都道府県によって違いがあり、いつ、どこでも相談できる体制が求められる。

医療的ケアを必要とする子どもを連れての外出は困難を極める状況にあるかについては「当てはまる」28.8%、「まあ当てはまる」36.5%で、合計は、65.3%であった。状況を改善するために必要なサービスは、「送迎等の移動支援」57.9%、「外出時のヘルパー同行支援」48.5%、「日中のあずかり支援」35.6%の順に多かった。移動に関する支援のニーズは高く、厚生労働省でも議論の対象となっており、速やかな対応策が望まれる。

急病や緊急の用事ができた時に、医療的ケアを必要とする子どもの預け先がない状況にあるかについて、「当てはまる」63.1%、「まあ当てはまる」19.6%で、合計は、82.7%と高率であった。この回答は医療的ケア児の家族が孤立した生活状況にあることをとよく示している。状況を改善するために必要なサービスは、「宿泊でのあずかり支援」76.0%、「日中のあずかり支援」71.6%が多かった。厚生労働省の日中の一時支援事業と児童デイサービス18)は、日中において監護する者がいないため、見守り等の支援が必要な障害者等 の日中における活動の場を確保し、障害者等の 家族の就労支援及び障害者等を日常的に介護 している家族の一時的な休息を図ることを目的としている。また、知的障害者・身体障害者についても利 用 可(年齢要件を緩和)としており、障害のある子どもが、専門家等の支援を受けながら、原則として一般施策によるサービスを受けることを目指す方向を示している。

医療的ケアに必要な費用で家計が圧迫されている状況にあるかについて、「当てはまる」17.6%、「まあ当てはまる」21.6%、合計は、39.2%であった。医療的ケアを必要とする子どもの支援に関することで、何度も行政窓口や事業所に足を運ぶ状況にあるかについて、「当てはまる」29.9%、「まあ当てはまる」26.0%で、合計は、55.9%であった。障害の程度により、働くことができず、やむなく離職して児のそばを離れることができない家族にとっては経済的支援が欠かせない。平成31年3月に厚生労働省より発令された「医療的ケア児等総合支援事業の実施について」19)では都道府県レベルで医療的ケア児コーディネーター養成研修や配置、医療的ケア児の家族支援として家族負担を軽減するための看護職員の派遣や経費の補助が含まれており、都道府県による格差のない支援が期待される。

家族の抱える生活上の悩みや不安等についての状況を尋ねたところ、「当てはまる」、「まあ当てはまる」の合計割合は、「慢性的な睡眠不足である」71.1%、「いつまで続くかわからない日々に強い不安を感じる」70.4%、「自らの体調悪化時に医療機関を受診できない」69.7%、「日々の生活は緊張の連続である」68.0%ですべて6割を超える高い割合を示した。日々の生活は緊張の連続で、睡眠不足であり不安を感じている様子がうかがえる。この件に関しても前述した「医療的ケア児等総合支援事業の実施について」の内容にある看護職員の派遣などにより、レスパイトの時間確保が可能になるなどの支援が期待される。

家族が日々の生活で行いたいことは「家族一緒に外出や旅行する」96.8%、「自分のための時間を持つ」96.7%、「家中の掃除をする」95.1%、「健康診断にいく」94.8%、「趣味を楽しむ」94.4%の順に多くいずれも90%を超え、すべての家族の切実な願いであることが伝わってくる。外出や、旅行はもちろん、自分のための時間や健康診断にも行けないという状況にもやはり看護職員の派遣やレスパイトケアの確保は有効と考えられ、1日も早いサービスの拡大が望まれる。

行いたいと回答した項目について、現在の実施状況を尋ねたところ、「問題なく行えている」は、「美容院に行く」17.4%、「家族一緒に外出や旅行する」17.2%であった。「かろうじて行えている」は、「美容院に行く」59.3%、「きょうだい児だけと過ごす時間を持つ」59.0%、「家中の掃除をする」55.5%であった。「行えていない」は、「資格取得のための学習をする」83.9%、「ボランティア活動をする」78.5%、「希望する形態で仕事につく」75.6%が多かった。兄弟支援の必要性を改めて感じるとともに、かろうじて行えている内容が「美容院に行く」と「きょうだい児だけと過ごす時間を持つ」であることから、家族の日常生活を営む中での切実なる思いが感じらえる。この項目は最も家族のQOLの低さを示すもので、日常生活の援助をいかに必要としているかを実感するものであった。

以上が本調査の内容であるが、睡眠不足は当たり前のように続き、家族旅行はもちろん、掃除や健康診断、趣味の時間や美容院に行くことなど、普段の生活であたり前のようなことが難しい状況にある医療的ケア児とその家族の実態が明らかになった。

II 2020年以降の医療的ケアに関連する法律とその内容

前述した「医療的ケア児と家族の実態」報告書以降に出された公的な医療的ケアに関する通知や事務連絡等から、主に法律等の内容について発令された公文書等は以下の1~6である。

1.「医療的ケア児に関わる主治医と学校医等との連携等について(通知)」20)令和2年(2020年)3月16日、文部科学省初等中等教育局長発、各都道府県・指定都市教育委員会他宛

この通知は医療的ケア児が学校生活を送るにあたって必要な情報を主治医が提供した場合の評価が新設されたことを踏まえ、主治医から学校医等への診療情報提供に基づく医療的ケアの流れやその際の留意事項等を整理したもので、医療的ケア児の教育機会や医療安全を確保するためのものと説明されている(図1参照)。この通知は主治医からの診療情報提供に基づき、学校医等の指示の下で、看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師。以下「学校配置の看護師等」という。)が医療的ケアを行う際の具体的な流れやその際の留意事項を整理したものである。そのほか、学校における対応(医療的ケアの内容)などを保護者に説明し同意を得ることや、学校配置の看護師等は学校医の指示の下で関係する教員や養護教諭と連絡を図り、訪問ステーションから学校への情報提供を得る等、幅広く各職種間の連携と情報共有を強化した内容である。

2.「医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)の活用にいて(周知依頼)」21)令和2年(2020年)8月7日文部科学省初等中等教育局特別支援教育課他、各都道府県・指定都市教育委員会他宛

MEIS:Medical Emergency Information Shareは医療的ケアが必要な児童等が救急時や、予想外の災害、事故に遭遇した際に、その対応に当たる医師・医療機関(特に救急医)等が迅速に必要な患者情報を共有できるシステムで、医療的ケア児等が医療機関に搬送された際、MEISのホームページにアクセスすることで救急サマリー(MEISに登録された情報のうち救急現場で特に必要性が高いと想定される項目情報を抽出したもの)を閲覧可能にする。現場で引率の教員や同行する看護職員から救急医等に救急サマリーを提示することも可能となっている。MEISの情報は基本情報、診察記録、ケア記録、救急サマリーの4つの情報に分かれ、家族や緊急連絡先、主治医やかかりつけ医、支援事業所や常用薬、輸血・検査記録、診療情報、ケア情報を入力可能である。このシステムは厚生労働省のホームページに利用手順(本人・家族用と主治医用)もあり、どこでも使用できる。情報内容には、常用薬や診察情報には人工呼吸器画像が取り込み可能で緊急搬送時などにも救急隊員が迅速に情報を得て対応でき救命に貢献できるシステムとなっている。特に災害時などに有効活用でき、安心な生活の保障につながる。

3.「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の公布について」22)令和3年(2021年)6月18日内閣府子ども・子育て本部統括官他発、各都道府県知事他宛

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の公布についての通知である。法の目的は国、地方公共団体の責務を明らかにするとともに、保育および教育の拡充に係る施策その他、医療的ケア児支援センターの指定等についても定め、医療的ケア児の健やかな成長を図り、その家族の離職の防止など、安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することとしている。ここで改めて、医療的ケアの定義が示され、定義を、「人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為」とし、医療的ケア児の定義を、「日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である児童(18歳未満の者及び18歳以上の者であって高等学校等(学校教育法に規定する高等学校、中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部をいう。以下同じ。)に在籍するものをいう。)」としている。基本理念には「医療的ケア児の日常生活及び社会生活を社会全体で支えること」、「医療的ケア児でない児童と共に教育を受けられるよう最大限配慮すること」、「個々の医療的ケア児の年齢、必要とするケアの種類及び生活の実態に応じた支援を医療、保健、福祉、教育、労働等の業務を行う関連機関及び民間団体の緊密な連携のもとに切れ目なく行うこと」、「医療的ケア児が18歳に達し又は高等学校卒業後も適切な保健医療福祉サービスを受けられるように配慮すること」、「医療的ケア児およびその保護者の意思を最大限に尊重すること」「医療的ケア児とその家族が居住地域に関わらず等しく適切な支援を受けられようにすること」が明記された。教育を行う体制の拡充等について、学校の設置者は在籍する医療的ケア児が保護者の付き添いがなくても適切な医療的ケアその他の支援を受けられるようにするため、看護師等の配置その他の必要な措置を講ずることや、国及び地方公共団体は看護師のほかに学校において医療的ケアを行う人材の確保を図るため、介護福祉士その他の喀痰吸引等を行うことができるものを学校に配置するための環境整備その他の必要な措置を講ずるものとしている。

4.医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律23)令和3年(2021年)6月18日 法律全文

5.「小学校における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全にうけいれるために~」24)令和3年(2021年)6月文部科学省初等中等教育局特別支援教育課あて(通知)文部科学省初等中等教育局長発、各都道府県教育委員会教育長他宛

「小学校における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全にうけいれるために~」は第1編医療的ケアの概要と実施者、第2編小学校等における受け入れ態勢の構築、第3篇医療的ケアの状態に応じた対応の3つで構成されている。学校における医師や看護職、介護福祉士や介護職員などによる医療的ケアの実施者や各職種の役割と職種間や訪問ステーションとの連携なども明記された。主治医から学校医等への情報提供やMEISの活用についても説明されている。第3篇では医療的ケア児の状態に応じた対応が図や写真でわかり易く詳細に説明され取り上げられたケアの内容は喀痰吸引、人工呼吸器による呼吸管理、酸素療法、気管切開部の管理、経管栄養、導尿、人工肛門管理、血糖値測定、インシュリン注射と多岐にわたり、それぞれに教職員が教育活動を行うにあたって留意することが詳細に説明されている。

6.「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の施行に係る医療的ケア児支援センター等の業務等について」25)令和3年(2021年)8月31日厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害児・発達障害支援課、障害児・発達障害者支援室発、各都道府県障害児支援主管部(局)宛

様々なニーズを抱える医療的ケア児の家族がどこに相談すれば適切な支援につながるのかわかりにくいという課題があり、都道府県及び支援センター(以下支援センター等)が医療的ケア児等に対して行う相談支援の「情報の集約点」になることとしている。医療的ケア児支援センターの支援に当たっては地域の医療、保健、福祉、教育、労働等の外多機関が連携して支援に当たることが重要であるとしているが、必ずしも連携が円滑に行われているとは限らない状況にあるとして、まずはどこに相談すればよいかわからない状況にある医療的ケア児の家族等からの相談をしっかり受け止め、関係機関と連携して対応するとしている。しかし。今のところ、すべての都道府県に支援センターが設置されているわけではなく、支援センターの施設設備、人員基準などもさだめられておらず拠点化された状況には至っていないため今後の早急な整備が望まれる状態にある。

おわりに

1~6の通知や法律は本報告書の結果を参考にして、医療的ケア児とその家族のために必要なサービスが検討され、反映された結果、法整備が行われ、サービスが提供されるようになったと思われる。特に4の「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が公布されたことは大きな進歩であり、何よりも医療的ケア児とその家族や支援者の方々にとっても待ち望んだ法整備である。医療的ケア児の家族にとっては、自分の時間をもつことや、医療的ケア児の兄弟との時間をもつことを強く望んでおられたが、この法的整備によって少しずつでもいいのでそのような時間が生まれることを期待したい。新しい体制やサービスが急速に盛り込まれていると感じたが、6の相談の拠点となるべき医療的ケア児支援センターは、まだ整備の途中であり、機能している状況とは思えない。都道府県で格差のない支援を提供できるよう、国のリーダーシップが求められる。

本報告書で明らかになった医療的ケア児とその家族は、障害の状態もケアの内容も家族の状況もすべて違い、医療的ケア児とその家族一人一人のニーズに個別に対応できるきめ細やかな支援が求められている。考察をとおして、医療的ケア児とその家族が忙しい日常の中で、少しでも自分のための時間をもてるような、ささやかな願いが叶えられる社会でありたいと願う。

References
 
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