Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Human thermoregulation in cold environment and the mechanisms of accidental hypothermia during exercise
Tomomi Fujimoto
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2023 Volume 23 Issue 2 Pages 2-8

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Abstract

近年、マラソンやオープンウォータースイミング、登山や水中レジャー活動といった自然の中で行われるスポーツ・アクティビティの競技人口が増加している。これらのスポーツやレジャー活動が低気温下や冷水下といった寒冷環境下で行われる場合には、体温の低下を防ぐために皮膚血管収縮やふるえ熱産生といった体温調節反応が生じる。さらに、運動中には体温調節反応だけでなく、運動に伴い活動筋における熱産生が生じることから、体温の低下が起こりにくいと考えられる。しかしながら、実際に寒冷環境下でのレジャー活動や運動時には体温が過度に低下する「低体温症」が発症する場合がある。体温調節反応に加えて運動に伴う熱産生が起こるにもかかわらず低体温症が生じることから、運動時に発症する低体温症には通常の熱収支とは異なる「運動時特有の要因」があると考えられ、現在までいくつかの研究において検討されている。本稿では、ヒトが寒冷環境下でのスポーツ・アクティビティを安全に行い、ハイパフォーマンスを発揮するための一助になることを目指し、寒冷環境下で生じる体温調節反応や運動がそれらに及ぼす影響について概説し、運動時にも関わらず生じる低体温症の発症メカニズムやその予防法を考える。

Translated Abstract

Sports and activities that take place in nature, such as marathons, open-water swimming, mountain climbing, and underwater leisure activities, have become popular in recent years. When these sports and leisure activities are performed in cold environments with low ambient temperatures or cold water, thermoregulatory responses such as cutaneous vasoconstriction, shivering and non-shivering thermogenesis occur to prevent a decrease in body core temperature. Furthermore, during exercise, heat production in active muscles occurs with exercise in addition to the thermoregulatory responses, and it is thought that the body core temperature is unlikely to drop. However, “accidental hypothermia,” an excessive drop in body core temperature (<35°C), occurs during leisure activities and exercise in cold environments. Because accidental hypothermia occurs despite heat production associated with exercise in addition to the thermoregulatory responses, it is thought that “specific factors” that differ from the normal heat balance are responsible for the onset of hypothermia during exercise and have been investigated in several studies to date. This review aims to help humans safely perform sports and activities in cold environments and achieve high performance. We will review the thermoregulatory responses that occur in cold environments and the effects of exercise on them, and consider the mechanisms of hypothermia that occur even during exercise and how to prevent it.

I はじめに

マラソン、オープンウォータースイミング、冬季に行われるウインタースポーツや、登山、ダイビングなどのレジャー活動は幅広い世代に楽しまれるスポーツである。これらのスポーツは季節や環境によっては低気温や低水温といった低温下で行われる場合がある。寒冷ストレスは低体温によるパフォーマンスの低下のみならず、運動中にも関わらず過度に体温が低下する「低体温症」を引き起こす場合がある。本総説では、低体温症の基礎、ヒトの体温変化や体温調節反応だけでなく、運動時特有の要因から運動時に生じる低体温症の発症メカニズムを考えたい。

II ヒトの体温変化と偶発性低体温症

1 運動環境と熱放散

身体と環境の間では絶えず熱交換が行われ、身体から環境へ流出する放熱量と身体で産生する熱や身体に流入して蓄積される熱である産熱(蓄熱)量のバランスによって私たちの体温は一定に保たれている。そのため、ヒトの体温変化を考える上では一面的な考え方ではなく、環境による要因と身体内部で起こる生理的な反応による要因など多面的に理解する必要がある。低気温や低水温下において体温が低下する場合には、産熱(蓄熱)量に対して放熱量が上回ることによって熱が体外に流出する。この放熱量の上昇に関わる物理的な熱放散経路として「伝導」、「対流」、「蒸発」、「放射」が挙げられる。

「伝導」は身体と外環境との温度差により高温である身体から低気温や低水温環境へと熱が移動する熱放散経路であり、その熱放散量は主に気温や水温に依存する。「対流」は身体の周りを流れる流体との間で起こる熱移動による熱放散経路であり、その熱放散量は風(空気の流れ)や水流の有無やその速さ(風速や流速)に依存する。わかりやすい例として扇風機がある。私たちは夏に涼しさを求めて扇風機を用いるが、エアコンとは異なり扇風機からは低温の風が出てくるわけではなく、その場にある空気を動かしているだけである。しかし、扇風機の風に当たることで涼しさを感じるのは対流によって体外に熱が放出されるからである。「蒸発」による熱放散は、身体表面から水分が蒸発する際に熱が奪われることによる熱放散経路であり、陸上においては気温や湿度、風(対流)の有無などにも依存する。特に、陸上での運動時に雨などで身体表面が濡れた際には、蒸発性熱放散量は一時的に大きくなると考えられる。「放射」は身体表面と外環境との間で電磁波の形で起こる熱移動経路であり、ヒトの身体から電磁波による熱放散が生じている。また、太陽や温かい物体からの放射による熱の流入による影響は大きく、日射の有無によりヒトの体温は大きく変化する1), 2)。そのため、低気温や低水温下であっても日射がある環境では熱放散に対して放射による蓄熱が生じる。これらの熱放散経路を考慮すると、低体温が生じやすい環境は、陸上では低気温・低湿度、かつ風があり雨が降っている(日射がない)環境であると考えることができる。一方、水中環境下では水の熱伝導率が空気の約25倍であることから3)、伝導や対流により多くの熱が身体外に放散されてしまい、陸上の気温と比較すると比較的高い温度(水温)においても低体温症が生じやすいと考えられる。

2 体温低下時に生じるヒトの体温調節反応

我々ヒトの体温は大きく2種類に分類され、皮膚や筋など身体表層に近い温度を外殻温、脳や食道など身体深部の温度を深部温という。皮膚温を始めとする外殻温は環境の影響を大きく受けて変化するが、脳温や食道温を始めとする深部温は通常約37°Cに保たれている。これには、皮膚の表面など末梢部の受容器が温度変化を感知することで生じるフィードフォワード調節と、核心部の温度の変化を感知することで生じるネガティブフィードバック調節によって引き起こされる体温調節反応が寄与しており4)、これらが低温下で適切に働くことが低体温症の予防に重要である。低温下で生じる体温調節反応は自律性および行動性の体温調節反応の2種類があり、前者は皮膚血管収縮やふるえ、非ふるえ熱産生などの自分の意志ではコントロールできない反応、後者は暖房をつけることや上着を着るといった反応である。低温に暴露された際には、まず行動性体温調節反応および皮膚血管収縮が生じることで熱放散量を減少させ、それでも体温を維持する上で不十分な場合にはふるえや非ふるえ熱産生により体温を上昇させる5)。以下に、各体温調節反応について概説する。

1)行動性体温調節反応

低温下で生じる行動性体温調節反応は、上着を着用することや暖房をつけるなどといった寒冷からの回避行動であり6)、非常に効率の良い体温調節反応である。行動性体温調節反応は皮膚温や深部温の変化に伴う寒さや不快感を改善するために生じることから、この反応には温度感覚や快適性が重要であると考えられている7)。自律性体温調節反応が体温調節中枢である視索前野で調節されているのに対し、動物実験において視索前野の機能を阻害した場合にも行動性体温調節反応は影響を受けなかったことから、行動性体温調節反応は自律性体温調節反応における神経回路とは異なる回路を介して行われる可能性が考えられていた8)。しかし近年の研究では、視索前野や快・不快感を司る大脳辺縁系が行動性体温調節反応に関与している可能性が示されており、その神経回路の解明には更なる研究が必要である9), 10)

2)皮膚血管収縮

皮膚血管収縮は、皮膚への血流量を低下させることで体表面の温度を低下させ、環境温との温度差を小さくすることで熱放散を抑制する11)。ヒトの常体温時には、皮膚血流量は30-40 mL 100 mL-1 min-1程度であるが、皮膚温が低下すると、身体表面からの放熱を抑制するために皮膚血管収縮が生じ、寒冷刺激が強い場合には皮膚血流量はほぼ0になる。皮膚血管収縮は反射性と局所性のメカニズムによって調節されている。全身の寒冷暴露時には反射性(全身性)の皮膚血管収縮が重要な役割を担っており12)、交感神経終末から放出されるノルエピネフリン(ノルアドレナリン)と共伝達物質である神経ペプチドYが皮膚血管にあるαアドレナリン受容体および神経ペプチドY感受性Y1受容体にそれぞれ作用して生じる13), 14)。一方、局所性の反応については、血管拡張作用を持つ一酸化窒素合成酵素(NOS)15)やα2アドレナリン受容体16)、さらに近年の動物実験では、温度感受性Transient Receptor Potential(TRP)チャネルの一部も関連している可能性が示唆されている17), 18)

3)非ふるえ熱産生

皮膚血管収縮反応による放熱の抑制だけでは十分に体温を維持できないときには、代謝を増加させることによって体内において産熱を行う。非ふるえ熱産生は、肝臓や筋などに分布している褐色脂肪細胞(brown adipose tissue: BAT)での代謝量増加によって熱を産生する体温調節反応であり、褐色脂肪細胞における熱産生については主に小型の哺乳類や新生児において行われてきたが、近年の研究では成人においても褐色脂肪細胞の存在が確認されている19), 20)

褐色脂肪細胞の存在は、主に非代謝性グルコースであるフルオロデオキシグルコース(FDG)を投与し、これが代謝される体内の部位または組織を陽電子放射断層撮影装置(PET)とCTスキャンを組み合わせた装置で撮影および断定することで確認される。ヒトの成人においても、低温環境下で非ふるえ熱産生を起こすために十分な量の褐色脂肪細胞組織が存在し、その量はBMIと逆相関する21)。また、近年ではサーモグラフィーを用いて褐色脂肪細胞の存在や活性を評価している研究も見られる22)

褐色脂肪細胞での熱産生は交感神経により支配されており、低温暴露により体温調節中枢からの脱抑制指令によって交感神経終末から放出されたノルエピネフリンが、褐色脂肪細胞の表面にあるβ3アドレナリン受容体に結合すると、褐色脂肪細胞内のミトコンドリアにある脱共役タンパク質1(UCP1)という膜タンパク質の働きにより脂肪酸を酸化分解することで熱を産生する23)

4)ふるえ熱産生

ふるえ熱産生はヒトを含む恒温動物にとって低温下での熱産生としてきわめて重要な産熱反応であり、骨格筋が不随意収縮を行うことで熱産生を行う反応である。ふるえの反応性や強度は皮膚温24)や深部温の冷却率25)の違いによって影響を受け、ふるえが生じた場合の代謝は最大で安静時代謝の約5倍にまで増加する26)。ふるえ熱産生は大胸筋や腹直筋といった体幹部で素早く生じ始め、ふるえの強度も末梢部の筋(腓腹筋など)よりも体幹部の筋で強くなる27)。また、ふるえ熱産生に対する筋の動員やその強度と褐色脂肪細胞の量との間には負の相関関係が見られることも報告されており28)、体温維持に必要となる産熱の総量をふるえおよび非ふるえ熱産生によって補っていると考えられる。低温下において皮膚の知覚神経末端にある冷受容器に入力された温度情報(寒冷刺激)は脊髄の後角を経て橋の外側腕傍核外側部へ伝達され、体温調節中枢である視索前野へと入力される。その後、視索前野から脱抑制の指令による交感神経活動の亢進が脊髄の前角、体性運動出力を介して骨格筋へと伝わることでふるえが生じる5)

3 偶発性低体温症とその症状

ここまで、ヒトの体温変化が環境および身体内部の要因のバランスによって生じ、深部温は通常約37°Cに保たれていることを説明してきた。しかし、低温下において身体から外環境への放熱量が増加し、産熱(蓄熱)量を上回ると徐々に体温が低下し、35°Cを下回る状態を偶発性低体温症といい29)、一般的にテレビやニュースで耳にする「低体温症」は偶発性低体温症を指すことが多い。近年の環境変化、とりわけ地球温暖化の影響による熱波により、世界中で熱中症や暑熱対策に対する報道や研究が盛んに行われている。しかし、環境温に関連する死亡者数やそのリスクは暑熱環境よりも寒冷環境の方が高いことが報告されており30)、寒冷環境下で生じる低体温症の症状やその対処について理解することは非常に重要である。低体温症の発症やそれに関した死亡率は、特に高齢者において高い31)。この背景には、加齢に伴う体温調節機能の変化が影響していると考えられる。低温下で生じる皮膚血管収縮、ふるえ・非ふるえ熱産生などの体温調節反応は加齢に伴い減弱する32), 33)。さらに、低温に対する温度感覚が減弱し、寒さを感じにくくなる34), 35)。このような加齢に伴う体温調節反応の減弱や温度感覚の変化は、低温下での体温維持能力の低下につながり、高齢者における低体温症の高い発症率につながっていると考えられる。

偶発性低体温症は、深部温のレベルにより軽度(I)、中度(II)、重度(III, IV)に分類される(表1)。偶発性低体温症の初期段階には強い寒気やふるえが生じるが、さらに体温が低下することでふるえは消失し、心拍数、血圧といった生命兆候や意識が低下する。偶発性低体温症を発症した時の対処法は、その重症度に分かれて変化する。軽度であり意識もしっかりしている場合には、温かい場所に移動し、毛布やアルミシートなどを用いて保温することが推奨される。一方、意識障害などがみられる重度の低体温の場合には、直ちに救急搬送を行い、保温や緩やかな加温を行うことが推奨される。この時、深部温の回復を急ぐような急激な加温はショック症状を引き起こす場合があるため注意が必要である36)

III 運動時低体温症の発症メカニズム

低体温症の発症には、我々を取り巻く環境といった外的要因と、身体特性や年齢、それに伴う体温調節反応の強弱などの内的要因が関わっている。しかし、運動時には筋の収縮に伴い多量の熱産生が行われるため、運動自体は体温低下を抑制すると考えられる。運動による多量の熱産生があるにも関わらず運動時に低体温症が発症するのはなぜなのだろうか。低温下で生じる運動時の体温調節反応から考えてみたい。

ヒトの体温調節反応は深部温や皮膚温の変化といった温熱性の要因だけでなく、運動時の生理応答やその調節に関連した温度変化を伴わない様々な非温熱性の要因にも影響を受けると考えられている37)。それでは、低温下における体温調節反応は運動時にどのように変化するのだろうか。

低温下での運動時に体温が低下した場合に、安静時とは異なる反応を示す体温調節反応としてふるえ熱産生がある。体温低下時のふるえ熱産生について、運動時には安静時よりもふるえが生じ始める深部温が低体温側にシフトし38)、深部温が安静時よりも低下しないとふるえ熱産生が生じないことが示唆されている。また、運動中の体温低下に対するふるえの反応性は運動強度の増加に伴い小さくなることも報告されており39)、運動時にはふるえ熱産生が起こりにくくなることがわかる。このような運動時のふるえ熱産生の抑制は運動時に生じる循環反応(心拍数の増加、動脈血圧の上昇など)などが影響していると考えてられている40), 41)。また、運動に関わる大脳などの高位中枢からの運動指令(セントラルコマンド)や筋の動きなどを感知する筋機械受容器の働きからも影響を受けている可能性があり、運動時のふるえの抑制メカニズムの解明には更なる検討が必要である。

運動時にはふるえ熱産生の抑制だけではなく、行動性体温調節反応のトリガーとなる温度感覚も変化する。Fujimoto et al.(2021)は安静時および低強度運動時の深部温低下に伴う全身の温度感覚を比較したところ、運動時には安静時よりも深部温の変化に対する寒さを感じにくくなることを報告している42)。運動による温度感覚の鈍化は、運動時の行動性体温調節反応を減弱させる可能性があり、低温下における運動時に「寒くないから上着を着ない」などの行動選択が低体温症の発症を助長する危険性がある。また、運動による温度感覚の鈍化は、深部温低下に伴う体温調節中枢への入力が減少することを反映している可能性も考えられ、運動時にふるえ熱産生が生じにくくなるメカニズムの1つかもしれない。

IV 特殊な運動環境が体温調節反応に及ぼす影響

登山や高所では低体温症の発症率やそれに関する死亡率が高い43)。高所では気圧の低下に伴い体内の酸素濃度が低下することから、登山や高所での運動時の低体温症には体内の低酸素化が関連していると考えられる。実際に、体内の低酸素化はふるえが生じ始める深部温を低体温側にシフトさせることやふるえの反応性を減弱させ44), 45)、加えて、体温低下により生じる皮膚血管収縮も減弱させる46)。さらに、体内の低酸素化は、皮膚の寒冷感覚を減弱させる(寒さを感じにくくなる)ことも示唆されており47)、これらが高所における運動時や登山中に生じる低体温症の発症を助長すると考えられる。

V まとめ

低温下で生じうる低体温症は、運動中の安全性を脅かす死にもつながりうる危険な体温性疾患である。低体温症は環境などの外的要因だけでなく、我々の身体に関連する内的要因(体温調節反応など)が複雑に作用し合い、運動中においても発生する危険性がある(図1)。運動時の低体温症を防ぐためには、これらの外的・内的要因を理解し、個人に合った対策を実施していく必要がある。

References
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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