Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Survey of university baseball players’ hometowns and post-graduation settlement trends
Ryoichi UseKohei OmuroShiro KobayashiTomoo Ishikawa
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2023 Volume 23 Issue 2 Pages 36-40

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Abstract

日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少を続けている。新潟県においても、大学等への進学や卒業後の就職を機に、県外に転出するケースが多く、県総人口は1997年の249万人をピークにその後減少を続けている。新潟県では人口流出抑制と県外からの移住促進のために様々な施策を打ち出しており、県内各大学も魅力向上による県外流出抑制や卒業後の定住に向けた取り組みを今後加速させていくだろう。本調査では大学生の定住促進に向けた施策の前段階として、新潟県内の大学部活動において有数の部員数を抱えるN大学硬式野球部の学生の出身地と卒業後の定住動向について実態調査を行なった。N大学硬式野球部の卒部・在部学生は2022年12月現在で405名おり、そのうち38.3%は新潟県内出身者であった。そして、新潟県内出身者の75.3%は卒業後も新潟県内で就職・進学していた。また、新潟県外出身者の12.2%が卒業後に新潟県内で就職・進学していた。今後は卒業後に新潟県に「定住した要因」について、県内・県外出身者共に調査を行ない、卒業後も新潟県に愛着を持ち「定住してもらうための施策」を考案していきたい。こうした取り組みを、人口減少を課題とする地方部に大学部活動が存在する新たな価値につなげる第一歩としたい。

Translated Abstract

Japan’s total population peaked at 128.08 million in 2008 and has continued to decline since then. In Niigata Prefecture, many people move out of the prefecture to go to university or to find work after graduation, and the total prefectural population peaked at 2.49 million in 1997 and has been declining ever since. Niigata Prefecture has put in place various measures to curb the population outflow and promote migration from outside the prefecture, and universities in the prefecture are likely to accelerate their efforts to curb the outflow and encourage students to settle down in the prefecture after graduation by improving their attractiveness. As a preliminary step towards measures to promote the settlement of university students, a survey was conducted on the hometowns and post-graduation settlement trends of the students of the N University hardball club, which has one of the largest numbers of members among university clubs in Niigata Prefecture. Of these, 38.3% were from Niigata Prefecture. 75.3% of those from Niigata Prefecture continued to work or go on to higher education in Niigata Prefecture after graduation. In addition, 12.2% of those who were outside Niigata Prefecture had found a job or continued their education in Niigata Prefecture after graduation. In the future, we would like to conduct a survey of both in-prefecture and out-of-prefecture residents on the factors that made them “settle down” in Niigata Prefecture after graduation, and devise measures to encourage them to remain attached to Niigata Prefecture and “settle down” there after graduation. We would like to take these initiatives as the first step towards creating new value for the existence of university activities in rural areas where population decline is an issue.

I はじめに

日本の総人口は戦後増加を続けていたが、2008年の1億2808万人をピークに減少を続け1)、2023年1月1日現在1億2477万人となっている2)。また、地方部においては少子化における人口の自然減と合わせて、進学や就職を機に大都市圏へ若者が流出する社会減が大きな課題になっている。

新潟県においても県総人口は1997年の249万人をピークにその後減少を続けており3)、2022年11月現在で215.1万人である4)。転出超過の多い年齢階級は「20~24歳」、次いで「15~19歳」と若年層の流出が多く、大学等への進学や卒業後の就職を機に、県外に転出するケースが多い。このように新潟県では「全国より速いペースで少子化が進展し、人口減少に歯止めがかからない」状況に加え、大学等進学者の約6割が県外に進学しており、その結果県内企業においては人手不足感が高まっている5)

こうした状況を受け、新潟県では「住んでよし、訪れてよしの新潟県」を掲げ、県民が新潟県に住んでいることを誇りに思い、これからも住み続けたいと思える県、そして、国内外の人々が新潟県に魅力を感じ、訪ねてもらえる県を目指している。人口減少問題への具体的な対応としては、新潟県の魅力を高めるために、所得水準の向上や起業の推進、県内企業の働き方改革の推進、女性活躍社会の実現を進めている。また、県内大学生等への県内企業の紹介、新潟県出身学生のUターン就職促進やIターン者受入体制の充実により、若者を中心とした流出防止と流入促進を図る取り組みも行われている。同時に、県内大学の魅力を向上させることで、県内大学への進学率を高める取り組みも推し進めている。

高等教育段階である大学については、それぞれの大学が、自ら掲げる教育理念・目的に基づき、自主的・自律的に教育課程を編成するため、指導要領は存在せず、課外活動についても学校関係法令で規定されてはいない。しかしながら、文部科学省も参議院の文教科学委員会において、「大学教育における運動部活動は、課外活動として、大学の教育活動の一環に位置付けられ、必要な事項について学生を規律する包括的な管理・教育権限があり、安全確保の取組についても、その範囲内での責任がある」としている6)。このことから、大学における部活動は大学の教育活動の一環であり、学生の自主的で自律的な活動を尊重しつつ、大学が部活動に適切に関与していくことが今後も求められる。大学部活動については、これまで競技会での勝利や個人の競技力向上を目指す中で、様々な経験を重ね、学業との両立を図りながら、仲間との友情を育む場、あるいは大学生アスリートとしての人間形成の場としてその役割を果たしてきた。それらは今後も大学部活動の普遍的・従来的な価値として引き継がれていくべきだろう。そして、このような大学部活動の普遍的・従来的な価値に加えて、時代の変化とともに、新たな大学部活動の価値を創造、発信していくことも大学部活動が広く社会全般に文化として根付いていくためには求められる。特に人口減少を課題とする地方部では、未来を担う若者が4年間をその土地で過ごすこと自体の価値に加えて、卒業後も定住することで課題が解決される可能性がある。過疎化が進行した集落が、その地域で社会的に機能し得なくなって生じた農村社会崩壊事例を1970年代から抱える鳥取県では、いかに若者を定住させ、地域社会の担い手とするかについて1990年代から議論されている7)。少子化による人口減と進学や就職を機に大都市圏へ若者が流出する社会減という課題が県を挙げて議論されている今、新潟県にある各大学や学部、学科、部活動がその課題解決に果たせる役割があるはずだ。

そこで本調査では、そのような課題解決に向けた施策を実行する前段階として、新潟県内の大学部活動において有数の部員数を抱えるN大学硬式野球部の学生を一例とし、出身地と卒業後の定住に関する動向を明らかにした。

II 方法

1 調査対象

調査対象は大学野球のK学生野球連盟1部リーグに所属しているN大学硬式野球部であった。すでに6期生まで224名の部員が卒業し、現在4学年で174名の部員が活動を行なっている。

2 調査方法

N大学硬式野球部がホームページで公開している部員名簿に基づき、部員の出身都道府県を集計した。部員の出身都道府県について、高校進学に際し出身地を離れ、県外進学した生徒については、出生後最も長い年月を過ごした都道府県を出身都道府県として集計した。出身都道府県については、地区ごとに「新潟県」、「北海道・東北」、「関東(山梨県含む)」、「北信越(新潟県除く)」、「東海」、「近畿」、「中国」、「四国」、「九州」に分類し、集計を行なった。

また、卒業した部員に研究協力の同意を得た上で聞き取り調査を行い、就職あるいは進学に際し、卒業後最初に居住した都道府県を調査した。

III 結果

1 部員数および部員の出身地について

表1にN大学硬式野球部員の出身地を示した。2022年現在1期生から6期生までは既に卒業しており、表1中の7期生が現在大学4年生、10期生が大学1年生となる。10期生まで405名が硬式野球部を卒部あるいは在部している。10期生までの出身地は、新潟県出身者が155名と最も多く、次いで関東地区94名、新潟県を除く北信越地区が75名であった。

2 部員の卒業後の定住動向について

表2に卒業生の出身地と卒業後の定住動向を示した。表2中の「県内出身⇒県内定住」は「新潟県出身者が卒業後に新潟県に定住したこと」を、「県外出身⇒県内定住」は「新潟県外出身者が卒業後に新潟県へ定住したこと」を示している。

N大学硬式野球部へ入部した新潟県出身者は6期生までで85名おり、そのうち75.3%にあたる65名が卒業後も新潟県に定住していた。一方、新潟県外出身者は6期生までで139名おり、そのうち12.2%にあたる17名が卒業後も新潟県に定住していた。

IV 考察

1 部員数の増加要因について

1学年当たりの部員数は1期生から5期生までが平均37.3人、6期生から10期生までが平均44.2人となっている。なお、N大学硬式野球部は創部3年目にK学生野球連盟1部リーグに昇格を果たした。また、創部4年目と6年目、9年目にNPBへ選手を計4名輩出している。大学野球は全国に26連盟があり、各連盟には1部リーグだけではなく、2部リーグ、3部リーグまで設置している連盟も多い。しかしながら、毎年6月に各連盟の代表が集まり、明治神宮球場で開催される全日本大学野球選手権大会に出場できる権利を有するのは1部リーグに所属する大学のみである。大学の硬式野球部において、1部リーグに所属しているか否かは、大学野球でプレーを希望する高校生や高校生の進路を検討する教員や保護者にとっても一つの進路決定要因となりえるため、1部リーグ昇格を機に部員数が増加したことが考えられる。

また、表1中の新潟県出身者割合は創部当初から30~40%を推移している。2022年現在、新潟県内には3つの国立大学と4つの公立大学、13の私立大学がある。その中で硬式野球部を有する大学は2大学のみである。硬式野球部を有する2つの大学はK学生野球連盟に所属しているが、多くの公式戦が埼玉県や群馬県、栃木県といった関東地区で開催されるため、宿泊費や交通費など多額の運営費がかかる。それが、新潟県内の大学が硬式野球部を運営できないひとつの要因でもある。そうした中、両大学が新潟県内で硬式野球をプレーする高校生の「受け皿的役割」を一定程度果たしていることが部員数増加の一要因と言える。

2 部員の卒業後の定住動向とその要因について

N大学硬式野球部へ入部した新潟県出身者は6期生までで85名おり、そのうち75.3%にあたる64名が卒業後も新潟県に定住していたが、1990年に鳥取県で大学卒業予定者約300名に行なわれた調査では、鳥取県出身者で実質県内就職を希望している学生は約75%であり、本調査とほぼ同じような結果であった7)。一方、新潟県外出身者は6期生までで139名おり、そのうち12.2%にあたる17名が卒業後も新潟県に定住していたが、1990年に鳥取県で行われた調査では鳥取県外出身者の動向については触れられていない。なお、本調査と1990年に鳥取県で行われた調査では、学生が卒業後に「定住した要因」についてまでは明らかにされていない。学生の卒業後の進路については、家庭の事情で地元に残らなければならなかった場合や地元に残りたくても希望する職種がない場合など複雑な要因がある。今後定住を議論するのであれば、新潟県に「定住した要因」「定住しなかった要因」について、個別に調査を行なう必要があるだろう。また、調査と同時に卒業後も新潟県に「定住してもらうための施策」の考案と実行を大学に在籍している4年間に行ない、卒業後の定住動向の増減について継続的に調査を行ないたい。

また、学生が卒業後、新潟県に「定住しなかった要因」については、卒業後に硬式野球を継続できる環境の有無も影響していると考える。N大学硬式野球部で活躍し、卒業後もNPBや社会人企業チームでプレーした学生は2022年現在17名いるが、全員が新潟県を離れ、県外でプレーをしている。現在新潟県内にはNPBに所属する球団はなく、日本独立リーグ野球機構に所属しているチームが1チームのみある。また、社会人企業チームも2チームのみであり、新潟県内で大学卒業後にプレーできる環境の改善も、人口の社会減を解決する観点からは求められるだろう。ただし、今後の少子化の継続、および野球人気が衰える可能性も考慮した場合、野球を実施する環境改善が地方部の人口減少という課題解決の一助とならないことも考えられる。したがって、他の部活動や無所属学生の定住動向についても検討が必要である。

V 結論

2022年12月までにN大学硬式野球部を卒部あるいは在部している学生は405名おり、そのうち38.3%は新潟県内出身者であった。新潟県内出身者の75.3%は卒業後も新潟県内で就職あるいは進学していた。また、新潟県外出身者の12.2%が卒業後に新潟県内で就職あるいは進学していた。学生が新潟県への定住を希望していることが前提ではあるが、上記の割合を向上させていくことが今後の課題である。同時に本調査の結果が、野球部に所属している学生特有の傾向であるのかを明らかにするために、他競技所属学生や部活動に所属していない学生と比較していく必要もあるだろう。また、卒業直後に新潟県内で就職あるいは進学した学生が、その後どの程度の期間新潟県に定住しているのかについても継続的に調査する必要がある。このような調査が、大都市圏への進学や就職による人口の社会減に苦しむ地方部において、大学あるいは大学部活動が地域に存在する新たな価値の創出につながると考える。本調査をその第一歩としたい。

利益相反

本研究における利益相反に該当する事項はない。

References
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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