Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Outbreak of infected patients in Niigata Prefecture during the COVID-19 Omicron strain epidemic (6th wave)
Riko MinagawaAsuka NamizukaRena HamanoNobuko TomiyamaNaohiko KinoshitaToru TakiguchiKazuo Ishigami
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2023 Volume 23 Issue 2 Pages 17-29

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Abstract

2022年1月18日から4月17日まで、新潟県内で発生した各日ごとのCOVID-19オミクロン株流行時(第6波)の感染者数を9施設別、県立12保健所と政令市の新潟市別に区分し、集団発生の状況について分析した。施設は幼保、学校、高齢者施設、福祉施設、企業、医療施設、スポーツ施設、官公庁、飲食である。総感染者数、継続日数、1日当たりの最大人数も大きく異なっており、施設規模や構成集団の特徴を踏まえた上で拡大防止策を講ずる必要があることが分かった。幼保や学校、福祉施設や企業などは感染者数が爆発的に増加する例があり、また、幼保や学校、高齢者施設や福祉施設などでは長期に感染が継続するなどの例が散見された。これらの施設では初動時を的確に捉えクラスターを早期に抑え込むなどの積極的な対策を講ずる重要性が確認できた。 5人規模を集団発生とする追跡は、発生した感染者総数の約半数を捉えることができ有効性を示したが、集団発生規模を10人以上とすると、捉える網目が大きすぎて捕捉率は極端に低下し感染を抑え込むためには不十分と考えられた。オミクロン株が無症状や軽症例のまま経過することが多く感染連鎖を確認することが難しい特性があり、さらに膨大な感染者数の下では疫学調査を行うにも人的資源に大きな限界があったとは言え、集団発生を的確に捉え早期対策を行うことにより、感染の連鎖を防ぐことが重要であることがわかった。

Translated Abstract

From January 18, 2022 to April 17, 2022, we recorded the daily number of infected people during the COVID-19 Omicron strain epidemic (6th wave) that occurred in Niigata Prefecture by 9 facilities and 12 prefectural public health centers, and Niigata City, which is an ordinance-designated city, and analyzed the occurrence of these clusters. There are nine categories of facilities: kindergartens, schools, facilities for the elderly, welfare facilities, companies, medical facilities, sports facilities, government offices, and restaurants.

As a result, when looking at each facility where clusters occurred, the total number of infected people, the number of consecutive days, and the maximum number of people per day differed greatly. There have been cases of explosive increases in the number of infected people in kindergartens, schools, welfare facilities, and companies, and there have also been cases of long-term infections in kindergartens, schools, facilities for the elderly, and welfare facilities. We confirmed the importance of taking proactive measures such as accurately capturing the initial movement and suppressing clusters early.

Tracking clusters of 5 people was effective in capturing about half of the total number of infected people who occurred, but if the cluster size is 10 or more people, the mesh is too large and the capture rate is extremely low. However, it was found that it was inadequate to suppress the infection.

Omicron strains often remain asymptomatic or mild cases, making it difficult to confirm the chain of infection. However, it was confirmed that the chain of infection would not be maintained unless a cluster was formed, and it is considered that measures against clusters in Niigata Prefecture have achieved a certain degree of success under difficult circumstances.

I はじめに

2021年末から再度COVID-19感染者数の爆発的増加が始まり、2022年1月には第6波となった。国ではCOVID-19の感染の持続や拡大の重要な要因となるクラスターの発生を防ぐことが重要であるとの観点から保健所を中心とした積極的疫学調査の実施を各県に通知している1)。その内容は感染の流行を早期に収束させるために、クラスターが次のクラスターを生み出すことを防止し徹底した対策を講じ効果的な対策を行うよう求めていた2)。新潟県では当初から2021年12月末までは積極的疫学調査に基づく個々人の接触歴等を調査してきたが、12月末から1月初旬のオミクロン株の急速な拡大(第6波)に伴い、感染者数が過去最多を大きく上回り保健所現場に過重負荷が生じ、接触歴等の詳細な調査が不可能となった。そこで1月14日以降からは個別の接触歴は問わずに施設単位の集団発生の状況を公表することに方針を転換した。それは国立感染症研究所3)が示す「感染症集団発生事例調査の基本ステップ」に示す、「集団発生とは予期されうる以上の症例が、特定の地域・グループ・期間に発生する」ことを基本としている。また、このような状況の中で国は2022年1月19日にまん延防止等重点措置区域のひとつに新潟県を追加した4), 5)ことにも関連し、新潟県及び政令市の新潟市は2022年1月18日から4月17日までの90日間、施設ごとの集団発生の状況を9施設に分類し、集団発生と認めた施設ごとの感染者数を毎日公表した6), 7)

本研究はこの資料に基づき、これらの集団発生の特徴を把握するとともに、保健所ごと・施設ごとの情報を経時的に把握し、発表された感染者総数との割合を比較することによって、感染者全体に対する把握された集団発生数がどの程度カバーされているかを明らかにするとともに、集団発生数が国の示すクラスター規模1), 8)に準ずる「5人以上」とする新潟県と、独自に設定した「10人以上」とする新潟市を比較することにより、集団発生の規模の大小が捕捉率の違いに及ぼす影響を検討し、今後の対策のあり方検討の一助とすることを目的とした。また、小中学校の集団発生状況について施設規模と集団発生率との関連性があるかを明らかにすることを目的に解析を試みた。

なお、本研究のように全県を捉え施設単位の特徴や、感染者全数と集団感染者数を比較することを長期間にわたって追跡した報告は見当たらない。

II 方法

1 データ収集方法

1)集団発生データ

新潟県及び新潟市の公表する報道発表資料6), 7)に基づき、2022年1月18日から4月17日までの90日間の集団発生の状況を、公表日毎の新規感染者数と合計の感染者数を9施設ごとに分類集計した。9施設とは、幼稚園・保育所、学校(小学校、中学校、高等学校、各種学校、大学)、高齢者施設(高齢者施設、障害者施設)、福祉施設、企業(冠婚葬祭を含む)、医療施設、スポーツ施設(スポーツクラブを含む)、官公庁、飲食である。これらの集団発生施設の市町村名・施設名は伏されているが、保健所ごとに番号で公表されており、しかも日ごとの新規発生者数および継続日数が公表されているので、施設ごとに感染者数の推移、継続日数、1日当たりの最大人数を集計した。

なお、新潟市は福祉施設の区分を設けていない。

2)小中学校の児童・生徒の集団発生率の把握

施設規模と集団発生率との関連について解析を行うために、保健所ごとに小中学校の児童・生徒数と集団発生者数を把握し、集団発生率を算出した。

3)市町村別感染者数

新潟県及び新潟市の公表する報道発表資料においては集団発生施設の公表のほか、県内37市区町村別の感染者数及び年代別感染者数も併せて公表されており、それを保健所ごとに集計し、集団発生捕捉率の比較を行った。

なお、集団発生捕捉率とは感染者総数に対する集団発生の施設ごとの感染者数合計割合を保健所単位で算出したものである。

2 調査期間

新潟県及び新潟市が集団発生を公表した2022年1月18日から4月17日までの90日間である。

なお、4月18日以降は新潟県が集団発生の新規発生時のみの数の公表に切り替えたため継続観察は中断せざるを得なくなった。これはオミクロン株の特徴を踏まえ、感染状況など地域の実情に応じて、自治体の判断により、すべての感染者に対する濃厚接触者の特定を含む積極的疫学調査を行わない場合は、感染リスクの高い人等にのみ集中して実施する旨の国通知9)に基づいて中断したものである。

3 統計解析

施設ごとに3つの指標(感染者数の推移、継続日数、1日当たりの最大人数)の分布を見るために、BellCurve社のエクセル統計2015(Ver.4.02)の外れ値検定のある箱ひげ図の作成を行い、第三四分位数+1.5IQR(四分位範囲)以上を上側外れ値(図中「×」印)とした。また、ノンパラメトリック検定のクラスカル=ウォリス検定と多重比較(Scheffe)を用い、これら3つの指標ごとに平均順位検定を行った。また、学校規模の違いと集団発生率の関連性を見るために集団発生率を目的変数に、保健所ごとの平均児童・生徒数を説明変数とする単回帰分析を行った。

III 結果

1 新潟県における感染者数の推移

2021年末から首都圏、中部圏、関西圏でオミクロン株を主体とする新規感染者数が急増し、新潟県も2022年1月19日にはまん延防止等重点措置を実施すべき区域として東京都を含めた12都県に加えて指定された10), 11)

新潟県の感染者数の把握は当初から継続して行われている。そのうち2022年1月11日から5月31日までの141日間分の感染者数をグラフにし、中でも1月18日からは新潟県及び新潟市が県内全地域で集団発生の把握を行うこととして作業を開始したので、今回の分析に使用した1月18日から4月17日までの90日間の感染者数を図1にグラフに赤棒で示した。なお、県や市が定める集団発生とは、施設ごとに集団的に発生した数に注目したものであり、「予期されうる以上の症例が、特定の地域・グループ・期間に発生するもの」で3)感染経路は問うてはいない。

1月18日は1日当たり283人であったものが日々増加し、4月13日には最大値907人に、4月17日には601人となった。この90日間の県内感染者総数は44,583人であった。

2 感染者数の集計方法と保健所ごとの人口10万対感染者数

図2に公表された施設ごとの集計方法の例を示した。例えば「新潟市学校関連④」は、1月25日に新規発生10人として登録され、2月2日まで9日間継続し、この間の感染者数は計29人、1日当たりの最大感染者数は10人であったことがわかる。同様の方法を用いて県内9施設ごとの集計を行った。

表1に今回の研究対象期間である1月18日から4月17日までの感染者総数と集団発生として把握された感染者数を、新潟県内12保健所(HC)別、新潟市別に記載し、併せて2022年1月1日現在の管内人口に対する人口10万対感染者数とクラスターで把握した感染者数の割合を示した。

人口10万対感染者総数が多いのは南魚沼HC2,853.1人、最も少ないのは佐渡HC1,031.3人と約3倍の開きがあった。また、集団発生として把握した人口10万対感染者数が最も多いのは魚沼HC1,328.6人、最も少ないのは佐渡HC349.1人であったが、総数に占める把握数の比率(捕捉率)でみると、図3のとおり捕捉率が最も高かったのは十日町HC65.0%、最も低かった新潟市16.3%と大きな開きが見られた。

その理由は新潟市(集団発生把握数382.9人、感染者総数2,353.4人)と南魚沼HC(764.6人、2,853.1人)と他の11HCのそれとは異なり、新潟市は集団発生の規模が「10人以上」としている点、また南魚沼HC管内のリゾート地である湯沢町は「滞在中の感染者数」(感染者総数542人のうち、滞在感染者数112人)が大きく影響していたためと考えられる。この2つに次いで捕捉率が低かったのは新津HC31.4%、佐渡HC33.8%の順で、HC間で捕捉率の違いが見られた。県全体では感染者総数44,583人に対し、本調査把握数15,248人(複数HC発生80人を含む)、捕捉率34.2%であったが、新潟市、南魚沼HC、複数HCを除いた場合の捕捉率は48.2%と計算された。

3 施設区分ごと発生状況

表2に保健所管内別9施設区分の発生状況を示した。期間の区分は、集団発生と認定された日が1月18日以前を「期間前」、1月18日以降発生し4月17日までに収束したものを「期間中」、4月17日までに収束しなかったものを「継続中」とした。

なお、複数HCにまたがる事例が3施設、感染者総数80人存在していたが、それらを除いて計算した。規模が異なる新潟市を除いた12HCについて、期間中に発生した感染者数、継続日数、1日当たりの最大人数として箱ひげ図及びそれぞれ四分位数、四分位範囲をグラフ及び表で示した。併せてノンパラメトリック検定のクラスカル=ウォリス検定と多重比較(Scheffe)を行い、施設ごとの平均順位検定を行った結果を有意記号(p<0.05*, p<0.01**, P<0.001***)を用いて示した。

期間中に発生した9施設毎の内訳は図4から図6に示すとおり、幼保76、学校142、高齢者施設23、福祉施設36、企業55、医療施設11、スポーツ施設15、官公庁4、飲食9の計371施設であった。

図4の施設ごとの感染者数を見ると、幼保は中央値24.5人(範囲5人~90人)、学校24.0人(6~230)、高齢者施設16.0人(6~45)、福祉施設22.0人(6~171)、企業11.0人(5~95)、医療施設20.0人(8~63)、スポーツ施設13.0人(5~58)、官公庁11.0人(7~13)、飲食10.0人(5~17)であった。このように最小値は5~8人と少ないが、最大値を見ると学校関連は230人、福祉施設171人、幼保90人、医療施設63人、スポーツ施設58人と続き、施設によっては感染者数が爆発的に増加したところも存在していた。

また図の下表に示すとおり上側外れ値が幼保4施設(90, 80, 78, 78)、学校8施設(230, 151, 150, 148, 144, 112, 91, 86)、福祉施設6施設(171, 120, 113, 101, 100, 91)、企業6施設(95, 37, 32, 31, 31, 28)、医療施設1施設(63)、スポーツ施設2施設(58, 48)であったが、高齢者施設、官公庁、飲食では上側外れ値は存在しなかった。なお、グラフに書き切れない外れ値として学校230a)、学校151b)、福祉施設171c)があった。

一方、高齢者施設では最小値6人、最大値45人と幅広いものの上側外れ値は無く、爆発的な増加はさほど見られなかったと考えられた。また、官公庁及び飲食は最小値と最大値が低い値を示し、かつ上側外れ値が見られなかった。

また、施設ごとの感染者数の平均順位検定を行った結果、幼保と企業、学校と企業には高度の有意差(p<0.001)が、企業と福祉施設間に有意差(p=0.0021)があり、幼保や学校の感染者数の分布が企業のそれと差があることがわかった。

同様に図5の継続日数を見ると施設ごとに差が見られ、学校は最大56日、高齢者施設及び福祉施設は37日と長く継続していたところもあった。また、高齢者施設では1施設だけ37日継続していた。一方、官公庁は最小値3日、最大値8日、飲食最小値1日、最大値10日と低い値で推移していた。また、施設ごとの継続日数の平均順位検定の結果、幼保と企業間、学校と企業間に高度の有意差(p<0.001)があり、福祉施設と企業間にも有意差(p=0.0407)が見られた。

図6の1日当たりの最大人数を比較すると、福祉施設58人や学校25人、企業25人と感染者数が爆発的に増加したところもあったが、官公庁は最大値4人、飲食で最大値6人と低い値でとどまっていた。

また、施設ごとの1日当たりの最大人数の平均順位検定の結果は福祉施設と企業間(p=0.0429)、福祉施設と飲食間(p=0.0237)に有意差がみられた。福祉施設は1施設であるがグラフに書き切れない外れ値として福祉施設58a)があった。

以上の結果を概括的に見ると、施設ごとに集団発生の状況が大きく異なっており、構成集団が大きい幼保や学校、高齢者施設や福祉施設の場合は、施設規模や構成集団の特徴を踏まえた上で徹底した拡大防止策を講ずる必要があることがわかった。

このように施設ごとの違いは大きく、COVID-19オミクロン株は無症状や軽症例が多く感染連鎖を確認することが難しい特徴13), 14)があり、特に幼保や学校はその典型的な例と考えられる。

なお、すべての感染者に対する濃厚接触者の特定を含む積極的疫学調査を行わなくてもよい旨、国からの2022年3月16日付通知15)により、この90日間の集団発生の調査は終了した。

4 10人以上を集団発生の規模とした場合

表3に期間中に発生した集団発生の事例を、新潟市を除く県内9施設ごとに施設数と感染者数で表し、その中で集団発生の規模を10人以上のものを再掲した。期間中の総数を見ると371施設、感染者数は10,351人であったものが、10人以上となったものを数えると79施設4,559人と減少し、その割合は施設数で21.3%、感染者数では44.0%に過ぎなくなった。したがって捉える集団発生の規模を10人以上とすると、集団発生を抑え込むには網目が大き過ぎたと考えられる。

新潟市はその規模を10人以上としており、同期間中の施設数は92、感染者総数は2,308人であったので、仮に規模を5人以上に設定した場合は、より多くの集団発生の感染者数が出ていたものと推測された。

5 学校規模の違いと児童・生徒の集団発生率

学校規模の違いと集団発生率の関連性を見るために、保健所ごとに小中学校の児童・生徒数を把握し、集団発生率を算出した。図7のヒストグラム及び表4に示すとおり、平均児童・生徒数が最も多かったのは新潟市341.0人、逆に佐渡HC92.3人であったが、集団発生率を目的変数に、保健所ごとの平均児童・生徒数を説明変数とする単回帰分析を行った結果、表5のとおり児童・生徒数と集団発生率の間には関連が見られなかった。(p=0.8015 F検定)

なお、図8にはこれら12HCと新潟市の集団発生率の分布を箱ひげ図で表したが、中央値3.1001%、四分位範囲は2.4735%であり、新潟市が最小値1.7190%、最大値は魚沼HC7.8098%であった。

IV 考察

1 新潟県における感染者数の推移

第6波の途中で感染者数が大幅に増加し、保健所や医療機関の負荷が大きくなり、公表は4月18日以降新潟県が新規発生だけを公表し、新潟市は4月18日以降も公表を続けていたが、両者ともに9月26日以降は国に準拠して15)年代別の感染者数だけを公表することになった。そのため当初の目的である感染の流行を早期に収束させるため集団発生を防止し徹底した対策を講ずるという目的の遂行は不可能になった。このことは国の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料においても都道府県データでアンリンク割合が増加し把握困難事例が増加していることが報告され16), 17)、これを裏付けている。

なお、国や各県単位のクラスター典型例の公表はいくつか行われているが18)-21)、本研究のように全県を単位とし、全数を対象に長期間にわたって集団発生の追跡した報告は見当たらなかった。

感染経路を明らかにすることは個人情報の保護という観点もあり、多くの場合保健所内部のみで共有され、公衆衛生関係者等に広く共有されない傾向がある。記述疫学情報やどの属性の接触者がより高いリスクがあったのか、感染経路を明らかにする情報なども十分でないことが多い。しかも膨大な感染者数の下では疫学調査を行うにも大きな限界があったと考えられる。

2 捕捉率について

表1及び図3に示すとおり、滞在中の感染者数が際立って多い湯沢町(期間中の感染者総数542人中20.7%を占める112人が滞在者)を含む南魚沼HCの低い捕捉率26.8%と、規模が10人以上の新潟市16.3%を除く11HCの平均捕捉率は48.2%と計算され、5人規模を集団発生として追跡することは、有効性を示したと考えられるが、保健所や医療機関の負荷が大きくなるなどの弊害が大きくなることも考慮する必要がある。

3 施設区分ごとの発生状況

9施設ごとに感染者数、継続日数、1日当たりの最大人数を比較すると、施設規模や構成集団に大きく影響されることが統計解析結果からも明らかになったので、施設ごとの特徴を踏まえた感染症予防対策を積極的に進めることが肝要である。

4 オミクロン株の特徴と集団発生の把握

当初国はクラスター対策の強化方針のもとに専門家配置によるクラスター班を設置し、各都道府県に派遣・支援体制の強化を図り、クラスター例の分析から得られた知見と今後の対策をまとめて公表し国民への注意喚起を行ってきた。しかしながらオミクロン株の流行によって都道府県や保健所の限りある人的資源の限界、更にはオミクロン株の特徴である無症状や軽症例が多く、感染連鎖を確認することが難しいことも加わり、積極的疫学調査の継続は困難となったが、集団発生の検知機能を改善するなどの対策の検討が図られる必要がある。

5 研究の限界と課題

今回は小中学校の規模と集団発生率の間に関連が見られなかったが、これはAugerら22)、Walshら23)の学校閉鎖と感染者数の関連が見られなかったとする報告と一致していた。一方高齢者施設ではYangら24)、Ochieng25)ら、Shallcross26)らの報告にあるとおり感染者や死亡者数に影響を及ぼしていたと報告がある。今回我々が行った分析では、施設名が公表されていないため、施設規模の把握や学校閉鎖や学級閉鎖の状況把握が不十分であったことが研究の限界として挙げられ、それらを的確に行うためには施設ごとの集団発生の状況の詳細を把握することが求められる。この点に関して研究の質と公衆衛生、特に疫学の本来的な目的について言及したい。疫学の走りが19世紀初頭のロンドンのブロードストリートの原因不明の致死的な重症下痢症を詳細な地理疫学的手法で井戸に原因がある可能性が高いことを突き止めて成功したことが知られている。しかしこれはロベルト・コッホがコレラ菌を同定する29年前の出来事であり、疫学手法は原因が解明されていない段階でも有効な公衆衛生的対策を導くことが不可能ではないことを示している27)。この視点を重視し今回研究結果を纏めたものであり、現時点での新型コロナウイルス集団感染の公衆衛生対策への寄与を期待した。

V 結論

本研究において判明したことは次の2項目に集約された。

(1)集団発生の様相は施設ごとに異なっており、それぞれの施設規模や構成集団の特徴を踏まえた上で拡大防止策を講ずる必要がある。県内でも幼保や学校、福祉施設や企業などで感染者数が爆発的に増加することがあり、また、学校や福祉施設などは長期に感染が持続するなどの例が散見された。このような施設では初動時を的確に捉え早期に抑え込むなどの積極的な対策を講ずる重要性が確認できた。

(2)5人規模を集団発生とする追跡は、感染者総数の約半数を捉えることができ有効性を示したと考えられるが、10人以上とすると捉える網目が大きすぎて捕捉率は低下することがわかった。

謝辞

本研究を実施するに当たり、多大なご協力をいただいた新潟県福祉保健部の皆様に深謝いたします。また、研究遂行の過程で貴重な示唆をいただきました、大学院医療情報・経営管理学専攻(分野)拡大院生研究会の皆様に感謝申し上げます。

利益相反

本研究において、利益相反に該当する事項はない。

References
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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