Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
[title in Japanese]
[in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 23 Issue 3 Pages 61-62

Details

1 笠井研究室の研究概要紹介

私の研究領域は、医用画像を用いた人工知能(AI)の研究である。医療の様々な領域を縦軸と考えると、AIの技術を通して横軸を通すことで、異なる領域の専門家と連携して研究を進めている。本稿では、著者が長年取り組んできた研究領域である胸部単純X線画像を対象としたAI研究に加え、本校に着任した後に取り組んでいる産科領域で発生するデータを用いたAI研究を通して、産学連携の取り組みを紹介する。

2 胸部単純X線画像を用いたAI研究の紹介

胸部単純X線画像を対象としたAI研究は、本研究室の軸の1つとして、著者が2021年3月末まで22年間在籍したコニカミノルタ株式会社との産学連携を進めている。胸部単純X線画像は、世界で最も撮影される撮影部位であり、病気の早期発見には欠かせない撮影である。そこに、AIによって早期検出・早期診断をサポートしたいというのが目的である。私の会社での最後の仕事も胸部単純X線画像から複数の病変を検出するAIの製品化であった(2022年に製品化)。現時点の興味は、胸部単純X線画像の診断対象となっていない病気の早期検出である。本研究室では、AIを用いて胸部単純X線画像を用いることにより、スパイロメトリで得られる呼吸機能を推定する研究を進めている。この研究は将来的には、介入の遅れが問題となっている慢性閉塞性肺疾患(COPD)の早期検出・早期介入につなげたいと考えている。本研究の初期の成果は、放射線領域で世界最大の学会である北米放射線学会(RSNA)にて2022年の学術大会でCutting Edge Researchとして取り上げていただいた1)。また、胸部単純X線画像の診断対象となっていない異常を対象としたAI研究としては、整形外科医が中心となって立ち上げたスタートアップ企業であるiSurgery社との共同研究を行っている。本共同研究は、胸部単純X線画像から骨密度を推定することで骨粗鬆症の早期発見を目的とした研究である。すでに、最初の製品は2023年に発売され、骨密度推定精度のさらなる改良を共同で進めている。このように、AIを通すことで、胸部単純X線画像の秘められた可能性が報告され始めており、将来的には胸部単純X線画像を軸とした新たな総合的な検診を実現することが目標である。

3 産科領域で発生するデータ(CTG)を用いたAI研究の紹介

もう一つの産学連携研究の軸が、トーイツ株式会社と進めている産科領域の研究である。このテーマはトーイツ株式会社からAI研究の相談を受けたところから始まった。研究の対象となるデータは、母体のお腹に取り付けられた超音波信号センサーから胎児の心音を取得する胎児心拍数陣痛図(CTG)を用いて取得される。著者にとって、産科領域の研究も初めてであり、著者が得意とする医用画像(通常、二次元もしくは三次元信号)の研究でもない時間軸に基づいた音声信号(一次元信号)を用いた研究である。これまでのAI研究では、病気に対する知識に基づいた特徴に基づき、データの種類に特化したAI手法を確立することが研究の主要な手法であったが、Deep Learning技術の広がりにより、研究分野をまたいだ技術の応用が可能になった。本研究も画像AIに利用される手法を音声信号に適用することから開始した。一方、現状のAI開発では、各領域のニーズの把握、データベースの構築などDomain Knowledgeの重要性は増している。このため、多職種、産学といった連携の重要性はこれまでよりも増している。本学は多職種が同一箇所で活動する大学であり、助産師の経験がありAI研究にトライしたいと考える研究者とつながり、学内連携としての側面もある。さらに、新潟大学産科婦人科学教室の医師、博士課程に入学したトーイツ株式会社の技術者とチームを組むことで、産科を専門とする医師、産科領域の医療機器企業、AI研究者(助産経験者、企業経験者含む)による、社会実装をにらんだ研究成果が期待できる体制が整った。本研究の初期の成果は、母体の動脈音と胎児の心音を自動判別する研究2)や胎児に切迫する危険を示すサインである遅発一過性徐脈(Late Deceleration:LD)のAIによる予測研究3)として初期の結果を報告した。

4 まとめ

AI研究は、さまざまな診療科や職種の専門家と縦軸、横軸の関係でタッグを組むことで大きな成果を得られる研究である。産学連携を通したチーム医療の一つの形態として、AI研究が臨床現場に貢献できるよう研究を進めていきたい。

References
  • 1)  Akifumi Yoshida, Satoshi Kasai, Kunihiko Oochi, Yuuki Kobayashi, Feasibility of artificial-intelligence-based prediction for respiratory function using chest radiograph, RSNA 2022, 2022/11/30
  • 2)  廣野悠太,佐藤郁美,吉田皓文,甲斐千遥,笠井聡,半教師有学習による超⾳波ドプラ信号内のノイズ除去および⽣体信号抽出の可能性検討,第62回日本生体医工学会大会,2023/5/19
  • 3)  佐藤郁美,廣野悠太,甲斐千遥,笠井聡,AIを用いた胎児一過性徐脈の予測可能性検討,第43回日本看護科学学会学術集会,2023/12/9
 
© 2024 Niigata Society of Health and Welfare

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top